トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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第三章 6月
事後処理の残りカスな朝


 ソロプレイ、という概念は、既に一つのスタイルとして確固たるポジションを得ているのではなかろうか。

 

 生涯独身を選択すること、ゲームプレイは言うに及ばず、カラオケや焼肉、テーマパーク、直の友人には幼少期、一人野球を3シーズン程プレイしていたという猛者も、現実に存在する。

 

「……ソロキャンプもいいかもな」

 

 野球は勘弁だが、キャンプはアリ寄りのアリかもしれない。

 

 一人用テントの中で朝を迎えた俺は、そんな感想を抱いていた。キャンプ用品区画で一番レビューの高い商品を購入したのも良かったのだろう。

 

 斑鳩先輩は絶対に拒否るだろうが、タケルを筆頭に学生会男面子を誘ってキャンプもイイかもしれん。寝起きの段階でコーヒーが飲みたいので、タケルの参加は必須か。きっとアイツなら、手間を楽しんで淹れてくれる。

 

「早っ……」

 

 身体が勝手に着替える中、スマホに目を向ける。

 

 脳内予定とは30分程前倒しになってしまった起床を若干悔いつつ、諸々の用意が面倒ということでこっそり持参した便利エイドス『整髪、洗顔、歯磨きを終えた状態に致します』を、ゆっくりと全身に吹き掛ける。

 

「…………うん? ちょっ!」

 

 突如として投げ込まれた何かから大量の煙が吐き出され、居心地の良いソロ空間が一気に瓦解する。

 

「――ってけむっ! ぐふぁっ! ゴホッ、ゴッ――ふぅ……」

 

 燻煙式殺虫剤により強制退去を喰らった昆虫のようにテントを転げ出る。寒さは置いといて、空気がとても美味しい。

 

「意外と脱出が早かったわね」

 

「おいおいおいおい。駄目だろそれはっ! テントの中に煙幕は人の道を外れる行為だろっ! っていうか中原も止めろよっ! 上の暴走を止めるのも、所轄の仕事だろっ!」

 

「確かに、相手が先輩でなければ、非人道的な行いだと思います」

 

「何で俺が相手なら人道に触れないんだよ……」

 

 見下ろす二人に抗議を投げるが、その数的不利からか、思考は瞬時に戦略的撤退を推奨してくる。そして秒で従う俺。

 

「てか早くね? 起きるの」

 

 立ち上がってケツを払う。

 

 現在地は『豪雪区画』、マップ的には多分その中心を少し外れたキャンプ用地点であり、局地的に吹雪いていないこの場所で一晩を明かしていた。一応、ここも特殊指定区画である。

 

 用件は、理事長ストレス解消の出涸らし、寒いトコで反省したいという欲求から出現したミッションも明け方に完了、場には既に事後感が流れている。

 

 6月に入ったというのにしつこいとも思ったが、そんな程度では表現できない位にしつこいことをしようとしている理事長殿を考えれば、大したことではないと思い直した次第である。それに、やっぱ先日の霊園区画は不完全燃焼気味だったみたいだし。

 

 ちなみに、6月なのに三人共ダウンジャケットを着用している。レッド桐島、ホワイト中原、ブラック俺。

 

「朝ごはん。早くお湯沸かして」

 

「おっ、そうだった。元々はそれが楽しみで来たんだった」

 

 性能的には素晴らしいが、だからこそ留まり続けてウザい煙を能力で軽く吹き飛ばし、テントの裏に放置しておいた巨大なボックスを持ってくる。

 

 泊まりでないとミッション達成不可能だと知り、中原と二人でとんぼ返り、各種準備を超絶速度で終えた所で、レイカに見つかったのが運の尽きだった。まぁ今となっては別にそうではないが。

 

 中原の「就寝するテントが別であれば何の問題もないかと思います」という塩な発言と諸々の面倒臭さにより、このまま押し切ろうとしたのだが、客観的に見れば異性の後輩と二人で外泊など学生会的に許されることではなかった。

 

 また、オート拳銃を18発乱射して溜飲を下げてくれたと思っていたが、一度寝て怒りがぶり返したのだろう。奴にはよくあることなので、あまり気にしないでおく。

 

「うん……一応ムードを重視して沸かすか……先、選んでいいよ」

 

 大は小を兼ねる精神で詰め込み過ぎたのか、お湯の入った保温ポットもあったが、ミニテーブルと簡易コンロ、ヤカンと天然水ペットボトルを取り出してパパっとセット。後は時間が解決してくれる。

 

「っ……文句を言う訳じゃないけど、選択肢が凄いわね……うーん……」

「では、私はかき揚げそばときつねうどんをいただきます」

 

 迷うレイカとは対照的に、中原は即決で包装を破いている。部屋にあるの全部詰め込んできたのはやり過ぎだったかも。

 

「あっ、二つ……確かに、それで解決するわね」

「朝からカップ麺二杯って……まぁ別に構わんけど」

 

「シン、このもやしそばって、サンマーメンとは違うのよね?」

「あぁ、違う違う。もやしそばはとろみ無しだね」

 

「……だとしても……どちらも美味しそうね……」

「両方やるから、一つはお持ち帰りにしなさい」

 

「では、先輩、この魚介やきそば、持ち帰ってもよろしいですか? 後、見たことのある商品がないのですが、これらは全て、即席麵区画の商品なのでしょうか?」

 

「うん、全部そこのだ。正直、あるの控え選手だし、欲しいのあったら持って帰っていいぞ。また備蓄したいし」

 

 タケルがいなくなって、消費量は逆に減った気がする。いや、マコトが静かに苦言を呈してくる方が要因としてはデカい。

 

 結局、レイカはサンマーメン、俺は焼きそば、中原はそばうどんに加え、焼きそばに付いてた捨て湯で作るスープを平らげた。経験者なら分かるかと思うが、野外で食べるカップ麺は三割増しで旨い。

 

「うーん、コーヒーミルって、どう思う?」

 

 手早くお片付けタイム。こういう時、人間離れした身体能力は非常に便利。

 

「さぁ、少なくとも、アンタには遠い物だと思うわよ。私もそうだけど、マコトとかタケルみたいな人達のためにあるんじゃないの」

 

「残念ながら同意見だ……帰るか。この風景は雪山区画で間に合ってるし」

 

 ドMでもないし、吹雪に需要はない。基本的に、体脂肪率が低い人間は、雪山には近付きたくないものだ。まぁ知らんけど。

 

「はい。時間帯で変わるのか、今は吹雪も収まっているようです」

「ナイス。で、どうしよっか? スノボで下る?」

 

「どっちでもいいけど、アンタ、そんな巨大な箱を背負って滑るの?」

「いや、勢いよく跳んで空中でパージしたら大惨事じゃね?」

 

「滑ってる途中のパージでも大惨事かと思いますが」

 

 違いない。

 

 特に会話もなく、流れのままに用意されているスノボを装着し、広いゲレンデ的坂道をのんびりと下っていく。自然と俺が一番左、グーフィースタイルだったら右になっていただろうが、無論この上なくどうでもいい。

 

「土日だったら良かったんだけど、帰りが月曜になっちゃって申し訳なかったな」

「いえ、現在時刻は7時過ぎですし、問題はありません」

 

「必修のテーブルは……無かったよな。月曜、1限ってあんの?」

 

「先輩には信じられないことかもしれませんが、月曜日から金曜日までの五日間全てにおいて、1時間目はあります」

 

「隙あらば口撃してくんの止めようぜ……」

 

 そうだった、気がする。一年のこの時期にはもう、斑鳩先輩に毎日引っ張り回されていたため、あまりエピソード記憶として残っていないのである。

 

「私の方は結構ギリギリになっちゃったかしら。それでも、パッとシャワーを浴びる時間はありそうね」

 

「また、レコーディングだっけ?」

 

 大分景色が開けてきた。陽の控え目な青空、広がる銀世界な山々、外国には天然のコースが数多くあると聞くが、そこそこ手軽にこういう体験ができるのは、この学園に入った役得の一つかもしれない。

 

「また、っていう程の頻度じゃないわよ。スケジュール的に、月の始めが多いのよね」

「もうずっとだけど、バイタリティ凄ぇな」

 

 超絶に忙しいはずなのに、要所でこっちにも気を配ってくれるのはホントに助かっている。正直、面々の士気の部分も含めて、レイカがいないと今の学生会は回らない。

 

「ま、アンタに負ける気はないってこと。それより、サヤの成長速度、どう考えても普通じゃないわよね。今年のクリスマスには、立場逆転してるんじゃない?」

 

「そもそもが上下関係で上に立っている感覚薄いけどな……」

 

 色々置いといても、頼りになる後輩と言ったら中原って感じになりつつある今日この頃だ。

 

「……遺憾ながら、先輩のエネルゲイアは負けないことに長けています。臥薪嘗胆を思ってはいますが、未だ明確な勝機は掴めずにいます」

 

 この後輩、バリバリに復讐するつもりやん。リベンジは何も産まないという理を知らんのか。

 

「アドバイスとしては、やっぱり一撃で仕留めるってことね」

 

「はい、確かに、レイカさんのエネルゲイアなら十分可能だと思います。私も、自分なりに励みたいと思います」

 

「ターゲットがいるとこでする話じゃねぇんだけど……もうちょっと平和な話題はないのか……」

 

 少なくとも、月曜の朝から持ち出す話題じゃない。

 

「そういえば、稀崎先輩はもう帰られているのでしょうか?」

「多分、もう着いてるんじゃ――あっ、いけない……朝ごはん、作ってくれてるかも……」

 

「実家から帰ってきてすぐルームメイトの分まで飯作るとか、正気の沙汰じゃないけど、マコトなら全然あり得るな」

 

 レイカのことを羨ましがる人間は多いが、何気にその一つはマコトがルームメイトであることだったりする。まぁ、同性目線で考えても、全力で共感できる話ではある。

 

「今からメッセ送っても、時既にオープンリーチじゃないか?」

 

「っ……よし、サンマーメンだけにしておいた判断は正しかったわ。それに、レコーディングはカロリー使うし」

 

 昨日は同行が目的だったから先に寝てたし、体調は万全なのだろう。俺としても、マコトの作った朝飯なら焼きそばの後でも全然入る。

 

「あんま覚えてないけど、去年もこの時期って、ちょいちょい実家に戻ってたんだっけ?」

 

 家の事情に加えて、マコトは品行方正だから、学園側もかなり配慮してくれる。先月の週末は結構外泊してた気がする。申請書類出すの俺だしね。

 

「そうね。きっと、ご実家のサイクルがあるんじゃないかしら。良くも悪くもって言うけど、マコトを見てれば、家の温かさも何となくわかるわよね」

 

「普通に家の明るい話題出るもんな。曾曾曾位のお爺さんとも話したし、きっと恵まれた一族なんだろうな」

 

「不勉強でしたが、稀崎家と言えば、伝統工芸の世界では有名なようです」

 

「漆器とかしか馴染みがないけど、検索したら普通に出てくる感じだしな」

 

 家は国で、外からは見えんと言うが、マコトは既に将来を見据えて経営とかの勉強に取り組んでいる。それを知ってる身としては、良好な家族関係を想像するし、期待もしてしまう。

 

「昔からの職人家系で、地域では特に重要な縁起物とされているって話ね」

「で、年の離れた兄貴が二人いて、妹さんがいるんだっけ?」

 

「えぇ、だから跡取り問題も、大きな波風は立たないみたい」

 

 ご両親、頑張ったんだねぇ、と口には出せないが思ってはしまう。これはもうどうしようもない。そしてかなり羨ましい。

 

「でもまぁ……」

 

 諸々あるし、ちょっと前に何か若干様子がおかしい感じもしたから、チャンスがあったら声を掛けておこうとは思う。もちろん、家の悩みがあったとしても、大した力にはなれんが。

 

 そして、気持ちよく滑れる傾斜を楽しんでいると、視界の奥にはロッジとメインポータルが見えてくる。とりあえず、6月であってもスノボは楽しいという真実を得た。

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