トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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学園の外へ

「……レイカさんにフラれた代役として同行する、ということでいいのでしょうか?」

 

「くっ……理解が早くて助かる……で、私服……じゃなくてもいいか。すぐ行ける?」

 

 胸や腹に比べ、尻には致命的な器官はないと聞く。でも痛いものは痛い。

 

「はい、問題ありません」

 

 外へ出られる=緊急事態=暴力を振るえる、という式でも成り立ったのか、気持ちテンション高めな中原。その微量ながら爛々とした圧に押されるように、学生会館裏手の駐車スペースまでやってくる。

 

「そのバイクは先輩の所有物なのですか?」

 

「あぁ。外だと学園内みたいに走ったり跳んだりできんからな。とは言っても、先生とか職員の人に貸すことが多いから、借りてる感覚の方が強い」

 

 俺が興味を持たなくても、バイクを愛してやまない人種は多数存在するため、普通に乗る分には申し分ない状態が保たれている。当然、俺からしたら規格通りに駆動してくれれば文句はない。

 

「……不動産を運用しているという噂を、何度か耳にしているのですが?」

「だからそれは嘘だ。正直、したいとも思わん」

 

 俺の価値観内で幸福な生活を送るために必要なお金は、そこまで多くない。とりあえずバートナー用のヘルメットを中原に渡し、エンジンを吹かす。

 

「さして関心は高くありませんが、このバイクの後ろに乗せる女性というのは、私で何人目になるのですか?」

 

「何だその嫌な質問は……少なくとも、楽しいと思える目的地へ乗せていった女は皆無だ。今日だってホントなら、俺はまだ寝ているはずだった……いや、っていうか、昨日休むって言っといたのに、何でメッセ投げたんだ?」

 

「それこそ、不毛な質問かと。先輩の言う予定とは、万人の使うそれとは異なるものなので」

「……よし、出よう」

 

 駄目だ、五手先の詰みが、私にも視える。

 

 生意気な後輩を乗せ、軟禁から一時解放されるとは思えない心境の中、無駄にしっかりと舗装された林道を走る。

 

「で、これをしてれば走行中でもノイズなく普通に会話ができる」

 

 インカムで賄えることではあるが、被るだけで自動的という点で、バイクライトユーザーには助かる話だ。

 

「…………このヘルメットもエイドスなのですか?」

 

「いや、これは前にもちょっと話してたエネルゲイアを応用、転用した技術。一般販売の目途は今の所ないらしい。まぁ、そこまで需要もないだろ」

 

「今回の活動に当たって、私が知っておくべき情報はありますか?」

 

 さすがというか何というか。しかも、今まで乗せた人の中で最も身体接触が少なく、きっと単純に体幹とバランス感覚が壊れているのだろう。

 

「外部委託。要は主に国からの依頼で犯罪を解決するって感じ。条件はもちろん、能力が絡むこと。今日はこれから、警察の人に会って、事情説明、現場移動、倒すか殺すかって流れ。詳しい話は着いてからで問題ない」

 

 資料を読んだってどうせもう一度説明される。だから流しでしか読んでない。

 

「……学園が追い切れないエネルゲイア覚醒者が、犯罪を?」

 

「色々あるけど基本はそう。一歳半、三歳児検診を受けない人は役所が頑張っても普通に存在するから、しょうがないって話だな。それ以外にも追う方法はあるらしいけど、それでもザルから零れ落ちることはある」

 

 中原はきっとそっち方面に関心は薄いだろうけど、監視カメラや撮影する習慣がある人達によって能力の情報が露見することはままある。

 

それでも、科学技術が発達した現代社会ではオカルト扱いが最も居心地の良い着地点であり、国の中枢にもずっぽしで食い込んでいる学園側もえげつない揉み消し方をしているので、SNS社会でも、いや、逆にだからこそ能力という神秘は般化せずに時を刻み続けている。

 

「そういった事案には、学園の外へ出ているという学生が対処すると思っていました。それとも、学園内の依頼と同じく、その中でも厄介なものが先輩に宛がわれている、ということでしょうか?」

 

「概ねその理解でいい。これも何度か言ってるけど、外へ出てる連中は制御できるようなヤツらじゃない。そのために、学生会からも人員を割いてる訳だし。だから、大きい事件は俺んとこに回る……ホントはそうであってはならないんだけど」

 

 まぁその件については端から制御する気なんざ更々ないがな。

 

「後は……殺し殺されの可能性があるので、漫画喫茶で待っててもらうっていうルートもあるんだけど、どうする?」

 

 正直、成長著しい中原なら、精神面以外に不安はないし、単純戦力として同行してほしいが、やはりバイト初日にやらせる仕事ではない。

 

「指示ならそうします。選べというなら同行させていただきます」

 

 そりゃそうなる。中原は殺すことも殺されることも、それ自体に対して恐れはない。この時期に備わる精神性ではないが、そこについては個性ということで済ませておこう。

 

「じゃ、同行ルートで。一応は、俺の指示になるべく従って。後、俺は全力で中原を守るから、中原も自分の身を最優先で守って。大怪我ならどうとでもなるけど、死んだら終わりだ」

 

「……わかりました。つまり、これまでの体験と比べ、より一層危険ということですね」

 

「そうだな。そう思っといて」

 

 とは言っても、今回はほとんど中原に頼る気はないが。

 

 走り出して10分程、外へ繋がるメインポータルに到着、バイクのままスペースに乗り入れ、律儀にエンジンを切る。

 

「……来た際は、警備の方がいる大きな柵のような門を通ったのですが」

 

「よくある話だ。この学園は入るよりも出る方がムズい。ちゃんと偉い人が見てて、今も俺と中原以外の学生はこのメインポータルを使っても出られない。現状、能力関連の力で見張られるのが一番セキュリティレベルが高い」

 

 なので誤魔化しは利かないし、誤魔化す気もない。

 

 アプリを操作して転移。思えば、今となっては外でしか手に入らないものも、ナギが言うように未成年御法度の品に限られる。なので、外の世界に直接的な魅力はない。

 

「……」

 

 後方を振り返る中原。さっき言っていた柵の手前にワープしてきた。警備のおっさんも含め、一時的に人払いがされているため、周囲からは風と鳥と虫の音が聞こえるのみ。

 

「大体、ここから30分位だ。中原、朝飯食った?」

「はい」

 

「じゃ、何か途中で食べる?」

「言葉が通じないのですか?」

 

「……」

 

 人間は慣れる生き物だという。中原のツッコミも、段々ノータイム且つ無遠慮になってきた。これも、距離が縮まったと思っておこう。

 

 仕方なく、バイクのエンジンを再起動する。軽い冗談のつもりだったが、今になってパンケーキが恋しい。もう手に入らない未来だと思うと、ファミレスのモーニングを狂おしく求めてしまう。ただきっと、レイカを連れてきても同じく却下されたであろうことを考えれば、別にマイナスなことではない。

 

 気分は休日出勤だが現実は平日早朝、職質されたら彼女を学校の近くまで送り届けるフリーターという設定でいこう。仕事は倉庫内軽作業的な何か。最悪、偉い人の名前を出せばゴリ押せる。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 もういつ頃からか、学園の外へ出るといつも思う。

 

 概念的には軟禁なはずが、今となっては三桁を越す転移可能区画のバリエーションにより、外の世界に風景的新鮮味はない。あるとすれば、やっぱり空気があんまり美味しくないかもしれないという先入観にも似た何か。

 

「……先輩から見て、外の学生と私が一対一で立ち会うことを想定した場合、どの程度の差があると考えられますか?」

 

 久々の娑婆、それは中原にとって、ある程度どうでもいいらしい。

 

 中原が俺に振ってくる雑談のテーマは三つ。和菓子とゲームと白兵戦。ちなみに割合は、1対1対8。

 

「中原……いや、まぁ……そうだな。求める強さが八卦よいのこった前提だからなぁ……トップ層は無理ゲーだろ。閉鎖空間でやや不意打ちならワンチャン……かな。少なくとも、相手がこっちをナメてる状態じゃないと厳しい」

 

 確かに、能力の話はバトル漫画的要素を含むし、登場人物最強の議論は浪漫に溢れているが、スポーツ的な戦いにならない連中がトップ層を占めているから、あんまり考えていて楽しい議題ではない。

 

「そもそも、中原の求める強さはほぼほぼ安定しないだろ。互いの持ってる情報とその時の読み合いが勝敗を左右する訳だし。ただ、超能力バトルを求めてないんだからしょうがないとは思う。いっその事、武術系の人限定で最強を目指せば、頂点は結構近いと思うぞ?」

 

 それでもそこそこにいばらの道だが、現実性を帯びるという意味では雲泥の違いであろう。

 

「はい。確かに、今はもう阿僧祇先輩に勝とうという気持ちはないのが、正直な所ではあります。だからと言って、自身が求めるものは変わりませんが」

 

 ブレないな。何でそんなに強くなりたいの? っていう質問はきっと、そこに山があるから的な回答で終わるんだろうし。ランクマ一生潜る人種と大差はない。いやあるか。わからん。

 

「まぁ、その内だな。何人か波長が合うのもいるから、その内紹介する」

「それは、ありがとうございます。ただ、その前に打倒すべきは先輩ですが」

 

「なるほど……俺から注意を逸らすという意味でも、誰かしらを用意するのは有効か」

 

 古今東西、四天王的な概念を生み出す存在は、このベクトルの悩みが極まった例なのかもしれない。だが、それを全て葬って修羅と化した中原に討たれる未来も考えられる。

 

 その後は、タイマンでの読み合いについての意見交換に終始していると、意外にも短い体感時間で目的地に到着する。指定された場所は、ファミレスではなく、少なくとも5回は訪れているディーラー。

 

「警察署ではないと思いましたが、車の販売店というのは予想外でした」

 

 専用のガレージにバイクを停め、脱いだヘルメットもいつもの位置に片す。

 

「考えりゃわかることだけど、学園が持つ資産はそりゃもう……牛耳ってる人が過度な悪用を考えない系じゃなかったら、もっと目に見えて酷い世界になってるかもしれん」

 

 能力を大っぴらにしないことに全力を注いでいる点は、多くの人間にとって、良かったのではないかと思う。まぁ勝手な感想だが。

 

「お疲れ様、太刀川君」

 

 出迎えてくれたのは、まだおじさんと形容する見た目ではない初老男性。やはり男は清潔感とスリムな体型が肝要か。いや、趣味による。

 

「あ、どうも。また、お世話になります。今年度もよろしくお願いします。中原、店長の小木曾さんだ。ちなみに、この店のネット口コミ評価は都内でもトップレベルだ」

 

「一年の中原です。よろしくお願いします」

 

「よろしく、中原さん。いつもの部屋だけど、大丈夫かな?」

「はい、営業時間外にすいません、失礼します」

 

 本店は基本、正午から営業している健全で評判の良い只の車屋さんだ。小木曾さんにしても、こちらのやってることの中身については何も知らないし、知ろうともしない。挨拶だけして後は場所を借りているだけだ。

 

 所々消灯している、正に営業前という店内を通り、スタッフルームとも別方向にある奥の個室へと進む。光沢の綺麗な高級車は、興味がなくても目が吸い寄せられるものだ。

 

「――よう、突然悪いなぁ、苦学生。水曜なのに、今日は何故か休みだったそうじゃないか」

 

 窓のない室内、パイプ椅子に足を組んで腰掛けていたのは小木曾さんとは同年代でも、こちらはくたびれた中年男性といったグラフィック。年度初めの無駄な禁煙チャレンジか、コンビニのコーヒーを飲んでいる。

 

「まぁ嫌がらせだったらキレますけど、しょうがないですよ。えっと、多分これからは彼女が基本的に同行してくれると思います。こちら、鳴海さん」

 

「所属なんかは気にせず、ただのおまわりさんだと思ってくれればいい。鳴海だ。よろしく、お嬢さん」

 

「一年の中原です。よろしくお願いします」

 

 先程の録音のような自己紹介を流す中原。とりあえずお誂え向きに安物の机を挿んで置いてある椅子に並んで座る。

 

「早く帰りたいだろうが、少し位おっさんの愚痴に付き合ってくれよ。いいだろう? ほれ、お茶だ」

 

 同じコンビニで買った可能性百パーのペットボトルをビニール袋から取り出してガサツに置く鳴海さん。ノンデリと呼称されるような概念を生み出した類の人間なのかもしれないが、俺も人のことは言えんし、このおっさんと絡むのは全然嫌いじゃない。

 

「いただきます。鳴海さん、朝飯食べました?」

「おう、今日は鉄火場仕事になりそうだからなぁ。朝牛定食食ってきた」

 

 二対一か。もう昼飯を楽しみにして過ごそうと思う。

 

「にしても、また違うタイプの美少女を連れて、お前さんは羨ましい青春を送ってるなぁ。その目立つセーラー服は、学園の制服とは違うんじゃないか?」

 

「はい。学園への入学が急だったため、制服は元々進学予定だった学校のものを着用しています」

 

 もう何回も説明しているはずなのに、よくそこまでフラットに同じ言葉が出てくるな。まぁどうでもよ過ぎてそうなってるんだろうけど。

 

「そりゃまた掘りたくなるが、同じ轍は踏まないようにしておくか。それで、オーヤンちゃんは元気にしてんのかい? もしかして、俺が嫌で、お前さんとつるむのを止めた訳じゃないよな?」

 

「相変わらず、だと思いますけど、今は学園の外に出てます。もちろん、適材適所ってことで、そういう配置になってます。まぁ、アイツは誰に対してもあんな感じでしたからね」

 

 新年度に入ってからはまだ一度もやり取りをしていないが、問題はないだろう。どうせ時間の問題な訳だし。

 

「そうか。お前さんも、相変わらずだな。ったく、少し現場を離れると、陰でコソコソつまらんことを言ってる割には大した仕事もしない部下が、より不憫に思えてくるなぁ……」

 

 溜息を吐き、コーヒーを飲む。警察で働くって、きっと大変なんだろうな。

 

「今日の仕事は、正に大人の尻拭いだ。それ以外の何物でもない。やることは変わらんが、経緯を雑に説明する」

 

 それこそ、正に気が進まないという印象。

 

 鳴海さんの経歴はもちろん知らないが、警察官で刑事、それでいてこの場にいるっていうことは、紆余曲折に紆余曲折を重ねた結果なのは想像に容易い。知らんけど、仕事の実力と世渡りのスキルが決定的に噛み合わないからこそ、今ここに座ってるんだろう。

 

 これ系の仕事で得られる多額の報酬をぶち切れして突っ返そうとしたって話は、酔ったチエっちから聞いたことがある。俺なら普通に貰っちゃうね。

 

「最初の被害者が発見されたのは十日前の深夜、場所は都心のど真ん中に程近い」

 

 机の上にA4用紙を滑らせながら、鳴海さんはいつもの説明ターンへ入る。中央部分にマークがされた地図へ目を向けると、先程流し見た通り、繁華街からそう離れた地点ではなく、人通りも普通にあると思われる。

 

「本来なら、被害者の身元が割れた時点で、俺に声が掛かるはずだった」

 

「確かに……一時間前には生きてた人間がいきなり白骨死体で見つかったら、条件に当て嵌まるって判断が妥当ですね」

 

 街中で人を殺害したとして、一時間で目立たないように燃やし尽くすことは、素人目に見ると滅茶苦茶難易度高いように思えるが、実際はどうなのか。だからやっぱり、専門家の口から説明を聞いた方が早い。

 

「この時点で不自然な点しかない。それは誰の目から見ても明らか、だから身元確認は迅速に行われた。お前さんの言う通り、どうやって燃やしたか。他には、何故骨をすぐ見つかる場所に遺棄したのか、犯行動機も燃やす意味も不明」

 

「やっぱり、被害者が警察の方だったっていうのが、ここへ来るのが今日になった理由なんですかね。後、人間をその、そういう状態にするのって、普通に難しいですよね? 派手な痕跡を残さないことも加えると」

 

「二つとも、言う通りだ。同期が暴走したらしいが、警察官にも色んな人間がいる。痕跡についても、時間的な制約を考えれば、そもそもが不可能というレベルだ」

 

 わざわざ言わなくても、不可解な事件は上の人間の耳に入るらしいが、それに加えて、能力の事情も絡む訳で、現在の警察内部はその辺の情報はスムーズに流れていると聞いていた。本日はその中の数少ない例外ケースなのだろう。

 

「誰にも見られずに殺し、誰にも見られずに燃やす。しかもどう燃やしたのかもわからん。捜査は行き詰ると思われたが、被害者は増え続けた。分かっているだけで8人、それと、このヤマに巻き込まれた可能性が高いっていう行方不明者も多数出てる」

 

 いつも以上につまらなそうに話す鳴海さんは、既に空の紙コップを傾け、言葉を続ける。

 

「ここからが本題だ。二人目以降の被害者は、皆家出して都内に来ていた小学生から中学生の子ども。共通点は、貧困家庭であること、いなくなっても関係者が気にしないってトコだ。俺の方に話が回った決定的な理由は、場所がわかって踏み込んだ刑事も、行方不明者に含まれているからだ。当然、そいつらは死んでても不思議はねぇ」

 

「夜の街だったとしても、大人と積極的に関わるケースは少ない。能力使えば金を得ることは可能だからメリットもないし、まぁそれを含めなくても、能力者絡みで確定ですね。火を使う能力か、ダイレクトに白骨化させる能力もあるだろうし……」

 

 こんなポンポン白骨遺体が出てきたら、本来ならワイドショーを席巻するレベルだが、この件についても、学園が目を光らせているのがわかる。

 

 起こったことの詳細な内容は記されていても、それが何なのかについては終始よくわからないか、可能性を潰し切れないっていう印象だった。最初に殺された警察官にしても、職質して不審に感じたという流れは想像の域を出ていない。

 

 犯人にしても、少しでも知恵が回ればわざわざ殺さないし遺体を目立つ形で遺棄しない。間違いなく監視カメラを搔い潜ってるのに、随分とちぐはぐな印象だ。

 

「触れた相手を白骨化させるなんていう能力も、あり得るのか?」

「ある、かな。見ただけで、とかも考えられるし」

 

「おいおいお前さん……そんなもん無敵じゃねぇか……」

 

「いやぁ、無敵には程遠いんじゃないかな。鳴海さんだって、今までに色んなの見てきたっしょ?」

 

 能力が強いヤツ程、不意打ち系の攻撃への対処レベルが高い。それを防ぐことに全リソースを割いてるのも別に珍しくない。そして、一撃目で殺り切れなかった側は死が確定する。

 

 奇襲で殺そうとしてきた相手は絶対に殺す。学園の猛者達が時間を掛けてわからせた暗黙の了解の一つだ。

 

「アホか。俺はお前さんらが何をしてんのかなんて一々考えねぇようにしてるのさ。それが、この仕事を続けて正常な感覚を保つ秘訣だぜ?」

 

「へぇ……意外。めっちゃ分析してんのかと思ってた」

 

「無駄なことはしない。大人になる上で大切なことだ。さて、後は読みゃわかんだろ。それで、すぐ行くか? 準備や捜査が足りねぇなら付き合うが、今日中に帰りたいんじゃないのか?」

 

 いえ、可能なら昼飯前には帰りたいです。そしてコーヒーが無くなった代わりに俺へ差し出した緑茶を飲み始める鳴海さん。これが大人か。

 

「……さて」

「……」

 

 とりあえず中原は自分の役割をよく理解しているな。指示待ちタイプじゃないのに、ちゃんと指示が聞ける感じだ。

 

 いずれにせよ、人が亡くなっている話だ。その時点でテンションは低い。ただ、そういう感傷が何の足しにもならんことは、この一年で学んだ。

 

 警察官が殺されて、いきなり骨。

 

 動機も、各種行動の意図もさっぱり。

 

 でも雑に次々と犯行が重ねられたから、さすがに犯人がいそうな所は特定。

 

 で、ぶっ込みかけたら誰も帰って来ず、応答もなし。

 

 面子とか言ってる場合ではなくなり正規ルートへ移行、俺の休日は台無し、今ここ。

 

「栄えてない方に逃げた、か逃げた訳じゃないかも、か。ここから1時間位?」

「カーナビは45分って言ってたから、そんぐらいじゃないのか」

 

「潜伏って表現するのはちょっと……ここって、ちょっとお高めなマンションだよね?」

 

 多少都心から距離はあるが、ランクとしてはジム付きタワマンの一歩手前位ではなかろうか。

 

「言ってて寂しいが、俺の安月給じゃ厳しいことは確かだな」

 

「まぁまぁまぁ。でも、ここの住人から何の話も出てないっていうのは……直接確認しに行った人が音信不通っていうのが答えか……うーん……調べるために来た訳じゃないし、後は現場で判断かな」

 

 能力の詳細について断定できる程の情報はない。これの有無で、外部委託の難易度が大体決まるので、やはり今回はクエストの星の数はそこそこで確定。

 

「中原は、何かある?」

 

「はい。もし仮に、相手のエネルゲイアが『視野に入った対象を白骨化させる』という内容だった場合、それでも先輩ならば問題なく退けられるということでしょうか?」

 

「絶対はないけど、まぁイケるだろって感じだ。ただそんな能力だと、鳴海さんはワンパンされるから、結構厳しいな」

 

「……鳴海さんは、能力者と対する際も同行するのですか?」

 

「そりゃそうだ。ガキに任せて後方待機する大人なんて、一発で骨んなるよりろくな死に方しないぜ、お嬢さん」

 

「……」

 

 とは言うものの結果的に途中離脱して待機という展開が七割を超えるが。心意気自体は本物なので、ツッコミは無粋であろう。

 

「鳴海さんには能力はないけど、刑事としての専門性がある。後、そもそも現場での中原の主要業務は鳴海さんの護衛だ。中原が守るなら、問題ないだろ」

 

「私には、白骨化のエネルゲイアを防ぐ術はありませんが」

 

「うーん、じゃあ念のため、ファーストコンタクトは二人には隠れててもらう方向でいこうかな。ただ、間違いなくそんな万能な能力じゃないぞ。見ただけ、っていう条件だったとしても、もっと使い勝手が悪いはずだ」

 

「何故、そう言い切れるのですか?」

 

 只々フラットな質問口調。今の言い方で全然キレないのに、どうしてちょっとした軽口には憤怒するのだろう。これも価値観の相違か。

 

「見る、もしくは認識するで発動できる能力の中で一発で直接殺すようなレベルは学園のデータベースにもない。だからと言って存在の否定には繋がらんけど、それだけ強かったらもっと派手な被害が出てるし、相手も引きこもらずに皆殺しムーブで来るだろ。ただでさえ場当たり的な動きでここまでやってる訳だし」

 

「そのデータベースとやらは、私でも閲覧できるのでしょうか?」

 

「そっちに興味移すの止めようか。ちなみに、役職持ちで限定解除だ。見たかったらこのまま学生会で一緒に頑張ろう」

 

「今の言葉だけ抜くとヤバめな宗教みてぇだな」

 

「とにかく、とっとと移動しましょう。今から出て、手早く済んだとしても、学園に帰るのが12時を回ってしまう」

 

「……それは、何か問題があるのですか?」

「いやいや、俺今日本来は休みだから」

 

 それはそれ、これはこれ。世界は大変でも俺には休日が必要で、休日はのんびりしたい。

 

「…………」

 

 そう、今のだとキレる中原。

 

「決まりだ。俺だってこの時間は有給扱いなんだぜ? 目的は一緒だな? シン」

「ですね。グダったとしても、昼飯前には終わらせましょう」

 

「……」

 

 その時になったら、きっと嫌でも本気でやらにゃならん。望みを口にするくらいは許してほしい所だ。そう思いながら、殺意を向けてくる中原の目は見ずに立ち上がり、狭い部屋を後にした。

 

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