トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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9月10日 午後9時37分~

「「―――――」」

 

 モリスとカスミさんだけが反応している。

 

 その事実が切っ掛けとなって、両手に込められるはずだった力の伝達が中断して、2秒程の執行猶予が生まれる。

 

「……」

 

 右手は青犬。

 左手は赤猫。

 

 左右差に意味はない。

 

 そういえば、彼とモリスは僕のせいで相容れないけど、二人共プロレスが好きだった。

 

 ワンハンドネックハンキングツリー。

 

 長い名称を頭の中で並べていると、やっと気付いた着ぐるみの二人が、それぞれ両手で握られた僕の手首を掴む。特に、意味はない。

 

「……」

 

 モルツへ目を向けると、驚愕が過ぎ去った後の表情は冷酷、僕の能力の分析へ意識を移している。ヒナノには関心を抱かなかった。

 

 

「「―――――ぐぷぁっ」」

 

 

 多分、青犬が女性で赤猫が男性。

 

 皮膚と肉と骨を握り潰す感触は好きじゃないし、好きになる必要もない。

 

「……」

 

 両手を離すと、着ぐるみのおかげで、見た目の上では二人の首は繋がっているように見える。だから着ぐるみであることには、意味があった。

 

「……」

「……」

 

 敵の動きが止まっているのはいい。けど、モリスとカスミさんまで動きを止めているのは、あまりよくない。

 

「っ…………神崎」

 

「大将……去年の十一月を蒸し返す気はねぇんだが、何でアンタはそんな初っ端からトバしちまうんだよっ!? 能力者の戦いは情報戦だって、あの腹黒副会長からも習っただろーがっ!」

 

 敵を倒したのに叱られる。やっぱり僕は戦いに向いてない。けど、僕からすれば、戦いが僕に向いていない。

 

「ごめん、二人共。でも僕は、格闘技の経験もないし、今はもう修めるのは禁止されてる。スポーツも、ビリヤードしかやったことがないんだ。申し訳ないけど、戦いは能力に従って自動運転する他ないよ」

 

 彼にもそれが一番だと言われた。同時に、頼むから抑えてくれとも言われたけど、それはナインボールで、僕の勝利がほぼ確定した時の顔と同じだったから、従わない方がきっといい。

 

「ヒナノ。今の現象を、出来る限り簡潔に説明してみてくれ」

 

「うん。ウチずっと彼女しか見てないんだけどぉ……何か両手を上げたら、もうそこに二匹が捕まってたって感じ。で一回こっち見てぇ、握り潰した? アレ、多分二匹共首付いてないっぽいよ」

 

「最後のは要らん。簡潔にと言っただろう」

 

「てかさぁ、モルツの目的が廃棄ってだけならイイけど……えっ? ウチらで、あの子倒すの?」

 

「動揺するにはまだ段階が幾つもある。まず一つ目として、強力な能力には強力な制限が付き物……まずは、家畜の奮闘を見守ってやろう」

 

「うーん……ウチは考える担当じゃないからイイけど」

 

 奥の二人が攻撃を仕掛けてくる様子はない。戦いにルールはないけど、先に残りの着ぐるみの人達を何とかするべきだ。

 

「ずっと外で生きてきたヤツが、あんなん見たら無理もねぇ……洗脳されてようが頭が飛んでようが、怖ぇモンは怖ぇってか」

 

「っ……っ……」

「っ……っ……」

 

 近くにいる紫猫と緑猫は、更に強く身体を震わせてたじろぎ、後ろへ下がる。推し量るまでもなく、先程までの戦意は完全に喪失している。

 

「……」

 

 でも、残り八人の着ぐるみは、その誰もが黒く淀んでいる。十名を超える沢山の人間を無意味に殺したか、利己的に他者を傷付けることを前向きに捉えているか。両方共、既にそれを確かめる方法は絶たれている。

 

「ここから対話を求めることは、とても白々しいことだよね……」

 

 もう彼らの仲間を二人も殺した。それ位は、僕にでもしっかりと理解出来る。

 

「――――か」

「――――づ、っ」

 

 右手には紫猫の、ワンテンポ遅れて、左手には緑猫の心臓が。

 

 着ぐるみ毎貫いた両腕を、穴の空いた胸からそれぞれ引き抜いて、手の中にある物はうつ伏せで死んでいる二人に返す。

 

「――大丈夫。怖いかもしれないけど、痛みを感じる時間はほとんどないから」

 

「「―――――」」

 

 落ち着かせたくてそう言ったけど、やっぱり難しい。

 

「――っ」

「――え」

 

 背中を向けて走り出そうとしていた黄色犬と三毛猫、そのままの体勢でやってきた二人の後頭部を握って、潰す。

 

 脳幹を破壊すれば、その意識は一瞬で断たれる。本の知識だから、本当かは分からない。頭部が半壊した身体が、二体倒れてハの字を描く。酷い話だけど、勢いよく噴き出した血液で、ハがバになってる。

 

「――――えっ? アレの攻略法って、どんなの?」

「それを知るためにも、残りの四体をすぐに特攻させろ」

 

「いや始まったら最初からそうしなよって優しく言っといたけどさぁ……」

 

 その言葉から、まだヒナノの能力、その全容には辿り着けない。けどその前に、退路のない事実を本能で悟った残りの四人が、ほとんど黒に近い灰色の敵意でその身を包む。

 

「―――――」

「―――――」

「―――――」

「―――――」

 

「……」

 

 信じられない現象だけど、今は目を向ける時じゃない。

 

 それぞれ1センチの大きさに縮んだ四人が、右の掌の上に、尻餅を着いて倒れている。

 

「っ、あ――――」

 

 赤くて生臭い自分の手に気付いて、一旦四人を左手へ移す。学園を出て以来、ハンカチは持ち歩いていない。仕方なく服で出来る限り拭ってから、左手の彼らを右手に戻す。

 

「……」

 

 2ミリの火球が見えた。でも、吐いた息が勝手に相殺する。

 

「火が出せるなんて、凄い能力だね」

 

 一気に右手で握り潰す。氷を出すことも僕には出来ない。独楽みたいに高速で回転することは、あまりしたくない。

 

「…………ごめん。まとめて倒そうとするとこうなるって、知らなかったんだ」

 

 意味のない謝罪を口にしてから手を開くと、さっきまで彼らがいた地点に、潰れた骨と肉塊が、それぞれ大きさを戻して現れる。

 

「一気に10点分。これでチビ先輩と織田島を抜き去って、キル数三位じゃねぇのか? 大将」

 

「こんな時にそんなこと…………あ、違うね。ありがとうモリス。気を遣ってくれて」

「気遣いが届いて何よりだぜ」

 

「っ……神崎、何で一人で十人も殺ったの?」

「申し訳ないけど、殺したのは僕じゃなくて、僕達だよ……」

 

 だって、僕が殺さなければ、二人のどちらかが殺してたのだから。

 

「……なら、別にイイ……でも、今日はもうこれ以上、神崎は殺さないで」

「……分かったよ。カスミさん」

 

 その目を向けられたのが、今年は初めてだったから、駄目なのに、つい頷いてしまった。

 

 けれど、残りの二人には黒も灰色もない。他者やその命を踏み躙ってここまで歩いてきた人間じゃない。そういう相手の方が、手強いことが多い。

 

「モルツさぁ、この人達のこと、雑魚って言ってなかったっけ?」

「それにはヒナノも同意していただろう」

 

「ウチが同意したのはデュベル君が雑魚だってことだけなんだけど、そんなことより、あの子はウチらじゃ無理だし、ウチら戦う人じゃなくない?」

 

「そうだ。私達はそのような野蛮人ではない」

 

「――まだ続けますか? 十人近くあった人数差は、既に逆転しました。これ以上戦っても、そちらが不利です」

 

「大将……アンタが人数差とか言っても、煽りにしか聞こえねぇぞ……」

 

 僕は決して煽っていない。戦いにおいて、人数差はこの上なく重要な要素となる。それ位、下手な僕でも理解してる。

 

「一応聞くが、それだけのパフォーマンスを見せておいて、ここで私達がお開きにしようと言ったら、互いに帰路へ着く流れとなるのかな?」

 

「いえ、貴方達はこの国の法を犯しました。警察に出頭して下さい。とは言っても、貴方達を裁くのは、通常の様式とは違います。だとしても、僕達は出来る限りの手は尽くします」

 

「凄ぇ……あんだけ殺しといてそれっぽいこと言い出した……あの子、サイコパスやん」

 

「その点については、私達も人間を家畜のように扱い、結果的にその死を促した。彼女がサイコパスなら、我々も同義でなければならない。故に、それは否定したい」

 

「モルツも言ってることヤベェし……狂ったことやってんのに、そういう開き直りはあんまりスカッとしないなぁ……」

 

「それは価値観と信念の問題だ。どうやら、向こうも譲るつもりはないと見える。レディ、やはり対話は無駄だと思われるが?」

 

 所々、何を言っているのか分からない。だけど。

 

「僕は、対話が無駄だとは思いません。貴方達二人は悪じゃない。人を殺め、悪事を働いた。それを償って下さい」

 

「目ぇガチじゃん……やっぱこの子ヤバいって……あ、あの、この子って、そっちのリーダー、なんだよね?」

 

 ヒナノはどうしてか僕のことを怖がって、モリスの方へ話し掛けている。

 

「リーダーかと聞かれりゃ、その通りだな。ちと繊細なのが玉に瑕だが、大将は何処に出しても恥ずかしくねぇ、一等面白ぇ人間だぜっ」

 

「へぇ……初対面じゃ、繊細さまではわからんなぁ……モルツ? ちょっと見てみてよ。興味ない?」

 

「興味はある。が、もし能力など使って警戒を解けば、ずっと殺気を向け続けているあのパンキッシュ女が襲い掛かってくるのは必至だよ」

 

 モルツの余裕は理解できる。他者に心酔している人間にとって、自分の命の価値はそんなに高くない。だから、自分の存在の継続にそれ程熱心でないのも、不自然じゃない。

 

「能力……貴方の能力は、相手を直接傷付けない。取引……しませんか?」

 

 後で、皆から慣れないことをするなと言われる。でも、他にこれ以上言えることがない。

 

「取引……好きな言葉ではある。それは、私の担当なのだから。聞こう、レディ」

 

 聞く準備ができたなら、話をするだけだ。

 

「僕からは一つ、質問をします。それに答えてくれたなら、能力を僕に使っても構いません」

 

「……」

「っ……」

 

 カスミさんがとても怒っている。だから、後が怖い。逆に、こういう時にモリスは、何も言ってこない。

 

「キミは……っ、キミは少し、ほんの少しだけ、ハイネに似ている。キミが今言った通り、私の能力が、キミを傷付けることはない。まずは質問を聞こう。それ次第だ」

 

 向こうが応じる道理はない。けど、質問ができるなら文句はない。

 

「ありがとうございます。では、質問します。貴方達のリーダーであるハイネ……その人の目的は、何ですか?」

 

 性別を確認したかったが、途中で止めた。

 

「っ……」

 

「おぉ……こういうのって、ど真ん中のストレートって言うんだっけ?」

 

「野球例えか。スポーツはラグビー以外関心が低い。それに、ど真ん中のストレートがこの上なく戦術的である場面も存在するはずだ」

 

「うん、別にいいや。質問の答えだけど、そういや別にハイネって何にも強制してこないし、口止めされてるとかってあったっけ?」

 

「ない。それこそ、ど真ん中のストレートだ。分かっていたとしても、止める術はない」

「それ、何の話?」

 

 野球では、投じられると分かっていても打てないストレートこそが、一番の魔球。碓氷さんがそう言っていたのだから、真実に違いない。

 

「少々、抽象的な物言いとなるが、それでも答えになるのか? ヒナノが言うように、口止めはされていない。そして、計画……と呼んでいいのだろうか。私も、その全容を把握している訳では……ない。ただ自ら、ハイネに下っているに過ぎないからだ」

 

 それをモリスはおつかいと言っていた。僕も少し、賛成できる言い方だ。ただ、本人に迷いがないならば、悪いことじゃない。人間は本来、勝手に生きてよいのだから。

 

「それでも、構いません。話して下さい」

「っ…………」

 

 カスミさんが僕へ向ける視線は、敵に対してとあんまり変わらない。

 

「……いいだろう。ハイネは……世界を、救う。人があるがままの姿で生きられるよう、この世界をデザインし直す……その準備は、既に整っている」

 

 モルツ自身がそう言ったように、抽象的な説明だった。

 

「世界をデザインし直す……とても、話が大きいですね。それなら、メンバー全員で政治家や官僚になって、全国民の支持の元に改革していった方がいい。この能力、暴力を使ってすることじゃない」

 

「えぇ……狂ってんのか正論パンチャーなのかもうわかんないんだけど……」

 

「おいおい……大将の返しも大概だが、我慢して黙って聞いてりゃ、やってることはまんまRPGのラスボスじゃねぇか……お前ら運がイイなぁ……何処ぞの副会長様が先頭切って事に当たってたら、まず今日まで生きちゃいられなかったぜ」

 

 その言葉は、とても耳が痛い。けれど、僕が見たゲームの最後の敵は、人間全てを消し去ろうとしていた。今の話とは、随分差がある。

 

「何が言いたいのかは知らんが、チンピラに吠えられて何かを感じる程、成功体験は少なくない。そして、ハイネの作る世界で選別された人間の中に、そのような者が居座る場所などない」

 

「吠えちまって悪かったな。俺はもう、てめぇらに興味はねぇ。好きにすりゃいいさ」

 

 モリスがそう言っても、僕はそうはいかない。

 

「……貴方達が、生きる人間を決める……そういうことですか?」

「違う。決めるのは、その本人だ」

 

 既存のシステムのリセット。確かに、今この瞬間に生まれた人間からすれば、今の世界は勝手に決められていることが余りにも多い。でも、それを一方的な暴力で引っくり返すことは、悪に他ならない。

 

「――モルツ……貴方は、悪、なのか……」

 

「レディ、明確な善悪など、何処にも存在はしない。そんなことよりも、次はこちらの番だ」

 

「っ……そう……でした。どうぞ。もう少し、近付いた方がいいですか?」

 

 見えた黒い靄から、一旦意識を切り離して、数歩前へ出る。

 

「いや、問題はない。キミは勇敢だが、他の二人はそれに及ばない。ほんの少し……そう、ほんの少し警戒を解いてくれれば……あぁ、問題はない」

 

 能力発動の気配。モルツの能力は、それが明確に表出されるタイプだった。

 

「…………」

「…………どう?」

 

 発動の気配は短い。もちろん、何をされたのかは分からない。

 

「…………何と……下らない……下らない。何故こんな凡庸な相手に、私は……これは、私自身の、問題か……」

 

「いや、ちょいっ、何だったの? 別に後ででもイイからさぁ、ちゃんと教えてよ」

「語るレベルではない。唯一の評価点は、肉欲ではないことか……」

 

「あ、なーる。けどウチ的には、べちゃべちゃになってるこの子達とは違ってくれてて、良かったかなぁ」

 

「……危険度の低い精神干渉タイプだから、レンジもある程度あって、通りやすい……能力を使用した相手の、求めているもの、イメージを見る能力……」

 

「……知能としては、洞察力という概念が理解出来れば、十分洞察可能な難易度の低いクイズだっただろう? 生物は本能も含め、欲求によって動いている。凡庸は下らない。凡庸な人間の伝記など、成立しない。もう、言葉を交わすことも億劫だ。失礼させてもらおう」

 

「ま、逃げるよねぇ……良かったぁ全員殺ぉすとか言い出さなくて……」

 

 取引は終わった。僕とモルツの間に、守るべき約束はもう存在しない。

 

 あの色を、僕は知っている。意識を四割、能力へ預ける。

 

「――モルツ、貴方の行き着く先は、悪だ」

 

「っ……私を悪と断じるキミは何だ? 少なくとも、そのような傲慢さは善ではない」

 

 そう。善は傲慢であってはならない。だからこそ、僕は自分には従わない。

 

「僕は善じゃない。僕の能力が、僕のエネルゲイアこそが、善なんだ……」

 

 消し去るべき漆黒が、モルツの全てを覆う。

 

「――何だと?」

「――――モルツっ!?」

 

「――――え? 何で? カスミさん」

 

 厚い胸板を貫き、心臓を潰す。

 

 そのイメージで動いていたはずの右手が、僕の頭部をスレッジハンマーから守るために使われている。

 

 色が少し途切れるけど、意識してモルツを目の前に留めておく。

 

「――もう今日は殺さない。間違ってるのは神崎でしょ?」

 

 彼女の強力な能力によって、僕の能力が少しだけ押し込まれている。さすがはカスミさんだ。

 

「……どうしよう。何も言い返せない」

 

「ぐっ!? うご……けん……」

 

 でも、ここを譲る選択は善じゃない。だか――――

 

「――――っ!?」

「――カハッ!?」

 

 ――――不意で反応できるスピードじゃない。

 

 左手を少し伸ばせば触れられる距離。カスミさんの腹部から、腕が生えている。つまり、後ろから殴られた。

 

「――チィ!? 姉さんっ!」

「っ……」

 

 蛇になって伸びるモリスの腕が空を切る。

 

 カスミさんを殴ったラバースーツの女性は、僕の隙を見逃さずにモルツの首元を掴んでヒナノの方へ跳ぶ。不自然な身体能力の高さだった。

 

「――ぐっ!? ぅあ……シメイ……何故血塗れの手で私を掴んだっ!? 酷い感触だ……」

 

「嫌がらせに決まってる。本当は、助けたくなかった」

「ハイネには礼と謝罪をする」

 

「いやぁもうぶっちゃけシメイちゃん来なかったら詰んだって思ってたぁ……あ、ウチは、嫌々付き合わされただけだからっ」

 

「……それより、何で……何が起こったの……」

「えっ?」

 

「引き抜いて出血させた後、左手で掴んでたはずなのに……」

 

 

「――ごめん。イチルさん……」

 

 

「――プッ、てめ……雑魚のくせに、何……出てきてんだよ……」

「――ちょっ!? 服に血ぃ……てか、その雑魚が出てこなかったら、先輩死んでましたけどぉ?」

 

 僕とモリスがいる地点とは反対側、全く気配を覚らせず、彼女は仲間を救ってくれた。

 

「煽んのは後だ姫さんっ! そいつは……マズいぜ……」

 

 欧陽さんによって腹部を貫かれた天王寺先輩とモリス。さっき見た限り、それ以上の大きさ。

 

 最悪だ。でも、まだ負ける訳にはいかない。僕の心は、もう折れない。

 

「――もう一人、だと……何処へ、隠れて……」

「隠れてない。最初からいた。多分、そういう能力……とにかく、ここは逃げる」

 

 倉庫の入口前、特徴的なウェーブ髪の女性が、左足のブーツを少し浮かせると、その隙間に一人の着ぐるみが現れる。まるで頭を踏み付けられているような体勢だ。

 

「――その子で、処分って最後?」

「見る限り、そう。結局、ここで死んでる人達は、普通に死んだのね」

 

「い、いやぁ、そう思うと、悪いことしたよねぇ……えっと……この、テレポの四番君って、ウチじゃなくて、シメイちゃんご指名だっけ?」

 

「そう。素足で顔面を潰してほしいって。足の裏が汚れるし、気持ち悪いから、少し嫌」

 

 今分かった。着ぐるみの人達の望み。それは死。そう願う程に、彼らは蝕まれていた。

 

「比較的変態度低いって。ここで超役に立ってくれたし、してあげなよっ。ここで……死んじゃった子達のためにもっ」

 

「……」

 

 ヒナノの言葉には答えず、シメイと呼ばれた女性は、僕ら一人一人へ目を向ける。とても哀しい瞳だ。

 

「いない、か」

「えっ? 何て?」

 

 彼と同じ位の身長か。女性には不適切だけど、大きな背中だった。

 

 

「――ハイネから伝言。決行は、九月二十三日、それまでは、もう動かない」

 

 

「っ……」

 

 言い終わると、四人の姿はそこから消えた。

 

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