トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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第二章 5月
リスポーン待ち


 罪に満ちた大地。

 

 それは、行き過ぎた文明により自壊を繰り返した成れの果て。

 

 過去に英華を極めた街並みは争いで燃え、崩れ、長く短い奪い合いの末、全ての命亡き後も沈黙を刻み続けた無機物は、只時と共に風化を重ねた。

 

 暗闇のような曇天の下、朽ちるのを待つ爛れた高層ビル群、割れた道路の亀裂は奈落へと続く、見る者もいない煤けた標識、表面が剥げた巨大な広告、営みの名残を微量に含む細々とした遺留品。

 

 目に映る全てが、世の終末を連想させる。

 

 

「……」

 

 

 だと言うのに、奇怪な動物達は縦横無尽に駆け回り、街の死骸を遮蔽に激しい銃撃戦を繰り広げている。

 

 そう。

 

 この世界に、辻褄の合った細かい設定など、最初から存在しない。

 

「っ……」

 

 画面に広がる、ユーアーキング、の文字列。全十五チームの頂点に立った結果である。

 アニマルクロニクル7。巷で覇権ゲーと言われる人気FPSである。

 

「……」

 

 3人を1チームとして争うバトルロワイアル方式の対戦ゲーム。当然、味方が強ければ、その勝率は上がる。今の試合は私ともう一頭を終始引っ張ってくれていたハイエナのお陰で勝利を掴むことができた。

 

 ソロは味方ガチャとも揶揄されるが、この20分の体験からも、それが残念ながら真実の一端であることは否めない。

 

「…………」

 

 気付いてみれば当然だと思うことであっても、意識されないがために気付かないことはある。

 

 エネルゲイアによる副産物、身体能力の強化。それは、筋力的な部分だけでなく、感覚的、例えば、判断の早さにも及んでいる。そして、人外と呼ぶしかない力を得れば、人間の能力に合わせて設計されたあらゆるスポーツの魅力は損なわれる。

 

 野球ならば、ホームランをキャッチする、投球、打撃に関してはボールが負荷に耐えられない。サッカーも同様、その他、バレーボールやテニスなどのネットを挿む競技も含めて、本来の楽しみとはかけ離れたやり取りに終始するだろう。

 

 そこに、元々の技術が介在する余地は少なく、その練度を高めるモチベーションは維持できない。

 

 近年、ネットワーク対戦ゲームのスポーツ化が進み、それをプロとする職業も市民権を得ているが、当然の如く、ゲームにおいてもこの身体能力の強化は常軌を逸した優位を生む。

 

「……」

 

 短いチャットを経てロビー画面に戻ると、脳内では先輩とのやり取りが思い出される。

 

『――で、すぐ気付けることなんだけど、ゲームは俺らが楽しめる最後のスポーツ的な何かと言っても過言ではない。なぜなら、キャラの能力自体は全員一緒だからだ。ボタンを強く押しても動きは強くならない』

 

『はい。加えて、身体能力強化をコントロールして、反射神経の部分をエネルゲイアを得る以前と同程度の状態に抑えられれば、ほぼ同じ条件の下でプレイすることができます』

 

『マジか……理解早過ぎて逆に心配だが、そういうことだ。ちなみに、このコントロールは実戦にも活きるし、斑鳩先輩とかはもう滅茶苦茶に上手い。中原は、今のトコどう?』

 

『現状、不十分です。つい熱くなってしまい、トラッキングエイムが自分の知っているそれとはかけ離れたものになってしまう場面がありました』

 

『わかる。が、そこはまぁ……しゃーない部分なんだけど、問題は対面の時のクロック周波数的なヤツかな。全開でやると本来の実力以上に撃ち勝っちゃうから、まずはそこがコントロールポイントだな。中原が能力発動したらもう多分スローモーションとかになると思うし。ただ、運営さんは疑わしいだけじゃBANしないから、そこは問題ない』

 

 身体能力強化、その度合いをコントロールする。これも結局は、自身しか知り得ない感覚の領分であり、試行回数と時間がものを言う。

 

 先輩に殺され、布団の上に戻ってきてから五十時間超、思わぬ有益な修練に、気付けば三十時間プレイし続けてしまった。

 

 現在は午前十時を少し回った所。当然、リスポーン待ちではない一年生は皆授業を受けている。それでも、特に気まずさはなく、そういった関心はほぼ完全に失われてしまったらしい。

 

 客観的に考えれば、クラスメートが勉強している時間にゲームプレイを続けるのは憚られるものだが、それ以上の思考は興味の無さにより途絶する。

 

「……」

 

 余談ではあるが、主な使用キャラクターは突進、防御とスキルが使いやすいシロサイに落ち着いた。当初は馴染みということでマウンテンゴリラを使おうと内心で意気込んでいたが、歴々に釘を刺され、現状に至った。その際の会話も微妙に印象深い。

 

『キャラなぁ……俺は基本的に、好きなの使えばイイと思う。少なくとも、ラビット使ってる俺が強く出れる話題じゃないし。ただまぁ……あくまで……オススメって話だけど、な………………ゴリラはないかもなぁ』

 

『そうね。自分が凸砂キツネだからあんまり人のことは……うん、ゴリラとアルパカ……ラビットはシンと被るから使わないわよね。ま、ゴリラじゃなきゃ何でもいいわよ』

 

『おぅ、期待の新人中原か。リスポーンまでとは言っても、午前中回せるヤツは貴重だ。とにかくとっととランクを上げろ。森の守護者まで来たらメッセ送ってこい。あぁん? キャラ? んなもん、ゴリラ以外なら何でもいい』

 

 魂のキャラに、居場所は存在しなかった。

 

「……」

 

 少々の虚しさの中、反射神経のコントロールは少しずつ形になってきたように思える。

 

 『井の中の蛙的な何か』『ここ最近は二丁目の主』『あくまで地元じゃ負け知らず』『国内において敵なし』『森の守護者』『サバンナの英雄』『百獣の王』と続くランク階層、私は既に『森の守護者』だが、それから十二時間程は夢の中で戦うという設定のランクが関わらないモードでプレイしていた。

 

「…………」

 

 リスポーンまでの時間は、まだまだ残っている。

 

 そろそろ実戦の中で高めてゆこうと判断した私は、未だに一度も顔を合わせたことがない上級生に、ランクを指定された条件まで上げたことを報告すべく、久しぶりにスマートフォンを起動させた。

 

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