トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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新入生オリエンテーション

「ヤバい……」

 

 悪い予感を胸にスマホの液晶を見るとオリエンテーション開始予定時刻フラット。

 

「おいおいノリの悪ぃ野郎だなぁ……ちったぁ反撃してこいよ。別に女だから殴れねぇっていうヘタレでもねぇだろうがよぉ」

 

 普通に殴りたくないけど。そもそも女を殴りたい男なんて本当にいるのか。いや、普通にいるわ。嫌な世の中だ。ただまぁ、男を殴りたい女も結構いるのでおあいこだろう。

 

「ナギ、タイムアップ。ロスタイムはないわ。いえ、貴女ロスタイムってわかる? サッカーに全く関心がないと、知りえない言葉ではあるのよね」

 

「オフサイドは知らねぇけどロスタイムは知ってるよ。ってか、その話今必要か?」

 

 そう、ナギはツッコミ属性の人間なのである。

 

「これ以上は、阿僧祇さんの気に触れる可能性があるわ。それこそ、新年度早々に彼女を怒らせるなんて、ほんの少しでも知性を持っていれば何者であれまず避けるでしょう? 髪も梳いたし、私は朝食にするわ」

 

「うわぁ……いいなぁ」

 

 俺は毎日一本が義務の不味い野菜ジュースを飲んだだけだ。腹減った。

 

「……ちっ、まぁ挨拶は短く、か。んじゃぁ副会長、今日からまた改めて、俺ら学生のために家畜のように働けよ。じゃーなぁ」

 

 瞬時に剣呑さを引っ込めて無邪気に笑うナギ。穴だらけの中庭を背景にすると、そこそこ狂ってる。

 

「また仕事を増やしやがって……」

 

 天気以外に爽やかさ皆無の新年度一日目は、変わらぬ毎日が続くことを予感させた。

 

 俺を串刺しにしようとした死の杭が二本、硬度を変容させてナギの足元までゆらゆらと飛んでいくと、その姿が一足のローファーに変わる。そしてナギは当たり前のように足を通す。

 

「それ、三日で消えるから」

「何だよ、ケチ臭せぇなぁ」

 

「そうしないと、貴女たかるでしょ」

 

 軽い運動を終えた女子二人は朝食へ、一方的な暴力を受けた俺は学生会業務へ、この差はどうしたものか。

 

「じゃなくて遅刻だ」

 

 愚痴る前に足を動かせ。

 

 遅延証明はバッチリだ。ナギは悪びれることなく俺を殺そうとしたことを自白してくれるはず。

 

 駆け足で学生会館に入り、一足飛びで二階へ上がって多目的ホールへ。眼前の廊下では見知った顔が想定通りの空気感を醸し出している。

 

「おはよ、皆。爽やかな朝だな。っていうかさっき地震なかった? 電車が遅れちゃって参ったけど、何とか間に合ってよかった」

 

 近付きながら挨拶。状況は、既に新入生は中で待機、数名の学生会面子が廊下でオロオロ、つまり明らかに俺待ち。最初に目が合った常識人枠の眼鏡っ子庶務小林の表情からも、間違いないと考えられる。

 

「いやいやいやいやどっからツッコむべきか……差し当たって何で第一正装じゃないのよ……電車なんてもう存在すらおぼろげだし、地震を起こした原因はどうせ太刀川君でしょ……」

 

 わなわなと震える庶務小林。つくづく、常識人には生きづらい学校環境である、がしかし。

 

「あ……いや、これはもう新商品お披露目の時のCEOのノリで行くしかないな」

 

 そういえば、新入生は後に不要となる指定の制服を着ているはず。そこにジーパンで切り込むのは相当に気まずい。

 

「なるほど。我が校の服装は自由、実際一年を過ごした我々のほとんどは制服を着ないのが現状……察するに、副会長自らが新入生とのファーストコンタクトでそれを伝えようということだね。私は良いアイデアだと思うよ。あの斑鳩先輩ですら、昨年度私達を迎えた時は制服を着用していた。古きにしがみつくことは伝統にあらず、少しずつアップデートしていく姿勢は見習いたいものだね」

 

 そう言いつつしっかりと制服着用の麗人、しかし男装。艶のある声は今日も健在の様子。

 

 彼女は学生会副会長補佐、稀崎マコト。芝居がかった話し方と基本的に男子制服を着ていることを除けば学園ナンバーワンの常識人兼善人であり、信頼できる友人の一人だ。

 

 ただ、今の言葉の通り、人を性善説方向で捉え過ぎている節があり、少々読み取る空気が周囲とズレることがある。ただそんなことは欠点にならない位に良き人間ではある。

 

「よし、やっぱり着替えようかな。さて小林さんや、替えの制服ってあったよね?」

 

 言われてみれば、ファーストコンタクトは大事だ。ただそんな建前よりも200人を超える制服着用の後輩共の前に普段着で出ていくことが只々嫌なのである。

 

「別にもう大丈夫だから早く入って。既に6分半押してるから。持ち時間13分でお願い」

「それでも十分に長いんだけど……」

 

 タブレット端末を渡され、背中を押されてタイミング良く扉がオープン。見事な連携により有無を言わさず場に出される。

 

「……っ……」

 

 想定通り、オフィシャルな空気感が室内を満たす中、規則正しく並べられた机と椅子、それに着席する新入生諸君。だがしかし、ほんの少しの緊張感は、視界の奥に座っている知った顔によって何処かへ消えてしまう。

 

「漫画読んでるとか……」

 

 阿僧祇(あそうぎ)リゥ、基本働かない学生会書記。超絶に目立つ赤毛ポニテ、半袖シャツにホットパンツ、長い脚を組み、デスゲーム系の漫画を読んでいる姿は無駄にエロいし、実際釘付けになっている男子新入生は結構な数に上る。

 

 着席させられている学生、それを隔てるように窓際最前で座って漫画を読むエロい女、試験監督のバイトだったら一発でクビが飛ぶ仕事ぶりだ。

 

「結構待ってるよ。早く話して終わってくれないと、私も帰れないじゃん」

 

 声、態度、全てがどうでもよさそうに漫画のページをめくる。何を言っても無駄だ。

 

「さて……」

 

 教壇に立つ。この角度からの見え方にも大分慣れたものだ。長机を横に四台、一台に対して三人ずつ着席、それが十列以上続いてて最後尾はメッチャ遠く、部屋のパーテーションを外しているためスペース的には二部屋分、マジで200人位いそう。

 

 待たせた割には不満げな視線はなく、女子の大半はこちらに目を向けてくれている。

 

「エロいお姉さんを凝視しながらでも構いません。それと、感じられた人もいるかと思いますが、ちょっと地震があって、到着が遅れてしまいました、申し訳ありません」

 

 指摘を受け、全男子が俺の方を向く。未だ視姦を続ける猛者はどうやらいない。

 

「改めまして、学生会副会長の太刀川シンです。会長に代わり、皆さんを歓迎させていただきます」

「皆制服着てる前でジーパンの人が真面目に喋ってる……」

 

「キミ、ちょっと黙ろうか」

 

 お前の方がカジュアル指数全然高けぇだろ。

 

 そしてそれ以上弄ったらネタバレ喰らわせたる。その巻で親友死ぬんやでぇ。

 

「はい……まず――」

 

 タブレットをオンにすると、資料のページがそのまま映し出される。ほぼ全て後で自分で読めばよろしい内容だということが瞬時に理解できた。

 

「――皆さんの学力、中でも国語力について、特に問題ないことは共有させてもらっています。後で配布される専用のスマートフォンに各種Q&Aはあるので、疑問点についてはそちらを参照して下さい」

 

 少なくとも、この場で朗読会をするよりはマシだろう。

 

「……皆さんは今、非常に戸惑っているのではないかと思います。中には、ここへ進学することになってから一週間程の人もいることでしょう」

 

 さすがに三日とかの学生はいないだろう。

 

「砕けた表現になってしまいますがつまり、あなたにはゲームに出てくるようなエネルゲイアとかいう無駄に長い名前の超能力が急に発現して、それはあまり大っぴらにできないから森の中にあるのに何故か海が見える学園に卒業まで軟禁させてもらいます。それで軟禁初日の午前が今」

 

 どう考えても理不尽な話で、基本的人権の尊重にもがっつり引っ掛かるはず。

 

「この場では最低限必要なことを説明します。まず注意事項にあった通り、絶対の禁止事項は教職員及び関係施設職員への危害。逆に言えば、それ以外は何をしても問題ない。現実的なことを言ってしまえば、学園内はある意味でとても危険です。命を落とすことも十分にあり得る」

 

 俺自身、ついさっき落としかけたしね。

 

「そして、エネルゲイア、この能力は、あっても無くても変わらない、実用性皆無なものから、一個人が持つにはあまりにも万能、もしくは危険なものまで多種多様、千差万別です。もし能力で悩むことがあれば、学生会が話を聞かせていただきます」

 

 強引にでもいいからガンガン勧誘していきたい所だが、経験則として北風戦略は効果が薄い。

 

「私としては学生会に入っていただきたい気持ちはありますが、当然ながら強制はしません。加えて、能力の詳細について開示し、登録していただくことで、何か身に危険が迫った際、学生会の方で保護する登録制度もあるので、自身の能力と相談して、是非検討して下さい」

 

 ここで一週間も過ごせば嫌でも理解するだろうが、特にエネルゲイアが戦闘向きではない場合、登録制度に頼った上で学生会と連携して学校生活を送るのが最も安全且つ利便性が高い。

 

「とは言っても、学生の本分は学業です。我々は軟禁され、自由を奪われた補填として、望めばあらゆる分野における最先端の教育を受けることができます。将来の方向性が決まっているなら、能力については無視して勉学や技術の向上に努めることも非常に有意義です」

 

 実際、二年生の半分以上はその姿勢で過ごしているし、そういった人達のおかげか、この学園の卒業生のその後は通常では考えられない程に輝かしい。

 

「後は……最後に、能力についてもこの学園についても、疑問点は多いことかと思いますが、こちらからその全容を積極的に教えることはしません。私個人としては一年前、その対応を不親切だと感じましたが、今にして思えば結局の所、百聞は一見に如かず、という言葉に尽きるように振り返っています…………うん、では質疑応答に移りたいと思います」

 

 昨日、昼飯を食いながら思い浮かべた言うべきことリストは消化した、はず。豊富なカリキュラムの方に魅力を感じてくれる学生が多いと、今後が楽になるので助かるが、どうだろう。

 

「……」

 

 ないなら早々に切り上げようと思ったと同時に、左手側真ん中に着席していた男子が一人、無言で立ち上がる。その不遜な目付きから考えられるこの後の展開に、若干気持ちが萎えるも、ある種無理もないことだと諦める。

 

「どうぞ」

 

 精一杯、友好的な笑みと態度を作り、発言を促す。

 

「思ったよりも長くなさそうだったんで最後まで聞いてやった。こっからは、誰をぶっ飛ばしてもかまわねぇんだよなぁっ!」

 

 隣の子を強引に押しのけ、反抗挑戦的空気を纏った男子君は前から三列目の位置で歩みを止める。

 

 身長は170ちょいだがまだまだこれから伸びるだろう。特筆すべきはガタイがよろしい。髪の毛もこの日のためにバッチリ金パに染めてきており、モチベーションの高さを感じさせる。そして現在の学生会はやや男不足、コミュニケーションの機会を得た今、勧誘しない手はない。

 

「……うん、偉い」

「あん?」

 

 新人候補の目付きが一段階鋭さを増す。第一発言は誤解を生んでしまったようだが、俺の戦いはこれからだ。

 

「最後まで話を聞いてから主張する姿勢は素晴らしい。こちらまで来る時、隣の子をもう少し優しくどかせたら満点だった。というか、質疑応答は実質終わったみたいだし、俺の仕事は既に終了している」

 

 左方へ目をやり、聞き耳を立てているであろう庶務小林とマコトを心中でけん制する。

 

 俺は教卓に両手を置き、言葉にソウルを込める。

 

「実は一年前、俺らの時は説明が始まった瞬間に喧嘩を売り出した輩がいてさ。しかも三人同時だ。俺は普通に説明が聞きたかったのにそれでもう滅茶苦茶」

 

 まぁ、この空気感の中で喧嘩売れる胆力はある意味で素晴らしいとも言えるが。

 

「俺は別に禁止されていなくても他者を傷付けるような行為は自重すべきだ、みたいなことを推奨はしても押し付けるようなことはしない。ただ君のような非凡な人材とは争いたいとは思わない。是非、学生会に入ってほしい。ほんの少しでもいいから、考えてみてくれないだろうか?」

 

 頼む。男とか関係なしに、今は結構人手不足なのである。

 

「……うるせぇよ」

「おぉ……」

 

 彼の身体、その表面が液晶画面のような光沢を帯び、一瞬ノイズみたいにブレると、身体全体から産み出るように黒い人型が出現、実体を持ったシルエット、体格は本人準拠か。

 

「あ、いや……学年全員の前でエネルゲイア見せるのは、ちょっと……」

 

 パナしが過ぎる。個人情報管理が甘すぎると言わざるを得ない。

 

「ぶっ飛びやがれ――――っ」

「――っと」

 

 天井へのインパクトで建物が多少揺れ、室内に悲鳴が上がる。

 

 結構な速度で突進右ストレートを放ってきた人型を、不意を突かれてつい真上に打ち上げてしまった。

 

「いや、これは中々――えっ、あれ?」

 

 天井の損耗は軽微だが、噴水前の件共々謝罪に赴くのは決定。続いて、人型は消失、能力を行使した当人は、糸の切れたマリオネットの如く顔面を地面に強打させて倒れた。

 

「えー、本体にダメージいくのかよ……それは弱過ぎだろ……ドローンとかわかりやすく超イイ能力だと思ったのに……」

 

「ちょっとっ! 何やってんのよもう……」

 

 蹴破るような勢いで入室してきたマコトと小林に一歩遅れて、救護へ向かう。マコトが膝を着いて優しく抱き起こすが、意識はない。

 

「あまり動かさない方がよいのか、小林さん、どうだろうか?」

「うん…………不味いよぉ……多分処置しても結局眼圧が下がらない……普通に、助からない……佐藤先輩に来てもらうしか……」

 

「そうか……しかし、佐藤先輩は来てくれるだろうか? とにかくストレッチャーを」

 

 遅れて入ってきた庶務二人が引き返し、ストレッチャーを押して戻ってくる。

 

「シン?」

「えっ? 何?」

 

 現状況で最も使えない存在が俺の名を呼ぶ。

 

「七巻ないの?」

「……紙袋に入ってるだろ、ちゃんと見なさい。で、マコト、言い値を払うって伝えて、佐藤パイセン呼んで」

 

 選択肢が一つという意味では楽な選択かもしれない。

 

「承知した」

「嘘……いいの? 太刀川君、やっぱり土地を転がしてるって噂、本当だったんだ……」

 

「あれは嘘だ。とにかく、他に方法がないだろ。入学と同時に亡くなるなんて、まだ名も知らぬ彼が浮かばれん」

 

「えっと、一応書類があるから聞いとかなきゃなんだけど、もしもの時の行為者は太刀川君でいいんだよね?」

 

「黙れデコ眼鏡。パイセンが来れば絶対助かる確信があるのに俺を弄るのは止めろ。小林は延命処置、マコトは連絡、俺が連絡するよりは間違いなく安くなる。この後のスマホ配布と寮への案内諸々、小林の代わりは残った人があみだで決めて、一応報酬ポイント出すわ。後、彼が目覚めたら俺に連絡、各種配布と案内は俺の方でやるから」

 

「ねぇ、何で九巻の下に七巻があんの? もしかして、本棚に番号順で入れない人?」

「袋に入れたの俺じゃねぇ……」

 

 ストレッチャーに乗せられた新人候補君は無事医務室へ、他の面々も既に行動を開始、一部新入生の人達の混乱もひとまず落ち着いた様子。

 

「ショックを受けている新入生は心配だけど……今日の所は、か」

 

 正直、ショッキングな経験は今後の学校生活において不可避な訳で、今のも通過儀礼だと思ってもらう他ないこともない。

 

 副会長のターンは無事ではないが終了、引き継ぎもスムーズ、どうやらポイント目当てで庶務も全員残るみたいだし、新入生諸君もアレを見た後ならとりあえずは平気だろう。

 

「うん?」

 

 そんなことを考えつつ、部屋を出るタイミングを探り始めていた矢先、いつの間に立ち上がり、接近していたのか、指定の制服とは異なる恰好の女の子。

 

「黒い、セーラー……」

 

 こういうのを浮世離れしていると言うのか。少なくとも、今日まで一般社会の中で生きてきたとは思えない隙のない佇まいには、只々違和感が先行する。

 

 その視線には先程の彼とは違い敵意がなく、それこそ感情自体が欠落しているかのようで、少し幼さを引き立たせる短い黒髪と薄く整った顔立ちも手伝い、不思議な圧が感じられた。

 

「太刀川シン……先輩、手合わせ願います」

 

 えっ、武士? 疑問点が多過ぎる。確か、入学初日は制服着用が義務だったはずだし、話してる時にこんな子いたか。いやいたのか。わからん。二年は全員顔知ってるから、内心で俺に恨みを抱いていて乱入してきた三年生、けど先輩って言っていた、いやそれは紛れ込むための嘘、か。ロリ感はないし、年上は全然あり得る。

 

 まぁ色々置いといて。

 

「マジでか……」

 

 意気消沈とは言わないが、とりあえずは静かにしておこうという共通認識が暗黙の了解として流れているような現状において、ネクストチャレンジャーの出現はちょっと想定外だった。これはもう相当空気が読めないのか、マイペースなのか色々とイカレてるのか、何となく全部な気がした。

 

「えぇっと、ちょっとおじさん忙しいんだよねぇ……その、今日の所は、勘弁していただきたく……えっ?」

 

 何がどうなってそうなってるのかは後の考察に預けたいが、数名の男子がこのサムライガールに追随するかの如く妙な決意の眼差しと共に立ち上がる。

 

「とりあえず能力使って戦いたい組の人達か……」

 

 起立し、ゆっくりと向かってくる一年生は彼女を筆頭に九名、本当の本当に勘弁願いたい。

 

「――あ……」

 

 そんな中、つい間抜けな声が口から漏れてしまった。

 

 不意に、向けられていた全ての感情が消え、場は広い更地のような不気味な静けさに取って代わる。

 

 総勢200人を超える新入生、その全てが呼吸も忘れたように停止していた。

 

 皆一様に、表情を動かすことすら禁じられ、まるで時間から置き去りにされているかのように固まっている。

 

 それでもアイツは、涼しい顔でページをめくる。

 

「あのさぁ、ちょっと考えればわかるよね? キミ達が去年一年間地球上で暮らしてる間、私とこの人はこういう環境で過ごしてきた訳じゃん? つまりゲームで言えば経験値が違うんだよ。あくまで私はだけど、慣れるまでは大人しくしとくのが強い行動だと思うよ」

 

 淡々且つ気怠そうなリゥの声をBGMに、挑戦者九人は非常に不自然な緩慢さで元の席へと戻り、落下させられるように着席する。もちろん、元々座っていた大多数の新入生は、それを目で追うことも許されない。

 

「別に私の前じゃなきゃ明日以降はいいからさ、それまではいい子にしててよ、ダルいから。もし次に集団の輪を乱した人はサクッと自殺してもらうから、もう我儘はやめてね?」

 

 その言葉が途切れるのを合図に、彼らの自由が返還される。呼吸まで制限されていた訳ではないと信じたいが、例外なく荒い呼吸を繰り返す全ての新入生の顔には、恐怖が張り付いている。

 

 

 とりあえず、あんまり見てやるモンじゃない。トラウマになってしまった人がいないか、後で入念にチェックしよう。そう思いながら、俺は多目的ホールを後にした。

 

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