トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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謎解きフェイクと神殿の攻略

「――えっ? ちょ、連絡早くね? 瞬殺やん……」

「ま、あのコンビじゃ、相手側に同情しちゃうわね……」

 

「あ、もしもーしっ」

 

 のんびり出来ると思った矢先、もう少し後の未来だと認識していた知らせに、首を傾げながらスマホを取り出す。

 

『ウィッス、東完了ぉ。でぇ、時計回りで南、でいい? うん、てことで、次はおばさん?』

 

 凄い。設置工事のように済ませていくつもりなのかもしれん。

 

「情報要らねぇだろ……で、次もおっさんっすね。何か、デカい牛に乗ってて、悪人に厳しいって設定です」

 

『馬じゃなくて牛ぃ? あ、でも干支だと牛って超俊足だったっけ……』

 

「あぁ、実質一位ですもんね」

『ネズミの目の付け所が一番凄いよねぇ』

 

「確かに。俺だったら絶対龍に跨るけどなぁ」

 

『いえ、干支はそれぞれがいつスタートしてもよいというルールなので、スピードによる競争ではありません』

 

「へぇ、そうなの? 初めて聞いたわ」

「中原って、東洋寄りの雑学強いよな」

 

『先輩の西洋寄りのそれに比べれば、そうでもないかと思いますが』

「それは間違いないわね」

 

 男の子の一部はそっち系の神話とかが大好きなのだよ。理由は聞かないでほしい。

 

『じゃ、そっちも謎解き頑張ってというトコで――』

 

 雑談を切り上げ、通話を終了する。

 

「にしても、ホントに東側からだったわね? 何でわかったの?」

「いや、言った通り何となくだよ。強いて言えば、人間は右利きが多いから、とかだと思う」

 

「後で聞いてみようかしら……ここに乗ればイイのよね?」

「のはず。お……」

 

「っ……へぇ……この波が広がっていくみたいな演出、理事長好きなのかしら」

「かもな」

 

 目の前の水面は消え、エレベーターと同じサイズと形の足場が複数浮いている。下は暗く、奈落判定かもしれない。

 

「円形が縦横並んで合計9……っ……やっぱり、手前の横一列の後ろには透明な壁があるわね」

「サラッと発砲すんの止めろって……」

 

 もしここが暴力禁止エリア的属性を帯びていたら、今頃超絶に面倒なことになってるかもしれんというのに。とりあえず、重武装しなくていいって伝えといてよかった。

 

「それで、どういう形式の謎解きなの?」

 

「それが、全然展開が違う。何か説明とかほしいんだけど……やっぱあの足場に乗ってみるしかないか」

 

「アレって、二人で一つの足場を選択せよってヤツ?」

「うん。例のバミリがあるしな。右中左……どれにする?」

 

 あんまりイイ展開が浮かばないが、ここで突っ立っていても話が進まない。

 

「アンタ、くじ運が取柄でしょ」

「いやいや。悪いこと起きたらキレるフラグやん……」

 

「……」

 

 しかし、目力で促され、セレクト権は強制的に俺の元で固定される。適当なボタンを長押ししても、譲ることはできない。

 

「じゃ、真ん中で」

 

 ほぼ同時に跳び、ダイレクトでバミリに着地する。

 

「「っ……」」

 

 再び空間が歪むと、気付けば俺達は対面させられており、お互いの前には教卓のような何か、しかも視界はほぼピンク色で満たされている。

 

「ねぇ、何これ?」

「今思ったんだけどさぁ、理事長って、謎解き普通に嫌いかも」

 

 わからなくて駄々をこねているイメージしかない。

 

「じゃなくて、私はこのファンシーな空間は何って聞いてるの。しかも、何コレ? フリップに……黒のマジックペン……」

 

「そのフリップを固定するのまであるなぁ……まるでクイズ番組みたいだ。あんま見たことないけど」

 

 誰かが付けてるのをちょっとだけ見ると、意外と楽しめる。

 

「そういえば理事長、クイズは嫌いでも、クイズ番組は好きだった気がする。泊まりに来た時にマコトと並んで観てたわ」

 

「クイズ嫌いなのに何故って感じだけど、まぁイイんじゃないか。検索したら楽勝だし」

「それ、アリなの?」

 

 普通に考えたら禁則事項に該当しそう。

 

「「っ……」」

 

 だが、そんな疑問を上書きする物体の登場に、俺とレイカの空気が一旦停止する。

 

 直径1メートル位の桃に肌色の手足が生々しく生えている、ゆるキャラとキモキャラの狭間を行き来するような何かが、俺らの真ん中に出現する。ちょうど二人と一体で正三角形を描くような位置取りであった。

 

「毛が生えてないから、雌か?」

「そうとは限らないんじゃないかしら……」

 

「モンダイ、デス」

 

 うわぁ、喋るんかい。機会音声な感じなのが多少の救いか。

 

「オタガイ、ノ、コト、ヲ、コタエテ、クダサイ」

 

 もうちょっとクオリティを上げられないのだろうか。

 

「……クリカエシ、マス、カ?」

「いや大丈夫っす」

 

 どうやら、マジでクイズっぽい何かが始まる様子。

 

「セイカイ、ハ、オタガイ、ニ、ハンダン、シテ、モライ、マス。ウソ、ヲ、ツクト、フセイカイ、ト、ナリ、マス」

 

 〇ボタン押してスキップしたくなるスピードのガイダンスだった。しかも、クイズはクイズでも、所謂カップル相性診断みたいなヤツではなかろうか。確かに、理事長の好みではある。

 

「イチバン、スキナ、タベモノ」

 

 唐突。

 

「……クリカエシ、マス、カ?」

「いや大丈夫っすねぇ」

 

 とりあえず従うしかなさそうなので、即答で書き込む。

 

「これさぁ、不正解叩いたら奈落とかあり得る?」

「だとしたら相当な難易度じゃないの……」

 

 ふと思ったが、バトルと謎解きの役割を逆にしたら完全に詰んでいたと予想される。

 

「一番好きな食べ物って、気分で変わるよな?」

 

「っ……ちょっと、面倒臭いこと言わないでよ……もう書いちゃったんだけど……てかアンタ、これじゃなかったらさすがに只じゃ置かないけど?」

 

 場に順応したレイカが、早速圧を掛けてくる。こうなってしまうとコイツは結構本気でやるし、本気で楽しんでくる。

 

「何でだよ……とにかく協力しよ。ただまぁ、この問題はさすがにイケるだろ」

「デハ、コタエ、カレシ、カラ、ドウゾ」

 

「おいおい。カップル設定なのかよ……そういうとこ丁寧にチュートリアル入れろって理事長の無意識」

 

「っ……ほら、いいから。話が進まないでしょ」

 

「いやまぁ、そっちがそう言うならイイけど……」

 

 とりあえず、フリップを表にして立てる。

 

「……マーボー、ドウフ……ドウ、デス、カ?」

「……正解」

 

 何故に不服そうな顔、と思ったがスルー。

 

「デハ、コタエ、カノジョ、ドウゾ」

「……」

 

 ノッてるのか面倒なのか、よくわからない空気感で、レイカがフリップを立てる。

 

「……ウナ、ジュウ……ドウ、デス、カ?」

「正解っ」

 

 ちなみにうな丼でも可。

 

「オメデトウ、ゴザイマス」

「「っ……」」

 

 同じ演出による場の変換を経て、偽ファンシー空間を脱した俺達は、元の足場に戻る。

 

「さっさと次に行きましょ」

「もっかい真ん中で」

 

 焼き増しなジャンプ、すると、まさかの焼き増しな演出。

 

「オタガイ、ノ、コト、ヲ、コタエテ、クダサイ」

「戻した意味よ……」

 

 頼むから三問連続でやってほしい。

 

「……クリカエシ、マス、カ?」

「いや大丈夫っすねぇ、マジで」

 

 くそ。キレても不毛な謎生命体に進行させやがって。いや、生命はないかもしれん。

 

「イチバン、スキナ、クカク」

 

 二問目にして早くも独自路線。しかも難易度まで爆上がり。

 

「……クリカエシ、マス、カ?」

「いや大丈夫っす」

 

 思い当たる答えが一つしかないため、それを書き込む。

 

「っていうかマジで不正解だった時のペナルティを教えてほしいんだけど……」

 

 しかもこの一番って、レジャー部門、食部門、単純に趣味部門とかで分かれてて際どいしムズい。今の気分では、という答えで平気なのだろうか。噓発見器に引っ掛かって奈落のコースが一番ショボいのだが。

 

「デハ、コタエ、カレシ、ドウゾ」

 

 腕、脚、桃、アーム、レッグ、ピーチでアレピと名付けよう。

 

「はいっ」

 

 フリップを立てて答えをオープン。

 

「……ヒトリ、カラオケ、クカク……ドウ、デス、カ?」

「…………正解」

 

 今度はもう明確に不服そう、と思ったがやはりスルー。

 

「てかコレ、何の羞恥プレイなのよ……」

 

「うん……とにかく、ここでの話は今日のことを他人に伝える際はカットしよう」

「えぇ、そうしましょう」

 

「デハ、コタエ、カノジョ、ドウゾ」

 

「……外れてたら爆破する……」

「おいおい……」

 

 物騒なことを言いながら、レイカが答えをオープン。

 

「……ジャンソウ、クカク……ドウ、デス、カ?」

「正解。って何で知ってんの?」

 

「忙しいとブツブツ言ってるでしょ。それに、期限付きの依頼をほったらかして佐藤先輩とかと雀荘に行ったこともあったし。ま、それはサヤがお灸を据えたからイイけど」

 

「やっぱ確かな情報ってヤツはお前か……」

 

 違法賭博を検挙するようなノリで踏み込まれ、超焦ったのを思い出す。

 

 っていうかこのゲーム、あんまり楽しくないんだけど。

 

「オメデトウ、ゴザイマス」

 

 そして、意味の希薄な場面転換。

 

「じゃ、真ん中で」

「だと思った」

 

 跳ぶ、着地、アレピ登場、予定調和だ。

 

「アレ、撃ったらどうなるのかしら?」

 

「止めとこうぜ。桃食う時に思い出しちゃうから」

「それもそうね」

 

 そういえば、理事長が一番好きな果物だった。無意識ってモノは、色んな物がごちゃ混ぜになっているのかもしれない。まぁ知らんけど。

 

「オタガイ、ノ、コト、ヲ、コタエテ、クダサイ」

「そろそろループ物に思えてくるな……」

 

 繰り返し念押しスキップ機能をそろそろ実装してくれ。

 

「……クリカエシ、マス、カ?」

「いや大丈夫っすねぇ、マジで」

 

 だから、実装しろって。早くアプデしろ、運営。

 

「イチバン、スキナ、エネルゲイア」

 

「おぉ……むしろ皆で飯食いながらやりたいヤツ来たな」

 

「……クリカエシ、マス、カ?」

「間に合ってる」

 

 さて、これは普通にシンキングタイムを要する。外す確率も十分にあるので、身構えるべき必要もありそう。なのに、レイカは一、二問目と同じく爆速で答えを書いている。微妙に敗北感。

 

「これ、外した方は罰ゲームよね?」

「暇だからって新ルール加えるの止めようぜ……」

 

 まぁある程度の確信を持って書き込む。

 

「デハ、コタエ、カレシ、ドウゾ」

 

 今更だが、どうにもアレピの機械音声は録音ではなく肉声に思える。機械じゃないのか。やはり一発パナすべきかもしれん。

 

「はいっ」

 

 が、割とどうでもいいので答えをオープンする。

 

「……ジブンノ……ドウ、デス、カ?」

 

「正解……ま、近い話題があったし、当然よね」

 

 この感じ、外してたら奈落の前に素ギレが待っていたっぽい。

 

「デハ、コタエ、カノジョ、ドウゾ」

「はい」

 

 事務的にオープンするレイカ。出れば余所行きな感じになるだろうが、現状ではバラエティ番組には向かないだろう。

 

「……ジブンノ……ドウ、デス、カ?」

 

 書き方が被る。ただ、まぁ誰でもこう書くとは思う。

 

「正解っす」

 

 レイカも言っていたが、練度の上げ方が分からない以上、隣の芝生はあまり青く見えないし、使い勝手は悪くても、不思議と愛着が湧くモンだ。そんな感じの会話だったと記憶している。

 

「オメデトウ、ゴザイマス」

 

 危なげなく、かどうかは疑問も残るが、とりあえず元の神殿空間へ帰還、前方の足場へと跳び移ると、小中学校で見た覚えのある非常ボタンが浮いている。毎度のことながら、急に世界観を壊してくる。まぁアレピが既に破壊済みだが。

 

「……」

 

 それ以外に選択肢がないため、人差し指で押し込む。すると、ペア分岐からのスタート地点である開けた空間に視界が戻る。どうやら、東側はこれでクリアらしい。

 

 

                   ※

 

 

「――なので、アタシの能力をある程度は説明しておくね」

「わかりました。お願いします」

 

 時計回りルールにより、南側へと歩きながら、月見里先輩の能力について説明を受ける流れとなった。先程の言葉通り、引退の際に広く流布されたとのことで、私が知っても問題はないようだ。よりよい連携のためにも、是非聞いておきたい。

 

「んーじゃ、ちょっと手を貸して」

「はい」

 

 差し出された右手に、こちらは左手を重ねる。

 

「――っ?」

 

 瞬間、目の前に朱色の粒が現れる。

 

 いや、現れたのではなく、月見里先輩の手に触れたことにより、知覚出来るようになった、というのが正しいのかもしれない。そしてその大きさは、正に米粒程に見える。

 

「あ、見えてるねぇ。これが印……いん、しるし……どっちでも大丈夫。触れてて、アタシが見せようとしない限り、誰にも見えない。コレがまぁまぁ凄くて、リゥちゃんミオちゃんでも見えないみたい。それでぇ……」

 

「っ……」

 

 粒がもう一つ。目線の高さに浮かぶ二粒は、10センチ程離れているが、同色の光の線で結ばれている。

 

「印は、互いを結んで線を作る。印に直接触れると1点、触れ続けると3秒毎に1点加算、印で結んだ線上を通過すると1点、線上に留まると3秒毎に1点加算。それでぇ……」

 

「……」

 

 この時点で、かなり厄介な能力であることは予想できた。変わらぬ人懐っこい笑顔で一旦言葉を切るその姿が、少し恐ろしく見え始める。

 

『あ、あー、あ……』

「――っ!?」

 

 突如、頭の中で声が響く。感覚としては、ヘッドホンをしている時に近いか。

 

『こっちも大丈夫そうだねぇ。さっき、中原ちゃんも1点入ってたんだよねぇ。それでぇ、アタシは生命体が獲得した点数を使用して、相手に色々出来るって感じ。1点使うと、こうやって頭の中に直接話し掛けることが出来るの。とは言っても、一方通行なんだけどねぇ……』

 

「……」

 

「これで、何となくはわかった?」

「つまり……先程はこの力によって、相手の動きを操ったということでしょうか?」

 

「正解っ」

 

 同時に頭を過る、先輩の言葉、在学生キル数についての情報。間違いなく、点数によっては恐ろしい効果を付与出来ると考えて間違いはないだろう。加えて、不可視であることから完全な回避は難しく、更に不意を打たれればどうすることもできない。

 

「それは、非常に強力な能力ですね……」

「時と場合と相手によっては、ね」

 

 やはり、説明を聞いていた時に感じた迫力は、気のせいではなかった。

 

 彼女はこの能力の長所と短所を深く理解しており、最も効果的な活かし方を知っている。考えてみれば、レイカさんの前任者なのだから、当然のことなのかもしれない。

 

 常室先輩のような例外はあれど、能力の強さは、使用者の精神に依存する。ある程度真実に近いセオリーと考えてよいだろう。

 

「で、からぁの南って感じで、そういえば、太刀川何か言ってたっけ?」

 

「牛を連れた壮年男性、後は悪人に対して厳しい、と言ってました。悪人の定義が、少々曖昧だと思われますが」

 

 正直、その情報を聞いてから今まで、特に対策のようなものは考えていなかった。おそらく、情報自体を忘れていた様子の月見里先輩も、同様だと思われる。

 

「あぁ、干支の話からそうなったんだっけぇ。うーん……行ってみよっか?」

「はい」

 

 牛の話から干支の話になったのだが、訂正は無意味であろう。そう思いながら、立ち位置へ入る。

 

「「…………」」

 

 先程と同様、足元から波紋が広がり、目の前は新たな空間で上書きされる。

 

「おおぉぉ……えっ? 牛って、黒いしカッコ良くない?」

 

「あれは、水牛ですね。確かに、乳牛に比べて逞しく、角の生え方にも雄々しさが感じられます」

 

 体長は3メートルを優に凌ぐ。体毛が少ないのか、シルエットがしっかりと把握でき、あまり鈍重な印象は見受けられない。そして、情報通り、跨っているのは金色の装飾品を多数身に付けた壮年男性。肌は水牛と同色かそれ以上に黒く、人型だが、あまり人間とは思えない。

 

「っ……」

 

 二歩前に出て、刀を構えるが、目の前の相手からは戦意が感じられない。

 

「汝ラ、ハ、悪人ニ、非ズ……通ル、ガヨイ」

「あれっ?」

 

 その言葉通り、左方へと動き、正面を譲るように道を開く水牛に、月見里先輩は首を傾げる。

 

「ってことはぁ、アタシと中原ちゃんって、善寄りって話?」

 

「……法を犯したことはありませんが、殊更にそのような自覚も、またありません。独自の判断基準があるのでしょうか」

 

「えーっとぉ、中原ちゃんはそうかもしんないけどぉ、アタシはどーだろ……深夜の横断歩道とか普通に無視しちゃうんだけどなぁ」

 

 確かに、自分は習慣的に信号を守るとは思われる。ただ、その差がこの場面での善悪を左右するとは思えないし、思いたくもない。

 

「まぁ、いっか。よーし、おいちゃんっ。折角だから、戦おうよっ。区画の中の守護者なら、そのための存在なんでしょ? このまま攻略されて消えちゃうなんて、もったいないって」

 

 言いながら、屈伸伸脚をし始める月見里先輩。予想外の好戦的姿勢だが、自分としては悪い展開ではない。

 

「……汝ラ、ト、戦ウ、理由、ガ、ナイ」

 

 一方で、私の受け取り方の問題が、水牛に跨った人型は、やや困っているようにも見える。

 

「んーでも、攻撃されたら反撃するしかないっしょ? ならさぁ、それが戦う理由になるんじゃない?」

 

 害意の感じられない気軽さで、月見里先輩はそれでも食い下がる。

 

「…………汝ラ、ト、戦ウ、理由、ガ、ナイ……」

 

 録音データを再生するように、同じ答えを返す、金を纏った黒い人型。

 

「………………よし。ならしゃーなしっ。中原ちゃんっ、このおっさんはウチらのことを極悪人として認定したから、ちゃちゃっと倒しちゃお。アタシ、能力なしのステゴロで殺るから」

 

「……」

 

 徐に、オープンフィンガーグローブを両手に嵌めながら、よく分からないことを言い出す小柄な少女。だが、目の前の相手からは、先程の穏やかさは全く感じられず、明確な敵意に加えて戦闘態勢が見て取れる。

 

 つまりは、能力で操ったと考えるのが妥当。本当に、彼女は善寄りと認定されていたのだろうか。些か疑問ではある。

 

「――――――」

 

 だがどうやら、今すべきはその答えを考えることではなさそうだ。

 

 

 その言語には遠い叫び声を上げた主に応えるかの如く、黒色の猛牛は完全にこちらを外敵と見なして高速で迫りくる。そしていつの間のか、人型の右手には、長い棍のような殴打武器が握られていた。

 

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