トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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夜中の呼び出しは深夜のプチツーリングへ

 区画関連のトラブルと伝えると、外出許可はあっさりと下りた。なあなあになってしまうのは問題だが、互いに嘘を吐いたり、融通の利かない対応をしたりしても何のメリットもないのは事実なため、単純に夜勤の常駐職員さんには感謝しておく。

 

 寮へ戻る二人と共に、一度部屋へ戻ろうかと思ったが、バイクのスペアキーが副会長室にあることを思い出し、連絡と書類作成の流れでそのまま裏手の駐車場スペースまでやってきた。何と、行くと決めてからまだ5分も経過していない。

 

「…………冷静に考えて、到着してから連絡した方が無難だな」

「着くのって、2時手前とかよね? 今連絡しとかないと、寝ちゃうんじゃないの?」

 

 斑鳩規格のマイヘルメットを持参したレイカが、被りながら尤もなことを言う。

 

「アイツ超ショートスリーパーだからそこは問題ない。しかも、二徹からが徹夜だと思ってる人種だし」

 

「あっそ」

 

 素っ気なく返し、先に座る。別にこの展開は想定外だと思うが、奇遇にもパンツルック。改めて、脚長っ。

 

「てっきり、実際に行くなら一人で行くって言うと思ったけど」

 

「えっ? あー、まぁ……でも諸々差し引いても一緒に来てくれるなら来てほしいわ。一人で行くの普通に嫌だし」

 

 距離的にも用事的にもちょっとコンビニでアイスって感じじゃないからねぇ。

 

 と、いうことで、深夜のツーリングが開始される。当然ながら、普通に生きていたらそんな行動は絶対に取らないため、今回も非常事態における例外に該当する。純粋な遊び目的でこういうことをする機会もいずれ来るのだろうか。

 

「割と学園からしたらガチ目な事情だから、そこそこスピード出しちゃってもスルーしてくれるらしいけど、まぁ程々で行くわ」

 

 多分、ナンバーを共有して何かしらの手を打ってくれていると思われる。まぁ日頃見てるスケール的には、驚く話じゃないし、向こうからしたら、理事長の精神衛生は最優先事項の一つに数えられるらしい。

 

「人に迷惑を掛けるにしても、感じさせる負担は割増になる時間帯だし、それでいいんじゃない」

 

 そろそろ夏休みか、と思いながら、正門でアプリを起動し、外の世界へ。さっき職員さんと話した時、私用での外出予定はあるんですかと軽口風に聞かれたが、何とその予定はない。実家に帰るとかも、特に求めても求められてもいないし、そうなると理由がない。

 

「……そろそろ夏休みね」

 

 被ったというよりは、そう思い易い時期とシチュエーションだったという方が正しいっぽい。

 

「やっぱ、結構忙しい?」

「うん……そうね。授業が休みなだけで、スケジュールの埋まりはあんまり変わらないかも」

 

 だよねと言いたいが、俺は元々授業がほぼないから乗れないことに気付く。

 

「歌手関係? それとも、斑鳩方面?」

 

「来月に関しては、斑鳩の方かな。曲を出すペースはもう少し落としていいって言われてるから、案件が入らない限りはマイペースにできそう。そっちは……変わらないわよね……」

 

 最後の一文は、呆れたような、諦めるような、憐れむような、とりあえず楽しそうな声色じゃない。

 

「いや、むしろ長期休業中はトラブル率高いから……色々開幕するらしいし、今から当たる件だって、後から考えれば何かのパーツになりそうだし」

 

 あんだけ長く生きてる理事長が初体験だって言うんだから、普通じゃないのは確定だろう。

 

「っ……ねぇ、さっきの理事長との話だけど……アンタは…………卒業するのよね?」

「……」

 

 若干、掴む力が増す。

 

「そりゃするだろ、何言ってんだ? ウチは単位とか関係なく、留年もない。転校も退学も出来ない代わりに、絶対卒業させられるシステムだろ」

 

 

 耳に入ってくる情報から考えて、一番もどかしい立場にいるのは、きっとタケルとレイカの二人だと思う。

 

 

「そ……っ……斑鳩の方は、とんでもないポストを用意して口説いてくるわよ。国も学園も、多分変わらない。聞いた話じゃ、水面下でやり取りして、来年の何処かで一斉に仕掛けてくるんじゃないかしら。正に争奪戦ね」

 

 一転して、少し大袈裟な口調になるレイカ。

 

「いや、俺は卒業したら静かに暮らすと決めている」

 

「それ、本気で叶うと思ってる?」

「嫌な詰め方だな……」

 

 反射的に苦笑いが漏れる。でも、そう思ってるのは本当のことだ。実際、既に一生食える程度の貯蓄はあるし、最近は卒業前にポイントを現金化するムーブも面倒臭いからしなくていいかと思ってる。馬鹿みたいに奢り倒して全額消費してやるぜ。

 

「まぁ少なくとも、今そんなことを考える余裕はないな」

「ハァ……アンタのことだから、ずっと同じこと言ってそうだけど」

 

 レイカは歌手を続けるだろう。それ自体が例外的な職種だが、それを得たことによって職業決定が大きく変化する能力者としては、かなりレアなケースになるのではなかろうか。

 

「そういや、業界内評価だと、神威ってどんくらい売れてんの? この前、熱烈なファンに出くわしたんだけど」

 

 言ってから、別に熱烈と取れる要素はなかったことに気付くが、軽く盛ったで済むレベルだろう。

 

「はっ? 普段音楽聴かないアンタみたいな人種も人気なのを知ってるんだから、売れてるに決まってるでしょ。別に私は被ってるつもりはないんだけど、TVに出ないとか、露出の部分で共通点があるから、結構比較されるのよねぇ……」

 

「へぇ……つまり、緋乃レイカクラスに売れている、と?」

 

「っ……零距離で撃つわよ……言ってるでしょ? 身内側からそういうこと言われんのが一番くすぐったいの。こういうのって、どうしても自分には甘い点を付けちゃうから、多分、向こうの方が売れてるわよ」

 

「ちょい、脇腹くすぐるの止めようか……」

 

 普通なら事故に繋がる暴挙だぞ。

 

「……リアルなこと言うと、推しの熱量は断然上だと思う。アンタからしたら意外かもしれないけど、男性よりも、女性が推しに入れ込む情熱とお金の方が上回ってるってデータがあるらしいわよ。ま、私はそもそも、売れたいと思って始めた訳じゃないんだけど」

 

「なるほど」

 

 ただ、現状でこれだけ売れて、周りには沢山の仕事仲間、お世話になってる人がいる。だからこそ、今となってはレイカも、売れることには貪欲なんだろう。じゃなきゃ生き残れない。俺のことがガチ目で嫌いなジャーマネさんも、前にそのようなことを言っていた。

 

「私一人なら、何処かの誰かが聴いてくれて、ちょっとイイなって思ってくれたら、十分なんだけど」

 

「うん……割と皆そうっぽいよな」

 

 まぁつまり、色々あるって話だ。やりたいことがあって、それがやれる内にガンガンやる。だから、こういう隙間時間で、その分の反動が来るのである。多分そう。

 

 その後は雑談に興じるも、結局話題は学生会絡みの確認や意見交換へと流れてしまう。レイカと二人で話す中での、今年度のあるあるとも言える。何気に、ゲームをプレイしている時は、お互い意識してその話題を出さないようにしている程だ。

 

「――てことで、そろそろ今回のラスボスと対面な訳だが……タケルには日頃苦労を掛けてるから、支援要請は控えたい所だな」

 

「言っておくけど、タケルがいても何の戦力にもならないわよ。理屈も人情も通じない相手なんだから」

 

「えっ? そこまで言う? そもそもその二つが全く通じなかったら説得の余地ねぇけど……」

 

「だから、彼女のことを少しでも知ってる人間は、皆そう思ってるのよ。アンタを除いて」

 

 何故だ。確かにおっかないし融通が利かない所もあるが、そんなレベルで口を揃える程なのだろうか。

 

「うーん……ちょっと本気で参考にしたいんだけど、レイカから見て、ヒカリって、どんな人間?」

 

「自分の正義のためなら何でもする人。逆に言えば、それ以外については完膚なきまで欲望に忠実。まともに会話を成立させられるのは、去年までパートナーだったアンタだけ」

 

「何でそんなスラスラ言葉が出てくんだよ……もしかして、その……嫌いだったりする?」

 

 少々驚いた勢いで、やや禁断な質問がポロっと出てしまった。

 

「少し嫌いだし、とても苦手。そもそも、学生会で彼女に苦手意識ない人なんて、アンタとマコトだけよ」

 

「いや、リゥがいるだろ?」

 

 まぁそれに関しては、ヒカリ側が避けてる感じだけど。

 

「っ……そういう話題に彼女を含める訳ないでしょ……とにかく、私は基本的に挿みたい時以外は口を挿まないから」

 

「えっ? それって只の平時じゃね?」

 

 むしろフリープレイじゃねぇか。

 

「ほら、そこのパーキングでいいでしょ?」

 

 どうやらこれ以上の対話は拒否られそうな雰囲気。仕方なく、件のビルから少し離れた地点にバイクを停める。このまま乗り上げてしまおうとも思っていたが、軽く揉めそうなので止めておく。

 

「あぁ……気が重い……って」

「ここまで来て何もたついてんのよ」

 

 横からタップされ、電波が発信される。ワン切りしたら、どういう対応されるんだろう。まぁ試す気は未来永劫ないけど。

 

「――はい、何ですか?」

 

 平坦なのに、何故か圧が籠った無駄に綺麗な声。つまり平常運転。

 

「悪い、こんな時間に。実は『海底神殿区画』の魚達が復活しちゃって、また駆除を頼みたいんだ。その、早急に」

 

「わかりました。用件はそれだけですか?」

 

 ヤバい。早く切りたい時の流れだ。

 

「いや、ごめん、後一つ……その駆除なんだけど、今から頼みたいんだ……実はもう、アパートに通じるビルの近くまで、レイカと来てる」

 

「急ぐ理由を聞く前に、桐島と二人でというのは、つまり私に喧嘩を売りに来たということですか?」

 

「チッ」

 

「違う違う違う違う違う。違うって。どういう経路を辿ったらそういう結論になるんだよ……」

 

 横にいるレイカも、珍しく舌打ちなんてしてるし、何故そんな物騒な展開を想起するのだろう。とにかく、この誤解を木っ端微塵に解かねば、俺とレイカの死亡エンドフラグが立ってしまう。

 

「実は、ちょっと理事長のストレス因がそこにあって、なる早で区画を攻略しなきゃいけない流れでさ。欲を言えば、攻略まで手を貸してほしいんだけど、どうだろう?」

 

「いえ、区画の攻略は私の仕事ではありません。また、話を聞く限り、緊急性は認められても、数時間を争う状況とは考えられません。正式な手続きを踏むならば、それを確認した後に、本日の昼頃伺います」

 

「っ…………確かにそうだな。勢いで来ちゃったけど、昼に駆除してもらって、その後アタックでもそこまで問題はない、のか……っ?」

 

 そこで、スマホを横から搔っ攫われる。

 

「――こっちは緊急って判断したの。それでわざわざここまで貴女を迎えに来たって訳。というか、電話じゃ埒が明かないわ。すぐ行くから、外で待ってて」

 

「ちょっ!?」

 

 何かを挿む隙間もなく、通話はこちら側から一方に切られる。

 

「…………」

「…………」

 

 スマホを差し出すレイカ、受け取る俺。両者の表情が少しずつ苦笑いへとシフトしていく。

 

「ヤバ……やっちゃったかも……」

「おいおい、マジで殺されるぞ……うん……とりあえず、帰る、か……」

 

「そう、ね……」

 

 その後、然るべき冷却期間を置き、土下座で和睦の道を切り拓くか。

 

「――って、そんな訳にはいかないでしょっ。もう昼から攻略の方針で動き出してるんだから」

「い、いや、まだ動き出してんの俺らだけだと思うけど……」

 

 多分、皆睡眠か夜更かし中。

 

「あーでも普通に考えて……下手に逃げたら背中から撃たれる可能性も全然無きにしもゲーミング……」

 

 ヤツは殺ると決めたら容赦はしない。

 

「……行くしかないわね」

「……だな」

 

 反省会と責任の追及に割くリソースはない。

 

「てか、戦闘になった時のことを想定しておこう。言うまでもなく、ここで死んだらリアルデスだから」

 

「……私、ハンドガンしかないんだけど?」

 

「うわ終わったじゃん……しかも月曜だし……てか何で、俺らは戦闘を想定せずにここまで来たんだ……」

 

 無理ゲーが秒で確定した。

 

「よし……神崎一家巻き込むか」

「それ、一気にラストバトルになるけど……」

 

「うん、駄目だ。色々終わる」

 

 そもそも、俺は今現在、ヤツとコンタクトを取るのは推奨されていない。まぁ俺は別にイイんだけど、向こうが全力で拒否しているらしい。

 

「あ、そうじゃん。アパート内なら死んでもリスポーンするんだった。なら……凸るか」

 

「はっ? アンタがリス待ちしたら誰が依頼とかトラブル解決すんのよ? それに、私だってスケジュールあるし」

 

「いやまぁ、だから、ちょっとは気持ちが軽くなったって話だよ。あ……ただ、それだと向こうも殺す気でガン待ちしてるかもだけど」

 

「それ、全然あり得るわね……」

 

 この数分の会話で、感情の起伏が少しヤバめな俺達。

 

「……結構時間が経った……行こう」

「……」

 

 頷き合い、横断歩道を並んで渡る。

 

「もし戦いになったら?」

 

「言うてないとは思うけど……俺がオトって、お前が撃つしかない。で、狙うなら首。それで無理なら多分逃げる暇もない」

 

「アレ、どこから出てんの?」

 

「両目と左胸、両手薬指、で、後は右膝」

 

「っ……手加減して、痒みにしてもらえないかしら……」

 

「ないな。この流れで戦うとしたら、普通に殺しに来る。俺ら相手なら、シンプルに貫通か切断だと思う」

 

「……ハァ……」

 

 大きい溜息を吐きながら、右太腿のハンドガンを確認し、ホルスターへ戻すレイカ。多分、俺らが今欲しい物は一緒だと思う。もちろん、タイムマシンだ。

 

 俺が半歩前の陣形で、ビルの中へ踏み入る。

 

「「…………」」

 

 四十年程前をイメージしているらしいパッと見でボロめなアパートに辿り着く。二階建ての三部屋ずつ、常に切れかけの蛍光灯が、頼りなくそれぞれのドアを照らしている。ちなみに、明るい時間に来ても、俺は特にノスタルジーは感じない。

 

 そしてどうやら、待ち伏せ攻撃はないらしい。そもそも、視界の中に住人の姿はない。

 

「っ……」

「……」

 

 二階の真ん中のドアが動く。周りはパートナーと呼ぶが、本当にそんな上等な関係なのだろうか。姓は欧陽、名はヒカリ、レイカと共に、俺的狐目系美人部門総合同率一位。

 

 

 

 ――――俺が左、レイカが右、最速で最善を尽くすべく飛び出す。

 

 既にレイカの指はトリガーに掛かっているはず。捕食者の視線は一体どちらへ向いているのか。少なくとも知る必要はない。

 

「ルナランドスケイ――――」

 

 

 

 光に包まれ、リアルな妄想が途絶、目くらましすらさせてもらえない。そもそも九文字は長過ぎる。

 

 やっぱどう考えても瞬殺に尽きる。戦いと呼べる土俵に乗せるには、やはり準備は必須だ。

 

 肝の冷える生々しい想定を終え、改めて穏便策一択であることを悟る。

 

「っ……」

 

 そしてどうやら、気配待ちをしていたらしい。相手の性格を考えれば、当然だった。

 

 姿を現した真っ黒ライダースーツ姿の黒髪姫カット美人が、無表情でこちらを一瞥してからゆっくりと歩き出し、階段を下りる。さすがに、ブラックスーツを着るのは面倒臭かったらしい。

 

「……」

「……」

 

 何かちょっと圧が強い気もするが、こんな時間にアポなしで来訪されたら無理もないとも言える。

 

 オンボロ階段から足を離してまもなく、4メートル程の距離を隔てて歩みを止める。

 

「――それで、話の続きというのは?」

 

 問答無用ではないことに、内心で胸を撫で下ろすが、経験上、危険自体が去った訳ではないことは確信できる。

 

「そうだな……いつも通りの感じだと、やっぱギブアンドテイクかな。こっちが求める内容はさっき言った通り。そっちは、何かテイクしたいこととかモノってない?」

 

「…………」

「……何?」

 

 視線を隣へ移すヒカリに対し、フラットに答えるレイカ。この肝の据わり具合には、いつも助けられている。

 

「いえ、その方向以外の言葉であったら、軽く分からせるつもりでした」

「危ねぇ……」

 

 つまり、ゲームならクイックセーブ必須の選択肢だったらしい。

 

「ですが、知っての通り、今月はまだ間に合っています。なので……30分好きにさせてもらえるなら、それを対価をしますが、どうしますか?」

 

「……ちなみに、どんなコースになる感じ?」

「それは、その時の気分で変わります」

 

「っ……」

 

 まぁ死ぬよりは全然イイし、コイツの顔を見てれば耐えられないこともない。が、多少渋る様子を見せることは、バレてたとしても必要な通過儀礼である。

 

「わかった。テキトーな時に声を掛けてもらう感じで大丈夫?」

「はい、それで問題ありません」

 

「っ……」

「っ……」

 

 おぉっと。

 

 俺的には纏まった所で、隣から不穏な空気が。そしてそれを真正面から受け止めるヒカリ。

 

「……そうですね。この機会に明言しておきますが、私はこの人に対して独占欲はありません。心境の変化があれば、子種を貰うことはあるかもしれませんが、恋愛、婚姻関係を結ぶつもりはありません。今も含めて、大抵の時間は不必要な存在ですから」

 

「子っ!? っ……もう少し言葉を選んでほしいんだけど……時間帯的には申し分なくても、そういう話をする雰囲気じゃないでしょ」

 

 明け透けな発言にやや狼狽したレイカだったが、すぐに立て直して冷静に言葉を繋げる。

 

「そうではなく、今の説明の後には提案が続きます。なので、貴女も30分、彼のことを好きにして構いません」

 

「――なっ!? 何で私までそんな……下品なこと……」

 

 先程とは違い、立て直しに失敗した様子だが、本当に勘弁してほしいのは間違いなく俺の方である。

 

「好きに、と言ったでしょう? 貴女の嗜癖を元に、認識している距離感に応じたことを、したりさせたりすればよいかと。補足すれば、私にとって金銭や感謝などは対価に当たりません。この人は過度に怯えたり喚いたりしないので、私のニーズに応えられるという話です」

 

 ちょっと一回席外しちゃ駄目かな。まぁ駄目だよねぇ。

 

「っ……だから……何で私まで……」

 

「それは察して下さい。何故なら、言語化すれば貴女を激昂させる可能性が非常に高いからです」

 

 いや、やっぱちょっと一回席外しちゃ駄目かな。まぁ駄目だよねぇ。

 

「っ…………」

「……」

 

 悔し気な表情で、レイカは何か緊急自分会議的な催しを開催しているように見える。また本来なら、勝手に話を進めるなと諫めるべき場面なのだが、そんなことをすればまとまりかけたものが一瞬で灰燼に帰すこととなるだろう。

 

「何か、妙に慣れたやり取りだったけど、いつもこんな風に要求して、あり得ない時間に呼び出したりしてる訳?」

 

「慣れてはいますが、違います。今回の件は、貴女が決定したことなのでしょう? 彼なら、事前に対価を準備、若しくは貸しを発生させてから狡猾に交渉してきます。ただ、今年度になってからはそのストックが心許ないため、このような形になったということです」

 

「お前全部言うやん……」

 

 明け透け過ぎるて。

 

「加えて、日時についてですが、ある程度の都合は考慮します。無意味な嫌がらせをするメリットはないので。とは言え、貴女が理不尽な要求をする分には、文字通り私が関与する話ではありません」

 

「まぁ、前半部分については事実かな」

 

 だから火種さえなければ優しいっていう認識なのだが、どうにも他者と共有できない。

 

 

「――っ、うん? とっ……」

 

 

 その時、一階のドアが開く音に反応、不幸なことに、おっかない人と目が合う。

 

 

「――アンタ達さぁ……今何時だと思ってんの?」

 

 

「あ……サーセン……」

 

 すっぴんでも、その目力に衰えを感じさせない一宮カスミパイセンだった。

 

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