トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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GW前の後日談的な何か

「――大体はそんな感じ、ですね。各種処理は順次、既に進めてます」

「はい。この度も、ありがとうございました」

 

 四月二十九日木曜日、GWの開始合図を兼ねた祝日の午前9時過ぎ、場所は事後報告のテンプレート、学生会館四階、会長室炬燵。

 

「以後の懸念としては、時期が早過ぎたことや、その他諸々の理由で不完全燃焼を感じた層による再度のクーデター発生が考えられますが、今後も一年生の生活には十分注意を払っていく方針です」

 

「よいと思います。その方針で、よろしくお願い致します」

 

 昨日の一部始終についての報告はほぼ終了。昨夜は結局自室へ帰れる流れでもなく、副会長室のソファで仮眠を取っただけだし、起き抜けに温泉区画へ行って来たらサッパリしつつも眠くなるという、若干のデバフが掛かってしまった。つまりそろそろ休みたい。

 

「振り返ると、やっぱり外部委託を中原と行って、レイカを学園に残したのが大きかったですね。会長のメッセージが無かったらもっと被害が出てたり、泥沼だったかもしれません」

 

「うーん……おそらくですが、大勢に影響はなかったかと。それよりも重ね重ねですが、そういった局面でお役に立てず、申し訳ありません」

 

 いつどのような報告をしたとしても会長の言葉の八割はお礼と謝罪で満ちている。

 

「そこはいつも通りの役割分担ということで。そもそも、会長の能力がなかったら既に学園は崩壊してるか無法地帯かの二択なんですから、どーんと構えてて下さい」

 

 絶対無理だけど。

 

「そんな……いえ、善処します。ただ……そうですね」

 

 会長は儚げな笑顔で、ほうじ茶を少し飲む。そういえば、オリエンテーションの日も、同じほうじ茶を出してもらったような気がする。

 

「未来に干渉できる力というのは、誰もが一度は夢見るものかもしれません。私もその一人だったのですが、得た力は……存外不自由なものでした。もっと適切に扱うことができれば、或いは……」

 

「いえ、そん――」

「――おつかれさーん」

 

 渾身の励ましを何パターンも捻り出そうと脳細胞をフルスロットルに切り替えようとしたその時、試みはやる気の一切感じられない声に遮られた。現れたのは、使用不可の学園最強という装備できない伝説の剣みたいな女。まぁそんな剣じゃ足りんが。

 

「えっ? あ、阿僧祇さんっ!」

 

 そして会長は歓喜の表情で立ち上がる。その顔に、先程までの憂いは確認できない。

 

「何だよお前、来るならちゃんとアポ取れって……」

「シンが言ったんじゃん。会長室に顔出せって。それで出したのに取れっておかしくない?」

 

 歓待しようとしている会長を失礼にも素通りし、何故か俺を押し出すように炬燵へ侵略してくる。

 

「ちょいちょい、何でここ座んだよ……サイドが空いてるだろ。それに、俺が顔出せって伝えたのは新年度初日だ。もうすぐ五月だぞ」

 

「知らないよそんなこと。会長、お茶とかムリ、いちご牛乳飲みたい」

「はい、只今」

 

「お前……」

 

 結局俺を炬燵から追い出し、勝手に俺のほうじ茶を全飲みする。

 

「シンこそ、こんなとこで油ギトギトしてないで、報告が終わったならとっとと次に行きなよ。嫌なことを後回しにしても、いいことなんてないよ?」

 

「お前……」

 

 もう面倒臭いので退散を選択する。この女、動きが一々無自覚エロじゃなかったら二、三発引っ叩いてる所だぜ。

 

「あ、そうだ。シン? タグ、見せて」

「あん? 何なんだよ……ほら」

 

 ケツポケットから、スマホとは別に携帯必須を言い渡されているアイテムを取り出す。

 

「昨日は携帯してなかったよね? 何で?」

「えっ? 何? 聞こえないけど?」

 

 

 やべぇどーしよ、マジでどーしよ。

 

 

「昨日は携帯してなかったよね? 何で?」

 

 魔王討伐を断られた国王のように、同じ言葉を繰り返す赤い悪魔。

 

「それは、ほら、証拠とか見せてもらわないと……とか言い出すのもやっぱどうかと思うし、素直に申し訳ないなって思うから、まぁ……言うけど…………朝急いでて忘れたわ」

 

 チエっち来てたんすよ。マジで。

 

「…………あ、会長ありがと」

「あ、はい」

 

 掠め取るようにいちご牛乳の瓶を奪い、蓋を開けて一気に飲む。

 

「えっ? あれ? え……えぇぇぇぇ」

「――ちょっ!」

 

 会長が何故かヒップホップのようなリズムを刻みながら高速で踊り出しつつ、一気に俺へと接近する。

 

「ちょっ、一回落ち着――ぶ」

「えぇぇぇぇぇっ!」

 

 会長の繰り出したそれとは思えないパワフルな掌底が俺の左頬を真芯で捉える。

 

「がはっ」

 

 もうしょうがないので、後方へ吹っ飛んで入口まで後退する。

 

「よかったね。会長にビンタしてもらって。にしても甘っ、何か辛いの食べたい」

「あ、はいっ! 只今っ! た、太刀川君、ごめんなさい……」

 

「いやいやいやいや、犯人はこの中にいるんで、気にしないで。っていうかお前止めろって、何かに目覚めたらどうすんだよ……」

 

 ただでさえレイカに蹴られまくってることを、とある層には羨ましがられているというのに。

 

「いいからさぁ、ちゃんとする。約束はなるべく守れっておばあちゃんに言われたでしょ? ほら、会長の分も含めて羊羹四つ」

 

「何で一人で三つも食うんだよ……じゃ、会長、失礼しまーす」

 

 重ねてもうしょうがないので、会長の申し訳なさそうな声をバックにササっと献上してササっと逃げるように会長室を出る。

 

 

「はぁ……」

 

 とは言っても、やや気は重い。もう少し会長と話してリラックスポイントを稼ぎたかった所だが、今更言っても始まらない。

 

 俺は小林に小言を言われるリスクを軽減するため、準備を済ませた後、ポータルを使って中央広場のメインポータルまでダイヴし、連続使用で寮区画へ移動する。

 

「……」

 

 逃れ難い帰巣本能からか、足が一瞬自室の方へ向いたが気合で捻じ伏せ嫌々ながら一年生の住む青寮を目指す。

 

「…………」

 

 ここで少し考える。

 

 周辺視野で捉えている対象物は他者から見れば認識していないと受け取られているのが通常の認知であろう。つまり、視野の中心付近で捉――

 

「――ねぇ?」

 

 ――思考を遮る、機嫌の悪そうな二文字。

 

「あー、あれ? 奇遇だな。どうした?」

 

 昨日の敵は今日の友、事はそこまで単純ではないだろう。美人一年生、麻月カエデ。こちらは目も合わせていないのに、バトルを仕掛けてくるつもりだろうか。別に金には困ってないが、ちょうどボールを切らしている。

 

「奇遇じゃない。アオイのこと、これからどうするつもり?」

 

 無駄な会話はしたくない。そのメッセージは一応キャッチした。

 

「……そりゃそっか」

 

 とりあえず、時間も経って、大分落ち着いたようだ。噓を吐くことも、気を遣いすぎることも必要なさそうだ。

 

「これからって言われてもな。俺よりも、周囲のリアクション次第かな。だから、正直まだわからん。それこそ、昨日の今日だぞ?」

 

「…………そうね。アオイは、迷惑を掛けたと思ってる人達に謝って回るみたい。本当、損になることしかしない……」

 

「でもそこが好き」

 

 そういうツンデレで安定してほしい。やっぱりヤンデレは二次元に限る。

 

「うるさい。貴方には、アオイが傷付かない範囲の中で最も遠い関係性でいてほしい。あの子を……学生会へ入れる気?」

 

「うーん……意外と利害が一致するかもな。その、あくまで今ここで思うこと、として、俺が積極的に危害を加えるって、思ってる?」

 

 正直、敵だと認識されている限り、こっちからできることは少ない。

 

「……感情的には信じたくない。貴方の利害で見れば、わざわざ危害を加えるとは思えない。けど、積極的に助けようとするとも思えない。利用する気なら十分ありそう」

 

 彼女の価値観はわかってる。向こうはそもそも、クーデターなんてどうでもよかった訳だし、腹芸をするつもりもないだろう。

 

「そのスタンスなら、協力できることはある。で、学生会へは、暫く入らない方がいいと思う。レジスタンスの連中と一回関わってるから、学生会の面子には嫌がる人も結構いるし。ただ、ほとぼりが冷めて、彼女が入りたいって言ってきたら、やんわり断って、それでも食い下がる感じだったら、麻月さんも交えて、一緒に考えてもらってもいい?」

 

「……聞いてた通り、偽善者っぽくて、胡散臭い。考えておくけど、味方だとは思わない……行くんでしょ? 引き留めて、悪かったわね」

 

 颯爽と歩き去る美人。彼女には、今後も良き百合を期待したい。

 

「――またちょっと歩いて止められるのは嫌でしょ? 少しいい? 太刀川君」

 

 何の気配もなくそこに立っていたのは薄桃からの銀髪美人。美人ラッシュに迷い込んだのか、ただこれではボスラッシュも兼ねているため、嬉しい気持ちは湧いてこない。

 

「もちろん。一応ぬか喜びの方を処理しときたいんだけど、学生会に入るという話では……」

「ないわね」

 

 何だかよくわからんが響き的には落選、という感じ。

 

「ですよねー。昨日はどうだった? 何故かスイーツバイキングになったって聞いたけど」

 

 そういえばドタバタでまだ常ちゃんに連絡取ってないな。

 

「そうね。それについては後日、阿僧祇さんと二人で太刀川君へ何かしらの嫌がらせをしようという話で纏まったわ。震えて眠りなさい」

 

 何と突然の死刑宣告。

 

「嘘っ!? 何でっ!? どこで選択肢を間違えた……いやあの、土下座でも靴舐めでも何でもするんで、勘弁していただいたりとか……はい……」

 

「両方共気持ち悪いから止めて。それに、ご機嫌を取るなら私ではなく彼女の方へ注力すべきじゃないかしら。私としてはもう昨日のことで、忘れてしまったというのが本音よ」

 

「ヤバいな……ついさっきやらかしが発覚したばかりだというのに……」

 

 前途が多難過ぎる。

 

「そんなことより、ナギからの伝言。一日に一回ご機嫌取りに来い、とのことよ」

「え…………ダウト」

 

 誰だよ、そのナギ。

 

「正解。けれど、行ってあげたら? 私だってさすがに、四六時中は無理よ」

「ナギのリスポーンって、廃墟区画?」

 

「そう。さっきの子も毎日行くつもりらしいけれど、私と同じで、きっと長く滞在する気にはならないんじゃないかしら」

 

「あ、なるほど」

 

 そっか。麻月さん、筋は通す感じだし、結構ナギと相性いいと思ってた所だ。区画解放はまだとなれば、碓氷さんと一緒に行くしかない。それに加えて、俺にとっては浪漫でも、女子にとっちゃただのホラースポットということか。おばけ出るし。

 

「顔出すだけなら……ま、ナギルートはもう主要キャラ全員敵に回すルナティックモードな気がすんだよなぁ……もうちょっと、俺とか碓氷さんに対するみたいな感じで付き合えないのかなぁ……」

 

 だって周囲のヘイトがエグ過ぎる。

 

「……それじゃ、失礼するわ」

「あ――」

 

 間の抜けた声を上げた時には、もう美人の姿はない。やはり美人とは儚い存在、こちらが望む形では相容れない、絶望的な事実ではある。所で、どうやって現れて消えたんだ。無限のエネルゲイア、もう勘弁してくれ。

 

 そして、第三の美人が現れたらどうしよう。

 

「いや、全然いいだろ」

 

 阿呆なことを思い浮かべては打ち消しつつ、先を急ぐことにした。

 

「それにしても……」

 

 二人共、俺が台車の上にデカいダンボールを複数乗せ、ゴロゴロと押して歩いているというのに一切触れてこない。それが一番心にキたかもしれない。

 

 

                    ※

 

 

「…………」

「緋乃レイカが……緋乃レイカと……同じ……空間……えっ? 死?」

 

 一時的に精神を混乱させている佐藤さんに比べれば、自分のそれは大分落ち着いてきたと言えるだろう。

 

「佐藤さん? そろそろ、戻ってきてもいいんじゃないかしら?」

 

「彼女からすれば、サプライズも加わってのご対面だったようだ。自分を取り戻すまで、少し私が傍で様子を見ていることにするよ」

 

 佐藤さんを伴って、稀崎先輩はリビングの方へ姿を消す。困り顔だったレイカさんにも、安堵が流れる。

 

「ふぅ……それにしても、思ってた通りの冷静さね。佐藤さんにもう少し様子を聞きたかったんだけど、特に取り乱したりもしなかったようね」

 

「そう、ですね……自分でもおかしいと思うのですが、最初に感じたのは、驚きよりも憤りだったと思います」

 

 もう既に何度も思い返した、あの瞬間からこの布団で意識が戻るまでの体感。

 

 先輩の笑顔に不審を抱いた次の瞬間には布団で目覚めていた。それが、最もこの体験を適切に捉えた言語表現だった。そして、腹部への痛みも、その残滓も全く思い出せない程に消失しており、初めは夢を見ていたと本気で考えていた。ただ、立ち上がることはできてもこの布団の範囲内から出られないとわかった時、その仮説は崩れ去った。

 

「痛みや感触が消えているから、意外とすんなり受け入れられる人が多いんだけど、メンタルケアが必要だったら受けられるし、必要だとこっちが判断したら、相談させてもらうから、よろしくね」

 

「はい……」

 

 私がこの布団で目を覚ましたのは日付が一日経過した四月二十九日の午前6時。

 

 区画内で人間が死亡すると、半日から一日程の時間経過を経て、再生、リスポーン、様々な通称があるとのことだが、普段就寝している場所で蘇生される。この学園が普通ではない、という事実、その止めのような話だと思った。

 

 そして話を一足早く聞いていたという佐藤さんが号泣しながら様々な説明をしてくれ、レイカさんと稀崎先輩からも、8時頃に通話で話をしていた。聞けば当然のことながら、こうしている間も、授業があれば私は欠席扱いとなるらしい。だからあまり死なない方がいい、と稀崎先輩は真顔でそう言っていた。結果的に、今回はGWに救われた形ということか。

 

 加えて先述の通り、所謂デスペナルティとして、私は後90時間程この布団の範囲から出られず、その間は非常に特殊な状態が保たれるらしい。端的に言えば、空腹にならず、排泄も要らず、同じ姿勢でいても疲れず、激しい運動は不可能で、寝ようと思えば寝られるが、眠気はほとんどない、という状態が維持され続けるとのこと。布団の範囲に張り巡らされた不可視の領域は他の生物や危険物を通さず、加えてエネルゲイアで攻撃をしても通用しないらしい。

 

 レイカさんは無敵という一言で片付けていた。

 

「それで、シンからは何かあった?」

 

 通話で話した際は恐る恐るといった印象だったが、その時の不思議な雰囲気は既に脱しており、会話も今まで通り、というよりも、更に距離が近くなったようにも感じられる。

 

「……これですね」

 

 見てもらった方が早いと思い、スマートフォンの画面をレイカさんの方へ向ける。

 

 

【どう?】

 

                               【早く部屋に来て下さい】

 

【なる早で伺います】

 

 

「その、私の方もまだ、少し取り乱していたというか……今見ると、少し後悔はあります」

 

「そうじゃなくて【どう?】って、殺した相手への第一声に【どう?】って、それこそどうなのって思わない?」

 

 呆れ七割、怒り三割といった様子のレイカさん。

 

「いえ、少なくとも、謝罪の類を第一声にされるよりは、よかったと思います。そもそもが、殺めたことについては双方同意の上でしたし、無理かもしれませんが、負い目に感じてほしくはありません」

 

 トワイライトエネルゲイアによる制約の強化。当然ながら、今ではもうその熱は引き、強さへの渇きは治まっている。というよりも、制約によって感じられる渇望に、明確な変化を感じている。

 

 内容としては大したことのない、先輩の言葉がほんの少し刺さってしまったのか、残念ながらそう言わざるを得ない。

 

「……今後は、人を殺めない強さを極めたいと考えています」

 

 その方が、自分の目指す強さに近い。そう気付かされた。

 

「詐欺被害者とは思えないわね。ただ、それはサヤが自分で決めればいいんじゃないかしら。もちろん、私は最初からその方向性だけどね。それよりなんだけど、シンの奴、どういうテンションで入ってくると思う?」

 

「…………」

 

 そう聞かれると難しい。既に衝撃的とは言えない話となってしまったが、レイカさん、稀崎先輩は未だ不殺を貫いているが、先輩はもう既に複数の人間をその手に掛けているという。一応、殺人罪は犯していないとのことだが。

 

「アイツ、キモいレベルでなよなよしおらしく入ってくるパターンが一番多いのよね。もうそれで来たら噓泣きでもして法外な賠償を求めちゃえばいいんじゃない? マンションとか貰っちゃえば?」

 

 それは果たして冗談なのか、半分本気なのか、判断に困る声色だった。

 

「――あ、失礼しやす。お届け物です。判子下さい」

「「――っ!」」

 

 奇襲を受け、レイカさん共々思考と動きが止められる。

 

 直前まで完全に気配を殺していた先輩が巨大な段ボールを抱えて一気に部屋へ踏み込んでくる。

 

「――って、アンタ、何いきなり――」

「――まぁまぁまぁ――って、中原……それ……いや、そういう感じ?」

 

 そして今度は、先輩の方が動きを止める。

 

「っ…………あ」

 

 完全に失念していた。それは、蘇生された際の理不尽な服装の設定。

 

 私は何故か、黒猫の着ぐるみパジャマをその身に纏っており、更に厄介なことに、耳付きのフード部分を、どういう訳が脱ぐことができない。そして口惜しい余談だが、既に佐藤さんとレイカさんによりスマートフォンのシャッターを押された数は、合計で三桁に上っている。

 

「くっ! あ……」

 

 反射的に身を翻し、腰へ手を掛けるも、借物の小刀とどこでも刀は、今は遥か彼方を意味する机の上。無情であった。

 

「あー、うん……需要は、あるんじゃないっすか……はい。とにかく、ちゃっちゃとセッティングしちゃうから。どうせ寝ないだろ?」

 

「「はっ?」」

 

 マイペースにカッターで段ボールのテープをカットしながら、先輩は勝手に謎の作業を進めていく。訝し気な様子で、レイカさんが覗き込む。

 

「モニター? えっ? もしかして……デスクトップPC? 何で……」

 

「いや暇じゃん、どう考えても。ならもう一緒にアニクロするしかねぇだろ? もう全部カミングアウトするけど、中原に刺された瞬間からパーツ選びを頭の中で始めてたから」

 

「っ……」

 

 それは、最もショックの大きい一言だったかもしれないが、先程の動きで制限が掛かったのか、あまり身体に力が入らない。

 

「えっ? 嘘……コレ……CPU……コレが……アレ、だから……8822のヤツ……はぁっ! この前出たばっかの最新式じゃないっ! どこのやつ? コレ」

 

 レイカさんの叫びに、稀崎先輩が顔を覗かせるが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて引っ込んでいく。

 

「あー、いや……組んだ。今日の3時位に」

「は…………ちょっ、アタシにも組んでよっ!」

 

「いや、結構選ぶのしんどいって……今思うと、やっぱ俺レベルなら既製品が安定なのかなぁ。一応、動作も問題ないし、出てる数値も最適だから、とりあえずコレは大丈夫」

 

 騒ぎ出す副会長と会計監査。何となくだが、全ては90時間後から改めて始めればいいのかもしれない。正直、アニマルクロニクル7は前々からプレイしたいと思っていた。少なくとも、もうこの展開を止める気にはなれない。

 

 業者と言われても遜色ない手捌きで布団の上に不釣り合いなハイスペックPCをテーブルまで付けて快適な状態でセットした先輩は、レイカさん、稀崎先輩と共に残務処理へと戻っていった。加えて、何かに火が付いてしまった様子の佐藤さんは、用があればすぐ連絡するよう私に言い含めると、レイカさんのライブ映像を初期から全て観返すべく自室へと籠った。

 

 心地良いと呼べなくもない喧噪から静寂が訪れるも、一度頭を空にするのも良策だと考えた私は、部屋で一人、PCの電源を付けた。

 

「……」

 

 PCとは、電源を入れた瞬間に立ち上がるものだったのか。祖父宅にあった古いPCは、起動してからソフトが使えるようになるまで30分程の時間を要し、それにより使用するモチベーションが削がれていったことを覚えている。

 

「っ……」

 

 こういう部分は仕事ができると認めざるを得ない先輩は、既に様々なソフトをインストールしてくれており、アニマルクロニクル7も含め、ラインナップも豊富に取り揃えていたが、デスクトップ画面の中央にあるテキストファイルが目に付いた。

 

 吸い寄せられるように、該当ファイルを開き、文字列を目で追う。

 

 

 

「……………………………………っ…………羊羹まで……」

 

 

 

 自分にとって内容の濃い一か月、その記憶が勝手に、瑞々しく蘇る。

 

 様々な疑問が、少しずつ氷解していく。

 

 毎日こなす依頼。

 あながち間違っていない偽善者という評価。

 柿沼君を天井へ吹き飛ばした。

 私の肘撃ちを止めた。

 摘ままれた耳朶。

 私のエネルゲイアへの理解。

 毒を使う能力者の驚愕。

 急に降り出した雨。

 レイカさんから赤外線ゴーグルを被らされた。

 受けた腹部の傷。

 そして、土地転がしの真相。

 

「………………あ……」

 

 大分長い間、思考の波の中にいたのか。

 

 気付けば、時間は1時間以上経過していた。私はずっと開いていたテキストファイルを閉じ、ごみ箱からも消去した。

 

「……」

 

 長時間同じ姿勢でいたことも、モニターを見続けていたことも、全く気にならない。

 

 頭の中に残っていたのはやはり、先輩に対する自分勝手な苛立ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PCの調子が悪くなったらすぐ言え。

 マウスはタイプの違うやつを無駄に七点用意した。全部嫌だったらそれはもう自分で買え。

 この文書は読んだら消せ。これはフリじゃない。読んだら消せ。いやマジで。

 中原の周りで知ってるのは会長、リゥ、レイカの三人だと思う。

 後、出来ればマコトにポロっと伝えてくれると助かる。

 

 

 ポイントを消費して各能力を行使できる。

 ポイントは他者のために何かをした際、感謝されることで加算される。感謝の質により得られるポイント数が増減する。

 

1   絶品な練羊羹を出す。

5   周囲三十センチの対象を吹き飛ばす。その際の速度は任意で最大は時速360キロ。

10  半径二キロの範囲に雨を降らせる。少しでも雨に触れていれば他者から認識されない。

30  自身に効果を付与。その後相手から与えられたあらゆる影響を相手に返す。

50  他者の能力を一回だけ行使できる。相手の耳朶に触れることでストックできる。

100 金のインゴットを出す。約一キロ、約500万円の価値(変動あり)。

 

※ 10においては曜日によって効果が異なり雨は水曜日限定。他の曜日のは追々ってことで。

 

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