トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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観戦 2

「――いやいやいやいや。だから麻月さんの緑はダミーだって」

「そう言い張るなら論理的な証拠を提出して」

 

「……」

 

 こちらは平和に揉めていた。

 

「シン、彼女の能力は知っているだろう? つまりはそういうことさ。断定や提案をするなら、確固としたエビデンスを示すことが肝要なのではないだろうか」

 

「ほぅ、なるほど。そういう話か」

「別にそういう話じゃないんだけど……」

 

 先輩のふざけた発言、稀崎先輩のズレた指摘、それに困惑する麻月さん。先輩は間違いなく全てを理解した上でふざけている。直接制裁できないことが非常にもどかしい。

 

「もしかして、俺らだけ東北にいて、他は皆九州にいる感じかもな。まぁとにかく、派手に移動した方がいいな。このままじゃ埒が明かん」

 

「だから。私のビーコンが反応してるでしょ。一番上に上った後、最下層まで落ちて確認すべきよ。貴方、副会長なのに関数も理解していないの?」

 

「何だと? 今のは全国の副会長を敵に回す発言だぞ。言っておくが、この中で数学が最も得意なのは俺でも麻月さんでもなく、マコトだからな」

 

 出た。無意味の塊のような台詞。

 

「っ……もういい――きゃっ!」

 

 突然の爆発。

 

 間一髪のタイミングで先輩は二人を抱えて下へ落ちる。

 

「マコト」

「OK」

 

「っと……ぶねぇ……大丈夫か二人共?」

「あぁ、助かったよ」

 

 稀崎先輩のエネルゲイアにより不可視の足場が現れ、先輩はそこに着地。先に稀崎先輩を下ろす。

 

「えっ? 何で……浮い、てる?」

「いやいや言うたやん。マコトの能力だって。下ろすよ」

 

「ちょ! っと! 待って! 一回、落ち着かせて……」

「いやいや大丈夫だって。四畳半位のスペースあるから」

 

「何で……見えていないのにそんなことがわかるの……」

「それはもちろん、心の目で見るのだよ」

 

「っ……絶対……殺す……」

 

 その際には是非、私にも声を掛けてほしい。

 

「何かよくわからない爆発に反応して来てみましたが、学生会コンビがさすがの連携で難を逃れているぅっ! これは爆発系の能力による奇襲なのでしょうかぁっ! だがしかし、副会長チームは見ての通り、他チームとは離れた島流しのような位置にいるため、相当な遠距離攻撃ということになりますねぇ」

 

「いいえ、アレは私が区画内に仕掛けた爆弾ね。とは言っても、大したトラップではないわ。半径4メートルの範囲に人間が入ると爆発するというだけのことよ」

 

「へぇ、何個仕掛けたの?」

 

「数えてはいないけれど、100とかじゃないかしら」

 

「……」

 

 違和感が残る。流れとしては、三人の中でやや先行していた先輩が爆発に気付いて跳び退き、二人を抱えて飛び降りた。爆発の発生源と先輩の間は、1メートルも離れていなかったように見えた。

 

「そういえば、これも大したことではないのだけれど、生成した時に手違いで太刀川君に関しては40センチで起爆するようになっているから、彼にとっては多少脅威になるかもしれないわね」

 

「えっ? それ、全力で殺しにきてませんか……」

 

 尤もな実況の問い掛けに、解説は何も応えない。とりあえずふぐ刺しはとても美味しそうだ。

 

 チャンネルを戻す。

 

「――だあぁぁっ! レイカさんレイカさんっ! 追ってきてる追ってきてるっ!」

 

「そりゃあんだけチクチク遠くから撃たれたら、ね。私だったら絶対に凸るし、人間として正常な反応じゃない?」

 

 一転してこちらはパニックムービーのような様相を呈している。ここで全体マップを見てみると、確かに先輩達が流刑を科されたかのような位置にいる一方、それ以外の9チームはかなり密集している。

 

 おそらく新海先輩の大声と電撃により、漁夫祭りが起こってしまったのではないかと推測される。元々、学生会が開催するこの手のイベントに参加する人間は、好戦的な性格の方が多いらしく、大半の学生は観戦とギャンブルを楽しんでいるという話だった。

 

「すっごい、カオスだねぇ……」

 

 佐藤さんの言葉通り、画面の中では混沌が形成されている。

 

「これは学生会庶務が行ったシミュレーションとは全く異なる展開っ! やはり事前の想定など何の役にも立たないという真実が、ここでも顕になったということでしょうかっ!」

 

「血の気の多い参加者と揉め事から距離を置きたい学生会庶務。当然と言えば当然ね」

 

「もうこれならバトロワにしちゃえばって話も出るけど、最初からバトロワにするよりこうした方がこうなるから不思議だよね」

 

 手榴弾、スタングレネード、煙幕を駆使して追撃から逃れ続けるレイカさんは、颯爽と歪な樹海を駆け上っていく。加えて、単独で阿鼻叫喚を体現しながら縋るようにその背中を追うのは小林先輩。あの様子ではイベント後、適切なメンタルケアが必要になるかもしれない。

 

 一方で二人、正確に言えばレイカさんだけだが、執拗に追うのはレジスタンス所属のモリス先輩。その身を巨大な鳥、チーター、妙に手足の長い猿に変化させながら、相手に安全圏を渡さない。

 

 そして、レイカさんがモリス先輩に追いかけられているという構図が影響を与えたのか、既に離脱気味の2チームを除いた5つのチームが、モリス先輩を集中攻撃、目まぐるしく引き起こされる様々な現象の隙間を縫って、一宮先輩のスレッジハンマーが炸裂、再起不能リタイアにより参加者が少しずつ減っていく。

 

「おぉっとぉっ! やはり真面目にチェックポイントを目指すチームは今年も存在しないのかぁっ! だがしかしっ! 声は届きませんが参加者の皆さんは安心して顎の骨を砕かれて下さいっ! 半年間流動食確定の大怪我でも、我が学園が誇るブラックドクター佐藤が無料で控えておりますっ」

 

 あらゆる怪我を完治させるという非常に貢献性の高いエネルゲイアを持つという佐藤先輩。未だ直接の面識はないが、公式でブラック認定されているようだ。おそらく、今回のことにしても、裏には明確なギブアンドテイクが存在しているのだろう。

 

「凄いね。スレッジハンマーで殴られた人、インパクトの瞬間にモザイク処理されてる」

「確かに、ややコメディタッチになることで、悲惨さが軽減されているようです」

 

 一宮先輩にしても、加減しているのが見て取れる。だとしても、二十ポンドのスレッジハンマーを人間の顎目掛けて振り抜く姿は、十二分に現実離れしているのだが。

 

 爆発、閃光、噴煙、雷撃、氷塊、浮遊する漢字、飛ぶヘアアイロン、撃ち出される大量の鉛筆とシャープペンシル、高速回転する招き猫、自律しているトウモロコシ、鬼の形相で宙を泳ぐバタフライスイマー、その顎を打ち砕くスレッジハンマーの衝撃音が、生々しく耳に届く。

 

「っ……」

 

 俯瞰するように場を見れるからか、倒した相手の肩を蹴って空中で反転した一宮先輩の動きが、鋭さを増す。そう感じと同時、手にしたハンマーを振りかぶった彼女の姿が消失する。

 

「――っ! ちっ……」

「っ……何で? その手袋、どんな素材でできてんのよ……」

 

 一瞬の交錯。

 

 小林先輩の頭部へ迫ったハンマーにレイカさんが射撃、新しく実戦投入されたというスタンガンのような小型銃、その強力な衝撃でハンマーヘッドは弾かれるが、二撃目を待たずに一宮先輩は再度消失、遠方から不意を突かれた男子学生の顎が砕かれる。

 

「えっ? あれ? 今何かビリっとしたような……って! いつまで追ってくるのぉっ!」

 

 一心不乱に高所を目指す小林先輩は、自身に迫っていた危機を認識していない様子。当然、その方が本人のためであろうと思われる。

 

「非殺傷兵器の限界ね……というか、こんだけゴチャゴチャしてんのにあのバカは何処で油売ってんのよ。こんなことなら、ランチャーも持ってくるんだったわね……」

 

 ひたすらに火力を求めるレイカさん。戦闘用と話してくれた普段よりもやや露出が控えられたパンツルックな上に、粉塵と硝煙に塗れているのに、また別のベクトルで女性的な美しさが際立っているように思える。少なくとも、隣の佐藤さんは完全に魅せられている。

 

 その後も激しい戦闘は続いた。

 

 話した中で、方向音痴と聞いていた新海先輩が戦線に復帰してからは、一宮先輩のターゲットが固定されたことで、離脱者のペースが緩やかになり、映画なら切りの良い所で収まるアクションシーンが、泥沼戦のような状況へ向かい始めていた。それでも、観戦者としては決して退屈な映像ではなかったが。

 

「桐島さんって実は暗器使いなのかしら。煙幕だけでも二十個は投げているはずなのに、未だに出し惜しみしている様子が見られないわね」

 

「そこは斑鳩の技術力でしょ。収納系の能力は最優先研究対象だったはずだし。来世紀にはバックパックは絶滅しているかもしれないよ」

 

「そんな便利な代物、国が認める訳ないけれど」

 

 いつの間にかふぐ刺しがジンギスカンに切り替わっている。全く煙が出ていない様子だが、それも斑鳩の技術とやらなのだろうか。

 

「……」

 

 先輩の方はどうだろうか。

 

 小康状態ということで、チャンネルを流刑地へと合わせてみる。

 

「――嫌よっ! 私は絶対におかしくない……見えない足場も爆弾もっ! 恐怖しない方がおかしいのよっ!」

 

「おいおい……楽勝な展開なんだから、そんな気にしてもしょうがないことを気にしてもしょうがないだろ?」

 

 相も変わらず、平和に揉めていた。

 

「いやほら。足場を出して空中を通っていけば実際の移動距離は大分抑えられるから。ただ……何故かマコトの能力を想定しているみたいに空中にも爆弾が仕込まれてる感じだけど、まぁ、そこは気合で」

 

 どうやら、このチームは何度も不意の爆発に見舞われていると推測される。また、その原因が先輩という存在にあることを、稀崎先輩と麻月さんは気付いているのだろうか。

 

「今何のために喋ったのっ? 元気づけると見せかけて絶望させて煽ってる自覚がないなら貴方は間違いなく異常者よっ!」

 

「……」

 

 この男は気休めが不得手だ。気休めを言おうとすると大抵、途中で不都合な部分に思い当たり、それを口に出す。私もよく受ける手口である。

 

「シン、確かに彼女の言うことも一理あるかもしれない。強化ガラスの上であっても、高所に耐えられない者はいると聞く。我々は慣れていても、いつ爆発が起こるかわからないというのは、通常の人間には適応が困難な環境とも考えられる」

 

「我々は慣れていても? 嘘でしょう……狂ってる……」

 

 明らかに麻月さんのSAN値は限界近辺に達していると見られる。

 

 私は心に誓う。この二人と食事を取る際は、必ずレイカさんに同席してもらうことを。

 

「うーん……じゃあ、どうしたらいい? マコトの能力で移動した方が格段に効率的だし、爆発は最悪防げるし…………おんぶしていく?」

 

「なるほど、それは名案だ。足場を出すテンポも最速なパターンで繰り返せる。同時に麻月さんの安全も確保できる。正に一挙両得というやつだね」

 

「…………」

 

 既に手遅れな先輩の気遣い、安定してズレる稀崎先輩の応答、麻月さんには同情を禁じ得ない。

 

「…………っ……わかったわ」

 

 まるで、人が洗脳されていく過程を部分的に目撃してしまったような、そんな気持ちが芽生える。麻月さんは忘れているのだろうか。これが学園内限定であっても、多くの人間の目に晒されているということを。

 

 いたたまれなくなり、チャンネルを戻す。

 

「レイカさんレイカさんっ! 頂上だよっ! 樹海で頂上とかもう意味不明だけどこっからどうするの? もうメッチャ来てるっ! こんななだらかな傾斜じゃ無理っ! ヘアアイロンと招き猫……死ぬ……ちょっとっ! えっ? それ、何?」

 

 安定して普段の理知的な印象が崩壊の一途を辿っている小林先輩が、座り込んでジュラルミンケースのような何かを開いているレイカさんを覗き込んでいる。

 

「小林さんって映画とかあまり観ない? アタッシュケースに入ってるものと言えば札束か……爆弾よ。新海君が少し心配だけど、彼もああ見えてタフだから、きっと大丈夫よね。ほら、離脱するわよ」

 

「もう一生付いてきます……サヤちゃん、早く帰ってきてぇ……」

 

 半泣きではなく普通に泣いている小林先輩。バトンタッチできるなら今からでもしたい所だが、こちらができるのは応援することのみ。

 

「――えっ? ちょっとっ! 嘘でしょ! 待ってっ! ぶっほぁ――」

 

 泣く子をあやすように小林先輩を背負ったレイカさんは、腰から短いスティック状の筒を引き抜くと、それを両手で割くように引っ張り、傾斜へ向かって跳躍、当然抗議の声は届いていない。

 

「凄い……」

 

 感嘆の声を漏らす佐藤さん。そして私も同じ感想だった。

 

 女スナイパーから女スパイへ。

 

 レイカさんが空中で綺麗に姿勢を整えると、握った筒から一瞬で翼が放出され、空を鋭く滑空、流れるような動作で胸部からスマートフォンを取り出し、画面をタップする。

 

「「――っ!」」

 

 轟音が耳に届く。

 

 絵面は完全に、洋画のアクションシーンで観るド派手な大爆発。空に浮かぶ、不思議な樹海が大炎上している。

 

 先程設置したアタッシュケースによる現象なのは、言うまでもない。

 

「彼女は一体、どんな展開を想定してあんなものを持ち込んだのかしら」

「レイカはやる時はやるからねぇ」

 

「はいっ! 手元の資料によれば、桐島選手の持ち込み品の中には爆発物もあったようです。そして逃走用にハングライダーを用意しているとは、何とも憎い演出だぁっ!」

 

「えぇぇぇっ! もはやレイカさんって、何者……これって、免許とか要らないの?」

 

「そういう制度は無かったんじゃないかしら。それにコレ、中身は未来の機械だから。それこそ、学園の外で使うことはないわよ」

 

「あ……そう、だよね。えぇっと……もしかして、皆、死んじゃった?」

 

「まさか。爆発は下へは大して向かないから、後方のチームにはそれ程のダメージにはならないと思う。それに、あんなので死ぬ奴らだったら、わざわざ人員まで割いて学園の外になんか出さずに、軽く締め上げて飼い殺すわよ。ほら、後ろ、見てみなさい」

 

「っ……見たくない……っ! うわぁぁぁっ! 追ってきてるぅっ!」

 

「……」

 

 一つ、確信する。

 

 この人達は、もうチェックポイントを目指す気など毛頭ない。

 

「凄っ……飛ぶ方法って、色々あるんだねぇ……」

 

 またしても同意見。

 

 曇天が去った青空を飛行する一団。

 

 レイカさんと小林先輩のハングライダーを先頭に、上半身が鳥と化しているモリス先輩の肩には一宮先輩が仁王立ち、その後続は大道芸を彷彿とさせるが、サンダーパンチの反動と気合で空を駆ける新海先輩を除けば、飛行そのものには安定感が見て取れる。

 

 飛行機能を備えたヘアアイロン、回転する文房具と招き猫、足元に雪を発生させて宙をスノーボードで滑っている猛者も見受けられるが、圧巻はやはりバタフライスイマーか。

 

 治癒できる方法を持っているのか、強靭さが振り切れているのか定かではないが、顎が砕かれたに見えた彼の顔には、少なくともモザイク処理は施されていない。加えて、豪快な泳法と自由落下を組み合わせた滑空は、生理的嫌悪を端に寄せておければ、巧の一言に尽きる。

 

「ヤバいヤバいヤバいっ! スレッジハンマーがぁっ! スレッジハンマーがぁっ! もう今日助かっても絶対スレッジハンマーが夢に出てくるぅっ!」

 

 いつワープして殴りかかってくるかも分からない冷酷な鈍器。確かに恐怖でしかない。

 

「落ち着きなさい。簡単に的を絞らせないようにしてるから、向こうも慎重に狙いを定めているわ。それより、私の右太腿に巻いてるホルスターにスパークガンがあるから、不安なら貸してあげるわよ?」

 

「あぁ……いやっ! 電気なんて発生させたら絶対マズいってっ! 最悪翼がボロボロになってトマトみたいにべちゃっと潰れちゃうよ私達っ!」

 

「悲観的に考え過ぎ。連中もきっとそう思ってる。だから有効なのよ。来たら顔面に思い切り撃っちゃいなさい」

 

「無理無理無理無理っ! あぁ何かもう怖過ぎておかしくなってきたぁっ!」

 

「もう随分と前からおかしいということを、彼女は自覚していないのかしら」

「今そう思わなかった人は少ないだろうね」

 

 そんな人はいるのだろうか。そういう意味では、私は凡庸な人間だった。

 

 

「―――ゲェェェェェェムセェェット! そこまでっ! 全てがセーフステーションに切り替わりまぁすっ! 皆さん、お疲れ様でしたぁっ! いやぁ、何かもう訳のわからない展開でした」

 

 

「「えっ?」」

 

 突然の終了合図。

 

 空一面に緑色が点灯、オールグリーンの文字が緊迫していたスカイチェイスを平穏に塗り替えている。それぞれの眼下にクッションのような広い足場が形成され、全員が安全に着陸する。

 

「規定通り、2位以降は撃破ポイントとダメージポイントの合計にチェックポイント到着数を足した値で決定します。そして何と、既に集計は終わっております。重ねて、参加者の皆さん、お疲れ様でしたっ! 搬送された選手の治療は完了、怪我のある方はメインポータルにて申し出て下さい。それでは解説のお二人は……あれ?」

 

 御手洗先輩が話を向けるも、解説は空席。驚く程のことではないと思われるが、お二人は飽きて去った様子。ただ実況も慣れているのか、一度首を傾げただけで特に取り乱している印象は受けない。ある意味さすがと言える。

 

「はいっ! と、いうことで……結果発表ですっ! 4位以降はページを見て下さいっ! えぇっと……第っ! 3位は…………あぁっと、何と奇跡的にポイントが並んで2チームが2位っ! 学生会チームBと、レジスタンスチームですっ! おめでとうございますっ!」

 

 本当に予定通りの仕切りなのか、個人的には助かるが、CMのような要素もなく、即座に結果が発表される。

 

「同点? 機械より正確だろうし、間違いはないと思うけど……」

「えっ? 2位? レイカさん……もしかして、二十万ポイント?」

 

 やや放心状態の小林先輩、普通に大金なので無理もない。

 

「ちゃんと一人ずつ貰えるわよ」

「マジでか……やった……欲しかった本、全部買える……」

 

 お礼を繰り返しながらレイカさんに抱き着く小林先輩。恐怖体験をしただけではなくて、本当によかったと思う。

 

「最低限の目的は果たしたか。さすがに今日は肉が食えそうだな……そういや、織田島の野郎は何処行きやがった?」

 

「スタート地点で寝てる」

 

「使えねぇ……ま、アイツはもやしだけ食ってても生きていけるようなヤツだ。肉を食わない限りは、許してやるさ」

 

「そしてっ! 栄えある第1位はご存じっ! 百戦錬磨の迷惑係っ! 太刀川副会長率いる学生会チームAが勝ち取りましたぁっ! 文句なしの三地点制覇っ! それでは、中継が繋がっております。副会長っ! 勝因は、何だったんですかぁ?」

 

「はい。チームワークの勝利っすね」

 

 映し出されたのは先輩と、震えながら稀崎先輩へ縋るように抱き着いて泣きじゃくる麻月さんの三人。どうやら裏番組では、爆発を掻い潜りながらのチェックポイント探しが淡々と行われていたらしい。

 

「うわぁ、何か、知り合いの人が上位に来てるって、驚嬉しいね」

「そう、ですね」

 

 どうしたことか、心理的には麻月さんを直視できないはずなのに、何故か目が離せない。

 

 確か、区画の開放を間違えたことで、ポイントが枯渇してしまったという内容だったはずだが、優勝は破格の五十万ポイント。日本円に換算するまでもなく、実質五十万円。少なくとも、黄泉で全くポイントが得られなかったことも、大きく補って余りある結果と言えるだろう。

 

「……」

 

 だが。

 

 これは本当に大団円と言えるのだろうか。

 

 モニターには、歪な勝者の姿が、今も生々しく映し出されている。

 

「…………」

 

 速水さんも誘って、四人で祝勝会をしようと思った。後は、先輩への抗議文面を考えなくては。

 

 

 まだまだ思う所がないと言えば嘘になるが、こうして、学園で初めてのイベントとなった公式名『なんちゃってオリエンテーリング大会』は幕を閉じた。

 

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