トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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屋台 3

 俺の名は、椚ダイゴロウ。

 

 しがない老いぼれだ。

 

 今日もこうして、時化た屋台を転がしてる。

 

 幼少はもう遥か昔だが、時代は変わっても、根っこの形はそうそう変わるもんじゃねぇ。

 

 そいつは、ガキの遊びだって同じだ。家の外から内に、愛孫も夢中になってるゲームってヤツが主役になった所で、本質は変わらねぇ。

 

 少年ってもんは、語りたいのさ。

 

 とは言っても、すぐ横に正解を知ってる大人がいちゃぁ台無しってもんだ。答えのわからねぇもの同士で、ああでもねぇこうでもねぇって右往左往すんのが楽しいんだよ。

 

 それで、守るもんが出来た頃には、そん時に唯一無二だと思ってた答えが、酷い勘違いだったとわかる。違うってぇのに、妙に輝いて見えやがる所が厄介なんだが。そういうのを、青い春って言うんだろうよ。

 

 そいつがゲームってヤツの話であっても、生き生きとした面で話す若い野郎の姿ってぇのは、この老体には眩しく見えるもんさ。

 

「――久しぶりって程の久しぶりでもないか」

「あぁ、2か月という時間は、懐かしさを感じるには少々短いようだ」

 

「2か月か……月1で飯は……結構難しいかな?」

「この辺りの時間帯で落ち合う形なら、可能だとは思うが、昨年度のように夜通しというのは厳しいだろう」

 

「だよなぁ……今日は、後何分くらい? あ、おやっさん、大根とつみれ、二つずつ」

「へい」

 

「35分が、席を立つリミットだな。ご主人、大根、蒟蒻、がんもどきを一つずつ」

「へい」

 

「あれ、今って、ワープなし?」

「いや、それも含めて、35分だな」

 

「それだと、凄ぇ勢いで戻る感じだな」

「全くだ。でも、この時間には代え難い。少し、距離を取ることも大切なんだろう」

 

「わかる……こうして気ぃ抜いて話しながらだと、大根が万倍沁みる……」

「そうだな……この癒しは、ここにしかない……足りなさを痛感する毎日にあっては、尚更だ」

 

「やっぱ大変? ちなみに俺はまー大変だけど」

 

「量や質は比較できないが、同じだな。それでも、脱毛症になる程じゃない。充実感が大分勝っているからな。それに、欧陽の方をシンが引き受けてくれてからは、他の心配な要因が、些事であったことに気付けた」

 

「それは、ある意味凄いな……俺の方も、離れてみて分かったこともあったよ。俺らの能力ってのは、適当だったり、妙にガチガチなシステムだったり……まぁ今更だけど」

 

「その観点からなら、俺達の能力は、制約も含めて、まだ恵まれている方だろう」

 

「だな。ま、ヒカリが暴走しちゃったらそれはそれで諦めよう。誤解されてるけど、あれで結構優しいから」

 

「そうか。そういえば、三月にもそう聞いていた。何故だろうな……今日までに、そのフレーズは忘却されていたらしい」

 

「一緒に行動してたら、無理ない話だな……特に、殺るモードに入ったら中々の雰囲気出すし」

 

「中々、か。俺は、本能的危機を感じているよ。それでも、食事を共にする時間は比較的平穏なんだ。いずれにせよ、心が折れない程度に諦めないことが肝心だな」

 

「そこは……色々理解した上で、頑張れとしか言えん」

「十分だ。そういえば、言ってなかったな。先週のオリエンテーリング、優勝おめでとう」

 

「おぅ、実際の所、タケルの電話が無かったら、インスピレーションも変わってたかもしれんし、ある意味ナイスアシストと言えんこともない」

 

「その解釈は、天王寺先輩に迫る前向きさだな。何か飲むか? 数年後なら、わざわざ聞く必要もないんだろうが」

 

「うーん……ジンジャエール?」

 

「ご主人、ジンジャエールを二つ」

 

「へい」

 

「あぁそういや……っと、あざっす。んじゃ、テキトーに乾杯」

 

「乾杯。追加で、大根とつみれを二つ、こちらには大根とはんぺんを一つ」

 

「へい」

 

「それで?」

 

「うん? あぁ、そこまで意識はしてないと思うけど、情報を耳にしたら、勝手に頭が考えちゃうだろ? 外の進捗……相手のこととか、結構わかった?」

 

「断定は困難だが、状況証拠はそれなりに積み上がってはいる。俺は、彼らのやり方に口を出すつもりはない。個人的には、協力したい所ではある。不可能だと知りながらも無血を目指す。ただ実情は、借金の利息だけを返済していくような流れになりつつある」

 

「だと思った。イチルはともかく、他の面子がいつまで我慢できるかだな……」

 

「その方向で言えば、欧陽の方かもしれない」

 

「あいつは我慢しないからなぁ……確かに、焼け野原になってもいいなら、それが一番早い方法だし、それを望んでる人間もそれなりにいそうではある」

 

「その人間達の流儀に倣っても、金と時間で命が買える、とは考えてもらえないものか」

 

「時間を掛けたら犠牲が出る、っていう考えなのかな。でも、人死は出てないからなぁ……とは言っても」

 

「これから出る、という推論は、否定し切れない、か。現在、彼らが追っている件、儲けの大きさから、手口に能力が絡んでいることは揺るがない」

 

「で、それは本命じゃなさそう?」

 

「事が明るみに出た時点で、能力者の関与は途切れている。そちらへ目を向けさせるため、それに、活動資金の捻出も兼ねているのだろう。リベートは、莫大な儲けに比べれば足が付きにくい程度の額だと思われるが」

 

「そんな金で飯食っても、この旨さは出せないと思うんだけど、そこは価値観の相違だな」

 

「どのような行為が手を汚す……そもそも、そういう概念を持ち合わせていない者の集まりか……あるいは…………」

 

「うん?」

 

「――タケル? やっぱタケルじゃないの」

「えぇっ! あ……中之島君……」

 

「レイカに、小林さんか。少々強引だったが、時間を作ったんだ。シンの方が、書類も用意してくれたしな」

 

「書類的には、今日の日付が変わるまで学園にいても平気なんだけどな」

 

「二人共、こんなギリギリな時間に食べてるとか、あんまりやると、マスターに迷惑よ」

 

「時折であれば、目を瞑ってくれるようだ。俺の方は後30分程だが、二人も一緒に、どうだろう? シン以外の口からも、色々と聞きたい」

 

「あ、うん。じゃ、失礼して。おじさん、私にも大根とはんぺん」

 

「へい」

 

「小林さん、もうご飯食べたって言ってなかった?」

 

「まぁ、現地に来て匂いを嗅いだら無理だろ。レイカも、ラーメンばっか食ってないで、たまにはおでんもどうよ?」

 

「アンタはおでんじゃなくて、つみれと大根でしょ」

 

「まぁまぁまぁまぁ。ここではのんびりしようぜ。あ、タケル、そういや、この前言ってた本の――って、何すか? この紙束」

 

 

「決まってるでしょ。アンタが明日に回して、ついさっき朝一で必要だって連絡が入った書類よ。言っておくけど、杉浦教官からだから」

 

「…………勘弁してくれ……」

 

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