「ふわふわ劇場完成の目途が立つまで、私はふわプリに入れない制約を課したわ」
くぅあちゃんがそう言ったので、今日はふわプリがある大きな公園の一角に、わたしとくぅあちゃん、ティピファちゃんの三人で集まりました。
ふわプリの外なのでみんな小学生の見た目のままでちっちゃいよ。
そうそう、ティピファちゃんもわたしたちと同じ小学五年生だったみたい。学校は違ったけど。
ティピファちゃんはふわプリの外でもリボンをいっぱい髪や服につけて、リボンに埋もれてるよ。
「で、ふわふわ劇場どうするリボン。イメージは定まったリボン?」
「今試しているわ」
くぅあちゃんはさっきから変なポーズをし続けています。S字に体をくねらせたり、ブリッジしながら高速回転したりしています。
「それでなにかわかるのかリボン」
「わからないわ。だから試しているのよ」
「というか身体能力すごいリボンね。ティピファは運動からっきしだから少しうらやましいリボン」
「ありがとう。褒められるのはうれしいわ」
「わたしもやるー!」
くぅあちゃんのブリッジしながら高速回転する姿を見ていたらやってみたくなりました。
そぉれ! ぐるん!
「ぎえあぁぁ!?」
「女の子が出しちゃいけない声リボン!?」
「くびが……っ! くびが……っっ」
「無茶するからだリボン……!」
「私レベルじゃないと怪我するわよ」
「それ先に言ってあげて欲しかったリボン」
「ほよんはそれでは止まらないわ」
……止まったかもしれないよ?
「でもこうしてポージング続けるだけじゃ埒が明かないわね」
「ふわふわ劇場の動きのイメージにはなるんじゃないかリボン」
「そうだけど、何時間もポージングを続けても面白くないわ」
「面白さで決めるリボン?」
「私は常に楽しくクールな方に行くのよ。自分を喜ばせるために」
首を休めるために地面へ横になっているわたしをよそに、くぅあちゃんは走り去っていきました。
しばらくして帰ってきたくぅあちゃんはクーラーボックスを抱えていました。
「家の冷蔵庫から根こそぎ氷を持ってきたわ」
「なんでリボン?」
くぅあちゃんは氷を二個ほど頭にのせてバランスを取り始めます。両腕を横に広げて片足を後ろに上げています。
「だからなんでリボン?」
「クールなポーズでしょう?」
「バレリーナみたいだね」
「それに氷の冷たさに耐えることで、苦難へ抗う精神も鍛えられるわ」
「なるほどリボン。なるほど……?」
首の痛みが治まってきたのでわたしは立ち上がります。
「クールショット!」などと叫びながらくぅあちゃんはクーラーボックスから鷲掴みした氷を周囲に投げつけました。
「ほひゃあっ!? 冷たい!!」
背中に! 服の中に氷が!
「なにするリボン!!」
「クールな技の試行錯誤よ」
「錯誤しすぎているリボン!」
慌てて服の背中側をばっばって引っ張っていたら氷は地面に落ちました。
「はー冷たかった……さくごってどーいう意味?」
「簡単に言うと思い違い、間違ったことを思ってるってことリボン」
「ほよ~……」
確かに氷を投げるのはわたしとティピファちゃんが冷たい思いをしただけです。間違った行動といえるでしょう。
「間違わないなんて不可能だわ。錯誤も交えて成長があるのよ」
「それっぽいこといってるけど氷は投げないでほしいリボン」
「そうね」
くぅあちゃんはクーラーボックスを下ろして走り出しました。
「ならこれはどうっ?」
そしてくぅあちゃんはジャンプ! 体をひねりながら高く! そして公園にある電灯の柱を蹴ってさらに高くジャンプ! さらに木を蹴ってジャンプ! 木をまた蹴る。木を蹴る。木を蹴る。蹴り続けて空中をジャンプし続ける。
「すごい!」
「やっぱりフィジカル化け物リボン……」
「あっ」
さすがに何度もやりすぎたのか、くぅあちゃんが蹴ろうとした木で足を滑らしちゃいました。高いところから地面に落ちてきます。
「無茶しすぎリボン!?」
「あぶなーい!」
大けがしちゃう!
わたしの体はそう考える前に動いていて、くぅあちゃんを助けようと飛び込みました。
でもかっこよく受け止めることはできなくて、くぅあちゃんの下敷きになりました。
「ほべえっっ!?」
わたしの意識は暗くなって落ちました。
――――。
「ごめんなさい」
起きてすぐに、しょんぼり顔のくぅあちゃんに頭を下げられました。わたしは公園のベンチに寝かされています。
「神峰さんが寝ている間に氷原さんはこってり絞っといたリボン」
「反省してるわ。一つ貸しね。今後頼みがあったらなんでも一つ力を貸すわ」
「そんなのいいよ。友達だから助けたんだもん」
「いえ、けじめはちゃんとつけないとクールじゃないわ」
くぅあちゃんの頑ななこだわりには、否定をしないほうがいいと最近わかってきました。なので。
「ほよ。わかったよ」
と言っておきます。
「これからどうするリボン?」
「それは……正直手詰まりなのよ。ほよんはどうしてふわふわ劇場に成功したの?」
「わたしは自分の大切にしてる思いに気づいたら成功したよ!」
わたしは、友達と過ごす時間が大切なのです。
「思いって、私はクールでありたいという思いはわかっているのに……」
「ほよんに訊くのはいいけど、他と同じやり方はいやじゃなかったのリボン?」
「うるさいわね。情報を多くしたうえで自分なりに形にするの。温故なんとかよ。知らないの?」
「温故知新リボン。知らないリボン?」
くぅあちゃんはもみゃもにゃした顔をしました。
切り替えるように首を振った後、くぅあちゃんは空を見ます。
「なぜ! なぜなの……! なぜクールにイメージがはまらないの!」
くぅあちゃんは頭を掻きむしります。
「こうなったら全身氷漬けになるしか……!」
「なんでリボン?」
「んんんんんんんんんん!」
急にくぅあちゃんが走り出しました。
木々の並ぶ道を走って追いかけると、わたしの目に映るのは公園の中央にある大きな噴水にくぅあちゃんが飛び込む光景。
バシャーンッ。
「なにやってるリボン!?」
水浴びしたくなっちゃったのかな。わたしも暑いときは水浴びしたくなることあるけど、今は五月です。寒くはないけど、水をかぶったら震えちゃうくらいは暖かくないです。
わたしは噴水で寝そべるくぅあちゃんに近づいて、水の粒が滴る顔を覗き込みます。
「くぅあちゃん、なんだか迷子になってる気がするよ」
「私はここにいるわよ? 迷子になんてなっていないわ」
「そうじゃなくて、自分が行きたい方向と違うほうに行ってる気がする」
「迷走しているってことリボンね」
「そう。めいそー」
自分が行きたい方向とは、なんだろう。
私、氷原くぅあは考える。
私は、クールになりたい。大衆が想像しているクールというより、私が想うクールになりたい。
でも、今ではふわふわ劇場として理想のクールを想像できない。イメージが曖昧だわ。
なぜ中々満足いくクールにならないのかしら。
私の思うクールは、なんか、クールって感じ。
わからない。やっぱり曖昧でうまく固まらない。
でも今まで試した失敗で、人に迷惑をかけたらクールじゃないってことはわかったわ。
ダサいことをする奴はクールじゃない。当然ね。
だから噴水に飛び込んだりほよんに怪我させてしまったのは全然クールじゃないわ。なにやってるのよ私! ゴッ!
「くぅあちゃん!? 急に頭を地面にたたきつけないで!? 痛そうだよ!?」
とにかく、もっと深く具体的に私が何を大事にしているか考えるべきだわ。
気持ちの中の曖昧さを泳いで、確かな断片を取り出すなら、私にとってのクールとは、「かっこいい唯一のもの」っていうのはあるわね。
でも、寂しい一人っきりな子になりたいわけじゃない。
孤高ではありたいけど孤独になりたいわけじゃない。でなきゃほよんたちと一緒にいないわ。
かっこいい自分でありたいし、誰かにかっこいい自分を見てもらいたい。
とりあえず今は、かっこいい一人な自分を誰かに見ていてもらいたいのが、素直な気持ちだと思う。
よし。これで行きましょう。
「ほよんありがとう。落ち着いて考えたらいい感じになったわ」
「ほよっ! よかったよ~」
ダッシュよ! 拙速はなんとかと言うし、さっそく挑戦よ。
「どこ行くリボン」
「決まってるじゃない。ライブよライブ。善はなんとかだわ」
「それをいうなら善は急げリボン。待ってリボン。ふわプリは逃げないリボン」
「わたしもくぅあちゃんのライブ見る―!」
ほよん、ジートーゼさん、私の栄光につながる一歩目を、いや、二歩目? を見ていなさい。
ふわふわSHOPからふわプリへ、ふわプリ内を走ってふわパレスへ辿り着く。
「エヘイエー!」
「はいよエヘ」
「来なさい」
「ふわふわ劇場、期待してるエヘ」
呼ぶとすぐ現れる金色の王冠を被った白いマスコットを従えて、エントランスでライブエントリーを済ましたわ。
奥にあるライブエントランスゲートを潜ると、いつもの不思議な色合いの部屋に出る。
「ふわふわポイントにデッキケースとコーデカードをセットしてくださいモコ」
デッキケースからふわプリカードを四枚シュッと抜き取る。
「イメージよね。イメージ。クールにイメージ」
私は唯一なクール。クールな私をみんなに見てもらいたい。
頭に唱えながら、空中に浮かぶわたあめのようなふわふわポイントにデッキケースとふわプリカードをセットしていく。
目の前から光が広がり、服が一旦消えて新しいコーデが私の体にサイズぴったりに纏われる。
今回も今までと同じ、氷がちりばめられたような水色のショートパンツ姿よ。
くるくるっと回って。
「スタイリッシュふわアイスコーデ!」
決めポーズ。顔に右手をかざす。
「ふっ」シュパーンッ。(光の粒が飛び散るサウンドエフェクト)
着地したときには、ライブステージの真ん中に立っていた。雪が降り氷柱が張り付き氷の結晶が回る私
「くぅあちゃーん!」
「今日もクールなとこ見せてー!」
観客の女の子たちの声援と、鎧の人の短い司会の後、私は青いマイクを手に持ち、ライブを始めるわ。
曲名「CCC」(トリプルシー)
~♪
「クールを 目指せ!
クール クーラー クーテスト
私の求める氷のかっこう
ダサい真似などした日には 氷結が溶けるわ
心で負けたら お手上げ
ピキ ピキ ピキ ピキ ピキ ピキ ピキ
パリーンッ
そう クール クーラー クーテスト
SO(そう) My Stand(マイスタンド) Ice Age(アイスエイジ)
望んだ私は ここにいるわ
アブソリュートゼロ
ふわふわ劇場 オープン!
一面氷のみの世界。
空は濃紺色に染まった深海のよう。
氷の結晶が舞う場に、私は目を閉じて全身氷塊の中に封印されている。
クールに叫べ――。
目をカッと見開き、私は氷を一瞬で砕きながら解き放たれ大きくジャンプする。
アイアムクールッ!
腰をひねり、右手を顔が見え隠れするくらいにかざし、左腕を斜めに綺麗な動きで伸ばす。
なんとなくクールな気がする動きで、パッションが導く感覚のまま身を任せ、かっこいいポーズをとった結果よ。
その目に刻め!
「世界に最高の 私が進出したら
氷の嵐が 巻き起こるわ
ピキ ピキ パリン(パリーンSE)」
ライブ終了よ。
ふわチケGET!
ふわふわ劇場、当然のごとく成功したわ。
「ちゃんとクールよー!」
「くぅあさまー!」
歓声が響く。わーわーと。浴びるわ。両腕を広げて目をつむる。気持ちがいい。
「くぅあさんのふわふわランクが初心者アイドルからワンステップアイドルへランクアップしました。おめでとうございます!」(鎧の人)
「掴んだか、己のクールを。エヘ」
エヘイエーさんが腕を組んでうんうん頷いています。
「くぅあちゃーん! クールでかっこよかったよー!」
わたしはぶんぶん両手を振るよ。くぅあちゃん満足そう。こっちまで嬉しくなっちゃう。
「氷原さんって実はすごい子なのかもしれないリボン……ティピファの頭脳が告げているような気がするリボン」
ティピファちゃんはふむふむと顎に手を当てて考えごとをしています。
「ふふ」
歓声とステージの光を浴びるくぅあちゃんは、しばらく楽しそうに浸っていました。
AIモコの、ふわプリ世界紹介のコーナー☆
「今回も紹介するのはコーデではなく、ふわプリのある世界の細かいところですモコ」
「ふわプリアイドルへのサポート体制が整っているのは、ふわプリがエネルギーを発生させることが、人の生活を高水準で維持するために一番大事だからですモコ」
「以上、ふわプリ世界紹介のコーナーでしたモコ~」