トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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鬼ごっことかくれんぼ 前

 パパっと荷物を学生会館に置き、爆速シャワー浴びの後、例によって高級スイーツ区画を経由して目的の寮区画へ。

 

「あ……あの、すいません、太刀川先輩」

 

 隣の柳瀬さんが、やや気まずそうに謝罪。

 

「えっ? うん……たまにはイイんじゃないか。はしゃぎ倒す柳瀬さんは新鮮だったし、極たまにでいいなら、また連れてくよ」

 

「え……い、いいん、ですか?」

 

 柳瀬さんはスイーツ大好きっ子だった。

 

 絶対邪魔になる一之瀬は論外、アオイちゃんは麻月さんを心配しているということで、柳瀬さんを同行させたのだが、2分で戻るつもりが10分を超えての滞在となってしまった。

 

「同じF棟のしかも一階なら、冷蔵庫に入れてきな」

 

 ケーキは傷みやすいからね。

 

「あ、ありがとうございます……あ、あの、先輩……隔週とかでも……いいんですか?」

「……月1で頼む」

 

 これでまた、俺を時空案内人と認識する輩が増えてしまった。

 

「……でも、まさか佐藤さんのエネルゲイアが、そんな……」

 

 気持ちは分かるが、麻月さんの心中は複雑な様子。

 

「エネルゲイアって、本当に色んな能力があるんですね」

 

 アオイちゃんらしい、素朴な発言だ。

 

「あぁ、そのまんまな表現だけど、何でもアリだ」

 

 佐藤さんの能力についても、内心で目は付けていたが、やはりそちらまで手が回らない現状があった。それに、佐藤さんはあまり能力関連に興味が無さそうというのも加わる。将来の夢は、疲れない職に就いてレイカを推し続けることらしいし。

 

「よし……すぐ来るよな」

 

 F棟のエントランスに到着、瀬瀬コンビは一旦自室へ。麻月さんは明らかに口数が少ない。

 

「おっ……」

 

 コンビの帰還に合わせて、都合よく待ち人も登場する。

 

「っ……八重樫先輩」

 

 顔見知りの麻月さんが、一番に反応する。

 

「結局休みになんないんだね。さすが迷惑係」

 

「いやぁ悪い。一応学生会として動きたいから、男一人で女子の部屋に入るのは避けたかったんだ」

 

「わかってるって」

 

 手の空いている人員を呼んだら、都合よく関わりのある人物が捉まった。彼女には以前、佐藤さんが理事長の執念を夢に見てしまい、不眠症になってしまった際、諸々の聞き取りを行ってもらっていた。

 

 庶務の八重樫、二年。

 

 見た目と雰囲気はショートカットボーイッシュ姐さん系女子。無論、手にしている荒縄が無ければの話だが。

 

 雑な自己紹介を済ませ、直で目当ての205へ。やや大所帯で向かう感じになったが、部屋の広さ的には問題にならない人数ではある。

 

「あ、どうも、太刀川先輩」

「急にすまん。他に頼れる人がいなくて」

 

「大丈夫です。皆さんもどうぞ」

 

 麻月さん、アオイちゃん、八重樫にも挨拶し、佐藤さんは普段通りに部屋へと迎え入れてくれる。ちょうど日課が終了したタイミングだったのは只々僥倖だった。

 

 続けて都合がいいことに、普段二人で食事をしていると思われるリビングのテーブルには、人数分の椅子があり、何でそんな椅子あんの? と中原に言って軽く流された過去を悔い改めた。

 

「……貴女は、そんな風に思っていないでしょうけど、自分の幸せのために貴女から離れた私が、貴女と同じような悩みで苦しみ、貴女に縋ろうとしている。身勝手で、滑稽な話ね……」

 

「うん……自分に厳しくてカッコイイ麻月さんは、そう思うよね……私は、感謝してるよ……色んな人に助けてもらって、サヤちゃんとルームメイトになれて、麻月さんと速水さんと4人でご飯を食べたり、遊んだりするようになって……今とても楽しい……」

 

「……」

 

 俯く麻月さんの手を取って、佐藤さんは近くの椅子に着席を促す。

 

「だから、私で力になるなら、協力させてほしいの。お願い……」

 

「……ありがとう。本当は、少し辛いの……でも、あの時の貴女に比べたら、大したことではないのは事実よ」

 

「それはわからないけど、眠れない辛さはちょっとだけわかるつもり……だから」

 

「ちょいちょい太刀川。メッチャいい子じゃないの。このレベルのいい子達だとは知らなかったわ私……」

 

「何となく、俺らの学年よりもちゃんとした人多いのかもな」

 

 つい後方先輩面で眺めてしまう一年老いた我々。正直、この一年の差により失われた瑞々しさは結構な潤い指数だと思われる。俺だけかもしれんが。

 

「よし。佐藤さん、とりあえず貢の品を」

「えっ? こ、これ……うぉっ!」

 

 反射的に受け取った手提げ袋から少し箱を除いた佐藤さんが、目を焼かれたように仰け反る。

 

「メンドいから中原の分もって話だけど、アイツはフルーツ系そうでもないって言ってたから、多分一切れで満足すると思われる」

 

「……桃と無花果のケーキ……チョイスが神過ぎる……」

「だよねっ! それ、絶対ヤバいよねっ!」

 

 その心は店員のオススメに首肯したのみだが。佐藤柳瀬の興奮は止まらない。

 

「っ……はい。では……麻月さん、こちらに……」

「え、えぇ……」

 

 さすがに早めなリカバリーを見せた佐藤さんは、ケーキを冷蔵庫へ一時封印し、麻月さんを案内する。

 

「……うん?」

 

 流れに身を任せてみるが、佐藤さんが足を向けたのは中原の自室。室内は昼間から敷かれた和な布団、隅にあるゲーミングPC諸々とシンプルな収納ボックスが一つ。やっぱり物がとっても少ない。

 

「太刀川先輩、あのガチな感じのPC何すかね?」

「うん……何だろうなぁ……」

 

 無駄な情報は与えない。面倒な人間との付き合い方、その基本だ。

 

「こちらに寝て下さい」

「……ここ、中原さんの部屋よね? つまり、その布団は彼女の……」

 

 そりゃそうだろって感じに困惑する麻月さん、同様の表情を浮かべるアオイちゃん。

 

「大丈夫です。正直、私のベットで麻月さんに寝てもらうことが望みではありましたが、この布団には、不思議な力が宿っているのです」

 

 のほほんとしたトーンで少しヤバめなことを話す佐藤さん。今度は柳瀬さんが首を傾げる。一之瀬は未だPCにご執心な様子。きっと友達の家のタブレットに読みたい書籍が入ってたら一生読書してる人種なのだろう。

 

「あの……私は別に、抵抗はないけど、彼女には、話してあるの?」

「大丈夫。サヤちゃんは全く気にしません」

 

「だろうな」

 

「……確かに、戦いと戦いのゲーム以外、関心が希薄そうではあるけど……」

「そんな人なの……中原さんって……」

 

 後は飯関係かな。

 

「……わかったわ……その、失礼します」

 

 寝るような恰好ではないが、そこは仕方ない。麻月さんは皆が見つめる中という非日常的状況で布団へと入る。

 

「っ……何の、匂いかしら……とても……いい匂い……」

 

 中原からは、柑橘系とも違う、爽やか系の香りがする。本人に聞いたら、全く関心が無さそうにシャンプーかボディソープの匂いだと答えていた。

 

 佐藤さんがその枕元に腰を下ろす。

 

「それで、何だけど、麻月さんには、その……眠れなくなった理由、ぼんやりとしたイメージでもいいから、頭の中で思い浮かべてほしいの」

 

「いえ、協力してもらっているなら、ちゃんと話すわ」

 

「うぅん、大丈夫。それに、残念だけど、聞いても私じゃきっと力になれない。太刀川先輩がそう判断したんだから、きっとそうだと思う」

 

「その判断基準は、どうかと思うわ……」

 

 罪悪感の籠った顔が、やや加虐方向に歪む。

 

「あれ? 太刀川、一緒にチーム組む位だから、仲良しさんなんじゃないの?」

「いや、俺は仲良しのつもりなんだけど、儘ならない世の中らしい」

 

「ははっ、相変わらずだね」

 

 それに関連して、冗談抜きで麻月さんとは友好的な関係を築きたい。

 

 彼女の能力を細かくは知らないが、元素記号を指で記述して、任意の現象を引き起こすものらしい。その効果はきっと、練度で自然界のそれを遥かに上回ってくることだろう。極めれば、中原を下せるレベルだと俺は思っている。駄目ゼッタイだけど、核爆発も起こせるんだろうし。

 

「あ、そうだ。佐藤さん、靴持っといた方がいいかな?」

「あ……そうですね。この前は運よく家の中でしたけど、外かもしれませんしね」

 

「ねぇねぇ先輩。今更なんですけど、これからアタシ達って何するの? 麻月さんが寝るためにはアタシ達が見張ってないと駄目ってことなんだよね?」

 

 全然違うな。

 

「追々説明する。とりあえず、玄関戻って靴」

「わかりました」

 

 佐藤さんと八重樫は既に靴を手に戻ってきている。

 

「麻月さん。もう平気?」

「あ……そうね。少し、気が滅入る程度にはイメージしているわ」

 

「皆さん、もう行きますね?」

「えっ? 何が?」

 

「OK、やっちゃって」

 

 

「「「「「「―――――――」」」」」」

 

 

 こうして、一月振りに夢的な世界へGOする。

 

「っ……」

 

 各々の位置関係はそのまま。佐藤さんと八重樫とは、少し離れた所に転移する。

 

 何はともあれ手に持っている靴を装備する。これで外での走りやすさと足部分の防御が僅かに上昇したはず。

 

「……立駐?」

 

 略さず言うと、立体駐車場。しかも多分超絶に広い。時間帯は昼間なのか、でも外は曇りだと思う。電灯の光量が微妙で、若干薄暗い。

 

「はい皆さん集合」

 

 全員の夢、正確には麻月さんの想いへの侵入を確認。

 

 俺、八重樫、佐藤さん、アオイちゃん、一之瀬、柳瀬さんの6人パーティで事に当たる。本音を言えば、男手がもう少し欲しかった。例えばタケルとか。

 

「ちょっと一回落ち着いて状況確認したい所なんだけど……」

「太刀川っ! アレっ!」

 

 八重樫もすぐに気付く。

 

 30メートル前方、奥の突き当り一列、駐車中の数十台の車から一斉に下りてくるのは黄泉に出没する人型魔物に似た何か。ここでは一丁前に車を所持しているのか。

 

「フラッシュっ! オーバーぁっ!」

 

「「「きゃああぁぁぁあぁっ!」」」

 

 中央の車両から火柱が上がり、それは一瞬で列の全てに燃え広がり、連続で大爆発を起こす。

 

「八重樫っ、ダッシュ」

「ラージャ」

 

 俺はちゃんと冷静な佐藤さんと絶叫するアオイちゃんを、八重樫はコケた瀬瀬コンビを抱えて反対方向へと走る。

 

 とりあえず安全そうな所まで移動したい。

 

「えぇ……今のって、太刀川先輩の、エネルゲイア? あれ? 人を吹き飛ばすんじゃなかったの……」

 

「その、はずだけど……」

 

「アイツの能力なんて、気にするだけ無駄かもよ? 後喋るのはいいけど、舌噛まないでね」

 

 床に書かれている通りなら、ここは4階。何となくでスロープを下りる。

 

「っ……八重樫先輩、知っているんですか? 太刀川先輩の、エネルゲイア」

 

「うーん……一回しか言わないよ。アイツの能力は土地を転がして富を得る。その力を使えば、火柱を起こすなんて訳ないよ。と言ってる私もあんなの見んの初めてだけど、気にしない気にしない」

 

「「……えっ?」」

 

 身体に荒縄を巻き付けて激走している人が何か言っているが、まぁ気にはしない。

 

 とりあえず3階のAと表記されているエレベーターの横にあった小部屋に逃げ込む。都合の良いことに、ベンチと自販機、トイレまである。

 

「お、電子マネー使える。一旦落ち着くか。八重樫、何飲む?」

「スポドリ」

 

 コーヒー、斑鳩の定番スポドリを続けてプッシュし、放って渡す。

 

「佐藤さんは?」

「運動しそうなので、私もスポーツドリンクで」

 

「はいよ」

 

「アタシサイダー。てか太刀川先輩。やっぱり土地転がしが最強なんすね?」

「まぁ、不動産が最強っていう説はまだまだあるだろうな」

 

 テキトーに返しつつ、斑鳩サイダーを投げ渡して黙らせる。

 

「ちょ……キョウコまで……アレ、何なんですか……こんな狭い所で、ジュース飲んでる場合じゃ……」

 

「ほら、柳瀬さんはアップルジュース。アオイちゃんはいつものお茶ね」

 

「あ、ありがとうございます……」

「えっ? 何で、知ってるんですか?」

 

「うん? 何が?」

 

 柳瀬さんのSAN値、もうヤバいのかな。

 

「私が、アップルジュース好きだって……」

 

「……いや、知らんけど。まぁまぁまぁまぁとにかく、だ。佐藤さん、諸々説明をよろしく。何か考えがあるっぽかったから、任せちゃって申し訳なかったけど」

 

 アップルジュースを嫌悪している人間にはまだ出会ったことがないだけだったのだが、それよりも早く話を進めたい。

 

「あ、はい……まず、何で駐車場なのかはわかりませんが、ここは多分麻月さんの不眠症に関わる何かが、凝縮された場所だと思われます。その理由もすぐに、流れ込んでくるはずです」

 

「だよな。だから、この中に麻月さんの……トラウマ的なものかもしれないけど、とにかく何かがあるっていう仮定の下、行動していくって話だ」

 

「はい。それで……私のエネルゲイアには、少し……色んな続きがありまして、えっと……例を挙げると、最近だと三日に一回程の割合で、サヤちゃんは夢の中で、太刀川先輩と戦うんですが……」

 

「えぇ……」

 

 寝てる時位戦いから離れようぜ。

 

「実は、こういう想いが凝縮された場所に入って、条件を満たせば、その想いの……印象を少し変えることが出来るんです。この場合だと、麻月さんが不眠症……それは恐怖心になるんですが、それに対する印象、イメージを少し前向きなものにできる、ってことです」

 

「えっ? いよいよ佐藤さんの能力ヤバいな……人類貢献度凄い高いぞ……一応言っておくけど、学園も斑鳩も、結構なお金出すよ」

 

「確かに、他者の夢、想いの中に入って、そのトラウマを少しでも解消できるなら、凄いエネルゲイアです……」

 

 アップルジュースをちびちび飲みながら、柳瀬さんも感嘆している。

 

「あ、いえ。でも、まだまだで……サヤちゃん、どうしても太刀川先輩に勝てるビジョンが浮かばないみたいで、ずっと一緒に試行錯誤してます……」

 

「それはすぐにでも中止してほしい取り組みなんだけど、今は置いておいて、恐怖心って断定したけど、それってつまり、この場で何をすればいいかも、佐藤さんには分かってるって、こと?」

 

「えっと……はい」

 

 そりゃ凄い。

 

「本当に凄いじゃない。高名な精神療法家もきっとびっくりよ」

 

「まぁアプローチが違い過ぎて同列にはできんだろうけど、その方面の人達からしても、喜ばしい能力であるのは間違いない」

 

「あ、ありがとうございます。それで、さっきの黒い人達は、麻月さんの恐怖の象徴……私達を、何処までも追いかけてきます。多分、麻月さんがそう捉えていないので、何をしても倒せない、と思います」

 

「ってことは、敵倒せない系のホラーゲームみたいな感じってことだよね?」

「っぽいな。場合によっては一時的に足止めできるトコも共通点な気がするし」

 

 倒せないのを理解した上で、最大火力を投入して足止めしまくるの結構好きなんだよな。

 

「アレから……逃げ続ける……あの、佐藤さん、それで、私達は逃げながら、何をすればいいの? 正直、逃げ切るだけでも、出来る気がしないけど……」

 

 残念ながら、ホラー耐性が低そうな柳瀬さん。アオイちゃんは話に頷きながら茶を啜っている。でも急な火柱とかは駄目らしい。

 

「実は、何とかなりそうな気はします。少なくとも、太刀川先輩を倒すよりは全然現実的です」

「何か誤解してるみたいだけど、学園全体で見たら俺、そうでもないからな?」

 

「あんなファイアーみたいなことしといて何言ってんすか……」

「何言っても、庶務の立場からすれば普通に人外枠だけどね」

 

 そりゃお前らが本当にヤバい奴らの全貌を知らんからだ。

 

「ちょっと……太刀川先輩、何でそんなふざけるんですか……それで、どうすればいいの?」

 

 指摘されて気付いたが、中原がいないので話を早めるムーブをしてくれる人材が不足しているのは事実かもしれん。

 

「……はい。この空間の中に隠れている、麻月さんを見つければいいんです。彼女のトラウマ、不眠症を引き起こす恐怖心は、小さい時に親戚の子達とかくれんぼをした時、見つけてもらえずに一日過ごしたことが大きな原因となっています。なので……」

 

「ここで見つけてもらえれば、その印象が少し変わる、ということですね」

 

「はい」

 

 アオイちゃんの補足に、佐藤さんは頷く。

 

 その現場が立駐だったのか、細かいシチュエーションまで再現されているのかは不明だが、クリア条件が明確化されているのは大きい。っていうか一日見つからないかくれんぼとか最早報道されるレベルの事件だろ。

 

「なるほど。確かに、やるべきこととしてはシンプルだな。では、あの魔物に捕まらないように麻月さんを見つけ出す……うん、経験上、6人で固まって逃げ続けると、急なパニックが起きた時に脆いんだよな……教科書通り、ツーマンセルで行くか……じゃ、トレハンの二人――」

 

「――嫌ですっ!」「――無理っ!」

 

「――ちょっ何、コーヒー零れるだろ……」

 

 サイドアタックで飛び付いてくる瀬瀬コンビ。

 

「太刀川先輩はいいですよっ! その気になれば土地を転がしてどうにでもなるんですからっ! 私達二人だけなんて絶対に嫌ですっ!」

 

「そうだよっ! アタシ達は土地なんて持ってないんすからっ!」

 

「っ……」

 

 この子達は本当に土地転がしでこの状況を打破できると思っているのだろうか。もしそうだとしたら、将来が心配でならない。

 

「――っ! 太刀川先輩っ!」

「げっ、何だよここセーブゾーンじゃねぇのかよ……」

 

 ドアの付いていない入口に、一体のキモい人型が踏み込んでくる。大して変わらんが、黄泉の魔物とは若干フォルムが異なる様子。とりあえず残ったコーヒーを流し込む。

 

「……あの、出口を塞いでいるんでしょうか?」

「いや、あの魔物は八重樫によって拘束されている」

 

 アオイちゃんの疑問に答えつつ、引っ付いている二人を引き剥がしながら立ち上がる。っていうか柳瀬さんの掴む力パねぇんだけど。

 

「八重樫先輩? 何を……」

 

「ぅ……ぅん……あれ? 私の能力、太刀川から聞いてないの?」

 

 その身をキツく荒縄で縛りながら、八重樫は意外そうに聞き返す。

 

「いやだってマナー違反だろ」

 

 八重樫の能力は見ての通り。珍しく人格とリンクが見られる能力であり、この姐御は普段の振る舞いからは想像できないレベルで恋人を束縛するタイプなのである。

 

 実際、付き合っている同じ庶務の飯島への束縛っぷりは、倫理も法も犯して完全にアウトの領域を未だ深めに開拓し続けている。

 

 だと言うのに、彼氏の飯島のドMっぷりも同じ領域に位置するため、誰も真似できないような恋人関係は、両家の挨拶を既に済ませ、卒業後すぐに籍を入れることが約束されている程に順調かつ強硬であるらしい。

 

「とにかく……アオイちゃん」

「えっ? あ、はい……」

 

 さすがに談笑している場合ではない。授与するように、目の合ってしまったアオイちゃんへ荒縄が巻かれた女を渡す。

 

「貴殿に、八重樫運搬係の任を与えるっ!」

「えぇっ! あ、えっ? あの……あ、は……拝命しますっ!」

 

 そう。この子は意外と乗れる方なのだ。

 

「八重樫は自身を荒縄で縛ることで、視野に入れた対象を拘束することができる。そのアイテムを駆使して敵をやり過ごし、麻月さんを発見せよっ!」

 

「はいっ!」

 

「てことでドンっ!」

 

 空いたスチール缶を音速で放ち、通せんぼしてる異形を吹っ飛ばす。

 

「佐藤さん、行こう」

「はいっ」

 

 勢いよく飛び出していったアオイちゃんと八重樫に続き、佐藤さんを伴って駐車場スペースへ戻る。

 

「っていうか今更なんだけど、お前ら二人はどんな感じの能力なんだ?」

 

 俺から絶対離れないマンと化した二人に、結構今更な質問をしてみる。

 

「え……そりゃ――」

 

「――キョウコ駄目っ! 説明したら、それならイケるっしょ? とか言い出して私達を突き落とすつもりなんだからっ!」

 

「ほぉ、ものまねのクオリティはともかく、中々の洞察だな、柳瀬さん」

 

 先頭で出てくれたアオイちゃんチームにヘイトが向いてくれたおかげで、そこそこの余裕を持って動くことができそうだ。

 

「所で、あのキモいのに捕まると、どうなる感じ? 命を取られる、とかじゃないよね?」

「そう、だと思います。捕まったらおそらく、そのキモいのに拘束されるんじゃないかと」

 

「あーそれ全然嫌だな……」

 

 群がられて張り付かれたらハイエンドな気持ち悪さが体験できそうだ。

 

「太刀川先輩……本当に冗談ではなく、そんなことになったらきっと、今度は私が不眠症……それよりも重症になる恐れがあります。脅すとかでは全くなく、本気でお願いですからちゃんと保護して下さい……」

 

 怒るでもなく怖がるでもなく、柳瀬さんの眼差しは本人も言ったように本気と書いてマジの二文字だ。

 

「おぉ……こんな必死な言葉を聞いたのは随分久しぶりかもしれんな……」

 

 いつかは忘れたが、リミットブレイクした小林以来の懇願レベルか。

 

「うん、じゃあまぁとりあえず…………あ、これ斑鳩か。うん……イケるな……っとい」

「「えぇっ!」」

 

 駐車してある手近な一台、その運転席のドアガラスを肘で粉砕、ロックを解除して乗り込み、ボタンを押し込んでエンジンを起動する。

 

「一之瀬、助手席。二人は後ろね」

「あ、はい」

 

 佐藤さんが真後ろへ、流れに押された二人も遅れて乗り込む。

 

「太刀川先輩、免許持ってんのっ?」

「キョウコ、高二じゃ無理だよ……」

 

「何かもう驚かない自分にびっくりなんですけど、太刀川先輩って車も運転できるんですか?」

 

 四月の件で感じていたけど、佐藤さんは普通に肝が据わっている方だと思っている。更に推測を加えれば週2で俺と中原のバトルを見続けているなら、荒事に対する慣れは勝手に養われているかもしれない。

 

 経験上、こういう人は出来ることはしっかりやって無茶はしないから頼りになる。

 

「私有地で運転したことがあるから、技術的には問題ない。ここで運転しても、法を犯すことにはならないし。もし何か言われたら、夢の中で爆走したんすよ、って言っとく」

 

 ヘッドライトで視界は良好、立駐内ドライブという風情のないコースを行く。

 

「……」

 

 さてどうにかして麻月さんを探さなければ。まずは、この建物がどれ程の広さなのかを確かめるのが無難な進め方か。

 

「先輩、何でアタシが助手席?」

 

「うん? あぁ、何かあった時、助手席が一番危険なんだよ……あぁ違う違う。お前が隣にいてくれると何だか凄く安心できるからだよ」

 

 とりあえず一番上まで行ってみるか。

 

「この人ヤバいってっ! カグヤっ! 変わってっ!」

 

「うん……いいわよ。通常なら危険かもしれないけど、何かあった時、先輩に一番飛び付きやすい位置だし」

 

「えっ? うぅん、やっぱいい……」

 

「おぉ……もう完全にゾンビゲーだな……」

 

 外でゴキブリを見ると只の虫だと思えるように、場で印象が変わるのか、ゾンビにも見える黒い人型が徘徊するコンクリ空間、それ系のコミックの世界に入ったみたいだ。またそれとは別で、普通に見る立駐と比べて大分広いのは助かる。

 

 

 あの四人プレイで、ゾンビが大量発生した街を進んでってヘリで脱出するゲーム。アレ、今度この四人でやりたいな。今日のことを思い出しながら楽しめそうだし。ただ、今ここで口に出すのは控えておいた。

 

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