トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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今日も今日とて対話での解決を求む

「――何だよ……やっぱり説得不可系か……」

 

 その身が真っ青であることを除けば、スタイルのよい美人さんである薙刀使いの少女は、恨みがましい視線を寄越したまま、霧散するように消える。

 

 闘技場という場所に相応しい問答無用っぷりで殺しに来られても、こちらに戦う意思はない。

 

 100回声を掛ければ何かが起こるのではないか。そのインスピレーションに従い、俺は変則的な刃をどうにか躱しながら平和的対話を求め続けたが、108回目を以て挫折。相手が繰り出した渾身の一撃を貰い、のしを付けて返すことで葬るに至った。

 

「っていうか何であんなキレてんだよ……」

 

 まぁ考えてもしょうがないことを考えてもしょうがないので先へ進もうと思う。

 

「中原、先に行ってるかなぁ……いや、さすがに待ってるか」

 

 実は独断専行しない系女子、中原。おそらく、嫌味の一つや二つで済むだろう。

 

「やっぱ、お話の流れとしては、人数を入口の分だけ揃えて凸ってあげるべきだったっぽいなぁ……これで不完全燃焼とか言われたらマジでダルいんだけど……っ……」

 

 同じ洞窟回廊を抜けた先は、石造りの棺が中央に置かれた空間。棺の所まで行ってみるが、オブジェ感が凄い。ちなみに、もしマミー的な魔物が出てきても、今日は火曜じゃないから燃やせない。

 

 とりあえず、ここが終点ですと言われれば、はいそうですかと納得できる雰囲気ではある。

 

「……」

 

 中原はいない。どうやら、結構手こずっているらしい。

 

「……イベント、少し走るか」

 

 でも今回のはそんなにモチベないんだよな。そう思いつつ、スマホを取り出す。

 

「…………っ、中原? えっ?」

 

 気配なく姿を現す後輩。そういえば、そんな感じの演出だと聞いていた。が、そんなことはどうでもよい。

 

「……」

「おいおい随分やられたな……ゴリラの怪物にでも遭遇したのか?」

 

「っ……」

 

 膝を着いて俯く中原に駆け寄り、同じようにしゃがみ込んで右手をかざす。

 

「とりあえず治すぞ」

 

 ストックしている佐藤先輩の能力を発動。ただ、俺のこの能力の練度はそうでもない。

 

 本人的にシークレットらしいが、佐藤先輩の能力は厳密に言えば回復ではない。相手の身体の状態を健康だった過去の状態に戻すことで、結果的に回復している。

 

 「雑だな」と酷評を受けるようなレベルらしいスキャン機能で身体の状態を見極め、損傷している箇所を1時間程戻す。俺は無駄にドSな佐藤先輩とは違うので、セーラー服も含めて回復させておく。

 

「……」

 

 だが違和感が残る。

 

 この程度の、というような傷ではなかったが、中原が怪我をした位でこうして俺の前で膝を着くだろうか。

 

 

 俺の知っている中原なら――

 

「おいおいお前どないしたん? ごっつぅ血ぃ出とるでぇ」

「大したことあらしまへん。そない突っ立っとらんで、はよぉ治しぃ」

「おんどれ偉そうやなぁ、まぁ治したる、待っとれや」

 

 ――こんな感じだろ。

 

 

「――――ありがとう。太刀川シン」

「っ……だよな」

 

 首を狙った短刀を避け、跳び退いて離れる。

 

「……この、どこでも刀……何故使えない? 僕は今、中原サヤだ。使えて然るべきだろう」

 

「ソウルの問題だな。外面だけ取り繕ってもダメって話だ」

 

 姿と声は中原、口調は知らん男。なかなかどうして悪くない。

 

「理事長関係として……誰っすか? そういうやり方、ねねさんは普通に嫌だと思いますよ?」

 

 対話でイケそうな空気を察知した俺は、質問を投げてみる。

 

「ここには関与できないという決まりのようだ。問題はないよ。僕は……ねねの兄だ。話には聞いているだろう? 太刀川君」

 

 つまり、魔王を生み出し、急死することで、ねねさんの能力を途方もないレベルで確変させたある意味で諸悪の根源。

 

「兄……証拠は?」

「何? どういう意味だ?」

 

「いやいや。兄でしか知り得ない理事長の情報とかを提示してもらえれば、一発で信じられるんですが」

 

「人の言葉を信用しない、か……悲しいことだな…………では一つ。ねねは…………カエルが嫌いだ」

 

 その表情に、僅かながらのドヤを感じる。

 

「いや知らんて。今度聞くけど。もうちょっと分かりやすいのないんすか?」

 

「待ってくれ。何故こんな間抜けなやり取りをしなければならない? 君が信じればいいだけの話だろう」

 

「おいおい、大事な後輩の身体を乗っ取っておいていけしゃあしゃあと……そもそも、時代考証がおかしい。で、ござる、みたいな話し方じゃないんすか?」

 

「……わざと下らんことを言っているな……記憶にある情報と同じか……僕は本人ではない。妹の記憶にある僕という人格、それが彼女の記憶を知り、様々な学習をしたのが僕だ。言葉遣いにしても、君が分かりやすいように話しているまでさ」

 

 まぁ、でなければ辻褄が合わないし、妄言ばかりを吐き出す魔物と認定する所だが。

 

「で、何で中原の身体を? っていうより、戦いが終わって疲弊している所を不意打ったってとこでしょう? 曾々々々々々々々々々々々孫位の世代にやることじゃないと思いますけど」

 

「そこまで遠くはない。敬うと言うなら受け入れる。だが過度な老人扱いは止めてもらおう。この身体を借りた目的は……君に頼みがあるからだ。常世の副会長」

 

「常世て……もう少しで学園生活も折り返しですよ。それで、どんな頼みなんですか? 困ってるなら、出来る範囲で力になりますよ」

 

「流石だ。迷惑係の二つ名は伊達ではないということか。では、頼みたいのだが……妹に、もう諦めるように言い聞かせてほしい」

 

 心からうんざりするように、重々しく言葉を吐き出す。どうやら本気で言っているようなので、ふざけるのは控えるが、こんな表情豊かな中原は初めて見た。

 

「うーん……気持ち自体はわからなくもないですけど、それって、どうなんでしょう? 理事長の記憶ってだけで、実際のお兄さんと関係ない訳だし、あくまで理事長から見た、言わば思い込み……本当のお兄さんは、是非とも生き返らせてほしいと思っているかもしれない」

 

 まぁ知らんけど。

 

「……無理もない感想だ。補足しよう。妹は、控え目に評して、世界一のブラコンだ。具体的な面については、身内の恥などという言葉では足りない程だ、勘弁願いたい。要は、妹は僕の全てを知っている。そして君が混同すると面倒なので正しておくが、ヤンデレではない」

 

 学習とやらの成果か。この兄君、しっかりと現代の言葉を使いこなしていらっしゃる。

 

「ねねは、僕という存在に対して真摯に勤勉なのだ。現在も蓄え続けている知識、楽しんでいる娯楽も全て、僕に伝え、共に過ごしたいという欲求が大きな活力となっている」

 

「まぁ、全てではないにしても、理解はしてます。ただ、単純に今更って思いませんか? 思い止まらせるにしては、もう時間が経ち過ぎてる」

 

 もう少し、と一生呟きながら石油か温泉を掘っている爺さんが連想されるが、もちろん口には出さない。

 

「一理ある。少し、擦り合わせたい。太刀川君、君は、死者を蘇らせることについて、どう思っている? 君の大切な人が死に、生き返す手段、その可能性を感じたら、どう行動する?」

 

「色んな考え方があると思ってます。俺は、手段があっても、生き返らせることはしません。ただ、復活の薬がコンビニで100円とかだったら、使いますけど」

 

 もしそんな世の中なら、親から叱られた子どもが秒で自殺し、親が秒で生き返して説教するような世界になるのかもしれない。

 

「最後の仮定は下らない。だが、君の考えには共感できる。僕も、失った命は取り戻されるべきではないと考えている。君は、何故可能性があっても、それに縋らない?」

 

 まだ続くかこのなんちゃって禅問答。

 

「感覚的な問題、かな。人間は簡単に死ぬし、驚く位に頑強だったりもする。全部含めて死んだら終わり。生きてる内に、必死に楽しく。でも、絶対でもないですよ。少なくとも、不治の病に罹ってる小さな子どもの前で、同じことは言えないと思いますし」

 

「一つ意外だ。この学園では、死んでも蘇る。君は奪われこそしていないが、少なからず命を奪っている。それでも、命の唯一性を尊ぶのか?」

 

「……少し、言い方が大袈裟っすね。ずっとリスポーン制なら別だけど、この学園の学生は、皆気付いてますよ。リスポーンに甘えたら、卒業後に酷いことになるって。学園内で命を軽んじた人間程、学園外に出る時、大きな恐怖を感じるはずだ」

 

 偉そうに言ってしまったが、俺自身、一年前に斑鳩先輩から言われてハッとした話だ。その斑鳩先輩も、二年前にハッとしたらしい。でも中原は多分ハッとしてない。そこはしろよ。

 

「道理だ。故に、僕も唯一の命を散らした。それも自死に近い形で」

 

「そういや、何で能力使っちゃったんすか? 魔王が出て酷いことになるって、感覚的にわかってたでしょ?」

 

 何でも、この人は神託とかいう所謂神様の言葉を聞くことができる、と周囲から思われていた人物らしい。実際、時代に反してあんなデザインの魔王を顕現させた訳だから、未来の映像だったりを夢に見るような不思議な力はあったのだろう。もしくは、集合的無意識の存在を後押しする事例の一つなのかもしれないが。

 

 兎にも角にも、エネルゲイアがアリなら、何でもアリだ。

 

「それは……わからない。妹からしても、動機は不明らしい。僕にも、そんな自爆めいたことを実行する覚えはない」

 

「なるほど。まぁ、ねねさんは生き返らせて聞けばいいって考えてるだろうし、もうあんまり気にしてないんじゃないっすかね」

 

 さて、どうしたものか。

 

 これだけ話したのだから、是非ともドンパチなしで終わりたい。

 

「で、個人的には、ねねさんの気持ちも、お兄さんの気持ちも、何言ってんだコイツ、と思うレベルではないです。なので、直接話せないから、俺から伝えるっていうのはOKです。では、妹さんが考えを変えてしまうような兄にしか浮かばない文面をお願いします。一字一句違えずに伝えるんで」

 

 スマホのメモアプリを起動、どうせなら、録音もしてしまおうか。

 

「勘違いをしているな。僕は伝言を頼んでいる訳ではない。君に、君自身の手で、諦めさせてほしいと言っている。共感を得られるかはわからないが、君ならどうだ? 遥か未来に連れ去られ、今日から楽しく暮らそうと言われて、ありがとうと心から感謝をするのか?」

 

「あ、そっち方面は、結構ガチ目に考えてますよ。お兄さんが復活すれば、魔王は能力で消去できる。そうすると、国から一生使い切れないレベルの報奨金が出ます。妹のヒモにならなくても暮らせますし、しかも、復活の際のお兄さんのリアクションを70通り位考えてて、それに沿って支援プログラムが用意されてます」

 

 ま、無論知ってるとは思うが。

 

「……」

 

「正直な話、あれだけ寄り添って考えてくれてるんだったら、俺は、復活させられても過剰にキレたりはしないですね。個人的に、生き返らせることはしないけど、逆に死んだ後、どうしても生き返らせたいって言われたら……強くは拒否できない、かな」

 

 少なくとも、その手の話で、本人が嫌だって言ってますってなって、蘇らなかった流れは見たことがない。

 

「それは、ねねらしいな……だがそれでも、僕の考えは否だ」

 

「……」

 

 どうやら、与党と野党の党首会談のように、彼は予め相手の考えを否定する準備をして対話に臨んでいるようだ。

 

「なるほど。でも、実際問題、俺が何か言った位で、理事長が諦めることなんて……うん、正直考えられないな……どうしたもんか……」

 

「熱量が足りない。君は僕がどんな言葉を授けたとしても、最後はねねの気持ちを尊重する。そうではない……それでは余りに足りない……君が全身全霊を以てして長期的に強硬な構えを見せ続ければ…………彼女とて考え直す」

 

「それはちょっと……」

 

 足りないというより、俺にはないと言った方が正しい。ないものは出せない。

 

「記憶を持っていると言っただろう? 君は未だに、妹から期待されている……つまりは、能力の成長だよ。限界まで高められれば、求めている死者の蘇生も叶うかもしれない」

 

「えっ? ない……いや絶対とは言わないけど、期待するレベルじゃない。結構な金額を賭けてもいいって思う程度には、俺の能力で死者蘇生はない感じですよ」

 

 そう言われれば、確かにあの人は、俺の能力、100ポイントの先、200とか500とかについて、今でもたまに話してくる。

 

 本人からすれば、毎年四月に発表される宝くじをずっと買い続けてるような生活な訳で。外れがわかった夏以降は、あり得そうな奴の成長に期待するのも無理はないとは、思ってはいたのだが。

 

「当然、それだけではない。僕は君を買っているんだ。不躾なことをした自覚はあるが、君がよく言うように、明日がある身でもない。なりふりは構っていられないのだよ。君が否定するのも勝手だ。だが、僕は君が本気になれば、諦めさせることも可能だと考える」

 

 その買われ方、全然嬉しくない。

 

「ちなみに、俺がここで約束すれば、この場はクリアって流れになります?」

 

「君の言う、クリアの定義とは、何だ?」

 

「一応、ここは危険区画扱いで、ここが消滅すれば、無意識下にあると思われる妹さんのストレスも、この前の件に関するものは消えるので、区画の消滅がクリアの定義になります。細かく言えば、ここの核が消えた後、区画にいる学生がいなくなれば消滅、という感じです」

 

 なので、危険区画が攻略できた場合は、安全な所があればちょっとした宴を開く習わしもあったりする。まぁここで話すことではないが。

 

 彼は人間と同じ、それ以上の知性を持つが、人間ではなく思念体。何度もこの手合いとは関わってきたが、彼らには自己保存欲求がない。核である彼も、自身が消えること自体には抵抗はないだろう。目的さえ達成されれば。

 

「そちらの都合は弁えているよ……だが、ここまでのやり取りで、残念なことに気付いてしまった」

 

「っ……」

 

「ただ言葉を尽くすだけでは、君は僕の求めに応じてはくれない…………恨みはない。だからこそ、爽やかに宣誓させてもらう。君の身体は、より丁重に扱おう」

 

 いやいや、全然爽やかじゃねぇし。

 

 普段の中原とは違う趣で、目の前の相手は問答無用を現していた。

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