トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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そんなこんなで、過去へ飛ぶ

「――うっし。何とかイケそうだな。まぁ、これ以上は今やってもしょうがないし、また九月のどっかでって感じかな」

 

「正直、これって不公平よね? 今いくらやってもアンタ以外意味ないじゃない」

「問題ねぇだろ。もしコイツが慣れた調子でドヤりやがったらそん時に咎めりゃイイ」

 

「ま、それもそうね」

 

 そんなつもりは毛頭ないと伝えたいが、それは行動で示せば十分だろう。

 

「ってことで……とりあえず……時計は合ってるな。何か、こういう時に皆で合わせるみたいなシチュエーションって見たことあるけど、スマホがしっかり仕事をしてくれてるからドラマが一個減るな」

 

「考えてみれば、さっきの長い話も、碓氷さんが言ってたように講義形式を取り入れた方が現代的なのかもしれないわね。ま、私は遠慮したいけど」

 

 未来の俺もそう進言したらしいが、確かにそうなのかもしれない。

 

「中原は途中、別のこと考えてたんじゃねーのか? 自分に関係ある話は聞いてたみたいだけどよ」

 

「はい……この事態が収束して、次、神崎先輩が悪落ちしたら、さすがにこの星は滅ぶのではないかと考えていました」

 

「その危惧、早くね?」

 

 長い、長い話が終わり、俺、ナギ、レイカ、リゥ、中原の五人は場所を地下に移していた。時間はもうすぐ午後8時。パンケーキを食ってた午前が酷く遠い。

 

「ってことで、世界を救う実働班は、この五人です」

 

「現場にはセナも一緒って聞いたけど?」

「じゃ六人で。ただ、セナは流れ的な同行だから、実質待機キャラだけど」

 

 それに、この場にいないし。

 

「つまり、男女比が1対4。では、男代表の心境をどぞ」

 

 緊迫感が欲しい所で、リゥのウザ絡みが俺を襲う。

 

「お前ら四人は性別関係なく例外枠だから、全く気にならん」

 

「にしても、サヤがタイムマシン役だったなんて、いつの間にそんな技を身に付けていたの?」

 

「自覚したのは、先月のリゾート区画です。任意の過去時間に転移できる確信が持てたのは、先程阿僧祇先輩に稽古を付けていただいた最中だと思われます」

 

「はっ? 貴女、可愛い後輩をイジメてたの?」

 

「違うよ。最後の一押し役をしなきゃいけない空気をしっかり読んであげたんだって。それに、殴り合いをイジメだと感じるサヤじゃないよ」

 

「まぁまぁまぁ。にしても、ネチネチ攻められて寝技で落とされるを繰り返した訳か。中原も、大変だっただろ?」

 

 こちらの希望をかんなでゴリゴリ削ってくるような陰湿な戦術。得たものは、美女に密着されても文脈によっては全く興奮しなくなったということか。ちなみに、この性質は結構重要ではある。

 

「いえ、私もいずれ、同様の戦法で先輩を破る予定です」

「お前マジで止めろって……」

 

 何故これからクライマックスという所でそんな萎えるようなことを。

 

 まぁだとしても、偉い人への報告に出掛けるよりは、全然上がる状況ではある。

 

「って言ってもさぁ、私とナギは待機なんだよね? 付いてくる必要なくない?」

 

「俺もそう思うけど、必要なことだって碓氷さんが言ってただろ……とにかく、勝負所はこの五人になるんだから、一時的でもイイから団結しよう。まぁ、どう考えても俺だけ負担が特大にデカ過ぎるんだけどな……」

 

「団結しようって言ってるヤツがボヤいてんじゃねぇよ……」

 

「とは言え、全てにおいて普段通りなのは、正直好ましくはあります」

「やっぱり……アンタ、普段の依頼の時もそんなテキトーな空気感な訳?」

 

「シンが真面目にするのは、大人がいる所だけだよ。レイカも知ってるでしょ?」

「だからそれを問題視してるのよ……」

 

「いやゴメンて。これが終わったらしっかりするから、確認に移ろう。後々を考えると、ジャストで始めたいから」

 

「「「「……」」」」

 

 四者から同様に痛い視線を受けるが、一応これ以上のツッコミは控えてくれそうだ。

 

 

                   ※※

 

 

「――時間と因果、その仕組みについて、必要なことを説明するわ」

 

 碓氷さんの解説コーナーも、そろそろ佳境に入った所か。特に、時間の仕組みについてはかなり興味がある。

 

「先に因果から……そもそも因果とは、原因と結果。けれど、ここでは世界のルールと言った方が分かり易いわ。そのルールには、時間についても含まれる。まず、人間が過去に戻った場合、そこに過去の当人がいた場合、因果が崩壊を起こして、世界も崩壊するの」

 

「えっ?」

 

 出鼻から、思ってたのと違う。

 

「世界の崩壊とはつまり、時間と空間の崩壊を意味する。現象としては、2秒程の時間を経て全てが消える。確認のしようがないけれど、きっと星も宇宙も全て消えるんでしょうね」

 

「あれ? 何か、私が知ってるのと違うんだけど……」

 

 重ねて、俺が知ってるのとも違う。

 

「それは知ってるではなくて、藤堂さんが読んだ漫画の世界の話よ。一致していたり、似ていたりもするけれど、一度それらは忘れて」

 

 確かに、全部作家さんの秀逸過ぎる妄想な訳だし、碓氷さんが把握している仕組みが時間についての真実ということになる。きっと、昔のSF作家さん達も知りたかった事実なのだろう。

 

「それだと、俺らが行ける過去っていうのは、俺らが生まれる前の時間ってことかよ?」

 

「そう。後、よく言われる親殺しのパラドックスも、因果崩壊に繋がるわ。太刀川君が過去へ行って、親を殺したら、その瞬間世界も消える。けれど、因果に触れない限りは、過去に干渉して未来を変えることは、難しいことではないわね」

 

「何かそう聞くと、やっぱり時間遡行はやっちゃいけないことって匂いがしてくるね」

「てめぇがそれを言うのかよ……」

 

 ただまぁ実際、リゥを何とかするなら、時間に干渉するしかない気もする。

 

「個人的には同意するわ。それに、中原さんの能力にしても、太刀川君との協力がなければ不可能なのは明らか。だとしても、それを可能にしてしまうエネルゲイアというのは、正に世界のイレギュラーと言えるのでしょうね」

 

「なるほど……碓氷さんの言っている因果と、シンのそれは別物かもしれないが、過去が変われば、今の我々も因果による改変を受ける……そのため、各々の体験と記憶も変化し、違和感を覚えることもない……そういう理解で、いいのだろうか?」

 

「その通りよ。もちろん、太刀川君の能力のような、無理やりな改変にはならないわ」

 

 その話から、かなり嫌な予感はするのだが、拒否できる段階ではないことを、さすがに理解してはいる俺。

 

「で、つまり……俺の能力で俺を消せば、因果崩壊は起こさずに過去へ行けるって話?」

 

「話が早くて助かる……ではなくて、貴方が考えたことだったわね。後、その時には桐島さんも死んでるし、中原さんはエネルゲイアを得ていないから、別の存在として世界に扱われている。だから、実際に過去へ行ってもらうのは、貴方達三人になるわ」

 

 

                   ※※

 

 

「――だから、お前らに頑張ろうって言っても違うんだよなぁ……だって、リゥとナギ視点だと、俺らが過去に行った瞬間、改変が起きてハッピーエンドの予定な訳だし……」

 

 俺以外で頑張るのは、今から見て過去の四人なのである。

 

「逆に言やぁ、ヘマされりゃ一気に地獄なんだぜ? てめぇこそしくじんじゃねぇぞ」

「でもまぁ、過去の自分が頑張ってくれて、私の実働は0分っていうのは悪くないね」

 

「……シン、一度だけ言っておくわよ。碓氷さんから貰った髪の毛は、言われた時間までにちゃんと保存パックから出すこと。後、データの扱いにはくれぐれも注意すること。ま、それなしでも、私は信じると思うけど」

 

「何か、問答無用でメンタルケア受けさせられそうな気もするけど……」

 

「先輩。私はちゃんと証拠を提示されなければ、一定の疑いは持ったままかと思われます」

「だろうな……」

 

 とにかく、さっきの会議データは大切に隠しておこう。一応、空き巣が部屋に入る因果はないけど、注意するに越したことはないはず。

 

「で、中原。時間の方は問題ない感じ?」

「はい。1秒単位で合わせられるので、問題ありません」

 

 中原・タイムマシン・サヤの機能は、自分を中心に半径1メートルの範囲で過去への転移空間を出現させ、エリアに入った全てを指定した時間と場所へ瞬間移動させる。これは、俺の知っている色んなタイムマシンと比べても、かなりの高性能。

 

 制限としては、トワイライト・エネルゲイアに限られることに加え、例の羊羹が3つ必要。まさか、そんなキーアイテムになるとは、一年前は想像も付かなかったが、これからその付近に戻るらしい。

 

「それにしても、アンタよく細かい時間まで憶えてたわね」

「まぁ……レイカが死んだ後、一つ目の行動は時間を確認することだったからな」

 

「随分と冷静だったみたいね」

 

「そんな訳ないだろ……過去一で周りが見えてなかったし、タケルとマコトがいなかったら、割とヤバかったかもしれん」

 

「どうだか」

 

 ほぼほぼ信じてない感じだが、レイカの死に際がかなりショッキングだったのは心からの本音である。

 

「よし、そろそろだな……中原、頼む」

「はい」

 

 過去までの運賃、羊羹を3つ献上する。

 

「っ……お前、その包装の破り方ってどうやってんの?」

 

 気になったことは出来る限り消化しておきたいという思いで、どうでもいいことを聞いてみる。

 

「見ての通り、包装が破れて、中の羊羹に傷が付かないベストな力加減で押し上げる。それだけですが」

 

「要らんことを極めんなって……」

 

「あ、そうだ。シン、明日からはその日の依頼が片付く度、サヤに羊羹1つだから。忘れちゃダメだよ」

 

「何その唐突で斬新な強請り……」

 

「別にいいじゃない。毎日ポイント入ってるんだから」

「俺が寝返っても二対三だ。観念した方がイイんじゃねぇかぁ?」

 

 ナギの言う通りなことに加え、時間の都合もある。ただ。

 

「あぁ……いや、それちょっと、また今日辺りになってからもう一回言って」

 

 さすがに忘れる自信がある。

 

「っ…………分かりました。その因果が変わることはないので」

「圧と熱量がヤバ過ぎだろ……」

 

 一応、忘れないよう心掛けた方が身のためだ。

 

 そして、午後8時まで1分を切る。

 

「――言いたくはないけど、レイカの遺体は転移地点から右へ150メートル付近だから、そっちはなるべく行ったり見たりしないように。後は……あ、そっか。後は任せた的な台詞を残る二人に言うのは不適切だった……」

 

 また、もう確認すべき事柄がない。

 

「そうは言っても、向こうの私は大分気が利いてると思うから、後でちゃんと、身体で払ってってことで」

 

「いや、その対価はきっちり向こうのお前に払う……」

 

 せめてもの抵抗に。

 

「だとしても、私の血肉となるけどね」

「ったく、締まらねぇなぁ……一応、同情はしておくぜ。俺なら、退屈で仕方ねぇ」

 

「そういや、向こうのナギは、今より大分ツンが強いんだよなぁ……」

「何だてめぇ、ここで殺されてぇのかよ?」

 

「まぁまぁまぁ……」

 

 一年前なら問答無用で蹴りが飛んできた所、殺意を向けるに留めてくれる。それが動かぬ証拠だ。

 

 言うまでもなく、見送り組が離れる。

 

「じゃ、手筈通りに」

「先輩、くれぐれも、油断しないようお願いします」

 

「うん――」

 

 視界が切り替わった瞬間、俺は付加されたイメージを早々に手繰り寄せる。

 

 

                   ※※

 

 

「――不意打ちだったとしても、アンタ、本当にアンタを倒せるの? 自覚はないかもしれないけど、アンタはGなんか問題にならない位しぶといわよ……」

 

「確かに、一理あります」

「そうね。貴方程度の火力で貴方を殺せるとは、感情的な面を排しても到底思えないわ」

 

「褒めと貶しの絶妙なバランスだな……」

 

 とは言え、その時の精神状態を熟知している俺にとっては、そう難しいことじゃない。そもそも、俺の粘り強さの評価が少しズレている。各々で話す内に、中身をイメージで大きくしているんだろう。少なくとも、リゥとヒカリにガチで狙われたら、粘る余地など存在しない。

 

「っ……確かに……太刀川君の強さは、碓氷さんも認める所ではあります……」

「えっ? そうなんすか?」

 

 意外な情報に、テンションが勝手に上がる。まぁぬか喜びの線も中々に堅いが。

 

「――強さではなくしぶとさよ……」

 

「ミオ、もしかしてストレス解消に未来でシンのこと本気で殺そうとしたりしたの? てか、会長ちゃんはそれを許したんだねぇ」

 

「――っ!? い、いえっ、そのようなこと、は……っ……はい。確かに、黙認した私も同罪です……太刀川君、申し訳ございません……」

 

「いやいやいや。実害ないんで。ダイジョブっすよ」

「アンタ、会長には徹底的に甘いわね……」

 

 駄目かもしれんが、黒髪ロング儚げ美人に甘くなるのは、どうかご容赦願いたい。

 

「おいおいミオ。お前まさか、不意打ちまでしてコイツを仕留めそこなったのか? 殺すまでに何回掛ったんだよ? 二回目か? まさか三回目じゃねぇよなぁ」

 

 煽るナギ。そして碓氷さんの表情には俺にだけ見える青筋が。

 

「……今回のことが落ち着いたら、万全の対策をして望むわ。それがもし失敗に終わったら、悪いけれど、一回殺されてくれないかしら? 太刀川君。貴方も、休暇が欲しいと日頃から漏らしているでしょう?」

 

「いや、その形はちょっと……」

 

 とりあえず、未来の俺に同情しておくが、正に明日は我が身と言った所か。

 

 

                   ※※

 

 

「――デウスエクスマキナ」

 

 発動と同時に、せり上がる本能的な恐怖も過ぎ去った。今、周囲の空間がグニャっと歪んでいくように見えたが、気にしている暇はない。

 

「とは言っても、因果崩壊のヤバさを垣間見たな……」

 

 背後からの発動で、完全にレイカの死を引き摺って注意力が散漫になっていた十一月の俺を消し去った。最も不安視されていた第一段階は、無事突破。

 

 座標は記憶通り、扉から入って100メートル程、黄昏の公園跡。

 

「――鏑木っ! 動くなっ!」

 

 便宜上、俺の真後ろに転移するしかなかったが、その正面には、病んだ目をしたボブカット女子。手駒を失い、追い詰められた彼女には、今の現象がどう映ったのか。

 

 

「――っ!? 桐島レイカっ!? 何でっ!? 服が……っ! 知るかよっ!」

 

 

 駄目だ。余りにも予想通りな行動。

 

「――レイカっ!」

 

 発音し切る前に、鏑木サキは膝を着いて倒れ込む。

 

「強めの麻酔弾だけど、良かったのよね?」

「うん。どうせって話だし」

 

 言いながら、鏑木の身体を背負い、ドッグタグに意識を送る。

 

「…………早く出ろよアイツ……っていうか、こっからは結構時間との戦いだな」

 

「と言われましても、私の役目は羊羹を3つ食べるだけですが」

「お前ホントバトルないとやる気ねぇなぁ……」

 

「シン……言わなかったけど、アンタ平気なの? 自分を、消し去ったのよ」

 

 意外にも心配そうな表情を浮かべるレイカ。

 

「えっ? 大丈夫大丈夫。俺その辺は理解ある方だから、消えた俺も、俺が繋ぐならまぁ繋がるし、痛くしないなら別にイイっすよ? って思ってる感じだから」

 

 リアルな妄想の結果、その結論に至った。

 

「……ならいいけど。とにかく、近くのポータルまで急ぎましょ」

「だな」

 

 今更だが、言われた通りに二人は存在していてもセーフな様子。レイカは早朝まで、中原に至っては半年弱平気だが、そこまで留まる理由はない。

 

『何? 揉め事が終わったなら、私に連絡してる場合じゃないんじゃない? 甘えたいなら、事後処理が済んでからの方がイイと思うよ』

 

「そもそもお前に甘やかされた経験がねぇよ……で、ガチ目な緊急事態。すぐ会いたい。今何処にいる?」

 

『うわぁ、その手の言葉を初めて聞いたのがロマンスじゃなくて緊急かぁ。んで、シン何か雰囲気大人んなってんじゃん。もしかして、未来からやって来たの?』

 

「やるなぁ、正解。だから頼む。今何処?」

 

 マジで早く会わせてくれ。っていうかお前本人は要らんからとりあえず『四季区画』に匿ってくれ。

 

『紅葉でまったり』

「ナイスっ! 四人分の招待状送って」

 

 ここに来て、機種変更せずに斑鳩から一生改造され続けてきた恩恵を受ける。ただまぁ、画面大きくなったりしてて原型吹っ飛んでるけど。

 

『女に頼って女を連れ込むとか、未来のシンは結構なクズなんだね。つまり、今と変わらないじゃん』

 

 一階に到着したエレベーターが開く。そのまま流れるようにポータルへ。タイミング良く送られてきた招待状をタップし、ポータルアプリが勝手に起動する。

 

「「「―――――――」」」

 

 ポータルの光はショートカットされてそのまま転移。舞い散る赤と黄色の葉が、俺達を出迎えてくれている。そうポジティブに捉えたい。

 

「へぇ……秋はこういう感じなのね……」

「あの、やはり春は桜が満開、ということでしょうか?」

 

「そうなるな。来年はワンチャン、皆で花見もあるかもしれん」

 

「正確には再来年ですが、それも、先輩の今日からの生活に掛かっている、ということですね」

「萎えさせてどうする……」

 

 会議のストレスか、若干中原の当たりが強い。ホットケーキ食ってる時は機嫌良さそうだったのに。やっぱりリゥからパワハラを受けたのかもしれない。まぁ、だとしても俺にはどうすることもできないのだが。

 

「――うわ、ホントに未来人っぽいじゃん」

 

 どう切り出そうと思っていたが、既に話が早そうなリゥ。正直、こんなにあっさり匿ってくれるとは思っていなかった。

 

「私もシンも、身長はほとんど変わってないけど、これじゃアンタ、皆からバレるんじゃないの?」

 

「間違いなく、学生会と仲良し組は気付くと思うよ」

「おいおい……そこの対策聞いてねぇぞ……」

 

「しゃーないねぇ。佐藤先輩呼んであげるよ」

 

 そう言って、リゥはスマホでメッセを送る。

 

「っ……何でそんな協力的なの? どう考えても違和感なんだけど……」

 

「うん? あー、未来から来たシンが助けを求めてきた場合、ある程度は協力しようってルールだったから。ほら、私って自分ルール守る方じゃん?」

 

「そんなの初めて聞いたわよ……」

 

 しかも、何故そんなピンポイントな場面を想定しておいたのだろう。面倒だから聞かんが。

 

「そっかぁ、二年生になっても、レイカとはほとんど交流しない未来なんだねぇ。しょうがないことだとは思うけど」

 

「そう言われれば、関わったのは数回だし、それも全部緊急の案件だったわね」

「いやそういう話止めようぜ……」

 

 リゥはともかく、レイカはあんまりタイムマシンがテーマの作品に触れてこなかったのかもしれない。

 

「――来てやったぞ」

「おぉ……」

 

 予想を遥かに上回る早さで到着した佐藤先輩。パッと見であまり変化はなく、ドSイケメンは今日も平常運転か。負傷した職員さんの治療について感謝するのは、一旦後ろに置いておきたい。

 

「――っ」

 

 そして、無言で首を強めに掴まれる。

 

「…………来年の九月二十三日の午後8時から来たという訳か。随分と面倒なことが起きているようだな」

 

「軽く1年後じゃん」

「まさか、ここまでスムーズだとは思わなかったわ……」

 

 俺もだ。ただ、この二人のスペックを考えれば、そう驚くことでもないかもしれない。

 

「その黒セーラーは、来年度入ってくる一年か? だとしたら、ここで関わると、楽しみが減りそうだな」

 

「ですよねぇ。って言っても、パートナーが変わってるってことは……結構来年度の展開読めちゃうけど」

 

 いやもうマジでガンガン言い当てんの止めろって。ただそれを口に出すと認める形になってしまう。折角中原も関わらないようにしてんのに。

 

「――っ」

 

 違和感ではないが、身体に明確な変化が現れる。

 

「身体を今日に戻しておいた」

 

「え……佐藤先輩……エステ業界が、揺らぎますけど……あ、でも、そんなに簡単なことじゃ、ないんですよね?」

 

 恐る恐る、レイカが質問する。

 

「今のように、記憶に干渉しないなら大した負担にはならん。だが、エステ業界への進出は考えていない」

 

 さすが国宝扱い。多分、こういうことが出来るっていう事実は伏せられているっぽい。

 

「っ、ありがとうございます。で、リゥ、すまん。俺、もうちょっとしたら行かなきゃならんから、その……頼みたいことが――」

 

「――だからイイって言ってるっしょ。言ってみ?」

 

 何だこのリゥ。こんなんチートじゃねぇか。

 

「コイツの頭ん中を探ってほしい。リゥなら、全部分かるはず」

 

 これについてはこの日から既に覚悟は決めてある。その罪を咎めに誰かが現れたら、真っ向から戦うつもりだ。

 

「ふぅん……鏑木だっけ。何か、滅茶苦茶使い勝手の悪い能力だったはず――」

 

「「――――」」

 

 鏑木の身体が不自然に起き上がり、レイカと中原が息を呑む。一見してリゥは何もしていないようだが、そもそも能力の発動にタメや動作は必要ない。無駄なことはしないリゥのやり方からか、操られたその姿はマリオネットを連想させる。

 

「へぇ……倫理観って言っても、エロスの方向に特化してるんだね。つまりむっつりスケベか。洗脳しない限り、世界を微妙なカオスにする熱量は変わらない、か」

 

 糸の切れた人形が、ゆっくりと同じ体勢へと戻る。

 

「駄目だね。力に吞まれちゃってる感じ。トワイライト・エネルゲイアについては、学園も学生会も軽く隠す形で警告してるんだけど。レイカみたいに、ヤバ過ぎるって理解して自分から遠ざかる強さは、やっぱ一般的じゃないよね」

 

「っ……阿僧祇さん。貴女の、トワイライト・エネルゲイア……それって、どうなるの?」

 

「秘密」

「……そう」

 

 それはそれはヤバい。碓氷さんも、きっとそういう次元なんだろう。

 

「…………うん。リゥ、レイカから事情を聞いて、もう少しだけ協力してほしい。その上で、鏑木は目的のために利用する。物資面はもちろん、それによって起きる不都合は、全部俺が引き受ける……出来る範囲で」

 

「そこは言い切りなよ……」

 

 ここぞという時にヘタれる。それが俺。

 

「つまり、鏑木を救うことで得られる全てを否定して、逆を全て救うってことだよね?」

 

「その通り。実は、引き返せる可能性があるかもって思った時、ちょっと吐きそうになった」

 

 俺は鏑木サキを消した。それでも例えば、佐藤先輩に頭をイジってもらって鏑木を救うことは可能かもしれない。だが、俺はそれを選択しない。そもそも、鏑木を利用することに対して、それを犠牲と感じることもない。きっと、後ろの二人は思う所もあるだろうが。

 

「……よし。佐藤先輩、後で、もう一つだけ、力を借りたいのですが……」

 

「なるほど。その為体では、既に相当な額を未来の俺に支払ったのだろう。お前は一応上客だからな。ポイントカードを発行してやる」

 

「本当に助かります……」

 

 何か、ヤバい人って未来人には優しいのかなって思ったが、今は全力で甘えておく。

 

「――じゃ、二人共、気を付けて帰れよ」

「……」

 

 中原が無言で頷く。さすが、言われたことはしっかりやる系の後輩だ。

 

「あ、レイカ、参考までに。今日もだけど、明日からの俺って、結構ヤバい感じだった?」

 

 考えてみれば、一応世界の命運が掛かった演技が、これから始まろうとしているのか。もちろん、あまり考えないようにはしたい。

 

「……表には出てなかったわ。皆、それを心配してた」

「そっか……」

 

 まぁ色々あった。当時、デウスエクスマキナについては割とすぐに吹っ切れたけど、忙殺に大人の醜い権力争い、会長からの謎過ぎる馬鹿げた指示、昨日発売した最も好きなRPGの続編をやる暇がない等、様々なストレスに囲まれていた記憶が薄っすらと残っている。

 

「っ…………いや、じゃあ、そっちは任せた……」

 

 明日レイカを見舞いに言った時、何て話せば機嫌が取れるかを聞こうとしたが、キレられ率100パーなことに気付き、途中で呑み込むことに成功した。

 

「……そんなの自分で考えなさいよ」

「ですよねぇ……」

 

 

 読まれた上に言葉の棘で背中を刺されつつ、俺は風情を楽しむ暇もなく『四季区画』を後にした。

 

 

「――さて」

 

 気分はまるで、RPGを開始してはじまりの村から外へ出た時のよう。

 

 俺はこれから、来年の九月二十三日を目指して、二度書きルートへ入る。しかも、強くてニューゲーム的なムーブは極力控えなければならない。

 

 とは言え、鏑木に能力を使用していないため、のっけから未知のゾーンを歩む形ではある。ガチで心配してくれている様子のタケルとマコトに必要事項の伝達と状況報告を受け、そっち系責任者の桐島さんとは後で会って話す流れとなった。つまり対応に変化はなし。

 

 レイカに聞いていたおかげで、過度に余裕の無さそうな演技をする必要がないのはかなり助かった。単純に面倒臭いので。後、この頃はまだスーツを着るのは特別な感じがしていたように思い出される。

 

 

 そして、膨大な報告、謝罪、今後の予定調整をしている間に時間は進み、夕食はおろか夜食すら口に出来ないまま翌日の午前9時が過ぎる。その時になって、とっくにレイカと中原は未来へと帰っていることを思い出した。とりあえず、Yシャツだけは新品に着替えておく。

 

 ここまでの感想としては、厄介な引っ越し作業を、部屋の掃除から全部もう一度やらされたような気分に近いか。今の所、レジスタンスは全員処刑の流れ。改めて、よくここから学園追放程度に持ち込めたものだ。まぁ、隙あらば殺してもイイって条件が効いたんだろうけど。

 

「あいつらはちゃんと、一瞬の隙間に元通り滑り込めたのか……」

 

 最早未来のことなので分からんけど、中原の能力は滅茶苦茶正確だった。タイムマシンに付き物のズレは全く無かった訳だし。

 

「……」

 

 とにかく、食事と仮眠の前にもう一仕事。佐藤先輩には、既にメッセで確認してある。

 

 部屋のベランダから3回跳び、目的地の屋上に着地。

 

「――どの部屋だ?」

「ちょうどここの真下ですね。それと、彼女は一人部屋です」

 

 時間通りに佐藤先輩と合流し、飛び降りてベランダに侵入する。この時点で、最早言い逃れのできない犯罪行為である。まぁ、学園に法はあんまないけど。

 

「他の部屋と、唯一離れた角部屋か。運がいいのか……まぁいい。早くしろ」

「はい」

 

 窓の鍵部分をマイルドに吹き飛ばして更に不法侵入のレベルを引き上げる。

 

 よく見なくても分かるが、ベットという空間に縛られているセナは、我々を確認するや否や、捕獲された野生動物のように、不可視の壁を必死の形相で叩いている。

 

「着ぐるみの寝巻とは、気の利いた皮肉だな」

「やっぱこうなってるか……お願いします」

 

 って言う前から、既に佐藤先輩は能力を発動させている。あまり見るモンじゃないが、物の少ない部屋である。

 

「…………能力による浸食か。既に一体化している。鏑木サキと関わった記憶を全て消去する以外に、方法はない」

 

「それって、いつ頃になりますか?」

「五月九日から今までの記憶だ。生活自体に大きな支障は出ないだろう」

 

「……お願いします」

 

 瞬間、感電したようにビクッと一度だけ身体を大きく震わせ、セナは枕とは反対方向へ倒れる。

 

「これはポイント払いにしておいてやる――」

「っ……」

 

 礼を返す前に、佐藤先輩は部屋から出る。

 

 

「――っ……あれ? 太刀、川君?」

「お、目が覚めたか……気分はどう?」

 

 

 もう少し気の利いたことを言いたかったが、起きるのが早過ぎる。

 

「っ……ここ……部屋?」

「うん……ちょっと落ち着いたら、話を聞いてほしい……」

 

 こればかりは、出来る限り丁寧に話したかった。

 

 セナに事情を説明する。

 

 話の内容を信じてもらうためにはどうすればいいか。もし無理そうなら会話データも使用するつもりだったが、意外にもセナは冷静に話を聞き、現状を抵抗なく受け止めているように見えた。

 

 

 

 

「――つまり、私は今すぐに能力を発動した方がイイってことだよね?」

 

 そして、受け止めているだけではなく、受け入れている様子。

 

「っ……いや、セナがそうしたくないなら、発動する必要はないし、学生会からも、出来る限りバックアップはする」

 

 碓氷さんは、彼女にその意思が無ければ、強制する必要はないと話していたが、それだと余りにも影響が大き過ぎるようにも感じられる。

 

「……多分、発動した方が皆のためだと思う。だから……その、気にしないで。私は私の選択で、今能力を発動しますっ」

 

 根っこの部分は変わるはずもなく、セナは着ぐるみ姿で敬礼する。

 

「えっと……ただ、二つだけ、イイっすか?」

「何?」

 

 当然ながら、善処はする構えだ。

 

「一つは、この格好、何とかしてほしい、かも。能力が発動したら、このリスポーンも解けるんでしょ? 別に野暮なことは言わないから、着替えさせておいて」

 

 既視感はないが、流れは一緒な感じか。というか、コイツの貞操観念どうなってんだ。

 

「イイ、けど……どんな格好がイイ?」

「コレ以外なら何でもイイよ。それで……二つ目なんだけど……」

 

「うん」

 

 流れ的には下着Yシャツということか。地味に難しい問題を投げられた気がしないでもない。

 

「……九月二十三日に、太刀川君が迎えに来てくれたら私達、友達にならない、かなぁ……」

 

 これはさすがに既視感があった。

 

「――いやいや、既に俺ら友達だから。話聞いてただろ――」

 

 

 その後、停止状態のセナを『監獄島区画』へ幽閉し、そこそこ心配だったマストオーダーを完了させる。時間は何と、既にお昼前。

 

「……さて……」

 

 書いてある字をなぞれば、次はレイカへの見舞いだ。事情説明は既にタケルが済ませてくれてはいるが、これは未来とか関係なく外せない既定路線だろう。また、その後に控える理事長を励ます会も結構な居たたまれなさだし。

 

「……」

 

 やっぱクソ難しい。誰か、攻略サイトのリンクをメッセに貼ってくれ。

 

 とりあえず、過去の反省を活かし、Yシャツを買うではなくスーツ自体を着替えよう。

 

 そして俺は、未だ見ぬ明日を目指して、嫌々歩みを進めることとした。

 

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