トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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屋台で食事をする日

 九月中旬の夜。本日は特筆すべきこともなく、終日依頼をこなして寮区画まで戻ってきたという一日だったが、今日のような時間を日常と感じていることこそ、非日常に染まり切っていると言えなくもない。

 

 そして、地球外生命体と同義である異形との戦い、一つ判断を誤れば命を落とす場面の連続以上に、夕食を食べる相手がいないことを、私は新鮮に感じていた。

 

 ルームメイトの佐藤さんは家庭の事情により入学以来初めての外出、普段食事を共にする方々とも、現状で予定は入っていない。

 

「……」

 

 思えばもう長い期間、自炊していない事実に気付く。だが、不思議とそれがモチベーションに変容することもない。理由は、自分が作った料理の味を、自分自身が特に求めていないことに起因する。またそれ自体に、問題意識もない。

 

 以上のことから、今日は屋台でおでんを食べる日と相成った。

 

 夏以降は、多くの学生と同様、テイクアウトでの利用が中心となっていたためか、寮を出た時点で、既に気持ちの高まりが感じられ、その思いが自動的に歩みを速くしている。

 

 月初めの先輩の言葉通り、七月、八月と比べれば、今月のここまでは平穏という言葉が当て嵌まる日々が続いている。ただ、断片的に耳へと入ってくる学園の外での情報については、どうにもそうは捉えられない内容のものも多いのだが。

 

 雑感としては、概ねあの男の推測と重なった流れということか。つまり、これについても特筆すべきことはなく、来週以降についても同様に、今から何かを考えるのは労力の無駄でしかない。

 

 それが、約半年で得た経験則でもあった。

 

「―――――」

 

 そして、普段と違う行動を取れば、普段と違う出来事に遭遇する。

 

 屋台の利用客は三名。

 

 並んで座る中之島先輩と碓氷先輩、それに加えて、近くへ寄せられた左のテーブルを単独で使用し、異質な存在感を放っているスキンヘッドの巨漢、常室カネサダ先輩の姿が確認できる。

 

「……」

「――あら? 珍しいわね」

 

 進むか退くかの判断の前に、迷いの気配を覚られてしまう。目が合ってしまっては、最早背中を向けることはできない。

 

「碓氷先輩、中之島先輩、こんばんは。常室先輩も、ご無沙汰しております」

 

「――――っ!? ひっ!? ひいいぃぃぃぃぃぃっ!? なっ、なななななっ……な……な……か……」

 

「……」

 

 椅子から転げ落ち、地面を揺らして視界の奥へと後退っていく大柄の男性。

 

「これは何?」

「確かなことは分からないが、二人はこういう関係性なのか?」

 

「いえ……」

 

 常室先輩を怯えさせているのが自分であることは否めない。ただ、あの男には誤解を解いておくよう言い含めておいたはずなのだが。

 

「まぁいいわ。中原さん、こっち――」

「はい……」

 

 絶叫を気に留める様子もなく、碓氷先輩が右に寄り、真ん中を開けられる。どうやら退路はない。内心で腹を括り、指定された位置に腰を下ろす。

 

「中原さんは、おでんを頼むのかしら?」

「っ……はい」

 

 ここはおでん屋台なのだが。ただ、どういう訳か碓氷先輩は杏仁豆腐を食している。

 

「俺達も実は、先程席に着いたばかりなんだ。中原は、何にするんだ?」

 

 左の中之島先輩の取り皿には、大根と昆布。それに少し、冷静さを貰う。

 

「では、大根とつみれを三つずつお願いします」

「へい」

 

 店主のお爺さんは、今日も寡黙に手を動かす。

 

「三つずつ? 貴女、随分とお腹が減っているのね」

「っ……はい。ここで夕食を済ませるつもりだったので」

 

「ふぅん……ここって、ご飯もののメニューもあるのかしら」

 

 心の中で繰り返してしまうが、ここはおでん屋台である。

 

「裏メニューにはなってしまうが、時折シンが注文する牛すじチャーハンは絶品だ」

「っ……」

 

 思わぬ情報を得たが、この場で頼むのは若干憚られる。

 

「あの人が好みそうな響きね……」

 

 改めて気持ちを落ち着けるべく、大根を口へ運ぶ。

 

「――常室君、いつまで怯えているつもり? 気配がうっとおしいのだけど」

「っ!? ご、ごめん、なさい……」

 

「常室君、この場においての中原の善良性については、俺が保障するよ。この場において、彼女にキミを傷付ける意図はない。そうだろう? 中原」

 

「はい。少なくとも、この場では」

「――――ひいいいいぃぃぃぃっ!?」

 

「秀逸な返しね」

 

 他意はないつもりだったが、中之島先輩も重ねていた、限定の表現がよくなかったと考えられる。

 

「……あの、常室先輩は、普段からあのような様子なのでしょうか?」

 

 それ程関心が高い訳ではないが、この機会に触れておくべきかもしれない。そのような考えに至った。

 

「さぁ、考えたこともないわね。他者との対話において、次に活かせる成功体験が少ないのか、後に引き摺る失敗体験が多いのか、おそらく両方ではないかしら」

 

 どうやら、碓氷先輩が辛辣なのは先輩に対してだけではないらしい。

 

「加えて、後ろ向きな情報に対する受け取り方に、少々悲観的な部分もあるように見える。だが、心根は非常に優しい。少なくとも、俺はそう捉えているよ。中原とのことも、第一印象において何かしらの行き違いがあったのかもしれない」

 

「はい。先輩により流布された誤情報が発端だと思われます」

 

「なるほどね。自身の過失で中原さんを怒らせている自覚がありながら、友人にはまるで自分が虐げられているかのように言って聞かせた、ということかしら」

 

「おそらく、シンとしても冗談のつもりで誇張した部分もあっただろう。ただ、やはり過剰にネガティブな側面が伝わってしまったと見える」

 

 概ねその通りであり、特に補足する箇所は見当たらない。それに加えて、私自身の興味関心は、別の部分にある。

 

「あの、出来ればなのですが、常室先輩の能力について、聞かせていただきたいのですが……」

 

 当人へ話し掛けようとして口を開いたつもりが、結局隣の中之島先輩へ伝える形となってしまった。何故なら、未だに常室先輩は室内で地震が起きた際のように、テーブルの下へとその身を隠しているからだ。いや、正確には全く隠し切れていない。

 

「そうか。興味を持つ気持ちは、十分に理解できる。ただ、そうだな……中原は、連絡会という集まりを知っているだろうか?」

 

「っ……はい。常室先輩に、碓氷先輩、阿僧祇先輩が参加している、と伺いました」

 

 答えながら気付いたが、この場にその過半数が集結しているという事実に、何とも言えない内心での焦燥が湧き上がる。そんな中でも、中之島先輩は普段通りの平静を保っている様子。

 

「そういった意味で、常室君の能力は、ほんの少しだけ秘匿性が高いのよね。それに、当人に説明を求めると、その起源やモチーフについて延々と語り出すものだから、正直聞くに堪えないの。ああいうのを、オタクと言うならば、私個人としては忌避すべき存在ね」

 

 確かにそう言える点もあるだろうが、全体的には偏った見方であると思われる。ただ、声を上げて訂正する程のことではない。

 

「全容に触れず、その特長を伝えるなら……物理的火力においては最優、という捉えで間違いないだろう。今のは、シンの言葉をそのまま借りた形となってしまうのだが」

 

「その意味なら、私からも異存はないわね。おまけを加えるなら、彼が存在し続けることで、阿僧祇さんの無敵が更に揺るぎないものになってしまっている、とも言えるわ」

 

「それも、シンやレイカの意見と一致する」

「……」

 

 それはつまり、阿僧祇先輩が常室先輩を操れば、と受け取っていいのだろう。

 

「あの……欧陽先輩以上、ということでしょうか?」

 

 どうしても、テーブルの下で震えている彼が、あの人よりも高火力だとは思えない。

 

「そうね。火力という面においては、以上というより、次元が違うわ。それは、彼女自身も認めていることでもあるし」

 

「どうにもならないという意味で、俺からすれば大差はないが……」

「……ありがとうございます」

 

 やはり、人を見かけや髪の毛で判断してはいけない、ということなのだろう。先輩とも普段から話をする中で、一対一での戦いという概念には収まらない強さが、この学園内でのトップ層であることは十分に理解してはいる。

 

「ただ、太刀川君のパートナーでなかったら、彼女もおそらく、連絡会のメンバーになっていたことでしょうけど」

 

「実際、打診はあった。俺も賛成派だったからな」

「っ……先輩が反対した、ということでしょうか?」

 

「あの人は賛成も反対もしないわ。本人にどうしたいか聞いただけよ」

 

 確かに、その方が先輩のイメージに近い。

 

「――ご主人、大根と蒟蒻を一つずつ」

「へい」

 

「私も、大根につみれ、後、玉子を三つずつお願いします」

「へい」

 

「っ、玉子三つ……貴女も、阿僧祇さんと同じ枠の人間だったのね」

 

「いえ、そのようなことは……」

 

 畏れ多いというよりは、絶対に違うという否定の思いが大半だった。

 

「――それにしても……貴女が来てくれたのは運がいいわ。中之島君との情報交換は既に済ませてしまった所だったから。彼、私とは用が終わったらすぐに帰ろうとするのよ」

 

「っ、そんなことはない、と弁明したい所だが、そう取らせてしまっていたのか……」

 

「責めてる訳じゃないわ。それに、私に進んで近付いてくる人間なんて、ナギか太刀川君くらいのものだから」

 

 逆に、私から見ても、先輩のことは意識的に避けているのが分かる。中でも、隣にナギ先輩がいると、大抵擦り付けるようにして姿を消すことが多い。

 

 碓氷先輩はその容姿、纏う空気からか、一年生の間ではレイカさん、阿僧祇先輩と並んで憧れの存在であり、各派閥まであるとの話を、修行部の方々から時折耳にしている。

 

 個人的に、遠目では非常に穏やかな表情で、親しみやすさが感じられる。だが、相対すると何故か言いようのない威圧感を覚えてしまう。それについては、先月共にスポーツで汗を流した同級生とも、共有出来ている感覚である。

 

「そうね……なら、逆に運悪くそこまで交流のない上級生に捕まってしまった中原さんには、私達に質問する権利を与えようかしら」

 

「あぁ、一人でフラッと立ち寄った所に俺達がいたのは確かだ。シンからも色々と聞いているとは思うが、伝達事項に洩れがあるかもしれないからな」

 

「っ……」

 

 双方、真正面からは否定し難い言葉に挟まれるが、質問を許されるならば、ありがたい展開ではある。

 

「では、一つ、よろしいでしょうか?」

 

「えぇ。中之島君は、答えられないことも多いかもしれないけれど、その分は私が答えてあげる」

 

「そう言われると弱いが、機密に触れない範囲で善処しよう」

 

 思えば、会話を交わす中で、話題となることが少ないため、こうして質問できる機会でなければ聞けない類の話ではあるだろう。

 

「先輩の戦闘力についてです。当人も含め、複数の方の証言から、学園生全体で見れば大したことはない、という寸評に偏っていますが、個人的には納得できない思いです。中之島先輩は、特に先輩のことをよくご存じだと見受けられますが、お二人は……どう、評価していますか?」

 

 つい言葉が長くなりそうだったため、何とか修正して途中で切り上げる。

 

「……」

「……」

 

 質問の後、数秒の沈黙が流れる。

 

「あの、不適切な質問だったでしょうか?」

 

 少なくとも、機密には触れないと考えられるのだが。

 

「いや、そうではないが……少々意外だった。碓氷さんの方も、そう見えるが……」

 

「そうね。てっきり今学園の外で動いている様々なことについて……それに関わる質問だと思ってたわ。阿僧祇さんが言っていた通り、本当に戦闘狂なのね……」

 

 玉子を三つ頼むことも、戦いを好むことも、碓氷先輩にとっては共感し難い様子。

 

「……その件については、自分は必要なタイミングで情報を受け取れば問題ない、という考えでした。正直、あまり個人的な関心もありません」

 

 先輩自身からも、レジスタンスの方々に任せる姿勢が見て取れる。その一貫した態度も、興味を抱かせない理由なのかもしれないが、やはりその理由自体について思いを巡らせることがない。

 

「っ……さすが、入学直後から太刀川君のパートナーを務めているだけあるわね……」

 

「だが、その役割に専念する姿勢を、多くの上級生が評価しているのも事実だ。それで……そう、だな……シンの戦闘力か……碓氷さんの方は、どう思う?」

 

「そうね。先に貴方の雑感が聞きたいわ」

 

 言いながら、碓氷先輩は杏仁豆腐を口へ運ぶ。

 

「分かった……俺は、シンの戦闘力を高く評価している方だと自覚している。また、能力者による戦闘で優劣を決める際、大抵の場合は逃げることのできない閉鎖空間での一対一が想定される。端的に、その状況下は現実性が低く、同時にシンの強みも発揮できないルール設定だ」

 

「それに、そのルールだと、どう考えても阿僧祇さんの優勝で終わってしまうわね。ただ、純粋な戦闘力を評価するなら、公平なルール設定は必須。私も、太刀川君は命が掛かった実戦において最も厄介な力を発揮するタイプだと認識しているわ」

 

 言語表現ではなく、碓氷先輩の声色、その端々に対象への嫌悪感が滲んでいる。あの男は一体彼女に何をしでかしたのだろう。

 

「ディスカッション形式になって申し訳ないが、中原は、シンの一番の強みは何だと考える?」

「一つに絞ることを強いられるなら間違いなく……しぶとさを挙げます」

 

 気付けば、そう答えていた。

 

「貴女も、言葉に感情を込めることがあるのね……けれど、私もその答えには賛成する。っ……本当に……ホントに……っ……折角忘れていたのに、苦々しさが蘇ってきてしまったわね……」

 

「っ……」

 

「っ、俺も、碓氷さんがそこまで感情を露にするのは、正直初めて見るよ。俺は把握していなかったが、碓氷さんはシンと本気で戦ったことがあったのか……」

 

「……それは、学生会へ入らない理由と関係があるのでしょうか?」

 

 これについても、言ってから踏み込み過ぎたかもしれないと思い至る。自分でも、こういった話になると、やや自制心が働かない節がある。

 

「それは関係ないわ。私が太刀川君を嫌っていることと、学生会へ入らないことは、あくまで別の問題よ」

 

 そこまでは聞いていないのだが、先輩はその思いに気付いているのだろうか。

 

「険呑な方向へ逸れそうなので戻すが、俺も、シンの粘り強さには信頼や尊敬を通り越して畏怖を覚えることがある。実際、百戦錬磨と言えるここまでの学園生活において、リスポーン経験がないというのは、有史以来の戦争に皆勤し、今も生き残っているレベルの偉業に思える」

 

「……不快ではあるけれど、それはそこまで大袈裟な例えではないわね。あの男……そのしぶとさについてだけは、私も素直に認める他ないのが、正直な所よ……」

 

 碓氷先輩にそこまで言わせることこそ、私としては素直に驚くべきことではあった。

 

「その異常性について、なのだけど、どう見積もってもアレは現代の社会生活で身に付く狂気ではないわ。学園に来てから……そのルーツは、何処にあるというの?」

 

「……」

 

 それは私としても、中之島先輩に向けようと思っていた類の問いではあった。

 

「……単体要因で全てを説明するのは困難かもしれないな。入学後、右も左も分からない段階で斑鳩先輩に捕まり、ポイントを消費する暇もなく自室と修羅場を往復し続けた……それに加えて……二人は『監獄区画』を知っているだろうか?」

 

「えぇ、刑務所みたいな所でしょう」

「私も、存在は知っています」

 

 『監獄島区画』とは違い、足を運んだことこそないが、以前友人が次元の狭間に落ち、該当区画へ遭難したということがあった。どうやら、先輩が仕方なく救助した様子だったが、その辺りは印象が薄い。

 

「そういった例は幾つか存在するが、あの区画を解放する学生もほぼ皆無だ。俺も何度か、誤操作による解除申請を受け付けた覚えがある。しかし、シンはその『監獄区画』で唯一のVIPだった。今は一応、俺とマコトもVIPなのだが……」

 

「稀崎さんが……それで?」

 

 同様の部分に引っ掛かりを覚えたようだが、碓氷先輩は話の先を促す。

 

「そういえば、VIPになる条件を尋ねていなかった。ただ、その機能は少々理解に苦しむ……様々な感覚を鈍麻させ、短時間で長期的な拷問をリアルに擬似体験することが可能となる。一度設定すると、途中では解除できないのは、是非修正してもらいたい所なのだが……」

 

「……」

「それは、どのような拷問なのでしょうか?」

 

「様々な現象を通しての苦痛が主な所だが、各レベルをクリアしていくと、最後に飢餓という項目が加わるらしい。いや、それは、現状でシンだけが解放しているシステムということになる」

 

「つまり、貴方と稀崎さんも、その酔狂に付き合って、ポイントを溝に捨てたということかしら?」

 

 碓氷先輩の声には明確な不快感が含まれているが、おそらく稀崎先輩の身を案じてのことだろう。

 

「概ね、その理解でいいだろう。だが実際、俺はその体験によって、欧陽と二人で行動していても、逃げ出したいような恐怖を感じることはなくなった。積極的に思い出したい記憶ではないが、有意義であったことは確かだろう」

 

 そう真顔で言い切れる部分に、先輩との同室が務まっている理由の一端が垣間見られる。

 

「飢餓……飢えた経験のない人間には分からない……そういう表現を、創作物でも時折目にすることはあるわね。具体的には、どのような内容になるの?」

 

「そうだな。あまり食事の席で口にする内容ではないよ……ただ、シンは一回の訓練で、期間を一か月に設定し、自らを厳重に拘束した上、暗闇の懲罰房でただジッと耐えるらしい。おそらく、現在では更に苛烈な負荷が加わっていることだろう」

 

「正にマゾヒストね……」

 

 当人は何度も否定を口にしているが、この話を聞く限りでは、その発言を聞き入れる気にはなれない。身動きも取れず、飢えと渇きに喘ぎ、糞尿を垂れ流しながら、闇の中であの男は何を思うのか。

 

「しかし、今の話を聞いて、どのような仕打ちを受けても軽口を叩けるあの姿も腑に落ちました。ありがとうございます」

 

「それだけは……確かにその通りね」

 

 以前、小さな毒虫で満たされたプールの中に迷いなく飛び込んで、隠された鍵を掴み上げて戻ってきた時のことも、これで多少は納得できた。

 

「っ……まとめるなら、やはり戦闘力という概念は数値化が難しい、ということなのだろうが……」

 

「「――っ?」」

 

 お茶に口を付けながら、後方を振り返った中之島先輩に、碓氷先輩共々引き寄せられる。

 

「――――いやいやいや」

「――――っぜぇなてめぇ、さっさと歩けっ」

 

 大分遠くから、男女の争う声が耳に入る。そして、その人物は秒で判明した。

 

 唐突に、自分の中にあった妙な緊張感が途絶え、空腹感に取って代わる。そういえば、屋台へ来たというのに、まだほとんど食事をしていない。

 

「――私達の様子を盗み見て、何かを察して触れずに去ろうとした所でああなった……ということかしら」

 

「あぁ。それ以外考え辛いな」

 

 ナギ先輩にコブラツイストを掛けられている先輩は、どうやら我々の察知に気付き、観念した様子。おそらく、ナギ先輩は元々碓氷先輩と合流する予定だったのだろう。

 

「――おぅ、奇遇だなぁ。って、何で常ちゃんテーブルの下でガタガタ震えてんの?」

「――っ!? た、太刀川くうぅぅぅんっ!」

 

 どうやら、得意の悪足掻きはこの場でも健在らしい。こういった点についても、無駄に粘り強いと言えるのかもしれない。

 

「……すいません。大根とつみれ……いえ、牛すじチャーハンを大盛りで」

「へい」

 

「貴女、まだ食べるの……」

 

 

 得難い機会だったため、聞けるなら色々と他にも尋ねたかったのだが、それよりも先にまずは、常室先輩への誤解を解いておくよう厳命した件について、問いただすこととした。

 

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