「――うん……うん、うん……軽く至ったわ……」
「えっ? 何が?」
俺はその愚問に答えを返すべく、視線を少々上へと角度修正した。
「猫耳はワンピースだ。柄物もイイけど、正直、最初に来た白のシンプルなヤツがベストっぽい。黒でもイイけど、今出したいのはエロスじゃなくて美しさだから、やっぱ白かな……」
「何か……真面目に選んでくれてると思ってたけど、思った以上にズレがあったことに今気付いたよ、私……」
「えっ? 何が?」
何故セナさんは微妙に機嫌を損ねているのだろうか。とは言え、発言の普通度が非常に高いため、一緒に行動する分には楽っちゃ楽な部類の方である。
「別に……それじゃ、さっきの白のワンピースがオススメ?」
「まぁ落ち着け。まだ店に着いて20分だ。女子の買い物としては序盤も序盤。どうせ、待ち合わせまではかなり時間があるし、時間の使い所はここしか見当たらん」
本日は二年の必修科目率の高い木曜だし、どうせ大半の学生は授業中である。実際、この『ファッション区画』は閑古鳥が鳴く健全な状況だった。それも裏付けの一つ。
「シンがそう言うならいいけど、私、服は別にそんなに……」
「なら、合わせるサンダルの方に移る?」
「あれ? サンダルって、決定? ワンピースにスニーカーってなしになったの?」
「いや、そんなことは絶対ないだろ。っていうか、サンダル苦手?」
「靴……というかスニーカーしか普段履かない人ではある、かな」
正直、彼女の普段についてのイメージがほぼない。また聞く所によれば、完全初対面よりも微妙に顔を知っている相手との方が距離の取り方が面倒らしい。そして現状、その話は当て嵌まっている。
「OKOK、スニーカーを見よう。実際、服以上に試してみるのが大切っぽいし」
「そうだよね。通販で靴買う勇気ないし。けど、後何分位ここで買い物する感じなの?」
「あれ? 言ってなかったっけ? まぁ……バイク飛ばせばそんな掛からんし……後30分はイケんじゃねぇかな」
「――――イケる訳ないでしょ……」
「「――っ!?」」
意識外からのツッコミにやや身を震わせ、振り返ると声の通り、キャップを被った金髪の美少女が俺を睨んでいた。
「っ……桐島さん……」
「久しぶりね、藤堂さん。貴女にとっては、昨日みたいな感覚かもしれないけど」
「あれ? もしかして、スケジュール変わった?」
そう思うと、寝坊した時のヒヤッとした感覚が背筋を走る。
「っ……そうじゃないけど、でも来て正解だったわ。アンタ、バイクで、しかもギリギリの時間で来るつもりだったでしょ?」
こっちも微妙に機嫌が悪いものの、まぁ正常域だと判断できる。
「いやでも、遅れないようにって感じではあったし、バイクは……あれ? NGだった?」
「バイクの前に、5分前行動が基本だから。アンタ会議とかはちゃんとしてるじゃない」
「鳴海さんは、5分前行動は先方の5分を奪う迷惑行為だって言ってたけど……」
「あんな人の言うことはどうでもいいし、こっちの業界じゃそんなルールはないの」
酷い言われようだが、彼の素行ではあまり庇うこともできないだろう。
「――あ、あのさ……シン」
「うん? どした?」
「シン?」
控え目ながらも、瞳に若干の決意を宿したセナが、半歩前へ出る。
「これからは、ちゃんと思ったことは言う……スタイルでいこっかなぁなんて……なんだけど……」
「っ……えっとぉ、以前のセナのスタイルがちょっと分からんけど、思ったことを言うのは……イイんじゃない、かな」
とりあえず何となくの一般論を紹介しておく。
「セナ?」
「だ、よね……よし。あの、桐島さん。私、さっきシンにフラれてるから、そこは心配しなくても平気、ですっ」
「えっ?」
そして普通だと思っていたセナから、想定外の言葉が飛び出す。
「……つまり、藤堂さんがコイツに告白して、コイツはそれを断った、ということなの?」
レイカの表情には十分な落ち着きがある。ただ個人的に気を払うべきことは、何処に銃を隠し持っているか。シンプルパンツスタイルだが、丸腰とは考えにくい。
「えっと、いやぁ、そう、じゃなくって……何か、シンが私の猫耳を凝視してて、それで、好きなの? って聞いたら、かなり強い気持ちが帰ってきて……口説かれてるのかと思っちゃって。けど、違った……って話?」
考えながら話し、最後は俺へのクエスチョンで〆るセナ。俺の所感とは多少ニュアンスにズレを感じるが、概ねそうではある、のだろうか。ただ、告白してフッたはさすがに違うと思う。
「……そう。名前で呼び合う程度には友好的みたいだし、お互い気まずそうにしている状態よりは大分マシね」
「あ……その、桐島さん……私――」
「――大丈夫。貴女が私を殺して、シンが貴女を殺した。いつか私がシンを殺せば、綺麗に一周するでしょ? それでチャラにしましょ」
「そ、それで……いいの?」
「もちろん」
「えっ? あの――」
「――大体、そっちはさっきでも、こっちは十か月以上経ってるのよね。その時のことも詳しく聞いてるし、納得もしてる。後は……多分、今日は忙しいと思うから、貴女から何かあるなら、落ち着いてからにしましょう」
「…………うん。ありがと。桐島さん」
とりあえず、殺し殺されの方は一旦落ち着いた様子。俺をどうこうはさすがに冗談だろう。うん、そう信じておこう。
「えぇ。それで……アンタ、今日何をするのか、彼女に伝えてない訳? 流行り柄のワンピースだし、似合ってるけど、あんまり目立たない恰好の方がイイんじゃないかしら?」
「いや、俺ら二人は待機だろ? まぁでも、そっか……目立たないに越したことはない、か」
「違うから。二人には一日限定で私のマネージャーしてもらうことになってるから」
「「えっ?」」
何か警察の一日署長みたいなイメージが脳内で膨らむが、結構違う概念だと思われる。
「ちょ――何でシンが驚くのっ? 私への嫌がらせだったんじゃないの?」
「んなことするような間柄じゃないだろ……」
そんなん、ネトゲの野良メンバーに連携を期待する位あり得んぞ。
「その言い回しは何か嫌だな……」
「――とにかく、もう行くから、えっと……今日はカジュアルで平気だから、このパーカーと……下はデニムでイイんじゃないかしら? 学園でも、普段はそういう格好だったわよね?」
「嘘? 憶えてるの?」
「ある程度よ。一応、人の特徴と名前を記憶するのは得意な方だから」
学校の先生みたいな特殊能力だなって思った。そして中原はそれに関しては平均未満。原因はもちろん、興味関心の無さ。
ショックというレベルではないものの、これまでここで過ごした時間は一体何だったのか。結局セナはレイカが秒で決めた格好に着替え、スニーカーも履き慣れたメーカーの物をセレクトした様子。
「――けど、よく俺らがここにいるって分かったな?」
「前に、一回だけ覗きに行った時、Yシャツ一枚で寝てたし、何処へ行くかなんて決まってるでしょ。それに、曜日と時間的に、オートメーションでやってる店しか選択肢ないから」
お見事。口には出さんが何となく、浮気調査とかも適性値高そう。
「っ……そうだ。セナ、これっ」
「えっ? あ……」
最初に即決で買っておいた猫耳ニット帽を渡す。どうでもいいが、この商品の制作者も、本当に猫耳をカバーすることになるとは思っていないだろう。
なので黒のニット帽を被っても、猫耳の印象は変わらない。
「うん……パーカー薄手だし、暑苦しさは感じないな。けど、改めて考えてみると、銀髪でゴールデンアイはかなり目立つよな……」
「綺麗な色だけど、瞳の色って前からそういう色だったかしら?」
「いや。私もこの店の鏡見てびっくりした。停止してる間に変わったみたい。シンの言う通り、髪の色も白より銀に近い感じだし」
「告白とか口説くとかちょっと退けてもらってさ。正直な話、客観的に見て相当美人だよな。冗談抜きで、スカウトとかされるんじゃないか?」
「マジすか……」
「別にされたら、自分で考えて答えればいいじゃない。特に問題はないわ」
リアルにスカウトされまくってた人が言うと違う。そんな風に思ったし、それが正解であるような空気感が伝わってくる。
そんなやり取りを区切りに、我々トリオはファッション区画を後にし、中央広場から学生会館、学園の出口方面を目指す。
「――うわっ!? 両手に花……しかも金、銀……」
「そこそこにダルいリアクションだな……曜日と時間で既に楽しい状況じゃないことに気付けって」
「学園の外……はっ? もしかして、今夜のアリーナライブっすか?」
「んな訳ねぇだろ……」
いえ、ある意味で正解です。素晴らしい読み。
授業が早めに終わったのか、フライング気味に昼休みな感じのトレハンコンビに遭遇した。
「あ、あの、初めまして、ですよね? 太刀川先輩には、よくお世話になっているんです。一応……トレジャーハンター部の……柳瀬です。よろしくお願いします」
「あ……よろしく、お願いします。藤堂セナです」
相方とは対照的な礼儀正しさで、しっかり初対面後輩ムーブを全うする柳瀬さん。
「あ、自分も初めてですよね。一之瀬キョウコです。よろしくお願いします。藤堂先輩」
「うん、よろしくね。一之瀬さん」
さすがにはみ出したことは言わない一之瀬。そもそも、協力して何かをしない限りにおいて、コイツはそこまで厄介ではない。
「ま、とも……太刀川先輩と一緒に歩いているだけで、ちょっと構えちゃいましたけど、何か……その、新鮮です」
「気持ちは分かるけど、さすがに衝撃受け過ぎだろ……」
俺だって別に、普通な感じの女友達だっているわ。まぁ、代表格はマコトだけど。そしてマコトも、部分的にだがまともとは言い難い。
「こんにちは、二人共。そっちはこれから昼食かしら。私達は少し急ぐから、残りの授業、しっかりね」
「「はい……」」
後輩二人を瞬時にたらし込み、レイカは颯爽と先を歩く。それに続く従者二人。
「――でも、また何か厄介事かな。太刀川先輩……」
「いつも通りじゃん。それよか、今日はどうする? 『肉料理区画』か『ヘルシー料理区画』か」
「うーん。そろそろ外食系の区画も選択肢を増やしたいよね……魚食べたいから、佐々木君か板場君に連絡したいかも……」
「とりま板場にかけよ……」
ちゃんと学園生活している様子の後輩達と離れ、メインポータルとは反対方向へ。何か、ああいう会話を聞くと、俺も普通に授業出て昼休みの時間に昼飯食いたいと思わなくもないが、きっと三日で愚痴り出すことだろう。
「うわぁ……何か、憧れの先輩しちゃってない? 考えてみれば、普通に副会長だし」
「その枠は今完全にレイカだっただろ……」
無理もない反応の範疇だが、一瞬で進級して、しかも二学期になっているというのは、一体どういう気持ちなんだろう。あの二人も、近い内にその事情を知ったら相当驚くだろうな。
「……あ。そういやレイカ。やっぱ俺、バイクじゃ駄目?」
「何で?」
微妙に機嫌値が下がった。無理に押すのは控えよう。
「いや、ほんの少し、バイクのお腹だっただけ」
「じゃ、早くこっち」
一応、学園の外ではかなり便利な交通手段なのだが。それでもレイカの機嫌を損ねてまで乗りたい物でもない。
「私はよかったよぉ。バイクとか、正直怖いし」
「いやないだろ……ちなみに聞くけど、セナって今、結構強いよな?」
諸々思い出してきたエピソード記憶の中では、十月十日の停止中は練度が上昇するボーナスが付くって話だった。
「強いとか弱いとかじゃなくて、喧嘩が既に無理だって……」
「でも、元ボクシング少女っしょ?」
「そんなトコだけ憶えてるとか……」
Yシャツのことを忘れてた時と同じ、哀しそうな視線を向けられる。
「姉弟が皆やるから付き合わされてただけだよ。やればやる程、人を殴るのが嫌いになったって話は、忘れちゃったんだね。そっちが肝心なのに」
「憶えてるって。いや、思い出したの間違いだけど、殴るのが嫌で、絞め落とすのが得意になったんだろ?」
「それもどうかと思うけど……」
「いやけどっ、殴っちゃうと、鼻とか折れちゃうし……」
絶対強い人の発言なんだが、あんまり掘らない方がよさそうではある。正直、外見で抱く印象からは格闘技をやっているようには全く見えない。
「とりあえず、バイクが苦手なのは分かった。バイクより速く走れるのに怖がる意味は全く理解できんが」
テキトーな場面で一回乗せれば一瞬で克服出来るであろう。
「そう、それ。ちょくちょく要らないの足すんだよねぇシンって……」
「病気だから、それは諦めた方がいいわよ」
「何でだよ……」
一対二を形成されそうな空気を感じた俺は、林道の方へやや足を速める。
「――て、鳴海さんやん……」
先週飯を食った。別に久しぶりでも何でもない。無論、新鮮さなど皆無。
「早かったじゃねぇか。もっとぐだぐだして、レイカちゃんに引き摺られてくると思ってたぜ」
今日も変わらず、くたくたなナイスミドル。なりたいとは思わないが、ある程度は尊敬している。そしてどうやら、無駄な禁煙期間は継続しているらしい。ただ、既に今年度だけで3回挫折しているのを確認済。格好から察するに、今日の都内は結構暑いっぽい。
「鳴海さん、ついに転職した?」
「だったらイイんだがなぁ……学園のパシリだよ。しかも報酬は、お前とのおしゃべりだ」
「それは酷い話っすね……」
「そうでもない。ちょうど、5分位は真面目な話がしたいと思ってた所だ。それで、そちらが藤堂セナさんか……能力に目覚める女性は、美人率が高いってことだな」
本人はお決まりの冗談で言ってるだろうが、それは統計的に有意な数字が出てる真実なのである。ただ、美人の客観的基準については謎だが。
「い、いやぁ……桐島さんの隣でその手の話題はちょっと……」
「シンも言ってたでしょ。ま、半分は自分で決めることだけど」
とりあえず、林道の途中で停めてあるそこそこ年季の入ったセダンに乗る。当然助手席は俺、流れのまま、レイカが左でセナが右。
「――えっと、当初はサービスエリアで合流予定だったけど、このままアリーナ?」
「あれ? さっき一之瀬さんに言われた時はうんざりに否定だったよね?」
「あれは嘘だ」
「うーわ……」
真実を伝えることが常に最適解とは限らない。保育園、幼稚園に上がる前の段階で、現代人が感覚的に学ぶことの一つである。
車は学園の外へ転移し、法定速度スレスレのスピードで都内の中心へと走る。
「アリーナって……あ、そっか。建設中だったのがもう普通に使われてるんだ。確か、国内最大収容人数みたいなこと言ってたような」
「そういや、去年のカウントダウンライブでこけら落としだったっけ?」
「そ。大晦日はのんびりって決めてる私は事務所のゴリ押しで出演して、終わってやっと休めるって思ったら、アンタから阿僧祇さんが脱柵したって連絡を受けてキレそうになったヤツ」
いや、そうじゃなくて、ちゃんとキレてたやん。
「そこまで掘る気はなかったし、あれはまぁ結果的には皆で初日の出見れたからよくね?」
「いい訳ないでしょ……」
「あん時ゃこっちも大変だったぜ……上の連中が恐慌状態だったのは、見てて悪いモンでもなかったけどなぁ」
「色々あったんだねぇ……」
茶を啜り出す感じにしみじみと漏らすセナ。
「つまり、今日って何かライブイベントみたいなのがあんの?」
「おいおい、藤堂さんはあんまり学園の外のことに関心がないのかい? 夏から話題になってるビッグイベントだぜ? 関心のねぇおじさんの耳にも入ってくるのがイイ証拠だ」
「あ、はい。えっと、また今日から関心を持っていこうとは思ってるんですけど」
気楽なトーンで言っているが、結構な話ではある。
「そいつは殊勝な心構えだが、別に無理することでもないかもしれないぜ」
「それより、アンタ何の説明もしてない訳?」
「これからしようって時に凸られたんだよ」
「15分以上変な熱量で服選んでたじゃない……藤堂さん、内心で引いてたわよ」
「もっと早めに声掛けようぜ……」
「あ、その……多少は引いてたけど、何か一生懸命選んでくれんだなぁって思ってた部分ももちろんあったよ?」
「それはまぁ、察してはいた」
夏の水着選びの不完全燃焼をぶつけたと、今この場では理解している。
「とりあえず、余裕で2時間以上掛かるから、寝といても全然いいっすよ」
「いやぁ、まぁまぁ寝起きではあるんだよねぇ……」
「おい、もう昼過ぎだぜ……とは言っても、色々とあるんだろうが」
「っていうか、鳴海さんには言っちゃうけど――」
「――馬鹿野郎……お前はすぐに俺が知らない方がイイことを勝手に吹き込んできやがる……レイカちゃんからもちゃんと言ってやってくれよ……」
こういった部分に関しては反応が早い。これも大人の処世術か。
「今吹き込もうとした内容は特に口止めされてないですし、そうでないにしても、鳴海さんが知る分にはむしろ保険の一つになるっていうのが、私のスタンスではあります」
「相変わらず酷ぇコンビだな……」
「えっ? そうなんですか?」
セナは意外そうに首を傾げるが、やはりまだまだ空白の時間は埋まらないらしい。当たり前のことだけど。
「今年に入ってすぐは、欧陽ちゃんとレイカちゃんが入れ替わりだったからなぁ。この二人が出張ると、俺の書く書類の量が増えるのさ」
「それってつまり、駄目なことしちゃうってヤツ?」
「そう、なのかな。まぁ俺とレイカは人命第一主義だから、基本物が壊れるのを許容してしまう所がある。まぁ価値観の不一致だな」
「そうね。実際、私が参加した日に関しては、死亡者ゼロなのは確かよ」
まぁそれは頻度の問題であることは分かっているだろうが。
「そうだな。愚痴は止まらんが、斑鳩が補填してくれるから、それで首を吊る人間も出てはいねぇ。ただ、俺の睡眠時間が削られるのは問題だ」
「それはマジでサーセン……」
鳴海さんのような24時間仕事モードの人間って、俺らがじいさんばあさんになった時分にはどの程度の割合になっているのだろう。ここら辺はガチでジェネレーションギャップと言っていいのではなかろうか。
「――今日のそのライブに、桐島さんも出るんだよね?」
「生出演じゃないけどね。事前に収録しておいた映像が流れるって感じよ」
当然、生での出演を願う声も多いが、まぁそこは色々とあるんでしょうよ。
「あれ? それだと、今日はこれから何をしに?」
「ライブ自体は夕方からだから、その直前に、実際のライブ会場でインタビューしたいって話。拘束時間も長くないし、それならってことになったのよ。ま、もちろん決まった時は、こういう流れになるとは思ってなかったけど」
「それはもう只々申し訳ないわ……」
レイカの所属事務所自体、斑鳩や学園と関係があるとはいえ、完全に邪魔する形になるため、特に、事情が伝わってない現場の方々への罪悪感は結構パない。
「他の人にならしょうがないわね。でも、アンタが悪くないことでアンタが私に謝るのは止めて。これ多分3回目位だと思うけど?」
「いや、今回の流れは俺も連帯責任だろ……」
関与できないという意味で蚊帳の外なのは確かだが。
「っ……なるほどな。シン、それでいいんだよ。俺はお前さん達から漏れる話を勝手に察して立ち回る。命は惜しいが丸くはなれない大人の、意地汚い処世術ってヤツさ」
「直で言ってもそんな変わらんと思うけど……」
要するに、気持ちの問題って部分もあるのかもしれん。聞いたと偶然耳に入ったは、政治家にとっては行って戻る位には違う現象だろう。
「ま、俺が無視すりゃイイだけの話かもしれん。とにかく、今日のそのライブ番組は、真っ当に放送されない可能性が高いって訳か。楽しみにしている子ども達には、申し訳ない話だな」
「いや、俺はちゃんと時間通りに放送されて、音楽ファンに夢を与える番組になると思ってますよ。そのために、結構な数の人間が去年から色々と労力を払ってきたんだし」
むしろ、そうなってもらわなければ困る。
「えっと……桐島さん、私は全く知らなくていい話、なんだよね?」
「…………どうなの? シン」
「そうだな……知った方がこっちにとって都合がイイ状況になったら、その都度開示していく方向で頼む」
「うん。全然それでいいよ。信じるって決めたから、私は今こんな感じなんだしね」
「「……」」
右と後ろから若干の圧を感じる。一応、結構ヤバい要求をしている自覚はあるので、今は勘弁してほしい。
「とりあえず、待機だらけで、今日の大半は待ち時間になるから、最後の方にちょこっと動くけど、それもまぁ軽いフィットネスみたいなもんだから、気楽に構えてて」
「はっ? だから言ったでしょ。二人はマネージャー。確認事項とかも含めて、到着後はずっと張り付いててもらう感じになるから、移動時間はあっても、待機時間なんてないわよ」
「「えっ?」」
つい対角線上で目を見合わせる俺とセナ。どうやらセナも俺同様、マネージャーという役職を単なる口実と認識していた様子。
もしかすると、この2時間は色々と詰め込むべきなのかもしれない。少なくとも、マネージャーという仕事はいきなりやれと言われてこなせるものではないだろう。
それだけは、間違いないと思った。