トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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こちら側は情報ゼロという誤算

「――何微妙に引きずってんのよ……」

 

「引きずってんじゃなくて現在進行形でダメージ受けてんだよ……」

 

 こんなことなら俺がマトイ姉さんと組めばよかったと思わなくもないが、現状の方が攻略に適しているっぽいことは明白か。いや、レイカと中原なら結構相互理解高そうだけど。

 

「だから言ってるでしょ。別に悪くはなかったって」

 

「いやいやあの場面で薄いリアクションと低めのテンションで『普通……』って言われたら心折れるって……最新の情報を元にして構築したのに……」

 

「確かに最新号だったけど、それ雑誌だから……」

 

 彼女が彼氏に手料理を振る舞う。次はその逆択だった。

 

 彼氏が彼女にデートプランを提案する。冷静になって考えれば、滅茶苦茶グレード高ぇじゃねぇか。

 

「大体おかしいだろ。彼女が彼氏に料理作んのは様式美だとしても、今時デートプランて……そんなん人それぞれやろっ。客観的に評価できないしっ」

 

 雑誌の最後にも、万人が満足するデートプランなど存在しない、という身も蓋もない言葉で締め括られてはいたのだが。

 

「ハァ……なら、男が女に贈ると言えば、何なら納得できんのよ?」

 

 駄々っ子をあやすような声掛けだが、まぁ概ね事実ではある。

 

「そりゃぁ……金を稼ぐ、とか? 女性が料理っていうのも前時代的な訳だし」

 

「得意分野かもしれないけど、人からの感謝を金塊に変える仕事なんて、誰からも尊敬されないわよ」

 

「レイカってホント、こういう時に的確な正論でグサグサ来るよなぁ……」

「逆にアンタは、こういうどーでもいいことで意外とダメージ受けるわよね」

 

 よし。これ以上やっても旗色は良くならん。

 

「まぁいいや。ここでのことはオフレコ協定が結ばれてる訳だし、あの暗黒プランが世に出ることもないだろう」

 

「…………ま、お互い汚点な訳だし、さっさと次へ行きましょう」

 

「お前の方は別に汚点でもないけどな……」

 

 初めての料理でも全然普通だったし、変にメニューを限定されなかったら、もっと美味いもん作れた気もするし。

 

「……着信はまだ、か。戦闘中だったら悪いしなぁ……というか、そこそこ苦戦してんのかもしれん」

 

「最後、って言っても、別に西が指定されてた訳じゃないのよね。どういう相手なの?」

 

「うん。言ってみれば、東と南はストロングスタイルっていうか、相手目線で考えれば、中原より近距離戦強くなきゃ勝てないし、姉さんの能力に引っ掛からないように動くのも難しい、っていうより知らなきゃ無理ゲーの方が正しいか」

 

「考えてみれば、あの二人に勝つって結構絶望的よね」

 

 俺もそう思う。

 

「まぁそんな中で、西の相手は飛ぶし、基本遠距離連発後離脱戦法。そこそこに厄介なんじゃないかな。撃ち下ろしって、かなり避けにくいし」

 

「西のに限定すれば、私達の方が楽に戦えそうかも。実際、瞬殺で終わってないのは間違いないみたいだし」

 

 不慣れな方向性の頭脳労働で精神的に消耗した訳だし、多少インターバルが貰えるのはむしろ感謝すべき事象か。

 

「……軽く振り返ってみるとだけど、ああいうシンプルにゲートキーパー的な相手とバトっていくの、珍しい方だよな?」

 

「……特殊指定区画、危険区画としては、そうかもしれないわね。でも、種類別にすること自体が難しいとも言えるんじゃないの?」

 

「だな。バラエティ豊かと言えばイイのか……ちょいちょいこういう中途半端な感じで……なんつーか、青春っぽい? 高校生らしい? みたいなのぶっ込まれてる気もする」

 

 いや、青春っぽい、高校生らしい、という表現は違うかもしれんが、言いたいことは伝わるはず。

 

「っ……私は、アンタ程は区画を回ってる訳じゃない、けど、普通の学生みたいなイベントが少ないっていうのは、その通りだと思う」

 

「同意するけど、レイカは二重だしなぁ……もし能力なくても、歌手活動で忙しくて学校へ行く暇無かった説が濃厚じゃないか?」

 

「そうでもないわよ。スケジュールだって、人気のアイドル程にはシビアじゃない、はず……よく知らないけど。じゃなかったら、今アンタとここで訳わかんないことやらされてないわよ」

 

「ご尤もが過ぎる……マジで凄いよな……歌手しながら学生会では会計監査って、人生一回で二周分動いてんだろ。まぁ、残念だったな? ここは体育祭も合唱祭も文化祭までないし、通常の高校生活なんて、それを模したのが部分的に存在するだけ、というのも苦しいレベル……」

 

 レイカも、高校では高校生らしいことがしたいと思ってたとか、そんな話を一年前に聞いた気がする。俺も、たまに思わなくはないが、そこそこどうでもいいと思っている。

 

「ねぇ、シンは、能力に目覚めなかった方がよかったって、思うことある?」

「ないな」

 

「っ……この手の話題、アンタ即答多過ぎない? どんだけ答え用意してんのよ……」

 

 謎な理由でジト目を向けられるが、そんなご無体な。

 

「いやだって、少なくとも、既に色んな人達と出会っちゃってるから、今更ニューゲームとか考えられんて。それこそ、そういうのはゲームで十分だよ」

 

 つまり、最初から能力に目覚めなかったのなら、それはそれで別にいいって話。

 

「なら、変な桃の怪物に見守られながら料理を作らされるのも、どっかから借りてきたようなデートプランを見せられるのも、私にとっては青春だし、高校生らしいことなのよね」

 

「いやもうそこ掘るの止めようぜ……」

 

 やはり何事もオリジナリティが大切なのだろうか。いや、それ諸共忘れよう。

 

「っ……向こう、終わったみたいね。別に、もう少し休ませてくれてもよかったんだけど……」

 

「同感だわ……はい、どうでした?」

 

『――いやぁ、広いトコで飛び回られるのうぜぇ……って感じ。後は、中原ちゃんのおかげで相手がハマってくれた。うん……やっぱ相性イイかも』

 

「それも同感っす」

 

『もって何? ま、いーや。それで、ホントに中原ちゃんとお茶行っても大丈夫なん?』

 

「はい。あ、店員さんに言ってもらえれば、学生会払いでいいんで。ちなみに中原は、和菓子でも洋菓子でもガッツリ系でもしっかり姉さんに付いていける逸材ですよ」

 

『確かに……そんなソウルを感じたんだよねぇ。じゃ、レイカもまた今度ねぇ』

 

「はい、今度マコトと理事長も誘って、四人でご飯行きましょう」

『りょ――』

 

 通話が終了する。

 

「ホント、毎回手伝ってくれればなぁ……」

 

 もう引退したんだから、今回だけって言われちゃってるけど。ステゴロだけでもヤバいのに、あの人の能力、ガチでオブジェクトキラーだからなぁ。もちろん、その気になったら生物にもめっぽう強いが。

 

「アンタさぁ、そんな二人に対してこっちで払うなんて、軽々しく言っちゃっていいの?」

 

「えっ? 言うて大丈夫だろ、漫画じゃないんだから」

「……会計が幾らになったかは、直接金額を確認してもらうから」

 

 会計監査らしい詰め方をされる。ヤバいなぁ、小林も含めてアウトナンバーで責められる未来が少し見えてしまった。

 

「……よし、気を取り直して。最後の謎を解き明かすとしよう」

「そんな要素ないって、随分前にわかったでしょ……」

 

 やれやれな空気の中、西にあるラストバミリに足を乗っける。

 

 

「「――――っ!?」」

 

 

 揺れ。

 

 瞬間的に気付きを得る。そう、地面が揺れた後に、楽しい展開が待っていたことは一度もない。一度も、だ。

 

「多分ヤバい」

「それはわかってる」

 

 この手の経験はほぼ一緒な訳だし、当然のリアクション。

 

 幻想的な演出による場面転移は起きていない。その代わりに、眼下の水面からは一気に突き上げるように陸地が顔を出す。揺れの正体は多分コレ。

 

「っ……」

 

 東南北に変化はなし。

 

「――っ、シン、上っ」

「っ……マジか」

 

 いつの間にか足場と同素材っぽい天井が出現、だけでなく、その天井全体が揺れているように感じられる。

 

「アレって……山?」

 

「なるほど、逆立ちした山、か……うん? 何か、メッチャ奥……いや、わからんか、何か光ったような……」

 

 隣を向くと、既にレイカはいつもの単眼鏡を覗き込んでいる。

 

「よく見えないけど、何か……閉まってる? これって――っ!?」

「行こうっ!」

 

 轟音と一際大きい揺れに反応し、一旦後方へ軽く跳び退いて助走距離を保つ。

 

 分からない中での分かったこととして、前に見える空間は滅茶苦茶広大、逆立ち山は噴火したので火山で確定、噴出しているのはマグマにしか見えないので絶対危険、なので最奥を目指すならとにかく進んだ方がよさそう。

 

 互いに大ジャンプしての着地からの全力疾走。一気に体育会系な展開へと突入したらしい。

 

 折角登場してくれた陸地をマグマが浸食し、同時に山から吐き出されている溶岩の塊が落盤のように前方を遮ってくる。周囲の温度も一気に上昇した。

 

「ホントだっ! 丸い……ゲートみたいなのが、ゆっくり閉まっていってる」

「何で肉眼で見えんのよっ……で、そこを目指せばいいのっ!?」

 

「あぁっ! っていうかっ! 一番ダルいの、煙じゃね!?」

「なら吹き飛ばしてっ!」

 

 左を疾走するレイカの隣に付き、上から幅を利かせてくる煙を出来る限り吹き飛ばし、互いの視野を確保する。

 

「げっ!」

「ったく、やっぱり武装してくるべきだったじゃない……」

 

 こちらを呑み込むようなヴィジュアルで上から突き出ている火山、最もダルいその真下を通過する間際、落ちた溶岩が人型を模してゴーレムのように立ち塞がる。

 

「基本無視で」

「言われなくてもっ」

 

 レイカがハンドガンを乱射。前に見える5体の頭部がほぼ同時に弾け飛ぶ。それにより開かれたスペースをガンダッシュで駆け抜け、変身した瞬間の木偶人形を蹴り飛ばす。

 

「何で今日金曜じゃないのよ……」

「言うなって……俺が一番思ってんだから」

 

 今日は無力な月曜日。どうでもいいが、ゴーレムは変身した後、徐々にその熱を増していく仕様と見た。なので生まれたて以外はレイカに任せたい。

 

 重ねてどうでもいいが、結構走った。そして円形のゴールは、少なくとも既に7割以上閉じている。

 

「そんな演出いらんのに、マジでギリギリっぽいな……」

 

「っ! ちょっと、ほらっ」

 

「ん――といっ!? お前、刃物を投げるなって!」

「いいから働くっ」

 

 殺人未遂を経由して渡されたコンバットナイフで、タックルしてくる石塊共を斬っては蹴り飛ばし、また斬って、蹴り飛ばす。軽く叩き倒すだけなら、靴裏も何とか耐えてくれている。

 

 そしてずっと気付いていて見ないよう努めていた事実だが、既に大分狭いゴール兼脱出口以外は、やたらと堅牢さをアピールしている岩壁だけが一面に広がっている。何かちょっと世界遺産に見えなくもない。

 

「レイカっ! 跳べっ!」

「――っ!」

 

 弾倉が空になったタイミングで叫ぶと、レイカはハンドガンを真横へ投げ捨てて跳躍、その下には溶岩とゴーレムがごった返し、亡者の群れのような気味悪さを醸し出している。

 

「ふっ!」

 

 俺もナイフを前方のゴーレムへ投擲して短い助走から軽く跳躍、その頭部に刺さって出っ張りのようになっているナイフの柄を、左足でしっかりと捉えて大ジャンプ。

 

「っ」

 

 後方からの気配に振り返ったレイカの引き締まった腰に右腕を回し、掻っ攫って更に能力で加速、瞬間的に確認した円形のスペースは、通るには相当心許ない。

 

 

「着地、頑張って」

「――なっ!?」

 

 

 レイカならきっと大丈夫。無責任にそう言い聞かせながらドッジボールのようなイメージでレイカをゴールループへショットする。後でキレられそうだが、割と余裕を持っての通過が確認できた。

 

「あ――やっば――」

 

 つい漏れ出た言葉の通り、ヤバそうな感触を残して頭から既にテープの切れたゴールを潜る。

 

「――ぃでっ!」

 

 両腕から着地するが、普通に顎を強打する。まぁ、それについては大したダメージではない。

 

 既に壁となったゴールの先は、そこそこに広い、やはり円形の足場で、周囲も同様に水面で満たされているようだ。

 

「っ……ぐっ……レイカ? 大丈夫?」

 

 それら現在地の詳細な確認は一度置き、すぐ近くに座り込んでいた相方に声を掛ける。

 

「っ……ハァ……」

「ぅっ……うん?」

 

 溜息の後、首を掴まれ、うつ伏せのまま強制膝枕、というか、ほぼ押さえ込みに近い。

 

「……両脚、潰れてもげてる……わかってるでしょ」

「えっ? あぁ……イイ感じに潰れてるから、出血は大したこと無さそう、かも」

 

 痛みよりも、寒気が先行しているが、レイカの身体と手の熱で、大分それは和らいでいた。

 

「見ない方がいい。早く治しちゃいなさい」

「えっ? いや……」

 

「いいから。早く……早く、して……」

 

 とにかくイイ感じの太腿に顔面を押し付けられているため、状況が呑み込めないが、ふと閃いたイメージを具現化させる。

 

「……フゥ……っ……しっかり元通りね。というか、ジーンズはいいとしても、靴まで再生できるのね?」

 

 すぐに退こうと思ったが、そのまま仰向けにされ、膝枕は続行される。もちろん、私は一向に構わん。

 

「いや、実は、今ちょっと広がったかも。あの岩にダメージを反射させるイメージで発動したら、俺の能力でイケたっぽい。ていうかイケた」

 

「っ……あ、確かに、色が違う閉じた円の真ん中に、大きな傷が付いてるわね……つまり、認識した加害相手が無生物でもこれからは発動できるってこと?」

 

「理解が早いな。それで完璧な説明。で……」

 

「っ……ま、そりゃ気付かれるわよね……」

 

 レイカの右手を取り、佐藤パイセンの能力を発動、折れ曲がっていた指を元に戻す。

 

「いや、気付いたんじゃなくて、着地の時にイってるのが見えた」

「最悪……そもそも、もっと速度落としても問題なかったのに……」

 

「悪い。ちょっとテンパってた……」

 

 ここで一旦脱力し、後頭部に全神経を集中させて休息を取る。改めて、割とガチでギリギリだった。意外にも、レイカは髪を梳くように、優しく頭を撫でてくれる。

 

 

「…………やっぱ駄目ね」

「っ……何が?」

 

 

 パッと考えて、その目的語が連想できなかった。

 

「アンタの両脚が千切れた時、まず最初に思ったのが、佐藤先輩の能力があるから大丈夫。それに加えて、もしそれが無かったとしても、別にすぐ死ぬような怪我じゃないし、死んでも死ぬ訳じゃない。しかも、この後の展開を考えると、アタシの指を治すべきかもしれない……」

 

 何故か自嘲するように、淡々と言葉を並べるレイカ。

 

「そこまで考えて、思った…………普通なら、叫んでアンタに縋り付くのが最初なんじゃないかって……普通、じゃないのよね。料理を作っても、デートプランを考えてもらっても、ムカつくけど、彼女の言う通り……今、じゃない……今は、その時じゃないのよ」

 

「……つまり、自己解決?」

 

 何とか会話を引き伸ばして、一秒でも長く膝枕を。そんなことが思考の大半なんて、とても言えない。まぁ思うに、今日はちょっと普通に学生っぽいのがあったから、色々と思い出したり、感じたりすることがあったということだろう。多分。

 

「……そ。ねぇ……コレが、何の始まりか、アンタは知ってるの? 理事長のお兄さんが蘇る、その予感は何処から……っ、じゃなくて、何でこの場所だったの? 予想くらいは付いてるんでしょ?」

 

 疑問に思ってる、というよりは、何故だか俺を気遣っているような、間違っても、責められているようには感じられない。

 

「……」

「それとも、話せない?」

 

 柔らかな笑顔で、頬をゆっくりと撫でられる。

 

「急にどうした、と思ったりもしたけど、レイカに話せないってことはない。予想……というか、それしかないって話なんだけど……理由は、中原だろうな」

 

「サヤ? どういう意味?」

「あ……何か年に一回の優しいモードが一発で通常モードへ――っ」

 

「いいから」

 

 撫でていた頬を抓られる。まぁ世の中そんなもんだろう。

 

「っと……」

 

 癒しの時間は終わり。それに、まだここに関しても、全てが終わった訳ではない。足の感覚を確かめながら、地べたに座って向かい合う。

 

「会長が何をしているかは、能力を知っていればまぁ、そのベクトルは間違いない。で、俺はちょいちょい指示を受けて、乱数調整? それに近い何かだと思うんだけど、もちろんわからない。ただ、基本何のためだかわからない指示の中で、唯一わかりやすいのが……」

 

「……サヤが学生会に入ること?」

 

 一字一句違わず、欲しい言葉を貰う。

 

「うん。その中原が、ここの封印を解いた。それで、理事長の予感諸々、今回の流れ。そこまで繋がってて、そう思わないのは無理だろ。で、中身? その、何がどうって話は、わからないってよりは、考えない方がいいと思ってる」

 

「考えて核心に近付くと、会長の狙いから外れるってこと?」

 

「そういうこと。駒に意思は要らん。将棋だって、最優ではあっても飛車角が勝手に動き出したら勝てないだろ?」

 

 自陣もぬけの殻にして特攻されたら勝負にならなそう。

 

「私、将棋分かんないんだけど」

「マジかよ……」

 

 唐突に話の腰がポッキリ逝くが、とりあえず流す。

 

「……タケルにも言ったんだけど、今月から色々と動くらしい。要は、スケール大き目なヤバいことを未然に防ごうって話な訳だから、何処かで区切りはあるだろ。それが、近いかどうかはわからんけど」

 

 企みはあっても、それが悪でないことは、一年近く前に確信した。それを疑うなら、もう最終的にはリゥとか碓氷さんが全部ぶっ壊すだろう。仮に、もしその二人も黒幕側なら、何をやってもゲームオーバーな訳だし、考えるだけ更に無意味だ。

 

「っ……うん、そう、よね。うんっ、そりゃそうよね。アンタだって、そのために色々やってるんだし。私だって、口出ししないって決めたんだから」

 

 俺からしたら何も解決していないんだが、レイカは晴れやかな様子で立ち上がる。

 

「ちょっとだけお腹も空いたし、早く終わらせて帰りましょ」

「だな。んで、ここまで来たらっていうのはあるけど、今回の話にはぴったり、って話か?」

 

 確かな予感があって、でもそれが何なのか、何処にあるのかはわからない。

 

「前の奥、靄が掛かってるけど、そのまたずっと先、だと思う。アンタはどう?」

 

「完璧に同じ。奥の奥……無意識の中でも、深層な部分っていうのを象徴してる感じか。でも助かるのは、具現化してくれてそうなトコ、かな……で、抜ける?」

 

 不可視+超長距離、現実なら普通に無理な難易度だと思われる。おそらく、その見えない何かを破壊すればミッションはコンプされるはず。

 

「そうね。気配で方向はわかるから、後は貫通力の問題だと思うけど……コレを使おうかしら。てか、もうコレしか銃残ってないし。しかも弾は一発。一応聞いておくけど、今私達って、ここから出られないわよね?」

 

「うーん。その、パックスディエス、だっけ? それで壁撃てば出れんじゃね?」

 

 レイカが持っている武器の中で、最大火力を誇るらしい単発銃。

 

 何か名前付けた人が厨二だったとか。確かパックスが平和で、ディエスが日とか、もしくは死とかそんな意味だった気がする。レイカは基本、そういうのは気にしない。出来れば、俺の使っている警棒には変な名前を付けないでほしい。

 

「一旦出る?」

「っ……正直、ここで決めたい。だから、外したら恥を忍んで救助隊を組織しよう」

 

「アンタがいいなら、それでいきましょ」

 

 ここに、責任は俺が取る流れが完成する。

 

「……なら、万全を期すべきね。まさか、またこういう場面があるなんて思いもしなかったけど、サポートしてもらうわよ」

 

「まぁ、俺もそんな気はしてたわ」

 

 誰もいないし、やるなら今なのは同感だ。

 

 前例はそれなりにあるらしい。俺ら能力者は、その相性によっては組み合わせて力を発揮できるケースが存在する。現状で俺が可能なのはレイカとナギの二人だけ。該当能力は当然、吹き飛ばしの応用。直近は魔王を一時しのぎした四月か。

 

 ナギなら膂力倍増の超加速。レイカは銃撃の威力、貫通力を超絶に高めることができる。ちなみに、そこそこタメ時間が要るため、実用性はあまり高くない。

 

 右腿の専用ホルスターから取り出したデカ目のハンドガンを構えたレイカの真後ろに立ち、右掌を首の少し下へ押し付ける。また、この体勢の問題により、レイカは珍しく両手で銃を構えている。

 

 能力もそうだが、反動を考慮する必要がないとかで、基本レイカは片手で持てれば片手で射撃する。なので、二丁拳銃でも精度はほぼ落ちないらしい。マジで漫画キャラ。

 

「これって、どの位の距離になるんだろ?」

 

「正直、肉眼だともう1キロ超えると数値化は難しいのよね。ま、かなり遠いってイメージだけど、私に距離は関係ないし」

 

「そうなんだよなぁ」

 

 今のは決め台詞ではなく、ただの事実を言語化しただけ。風、距離を含めた偏差は浪漫な気もするが、この場にそんなものはない。

 

「っ……OK。いいよ」

「わかった…………」

 

 イメージとしては、装填完了。レイカという銃を俺が構え、レイカが持つ銃で全てを発射する。多分そんな感じ。当然、レイカもナギも、弾丸扱いすると酷くキレる。

 

「…………っ」

「――――っ!?」

 

 銃声は普通。でも発射された弾の全てが普通じゃない。

 

 そもそも銃弾を見ようなんて考えが普通ではないのだが、俺もレイカも通常の人間ではないため、銃弾の軌道を見切る、という概念ははっきりと存在する。

 

 しかし、一筋の光は一瞬で目標を捉えたようで、俺は靄の先、その何かの気配が消滅したことで、弾がそこへ行き着いたことを知った。つまり、全く以て肉眼で追える速さではなかったということである。

 

「…………あれ? お前、場合によっては学園最強?」

「っ……アンタが後ろにいなきゃ、あそこまでじゃないわよ……」

 

 そう言われてやっと、俺はレイカから手を離す。少なくとも、自分がアレに狙われたら、反射する暇など絶対にない。

 

 

「「――――っ!?」」

 

 

 互いにやや体勢を崩される程の、激しい揺れ。これは先程感じたものの比ではない。

 

「マズい。崩れるパターンだ」

 

 言いながら、既に崩れ始めた壁の隙間から脱出へ向けて駆け出す俺ら。これについても初見現象ではないため、切り替えはスムーズ。やはり、何事も経験が物を言う世の中か。

 

「レイカっ! 全然間に合わない」

 

 すぐにその結論に達した俺は、並走しながら左手を伸ばす。

 

「アンタって、くじ運だけはイイのよね?」

「また俺のせいかよ……」

 

 トホホな気分の中、手を繋いで苦し紛れに跳び上がる。区画が崩壊した後、所謂次元の狭間の先は、全区画の何処か。独自で調べた所では、安置の確率は八割を超える。なので、気楽に引ける部類のガチャではある。

 

「っ……鍵?」

 

 住居や車、バイクのそれとは違う、というか、中世を連想させるような金属の鍵を、反射的に右手でキャッチする。だが、その時にはもう周囲は真っ黒な謎空間で満たされ始めていた。

 

 

 

「「―――――――」」

 

 

 

 実は初体験となる強制転移。今度経験者の一之瀬と話をしてみよう。

 

 

「っ……は?」

「お……おぉ……」

 

 ノーモーション転移の先は、見知った場所であった。レイカは多分初見。なので、驚きの一文字には、微量の怒りが含まれている。

 

 俺らが並んでいるのは狭いキッチンスペース、二口のコンロに流し、大分旧式の冷蔵庫の中身は、ある程度記憶してはいる。

 

 雑多な視界の奥にはトイレのドア、雑誌と漫画がテキトーに詰まった背の低い本棚が並び、2か所ある窓は全開、そして場の象徴物、むさ苦しさの要因ともなっている全自動麻雀卓が無意味に4台、それを囲む計16の椅子が空間を圧迫している。

 

 稼働しているのは中央の1台のみ。

 

「――んだよお前らいきなり。区画崩壊にでも巻き込まれたのか? あぁそれポンっ……やっぱ嘘」

 

 どうやら切りに行くと言っていたのは嘘だった斑鳩先輩。くたびれたイケメンのロン毛は未だ健在だった。その隣には妙に姿勢の良いキツイ目をした眼鏡のこれまたイケメン。残る一人は前髪が長過ぎて顔がよく見えない。

 

「もしかして、ここ『雀荘区画』なの?」

 

 簡単過ぎるクイズの答えを、うんざりしながら吐き出すレイカ。

 

「それ以外にないだろ?」

「何でこんな微妙に汚いトコなのよ?」

 

「あ、レイカ入ったことなかったか。いや、ここVIPだから」

 

 この方法なら入れるんだ。それは新発見。

 

「それ、答えになってないけど……あ、如月先輩、お久しぶりです」

 

 

「……………………あぁ」

 

 

 牌をツモったまま暫し固まっていた先輩は、挨拶かもわからない声だけを発して捨て牌を置いた。

 

「……ねぇ、あの白いシルエットは何? 化け物にしか見えないんだけど……」

 

 レイカは場で最も異彩を放つ、虚ろな白い人型について、当然の質問をする。

 

「よく分かったな。VIPの主、シルエットさんだ。あ、今何レベルっすか?」

「68。で、この半荘は負けそう」

 

 俺が前来た時は54だったのに、通い過ぎだろコイツら。どんだけ暇なんだよ。

 

「んなことより、その桃の化け物みたいなのは何なんだよ?」

「「えっ?」」

 

 咥えていた棒キャンディーで俺らの死角を指す斑鳩先輩。とりあえずキッチンから脱する俺達。

 

「うわやっぱアレピ……何故……」

 

 アーム、レッグ、ピーチ、卵肌の進行役、アレピそのものである。

 

「もしかして、これが危険区画としてのお宝ってこと?」

「マジか……」

 

 思い当たることとしては、間際に握ったあの鍵か。

 

「学生会の新しい備品か。おいアレピ、お前麻雀は打てるか?」

「……ウテ、マス」

 

「ちっとトイレ戻るまで打っとけ。テンパってもリーチすんなよ」

「ワカリ、マシタ」

 

「いやちょ、パシんの早過ぎでしょ……」

 

 もちろんこちらには構わず、斑鳩先輩はトイレのドアを閉め、入れ替わりでアレピが西家に座る。ちなみに現在は南二局、シルエットさんがトップで、ケツが如月先輩。

 

「……手、足、腕、脚は人間と全く同じ構成か……とすれば、この桃は雌かもしれないな」

「えっ? ホントに性別存在するんすか?」

 

 斑鳩先輩とはまた違うベクトルでマイペースのイケメン眼鏡、佐藤先輩が無遠慮にアレピの腕を触ったり軽く抓ったりしている。

 

「知らん。今興味を失った」

 

「うっしぃ、おっ、ちゃんと打ててんなぁ。じゃ、この局は頼むわ。気分転換で漫画読むから」

 

 トイレから出てきた斑鳩先輩は、言い終わる前から隣の卓の椅子にドカリと座って漫画を読んでいる。

 

「シン、腹減った。俺親子丼」

「っ……」

 

「悪くないな、俺も親子丼で頼む。いや、如月の分と合わせて三人前だ」

「ハァ……はい」

 

 溜息の後、苦笑いが漏れる。

 

 ここに飛ばされたのが運の尽きか。仕方なくキッチンへ戻り、冷蔵庫を開ける。そしてしっかりと材料は揃ってるし、ドデカい炊飯器は保温から3時間経過、普通に5合以上ある。さすが、腐ってもVIP仕様。

 

「ついでだ。レイカにも、本当の親子丼を食わせてやろう」

「くっ……絶対その流れになると思った……っ……何でよりによって親子丼なんですか?」

 

 理不尽な苦言を呈するが、レイカは基本、斑鳩先輩への当たりが弱い。

 

「何でってお前、親子丼は意味もなく食うモンだろーが」

 

 漫画から顔を上げることもなく切り返す斑鳩先輩。

 

「っ……」

「そりゃそうだ……」

 

 全部仕方ない。これは間違いなく、偶然の一致なのだから。

 

「あ、そうだ。佐藤先輩、ついでに耳朶借りてイイすか?」

 

 流しの石鹸で手を洗いながら、その背中に話し掛ける。

 

「……今お前から金を受け取るのはゲンが悪い。親子丼で勘弁してやる」

「あざっす」

 

 よくぞ負けていてくれた。ナイスシルエット先生。

 

「ハァ……ま、いいわ。区画も消滅して今日の目的は果たせた訳だし、ちょうどお腹も空いてたし」

 

 

 諸々諦めた様子で、レイカは如月先輩の後ろに座り、戦況を眺め出す。ちなみに、雀力的には斑鳩、桐島、佐藤、俺、如月が客観的序列だろうか。そしておそらく、シルエットさん68レベは斑鳩先輩をも凌ぐスペック。

 

 

 とりあえず、煮込む工程に入った所で、マコトに軽く報告を入れようと思った。

 

 まぁ、何はともあれ、これで理事長のメンタルも、一旦は平時に戻ってくれることだろう。

 

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