トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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つまり、せがまれた修行回 前

「――よし、これでイケるだろ。まぁ、別に掛からなくてもいいし」

「やっぱり修行じゃなくてレジャーじゃないですか……」

 

「修行するのはキミ達であって、俺はそこそこ手持ち無沙汰な訳だよ。この位の手慰みがないと、隙間が埋まらんだろ」

 

 動かすのは頭と口、そうなると、手足は結構暇になる。

 

「まぁ、出した宿題をしっかりやってくるようなタマじゃないっていうのは知ってたけど……」

 

「私は……ちゃんとやる方ですけど……」

 

「だよな。そもそも、一之瀬最強計画の要は柳瀬さん、キミだ。何かが確変を起こせば、一気に総合戦闘力学園内トップ圏内に食い込む可能性を秘めている」

 

「てかさぁ……二人で楽しく話してないで一緒に考えてよぉ……しかも、これだったら何処かの空き教室ですればイイんじゃないすか?」

 

「いやそれはガチでつまらんやん……」

 

 六月二十五日金曜日。リゥ脱柵事件の余波がやっと先週末に解消され、ある種の平常運転に戻った訳だが、俺にのんびりと釣りをする時間などあるはずもない。表向きには。

 

 場の面子は俺、中原、トレハン部の二人、何故かジャージ姿の一之瀬と柳瀬さん。勝手にセットと捉えている男子二人も誘いたかったが、今日も黄泉で治安維持活動に勤しんでいる。素晴らしいことだ。

 

 ここは海底神殿区画。現存する危険区画の一つである。

 

 とは言っても、ただ攻略が行き詰っているだけで、既に直接的な危険はなく、釣りも楽しめる。我々は区画の中央ド真ん中に位置する、円形の足場の上であーだこーだと話をしている。直径は大体40メートル程か。適温で日差しもなく、潮の香りが心地良い。

 

 水は海水だが、見た目としては湖のそれであり、数100メートル先に浮かぶメインポータルとこの足場以外、陸地判定の場がない。遠くに見える森林や山々が飾りではあっても、結構壮観である。

 

「で『あ』から『を』までの、何文字分埋まった? 出来た分から添削するから」

「何言ってんすか? ゼロっすよ」

 

「お前……俺がだらだら釣りの準備してる間、何してたん?」

 

 以前から置きっぱなしの机と椅子、そこに座る後輩二人。広げられたノートには、明らかな落書きが確認できる。まだそんなに煮詰まる時間ではない。

 

 今日のテーマは修行。個人的な優先順位の関係により、一か月程の放置期間があったが、中原の圧にも押され、依頼などの合間を縫って本日、強引にぶち込んでみた。

 

「いやそもそも、そっちから指導してほしいって付いて来たんだろ。見せ掛けでもいいから熱意を見せろよ」

 

「いや絶対意味ないですって、それ……」

 

「だから指導して下さいよっ! これじゃ課題与えて放置プレイじゃないっすか」

「えっ? 修行ってそういうもんだろ?」

 

「――決してそういうものではありません」

 

 やや不機嫌そうな声で、中原がカットイン。

 

「あれ? まだ10分も経ってなくね?」

「ちょうど23分が経過した所です」

 

「で、どうだ?」

「……何がどう、なのか。説明を求めます」

 

「……」

 

 さっきまで結構楽しそうな感じだったのに、情緒不安定か。

 

「あれ? 俺、結構丁寧に説明しなかった?」

「いえ、全く」

 

「あの、私も、結構長く説明するのかなぁって思って見てたんですけど、2分もしない内に私達の方に来ましたよね? 太刀川先輩」

 

「なるほど、未熟なお前らには、そう映るのか……」

「返しうぜぇ……」

 

 だが、これ以上ふざけると中原から暴行を受ける可能性がある。一旦そちらの対処に移る必要があるだろう。

 

「ただその前に一回尋ねておきたいんだけど、修行って、何かフワッとしたこと言われて、一生放置プレイされることを言うんじゃないの?」

 

「言いませんよ……絶対」

「っ……」

 

 秒も掛からず否定した柳瀬さんだったが、横の中原は表情を曇らせる。

 

「あれ? 中原さん、どうしたの?」

「えっ? もしかして、修行ってマジでそんなんなの?」

 

「……確かに、祖父から課せられた際のことを思い返すと、言葉にすればそのような形だった……かもしれません」

 

「やっぱりそうか……俺も、斑鳩先輩に修行と言われて連れて来られた時、斑鳩先輩はずっと漫画読んでたんだけど、俺は一生無限湧きする鰐の化け物を狩り続けたんだよなぁ……」

 

「普通に死ぬじゃないですか……」

 

 ただ、サンプル数ではなく、サンプル自体が怪しい。斑鳩先輩は言うに及ばず、中原爺さんもかなりの奇人であると思われる。正直、会いたいし会いたくない。

 

「よし、いずれにせよ、もう少し説明を加えよう」

 

「あ、ちょっと。中原、さっきから真ん中のドラゴン? みたいなマンホールに突っ立って、何してたの?」

 

「先輩から言われたことを全文掲載しますと『ここから垂直に跳ばずに浮き上がれ、お前なら出来る』というのが内容でした」

 

 何かそう言葉にされると恥ずかしいんだけど。

 

「それってつまり、空中浮遊? そんなことできるの? 中原さん」

 

「現状では不可能です。ただ、以前身体を乗っ取られたことがありまして、その際に――」

「「――はっ?」」

 

 ハモリカットイン。無理もない話か。

 

「身体の乗っ取りって……アカウントの上位互換じゃんっ」

「えっ? いや、互換性ないって……」

 

「いやまぁほら、色々あんのよ。キミらも危うく、一生正座地獄だっただろ?」

 

「っ……確かに、立体駐車場でゾンビに追い回されたりもしました……」

 

 そう考えると、この二人にも適度なペースで修羅場を潜らせたいな。結局最後にものを言うのはヤバい経験の数だし。ソースは斑鳩先輩と俺とレイカとマコト。結構いる。

 

「その際に、私のエネルゲイアを上手く活用すれば、空中浮遊も可能なことが明らかになったとのことで、これはレイカさんも証言しているので、間違いないかと」

 

 俺単独の証言で信じろと言いたいが、言っても返されるので言わない。

 

「空を飛べればあらゆる場面で選択肢が広がる。可能であることは証明されてる訳だし、習得しない手はない」

 

「うーん……太刀川先輩、何でこのマンホールの上でやってんの?」

「そうだな。じゃ、本質について説明しよう。一之瀬、ちょっと乗ってみて」

 

「…………何か、嫌なこと起きそうだからイヤなんすけど」

「中原が乗ってるの、ずっと見てただろ? 大丈夫だって」

 

 話進まんからはよ乗れ。

 

「いや中原普通じゃないじゃないっすか」

「いやお前も普通じゃないだろ」

 

「中原に比べたら普通っすよ」

「中原もこの場面では普通判定だから……よし、柳瀬さん、乗って」

 

 めんどい。

 

「え……私、中原さんが普通判定なら普通じゃないと思うんですけど?」

「あの、そもそも普通とは何なのですか?」

 

「ちょ、哲学始まっちゃうから。はい、中原乗って」

「はい」

 

 最初からこうすれば良かった。

 

「よし、では皆さん、上を見てみよう」

 

 これはさすがにすぐ従う三人。天気は晴れとくもりの狭間。

 

「……」

「……」

 

「……何もなくないすか?」

「あー、一之瀬じゃ見えないか……」

 

「っ……薄い色の、光の輪……のようなものでしょうか?」

「うん……私にも、そう見える」

 

「はっ? マジでっ、え…………あ、確かに。何かメッチャ見にくい……」

 

 一度見えれば格段に見えやすい光の輪。サイズはフラフープと同程度らしい。

 

「ここまで説明したら全部か。えっと、ここが危険区画なのは話したよな?」

 

「はい……えっと、この湖、じゃなくて海にいるモンスターは全て倒されていて、安全は確保されているんですよね?」

 

「そういや、どんなモンスターだったんすか?」

 

「うん、分かり易く言えば、空を飛ぶ大きい魚だな。得意技は丸吞み」

 

「え……どの位の大きさなんですか?」

 

「あー、大きさか……5メートル位?」

 

「デケェ……そんなん死ぬって……」

 

「絶滅するまでの個体数はどの程度だったのですか?」

 

「いや、わからん。討伐って言うよりは駆除に近い感じだったと思うけど、誰も入れない状態だったしなぁ……誤爆で三人が瀕死になって、俺はそれを担いですぐ戻ったからな」

 

「えっと……レイカさんが?」

 

「いや、レイカじゃない」

 

 むしろレイカは危険だから近付くな派だったし。

 

「……欧陽先輩ですか?」

 

「うん。アイツが殺り続けて三時間以上掛かってるから、千や2千じゃ済まないと思うけど……」

 

 何体位いたの? って聞いたら『そう聞くなら何故数を数えるよう指示しなかったのですか?』って言われたし。

 

「おーやん? 誰それ?」

「学生会の人ですか?」

 

「あぁ、機会があったら紹介するよ」

 

 でも機会はないんじゃないかなぁ。

 

「で、そんなモンスター達が守ってたって設定の神殿の屋上に、今俺らは立ってるっていうのが仮説なんよ。その続きが、あの輪っか。中原、軽くジャンプして潜ってみて」

 

「……はい」

「「あっ」」

 

 中原が跳んだ瞬間、気付く二人。

 

 正確に言えば、中原が跳ぶために力を込めた瞬間に、空中の輪っかは消えた。そしてその位置をしっかりと潜り、中原が着地する。

 

「……膝を曲げた時、消えたようでした」

 

「正解。これはお歴々の仮説なんだけど、完全な形での空中浮遊をしないと輪っかが消える仕組みになっていて、もしあの輪っかが潜れれば、神殿の封印が解かれるんじゃないかって話」

 

「神殿の……封印……えっ? トレジャーっすか!?」

「そうだっ、トレジャーだっ!」

 

 ノリでハイタッチする、俺と一之瀬。

 

「完全な形での空中浮遊……って、何なんですか?」

 

「それは、わからん。ただ、結構意外かもしれないんだけど、何と、只単に空を飛ぶっていう能力は、記録にないんだ。副産物的な空中浮遊は沢山あるんだけど」

 

 当然、頭にプロペラを乗せるような物も含めて、エイドスにもない。

 

「へぇ、確かに意外っすね」

「ちなみに、最近だと、バタフライで飛行するっていうのでもNGだった」

 

「あ、相良君」

 

 俺も含めて、周囲はかなり期待していたんだが、輪っかはワンストロークも待たずに消えたらしい。

 

「あの人、変態なんでしょ?」

「まぁまぁまぁまぁ。職員に危害を加えてないんだからセーフです」

 

 学生会のブラックリスト素行部門にはしっかり名前を刻んでいるけど。

 

「つまり、先輩は霊園区画で見た空中浮遊なら、その条件を満たすと考えている、ということでしょうか?」

 

「そういうことになるな。まぁ、もちろんそれはついでだけど。ただ、割と本気な話、目的があった方が習得できる可能性は高まるとは思ってる」

 

「それは、同感ではあります」

 

「先輩、化け物駆逐したんなら、潜ってこじ開ければよくないすか?」

 

 素朴な質問を投げる一之瀬。考え方がシンプル故に、こういう気付きは早い。

 

「ゲーム的には無理って話だけど、もちろんゲームではないので、お歴々の猛者達が挑戦して、ちゃんとどん詰まってる。一番ヤバい記録は、エラ呼吸できる人がいたんだけど、その人はモンスターガン無視して水中で巨大ドリル使って神殿の門を開けようとしたらしい」

 

「ヤバいっていうかイカれてる……」

 

 ただ疑問が一つ。人間って、エラなくね?

 

「それで無理ってことは、やっぱりちゃんと封印を解かないと無理っぽい、ですね……ハァ……」

 

「ん? カグヤどした?」

 

 深い溜息を吐いた柳瀬さんに、首を傾げる一之瀬。

 

「あ、別に大丈夫。ただ、太刀川先輩とか、だけじゃなくて、その上の先輩にも、頭おかしい人っていたんだなぁって。私達の学年って、そのレベルの人いる、かな?」

 

 この子、今俺のこと最上級にディスったけど、無自覚か。

 

「待て待て。何度も言ってるけど、俺そんなでもないから。っていうかもうマジで今度紹介する。そしたら、絶対考え方変わるから。下手したら心臓麻痺起こすぞ」

 

 候補はやはり欧陽か。能力のインパクトで言えば常ちゃんもアリ。手軽な所なら、三年の如月先輩やマトイさんでも問題ないだろう。

 

「他に凄い人がいても、多分変わらないと思いますけど……立体駐車場は、少しトラウマですし」

 

「それ、俺じゃなくね?」

 

「違います。助けてもらったことは感謝してますけど、正直、あの状況でふざけ続ける人は、頭がおかしい人だと思います」

 

 はっきりと言い切る柳瀬さん。なのに、そんな頭のおかしい人と、月一でスイーツ巡りをしている柳瀬さん。

 

「そういえば、その辺りの先輩の言動については、あまり掘り下げて聞いていませんでした」

 

 ヤバい。話の方向が俺の望まぬ方へ進みつつある。無論、リカバリーに全振りする。

 

「よし、とにかく。中原は集中の限界に挑戦。ほら、二人は引き続き、頭を捻って。そっちは俺も手伝えるから」

 

 というか、放置された竿からは、魚が掛かる気配はない。モンスターはいなくても、魚はいるはずなのに。

 

 まだまだ文句を言うかと思ったが、中原は目を閉じて集中、刃を出したどこでも刀を構えているのは恐怖だが、あれも工夫の一つなのだろう。

 

「『だ』は、ダークナイトオブザソウルでイイっすよね?」

 

 こっちも真面目に取り組み始める。お題は当然、一之瀬の能力、しりとりで最後に言った言葉を具現化させる、について。諸々の都合で、一之瀬に回る最後の言葉をコントロールしにくいため、予め何が来ても問題ないよう全ての頭文字で何を言うか用意しておくという戦法だ。

 

「うーん、大爆発、とかのが強くね?」

 

 実際、爆発をナメてはいけない。爆発は敵が多数いる時も超強いし。周囲の被害を考えなくていいというレアな条件下限定ではあるが、最強の一択ではある。

 

「大爆発って……規模、っていうか、どんくらいの威力かイメージできないと……これ、不便なんすけど、動画とかで観ただけだと、イメージより大分弱くなるんすよ」

 

「へぇ、面白いな。実体験じゃないと駄目か……そういうの、凄い大事なんだよな……うん……とは言ってもな話なんだけど、そろそろ、学園生活楽しいだろ? あんまり能力を強くしようとか思わなくなってきたんじゃないか?」

 

 今日のテーマを揺るがす発言ではあるが、最近レイカやマコトとそういう話をしていたのを思い出した。六月の下旬にもなると、一年生も色々慣れてきて、何より区画解放が楽しくなってくる頃合いだ。友達が沢山いれば、その分色んな区画に行ける。

 

 区画解放している人と同行しないと元のポータルへ戻されてしまうということもあって、トラブルの元にもなる同行者設定ではあるが、前向きに使えれば、友達と一緒に過ごす時間も自然に増える。もちろん、ソロプレイしたいヤツは全然それでいいし。

 

「っ……そうなんすよ。でも、それじゃ駄目だって、カグヤと話してて」

「はい。だから、この前、同行させていただいた時に、修行の話を聞いて、それで……」

 

「あの、すいません。宿題も、やろうと思ったんすけど、実際聞いた方が早いかなって……」

 

 まぁ武術系の科目を履修している訳だし、元々のモチベーションはあるはず。

 

「その、キョウコのエネルゲイアは、その方法で、実際強くなると思うんですけど、練度……ですよね? 太刀川先輩は、どうやってエネルゲイアの練度を上げてきたんですか?」

 

 中原にも結構前に聞かれたヤツだ。

 

「俺は、毎日依頼をこなしていけば勝手に少しずつ上がっていく。後は、それに合わせて身体の動かし方とか、戦闘面は実戦だな。で、練度がどうやったら上がるかは、明確化出来たり、出来なかったり。本人の感覚頼りだけど、強いヤツは基本把握してる」

 

 これについて、傾向はあっても法則はない。俺は感謝がポイント化されるという仕組み上、ポイントを得ることがそのまま練度の向上に結び付いている。それが、実は俺の能力で最も秀でた点だったりする。練度が上がれば、能力を使う際のイメージの確信にも繋がる。

 

「柳瀬さんは湿布でツルツル……とにかく色々やってみるといい。一日中滑り台で遊ぶとか、スキー、スノボ、セーフティバントして一塁にヘッドスライディングとか」

 

「……今一瞬またふざけてるかと思ったんですけど、確かにあり得なくはない、ですよね……それを自分で探す……それ、結構一年生知らないと思うんですけど?」

 

「どうだろ。学生会や部活に入ってれば、だけど、半分は帰宅部だから、半分は知らないかもな。残酷な話だけど、この法則が難しいケースが、最も弱い能力とも言える」

 

 実際、天王寺先輩は身一つで最強クラスな訳だし、この前中原にキレられた際、得られた情報では、相当能力も極まっているらしい。そのノウハウ、本にしてくれないだろうか。

 

「そう、ですね。今日から、それを最優先に考えてみます。毎日バッティングセンター区画へ行ってる板場君も、ちゃんと考えてるのかも」

 

「いやないっしょ。アイツ馬鹿だし」

 

 お前も変わらんのだがな。

 

「とにかく、各々のモチベーションで少しずつ、がオススメだな。実際、遊んでて気付くケースだって少なくはない、らしい。詰まったら色々やって、疲れたら休むのが基本だ」

 

 二人には、休める時に休める嬉しさを是非とも謳歌してほしい。

 

「てことで……まぁ減るモンでもないし、いやしっかり減るんだけど……一之瀬、ちょっと、見ててもらっていい? さすがに一回しかやらないから」

 

「はっ? 何すか? 奥義伝授っすか?」

 

 まだ何も言ってないのに、勝手にテンションを上げる一之瀬。

 

「二割正解かな。ライブ感が大事ってことだし、色々と体験するのは単純にプラスになるだろ」

 

 ちょうど金曜という所にも、運命的な何かを感じないことも無きにしも非ず。

 

「が、しかし……えっと、一応、他言無用って方向で頼む。何なら、柳瀬さんは目を閉じて両手で耳を押さえてもらってもいい?」

 

 唯一の面倒な点、それは柳瀬さんのリアクション。

 

「そ、それは、さすがにズルいですよ……キョウコが見るなら、私だって見せてもらいます」

 

 だろうね。小林なら素直に従う所だが、ここら辺が戦闘員と非戦闘員の差か。聞けば柳瀬さん、お父さんが柔道家で、地元じゃ結構有名なレベルで強いらしいし。ただ、首が太くなる気配を察知して小学校高学年で辞めたとのこと。残念でもあるし、良い選択とも言える。

 

「……ここは危険区画だけあって、区画の広さもトップクラス。空に向けてなら、まぁ問題ないだろ」

 

 程々な感じにすれば尚のこと問題ないはず。

 

「え……てか、何するんすか?」

「とりあえず、空を見てて」

 

「「……」」

 

 二人は素直に頷き、少し雲が厚くなってきた空を見上げる。

 

 少し距離を取るが、別に意味がないことに気付く。

 

 さて、何気に使用するのはいつ振りだろう。まぁ、覚えていない。でも今年度では初。

 

 俺は右手を開き、空に向かって伸ばす。この時点で、結構な中二病罹患者である。でも、これは現実。

 

 やっぱり心配なので、雲のちょっと下辺りの座標に狙いを定め、そこそこに集中。余裕を持ってイメージが脳内ビジュアルで確立する。

 

 2秒後に発生する予定の宝石が俺の目だけに映る。

 

 

「――アレキサンドライト」

 

 

「「――――――――」」

 

 虚空に現れた青緑色の3カラット。

 

 それが弾けた瞬間、圧倒的な衝撃波が広がり、周囲の音を吞み込んで、爆ぜる。

 

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