トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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遊びの予定は風の前の塵に同じ

 雪山帰りの月曜日、メインポータルでパーティ解散、トランクルーム区画を経由して、学園区画の中央広場に戻ってきた。レイカはお仕事、中原は授業、俺はフリー、何だか楽しいシチュエーションではある。

 

「…………さて」

 

 外部委託はいつ入ってもおかしくないが、依頼はちょうど途切れている。重ねて、マストオーダーがないことを心中で噛み締める。

 

 俺は、でなく、学生会副会長は忙しい。正直、予定が白紙という時間に少し戸惑う程、日々のスケジュールは埋まっている。

 

 

 今この瞬間は、ギャルゲーで言えば選択肢が出ている感じだ。

 

「……」

 

 リゥと遊ぶ。

 久しぶりに温泉区画でゆったり。

 ご無沙汰の監獄区画で精神修行。

 急ぎでもない書類を片付ける。

 

「…………」

 

 最後はない。俺はそこまで自分に厳しくなれない。

 

 修行もなくはない。これから結構ハードな展開が予想される訳だし、ⅤⅠP機能を使用すれば地獄の体験を手軽に味わえるだろう。

 

「……いや、最近リゥと遊んでない」

 

 決定。この着順はもう変わりません。外れた馬券、車券、舟券は派手に千切ってゴミ箱に捨てましょう。

 

 俺は、近くのベンチに悠然と腰掛け、意気揚々とケツポケットからドッグタグを取り出す。

 

「っ……嘘だろ……」

 

 が、しかし、スマホが無情な振動を伝えてくる。本能が処理を拒絶しているが、これが着信であることを脳が勝手に理解してしまう。

 

「レイカて……」

 

 表示された文字列からは、トラブルの匂いしかしない。だって本来なら、今俺に電話掛けてる暇なんてないはずだから。

 

「ふぅ……っ、どした?」

『まだわからないけど、トラブルかもしれないわ』

 

「いやそれ絶対トラブルだよ……で、状況は?」

 

 決定。リゥとは遊べない。車券をグチャグチャにしてポイ。

 

『マコトが帰ってないの。それだけなら、まだいいんだけど、電話も繋がらないし、メッセにも、既読が付かない……』

「あぁ……マコトに限って言えば、何かあったっぽいな……思い当たることは?」

 

『さっき、ちょっと話してたわよね。実家で、何かあったのかもしれないわ』

「まぁ、状況的にも一番確率高そうだしな……いや、レイカ、もう時間ないだろ? 後は俺が引き継ぐ。情報が更新されたら、メッセに送るから」

 

『っ……ちょっと…………レコーディングずらせないか、聞いてみる』

 

「止めとけよ……マコト、死ぬ程凹むぞ。それに、現在進行形で申し訳なく思ってるだろうし」

 

 らしくない、訳でもない。マコトは普通に、人を頼るのが下手なので。そしてレイカも結構その属性アリ。

 

『…………ごめん、任せる。終わるまでは、こっちに集中する』

 

「うん。メッセは送るとして、夜連絡するわ」

 

『外泊許可って、今日一杯なの?』

 

「いや、午前中。そこは延長申請を自作自演しとくけど、伸ばせても明後日までだな。それ以上だと、今後マコトの外泊は許可が下りなくなると思う」

 

『っ……まさか、あの子が斑鳩先輩と同じ汚名を着るかもしれないなんて……』

 

「うわ地味にそれ嫌だな。とにかく調べるわ。あ、最後に、マコトの実家の住所、送っといてもらっていい?」

 

『わかった。多分、もうサヤがそっちに着くと思う。じゃ――』

 

 通話が切れる。レコーディング当日に親友が安否不明とか、ガチで漫画のキャラみたいだと思った。

 

「っ……おー、正に入れ替わるようにだな」

「それで、行動指針はあるのですか?」

 

 黒髪黒セーラー 黒スト、フラットな中原が参上する。多分、朝飯目当てで同行したのが幸いだったっぽい。

 

「多分、身に危険が迫ってるとかじゃなくて、ここに戻って来れないような困りごとを抱えているんだろう。とは言え、何が起きても不思議じゃない世の中だ。安否確認はしたいな」

 

「稀崎先輩の実家は、京都です。走る訳にもいきませんし、新幹線、ですか?」

 

「最悪、それだな。でもその前に、正攻法を試してみたいから、とりあえず学生会館に行こう」

 

「わかりました」

 

 ほぼ同時にジャンプ。

 

 ついさっきまでとは見え方の違う青空に見下ろされながら、東側の入口付近に着地する。

 

「おっ、早いな。もしかして、部室で寝てたん?」

 

「いえ違いますって。部室にいたのはそうですけど、こっちの食堂で朝食を取ってたんですよ」

 

「っ……御手洗先輩?」

 

「あ、あぁ中原さん……ということは……珍しいですね。学生会、もしくは依頼の用件なんですか?」

 

 放送部部長、御手洗ケイジロウ、二年。学園内では実況の眼鏡で通っている、はず。放送部はこの前のオリエンテーリング大会のように、協力してもらうことが多いので、結果的に接点はそこそこ。いいヤツだが、ビビリなのが難点だ。

 

「ちょっと緊急のアレで、さ。だから、ささっと地下まで御同行願いたい」

 

「はっ、あ、あぁ……そういう、こと、ですか。わかりました」

 

 理解してもらった所でとっとと歩き出し、無人なのを確認して一階のエレベーターを起動、三人仲良く乗り込む。

 

「まぁ、これに関してはレイカさんも咎めないかと思います」

「だよな。中原にそう言われると心強いわ」

 

「っ……そのような言葉を向けられているのに、何故か不本意に感じてしまいます」

 

「あ、あのぉ、副会長? 僕に、危険は、ない……ですよね?」

 

「ないないない。安心しなさい」

「もし本当に安心させるつもりなら、言い方を改めるべきかと」

 

「えっ? あ、あのぉ、それはどういう……」

 

「大丈夫だって……」

 

 地下に到着。余裕があったら金井先輩と駄弁りたい所だが、それはまたの機会に。

 

「御手洗先輩のエネルゲイアを、私も見てよいのでしょうか?」

 

「えっ? あぁ、中原さんなら問題ありませんよ。今後も、同じようなことがあるかもしれませんし」

 

「ねねさん、いないか。多分、動画観ながらポテチとか食ってんだな」

 

 地下の巨大な扉に設けられた機能するドア、その非常灯が赤く点灯している。

 

「先輩、一応確認なのですが、魔王との遭遇は絶対にないと考えてよいのですか?」

 

「魔王っ! えっ? そんな存在がいるんですかっ?」

 

「次の襲来予定は七月だ。だから大丈夫」

 

 今度ねねさんが報告ミスったらどうなるのか。逆に開き直って大したストレスにならない説もワンチャンあるかもしれん。まぁないけど。

 

「ちょっ、ふ、副会長っ! そんなのがいるなんて、聞いてないですよっ!」

 

「いやいや言ったら怖いだろ? 夜更かしした小っちゃい子に寝ないと怪獣おじさんが来るんだぞぉって言ったら怖くて寝るだろ? そんな感じだ」

 

「えっ? ちょ、何言ってるかわかんないんですけど……」

 

「いいから行くぞ」

 

 もたついてると新幹線に抜かれてしまうので、ドアを開けて中へと進む。

 

 朝から黄昏。

 

 頼んでもいないのに能力が底上げされる感覚が身体を巡る。でも気にしない。

 

「っ……」

「あ、中原、大丈夫?」

 

 ヤバい、そういや忘れてた。そもそも中原同行させる必要なかったかもしれん。

 

「いえ、問題ありません。この感覚も、後ろ向きなものには感じられません。少々、強者と手合わせしたい欲求が高まってはいますが」

 

「……それはどうかと思うが、大事ないなら、まぁいいか」

 

 考えてみれば当然だが、自分が死んだ現場に来た位で騒ぐヤツではなかった。

 

 スマホでメッセを開くと、ちゃんとレイカからメッセージが届いていた。

 

「で、この住所周辺で頼む」

 

「は、はい……でっ、きょ、京都……少々、遠くは……」

 

「いやいやいや、前は冥王星とかだったじゃん」

 

「何を言ってるんですか……いや、そう考えれば、冥王星よりは大分近いのか……」

「御手洗先輩、落ち着いて下さい……」

 

 

「あ、あぁはい……では…………っ……トイレッ、サァァァァァチ!」

 

 

「説明しよう。トイレサーチとは、任意の住所近辺に設置されている全てのトイレを洗い出す秘技であるっ」

 

 無論、トワイライト状態でないと発動は不可。

 

「…………」

 

 そして先達の有り難い解説を無視する後輩。まぁ想定の範囲内だが。

 

「んで、どう?」

 

「はい……住所にあるトイレが2か所、該当しています。逆に、それ以外だと1キロ程離れてしまいます」

 

「上首尾だな。やはり良いご家庭のようだ。早速向かうとしよう」

 

「あ、あの……さすがに、京都は……それに、外出許可が……」

 

「大丈夫だ、問題ない。今回の誤魔化しにはレイカも関与してくれる。つまり、だ。もしバレても責任は分散される。だから安心するんだ」

 

「えっ? あ、なる、ほど……」

「御手洗先輩、落ち着いて下さい。それは全く大丈夫ではありませんし、同様に安心もできません」

 

「っ……そ、そうですよっ! ただでさえ、僕はマークされてるんですからっ」

 

 普段通りのノリで押し切るはずが、どうやら中原を帯同させたのは悪手だったらしい。

 

「まぁやむなしか。なら、すぐカムバックしていいから。とにかく戻ろう」

 

「……」

 

 どうやら中原は静観を決め込んだ様子。ならばと気にせず我々は物騒な地下を後にする。

 

「な、中原さん、魔王って、何なんですか?」

「……自律式の危険な巨大無機物です」

 

「そ、それは……恐ろしいですね……」

 

 全然伝わってない気がしないでもないが、捨て置く。

 

 エレベーターで一階に戻り、階段で三階へ上がり、爆速で各種書類を処理して小林にメッセ、カフェスペースの端にある男子トイレに入る。その際の中原の足取りに迷いはない。

 

「……そうだな。中原、留守を任せたい。と言っても依頼はない。でも外部委託が入るかもしれないから…………うん、今危険な展開はない。俺の不在を理由に断ってもいいし、行きたかったら行ってもいい。別に俺が言わなくても、油断はしないだろうし」

 

「わかりました。それで、御手洗先輩は何をしているのですか?」

 

「うん? 見て分からんか? 便器を磨き上げているんだよ」

 

「……その行為の意味する所を尋ねたのですが、何故それを察した上で、そのような無為な言葉を返すのですか?」

 

 一瞬で返しの圧が増す。男子便所でキレる女子後輩。

 

「おいおい、もうちょっと会話のキャッチボールを楽しめって……」

「それは構えたミットに投げない先輩の方に問題があるかと」

 

「野球例えでもきっちり返してくんのな……」

 

 そういえば、お爺ちゃんが普通に野球好きらしい。

 

「――ぅん……うん、いいでしょう。い、一応、準備は整いましたが、行くのは、副会長だけでいいんですね?」

 

「あぁ、今そう決めた」

 

「つまり、トイレをポータルとして、空間跳躍するエネルゲイア、ということでいいのでしょうか?」

 

「はい。少々補足しますと、一定以上清潔なトイレでなければなりません。後は、トイレの場所を予めイメージ内で登録しておくことも必要です。これはつまり、セーブデータのような概念ですね」

 

「はい、理解できました。ありがとうございます」

 

 御手洗的に、中原なら問題ないと判断したんだろう。これを知った人間の多くはおてあらい、酷ければトイレとか便所とかクソ野郎みたいな渾名を付けるはず。そうでなくとも、脳裏を過ぎってしまう。悲しい思考の落とし穴だ。

 

 こいつもそれで悩んでいる時期があったのだが、天王寺先輩という光に救われたそうな。俺はその経緯をあんまり知らん。

 

 ということで、目標座標を考えて先に靴を脱ぎ、広めの個室トイレにインする。

 

「正直、昼飯までには戻りたい。で、結局無駄足させちゃって申し訳ないけど、諸々頼む。が、とりあえず授業頑張って」

 

「いえ。一応、気を付けて」

 

「おぅ。じゃ、行ってみよ」

「も、もう、大丈夫ですよね? 僕はタッチアンドゴーで戻りますよ」

 

 そういう言葉だけ妙に力強い御手洗君。

 

 

 

 

「――おっ、とぉ……毎度のことだけど、トイレからトイレだからなぁ――ってもういねぇし……」

 

 宣言通りのタッチアンドゴー、現在地確認すらせずに消えた水先案内人。まぁ期待通りの働きなので文句はない。

 

 

 そんなこんなで関西圏へ到達したらしい 学生会の面々にお土産を買いたい衝動に駆られるが、各地のアンテナショップ区画で間に合っていることを思い出す。

 

「……」

 

 ということで、誰かが用を足しに来たら終わるので、ここに留まるのは避けたい。不法侵入の上に発見場所がトイレというのは、罪に恥とキモさが加わるであろう。

 

 当然ながら、稀崎家のトイレは清潔、芳香剤の香りが和な感じだったが、恐る恐る扉の外へ出ると、やはり見た目は古き良き日本家屋。トイレは2か所とのことだったが、パッと見は平屋。中原の実家に敷地面積と高級感を足したような住空間であった。

 

「現在地は縁側の突き当りか」

 

 こんな所に住みたいと思う気持ちもあるが、季節によっては虫と暮らす感じになりそうなので、ちょっと思い止まっておく。

 

 そして人の気配はあるが、とても静かで、話し声も聞こえてこない。

 

 早急にマコトとコンタクトを取りたい。ただ、今思えば若干勢いで来てしまった。もしマコトが建物内にいなかったら、一気にどん詰まるのが揺るぎなき現状である。

 

「まぁ、スニーキングミッションには慣れてはいる」

 

 もちろん、本来慣れてはいけない分野であることは言うまでもない。

 

「……」

 

 気配を殺し、縁側を横断、左手にはちょっとした庭園があり、鹿威しが一定間隔で爽やかな音を立てている。間違いなく金持ちの家だ。

 

 確か、マコトとの雑談の中で、稀崎家の朝はそりゃもう早いと聞いたことがある。ちなみに、マコトは学園で暮らす現在も、毎日自動的に5時起きらしい。考え方によってはギリギリ深夜と捉えている人間もいるだろう。深夜に起きるなんて、俺には考えられない。

 

「っ…………」

 

 難なくトイレの反対側まで進軍する。今更だが、靴を摘まみ持っている現状のビジュアルは、露見したら通報確定な塩梅に仕上がっているであろう。

 

「へぇ……」

 

 気配とは違うものの、養われた感覚が情報を伝達してくれる。やはり、古いだけの家ではないようだ。

 

 って所で、先行して気配を補足、障子の向こうに人間が一人座っている。しかも多分女性。確かめない理由はない。

 

「さて……」

 

 李教官の無茶な教えに従い、存在の無を体現、秒速1ミリのスピードで障子を開いていく。

 

 

「――――――」

 

 

 飛び込んできた強烈な視覚情報に、編み込んだ無の境地が瓦解、反射的に振り向いた女性と目が合う。

 

 着物、和服、いや、あれは作務衣というヤツか。

 

 兎にも角にも、紺色の素朴な服を着た女性に、目を奪われてしまった。

 

「……………………」

「っ……シン」

 

 女性は何故か俺の名を呼び、慌てて立ち上がってこちらへ歩いてくる。

 

 

 ここでやっと、俺は目の前の女性がマコトであることに気付く。そして知る。これが、ギャップという概念なのだと。

 

「シン、どうして……」

 

「うん、そうだな。ただ、まずは、写真を撮ろう」

 

「は?」

 

 俺は靴を素早く縁側の下へ置き、スマホを取り出してアレコス着用のマコトへと向き直る。普段はほぼ写真機能を使用しない俺だが、今回はその範疇の外であるようだ。

 

「ま、待て……何故だ?」

 

「うん? むしろ何故、何故だ? 自分が今どういう状態かわかっていないのか? もちろん、色々とやらなきゃならんことはある。だから手早く済ませよう。そうだな……さっきと同じように、まずはそこに座ってくれ」

 

 部屋は八畳程か、高そうな箪笥に和が過ぎる鏡台、その前にある座布団を手で指す。

 

「っ……あぁ、わかった……こう、で、いいだろうか?」

 

「いや、鏡に向かって座って、こっちに振り向く感じ。つまりさっきみたいに」

 

 カメラを構えながら指示を飛ばす。中原がいたら絶対に叶わない流れだ。

 

「……これで、いい、か?」

「いい」

 

 恥じらいも足されてポイントは更に上昇。

 

 とりあえず撮りまくる。

 

 シャッターを押しながら、俺は考える。

 

 まるで、揺蕩う水面に立っているような、曖昧ながらもスッキリとした思考状況。

 

 ゆっくりと、時間が流れている。

 

 議題はそう、一体俺は何にグッと来たのだろう。

 

 正直な話、着物属性は所持していない。和服も同様だ。

 

 ならば何故。

 

 作務衣、本当に作務衣という代物なのかはわからない。以前温泉旅館に泊まった際、あのような部屋着が用意されていた。帯はなく、和のカジュアル。

 

 

「…………っ」

 

 

 間違いない。

 

 俺は、飾らぬ恰好で素足を晒しているマコトに、グッと来ているのだ。

 

 そもそも身体の露出自体が割と少ない。下は八分丈か。七、ではない、少なくとも、七寄りの八だ。

 

「……マジか」

 

 太腿でもなく、脹脛(ふくらはぎ)でもなく、足、足の裏。

 

 エロい、とはちょっとズレる。やはりグッと来るが適切か。

 

 

 俺はここに、新たな性癖の目覚め、祝福の風を得たり。無論、深夜テンションでなければ誰にも言えん。

 

 

 とにかく晴れやかだ。これでミッションに集中できる。

 

「よし、助かった。マコト、ありがとう」

 

 言ってから何を言っているのかわからなかったが、スルッと口から零れた台詞だった。

 

「……さすがに、何を言っているのかわからないな……それで、シン……写真なら……一緒に、撮らないか?」

 

「えっ? 一緒? いや俺邪魔だろ。余計なものが入ると、良さが曇るぞ」

 

 どうしても自分には甘い点を付けたがるが、それでも異物は異物である。いや、残念ながら汚物だな。

 

「どうにも噛み合っていないな……とにかくだ。キミの方だけ撮っている現状はフェアではない。別に……構わないだろう……」

 

 袖からスマホを出すマコト。どういう感じの収納になってるんだろう。

 

「まぁ、ド正論ではある、か。そういやツーショットってなかったかもな。んじゃ、撮ったら送ってもらってもいい?」

 

「っ……あぁ、承知した。その、タイマー機能を使用するのは、初めてだな……」

 

「えっ? いやいやいや、自撮りの要領でイケるだろ。確かに、マコトはしなそうだけど、折角だからチャレンジしてみれば? えっと、こんな感じで」

 

 寄って座り、少し肩を寄せる。そりゃそうだって話だが、匂いはいつものマコト。

 

「っ……なる、ほど。レイカがいつもやっている方法、だね。う……ん、これは、どの程度近付くのが、作法なのだろう?」

 

「うん? まぁ、こんくらいでイイんじゃないか。とりあえずテキトーに撮ってみ? ほら、これ押せば分かりやすいし」

 

 右下の矢印が掘り合ってる感じのアイコンをタップ。これで写りを確認しながら撮れる。

 

「なっ……い、いや……これは……」

「えっ?」

 

 瞬時にもう一回タップしてスマホを回転させるマコト。どうした。

 

「あ、いや、これで、チャレンジしてみるとしよう。レイカも……そうやっていた」

「へぇ、そうなんだ」

 

 何でだろ。今度聞いてみよ。プロ的な理由があるのかもしれん。

 

 マコトがシャッターを押すと、当然ながら俺のと同じ音が響く。

 

「……ほぅ、中々に引き攣っているな……」

「う、うむ……もう一度、やってみよう」

 

 緊張のマコト。大和撫子モードで一時的に男性免疫を失ったのだろうか。

 

「そういえばだけど、こうやって写真を撮ることって、俺とマコトは少なかったかもな」

 

 どう考えても、世の一般高校生に比べれば、写真を撮る回数は少ないだろう。考えちゃうと割とどうでもいいが。

 

「そう、かもしれないね……」

「これからは、後々のことも考えて、イベントの時は撮るようにしてもイイかもしれん」

 

 学生会の義務写真だけが残るのも、将来的にはどうかと思うし。

 

 

「よし…………笑えよ、マコト」

「あっ…………あぁ、そうだね」

 

 

 撮った写真はお互い、普段の表情。それでもやっぱり、マコトは作務衣補正が掛かっている。

 

 

「――障子を開け放って、何をしているんだい? 君達は」

「「――あ」」

 

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