ふわプリ   作:ソウブ

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最終話 パラダイムハートとの決戦、じゃないよ。一緒に幸せなライブをします。

 

 

 

 ライブが終わって、わたしたちふわふわぱ~ふぇくとの優勝が決まりました。

 パラダイムハートの三人が、わたしたちの立っているステージにやってきます。

 これから閉会式などが行われるのでしょう。

 でもわたしたちはこのままでは終われません。くぅあちゃんとティピファちゃんと顔を見合わせ、頷きあいます。

「あの、一つお願いがあります」

「なんでしょう」

 姫花さんは穏やかな微笑みのまま首を傾けて、わたしの続ける言葉がわかっているかのように待ってくれます。

「一緒にライブしてほしいんです。パラダイムハートと一緒にライブしたいです」

 カードを光らせて、強いふわプリアイドルに至った今なら、わたしたちはパラダイムハートと並ぶことができる。

 パラダイムハートと一緒にライブしたいという夢が叶うのです。

 お願いお願い~という気持ちを胸の中で唱え続けながら返事を待ちます。

 

「元よりそのつもりでした」

「ほよ?」

「優勝者とはサプライズライブすることになっていました」

 ……や、やった。ほよほよほよ~。

「ふふふ、ついに挑めるわ」

 挑む、くぅあちゃんはたぶんそのままでいいのだと思います。

 ここはふわプリなのですから。

「競争心も楽しむ気持ちも忘れないようにしたいリボン」

 そうしてふわふわかわいくなるのです。

 

 エヘさんととミカエルさんは、しばらく複雑そうな顔をしていましたが、ゆっくりとふよふよ浮遊しながら近づきあって、ひとまずは握手してくれました。

「今だけは確執を忘れてやってもいいと思わなくもないエヘ」

「それはこちらのセリフですミカ」

 このまま仲良くなっていってくれるといいな。まだ難しいのかな。

 

「コーデはお揃いにしましょう」

 姫花さんが言うと、わたしたちのデッキケースが光りました。開けてみると、新しいコーデカードが四枚入っていました。

「ほよ! ありがとう姫花さん!」

 

 ふわふわポイントにコーデカードとデッキケースを吸い込ませて、コーデチェンジです。

 

「サマートーナメントパラダイスコーデ!」

 

 サマーという名らしく、涼しげな肩出しへそ出し、ふわふわひらひら。

 

 シュパーンキラキラッ。×6

 

 ステージに六人並んで、ライブが始まります。

 

 ~♪

 

 姫花さんたちと歌声を重ねます。

 楽しい楽しいっ。幸せ~。ほよ~。

 ああ、わたし今、パラダイムハートと、姫花さんと一緒にふわプリライブしてます。

 これを望んでました。

 この空間が、ふわふわかわいい楽園です。

 

 とっても胸の中が暖かくて、気持ちがキラキラして。

 しあわせ――

 

 暗転。

 

 ステージが突然真っ暗になっちゃいました。

 ライブの曲もぷつんと止まって聞こえません。

 

 エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。

 真っ暗な中、そんな声が響き渡りました。AIモコさんの声っぽいです。

「こわっ、なにが起こっているのよ」

「ほよ」

「お、落ち着いて状況把握に努めるリボン」

 

「システムがおかしくなっていますモコ! システムがおかしくなっていますモコ!」

 

「マズいエヘ! ふわプリエネルギーがどんどん吸い取られてるエヘ!」

 

 AIモコさんもエヘさんもとんでもなく慌てています。そんな声が聞こえます。

 

 ギュオオオオオオオという音。聞いたことない音です。揺れ。激しい揺れ。立っていられません。ボンッ、ボンッと爆発みたいな音が何度も聞こえます。

 

 一瞬視界が白一色になったかと思ったとき、耳がおかしくなってしまうような、おっきなおっきな音がしました。

 爆散。

 

 チュドォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッッッッッ。

 

「わああああああああああああああああああ!?」

「きゃあああああああああああああああああ!?」

 

 気づいたときには、サマートーナメントパラダイスの会場は跡形もなく粉々になっていました。

 会場の屋根自体がなくなっているのでふわプリ内の日差しが真っ暗だった視界を照らしています。

 けれど真っ暗な時よりも何もかも壊れてしまっているのがより浮き彫りにされてしまっています

 

 残っているのは、わたしたちふわプリアイドルとマスコットマネージャーさんたち、光の膜に守られてるように見える観客の皆さんと、僅かに残ったボロボロのステージに立つ鎧の人? だけです。あ、あとAIモコさんたちもちらほらと。

 

 鎧の人が、妙な存在感を湛えて佇んでいます。なぜか器のようなものを持っています。もこもこした形の、かみなり雲みたいに黒い器のような。

 

 そういえば、今日は鎧の人を見ませんでした。

 いつもは司会をしているのに。

 

「なになになになに!? なんなのー!?」(観客)

「突然会場無くなったんだけどー!?」(観客)

「こわーい!」(観客)

「誰か説明してー! っていうか帰りたーい!」(観客)

 会場は大混乱です。

「みなさん、わたくしの話を聞いてください」

 姫花さんの声はとてもよく通り、頭の中にするりと入ってきて気分を落ち着かせてくれます。次第に会場の全員が落ち着きを取り戻しました。

「これは演出です。誰一人怪我も負っていません。安心してご観覧ください」

 

 とりあえずみんながおとなしく見る態勢に戻ってくれたあと、姫花さんは鎧の人へ向き直ります。

「ようやく姿を現しましたね。鎧の人が暗躍者だとは思いたくなったのですが」

「姫花さんどういうことですか?」

「今までの、地下ふわプリバトルなどの異常は、すべて彼が単独で起こしたことだったんですよ」

「ほよ!? なんでそんなこと」

「ふわプリライブが発生させる膨大なエネルギーを独占するためです」

「今エラーが起きてふわプリのシステムがおかしくなってるのも、さっきの爆発も、ふわプリエネルギーが吸い取られていった影響なんだよぉ」

 スイさんも補足してくれます。

 ほよほよ~……。とっても大変なことが起きてるんだね。そして解決しないと姫花さんたちとのライブがおじゃんになってしまうのです。

 台無しにされたまま終われません。

 

「この大会は、彼を誘き出す意味も半分あったのですよ」

「そうだったんだ」

 ちょっと、ほんのちょっとだけですけどショックです。

 ただ楽しい大会だと思っていたから、

「そう落ち込まないでください。みんなでふわプリを楽しんでいくためにしていることに変わりはありませんから」

 ほよ。

「ただ純粋にライブ大会をするのも、問題をあぶりだして解決して、ふわプリをいい場所に戻すのも、ふわプリでみんな幸せに過ごすことにつながっています」

 なら、安心です。

 

「つまり、エラーカードを配っていた謎のおじさんが鎧の人ってことだよね?」(わたし)

「お兄さんと呼んでほしいな」(鎧の人)

 

「でも、なんでふわプリのエネルギーを独り占めなんて」(わたし)

 

「飼いならされた羊の少女たちよ、この闇こそが世界の歪みだ」

 鎧の人が両手で自分を示します。

「ふわプリという光があれば、取りこぼされた僕のような歪みも存在する」

 

「なんか鎧の人いつもと喋りかた違うね」(わたし)

「いつものはよそ行きの口調なのよ」(くぅあちゃん)

 

「そうやって弱者の嘆きを無視するのかい?」

「そんなことしないよ。ふわプリはみんながふわふわかわいく幸せになれる場所なんだから」(わたし)

 

「とにかくあの雷雲のような形をした器にふわプリのエネルギーが多く詰められてしまっていますので、取り返さないといけないんです」(姫花さん)

「取り返さないとどうなるんですか?」(わたし)

「ふわプリがなくなります。世界の平和も崩れて戦争で多くの人が亡くなるでしょう」

「ほよ~~!?」

 それはほよほよしなさ過ぎです。やばいです。大変です。

「そういうことかリボン……」

「ならあいつをぶっ倒せばいいわけね」

 

「いえ」

 姫花さんはフルフルと首を振ります。

「助けるんだよね」(わたし)

「そうです。けれどわたくしたちは観客の皆さんを守るので精いっぱいなので、彼を助けるのはふわふわぱ~ふぇくとに任せたいのです」

「ほんとうはワタシたちだけで鎧の人も何とかする予定だったんだけど、彼の思いは想定より大きすぎたみたい」(シルフィーさん)

 

「ほよ任せてください」

「私たちに出来ないはずがないわ」

「もとより人の頭脳とは人を(たす)くためにあるリボン」

 

「勝手に盛り上がるのはいいが、君たちに僕は救えない」

「なんで」(わたし)

「僕のことを何も知らないからだ」

「なら教えてよ」

「話す必要は無い。僕は目的を達成するだけ」

「なら、話す気になるまでライブするだけだよ」

 

 

 姫花さん――。

 今はもうわかってる。人に夢と希望を与えるのがアイドルなんだよね。

 みんなを幸せにして、自分も幸せになるのがアイドルなんだ。

 どちらかだけでも歪みがあって、どっちもあってこそなんだ。

 それは自覚してても自覚してなくてもいい、両立できているアイドルが本物のアイドル。

 

「ヤミミを助けたときはとてもクールで気持ちよかったわ。クールに勝ってクールに人を助ける、今、それを私はやりたい」

「ティピファの頭脳が役に立つのは嬉しい、アイドルとしてのティピファが役に立つのも嬉しい。今こそ、めちゃくちゃ人の役に立てるときリボン」

 ふわふわぱ~ふぇくととして、ただふわプリアイドルをやりたいのです。

 

「僕はそんなライブなど見ない、聞かない」

 鎧の人はそう言って宙に浮かびました。徐々に上昇していって、直上高く、空へ飛んで行ってしまいます。

 手の届かない場所へ、わたしたちとお話のできない場所へといってしまいます

 

 それでもわたしたちはライブをします。

 ふわプリのシステムはエラーを起こしているのに、この場にふさわしいコーデはわたしたちの体を包みました。

 

「ふわプリふわふわコーデ!」

 

 ふわふわもこもこなドレス、けれど宝石のように輝いている。

 

 

曲名「ふわふわかわいいを君に」

 

 ~♪

 

「ふわふわと柔らかくて優しい光を 君へ

 暗くて 怖くて なにも聞こえなくなってしまっても

 わたしたちは ただ会いにいくよ

 振り払われても 闇が強くても 見捨てたりしないよ

 友達になろうよ 手と手をつないで 

 ふわふわ ふわふわ ふわふわ プリティー

 ふわふわかわいいが世界を包む

 わたしたちは友達 違っても友達

 プリティー 君に届いて」

 

 わたしたち三人の背から、純白のキラキラした翼が生えました。

 ふわふわ劇場? いやこれは。

「「「ホワイトフェアリー!」」」

 飛翔。飛翔せよ。飛翔する。

 ライブ中に、歌いながら飛翔します。

 空に浮かんでいる鎧の人のもとへ、どんどん近づいていきます。

 

「君たちはエネルギーを発生させるための道具だ。勝手にアイドルという道を規定された憐れな道具に過ぎない」

 

「なにいってるかわかんないよ。でも、あなたが苦しんでいることはわかるよ」

「それにあなたの言葉は否定したくてたまらないわ」

「ティピファたちは憐れなんかじゃないリボン」

「これは私が選んだ道よ」

「わたしたちは、ふわプリが大好きなんだよ」

 

 鎧の人の目の前まで辿りついて、白くて硬い手袋(ガントレット)みたいなものに覆われた手を下から掬うように握ります。

 くぅあちゃんもわたしの右手越しに握って、ティピファちゃんもわたしの左手越しに握ります。

 

 鎧の人の心が伝わってきます。

 

 ――――。

 僕は妹との日々さえあればよかった……。

 最愛の妹の朔美(さくみ)と毎日挨拶を交わし、共に食事をし、そうやって過ごしていけさえすれば満足だったのに。

 朔美は、ふわプリが好きだった。

 ふわプリにいってもいいよカードが届いて、初めてふわプリに行く道の途中で、世の不条理に残酷な結末を強いられた。

 事故。

 そう、事故だ。

 事故死。

 事故に遭って、もう会えなくなってしまった。

 ふざけるな。

 僕は朔美を取り戻さなければならない。

 朔美がいなければ僕は幸せにはなれない。

 そんな僕を、ふわプリが幸せにできるのか?

 

「無理だろう!」

「無理じゃないよ」

 

「ならば朔美を生き返らせてみろ! 僕の妹を救って見せろ」

「それは……無理かもしれないけど、でも大丈夫!」

「なにが大丈夫なんだァ!」

「今生きてても幸せだし、死んじゃっても幸せになれるから!」

「はっ……何を言っているんだ」

「ここは誰もがふわふわかわいいに包まれて幸せになれる場所、ふわプリだから」

「誰もが幸せになれる場所? 僕と朔美が幸せになれていないじゃないか! お笑いだね」

「みんなでふわふわかわいいになれば、大丈夫。鎧の人も朔美さんも大丈夫」

「戯言だ! 妄想だ! この世界は狂っている!」

 鎧の人はわたしたちを見ます。わたしたちのキラキラした翼を見ます。わたしたちと重なっている手を見ます。 

「こんな光が救いだなどと、僕は認めない!」

「認めなくったって、いいよ」

「貴様らはいいものなんかじゃない!」

「いいものかどうかなんて、どうでもいいんだよ」

「クール。クールになるのよ鎧の人」

「ふわプリで幸せになりたいと思った人は全員幸せになれる。ふわプリが好きな人が幸せになってほしいと思った人も、幸せになれるんだよ」

「リボン、リボン」

「わたしは、わたしたちは、今あなたを助けたい。幸せになってほしい」

 鎧の人はうつむきました。

「幸せになんか、なれるわけがない……」

「それでも」

 わたしたちはただお願いをします。

「どうか、誰も傷つけないで……。みんなで楽しく、過ごそうよ……」

 

 わたしたちはライブを続けます。歌います。歌い続けます。

 やがてふわふわかわいい光が広がっていきました。

 

「…………」

 鎧の人は小さな声で話します。

「朔美は、人を幸せな気持ちにするキラキラなアイドルが大好きだった。大好きだったんだ……」

「朔美の大好きなふわプリがここにある。それはわかっていたんだ。朔美はここに……」

「でも、朔美を失うきっかけになったものは認められない……僕にはもう、何も……」

「会いたい、朔美、会いたいんだ……朔美に会わせてくれよ……」

 鎧の人はわたしたちの手を振りほどいてうずくまってしまいました。

 鎧越しに嗚咽が聞こえます。

 

 わたしは彼を抱きしめました。

「しょうがないわね」

「リボン」

 くぅあちゃんとティピファちゃんも横から抱きしめます。

 

「ふわプリがあっても、この世はどうしよもないことが多いリボン」

「でも、幸せになれるわ。クールな気持ちを忘れないで」

「とりあえず癒されて、疲れをとって、これからゆっくり考えていけばいいよ。一緒に考えてくれる人はふわプリにいっぱいいるんだから」

 

「……………………」

 鎧の人は長い沈黙の後、言いました。

「……ふわプリアイドル、君たちは大切に育てられている籠の鳥だ。それでも、君たちが僕に手を伸ばしているその意思は、本物なんだな。それは、認めよう。認めても、いい」

 

「だが」

 

「それでも僕は、朔美に会うことだけを優先させてもらう!!!!」

 

 真っ黒なものが鎧の人からいっぱいに溢れだそうとして。

 

「だめ!!!!!!!!」

 

「おごぉっ!?」

 

 思わず右手をグーにして鎧の人の兜を叩いちゃいました。

 

 黒いものはわたしの右手にいつの間にか灯っていた光に掻き消されていきました。

 

「……もう、好きにしろよ……僕は、諦めたりしないからな……」

 

 そう言いつつも、鎧の人はかみなり雲みたいな器からふわプリのエネルギーを返してくれました。

 キラキラしたものが、器から溢れ出て空に昇って、綺麗な雪みたいに降り注ぎます。

 キラキラ、キラキラ、みんなを祝福するように。

 

 鎧の人と一緒に地上へ降りると、姫花さんが提案してくれました。

「それでは、ライブの続きをしましょうか」

「ほよ!」

 

 AIモコさんやマスコットマネージャーさんたちが頑張ってくれたみたいで、すぐにふわプリのシステムも復旧し、パラダイムハートと再びステージに立ちます。

 

 他のふわプリアイドルも観客の皆さんも、静かに見守ってくれています。

 

「……お騒がせしてしまいましたが、パラダイムハートとふわふわぱ~ふぇくとのライブを再開します。どうぞ刮目してご観覧ください」

 ぶっきらぼうな言い方。けれど鎧の人もふわプリアイドルをサポートしてくれるいつもの司会の人に戻ってくれようとしています。少なくとも今は、形だけでも。

 

 

曲名「ふわふわかわいいがここにあるよ」

 

 ~♪

 

「愛や恋が この世界にあったらすてきだよね

 だからわたしは あるって言い続けるんだ

 でもこの世界に悲しみしかないと 知ってしまったら

 心が挫けそうになっちゃうよ

 わたしたちの 愛や夢や絆は 偽りだよと捨てられちゃうのかな

 それでもわたしたちは叫び続けるよ 光はここにあるって

 愛はここにあるよ

 夢はここにあるよ

 絆はここにあるよ

 ずっと ずっと」

 

 

 姫花さんたちとのライブ、やっぱり心がほよほよしすぎちゃって幸せです。

 歌声を重ねるのが、ダンスを合わせるのが、一緒にふわふわかわいいキラキラなステージに立てるのがこの上なく楽しい。

 ほよ。

 ほよほよ。

 ほよほよほよ~。

 わたしは、こんなにもふわふわかわいいに溢れている、ふわプリが大好きなのです。

 

 

 





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