トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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インターミッション 連絡会

 そこは都内某所、海外のⅤⅠPも挙って利用する高級ホテルの21階。当ホテルにおいて定期開催されているスイーツバイキングは、SNS上でも度々話題になっており、常に多くのキャンセル待ちが出ていると噂されている。

 

 そんな中、平日の日中とは言え、広々としたフロアには利用客は一組だけ。中央のソファテーブルに座っているのは二人の大人びた美少女と、2メートルを越す長身に筋骨隆々なスキンヘッドで圧倒的威圧感を放つ一人の男性。

 

「今朝まではケーキバイキングもたまにならイイかって思ってたのに、結局は焼肉に勝る外食はないんだね。それに洋菓子を食べると、和菓子が恋しくなるなぁ……」

 

「セリフとペースに釣り合いが取れてないわよ。それにしても……一々席を立って選ぶのが醍醐味なのかもしれないけれど、一回目でもう面倒に感じてしまうわね」

 

「…………」

 

 髪色と同じ真紅のドレスに身を包んだ少女はその外見とは不釣り合いな飄々とした口調で話しながら、皿に乗せられた色とりどりのケーキを次々に平らげていく。その対面に座る少女のドレスは対照的な青。ただ、ブルージルコンを思わせる落ち着いたその色彩は、彼女の靡かせる純銀のように美しい長髪を引き立たせている。

 

 一方、小さなトライアングルを形成しているような位置関係の中、何故か両者に挟まれているような恰好となっているスーツ姿の男性は、その巨体を限界まで縮こませながら、未だに最初に食べ始めたモンブランを緩慢な動作で口へ運んでいる。

 

「でもさ、このドレスは結構動き易いんだね。ダルかったら脱ぐか破くかしようと思ったけど、上段回し蹴りもスムーズにイケそう」

 

「別に構わないけれど、職人さんが泣くわよ。それに、黙って止まっている限りにおいては、とても良い目の保養になるわ」

 

「…………」

 

「やっぱり常室食べるの遅いね」

「毎回焼肉かお寿司ばかりだから、貴方のリクエストを聞いたのだけど?」

 

「あ……え……っと……ごめん、なさい」

 

 男は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、頭頂部から汗を垂らして更に俯く。

 

「何で謝るの? 別に勝手でしょ」

「怖がらせないの。後、早々に渡してしまいたかったの。これ、太刀川君からよ」

 

「えっ? 太刀川君?」

 

 銀髪の少女は、ソファの隅に寄せられていた小さな包みを、男が座るテーブルの前に置く。

 

「シンが? 何で私に頼まないの?」

「それは私にする質問ではないわね。ほら、受け取ってあげて」

 

 少しだけ活力を取り戻した様子の男は、それでもおずおずと手間取りながら包みを開ける。

 

「あ……こ、これはっ! し、視聴者プ、プレゼントの……げ、限定アクリルス、スタンド……し、しかも5種類ある中のシークレットっ! ツイッターでの排出報告も数件に届かない超……超っレアっ! あぁ凄い……細かい所までしっかりと作り込まれていてアクリルの安っぽさが全然ないしこのキャラクターがグッズ化されたのはこれが初なのにこれが手に入るなんてもう僕は…………あぁっ! ご、ごめんなさい……き、気持ち悪い、ですよね? こ、こんな、は、話……」

 

 念仏のように言葉を吐き出し続けていた男は、我に返り、再びその身を抱きしめて縮こまる。

 

「勝手に話してる分には大丈夫、全然聞いてないからさ」

 

「大きいお友達、というものでしょう? 好みは人それぞれよ。私はターゲットではないからその価値は全く理解できないけれど、好きなものを卑下することはないわ。ただ、ごめんなさい。私も全く話は聞いていないわ」

 

「あ、うぅ……ごめんなさい……」

 

 両者の言葉を受けた男は、謝罪を繰り返しながらアクリルスタンドを大事そうに包みに戻すと、スマートフォンを両手で握り締め、高速で操作する。

 

「あぁ……ふぅ……」

「んー? 何縋るような目で見てんのさ? メッセ?」

 

 常人ではとても目で追えないスピードで、スマートフォンは赤毛の少女の手中に収まる。

 

「あぁっ!」

 

「今時メール? 会社かよ…………へぇ。ミオ、これ」

「阿僧祇さん、他人のスマートフォンを奪うのは感心しないわよ」

 

 その言葉とは裏腹に、迷いなく受け取り、銀髪の少女はモニターを凝視する。

 

「……これを読解問題とするならば、筆者にとって私達二人と食事を共にすることはまるで拷問のような時間であると取れるわね。更に踏み込めば、私達二人を不快にさせないことが世界平和に繋がる、という理解困難な因果関係を提唱しているわね」

 

「わからなくはないけど、裏でこそこそはなぁ……」

 

「あ……あ……ご、ごめん、太刀川くぅん……」

 

「あら? 貴方が責任を感じることはないわ。彼は学園の執行機関である学生会の副会長を務める程の人物よ。貴方が数少ない友人のメールを消去できないことは想定内であるはず」

 

「フリじゃないって念を押してまで絶対に消去するよう何度も書かれてるからさすがに想定外かもだけどね」

 

「あ……あ……ご、ごめん、太刀川くぅん……」

 

 壊れた機械のように、男は同じ言葉を繰り返す。

 

「嫌がらせの具体的な内容はここで考える必要はないわね。それに、私が手を下さなくても、きっと今頃頭を悩ませてるはずだから」

 

「クーデターのこと? でも、何でこんなに早いの? 1か月でそんなに仲良くなる感じなの? 1年の人達って」

 

「さぁ? 私も小耳に挟んだ程度。貴女こそ、抜かりなく探ってるんじゃないのかしら?」

「んー? 必要なのは能力関連だけだよ。後はどうでもいいし、会長がハゲちゃうよ」

 

 言葉は重ねられているものの、彼女達の食べる手に淀みは見られない。

 

「シンプルなショートケーキが美味しいわね。モンブランはいまいち」

「モンブランは一口で終わったなぁ。チョコのヤツも全部結構いいよ」

 

「そうね。見た記憶はないのだけれど、和菓子のバイキングってないのかしら?」

「行ったことないけど、あるんじゃない? 次はそれにする?」

 

「次はお寿司がいいわね」

「じゃその次は焼肉で」

 

「ではその次ね。あのよくわからない羊羹を超える和菓子が存在するなら、興味があるわ」

「あ、確かに。シンって結局、自分が好きなのはどら焼きなんだよね。たまに愚痴ってる」

 

「…………」

 

「さて、そうね……」

 

 銀髪の少女は、一呼吸入れるように、コーヒーの入ったカップをゆっくりと傾け、戻す。

 

「戯れに、一つ白黒付けておきましょうか。常室君? 貴方が恐れているのは私ではないわよね? この連絡会とやらの意義に則って、情報は適切に開示して、周知しておくべきではないかしら?」

 

「えっ! えぇっ! な……何……で……」

 

 その唐突な問い掛けに、男は狼狽を深める。

 

「何で? 常室が怖がってるのはミオでしょ? どうしたの?」

 

「それは事実と矛盾するわ。常室君? 私は一度たりとも貴方に害する行動を取ったことはないわ。私を怖がる論理的な理由など存在しないでしょう? さっさと彼女の誤解を解いてあげなさい」

 

「私もそうだし、そもそも常室のことを考えたこともないけど?」

 

「っ……」

 

「それは暴言に類する言葉よ。もう少し気を付けてあげなさい」

「えー、だってこの世界にいる人皆のこと気にしてたらそれだけで1日が終わっちゃうじゃん」

 

「人の心は貴女みたいに簡単ではないのよ。もう少し、彼のメンタルを考慮してあげるべきではないかしら?」

 

「めんどくさいなぁ……そういえばさぁ、常室って超強いのに何でそんなにキョドってんの? それに何でハゲてんの?」

 

「っ! あ……ごめん、なさい」

 

「その話題は広げるべきではないわ、不毛よ」

 

「じゃ、一旦ちょっとだけ常室に喋らせよ。ほら、何か言いたいこと言ってみて。私もミオも、別に常室のこと嫌いって訳じゃないから」

 

「そもそも嫌う程の関係性が存在しないわね。けれど、言いたいことがあるなら、聞かない訳ではないわよ、話してみなさい」

 

「あ……う……」

 

 その時ちょうど、コーヒーを注いでいた男性給仕はこう思ったと後に話している。「常室君、頑張れ」と。

 

「そ、その……前にも、で、でしたけど……連絡会に、誰か……た、太刀川君がいい、と思うんですけど……さ、参加しても、もらう……と、いうのは……」

 

「別にいいんじゃないの? あーでも、メニューの発言権を与えるのは反対かなぁ。絶対うな重になるし」

 

「駄目よ。彼では弱過ぎるわ。それに、阿僧祇さんは例外としても、学生会の人間が関わることを、国も望んでいないはずよ。ただ……うな重はいいわね」

 

「いいじゃん、本人に聞いとけば。来たいっていうなら私は止めないし。でも、参加したいのかなぁ」

 

「そうね。なるほど、確かにその通りね。元々、本人の意思を蔑ろにして話すべきことでもなかったわね」

 

「じゃ決まり。はい、常室。そろそろ答えちゃってよ。ミオが怖過ぎるって」

 

「言語理解が低いのかしら? 常室君、早く彼女の目を覚まさせてあげて」

 

「あ…………あ…………うぅ……その……」

 

 ここで初めて、少女二人はフォークをテーブルに置き、男の方へ視線を向けた。

 

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