トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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完全に吹き飛んだ謎解き要素

「――あれっ? また着信て……完全に一周遅れやん……」

「そっちはもう南側が終わったんですか?」

 

 俺が取る前にレイカが既に繋ぐ。というか、無駄な演出が無かったら、俺らももう少し早く終わったはずなんすけどね。

 

『今終わったトコ。いやぁ……中原ちゃんが強過ぎてもう……老兵は去る、だねぇ』

 

 見た目は一番幼いんだけど、とは返せない。

 

「そういえば、悪人に厳しい、だったかしら? サヤがいれば、そんなに厳しくされないんじゃないかって思ったんですけど……」

 

『うーん……まー、さ……善悪の区別なんて、そもそも出来っこないっしょ。ほら? そういう其方は善なのかね? 悪なのかね? とか言われたじゃん? 変な爺ぃに』

 

「あー、そんなこともありましたね。何処でしたっけ?」

 

 言葉は覚えているけど、区画と相手を忘れた。よくある話だ。

 

『さぁ? んーじゃ、次は北に行くってことで』

 

「あ、じゃ情報――って聞いちゃいねぇ……」

 

 言う前にマトイ姉さんの離脱を確認。そろそろエンジンが暖まってきたっぽい。そして中原は起動すらしない。まぁ問題はないが。

 

「っ……意外と、月見里先輩と行動したことあるのね?」

 

「あー、まぁ……時効だろ。斑鳩先輩、三日に一回ペースでサボってたんよ。その代打は全てマトイ姉さんって話。だから、実質的な感謝の気持ちは斑鳩先輩よりも上だ」

 

「はっ? 嘘……でしょ……本当に知らなかったんだけど……しかも、頻度的にはそれでも斑鳩先輩の半分なはずなのに……ただ、それも含めて納得できる話ではあるわね」

 

 どうやら、レイカは斑鳩先輩の怠惰を、まだまだ甘く見積もっていたらしい。実際、マトイ姉さんに見捨てられていたら、俺は既に何度もリスポーンする羽目になっていたことだろう。

 

「とりあえず、解除されたっぽい南を攻略しよう。一応言葉にしておくけど、次も多分謎解きじゃないと思う」

 

「それだけは言われなくてもわかってる」

 

 うんざりは既に通り越したのか、避けられないならやるしかないというレイカ。こういう所がナギと一緒で男らしいと思う。にもかかわらず、二人は犬猿を超える程に混ぜるな危険コンビなのである。今回もそれを解消しようとナギに打診したが、即ギレブッチされたとさ。

 

 内心で気を取り直し、南側のバミリに並んで立つ。

 

「「…………」」

 

 演出に工夫が見られない。そう思ってしまった。

 

 まさかの使い回し、現在地はピンク空間。こっち側に振るリソースを節約しているのかもしれない。

 

「アレピ……またお前なのか……」

 

 桃が美味しい季節だというのに、食えない桃など見たくない。

 

「っ……ねぇ? それってもしかして、アーム、レッグ、ピーチ、でアレピ?」

「えっ!? お前、今のはさすがに凄過ぎないか? 俺の思考パターン検定一級じゃんっ!」

 

「そんなキモい検定受けちゃいないわよ。てか、アンタのあだ名の付け方って、私からすればもはや短絡的なのよ」

 

「何故キレ気味……」

 

 だが、ピタッと当てられているためか、何も言い返す言葉が見当たらない。

 

「カノジョ、ニ、テリョウリ、ヲ、ツクッテ、モライ、マス」

 

「……」

「っ……何……だと……」

 

「……クリカエシ、マス、カ?」

「お願いしますっ」

 

 あってよかった繰り返し念押し機能。ナイス神運営。

 

「……カノジョ、ニ、テリョウリ、ヲ、ツクッテ、モライ、マス」

 

 どうやら、聞き間違いではないらしい。

 

「いや、でも俺の持つ情報は古い。レイカ、最近になって目覚めて、マコトに料理を習ったとか?」

 

「いつか習おうとは思ってる……それは本当よ」

 

 一気に立場が逆転したような雰囲気。このお題はレイカに対し、こうかは ばつぐんだ!

 

「これはもう、小中学校での家庭科の授業を頑張って思い出してもらうしかないな……」

「あくまで偶然なんだけど、その日に限って欠席してるのよね……」

 

「……」

 

 マズい。こいつのパパの趣味が料理ってこともあって、逆に全くやって来なかったという説もある。俺自身、今日のこの瞬間に至るまで、レイカがわざわざ料理を作る必要はないと思っていたし、本人にも再三そう伝えていた。

 

「デハ、オヤコドン、ヲ、ツクッテ、モライ、マス」

「うわ微妙にハードル高い……気がする」

 

 言いながら、工程としては大したことないと思ったが、女子が差し当たって作ろうとするメニューには入っていないのではなかろうか。しかも、マコトに作ってもらった料理リストにも見当たらない。

 

「カレシ、ニ、ニカイ、シツモン、デキ、マス」

 

「なら、作り方全部教えてって言えばいいのかしら?」

「いやいや、絶対ダメだろ……ピンポイントなやつだって」

 

「ソウ、デス」

 

 こんな所で、アレピとスムーズに会話が繋がる。

 

「……クリカエシ、マス、カ?」

「とりあえず大丈夫っす……」

 

 すると、次の瞬間にはよさげなアイランドキッチンが出現。広めの台の上には色とりどりの食材が並ぶ。そんなに選択肢要らねぇだろーがっ。

 

「あ……そっか……ここから既にノーヒント、か……」

 

 状況は割と絶望的。

 

 今更だが、唐突にクッキングタイムが始まったらしい。俺は用意された手前の椅子に座り、基本的には見守ることしか出来ないっぽい雰囲気だ。

 

「あーでも、アレピさん? ご飯からだと、時間掛かり過ぎない?」

 

 早炊きでも結構掛かっちゃうし。

 

「ゴハン、ハ、スデニ、ヨウイ、サレテ、オリ、マス」

「それはナイス」

 

 極端に硬い、もしくはやわらかいご飯は初期設定で回避されている様子。

 

「……」

 

 そして、先程から全く言葉を発しないレイカ。まぁ少なくとも、この展開は想定外に違いないので、無理もない。

 

「よし、レイカさん。とりあえずいってみましょ。大丈夫大丈夫。ここで起きた一切はオフレコなんだから、思い切ってやってやりましょ」

 

「コイツ……他人事だと思って……」

 

 不機嫌な表情でエプロンを装着するレイカ。それ自体は全然似合っているが、問題はそのスキルである。

 

「いや、それは違うぞ。この展開はどう考えても、作った料理を俺が食す流れが約束されている。頼むから、今回だけはエクスカリバーになってくれ……」

 

 俺は、両手を合わせて未だ見ぬ神へ祈る。

 

「結局はムカつくことに変わりないんだけど……」

「まぁまぁまぁ、とにかくまずは材料だ」

 

 おそらく、直接的なアドバイスでなければ、発言は許されるであろうと勝手に判断。もし駄目なら、アレピがカットインしてくれることだろう。

 

「一応聞いておくけど、アンタは正確な作り方を知っているのよね?」

「待て待て。そんなことで貴重な質問権を消費するな」

 

 そんなん普通に、一番メジャーなレシピアプリのなら知っとるわ。

 

「っ……そうだった……フゥ……一回冷静になりましょう……」

 

 目を閉じて、内観のような何かを始めるレイカ。およそ緊張することなどないようなヤツだが、この場面はやはり例外カウントか。

 

「材料……えーっと……確か、緑の葉っぱ……みたいのが必要よね……」

「……」

 

 もしかして三つ葉のことだろうか。というか何故初手がそこ? 料理できない人間特有の、別に必要ないものにこだわる、という特徴に該当するのかもしれない。少なくとも、俺が作る時はわざわざ買わないと思うし。

 

「っ……」

 

 いや、公式には必要不可欠か。だって店で頼んだら絶対添えられている訳だし。

 

「これ、でいいわよね……」

「……」

 

 それは大葉。でも、俺は好きだからアリかもしれん。

 

「ねぇ? 何でさっきから微妙な顔して黙ってる訳?」

 

「……料理に関係ない会話はアリ、だよな。いやだって、ヒントになっちゃうだろ。ルールはちゃんと守らんと、アレピだって困るだろうし」

 

「っ……まぁいいわ。最後に乗せるのはコレとして……あ、ご飯は、確かに炊けてるわね」

 

 うん。間違いなく彼女は冷静ではない。何たって炊飯器の蓋を開けるのに結構な試行錯誤を要していた。こりゃマズいかもしれん。

 

「……材料は何? って質問はアリなの?」

「いやぁ……これがエンタメなら、台無しな質問かと」

 

「これはエンタメじゃないわ」

 

 キレる閾値が通常よりも低くなっている。つまり今のレイカは容易にキレる。

 

「アレピさん、どうなんすか?」

 

 いつの間にかすぐ隣までやってきていた不思議物体に聞いてみる。今更だが、身長は1メートル20センチ程だろうか。とりあえず、小二とガチで喧嘩したら一方的にボコられそうだ。

 

「……ハイ、イイエ、デ、コタエ、ラレル、ゲンテイ、テキ、シツモン、ヲ、オネガイ、シマス」

 

「なるほど。クローズドクエッションってヤツやね。とにかく、まずはイエス、ノーで答えられる感じで。判断はその後だ」

 

「面倒ね。鶏肉……胸、もも、ささみ、レバーに砂肝……これは、ささみが正解よね……」

「……」

 

 何でだよ。俺は別に金井先輩でもダイエット中でもないぞ。普通にもも肉にしてくれ。が、既に数あるパックの中からささみをセレクト済みのレイカ。鶏以外の肉を選ばなかったことを褒めるべきか。いや、せめて筋は取ってくれ。

 

「次は……卵よね。赤いのと白いの……コレって何が違うのかしら……」

「……」

 

 大して変わらん。とにかく、うずらと温泉卵は除外しろ。

 

「レイカ、多分だけど、細かい部分はそこまで考えない方が上手くいく。要は、食べた記憶を掘り起こして、入っていた食材を逆算して選んでいけばいい」

 

「…………正直、親子丼を食べた記憶がないわ」

「マジすか……」

 

 何でだよ。普通に美味いだろーが。牛丼に飽きたら頼むだろーが。むしろ女の子の方が好んで食べるだろーが。

 

「そもそも、焼くの? それとも炒めるの?」

「それ一緒なんだけど……」

 

 何故煮るというワードが出てこない。

 

「はっ? 焼くと炒めるって、一緒の意味なの?」

 

「この場合は……と言いたい所だけど……いやこれはさすがにイイだろ。焼くは、七輪とかで? みたいな。炒めるは、フライパンでって感じ」

 

 だから系統は一緒なんよ。

 

「なるほどね……つまり、この場合は炒めるが正解、か……」

「……」

 

 違ぇよ。煮ろよ。煮るんだよっ。

 

「……後は、ネギよね。これは間違いない」

「……」

 

 玉が抜けてるって。ただ、それでもまぁ食えなくはない、のか。

 

 選抜された食材は鶏ささみの巨大ブロック、レギュラーの卵1パック、大葉マシマシ、長ネギ1本。このメンバーで、親子丼を作る。うん。まだ戦えるはず。

 

「…………あ、ちょっと待って。アレピ、今のって、質問になるの?」

「シツモン、カイスウ、ハ、アト、イッカイ、デス」

 

 無情なるカウント。ただ、二度の質問を1回とカウントしてくれたっぽい。

 

「マジか……あんなどうでもいいことに……」

 

 だが完全に術中にはまってしまった。クローズドクエッション設定何処に消えた。

 

「レイカ……とにかく、効果的な質問を頼む」

 

 少し考えたが、俺からこう聞け、みたいな発言はさすがにご法度だと思った。

 

「えっ? 後はこれ全部炒めて混ぜるだけでしょ?」

 

「でしょって……いやいや、もうお前、軽々しくクエスチョンマークで発言を終えるなって……」

 

「そんなこと言われたの、生まれて初めてなんだけど……」

 

 俺だって言ったの初めてだよ。

 

「じゃなくて、そんなことより……あ、味付けよね? でも……うん、それは醤油で決まりだし……後は……」

 

「っ……」

 

 そんなすぐ次へ行くなって。アイツ絶対ドバドバ入れるやん。並のリーマンなら塩分過多で健康を害するって。まぁ、それでも緋乃レイカの手料理が食いたいっていう猛者は配り歩く程度にいそうだけど。

 

「逆に、アンタは何を聞けばいいって思ってるのよ?」

 

「だから……そのコンボはもう使えないんだよ……あ、アレピさん? 質問の残り回数は?」

 

「……イッカイ、デス」

「セーフ……」

 

 でも確かに、最初にその質問をしてくれれば二つの枠を犠牲にして確実な一問を手繰り寄せられたということか。もう一回最初からやらせてほしい。

 

「ただ……待てよ。コレって、正確な親子丼が作れなかったらアウトなのか……でも、それぞれの親子丼の形があるだろ……故に、作り方の模範解答など存在しない……はず」

 

 だが、それでも考えれば考える程に、現状の先にはそんな言い逃れが許されない何かが完成しそうな未来しか見えないのも、また事実か。

 

「うん……そうよね。そう考えれば、逆に私がこれから作る親子丼もその模範解答の一つ、ということになるわ」

 

 ポジティブなのは結構なことだが、現実的には只々ディスコミュニケーションが酷い。

 

「レイカ、もう一回落ち着け。とにかく、使える資源は使い切って終わろう。質問回数は、あと1回残っている。調理前にそれをどうにか活かしてくれ……」

 

 そろそろアレピに聞きたいんだが、コレって失敗したらどうなるんですか。でもちょっと怖くて聞けない。

 

「っ……終始ムカつくけど一理あるわね……っ……シン……これ、フライパンは右のと左の、どっちを使えばいいのかしら?」

 

 終わった。

 

 竜宮城の土産物じゃねぇんだよっ。大きいフライパンでも小さいフライパンでも変わらねぇんだよっ。量の問題なんだよっ。と叫びたい俺。

 

「ハァ……っ……いや、まだだ……えっと、レイカ? よく聞いてくれ。右のも、左のも、本来は使わない」

 

 よし、望みを繋ぐ切り返し。誰も見ちゃいないが、誰か俺の頑張りと苦悩を認めてほしい。

 

「――っ!? そう、か……このちょっと深めのフライパンを使うのね」

「…………」

 

 届かぬ思い。そして調理器具の選択肢が多過ぎる。普通ならフライパンなんてトラップにもならんというのに。やはり料理をしない者にとって、料理と言ったらフライパンなのだろうか。誰かテキトーにアンケートを取ってきてほしい。

 

「まぁ、賽は投げられた……後はもう頑張ってくれとしか言えない」

「っ……だからその微妙な上からがムカつくって言ってんのよ……」

 

「仕方ないだろ。実際問題、料理に関しては俺の方が遥か高みにいるんだから」

「くっ……」

 

 その実態はレシピアプリ見ながらたまに作る位だけどね。

 

 そしてなんやかんや、調理は実践へと移る。そして意外にも、包丁の扱いは全然問題ない。刃物慣れしているからだろうか。

 

「へぇ……これがささみ……確かに、油が全然ないわね」

 

 ささみの親子丼。フレーズ的には全然ありそうだが、俺の知識にはない。

 

 とは言え、難なく一口大に切っていくレイカ。だがやはり、筋はそのまま。けど些末なことだ。洗ったネギは何故か千切り、次は卵か。

 

「卵の殻が入ってると、結構しんどいよなぁ……」

「黙って。私だって卵位割れるわよ」

 

 どうせ何を言っても憤る状態のレイカは、そのままコンロスペースで火を付ける。どうでもいいが、IHではなくガスを選択したらしい。

 

「……」

 

 何故先に卵を割らないのか、その答えは一つ。彼女には、溶き卵という概念が備わっていないからであろう。

 

「あ……まずはバターよね」

 

 それマーガリンっすねぇ。別にもうトランス脂肪酸がどうとか言う気はないが。

 

 無駄に深いフライパンの上からマーガリンが姿を消したタイミングで、レイカは豪快にささみ肉をぶちまける。一体何人分作る気なんだろう。

 

 一応基本的な常識は持ち合わせていると思われるレイカ。ちゃんと炒めてしっかりと肉に火を通す。でもこの時点で既に親子丼を連想できない。

 

 更にネギをマシマシで投下。これに焼肉のタレをぶっかければ十分美味いはずなのだが。

 

「テーマは親子丼なんだよなぁ……」

 

 これは失敗か。アレピよ、どうせなら早めにタオルを投げさせてほしい。

 

「――あ……っ…………」

 

「ちょいちょいちょい、殻入っちゃったならちゃんと除去しようぜっ! 何誤魔化して卵連投してんのっ」

 

「っ、うっさいわね……料理はスピードが命でしょ? 一度火を付けたら、そんなことをしている暇はないわ」

 

 と言いつつだが、実際は焦ってる上にネギとか白味に紛れて捜索困難なだけっぽい。

 

「いやいや他にも大事なことがあるって……」

 

 異物混入を防ぐこととか。

 

 それに加えて、俺には止める術もなく、レイカは計6個もの卵をフライパンへと落とし続けた。だから何人前計算で作ってんだよっ。

 

「よし、最後は味付けね」

「……」

 

 せめて蓋をして蒸せ。卵に火が通らんだろ。

 

 そして当然の如く、大さじ小さじという分量からは遠い入れ方。何か瓶だし、高級そうな醤油に見えるが、それは用いる者あっての匠の技だと思う。

 

 こうして、おそらく桐島レイカによる初めての料理が完成を迎えた。既にどんぶりへご飯を盛ったレイカは、フライパンの中身を雑に落としている。ただ、ここら辺だけ持ち前のセンスなのか、下に零すことなく盛り付けは完了している。大葉の存在は既に忘却の彼方か。

 

「いつ失敗判定が下されるんだ……」

 

 そっちが気になってしまうが、フライパンの中身が半分位残っていることに、俺は内心で胸を撫で下ろした。

 

「色々あったけど、何とか出来たわね……」

 

 ちょっとドヤ気味。これが無知というものか。一応、親子丼の完成形は見たことあるはずなのだが、一時的に知性低下のデバフでも受けているのだろうか。

 

 拒否などする暇もなく、アシスタントと化したアレピが、大事そうにどんぶりをトレイに乗せ、俺の席まで届けてくれる。お前も一緒にどうだ、と誘いたかったが、この存在に消化器官が備わっているとは思えない。

 

「デハ、カレシ、ニ、ヨル、ジッショク」

「何の番組だよ……」

 

 調理過程を肉眼で確認していたため、改めての感動はないが、名付けるとすれば、鶏ささみとスクランブルエッグの醤油炒め丼、長ネギマシマシ、と言った所か。

 

「……」

 

 安心材料としては、ギャグ漫画における類似場面とは違い、意識を喪失したり、血を吐いたり、火を吹いたり、天に召されたりする心配はない、と思う。

 

「うん、大丈夫。見てただろ、お前……揺らぐな」

「何で己を奮い立たせてるのよ……」

 

「いや全然食うけどさぁ、何で一回も味見しないかなぁ……それがマジで驚きなんだけど」

「っ……」

 

 そのリアクションを見るに、味見という発想自体が抜け落ちていたらしい。

 

「じゃあ、いただきます……」

 

 アレピが添えてくれた箸を取り、覚悟を決める。とは言ったものの、ささみを醤油で炒めている時点で匂いは普通に悪くない。人生初の炒め物としては、全然良い方に属するのではと思わなくもない。

 

「んっ……っ……」

 

 卵の殻に注意しながら、ささみ肉を口へ運ぶ。

 

「あ……濃い……目で普通に美味いわ。うん、全然美味いっ。ご飯が進むヤツだ」

 

 最低限の感想も述べ終わった所で、米をかっ込む。

 

「あぁ、美味いわ。卵も普通に美味い」

 

「……えっ? ホントに? でも、確かに匂いは大丈夫な感じだったし……」

 

 内心で不安が強かったのか。レイカは俺の評価をすぐには信用できない様子。

 

「いやぁ……醤油ってすげぇなぁ……全てを解決してくれるのかぁ」

「……そこはさすがにアタシを褒めなさいよ……」

 

「あぁはいはい。っていうか褒めたやん。お世辞抜きで、初めて作った料理としてはプラスに属する結果だと思うぞ。割とマジで」

 

「っ…………」

 

 珍しくガチで照れるレイカ。だが、一つ大事なことを忘れている。

 

「ただ、レイカ、一つ残念なお知らせをしなければならない……」

「はっ? な、何? やっぱり、卵の殻が入ってた?」

 

「それは普通にサルベージして避けてるから平気。じゃなくてだ…………いいか? コレ、間違っても親子丼ではない」

 

 残酷でもない通常レベルの事実だった。

 

「――なっ!? う、嘘……だ、だって、鶏肉と卵が入ってるじゃないっ!?」

 

「それだけでは条件は満たされん。少なくとも、親子丼専門店の方が見たらキレられても不思議ではない。まぁこの前の中原じゃないけど、試合に負けて、勝負に勝ったと言いますか……アレピ、失敗した場合って、どうなるんだ?」

 

 とりあえず、昨日の夜から何も食っていない俺は、ささみエッグ丼を平らげる。

 

「オメデトウ、ゴザイマス」

「「えっ?」」

 

 どういう訳か、俺達は機械音声に見送られながら、元の空間への帰還を果たす。

 

「…………どゆこと?」

 

「っ……決まってるでしょ? あれはしっかりと親子丼だったのよっ。ま、別にアンタは料理が上手い訳でもないし、そもそも説得力もなかったってことね」

 

「ハァ……おい、これを見ろ」

 

 無知なる者へ鉄槌を。俺はスマホの画面を勝ち誇る女へと向ける。

 

「はぁ? っ……あ……」

 

 形勢は一瞬で再逆転。

 

「親子丼は炒めるんじゃなくて煮るんだよ。醤油、みりん、酒、砂糖、だしと水で玉ねぎを煮て、そこに鶏ももを加える。普通ささみは使わん。肉に火が通ったら溶き卵、つまりボウルとかに入れて混ぜた卵な? それを入れて蓋をして好みで半熟に。それが……親子丼だっ」

 

「くっ…………じゃあ、何でクリアできたのよ?」

 

 勝負は決した。これ以上の死体撃ちは止め、前を向こうと思う。

 

「さぁ? 彼氏役の俺が美味しくいただく、とかが条件だったのかもしれんし。まぁ、腹も膨れたってことで、次に行こ」

 

「っ……」

 

 若干納得のいっていないレイカだったが、それでも形勢不利と見たか、口を噤む。

 

 俺は、報告と場の仕切り直しも兼ねて、マトイさんとの通話を試みる。

 

 

『――あ、そうだよぉ太刀川のせいだよっ。だって事前情報くれなかったしぃ……』

 

 

「いや、アンタの方が切ったんやろ……」

 

 ワンコールで応えた姉さんは、こちらの用件も聞かずに文句を言ってくる。

 

 

 そちらで何があったかは知らないが、楽しい話にはならないことだけは確信できた。

 

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