トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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黄泉を駆ける

 不満を漏らす一之瀬さんは柳瀬さんに任せ、私と先輩は無人島区画から黄泉区画へ、いみじくも特殊指定区画を跨いで降り立つ。

 

「よし、事は急を要する。とにかく最速で進んでいこう。どっかでぶつかるはずだ」

「はい。先行します」

 

 自然と人工が調和した白い石畳を駆ける。鮮やかに散る桜の花弁と控え目に漂う香が、空間を荘厳に飾り立てている。

 

「っ……」

 

 だが、それはどうでもよく、進行方向に交わる黒い異形を斬り伏せながら、石段を上っては下り、跳んでは走る。

 

「大分数が少ないですね」

「修行部とポイント枯渇組に感謝だな」

 

 遠くからでも目立つ紅の鳥居を経由し、出来る限り最短でエリアを渡っていく。

 

「っ……何なのですか? その警棒のようなものは……」

 

 徒手空拳を主とする先輩が振るっているのは二尺に届かない程の棒。こちらが斬りかかろうとした最後の一体を、投擲された棒が掠め取るように裂く。

 

「ちょっとアルバイト。斑鳩に近接武器部門ができたらしいんだけど、ただ、銃器を研究してる人達が積極的に潰しにかかってるみたいで、お蔵入りになるかもしれん」

 

「……」

 

 あまり聞きたくない部類の話だった。

 

 そういえば、具体的な日時は今後とのことだが、レイカさん経由で私にも斑鳩製薬から話をしたいという旨を聞いている。兵器のモニターと聞くと物騒この上ない話だが、正直興味がないと言えば嘘になる。

 

「先輩……地下では明らかに拳法のような動きをしていましたし、警棒にしても、我流とは到底思えません。何処で会得した技術なのですか?」

 

 ふざけたことを口にしたら、一合仕掛けるのも悪くない。そう心に決めつつ、鼠型の群体を連撃で細切れに斬り裂く。

 

「そりゃもちろん李教官だよ。あの人、近接武器なら何でも使えるし、マスタークラスの八極拳も、実戦に活かせる型だけ教えてもらったりしてる。不意に出すと、結構皆びっくりして対処できないことが多いし」

 

 先輩は牛の姿をした大型の異形を袈裟に振り抜いて葬る。

 

「そんなものが……授業の名称を聞いてもいいでしょうか?」

 

 また面倒な。

 

 対策のために学ばなければいけない流派が増えてしまう。とは言え、楽しくはあるのだが。

 

「雑談Aってヤツ。ちなみに、履修してるの俺だけ」

「……」

 

 そういえば、記載を目にした覚えがある。

 

 何がAなのか。その先にBやCが存在するのか。指摘すべき箇所が初見で複数浮かぶ謎の授業。確かに、その題目で選択する学生は普通ではない。そして先輩は普通ではない。

 

「ほとんど授業を受けていないと、レイカさんと稀崎先輩から聞いたのですが、逆に何の授業を選択しているのですか?」

 

 中型の黒い虎をすれ違い様に斬り捨て、跳び掛かってきた兎を模した小型の首を蹴り刈ると、その先の鳥居を通過、また次のエリアへ。

 

「……知ってるか? 中原。文系の大学生には、三年生になると、週に2回しか授業がない学生もいるらしい」

 

 先輩はそう言って逃げるように跳躍し、空中を漂う細長い龍のような個体を真っ二つに裂いて着地、突き刺すように投げ放っていた棒の先端が、眼前の大蛇を頭から貫く。異臭を放つ飛沫をやり過ごして落ちた警棒を足で弾いて右手に戻すと、淀みなくまた走り出す。

 

「それで、何の授業を選択しているのですか?」

 

 再び横に並び、嫌がらせを自覚して追及する。

 

「追うのかよ……今年度は……チエっちの授業出禁喰らったから、李教官の対武器複数防御実戦Cと雑談A、後は芥川先生の法律のやつと、小松先生の臨床心理学」

 

「週に、四コマ……っ……違う」

 

 李教官の授業は隔週、実質三コマである。驚愕と共に、バイコーンのような黒い馬の首を落とす。

 

「いやほら。書類もあるし、ちょいちょい外出する用事もあったり、ヤバめの依頼だってある。これは……やむを得ないことなんだよ」

 

 聞き慣れた言い訳口調を流しながら、怒涛に押し寄せる黒羊の群れを、連携して薙ぎ払う。

 

「……まぁ、確かに日中はいつ連絡しても何かに追われているようですが」

 

 それでも、小林先輩が嘆いていた。午後6時を過ぎると捉まらない、と。

 

「そう――あっ、いた。しかも一団は間違いなく修行部面子。今って、エリア何?」

「16です。現状の中層に差し掛かった位でしょうか」

 

 私自身、修行部からは熱烈な誘いを受けていることもあり、視野の奥には知っている方も散見される。ただ、用があるのは小銃を手にした茶髪の彼だけだ。何故か争うように、私と先輩は足を速めて石段の下で屯す集団へと急ぐ。

 

 

「お疲れっ! 板場君っ!」

「えっ? あっ! 太刀川先輩っ!」

 

 先輩に名を呼ばれ、目を見開いて表情を綻ばせる板場君。柿沼君同様、初対面時からは想像も付かない応対の落差である。その呼び掛ける声に反応した他の面々も、先輩の方へと寄って行って挨拶ラッシュを放っている。

 

「中原、さんも一緒? あのぉ……あれ? 例の無人島区画へ行ってるんじゃ……」

 

「お、話が早くて助かるな。実は、キミの力がどうしても必要なんだ。俺らを助けてほしい。これは、キミにしかできないミッションなんだ……」

 

 芝居がかった動きと口調だが、心象としては私もあまり変わらないためか、不思議と咎める気にはならない。

 

「えぇっ! お、俺、が……ですか? いやでも、俺なんかが……」

 

「なんかなんて言うなっ! キミは今もこうして祝日の早朝から黄泉に来て、部活に勤しんでいるじゃないかっ! そんなキミの真摯な姿勢を揶揄する者など、この学園にはいない」

 

 確かに、寮区画であった時とは、良い意味で顔付きが全く異なる。

 

「あ……あの……いや、これは、太刀川先輩のおかげです。あの時、声を掛けてもらえなかったら、どうなってたか……たまに思い出して、怖くなります……」

 

「うん。冗談抜きで、すげぇ頑張ってるって話を聞いてるよ。で、実はなんだけど、キミのエネルゲイアでないと解決できない問題に遭遇してて、色々と、ピンチな状況に追い込まれている人もいるんだ。少し、同行して手を貸してもらえないだろうか?」

 

 周囲に魔物がいないか確認しながら、先輩はやや早口で状況を説明する。

 

「ほ、本当、なんですか……俺が……で、でも、金属バットが必要なら、スポーツ用品区画とかで、手に入るんじゃない、ですか?」

 

「「――っ!」」

 

 板場君の控え目な言葉に、我々の動きが完全に止まり、不本意にもシンクロする。そして今、過ちの自覚から端を発した罪悪感が全身に広がるのを、止める術は見当たらない。

 

 

「…………っ……こら中原駄目じゃないかっ。その間違いは余りにも致命的過ぎるぞっ」

「百歩譲って同罪であることは認めますが、その物言いは到底看過できません……」

 

 

 互いに距離を取り、得物を構えて対峙する。

 

「えっ? あ、あの……何……で」

 

「――っと、違う。こんな無益な争いをしている場合ではない。板場君、では相方の笹森君がいる所まで案内を頼む。このままでは、とある少女の膀胱がとんでもないことになってしまう」

 

 最後のは口に出すべきことではないのだが、急がなくてはならないのは嘘ではない。

 

「あ、そういうことですか。はい、わかりました」

 

 どうやら、板場君の優しさにより、話はスムーズに進行するようだ。他の面々も、学生会副会長の用事ならということで、全面協力の姿勢を見せてくれる。

 

 そこに打算があったとしても、場に漂う、士気が高まっているような雰囲気は、この男が日々誰よりも数多くの依頼や面倒事をこなし続けている成果の一つなのかもしれない。

 

「今通って、17か。今日は板場君達が残党殲滅チームだよね? 先行組は、今何処ら辺か、わかったりする?」

 

「はい。それで、この一つ先だと思います」

 

「ナイス。後は……この位のペースだったら、イケる?」

「はいっ! 食らい付きますっ!」

 

「中原、やや先行して道を作ってくれ。大して数はいないし、進行方向だけでいいから」

「わかりました」

 

 先程とはやや走るペースを落とし、石段を這いつくばっているオランウータンのようなシルエットを3頭分、二振りで斬り伏せて通過する。

 

「凄げぇ……」

 

「っ……」

 

 おかしい。てっきり鳥居付近に居座る上空の鳥型は、先輩が跳んで一掃すると思っていたが、男二人はただ話しながら並走している。

 

「板場君、上。ファイアファイア」

「あ、はいっ!」

 

 二人は足を止め、指示に従って板場君が小銃の撃鉄を起こし、空中の目標へ向けて発射。何故か三点バースト機構を採用している様子。

 

「……」

 

 命中率は二割程か。弾の大半は魔物の身を掠めて空を抜けていくが、弾倉が底を尽きた時には半数程の異形は宙で霧散していた。

 

「オッケィナイスショッ、装填装填。残りは7体、いや今9体に増えた。次のマガジンで殲滅しよう」

 

「あ、はいっ! いっ! でも、ヘイト向いてるんですけどっ!」

 

 空の弾倉を外していた板場君が、魔物の接近に焦った声を漏らしている。

 

「大丈夫だコンタクトまでまだ10秒あるし当てやすくなって都合がよろしい。落ち着いて装填し、テキトーに狙って撃て」

 

「あ、はいっ! あ……あ……やべ! っし、撃ちますっ!」

 

「てぇぇぇぇっ!」

 

 接触まで約3メートルの所で発射、先頭の魔物が弾けると、それに追随していた残りも串刺しにされるかのように散っていく。そして返り血のように降り掛かる黒色の体液は、二人に触れる寸前で停止、推進力を失って落ち、霧散する。

 

「ナイスプレイ。今年度からの銃器採用は一定の効果がありそうだな。で、もしかして、結構弾不足?」

 

「え……あ、いやっ! すいません。こんなに倒したの……初めてで……あの、すいませんっ! もう一度、お願いしますっ!」

 

 銃を構えたまま固まっていた板場君が、先輩の声掛けを受けて再起動する。

 

「いや、大丈夫だ。今のはキミがミスっても黒い悪魔が全て千切ってくれる環境だったから少々無理をさせた。普段は変わらず、先輩達の指示通りにリスクを回避して立ち回ろう」

 

「はいっ! ありがとうございます」

 

「……」

 

 時間がないことに加えて、何かの際に上乗せして仕掛けようと決めてこの場では流し、一足先に鳥居へ向かう。

 

「っ……」

 

 

 エリアを跨いだ瞬間、視野の奥に大型の異形を捉える。

 

 

 一体は人型。全長は5メートル程か。それは珍しくはっきりとしたシルエットで、髪の長い女性を模しているように見える。

 

 もう一体は四足獣、3メートルに届かない位の犬型の魔物。こちらは一般的で、自壊を促すようにその爛れた身体からは体液が滴り落ち、絶えず地面を汚している。

 

「……」

 

 そして周囲には板場君の言っていた通り、先行している修行部の方々が囲い込むように陣形を築いている。これはおそらく、以前先輩から聞いていた時間経過による魔物の共食い現象だと推測される。

 

 一足飛びで斬りかかろうとも思ったが、同士討ちを誘ってから仕留める算段なのかと考え、少し回り込むように面々への接近を選択する。後方では、少し遅れて二人もエリアに到着した模様。

 

「っ……」

 

 その時、高速で跳び掛かった犬型の頭部を女型が両手で捕まえると、そのまま握り締めて首をへし折り、鋭い膝蹴りを顔面に叩き込んで完全に息の根を断つ。

 

 思わぬ強敵の登場に思考を改め、先輩の指示を仰ぐことに決定、その前に、修行部の人達の安全確保に乗り出す。

 

「あっ! いたいたっ! 三条さぁぁんっ! お疲れ様っ!」

「――なっ!」

 

 右方から回り込んでいたこちらを追い越していた先輩が親し気に声を張ると、女型の異形が振り向き、黒色の体液を払うように振るったその巨大な腕で顔を拭うと、おっとりとした女性の笑顔が出現した。

 

「うん? あれぇ? 太刀川君? どうしたの? 無人島の方へ行くって聞いてたけど」

「……」

 

 強敵だと思っていた異形の正体は、修行部副部長の三条先輩だった。加えて、都合の良いことに、私の失態に気付いている者は皆無であることを悟り、見に回ることを選ぶ。

 

 余談だが、三条先輩は伸縮性の高いラバースーツのようなものを身に着けていると推測される。ただ、返り血のように受けた異形の体液により細かい部分については不明であった。

 

「ちょっとのっぴきならない感じで、笹森君の力を借りたいんだけど……どう、だろう?」

 

「あ、それでわざわざ。えぇっと……うん、わかった。じゃあ笹森君と板場君は、太刀川君の指示に従って。それが終わったら、今日は直帰でお願い。何か報告することがあったら、メッセを送ってくれればいいからね」

 

「えっ? 俺なんかが……いえっ! 了解しましたっ!」

 

 指示系統がしっかりしているのか、急な話の展開にもすぐに持ち直した笹森君が返事と共にこちらへ走ってくる。ここで何とか記憶に刻んでおく。両者中肉中背の茶髪だが、笹森君の方がやや色が黒寄り。

 

「っ……先輩っ!」

「あぁ、ここら辺のエリアにしては、結構な大物がポップしたな……」

 

 右方、石段の上、距離は70メートル程、今の三条先輩よりも大きい猪型の魔物が、睨むようにこちらを見下ろしている。

 

 流石は場慣れしている修行部のメンバーか。特に二年、三年の方々は全く狼狽える様子も見せずに隊列を組み直しているように見える。

 

 大型の異形が跳躍して石段を下り、体液を巻き散らしながら目の前に着地、位置関係から最も近いのは私と先輩、やや後方の板場君は、明らかに顔の血の気が引いている。

 

 仕掛けのタイミングが人のそれとは異なる魔物に、視線を逸らさず対峙する。

 

「先輩、どうしますか?」

 

 距離は7メートル。

 

 どういう訳か鳥居との対角線上を塞がれている。自分と先輩なら突破は可能だが、後方の二人についてはわからない。加えて、ここは修行部の援護に回るべき状況とも取れる。

 

「いや、俺らは別に、やることはないよ」

「はっ? ――っ!」

 

「「うおあぁぁっ!」」

 

 込み上げる不平により隣へ視線を向けたその瞬間、何か柔らかく、大きなものが弾けるような気味の悪い音を、石畳が爆散する轟音が掻き消し、同学年の男二人が恐れおののいて尻餅をつく。

 

 周囲には飛び散った石と細かい砂煙が舞い、前方の視界を遮る。

 

「――おいっ」

 

 クレーターのように空いた穴の中心から姿を現したのは裸足の女性。シンプルなシャツに短いスカート、左手首には赤いヘアゴム、見慣れた恰好をした穂村先輩だった。

 

「てめぇ何こんなとこで遊んでんだよ?」

 

「いやぁまさかこんなに早く再会することになると――わぁぁ俺で顔を拭くなぁっ!」

 

 問答無用で抱き着くように腕を首に回し、先輩の胸元で汚れた顔を押し付けるように拭う穂村先輩。

 

「ま、俺には関係ねぇ。じゃあなっ」

「穂村先輩っ」

 

「あん?」

 

 跳び去ろうと足に力を込めた後ろ姿を、何とか呼び止める。

 

「先日は、命を救っていただき、ありがとうございました」

 

 出来得る限りの思いを込めて、一礼する。伝わるかはわからないが、感謝の念を押し付けることを望む相手ではないことは、恐縮ながらわかっている。

 

「はっ」

 

 一蹴するような一文字に顔を上げると、鋭利な八重歯を見せた笑顔と目が合う。

 

「馬鹿野郎。そういうのは生き残ってから抜かしやがれ」

 

 言い終わるや否や石畳を圧壊させ、命の恩人は遠方へと跳び去っていく。

 

「何だかいつも助けてもらっちゃってるなぁ」

 

 去った方を一瞥して、三条先輩がこちらへ歩み寄る。正直凄い圧である。

 

「太刀川君、ちょっといい?」

「えっ? あぁ、うん――っと」

 

「……」

 

 しゃがみ込み、両手で優しく先輩を持ち上げる三条先輩。正直凄い絵面である。

 

「わかる? 頬っぺたに張ってるんだけど……」

「うん? うん……あっ、これ……いいんすか?」

 

「急いでいるみたいだし。気にせず使ってほしいな」

「助かる」

 

 何のやり取りかは不明だが、先輩は三条先輩の右頬から何かを剥がすように取り、そっと地面に下ろされる。

 

「何ですか? そのシールのようなものは」

「脱出シートだ。これを使えば一瞬でメインポータルまで転移できる」

 

 衝撃的な情報だった。

 

「入手方法は?」

「残念。ブラックマーケット区画だ」

 

「くっ……」

 

 無為な復路を省略できる手段の存在は間違いなく朗報だったが、件のブラックマーケット区画は、解放に三十万ポイント掛かる上に同行者設定は不可、止めに入学から半年経たないと解放自体ができない。

 

 尚、こういった類の区画は浪漫とやらを守るという名目から、所謂お使いのように解放している人間に代理購入させることができない設定にされている。ただ、これに関しては抜け道もあるらしいが。

 

「三条さん、これとは関係なく、修行部に弾薬諸々を寄付したい。今日、夜とかに連絡しても大丈夫?」

 

「えぇっ? いいの? 凄い助かるけど……」

 

 先輩の言葉を受け、一気に沸き立つ修行部一同。どうやら、レイカさんとは違って彼らは限られた資源の中で戦っている様子。そもそも、レイカさんの装備はそれ自体が余りにも質の面でかけ離れているのだが。

 

「じゃ、それでよろしく……よし、三人集合」

「えっ? あの、本当に俺も行っていいんですか?」

 

 確かに、板場君の役割はないというのが事実ではある。

 

「いや、今日はこの四人パーティで行く。だが、その前に――」

「「「――っ」」」

 

 ポータルと同じ色の光に包まれ、我々は黄泉の初期位置、メインポータルまで戻ってくる。これは本当に便利な代物である。

 

「――さすがにこのまま戻るのは公共の福祉に関わるので、個室シャワー区画に飛びます」

「はい。異論はありません」

 

「こ、個室シャワー……区画……」

 

 今は大して気にならないが、間違いなく我々四人は強烈な異臭を放っている。特に穂村先輩の抱擁を受けた先輩の胸元は一段階上を行っていると推測される。

 

「備え付けの未来型洗濯機とシューズクリーナーは2分で乾燥まで終わる。なので、2分でいい?」

 

「「えっ?」」

 

「……3分でお願いします」

 

 この区画については、何とか今月中に自分も解放したい所だが、もう一つの候補である本格中華料理区画との間で未だ熾烈な争いを繰り広げている。

 

「わかった。各々3分で身体を洗い、メインポータルへ集合、時間は転移が完了した瞬間にスタートとする」

 

「「えっ?」」

 

 状況の認識に時間を要している二人には取り合わず、四人は再び空間を跳躍、視界が開けたと同時に左へ、予想通りに先輩は右へ駆け出しており、それぞれ並んでいるドアの一つへ手を掛けて中に入る。

 

 身に着けている服装の分だけこちらは不利だが、3分も時間があれば特に問題は見当たらない。

 

 後方の二人が出遅れているように感じたが、大丈夫だろうか。

 

「3分って……」

「嘘だろ……」

 

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