トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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鬼ごっことかくれんぼ 後

 麻月さんのトラウマ世界で車を走らせゾンビ共から逃げる。

 

 どうしてこうなった。

 

 

 ただ、嘆いても事態が好転しないことを、俺はよく知っている。

 

「……実際、何かあった時の選択肢はなるだけ豊富に取り揃えておきたいのは事実……柳瀬さんのエネルゲイア、雑多な概要でいいから、教えてもらえない?」

 

 少なくとも、半月ちょっととは言え、修行部で鍛えられている板場笹森に完勝するコンビな訳だし。

 

「っ……はい。コレ、見えますか?」

「うん? 湿布?」

 

 バックミラーで見やすい位置に掲げてくれているのは、肩や首、腰、関節、筋肉などのつらい痛みに優れた効き目をあらわすというテープ剤の袋だった。

 

「はい。自分で貼った湿布から半径4メートルの摩擦係数を0にする。それが私のエネルゲイアです」

 

「ほぉ……トラップ系……正直娯楽性も高いな。重要な要素だと思うんだけど、一度に貼って効果が得られる湿布の枚数とかって制限ある感じ?」

 

 40メートル分とか貼ってヘッドスライディングとかしたら超面白そうなんだけど。

 

「3枚です……これって増えたりするんでしょうか?」

 

「それは、何とも言えんけど、増えそうではある。もしくは範囲が広がるとか。聞いたことあると思うけど、練度向上の法則もそれぞれだから、あんまり他人がどうこう言える領域でもなかったりする」

 

 まぁだとしても、反復練習や様々な経験を積んでのメンタル強化が要因となる例が多いけど。

 

「とは言ってもあのゾンビ、スライムみたいにネチャって感じで動いてるから、床が滑るとか関係ないっぽいよね」

 

「なので、私は無力です。ちょっと足が速くて遠くまで跳べるだけの女子です。後、一応重い物もある程度持てます」

 

 謙虚に見せかけた自己保身に走る柳瀬さん。どうやらよっぽどあの人型に捕まりたくないらしい。

 

「思わぬシチュエーションで役立ちそうな能力ではあるけどな。で、一之瀬は?」

「まず、サイコロを振ります」

 

 いきなり何言い出すのこの人。

 

「えっ? うん……そうだよな。分かりやすい説明なんてできる人間じゃないよな……」

「違うって! ガチだって。それで、出た目の数だけしりとりをするんすよ」

 

「ハァ……柳瀬さん?」

「あ、一応、ガチです……」

 

「っ……すまん。続けてくれ」

 

 面倒な前振りだと思ってしまった。申し訳ない。

 

「しりとりはアタシから初めて、誰かに回してもらって、例えば4だったら、最後の4回目はアタシの番で、そこで言った、現象? が、起きます。実際に」

 

 つまり、サイコロ振って、しりとりして、最後の言葉を引き起こす。

 

「………………えっ? 絶、強くね? 詠唱長いけど効果としては最強やん……」

 

 そりゃ修行部一年コンビじゃしんどいか。

 

「太刀川先輩、絶対分かっててそんな感じのリアクションしてるんでしょうけど、そんな万能なエネルゲイアじゃないですよ。補足を聞いたら、どんどん評価が下がります」

 

「いや、結構純粋に凄いって思ってたんだけど」

 

 っていうかこの立駐どうした? もう15階超えてんだけど。規模デカ過ぎて逆に不便だろ。

 

「あの、補足っていうのは、どんな内容なんですか?」

「えっ? 私が説明するんですか?」

 

「一之瀬、自分と柳瀬さん、どっちが説明上手い?」

「もちろんアタシだけど、結構面倒臭い感じなんすよ……」

 

「柳瀬さん、頼む」

 

 ぐるぐる回るのに飽きたので、一旦18階でスロープから出るが、作りも絵面も全く変化がない。

 

「……はい。まず、使えるのは一日に5回、さいころの目が1か2だった場合は、その時点でエネルゲイアは発動しません。実際、1と2だけが5連続っていう日も今までで3回ありました。それに、起こせる現象にしても、何でもって訳じゃないんです」

 

「何かようわからんけど、ビックバン、とか無理なの?」

 

「何すかそれ? デカい騒音すか?」

「それ引き起こせたら地球滅びますよね……無理ですよ。『ん』が付いちゃってますし」

 

「えー、それは最後なんだから問題なくない?」

「いや駄目っす。『ん』で終わったら失敗です」

 

 確かに、どんどん評価が下がっている。

 

「ちなみに、今まで起こした現象の最大例は?」

 

 ちょっと早いかもしれんが、クリティカルな質問を投げてみる。

 

「そりゃもう、ダークナイトオブザソウルっすね」

「っ………………あぁ、ゲームの?」

 

「そうっす」

「嘘……初見で返せる人が存在するなんて……」

 

「太刀川先輩、何のゲーム……なんですか?」

「結構昔のヤツで、ソーサリーテンペランス、知ってる?」

 

「うーん、普通に知らない、かな……有名なんですか?」

 

 どう見ても人種が違うので、佐藤さんが知らないことに驚きはない。

 

「有名、ではあるよな?」

 

「いや超有名っすよ。お父さんがキモい位やり込んでて、アタシも初めてやったゲームがソサペっす」

 

「それはまた……初めてプレイしたのがギャルゲーとか、結構な猛者だったんだな……」

 

 親の影響とは時に凄まじいものだという事実は、一般にも知られた真実だろう。

 

「えっと、つまりそれに出てくる魔法だ。でも中級か……上級以上は無理?」

「てか、ダークナイトオブザソウル以外無理っす。アタシ、アレ超好きで」

 

「わからんでもない。魔法陣と黒い剣の雨、普通にイイよなぁ……うん?」

 

 ここで着信、相手は八重樫。最近は何処でも電波あるんすね。

 

 周囲に車がないのを確認し、一度停車する。

 

「おぅお疲れっす。そっちはどう?」

『太刀川さぁ、気付いた?』

 

 漏れるアオイちゃんの呼吸音。この子のスタミナは知っているので、まぁ大丈夫だろう。

 

「何?」

『ここ、メッチャ広い』

 

「だな。今、18階を車でウロウロしてんだけど、とりあえず一番上まで行ってみるわ」

 

『やっぱり。太刀川ならとりあえず上を目指すと思った。なので、私らは1階なんだけど、横も滅茶苦茶広い。ドーム位あるかも』

 

「かもなぁ……実はちょっと考えがあって。そっちももう少し粘ってもらってもイイ? 1階を重点的で大丈夫だから」

 

『ラージャ』

 

 この状況、八重樫の能力とアオイちゃんの持久走レベルなら多分何とかなるだろう。

 

「よし……一之瀬。そのしりとり能力で、麻月さんをダウジングするぞ」

「だう、じんぐ? ダウジングって何すか?」

 

「太刀川先輩、ダウジングは水脈や鉱脈を探すための手法なので、人間には使用できないですよ」

 

 柳瀬さんから訂正が入る。

 

「えっ? っ……あ、ホントだ、すまん……ということで、そのしりとり能力で、麻月さんを見つけ出しますっ」

 

「へぇ、何か魔法みたいっすね……」

 

 助手席にも見せてスマホを戻し、改めて宣言する。正直な話、このスペースの中で人を一人探すのは超絶に骨である。

 

「能力については、この中では俺が一番詳しいと思う。で、確認なんだけど、一之瀬、正直な話、あんまり自分のエネルゲイアについて、考察を深めてないだろ?」

 

「うーんと、考察を深めるって、大体でどんな感じなんすか?」

「はい、深めていないと思います」

 

「ちょっ――」

 

「――だろうな。この能力は冗談抜きで結構強い。どこまで手続きを短縮できるかで大きく強さが変わる。例えば一之瀬、中原とタイマンしたら勝てると思うか?」

 

「タイマン……ダークナイトオブザソウル刺されば勝てるっす」

 

「なら絶対勝てないな。そもそも一人でしりとりは成立しない。仮にしりとりが可能でも、その前に首を落とされて終わる」

 

「っ」

「え……中原さんって、そんな感じなんですか……」

 

「あーいや……ま、深める大切さは今度。で、一之瀬の能力だけど、多分イメージが強く関わってる。要は、本人が絶対できるって確信があれば、現象は起こせる。ゲームの中級魔法、そのイメージが具現化できるなら、この空間にいる麻月さんを見つけるのは十分可能なはずだ」

 

 学園の先輩方の考察では、人探し、物探しは現象としてそこまで格が上とは評価されてはいなかった。なのでイケるはず。

 

「えーっと……麻月さんを……探す、イメージ……けど、それって、どういう言葉に……」

「麻月さんの居場所、とかじゃ無理?」

 

 

「っ……あ…………できるかもしれないっす……」

 

 

 珍しく真面目な表情。実際、こいつだけが頼りなのでちょっと頑張ってもらいたい。

 

「じゃあ、ルートだな。柳瀬さん、3、4、5、6それぞれのパターン、考えてもらえる?」

 

 結局リアルな戦いだと、早口言葉の勝負になるのか。だとすれば、ファンタジーの魔法詠唱、味方と一緒に唱える魔法って考えると結構な浪漫かもしれない。

 

「あ、太刀川先輩、言い忘れてました。それ、駄目なんです」

「えっ?」

 

 割とサクサク回っていた思考が途絶する。

 

「言葉の用意は禁止です。しかも、一度使った言葉は一か月使えません。その、ダーク何とかも、月一なんです……具体的には、キョウコがサイコロを振って、3以上が出たらスタート。キョウコの頭の上に10カウントが出ます。そこから考えて、順番を知っているのも、キョウコだけです」

 

 うわダル。

 

「うーんと……だとしても、その10秒の間に考えて最後に『あ』で終わる言葉を投げれれば、一之瀬が麻月さんの居場所って言って発動、は可能?」

 

「はい、それは可能です。けど、経験上なんですが、意外と難しいです」

 

 正に経験者は語る、といった表情の柳瀬さん。きっと毎回頭の辞書を総動員してアシストしてるんだろう。

 

「いや、やるしかねぇ。んで、もう一つ。一之瀬、コレでサイコロ判定にならない?」

「っ……スマホ? あ……」

 

 斑鳩先輩とチンチロリンした時に入れたアプリがそのまま残っていた。

 

「出目を3から8にしてある。柳瀬さん、3よりも6の方が、強い現象を起こしやすいんじゃないか?」

 

 そうじゃないと仕組みとしてショボ過ぎる。

 

「っ……はい。少なくとも、私はそう思っています。あ、でも、普通のサイコロじゃないと……」

 

「あ、あの……コレ、やれますっ! えっ? コレ何てアプリっすか?」

 

「はあぁぁっ! キョウコ……あんた、私が他のサイコロじゃ駄目なのかって聞いた時、そんなの無理に決まってんじゃんとか即答してたじゃないっ!」

 

 車内に無理もない怒号が響く。

 

「せぃせぃせぃせぃ。後で一緒にキレてあげるから今は抑えて。よし、チャンスは5回。駄目だった時は駄目だった時に考えよう……では――」

 

「――太刀川先輩っ! 後ろっ!」

 

「っ……」

 

「――っ! きゃあぁぁぁぁっ!」

 

 再び絶叫する柳瀬さんの声をバックに、エンジンを吹かしてアクセルを踏み込む。

 

「まごうことなきウィルスゾンビゲーになってきた……」

 

 人型が5体、3体はトランクに、2体は屋根にしがみ付いて離れない。

 

「太刀川先輩太刀川先輩っ! これ、普通のガラスですよねっ! 破られちゃいますよぉっ!」

「はいはいはい、ちょっとスピード出しますよぉ」

 

 とりあえずべた踏み。

 

 さすがシェアでも世界トップの斑鳩製、ハイブリットでも確かな馬力。

 

「うわ、150出てるけど、そうでもないって感じっすよね……」

 

「そこはしゃーないな。では……柳瀬さんっ! 天井に湿布貼ってっ!」

 

「――っ! え……あ、あっ! はいっ! 貼り……貼りましたっ!」

「ナイス」

 

 こっちもちゃんと確認し、ブレーキを踏む。

 

「「「――――――っ!」」」

 

「っ……凄っ……」

 

 ちゃんと裏でも機能する。融通の利くエネルゲイアだったらしい。

 

 直進だったこともあったのか、ブレーキは問題なく機能し、急な減速による慣性に柳瀬さんの能力が加わり、5体の人型は各々、スキージャンプのような勢いで前方、遥か彼方、建物の外へと上手いこと投げ出されて消えていった。

 

「っと、ヤバい。こりゃ逃げ続けるしかねぇな」

 

 安堵も束の間、大量のゾンビが湧き出していることをミラーが教えてくれる。

 

「よし、やるぞ。チャンスは5回」

「あ、サーセン。1回使っちゃったんで4回っす……てか今の絵ヤバくなかったっすか?」

 

 出鼻を挫かれる。よくあることだが、慣れないし慣れたくない。

 

「お前は……はいテイク2。チャンスは4回。張り切ってどうぞ」

 

 先程とは反対側のスロープから、上の階へと逃げるが、振り切っても振り切ってもうじゃうじゃいらっしゃる。

 

「こいっ! サイコロっ! っと、5っす。んーっと、しりとり。次佐藤さん」

 

 まさかの王道。

 

「えっ? っとぉ…………」

 

「いやヤバっ! マジで頭の上でカウントダウンしてる……」

 

 0になったら死にそうで何だか怖い。

 

「り、りんご……」

 

 そして王道×王道。

 

「次、太刀川先輩っす」

「え…………ごりら?」

 

 ヤバい、王道の吸引力に敗北した。

 

「もっかい佐藤さん」

「えぇっ! 何で……えぇっと……らっ? ら……あ……ら…………らっぱ」

 

「ちょいっ」

 

 責める権利はないが、佐藤さんも王道の拘束力に屈した形か。

 

「えっ? あの……『ぱ』で、どうやって麻月さん探すんすか? 太刀川先輩……」

「どうって……あれ? 『ぱ』って『は』もアリ?」

 

「ナシっす」

「何でそんなとこ厳しめなんだよ……って、後2秒」

 

「ぱ、ぱ、ぱぱぱ、パラシュートっ!」

 

「――ぶ」

 

 突如、何の前触れもなく視界を分厚い布状の何かが覆い、顔面に掛かってくる。

 

「ちょっ! 絶、邪魔だっつのっ! 一之瀬っ! 早く引っ張って巻き取れっ! 事故るってっ!」

 

「だっ! ちょっ! はいっす……」

 

 反射的にスロープから脱し、直線に入ったことで難を逃れたが、1、2体轢き飛ばしてしまった。つまり、生まれて初めて人を轢いたことになる。まぁあれは人ではないので瞬時にノーカンとしたが。

 

「何で開いた状態で出てくんだよ……何か独特な匂いがするし……」

 

 口が勝手に文句を吐き出すが、この能力、普通にヤバいわ。

 

「一之瀬、後日時間をしっかり取って、本気で検証しよう。この能力、絶対凄いぞ」

「えっ? あの……ガチっすか?」

 

 意外とコンバクトに折り畳めたパラシュートを膝の上に乗せ、聞き返す一之瀬。

 

「うん、これはガチ。ただ、それは後だ。今は初回だったから、しりとりの定番フレーズに散ったが、何となくわかった。今のは5だったから、3番目と4番目が頑張り所だな。どうにかして『あ』に繋げよう。一之瀬、コンティニュー」

 

「はいっす……6っす……バルサミコ酢。太刀川先輩」

 

 チョイスは謎だが、韻を踏んだ点は評価したい。そして順番は完全にランダム。死の宣告みたいになってる一之瀬の頭上カウントが0になる前に言葉を繋げばよいという話だ。

 

「スープレックス」

「す……佐藤さん」

 

「えーっと……す……酢飯」

「うーんっと……あ、アタシっす……し……」

 

「お前ここ、イイパス頼むぞ」

「えっ? し……ヤバっ……シマリス。太刀川先輩」」

 

 何だよ柳瀬さんハブんなよ。

 

「しかも『す』で攻めんなって……うーん……あ……あ、スカンジナビア」

 

 よし、クリア。

 

「いや、何すか、それ?」

「いいから。『あ』だぞ。え……」

 

 バグなのか、一之瀬カウントが10のままスッと消える。

 

「先輩、アタシが知らない言葉は駄目っすよ」

 

「何……だと……」

 

 さっきっから何だこのクソゲーは。ついアクセルを少し踏み込んでしまう。というか、右も左もゾンビだらけでこんだけ広いスペースなのに逃げ場が少ない。視界に映るのだけで100はいる。

 

「うん? 柳瀬さん? 何かボーっとしてるけど、ちょっとルールの補足頼む。絶対他にもトラップルールがありそう」

 

「……えっ? あ……あっ! すいません……」

「いや……大丈夫か? どうした?」

 

 確かに、段々と車内が安全とは言えない環境にはなってきているが。

 

「いえ、すいません、もう平気です。その……今まで、自分のエネルゲイアがちゃんと有効に機能したことがなくて……少し、感動しちゃって、胸が……ドキドキしてました……すいません……」

 

「あーでも、その気持ちちょっとだけわかるなぁ……実は私も、今日太刀川先輩から連絡が来た時、何とかしなきゃって思ったけど、ドキドキして、張り切ってたし……」

 

「あぁ、実際、今さっきのは映像としてはかなりいいね付きそうだったしな。何か、スノーボードクロス世界大会みたいな感じだった」

 

「わかる。一人多いけど、超デットヒートでしたよね」

 

 まぁ競い合って奈落に落ちてったんだけどな。

 

「あ、ありがとうございます……それで、何ですけど、まず2文字は禁止です。次に、今回の目標が『あ』なんですけど、タワーとかパワーとか、伸ばし棒で終わるのも駄目です。知らない言葉については、次の順番の人が知っていないとその場で終了、特に最後の前の人は注意しないと。キョウコが知っていそうな言葉選びが重要になります」

 

「とりあえずお前、今日から毎日一時間辞書読め。後でスタンプカード作ってやるから」

「ちょっ! カグヤと同じこと言わないで下さいよぉ……」

 

 少しでも知能を所持している人間なら、最初に出てくるアドバイスであろう。

 

「とは言え、後クレジットは2か……結構追い詰められた感あるな……」

 

 リアルの状況と要らんリンクを結んでいる麻月さん探索しりとりゲーム。緊迫感はないが、どうやらクライマックスらしい。

 

「……8っす」

「きた」

 

 多分最大火力。検証する時は100とかでも可能なのか調べたい所。

 

「……餃子。太刀川先輩」

 

 アホ、濁点止めろって。

 

「……ザッハトルテ。あ……」

 

 終わったかも。

 

「佐藤さんっす」

 

 セーフ。

 

「テ……て……テナガザル」

「カグヤだよ」

 

「……ルート」

「もっかい佐藤さん」

 

「ト……と……と……トウモロコシ」

 

「アタシっす……し…………っ…………あ、獅子奮迅っ」

 

「「「――っ」」」

 

 やりやがった。

 

「嘘だろおい……こんだけ注意を促して一番メジャーな罠に……コレもう、義務教育の敗北だろニッポン……」

 

「太刀川先輩、それは違います」

 

「うん?」

 

 俺の言葉にはっきりと異議を唱える柳瀬さん。

 

「さっきの先輩の辞書を読めという発言……それを煽りに感じたキョウコは、ちょっと背伸びをして浮かんだ四字熟語を勢いで言ってしまったんです……」

 

「あ……見事な推論だ……すまん一之瀬……やらかしたのは俺の方だった……」

 

「いやそれ普通に馬鹿にされるより刺さるんすけど……」

 

 ともあれラストチャンス。おそらく無理であろう。後日また30人態勢で捜索するか。その時は中原が一生単独で足止めしてくれることだろう。

 

「ラストいきます……8っ! イケる流れ」

 

 お前が言うと完全に失敗フラグだがな。

 

「携帯電話。カグヤ」

「和菓子」

 

「太刀川先輩っ」

「親戚」

 

「次、佐藤さんっ」

「き、絆」

 

「な……なめこ。カグヤ」

「告訴、あ……」

 

 即答してから口を押さえる柳瀬さん。

 

「太刀川先輩っす」

「そ……そぉぉ?」

 

 鼠径ヘルニアは絶対無理。

 

 そ。そ。そ。そ。いや、国名も絶対知らない。

 

「マジか……」

 

 後2秒。南無三。

 

「そ……ソーダ……」

 

 うわぁ、ソフトウェアがあるやん。この手のゲームあるある、言った瞬間浮かぶヤツ。

 

 何て言い訳しようか。それを10秒考えよう。

 

「だっ? だ、だ……」

 

 偉いなこいつ。何を考えればいいかもわからないはずなのに、何かを考えている。

 

 しかし、無情なカウントダウンはどんどん進む。

 

「だ……だ、だ……うあっ……ダウジングっ!」

 

 何でもいいから回答欄に記入しておく姿勢は褒めたい。では、佐藤さんに脱出方法を尋ねるか。

 

「うん?」

 

 何気なく隣を見ると、一之瀬の両手には先程ネットで見た金属製のくの字棒が握られており、どういう訳かくねくねと動いている。

 

 

「あ……先輩……麻月さんの居場所……わかったんすけど……」

 

 

「マジでかっ! 麻月さんって水とか金属判定なんだ……」

 

 これは誉め言葉だが、馬鹿な一之瀬のイメージが具現化したため、訳の分からないことが起きたと考えられる。

 

「ちなみに、細かい位置わかる?」

 

 作業のように一階上っては直線を飛ばしを繰り返し、現在は24階。どんなに長かったとしても、99階で終わってほしい。

 

「こっから見て左奥の隅……2階……多分、2階」

 

「何で……本当にわかるの?」

「一之瀬さん、凄いっ」

 

 飛び降りて全速力で向かうのも手だが、佐藤さんを見捨てるのはちと忍びない。なので緊急に電話を掛けてみる。

 

『見つかった?』

「あぁ、ダウジングでな」

 

『うーん。太刀川? ダウジングっていうのは水脈や鉱脈を探す時に用いられるもので――』

「――知ってる。で、今まだ1階?」

 

『だよ』

 

「床のアルファベットと数字で大体の位置が分かると思うんだけど、2階の、G……数字は1とか2とか、小さいのだと思うんだけど……」

 

『ほぼ真上だね』

 

「ちょっとなる早で行ってみて。でこっちは……っと、そろそろ逃げ回るのも限界、かもな……」

 

 響く瀬瀬コンビの悲鳴。

 

 やっぱり良くないながら運転。6体程と正面衝突し、車は停止。我々には不要と言えるエアバックは思ったよりもあっさりと萎んでくれる。

 

「後はアオイちゃんの麻月さんへの愛が試されるな」

 

「いや何一件落着みたいな空気出して――てかカグヤ何してのっ!」

 

「決まってるでしょ。一番安全な所に避難してるの」

 

 割れたガラスの隙間をむしり取ったエアバックで塞いでいると、素早く身を乗り出した柳瀬さんが、服をダメにするレベルの力で掴んでしがみ付いてくる。

 

「うーんまぁ……でも、柳瀬さんのおかげで何かツルツル滑ってるみたいだし、酷い絵面だけど、暫く大丈夫なんじゃねぇかなぁ」

 

 諦めずに何度もチャレンジしているが、ボンネットに乗れたゾンビさんは未だ皆無、後ろも同様、とは言え、窓ガラス越しに圧殺する勢いで群がる眼前の光景は、一般の淑女にとってはトラウマものではないかと思われる。

 

 佐藤さんは結構冷静、トレハン部二匹が耳元でまぁうるさい。

 

「いや実際、お化け屋敷で一番怖いのって、隣の女の子が発する不意打ちの悲鳴だったりするんだよなぁ……」

 

『それ、あんまり口に出さない方がいい真実だよ』

 

「太刀川先輩っ! もう一回さっきのっ! ファイヤーみたいなヤツっ!」

「んなことしたら俺らもこんがりだから……」

 

『おっ、アオイっ? あの女の子――はいっ! 間違いないですっ』

 

 電話口の向こうでは、アオイちゃんの安心させるような優しい声が聞こえてくる。

 

 右からは感動の救助現場、左からはパニックホラーの終盤、とりあえず服が伸びるから本当に止めろ。

 

「―――――――あ」

 

 視界は車内から一気に玄関。

 

 以前と同じように、座った状態から立っている姿勢での転移だったが、違和感なく繋がっている。やはり、地味にこれが一番不思議かもしれない。

 

「よし、二人共、もう離れても大丈夫だぞ。というか、靴脱がないと」

 

「あの……目を開けても平気、ですか? また冗談だったら、割と本気で恨みます……」

「ちょ……カグヤ、先目ぇ開けてよ……そしたら、開けるから……」

 

「約束するから……はぁ……朝起きた時は、のんびりまったりのはずだったのに、変な立駐を爆走して大量の化け物に追い回されて……結構なアドベンチャーだったなぁ……」

 

 

「――そうですか。結構なアドベンチャーだったのですか……」

 

 

「――っ!」

 

 リビングの方に振り返ると、そこには黒いセーラー服の美少女が。しかも奥にはレイカまでいる。俺達は安置内に戻ってきたのではなかったのだろうか。

 

 それに加えてどうしたものか。中原には常々鉄火場には同行させるよう求められており、俺も快諾している。そしてそれが果たされなかった時、彼女はめっぽう機嫌を損ねる。

 

「おい二人共早く離れろっ。で、靴を脱いで玄関に。麻月さんの様子を確認しないと」

 

「――先輩、今朝の通話を覚えていますか? いえ、愚問でした。先輩はこう言ったんです。今日は何が起こっても首を突っ込まないし巻き込まれない、絶対に平和な時間を過ごす、と。にもかかわらず、大量の化け物と対峙するような場に赴いてきたこの現状を、どう説明するのですか?」

 

 目、怖っ。活舌良っ。

 

「あ……いや、違うんだよ、ホントに……俺はただ巻き込まれただけ、で……じゃなくて……いや……うん…………ごめん……いやいやいや、中原の方も充実した時間だっただろ? 黄泉の方は、どうだったんだ?」

 

 大丈夫だ。包み隠さず白状しても、特に大立ち回りは無かったはず。黄泉に行った方が、余程戦闘機会には恵まれていたことだろう。

 

「どう、と言われましても、手強い個体は穂村先輩が撃破してしまった後だったようで、加えて、復路は特に機械的でしたし、油断はありませんが、新鮮な体験もまた、ありませんでした。間違いなく、先輩に同行している普段の時間の方が、修練になっています」

 

「いやでも、マンネリを防ぐ意味でも、たまにはいいだろ」

 

「ハァ……毎日色んなことが起きると常々ぼやいていることすらお忘れですか? 先輩に降り掛かる災難に、マンネリズムを覚えたことはありません」

 

 駄目だ。文字通り打つ手がない。

 

「わかったわかった。後で聞く。とにかく麻月さんの様子を確認させてくれ」

 

「――彼女なら平気そうよ。アンタが確認しなくても、問題は解決したんじゃないかしら?」

 

 ヤバい。ただでさえ厳しい1V1が、1V2になってしまう。

 

「あ、あぁ、そっか。レイカは……いや、マコト、今日は何か用事?」

「えぇ、何か実家関係みたい。だから、サヤと一緒に夕食をいただいてたの」

 

「へぇ……ん? 今何時だ?」

「もうすぐ7時半です」

 

 おいおい時間早いって。

 

「太刀川、桐島さんがいるから、私は失礼するね」

 

 俺の苦悩も知らず、八重樫は颯爽と玄関へ、靴を履き直す。

 

「助かった。ポイント申請、軽く盛っても許すかも」

「いいこと聞いた。じゃ」

 

 去る姐御。残業にも嫌な顔を見せない、良い庶務である。

 

「――あの……」

 

「ん? あぁ、俺としては、元気になった風に見える……けど、どう?」

 

 奥から出てきた麻月さんの表情は若干気まずそうではあるものの、ここへ来る前に比べて血色の方は良いと感じられる。

 

「とても、スッキリしてる。こんなに気分が軽いのは、何年振りかしら……っ……ありがとう。貴方の言った通り、また一つ借りが増えてしまったけど」

 

「聞いたと思うけど、敢闘賞はアオイちゃんで、MVPはまさかの一之瀬だ」

 

 ただ、他の一年は全員生レイカに興奮している状態だが。そろそろ慣れろよ佐藤さん。

 

「言っておくけど、ずっと俯瞰視点で見てたのよ。誰の貢献度が最も高いかは、理解してる」

 

 いやだから普通に二人が大活躍だったろうに。

 

「麻月さん、その一部始終、細かく聞かせていただいてもよろしいですか?」

 

「もちろんよ。それより、布団の方は弁償させてもらうから、メーカーと型番を教えてもらってもいい?」

 

「いえ、もし先輩に同様のことをされれば、慰謝料も追加した上で請求する所ですが、同性であれば気になりません。もし気に病むと言うのでしたら、話を聞かせていただくことで、帳消しとさせていただければ幸いです」

 

「お前なんか今日当たり強くね? っ! いや冗談……っ……よし、落着ということで……」

 

 眼光を鋭くする後輩から目を逸らし、美味い飯でも食って帰ろうと脱出のタイミングを窺い始める俺。

 

「……体調が良くなると、随分と明確に空腹を感じるのね……」

「あ、そうだよな。二人以外は皆夕飯まだ、か」

 

 自分に呆れるかのような笑みだが、やはり麻月さんの表情は良い。

 

「うん……レイカ、この後って、何か入ってる?」

 

「っ……そうね。サヤと斑鳩の人との顔合わせ、ちょっと延期になったのよね。だから今日は、後ろはもうないけど」

 

 どうにも表情が読みにくいが、予定はないとのこと。

 

「麻月さん……例えば、何か食べたいものってあったりする?」

「え……っ……中華」

 

 かなりザッピングするチョイス。

 

「アオイちゃんっ、皆で飯行こうって言ったら来る?」

「あ……あの、カエデちゃんが、いいなら」

 

「なるほど。麻月さん、ちょうど俺も同じ気分で、本格中華料理区画行かね?」

「っ……アオイがいいなら」

 

「じゃ二人は決まり。レイカ、結構前に行った、ゴマ団子が超美味かったトコ、デザートにどう?」

 

 レイカは食べた分動けばいい派なので、別に無神経な誘いではないだろう。

 

「……別にいいけど」

 

「よし……月頭に荒稼ぎしちゃった分、他に還元しなきゃと思ってたし、皆で行くか。中原も行くだろ?」

 

「はい。私はデザートではなく、食事でもいいですか?」

 

「あ、あぁ……問題ない」

 

 最近、大食いキャラが板についてきたように思える。

 

「えっ? アタシ達もいいんすか?」

 

「うん。佐藤さんも、いいっしょ?」

 

「はい、是非」

 

 推しであるレイカに認識されたくないという、ようわからんスタンスもあったらしい佐藤さんだが、先日あくまで一人の遠い後輩として関わっていくことを決意した、らしい。

 

 後は、関係性的に呼べそうなのは板場笹森コンビか。食後でも軽くゴネれば来るだろう。

 

 安息の時間は断たれたが、最後を締める晩餐位は楽しみたい所。

 

 

 こんな流れで、広い円卓の個室を貸し切り、ある種不思議な面子で夕食を楽しんだ。麻月さんに今日の詳細を聞いて険呑な空気を再燃させる中原、その中原を何故か挑発し出す一之瀬など、不穏な時間帯も見られたが、久しぶりに食った北京ダックとゴマ団子はやたらと美味かった。

 

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