トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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6月上旬頃 4

「――説法って。イカつい坊さんもいるんだね。ガタイぶっ壊れてんでしょ」

 

 

「一年坊か……おい、今半落ちだからよぉ、もう10分三階で時間潰しててくれよ」

 

「あぁ……チッ、こういう日に限って朝の占い見てない……そんなアナタの運気を回復させるラッキーアイテム、巨漢とかだったんだろうなぁ……アンタら、能力者でしょ? 何? ここにいる人達、始末してくれんの? だとしたら凄い助かるんだけど」

 

 今の言葉から、彼自身もそうであることは明白。眠たげに頭を掻く姿には、余裕が見える。

 

「当たりか。これが、日頃の行いってヤツか。根っこに届かなそうな下っ端でも、一番乗りは一番乗り。大将にイイ土産話ができそうだぜ」

 

「質問してんだから質問に答えろよ。筋肉に栄養吸われて言葉わかんないの?」

 

「にしても、チビが髪染めてネイルしてるとかマジで気持ち悪ぃし見てて萎えるなぁ。ショタ好きの女以外選択肢がねぇっていうのも憐れなもんだぜ。偶然財布を忘れてなかったら、牛乳の一本くらいオゴってやるんだが」

 

「っ……」

 

 どうやら、口喧嘩はモリス先輩に軍配か。感情の薄かった表情に、明確な怒りが加わる。そして、髪の色もネイルも、個人の自由である。

 

「何だよ? 煽られてキレんだったら煽んじゃねぇよ。自分がされて嫌なことは、他人にしてはいけませんって、小学校の校長先生か学年主任が話してなかったのか?」

 

「…………面倒臭いなぁ……別に、そこまで律儀に従う必要ないか」

 

 言葉通りの表情で、少年はピンポン玉に似た大きさの球体を取り出す。

 

「あん? おいおい、別に止めねぇが、煙玉でバックレとか三下のお手本だぜ?」

「……違ぇよデカブツ」

 

 少年はこちらでも足元でもなく、部屋の奥側、状況を見ている男性達の方へ球体を放る。それは空中で音も無く弾け、消える。

 

「……むっ」

 

「「っ……」」

 

 六人の男性は、ほぼ同時に倒れるが、以前の喫茶店での光景とは違い、極短い間ではあったものの、それぞれが苦悶の表情を浮かべる隙間は見られた。

 

「寝ただけだから。これで、邪魔は入らないでしょ」

 

「邪魔と言うならば、それはそちらだ、少年。俺は今、彼と話をしていた。用があるならば名乗り、言葉で伝えるのが人のやり取りというものだ」

 

「坊さんの方も、話通じなそうなんだけど……」

 

 前に出る天王寺先輩との距離は2メートル。怯んだ様子はない。

 

「思想に共感できる点は多いが、俺は僧ではない。どうやら互いに非礼はあったようだが、用件を聞こう」

 

 

「用件………………っ!」

「「――っ!」」

 

 姿勢を低くした少年が高速で右腕を振る。

 

 動きとしては、粗い横一文字。

 

 しかし。

 

 ただ空を切るのみだった手の先には、三尺程の大きな刃。

 

 それは、届かぬ距離を埋めて尚、余りある長さ。

 

「――――っ! え……何っ!?」

 

「……」

 

 

 大太刀のような刃は、大木のような右腕、その鋭利な肘によって受け止められていた。

 

 

「少年よ、ソウルが濁っているぞ。それでは、骨は疎か、薄皮にすら刃は通らん」

「そ、そーる……何……それ……」

 

 起こった現象をまだ咀嚼できていない様子の少年。そしてどうやら、明らかに人智を超えた質を誇る刃は、握られているのではなく、指先から生えているように見える。

 

「っつ……マジかよ……いや、あれが相当ななまくらってことか」

 

 モリス先輩が、苦々しく声を漏らす。

 

「いえ、あれはエネルゲイアです……我々であっても、生身で受け止められるはずは……」

 

 不意に、祖父の言葉が頭を過る。

 

 徒手空拳でのゼロ距離戦は頭突き、肘撃ち、膝蹴りの三つが肝要、それぞれは人体で最も強固に鍛え上げられる可能性を秘めている、と。発言の意図も含め、おおよそわからなかった言葉の意味。私は今、その一端を見たのかもしれない。

 

 ただ、生理的に、求めている強さとは異なるのもまた明白ではあった。

 

「目が合う前から、仕合は始まっている……少年よ。立ち合いを所望であったか。ならば、全身全霊を以て、応じよう……ふぅぅぅぅんっ!」

 

「「「――――っ!?」」」

 

 床がひび割れ、地面が揺れる。

 

 

「――ぬっ! ぐっほぁ……これは……丹田に力を込めると激しく出血することを……失念、していた……モリス、お前も十分に注意するがいい」

 

「おぉ……出来れば、もう少し早くその忠告を聞きたかったぜぇ…………あぁ、痛ぇ……色々ぶり返してきやがった……あのイカレ女、人様の身体をこんなに涼しくしやがって……これからの季節にピッタリじゃねぇか……」

 

 楽しげに話す二人の大男は、ほぼ同時に片膝を着く。

 

「はっ……はっはっ、全く以てその通りだなモリス。彼女も、粋なことをしてくれる」

「……」

 

 何故なのだろう。その背中からは如実に満身創痍であることが伝わってくる。それでも、今のこの二人と戦ったとして、容易く勝利できる展開が浮かばない。もしや、ソウルと呼ばれる正体不明の概念に、そう思わされているのだろうか。

 

「何だよ、こいつら……勝手に血ぃ流して……頭イカれてんのか……」

「……」

 

 心情的には否定したいが、理性的には肯定してしまう。

 

「っ……中原?」

「…………」

 

 片膝を着いて尚、大して目線の高さが変わらない二人の間をすり抜け、前へ出る。モリス先輩の咎めるような声も、例によって流しておく。

 

「ここは私が預かります」

 

 もしここで何故と聞かれれば、本日において、未だ実働がないからに他ならない。

 

 

「はぁ? 何を言っ――ゴッ――」

「「っ……」」

 

 

 欲求不満を覚えている時こそ、基本に忠実に。身体に任せた接近の後、目標の水月へ向けて右中段突きを放つ。手応えとしては及第点。

 

「――――――」

 

 刃の消失と両膝を着いての悶絶を確認し、二歩後退して型を中断すると、相手はうつ伏せに倒れる。意識は刈り取れていないが、十分な休息なしでは、これ以上の戦闘は困難だと思われる。

 

「ではまず、天王寺先輩から止血し、包帯を巻き直します」

 

 ポーチから先程の残りを取り出す。もう要らねぇだろ、というモリス先輩の言葉を無視しておいたのは、やはり正解だった。

 

「強ぇ……中原、お前ホントに一年か? 七夕、無双すんじゃねぇか……」

 

 立ち上がり、机にもたれ掛かるように座るモリス先輩。どうやら、天王寺先輩よりは状態が良さそうだ。

 

「……いえ、現状、私はそれ程強くはありません」

 

 包帯を取ると、どういう訳か腹部やや右下の出血は既に治まっている。空いた穴から向こう側が見えたため、反射的に包帯で隠し、手早く巻く。怪我の処置には慣れているはずが、根源的な恐怖を感じさせる絵面であった。

 

 何故こんな状態で、この人は牛丼を食したり、高笑いしたりできるのだろう。

 

「っ……重ねて感謝するぞ。先程もそうだが、包帯の巻き方が上手いな。お前自身もそうだが、良き指導者に恵まれているのがわかる」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「……中原、俺は寝る前に巻き直したいから、残りの包帯を貰ってもいいか?」

「っ……わかりました」

 

 迷いはあったが、言われた通りに包帯一式を渡す。

 

 

「――ぐっ! あ……あぁっ! はぁ……はぁ……お前ら……殺すぞ……」

 

 

 腹部を抑えながら、少年が覚束ないまま立ち上がる。明らかに、下半身の踏ん張りが利いていない。

 

「逆だろ。こっちが殺る気なら死んでるって、理解してねぇのかよ?」

「うるさい……絶対に、殺す……今決めた……」

 

「にしても、爪を刃物に変える能力か。リンゴの皮を剥きたいのに果物ナイフがねぇって時に便利じゃねぇか」

 

「っ! 黙――」

 

「「「――――っ」」」

 

「――れっ!」

 

「あん?」

 

 少年の姿が消え、途絶えた声の先が後方から届く。

 

 振り向くと、その姿は部屋の奥、窓際に移動しており、明らかにエネルゲイアによる空間跳躍だと思われた。

 

 

「ギャルに……ありゃ着ぐるみか?」

「はい、そう見えます」

 

 窓の外に張り付いているのは二人の人影、モリス先輩が言うように、一人は緑色の髪をした少女、もう一人は茶色い犬の着ぐるみ姿で、大柄だが、性別はわからない。

 

 少年が慌てて窓の鍵を開ける。

 

「――遅っそ、ちょい早めにメッセ返そうよ。ウチ超不審者じゃん。昼間だったら下からパンツまる見えだし。ほら、二号がちょっとぐったりしちゃったんだけど。それで――っていうか、何か足プルプルして生まれたての小鹿みたいじゃね?」

 

「……」

 

 あの二人もエネルゲイア所持者であることは明白であり、こちらはモリス先輩と天王寺先輩が重傷を負っている。そして、これ以上戦闘行為を行えば、周囲に露見することも考えられる。

 

 総合して、不意を突けるタイミングではあったが、見に回る。

 

 あっけらかんとした様子で窓から入室した少女は、パーマの掛かった緑色の長い髪と、派手に見える服装に目が行くものの、化粧自体は言う程厚くはないと思われる。

 

「う、うるさい……やることはやってる」

「うーんっと……わっかんねぇなぁ……おっさんの顔とか覚えてねぇし……ここで寝てる人達で全部?」

 

「そうだ。下の女は関係ないから無視していい」

 

「は? 何? ポンポン痛いの? てかボコられた? マジで? あの人達って友達じゃないん? あの金髪の人、普通にタイプだから紹介してほしいんだけど? てか、二人共レスラーっしょ? やっぱ男は筋肉だよねぇ。デュベル君も鍛えなよぉ」

 

「おーい姉ちゃん。そんなガキに言わなくても、そんだけ可愛けりゃ自己紹介大歓迎だぜ。どうやら下っ端から中ボス、その次は本命の近くまでって話か。姫や一宮の姉さんがいたら、涎垂らすかもな」

 

 口調とは裏腹に、隙のない足取りで前へ出るモリス先輩。正直、自重していただきたい。

 

「ちょーっと何言ってっか謎――じゃなくて。女の子は普通に可愛いって感じだけど、二人共どしたの? 服の中ミイラみたいじゃん……車にでも轢かれたの? 事故?」

 

 感情豊かにその表情を変化させる少女。それは心配しているのか、嘘を吐いているのか、何も考えていないのか、少なくとも私には断定できない。

 

「車ねぇ……」

「交通事故ではないが、ある意味事故というのは正しいかもしれん」

 

「うわイイ声……二人共レベル高ぇ……」

 

「っ……何で普通に話してるんだ……こいつらも能力者だ……」

 

「えっ? マジ? もしかして、レスラーじゃなくて、警察の人?」

 

 本当に気付いていなかったのか。演技をしているようには見えないが、重ねて断定できない。

 

「いや、どっちも違ぇんだよなぁ……プロレスは嫌いじゃねぇが」

 

「じゃ何なのって感じなんだけど……ヤバいよメッセ連打。戻んないとシメイちゃんに殺されるって」

 

 マナーモードにしていないスマートフォンから、連続でメッセの通知音が流れている。だが、言葉とは裏腹に、焦っている様子はない。

 

「……まだ、責任者の始末が終わってない」

 

「うわ、デュベル君ハブられてんじゃん……ここ、全部ポイだって。その人は捕まるから放っといてよし。能力も相性あるし、しかも何か追い込む相手の娘ちゃんにご執心らしいじゃん? ウチは別にだけど、男も女も皆ロリコンに当たり強めだよね」

 

「っ……」

 

 日本人にしか見えないため、あだ名だと思われるが、デュベルと呼ばれた少年は、モリス先輩を睨みながらも、窓枠に足を乗せる。

 

「おい、次からは言わねぇぞ。出頭すれば命は取らねぇし、今の所の罪状ならお勤めの後で自由にもなれる。面倒臭ぇが、今なら俺が上手く説明してやるぜ?」

 

「……」

 

 譲歩と見せかけてまだ煽るモリス先輩に対し、少年は反応しない。

 

「それ、逆だよ。ウチら、邪魔してこない限り、キミ達には危害加える気ゼロだし。今だって、ハズレくじ引いてたら事故じゃ済まなかったんだから。大人しく、用意された檻の中でのんびりしてなよ。あ、ウチ、ヒナノ。で、こっちは――ってちょ……感じ悪っ」

 

 ヒナノと名乗った少女は、窓から外へ飛び去った少年に、少し目を細める。

 

「ごめんね。まだ反抗期抜けてないっぽくて。それじゃ、殺されないように気を付けてね――――」

 

「っ……」

 

 そのすぐ後ろで、控えるように四つん這いになっていた着ぐるみの背に腰掛けた少女は、言い終わると同時に主従共々姿を消した。

 

 

「ったく、檻から追い出されたヤツはどうしたらいいってんだよ……」

 

「中原、すまない。是が非でも捕縛すべきだったか……どうにも、見極めるに至らなくてな……」

 

「いえ、相手のエネルゲイアが不明な以上、仕掛けるのは危険でした」

 

 後で思い返すことは複数あるが、まずは目の前のことから。それは揺るがない。

 

 

「……倒れる際は苦しそうな様子でしたが、今は眠っているようです」

「こちらも……うむ、全員同じ状態だと見ていいだろう」

 

「……」

 

 喝っ、と言って目覚めさせるのかと思ったが、さすがにそうではないようだ。内心に安堵が広がる。

 

 

「おいっ、これ見よがしに面白れぇモンがあったぜ」

 

 先行して奥の部屋へと踏み入っていたモリス先輩が、A4の用紙を持って戻ってくる。印刷されているのは、部屋の間取りのように見える。

 

「むぅ……近いな。5分も掛からんだろう」

 

 二人が何やら話している間に、鳴海さんへ発信、用件だけ短く伝えると、すぐに警察の方々を送ってくれるとのこと。

 

「――外部委託としては、これで完了したと思われます」

 

「なら、ここに顔出して終わりだな。バックレた社長さんとご対面できるかもしれないぜ」

 

 乗り気ではないと言って来たとのことだが、十二分に満喫しているように見える。

 

 特に反対理由も無かったため、モリス先輩に従ってエレベーターを下り、ビルを後にする。時間はちょうど午後7時を回った所で、まだ薄いが、夏の夜の匂いがした。

 

「黄昏で楽になった分がチャラだな……」

「そうだな。やはり今暫くは安静にすべきということか」

 

「っ……そういえば、黄昏による効果を感じませんでした」

 

 あまりに当然で、口に出すことは憚られるが、学園の外では毎日黄昏時が存在する。考えてみれば、その恩恵をあの地下以外で感じたことはない。

 

「黄昏による高まりは、自覚と無自覚、両方の認識によって与えられる。屋外であっても、何かに没入し、黄昏を認識していなければ、その恩恵は受けられない」

 

「たまにしか外に出ねぇと、そうなるだろうな。黄昏は自然治癒にも効果があるから、その時間だけは傷の治りも早ぇんだよ」

 

「なるほど……」

 

 一体、どれ程の人が日々黄昏時を意識して生活しているのだろう。それを抜き取られた環境で過ごしているためか、学園の外へ出た際も、意識しないままであったのかもしれない。

 

 聞かなかった自分にも問題はあるが、言及しないあの男にもある程度の非はあるように思えた。重要な情報について漏れがあった場合は、もう少々強く追及するよう心に留めておく。

 

「それで、目的地というのはマンションですか?」

 

 遠目だったが、そのように見えた。

 

「おう、結構イイ部屋だぜ。どうせ捕まるっていうなら、そこにある諸々は使えるヤツが有効活用してやるべきかもしれねぇな」

 

 有効活用すべきは特定の個人ではないように思えるが、いずれにせよ没収される未来しか見えない。モリス先輩は将来、どのような職に就くのだろう。そもそも定職に落ち着くか自体、怪しい所だが。

 

 

「……ここか。モリスの言ったように、安月給では立ち行かなそうだな」

 

 概ね同意できる。そこは所謂タワマンとは異なるが、建物自体が新しく、端的に自分とは縁遠い住空間だと思われる。言い換えれば、家賃が高そうだ。

 

「チッ、わかっちゃいたが、オートロックかよ……住民じゃなきゃ、地下駐車場にも入れねぇじゃねぇか」

 

「つまり、良い部屋ということか」

 

「そうですね……え……レイカさん?」

 

 オートロックの内側、地下へと続く階段から、想定外の人物が現れる。

 

「サヤ?」

 

 こういうのを、ばったりと言うのだろうか。何かを感じる前に、視野に入った相手の名が口から漏れてしまった。キャップにサングラスはともかく、ジーンズにシャツというシンプルな恰好のレイカさんも、もしかしたら同様の思いなのかもしれない。

 

「どえらいのが上がってきたと思ったら桐島かよ……」

「外部委託? でも何でこんな所にいるの? あ、天王寺先輩、こんばんは」

 

「こちらこそ、こんばんは。このような所でも、やはり目を引くな」

 

「先輩程じゃないですけど……何か、風神雷神みたいね。えっと、サヤ、もしかして、601?」

 

 レイカさんは言いながらボタンを押し、入口を開けてくれる。多少思う所はあったが、流れのままに中へと入る。

 

「はい……あの、我々は見ての通りなのですが、レイカさんはどのような用事で……」

 

 頭を巡らせるが、どうにも材料がない。そもそも、レコーディング中ではなかったのか。

 

「割とスムーズで、今日の分はもう終わったの。それで……だけど、話すより、向かった方が早そう。行きましょう」

 

 そう言って、レイカさんはすぐ横のエレベーターのボタンを押す。

 

「……桐島、何か、ポケットからおもちゃの拳銃みたいなのが見えるんだが……」

 

 自分も気になっていたことを代弁してくれるモリス先輩。

 

「あぁコレ? 何か駐車場にしつこい人がいて、言っても聞かないから少し眠っててもらっただけよ」

 

「……」

「……そう、ですか……」

 

 迷彩なのか、ジーンズと同色のそれはモリス先輩がおもちゃと称したように手のひらサイズではあるが、所持者の性質から、実銃であることは揺るぎないであろう。加えて、実弾ではないことは明らかなため、これ以上は掘り下げない方が賢明だと判断した。

 

「いや、週刊誌にでもすっぱ抜かれたらどうすんだよ……」

「言われなくても気を付けてるわよ。それに、学園が握り潰すに決まってるでしょ」

 

「お前無敵じゃねーか……」

「そんなことより、二人共どうしたの? 今日って、そんな激しい内容だったの?」

 

 到着したエレベーターに乗り込みながら、今度はレイカさんが当然の質問を投げる。

 

「今日は牛丼食っただけだ。これはそちらさんのエース様にやられたんだよ。危うく死にかけたぜ」

 

 軽く言っているが、受けたダメージは途轍もない重さなため、全く以て笑えない。

 

「……言っておくけど、あの子に冗談とか通じないから。あんまり近付かない方がいいわよ」

 

「ったく、旦那にも同じこと言われたぜ。そのありがたい忠告は、学園で見送ってくれた時に聞きたかったんだがな」

 

「っ…………見送りなんか行ってないでしょ。ほら、着いたわよ」

 

 天王寺先輩が限界まで手前に寄っていてくれなかったら、かなりの密集度を感じたことだろう。そう思いつつ、エレベーターを下りる。どうやら、601号室は出てすぐのようだ。

 

「チッ、だと思ったその2。桐島先生ぇ、オートロックなんすけどぉ……」

「ハイハイ泣かないの。ちょっと下がってなさい」

 

 面倒そうな空気にも、しっかり応じるレイカさん。

 

「……」

 

 敵となれば容赦のない彼女だが、基本、誰にでも分け隔てなく優しい。ある一人を除いて。

 

 詳細は不明だが、レイカさんがスマートフォンを翳すと、ドアのロックはあっさりと解除される。さすがは学園の女スパイである。

 

「よし……リビングでダラダラしてる時間だ。こっそり入ろうぜ」

「こっそりと入れる体格じゃない人が半分を占めるんだけど、ま、どうせなら先にどうぞ」

 

 思ったことをレイカさんがしっかり口に出してくれる。下級生としては、非常に助かる。

 

 

 いずれにせよ、初めてとなる先輩不在での外部委託も、そろそろ終わりを迎えるようだ。当然、まだ気は抜けないが、自室に戻ってからは、色々と反省したいと思った。

 

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