俺の名は、椚ダイゴロウ。
しがない老いぼれだ。
今日もこうして、時化た屋台を転がしてる。
幼少はもう遥か昔だが、時代は変わっても、根っこの形はそうそう変わるもんじゃねぇ。
そいつは、ガキの遊びだって同じだ。家の外から内に、愛孫も夢中になってるゲームってヤツが主役になった所で、本質は変わらねぇ。
少年ってもんは、語りたいのさ。
とは言っても、すぐ横に正解を知ってる大人がいちゃぁ台無しってもんだ。答えのわからねぇもの同士で、ああでもねぇこうでもねぇって右往左往すんのが楽しいんだよ。
それで、守るもんが出来た頃には、そん時に唯一無二だと思ってた答えが、酷い勘違いだったとわかる。違うってぇのに、妙に輝いて見えやがる所が厄介なんだが。そういうのを、青い春って言うんだろうよ。
そいつがゲームってヤツの話であっても、生き生きとした面で話す若い野郎の姿ってぇのは、この老体には眩しく見えるもんさ。
「――久しぶりって程の久しぶりでもないか」
「あぁ、2か月という時間は、懐かしさを感じるには少々短いようだ」
「2か月か……月1で飯は……結構難しいかな?」
「この辺りの時間帯で落ち合う形なら、可能だとは思うが、昨年度のように夜通しというのは厳しいだろう」
「だよなぁ……今日は、後何分くらい? あ、おやっさん、大根とつみれ、二つずつ」
「へい」
「35分が、席を立つリミットだな。ご主人、大根、蒟蒻、がんもどきを一つずつ」
「へい」
「あれ、今って、ワープなし?」
「いや、それも含めて、35分だな」
「それだと、凄ぇ勢いで戻る感じだな」
「全くだ。でも、この時間には代え難い。少し、距離を取ることも大切なんだろう」
「わかる……こうして気ぃ抜いて話しながらだと、大根が万倍沁みる……」
「そうだな……この癒しは、ここにしかない……足りなさを痛感する毎日にあっては、尚更だ」
「やっぱ大変? ちなみに俺はまー大変だけど」
「量や質は比較できないが、同じだな。それでも、脱毛症になる程じゃない。充実感が大分勝っているからな。それに、欧陽の方をシンが引き受けてくれてからは、他の心配な要因が、些事であったことに気付けた」
「それは、ある意味凄いな……俺の方も、離れてみて分かったこともあったよ。俺らの能力ってのは、適当だったり、妙にガチガチなシステムだったり……まぁ今更だけど」
「その観点からなら、俺達の能力は、制約も含めて、まだ恵まれている方だろう」
「だな。ま、ヒカリが暴走しちゃったらそれはそれで諦めよう。誤解されてるけど、あれで結構優しいから」
「そうか。そういえば、三月にもそう聞いていた。何故だろうな……今日までに、そのフレーズは忘却されていたらしい」
「一緒に行動してたら、無理ない話だな……特に、殺るモードに入ったら中々の雰囲気出すし」
「中々、か。俺は、本能的危機を感じているよ。それでも、食事を共にする時間は比較的平穏なんだ。いずれにせよ、心が折れない程度に諦めないことが肝心だな」
「そこは……色々理解した上で、頑張れとしか言えん」
「十分だ。そういえば、言ってなかったな。先週のオリエンテーリング、優勝おめでとう」
「おぅ、実際の所、タケルの電話が無かったら、インスピレーションも変わってたかもしれんし、ある意味ナイスアシストと言えんこともない」
「その解釈は、天王寺先輩に迫る前向きさだな。何か飲むか? 数年後なら、わざわざ聞く必要もないんだろうが」
「うーん……ジンジャエール?」
「ご主人、ジンジャエールを二つ」
「へい」
「あぁそういや……っと、あざっす。んじゃ、テキトーに乾杯」
「乾杯。追加で、大根とつみれを二つ、こちらには大根とはんぺんを一つ」
「へい」
「それで?」
「うん? あぁ、そこまで意識はしてないと思うけど、情報を耳にしたら、勝手に頭が考えちゃうだろ? 外の進捗……相手のこととか、結構わかった?」
「断定は困難だが、状況証拠はそれなりに積み上がってはいる。俺は、彼らのやり方に口を出すつもりはない。個人的には、協力したい所ではある。不可能だと知りながらも無血を目指す。ただ実情は、借金の利息だけを返済していくような流れになりつつある」
「だと思った。イチルはともかく、他の面子がいつまで我慢できるかだな……」
「その方向で言えば、欧陽の方かもしれない」
「あいつは我慢しないからなぁ……確かに、焼け野原になってもいいなら、それが一番早い方法だし、それを望んでる人間もそれなりにいそうではある」
「その人間達の流儀に倣っても、金と時間で命が買える、とは考えてもらえないものか」
「時間を掛けたら犠牲が出る、っていう考えなのかな。でも、人死は出てないからなぁ……とは言っても」
「これから出る、という推論は、否定し切れない、か。現在、彼らが追っている件、儲けの大きさから、手口に能力が絡んでいることは揺るがない」
「で、それは本命じゃなさそう?」
「事が明るみに出た時点で、能力者の関与は途切れている。そちらへ目を向けさせるため、それに、活動資金の捻出も兼ねているのだろう。リベートは、莫大な儲けに比べれば足が付きにくい程度の額だと思われるが」
「そんな金で飯食っても、この旨さは出せないと思うんだけど、そこは価値観の相違だな」
「どのような行為が手を汚す……そもそも、そういう概念を持ち合わせていない者の集まりか……あるいは…………」
「うん?」
「――タケル? やっぱタケルじゃないの」
「えぇっ! あ……中之島君……」
「レイカに、小林さんか。少々強引だったが、時間を作ったんだ。シンの方が、書類も用意してくれたしな」
「書類的には、今日の日付が変わるまで学園にいても平気なんだけどな」
「二人共、こんなギリギリな時間に食べてるとか、あんまりやると、マスターに迷惑よ」
「時折であれば、目を瞑ってくれるようだ。俺の方は後30分程だが、二人も一緒に、どうだろう? シン以外の口からも、色々と聞きたい」
「あ、うん。じゃ、失礼して。おじさん、私にも大根とはんぺん」
「へい」
「小林さん、もうご飯食べたって言ってなかった?」
「まぁ、現地に来て匂いを嗅いだら無理だろ。レイカも、ラーメンばっか食ってないで、たまにはおでんもどうよ?」
「アンタはおでんじゃなくて、つみれと大根でしょ」
「まぁまぁまぁまぁ。ここではのんびりしようぜ。あ、タケル、そういや、この前言ってた本の――って、何すか? この紙束」
「決まってるでしょ。アンタが明日に回して、ついさっき朝一で必要だって連絡が入った書類よ。言っておくけど、杉浦教官からだから」
「…………勘弁してくれ……」