トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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何事も、予定通りには進まないものだ

 キーアイテムのロストというまさかな展開の中、我々は一丸となって禍々しい神獣を仕留めなければならないらしい。何らかの救済措置が欲しい所だが、天の声からのメッセージがないため、それが答えと受け取らざるを得ない。

 

「で、どうすんだよ?」

 

「初手としては、一年生の底力に期待したい。最大火力は……中原の一閃かナガレの何か……後は、一之瀬スペシャルか五十嵐さんのメガトンパンチか」

 

「聞く限りじゃ、一之瀬のはゴミ確定だろ……」

 

 無理もないが、ナギ目線では評価が低い。俺は割と期待している部類に入るのだが、我ながら別に先見の明は特にないとは思う。

 

「――と、噂をすれば」

 

 一当て二当てした所で、紫で判別し易い一之瀬が龍を通り過ぎてこちらへ着地。そして無駄に注意深い動きで中原からの射線を俺で切ってくる。いざとなればそんなものは無駄だという事実を、分からせてもいいのだが。

 

「大丈夫だ。中原のクレイジーモードは一時的に解かれた」

 

 まぁあくまで一時的だが。

 

「あ、良かったっす。で、太刀川先輩、一発仕掛けるんで、手伝って下さい」

「というと?」

 

「新技っす……コレ」

 

 不良町娘の右手には、麻雀で使用する小さなサイコロが計四つ。

 

「つまり、24を出すと?」

 

「はいっ! 秘奥義、新幹線カードっす。例のリストは半分弱埋まってるんで、成功確率は驚異の50パー越え」

 

 お前、弱って言うたやん。

 

「そ、そうか……いや、普通に全然手伝うけど……」

 

 この人数で24とか出たら地獄のしりとりチャレンジが始まってしまうのを、この浅はかな後輩は理解して発言しているのだろうか。いや、絶対にしていない。

 

「サイコロ振るのがそいつの能力なのか? んなもんが火力になんのかよ?」

 

 中原並に食い付きの悪いナギ。結構魅力的な能力だと思うんだけど、女子ウケが悪いのかもしれない。

 

 かくかくしかじか。ナギに早足で一之瀬しりとりマニュアルを説明する。残念ながら、終始感触が良くない。

 

「何だその面倒臭ぇ能力は……ヘアアイロン出せる方がまだマシに思えるぜ」

「う……確かにアレは超便利っすけど……」

 

「それで、この場で発動したら、イモってる虚無僧以外は多分参加する形になるぞ。ちなみに、今日は後何回使えるんだっけ?」

 

 一日何回だったか。既に忘却を確信しているため、脳内の引き出しへと手を伸ばす気にもならない。

 

「ラス1っす」

「何でだよ……」

 

 てかコイツ、アイテムについて聞かないのか。まさか4個振りで頭の中が満たされていて、寺のイベントについて忘れているのか。まぁ全然あり得る。

 

「タクシーん中で小判出そうとして使っちゃったんすよ」

「お前、金は出せないって言ってただろ」

 

 おそらく、無意識下の罪悪感が要因だと推測される。

 

「いやほら、先輩が言ってたじゃないっすか。チャレンジする心を失うなって」

「っぅぜ、何だそのキモい格言未満は……」

 

 真実だがそんなことを一之瀬に言った覚えはない。そしてナギがまるでゴミを見るような視線を俺に向けてくる。そんなに嫌か、前向きな綺麗事。

 

「よし、気を取り直していこうっ。へいばっちこいやぁっ!」

「っ……チッ」

 

 少々やけくそ気味にナギを抱えて跳躍し、キャッチャー役を買って出る。

 

「来いっ! オールシックスっ!」

 

 いやだからそれ地獄やって。

 

「でもナイスボールっ」

 

 左手で包み込むように受け取り、最高到達点の滞空時間を利用して手を開き、結果を確認する。

 

「っ……」

「しょっぺぇなぁ……」

 

 ナギの溜息も手伝って、テンションが急落下。

 

2、2、1、3。

 

「くっ……8……よしっ! 総員傾注っ! 何も考えず、ただしりとりを繋げっ! もし最後の文字を伸ばし棒か『ん』にしたヤツは、しりとりも出来ない高校生、という称号を強制授与されるっ! 後……難しい言葉はなしっ! はいいってみよっ!」

 

 役目を終えたサイコロを懐へ入れ、勝負の8連鎖が始まる。

 

「城っ! カグヤっ!」

 

「っ……ろ……廊下っ!」

 

 空中で攻撃態勢へ移っていた柳瀬さんはその身を反転させて言葉を返す。

 

「笹森っ! かっ!」

「か……か……唐揚げ定食っ!」

 

 やはり食で来た笹森。将来は普通に料理人とかかもしれん。

 

「太刀川先輩っ!」

「クジラ!」

 

 とりあえず4までは難なく繋いだ。しかもよくあるプレイヤーの重複が珍しく発生していない。

 

「板場っ! らっ!」

「らっぱっ!」

 

 やや決め顔で言ったが、そんなに良いワードではない。とりあえずラストは近い。

 

「うわ馬鹿……げっ、穂村先輩っ! ぱでお願いしますっ!」

「パンナコッタ」

 

 やる気なしモードのナギが即答。

 

「あ……能見さんっ! たっ!」

 

 板場、笹森、柳瀬さん、俺という慣れてる組が外れる展開。どう出るか。

 

「えっ? 何で、皆さん大声でしりとり……え……あの……た……」

 

 ヘアアイロンの中心に爪先立ちして飛行中の弓道少女がしりとりをしている。かなり意味不明な状況だ。

 

「能見さんっ! とりあえず『ん』か伸ばし棒じゃなきゃ何でもいいからっ」

 

 カウントが5を切った所で、比較的近めの位置を落下しながら焦らせないよう声を掛ける。でも後3秒。

 

「た……たっ、たー、タコサラダっ!」

 

 今日一の晴れやかな笑顔で言葉を搾り出した能見さん。そしてこれは。

 

「おぉっと……」

 

 

「ダークナイトオブザソウルっ!」

 

 

 まさかの確変。

 

 ここではない架空世界の魔法が発動する。

 

 それは、江戸の世界観を完全崩壊させるスペクタクル。

 

 分厚い積乱雲の下、それを上塗りするかのような漆黒の魔法陣が、龍の体長に合わせた超ビックサイズで虚空に描かれる。

 

「総員退避っ!」

 

 何とか見惚れずに叫ぶことができたが、明らかにヤバいヤツが約一名。

 

「げっ! ちょっ! てめぇ一之瀬っ!」

「あ」

 

 ヘアアイロンから跳び退いて離脱した能見さん、取り残される金属バットを持った侍。

 

 無情にも、陣と同色に染め上げられた無数の剣が、高速で龍へと落とされる。当然、その間にいてしまった板場は全身を貫かれて散っていった。

 

 とりあえず、ベースキャンプの屋根に着地し、ナギを下ろす。

 

「…………えっと……1キル……っすか?」

「いやまさか、お前が共闘の契りを破るとはな」

 

「あ……えっと……」

「まぁアイツのことだから、ラーメン一杯奢ればいいだろ」

 

「さすがに……そっすね」

 

 実際本人的にも予期せぬ結果なため、気まずそうな一之瀬。

 

「先輩、下にいた稲垣君も脱落したようです」

「えっ?」

 

 ザっと見渡すが、確かに日焼けした人がいない。本当にひっそりと逝ってしまったらしい。

 

「……2キル?」

 

「いやだから……まぁ……うん。あれは、哀しい事故じゃった……海に祈ろう」

「はい……」

 

「誰だてめぇら……んなことより、見ろよ」

 

「「っ……」」

 

 バケツを10回引っくり返したみたいな剣の雨を受けても健在な龍。怒り狂って更に城下町を燃やそうと頑張っている。しっかり寺に着地した我々は無害。能見さんと柳瀬さん、笹森も堪らずこちらへ避難してきている。

 

「今のはそれなりの威力だった。こりゃ、俺とお前でヤッても手間だぜ」

「そうだな……うん? てかキミら、五十嵐マウンテンは?」

 

 ナギに目で促し、静観する中原の立つ隣、仏殿の屋根の端から見渡すが、あの存在感で見当たらない。

 

「まさか……」

 

 まさかの一之瀬3キル。誰がこのハットトリックを予想できたか。

 

「あ、あの、それが、何かお腹空いちゃったみたいで、まだ燃えてない民家で、台所を漁ってました……」

 

「お、おぅ……なるほど、正に野生か……うーん……にしても、銀の玉があればなぁ……中原、ちなみにどの位のサイズ?」

 

 何かで代用できないか。まぁ絶対無理だと思うが。

 

「野球の硬球とソフトボールの中間程だったと思います」

「それは、投げやすそうだな……」

 

 でもそもそも、その玉をどう使うんだ。使うコマンドなんて、現実には存在しないぞ。

 

「えっ? あの……っと……えっと、太刀川先輩、銀の玉って、コレっすか?」

「うん? はっ?」

 

 思考を遮られて振り向くと、隣に跳んできた一之瀬の手の上には、銀色の球体が乗せられていた。

 

「コレって――えっ? あれ? 確かに、野球とソフトの狭間のようなサイズ感……柳瀬さんっ! この玉っ、何処で拾った?」

 

「いや何でカグヤに聞くんすか……」

 

 もちろん時短のためだ。そしてちょっと黙ってろ。

 

「あ……タクシーで大回りしてる時、えっと……城を南端として、北西の隅……だと思います。道の真ん中に不自然な感じで落ちてたから、拾っておこうって」

 

「神は……死んでいない?」

 

 中原との証言も一致している。

 

「先輩の信じる神の生死は知りませんが、間違いなく私が遠投した物かと」

 

 ガチで葬るつもりで投げたんだな、こいつ。

 

「二人共、超ファインプレーだぞ。むしろ中原からの思いを繋いだと言っても過言ではない」

「いえ、私の思いとは逆ベクトルなので、決して繋がってはいません」

 

「バッサリ切るなって……」

 

 ちょっとだけ気を遣ったつもりだったが、そもそもこいつにロストの罪悪感などなかったということがわかった。

 

「太刀川先輩、それで、そのボールをどう使って龍の防御を下げるんでしょうか?」

 

 板場の退場にも動じた様子の見えない笹森。まぁ関係性的に慣れっこということだろう。学園内でも彼は既に、ひっそりと二度死亡しているので。

 

「俺もそれについて少し考えてたんだけど、一之瀬。空に掲げて、伝説の銀の宝玉よ、忌まわしき龍を封じ給へ的なこと叫んでみてもらっていい?」

 

「いやどんな罰ゲームっすか……ファインプレーって言った次がそれとかホント……」

 

 勢いでイケるかと思ったが、割と分別があったようだ。

 

「おい、んなもん考える必要もなく決まってんだろーがよ」

「「えっ?」」

 

 一之瀬とハモり、煙管を仕舞う花魁の方を向く。

 

「あのバケモンは右目が金で左が銀だ。右を抉ってそいつをぶち込めば、バランスが取れんだろ」

 

「おー、なるほど……」

 

 サラッとグロいことを言うナギだが、そう聞くともうそれが正解としか思えない。

 

「――副会長ぉ」

「うん?」

 

 声に反応して屋根の下を覗くと、虚無僧の頭がひょっこりと顔を出していた。

 

「中に、こんなんありましたわ」

 

 言いながら投げ寄越された何かをキャッチ。ナガレはまた中へと戻る。稲垣君については、まぁ気にするヤツじゃないだろう。

 

「おっ、巻物」

 

 ちょっとだけ濡れたが、俺が触れてればもう濡れない。紐を解いて広げてみると、印刷バリバリの楷書体で、金の目に銀の玉を押し当てろ的な文章が書かれている。

 

「え……これどういうことっすか?」

「お前、国語2だろ?」

 

「っ! な、何で……」

 

 こっちこそ、何でこんなヤツにしりとりの能力が。

 

「ナギの仮説がそのまま正解だ。玉を金色の方の目に当てれば、多分効果が発動する」

 

「ですが先輩、あの龍は眼球への攻撃に対して、警戒心が強いです。接近して押し当てるのは、少し骨が折れるかもしれません」

 

 正に経験者は語る。中原がそう言うのだからそうなのだろう。彼女なら、初手で目潰しを選択しても何の不自然さも感じられない。

 

『――よっし、やっとミュートが切れる……はいっ! 少々事情がありまして、皆さんに対しては沈黙を貫いておりましたが、ここからまた実況解説を再開したいと思いますっ!』

 

『先のオリエンテーリング大会においての「♯桐島レイカの武装」には少し及びませんでしたが「♯柳瀬さん、気付いて」「♯一之瀬、お前だ」がかなりの広がりを見せております』

 

「なるほど。ネタバレ回避のための実況ダンマリだったって話か」

 

 世界中に散らばる斑鳩の関係者の人達を中心に盛り上がっているのはわかったが、学園関係者限定のSNSって、本当に必要なのだろうか。

 

「えっ? 先輩、これって、アタシとカグヤがバズったってことっすよね?」

 

「キョウコ、違うよ……馬鹿にされてるんだよ……ハァ、いっそのことスルーすれば良かったのかなぁ……」

 

 目立つことを嫌う柳瀬さんの表情は暗いが、グッジョブなことに変わりはないので気落ちしないでほしい。おそらく、ついさっきまでのコメ欄は、一之瀬への弄りと柳瀬さんへのエールで埋まっていたのだろう。

 

「確かに、神視点からしたらもどかしい状況ではあったっぽいな」

 

『では、こちらも解放です。アイテムとその使用方法が明らかになったため、これ以降、龍は寺の敷地内であっても攻撃してくるので、ご注意を』

 

『いよいよ、このハンターデスマッチも、終盤に差し掛かったかと思われます。引き続き、皆様の健闘を祈ります』

 

「――って」

 

 空を明るく照らしていたホロディスプレイが消失した瞬間、龍は寺へ向かって火球を吐き出してきた。解放するにしてもノータイムは鬼畜だろ。

 

「――――ちょ!」

「――――ヤバ!」

 

 そして、三々五々とは言えないが、面々は散り散りに城の方へと逃げ出す。

 

 俺もナギを抱えて屋根から跳び、中原と共に寺の敷地から脱出する。火球は寺の西側に落ち、衝撃の後に炎が燃え広がる。仏殿からナガレが出てこないが、まぁアイツなら平気だろ。

 

「先輩が雨を降らさなかったら、区画全体が全焼していたかもしれません。とは言っても、そう仕向けようとしていたのは、私自身なのですが」

 

「おいおい何だよ……動けるフィールドを狭めるために敢えてあんな派手に逃げ回ってたのかよ……」

 

「ま、悪くねぇやり方ではあるぜ……この時期の一年じゃ、大半は酸欠と隣り合わせで殺り合うなんざ、慣れちゃいねぇだろうからな」

 

 二年でも三年でも、慣れる必要ないと思うけどね。ただ、慣れてないと心理的負担がパないのは本当の話。

 

「さて、城以外はもうほとんど燃えてしまった感じだけど……うん、早急に何とかしないと城も同じ運命を辿るな」

 

 消去法的に全員城の方へ逃げてる訳だし。ムーブとしては正にバトロワの終盤と言った様相。

 

「太刀川先輩。もうとにかく早いとこ玉で龍を殴ってきて下さいよぉ」

 

「まぁ気持ちは分かるが、折角だからここは一年に頑張ってほしい所ではあるな」

 

 東側の門で合流し、虚無僧とゴリラ以外は再集合する。

 

「できれば装甲が剥がれてから頑張りたいんですけど……」

 

 柳瀬さんの尤もな返し。ただ、軽傷でも種類によっては一発退場なので、結構リスキーなのは正直な話ではある。

 

「先輩、私も同意見です。インビジブルレインの効果を用いれば容易なはずです」

 

「まぁその通りではあるけど、さっきからナギとお前が目を離さないせいで、この場のメンバーには全く効果が発動されないんだけどな……」

 

 イメージの中で集団判定となってしまっているため、認識から外れる効果が面子には一切現れない。

 

「ったりめぇだろーが」

「当然の対処です」

 

「共闘言うたやん……」

 

 それとこれとは別。二人の目がそう語っていた。

 

「よし、ならコラボだな。能見さん、矢の先端が重くなっても、近距離なら的に当てられたりしない?」

 

「えっ? わ、私ですか? あの……客観的に考えて、副会長と中原さんで対処された方が確実かと思われますが……」

 

 冷静さと謙虚さも持ち合わせている能見さん。むしろより一層任せたくなった。

 

「……つまり、玉を矢の先端に固定するということですか? それに適した紐などを調達するのは手間かと思われますが」

 

「んなことしなくても、突き刺しゃイイんじゃねぇのか? 破損していようが目は目だろ」

 

 現実的には緑内障が心配だが、そうも言ってはいられんだろう。

 

「っ……常識的に考えて、破損していたら正常に機能する訳がないでしょうっ!」

 

「何だよ、出来ねぇならそう言え。ま、先端に重りが付いてちゃ、真っ直ぐ飛ぶ訳もねぇが」

 

「なっ!? 言葉が通じないのですか!? 仮に当てられても、効果がないのでは本末転倒だと言っているのですっ!」

 

 ナギ、煽るな、と言いたいが、言ったらもっと煽るので言えない。そして中原がどうにかしろって目を向けてくるが、俺だって管轄外だ。

 

「そりゃてめぇだ。敬愛する副会長様は質問したんだぜ? そういうヤツが一番使えねぇ」

 

「っ!? そ、それは……確かにその点は指摘の通りです……その玉の重量であれば、特に問題はありません。この弓はどうやら、通常の物ではありませんので」

 

 弓か。今度斑鳩の方に話してみようかな。まぁニーズは銃火器一辺倒だけど。警棒の方も、アップグレードする予算が下りないらしい。

 

「ならそれでいこう。もう今にもこっちへ火ぃ吐きそうだし。俺、ナギ、能見さん以外の面子は安全マージンを取りながらタンク役を頼む。それこそ、能見さんの矢が龍を捉えた瞬間がボーナスチャンスだぞ」

 

「では……私が先陣を切ります」

 

 間違いない。コイツは早く刀を使いたいだけだ。だが展開としては好都合なので跳び立つ武闘派くノ一の背中を見送る。下から見上げると、普段は黒ストで隠れたその健康的なおみ足が少々目に毒なのだが。

 

「ってことで、ナギ、ちょっと持ってて。能見さん、矢を一本」

「えっ? あ、はい……」

 

 未だ困惑気味の弓道少女から受け取った矢の先端を、銀の玉の真ん中辺りにくっ付け、能力を発動する。適当な出力は、長年の勘で割とすぐ何とかなった。

 

「っ……こいつは……どんなもんかと思ったが、割と綺麗に刺さってるじゃねぇか」

 

 お世辞を言わないナギの言葉通り、無駄にイイ感じの仕上がりとなった銀の玉の矢。銀玉矢はちょっと良くないかもしれないので、銀の玉矢と名付けよう。

 

「っ……はっ? い、今……どうやって……全く、力を入れたようには……い、いえ……凄い……完全に中心を捉えて刺さっているように見えます……」

 

 銀の玉矢を能見さんに託しつつ、具体的な体勢について、軽く頭を捻る。

 

「そう、だな……えっと、俺がヘアアイロンに乗って、ナギは抱っこ……で、能見さんが……難しいな……裸足になってくれれば……いや、能見さん?」

 

「あ、はいっ」

 

 明らかに心拍数が高い印象の能見さんだが、大丈夫だろうか。

 

「一旦、龍の認識から外れることには成功してる。で、どっちかが生身で触れないとステルス効果が出ない可能性があって……能見さんが裸足になって俺の肩に立つのと、俺が某将軍様みたいな感じで上を半脱ぎして、肩に立ってもらうの、どっちが精神的に楽?」

 

「え……えぇぇっ!?」

 

「おい視聴者。今の発言がセクハラになるかどうか、コメント欄で議論しろ」

「待て視聴者。今の発言が相当気を遣った結果だということを察してくれ……」

 

 そもそもTPOを考慮してくれ。龍が上から火ぃ吐いて殺しにきてんだぞ。

 

「あ……あの、私、裸足になるのは、慣れております、ので……いえそもそも、殿方の肩の上に素足で立つなど……でも、副会長の、半裸……っ……」

 

「おい、面倒臭ぇから鼻血は出すんじゃねぇぞ……」

 

 会話の方向性がよろしくない。そして実際問題、今この場でそっち方向は純粋に必要ない。

 

「能見さん……聞いてくれ。勝手に進めてしまって大変申し訳ないが、状況の打破はキミの双肩に掛かっている。故に、用いる体勢は決戦の構え……さぁ、どちらがより良いパフォーマンスを出せるか……答えてほしい」

 

「――っ」

 

 俺は、言葉にソウルを込める。その甲斐あってか、顔を赤らめていた能見さんの目に、真剣さが戻る。

 

「……承知しました。私が裸足になって支えていただき、必ずや……その期待に応えてみせます……」

 

「よし、決まりだ」

 

 決意の眼差しで、互いに頷き合う。

 

「何がどうなってそんな真面目な空気でまとまんだよ……」

「では、いきます」

 

 弓矢を手に、能見さんが能力を発動、出現したピンク色のヘアアイロンが瞬時にプロペラのように高速回転し、ナギをお姫様抱っこした俺は爪先立ちでその中心へ跳び乗る。先程からの挙動を見ていれば当然だが、とても安定感がある。

 

「……失礼致します」

「おぅ、頼む」

 

 草履と足袋を脱いだ能見さんが肩の上に着地。改めてだが、集中して弓を構えながら能力をコントロールするのは中々に器用なことだ。クーデターを引き起こしたことで、どうにもアオカエコンビとはそりが合わないため、結果的に交流機会が少ないのは結構惜しい。

 

「よし……」

 

 というのは捨て置き、本格的に龍討伐に乗り出す。

 

「……」

「……うん? ナギ?」

 

 熱視線を感じたと思ったら、それがジト目で少しびっくりした。

 

「真上へ視線を向けた瞬間、てめぇの両目を潰す」

 

 ガチで怖過ぎる。

 

「大丈夫だって……それにラッキースケベなんて、架空の世界特有の浪漫なんだから……」

「よく言うぜ……」

 

 実際、この学園に入学してから、そのような体験をした記憶はない。本当だ、嘘じゃない。

 

「――黙って下さい。副会長は、そのような卑劣な真似は致しません……」

 

「てめぇ、いつの間にたらし込んだんだよ?」

「そんな訳ないだろ……」

 

 むしろ逆だ。

 

 交流頻度の少なさから、普段一生依頼に追われている憐れな姿だけを遠目に見た結果だと推測される。二、三年も含めて、そういう学生は割と多い。まぁ彼女については、その内気付くか、柳瀬さん辺りが訂正することだろう。

 

 そう考えると、能見さんに関しては理想化からのこき下ろしが少々怖いものの、後ろ向きな未来の可能性を過剰に気にするのは不毛なので捨て置く。

 

 なので盤面に意識を戻すと、中原のヘイト買いが半端ではないため、龍はブチギレながら叫び続け、もう燃えるものの皆無な町へと火球を落としまくっている。そして笹森とトレハン二人は見に回るという英断を下している。

 

「よし、こんだけ目立つビジュアルの我々だが完全にステルス」

 

「近くで見ると、中々作りが細けぇじゃねぇか。どこまでで1枚かは知らねぇが、本当に鱗が81枚あるのかもしれねぇな」

 

「へぇ……」

 

 碓氷さんと行動を共にしていることもあってか、ナギは雑学に長けていたりもする。

 

 とは言え、実は我々に具体的な仕事はなく、操縦と攻撃は全て能見さん頼りという投げっぱなしジャーマン感に、今更ながら気付く俺。

 

「…………」

 

 足の爪先と垂直に龍の眼球部分を捉え続けている能見さんは、完全集中状態に入っている。

 

「なぁ?」

「うん?」

 

 こっちは気を遣って黙っているというのに、平時の気怠さを帯びた声を発してくるナギさん。

 

「毎回抱える時、お前よくコイツが邪魔だって言わねぇよな?」

 

 ナギは、右手で掴んでる未使用の金棒を軽く振ってそう言う。

 

「いや、言わないだけでこの上なく邪魔だって思ってるけど?」

 

 聞かれれば言う。当然のコミュニケーションだ。

 

「だよ、なっ!」

 

 力任せのアンダースローで金棒を投擲するナギ。超高速で縦回転しながら物騒な鈍器は一瞬で龍の首元に直撃し、弾かれて落ちる。

 

「――――っ」

 

 瞬間、認識外からの一撃で明らかに動きを止めた龍へ、矢が放たれた様子。少なくとも俺には、真っ直ぐに金の玉を弾き飛ばしてその位置に刺さった銀の玉矢が、よく見えた。

 

 

 もちろん、そこしか見ないように気を遣っていた結果であることは、言うまでもない。

 

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