トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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第五章 8月
一応始まる夏休み


 八月。

 

 例外は常に存在するにしても、多くの高校生にとって、それはオアシスのような概念ではなかろうか。まぁ暑いしね。

 

 俺自身、小学校低学年の時分には無条件で胸躍る時期であったように思い出される。その要因は、プール、海、祭、花火、かき氷、スイカなど多岐にわたるが、やはりその主役は夏休みで間違いない。

 

 距離の近い先生の中には、大人にそんなものはない、という不穏な言葉を投げ掛けてくる者もいた。そして少なくとも、それを実感するのはもっと先だと、俺は信じていた。

 

 結論を言えば、大人にならなくても、ない人にはそんなものはない。

 

「そんなものはない、か……その響きだけで、夢をぶち壊すフレーズだな……」

「っ……どうかしましたか?」

 

「いえ、麦茶いただきます」

「あ、はい」

 

 本日は八月の一発目、奇しくも日曜日。一昨日の授業後から、我が学園生達は夏季休業へとシフトチェンジを済ませている、はず。とは言っても、学生の中でこの学園から出る者は少数派に属する。

 

 というのも、一般学生は外出届が受理されにくいことに加え、夏季休業中に一度も外出、外泊しなかった学生には3万ポイントと任意の区画を一つ解放できるチケットが与えられる。だから割と皆外へ出たがらないのである。通信手段も充実してるしね。

 

 そして俺は、定例の月頭面談で学生会館の4階、会長室にて出された麦茶に口を付けていた。別に不満はないが、夏休みの初日がこれだと、あまり特別な期間が始まる実感は湧いてこない。

 

「日曜だから微妙ですけど、今日から本格的に夏休みですね」

 

「はい……長期休業中は、何かと普段とは違うことが起きがちですが、引き続きよろしくお願いいたします」

 

 服装にとらわれず、女性の持つ儚さを体現している。やっぱり少し、痩せたかもしれない。

 

 お菓子を卓袱台の上に置き、対面に座る会長、安定のジャージ姿。身だしなみにも全く気を遣っている様子は見えないが、潜在能力のレベチにより干物感はゼロ。全くひきこもりのオーラを感じない。ちなみに、今月限定で炬燵は撤去されている。

 

「はい」

 

 もはや定型のやり取り。しかし、先月に感じられた表情の疲労は和らいだ様子。その笑顔に、内心で胸を撫で下ろす。

 

「後は、そうですね……今年の一年生は、外出希望がかなり少ないようです。なので、学園のスタッフさん達も、お盆休みが取れるんじゃないかと思います」

 

 監視やトラブル対応、揉み消しと、大変な業務なんだろうし。

 

「そうであれば何よりです。報告書の内容からも、多くの一年生がこの学園での生活に馴染み、前を向いて時間を過ごせているように感じられます。このひと月も、その流れのままに進めばよいのですが」

 

「ですね……比較的、今年の一年生は大人というか、もう既に将来の進路へ向けて学習内容を絞っている学生も多いようです。もちろんこれからですが、比較的落ち着いた長期休業になるようにも思います」

 

 無論例外もいるし、庶務全体の推量とは別に、俺なりの展開予測もあるにはあるが。

 

「はい……そうなれば、幸いです…………」

「っ……」

 

 入室してすぐも実はそうだったが、何か無言でジッと見られる時間がやや長いように思える。ネガティブな視線ではないため、別に問題はないが。

 

「あの……少しだけ、無為な話をしませんか?」

「っ……無為、ですか?」

 

 無為な話、というフレーズが聞き慣れず、つい聞き返してしまう。

 

「あ……いえ、す、すいません……お忙しい中で足を運んでいただいているというのに……申し訳ございません。その……では、本題に入りたいと思います」

 

「あぁいえ、雑談、でイイんですよね? 自分も、会長と話がしたいと、割と常に思っています。こちらからも……えっと、少し、無為な話をしませんか?」

 

 言っていることは本心な上、あんな儚げな顔をされたらこう返す以外にないだろう。

 

「っ……っ、ありがとう、ございます……それでは、お言葉に甘えて、少しだけ……あ、あの……今日も、よい天気、ですね?」

 

「あ、はい……ですね」

 

 まさかの初手が天気。

 

 天候の変化が激しい欧州の方では、共通の話題として有用という話を耳にしたことがある。だがしかし、俺と会長はもう一年近い付き合いになる。

 

「学園区画は、基本的に晴天が多いですけど、会長は曇りや雨の方が好き、とかだったりします?」

 

「いえ、空は晴れているのが一番かと。あ……でも、しとしとと降る雨は、好きです……」

 

「っ……」

 

 好きです、の破壊力が凄い。やはりこの言葉の威力は、ピュア度が肝要なのだろう。

 

「まぁ、晴れが一番ですよね。で、そういえばな話ですけど、前にお茶以外で趣味を作ろうみたいな話をしてたと思うんですけど、その後、何か見つかったりしました?」

 

 ふと会話デッキを探っていたら思い出したけど、コレ昨年度とかの話だったかも。

 

「っ……憶えていてくれたのですか? あ、あの……何だか、それだけで十分に思えてきました……」

 

 えっ、何が。と思ったが、そんなイイ笑顔されたら何も言えん。

 

「いや、そりゃもちろん……えっと、候補が、編み物と、クロスワードパズル、でしたっけ?」

 

 俺は両方共関心薄めだが、好きな人はかなり突き詰めるのではと勝手に思っている。ちなみに、編み物はマコトが多分プロレベル。去年にはレイカと色違いで売り物みたいなマフラー貰ったし。

 

「はい、ありがとうございます。その、クロスワードパズルの方は、気分転換の一つになっていて、ちょうど、次は編み物をと、考えている所でした」

 

「凄い……有言実行の鑑……」

 

 軽い気持ちで提案した身としては、少々の罪悪感。そして、この人はきっと、俺があの時何を勧めたとしても実行に移しただろう。ラップとかアメフトとかバグパイプとかを選んだ場合も見てみたいが、無論現実的ではない。

 

 話題は趣味から食べ物、料理を経て好きな歴史上の人物へ飛び、そこから現代へ呼んでも無双しそうな人ランキングに至ったが、不意の着信で中断される。

 

「――あ、ちょっとすいません……何かあった?」

 

『いえ、特には。それよりも、戻ると言っていた時間を7分程過ぎています。まだ会長室でしょうか?』

 

 小さじ一杯程の棘を含んだ中原の声。黙っていれば先送りになるというのに、進んで依頼をこなしたい様子。まぁ目当てはそこで起こる暴力が必要なトラブルなのだが。

 

「ちょっと……重要な話をしている」

 

『そうではないということが、その声色から明らかなのですが?』

 

「わかった。なる早で戻るから、おしるこでも飲んでて」

『わかりました。では――』

 

 最近ハマっているらしいが、この季節にホットのおしるこを飲む人間に、俺は人生で後何人出会えるのだろう。多分中原で打ち止め。

 

「……うん。ここで敢えてもう20分位雑談してみるのもアリかもしれないな……」

 

 かなりチャレンジングだが、最近はあまり中原を怒らせることもなくなってきたように思えるため、限界への挑戦もいいかもしれん。

 

「す、すいません……つい……っ、いえ、私の方も、そういえば時間、でした……」

「あー、ですよね……とにかく、本題に入りましょう」

 

 仲間内でそろそろお開きにと提案する人間は、タケルとマコトしかいない。思い返してみれば、料理の話を過ぎた辺りでもう俺は本来の流れを失念していたっぽい。

 

 当たり前のことだが、目の前の女性は俺とはまた違うニュアンスで、多分忙しいと思われる。

 

「っ……はい……では、今月も変わらず、本日もそうですが、基本は中原さんと行動するようお願いします」

 

「はい」

 

 今月もあった念押し。もはや、言われなくてもな状態ではある。

 

「次に、これは指示となります」

「はい……」

 

 今月は何だろう。とりあえず、楽しいものであった試しはない。だが、会長に罪悪感を抱かせないためにも、涼しい顔を心掛けたい。

 

「太刀川君は、八月中に外出する予定はありますか?」

「えっ?」

 

 斜めからの質問に、声が漏れるが、すぐに切り替えるとする。

 

「今の所は、特別室、学園との情報交換で一日、後はおそらく、外部委託が複数回入るとは思います」

 

 情報交換の際、あの連中に食糧を届けるつもりなため、その日は結構忙しくなる。モリスが煮干しは買うなと言っていたが、アレはフリでイイんだよな。きっとそうだ。

 

「では、個人的な用事での外出は、予定にない、ということでしょうか?」

「そう、ですね。はい」

 

 というか、個人的な用事で外出したことは入学してから一回もない。それでも、歴代の外出数は既に一位らしいが、これは全て斑鳩先輩のせいであり、おかげでもある。

 

「では、指示を。中旬までに、計四日の外出、または外泊をお願いします。これは学生会副会長としてではなく、太刀川君個人の用事による外出、外泊です。また、四日連続の外泊などではなく、全く別の用事として四回、計四日の外出、外泊、この条件を満たして下さい」

 

 膝の上に置いてあったのか、小筆で文字が書かれたような和紙を見ながら、一生懸命に説明してくれる会長様。こういう部分に、保護欲を掻き立てられる。

 

「……とりあえず、内容は理解しました。で、用事は何でも大丈夫、なんですか? その、買い物とか、誰かと遊びに行くとかでも」

 

 パッと考えて意図不明な指示。つまりいつも通り。

 

「……それで、問題ありません。当然、依頼などもあるかと思いますが、よろしくお願いいたします」

 

「はい」

 

 指示は最優先事項。これについては、最初から暗黙の了解である。

 

 思えば、今年度における最長の滞在時間となったが、今月分の不確かな指針を受け取り、麦茶を飲み干して和の空間を後にする。

 

 

「……」

 

 

 にしても、俺が外出することで一体どのようなピンアクションが起こるというのか。買い物という説もあったが、貯金を切り崩して世のために有効需要となるべきなのか。おそらく、何も気にしないことが最善であろう。

 

 とりあえず、差し当たってのすべきことは、中原がキレる前に戻ることか。俺も何だかホットのコンポタが飲みたくなってきたが、おしることは違い、この時期は自販機から淘汰されている。冷製スープはちょっと違うんよね。嫌いじゃないけど。

 

「っ……どした?」

 

 レイカからの着信。中原への格好の言い訳になるため、少しテンションが上がる。

 

『ゴメン、今ちょっとだけ大丈夫?』

「うん、問題ないよ」

 

 感じる申し訳なさが濃い。つまり、トラブルよりは個人的用件な可能性が高い。

 

『この前の、憶えてる?』

 

「……えっと、ちょっと時間が欲しい。っていうか、それって何系? あー、もしかして、区画の封印云々で、中原に口止めしてた件……とか? いやぁ口止めはしてないんだけど……それはマジで悪かったと思って――」

 

『――違う。けど、そういえば、それについての落とし前ってまだだったわよね?』

 

「えっ? そんな炙り出し……」

 

 酷い誘導尋問だ。申し訳なさそうに電話するというフェイクも含めて。

 

『ハァ……私に黙ってること、もうないわよね?』

 

「いや無いっすよぉ……てか、どうした? ストレスになるようなことでもあった?」

 

 それはお前だ的な返しが来そうだが、そう言う他ない。

 

『今はいい。とにかく、この前言ってたでしょ? アンタを30分自由にする権利』

「そっちかぁ……」

 

 個人的にはニアピンだったと言える。

 

『少し急なんだけど、水曜日に付き合ってほしい所があるの? 予定空けられない?』

「えーっと……えっ? どっかの区画? それとも外?」

 

 とりあえず、誘い方が今までにないパターンではある。

 

『外。昼間の時間がいいんだけど、どう?』

 

 声に圧はないが、なるべくって程の軽さでもない感じか。

 

「うーん、空けるならイケると思う。ちょうど、外出はするつもりだったし」

 

 考えてみれば、渡りに船と言えるかもしれん。

 

『ありがと。じゃ、細かいことはまた夜に連絡する。どうせ、サヤを待たせてるんでしょ。今回は、言い訳に使っても口裏を合わせておいてあげる』

 

「あぁ、ありがたいけど、話が早いを超えて若干恐ろしいっす……」

『それじゃ――』

 

 こっちの心境など構わず、用事は済んだと言わんばかりに着信は切断される。

 

「……」

 

 まぁ、大手を振って言い訳をしようとは思う。俺はもたれ掛かっていた階段の手すりから身を離す。

 

「――で……へぇ、気が合うというか……どした?」

 

 レイカのルームメイト、マコトからの着信。何だか物語のようなタイミングの良さ。普段の依頼絡みでも、こんな風に空気を読んだ連絡が行き来すれば素晴らしいのに。

 

『すまない。今、少しだけ話がしたいのだが……』

「おぅ、大丈夫大丈夫。今って、部屋?」

 

『あぁ、日曜なので、少し手の込んだ物を作ろうと思っ――そうだ……シンとサヤも、一緒にどうだろう?』

 

 閃いたように誘うマコト。てっきり夕食が用件だと思っていたが。

 

「ありがた過ぎる。ちょっと、気合入れて当たるから、依頼が終わり次第連絡するわ」

 

 ただ、こういう時のマコトはどうしたのってレベルの量を作ってしまうのだが、それも中原の存在により即時解決する。

 

『ありがとう、了解だ。それで……電話の用件の方なのだが、実は、先月……あ、いや、もう先々月になったか……その、兄二人が是非シンに礼がしたいと聞かなくて……どうだろう? 改めて、我が家に招待させてほしいのだが……』

 

「っ……もしかして、スッポン鍋っ?」

 

 連続の吉報に、テンションが上がるのを抑えられない。

 

『あ、あぁ……興味を持っていたので、そうしようとは思っている。それで、両親がいると何かと……と、いうことで、ちょうど来週が結婚記念日なんだ。その、旅行中に招きたいのだが』

 

「OKOK。いやぁマジかぁ……何かツイてるなぁ。正直、揺り戻しが怖いんだけど、とにかくその日に合わせるよ。あ、水曜だけ無理かも」

 

 あぶねぇ。多幸感で記憶が逝くトコだったかもしれん。

 

『良ければ、七日の土曜を考えている。その、詳しいことは、夕食の時にお願いしたい』

 

「わかった。で、一応七日は平気だから。んじゃ、また後で連絡するわ」

『あぁ、よろしく頼む』

 

 通信終了。

 

 これはかなり楽しみな用事なのでは。兄、兄、妹と全員が善人。それに加えてリゥがウザい程その味について語ってきたスッポン鍋。これはもう約束されていると言っていいだろう。

 

「……よし」

 

 まずは今日の依頼だ。詳細は読む前に中原へと投げてしまったが、いずれにせよ俺のモチベは高い。荒事でも笑顔でこなしてみせる。

 

「――っ!? えっ? いや、待て……」

 

 おかしい。二度までなら偶然で済む。だが、三度目はない。

 

 つまり、連続する着信は必然ということだ。しかも三人目は穂村姉。

 

「…………ちょっと先に聞きたいことあんだけど?」

 

『っ……何でこっちが掛けたのにそっちから話し掛けてくんのよ……で、何?』

 

 さすがはレジスタンスの苦労担当。文句を言いながらも聞く姿勢になってくれる。

 

「何か、俺が外出したがってる、とか、誰かから聞いた?」

『えぇ、さっき阿僧祇から』

 

「何……だと……」

 

 あっさりと白状してくるが、脳内はホワイダニット状態へと移行する。

 

「すまん、言われたこと全文リピートして」

 

『面倒臭いわね……うーんと……だから、太刀川が外出したがってるから、用があるなら誘ってみればって感じ』

 

「そのまんまやん……こりゃもう本人に聞くしかねぇな」

 

『絶対答えないと思うけど。とにかく、アンタ暇なんでしょ? ちょっと付き合ってほしいんだけど?』

 

 外出がしたいと暇は必ずしも一致しないのだが、実際強くそう言える材料もない。

 

「いいけど、何時何処で何をするんだ?」

 

『明日の昼頃に、アタシの実家で、一緒にランチ』

 

「え……」

 

 何処で以降のワードが意味不明。

 

「いや……っ……つまり、そっか……お前神崎に告ったのか……へぇ、やるなぁ。え、でも、俺を仲人にすんの? 俺普通に未婚だけど?」

 

『アンタねぇ……そんな訳ないでしょ……誰がこんな執行猶予中に……』

 

「おいおい、獄中結婚する方だっているんだぞ? 個人的には早い方がいいと思うけどなぁ」

 

 神崎君は女だけじゃなくて男にもモテるから。割とマジで。

 

『そういう人達を否定する気はないし、単に価値観が違うってだけ』

 

「でもそれだと、脈略が不明なんだけど。もしかして偽装彼氏?」

 

 そんな概念、俺の中にはないけど。

 

『っ……あながち間違ってないわね。ウチの母親が、とにかくアンタを連れて来いって聞かないのよ。無視してたけど、暇って聞いたから』

 

「いや、まだ不明だけど? ワンチャン、俺の写真を見たお母さんが一目惚れ、的な?」

 

 俺の中で、年上にモテる説が急浮上。

 

『ある訳ないでしょ……大体、アンタの写真なんて持ってないし』

 

「じゃ何だよ……話進まんやろ……」

 

『こっちのセリフだっつの。だから、アンタだって自覚あんでしょ? ナギのこと。あの子が誰彼構わず噛み付かなくなったの、アンタのおかげでしょーがっ』

 

「いや、それ碓氷さんだって」

 

 ナチュラルボーンビーストテイマー碓氷。実際あの人、俺に対しては厳しいけど、小動物には優しいし。

 

『私はそう思ってない。ま、別に誤解だって言うなら、それでもいいから。細かいことは後でメッセで送っとく。頼んだわよ――』

 

「ったく……一番話が急なんだけど……っ……何?」

 

 切られたと思ったら、すぐにまた掛かってくる。

 

『――言い忘れた。次の食糧支援、煮干しじゃなくて顆粒だしにしてほしいんだけど?』

「ハァ……」

 

 煮干しのありがたさについて説明したが、向こうの意思は固いらしい。憶えていたらそうしてやろう。とにかく通話を終える。

 

 

「――さすがに、打ち止めであってほしいのですが」

「っ……悪い。芸能人のマネージャーみたいだった」

 

 

 階段の途中、3階と4階の間からこちらを見上げている黒セーラーの少女。さすがに待たせ過ぎた。

 

「そのおしるこは何本目?」

「……まだ2本目です」

 

 3本目に至る前でよかったってことで、階段を早足で下りる。

 

「……あの、先輩。私からもいいですか?」

「うん? 何が?」

 

 お互い、自然な歩みで掲示板の方へ。

 

「来週の火曜日なのですが、学園の外で会っていただきたい人がいます」

「……あれ? お前、リゥとメッセ交換してたっけ?」

 

「……それについては、私の預かり知らぬ所でやり取りがあったようです」

「酷い話だな……」

 

 その手段については、言葉にするまでもない。

 

「で、誘い自体はちょうど良かったかも。俺ら二人共離れるってなると、今からちょっと気合入れて依頼に臨んだ方がイイっぽいな」

 

「確かに、そうですね。依頼の状況によっては、キャンセルしていただいても問題はありません」

 

 中原がそう言うなら、ホントにそういう話なんだろうとは思う。

 

「いやぁでも、折角だしなぁ。正直、機会を貰えるなら、会いたいと思ってたし」

 

「っ……あの、それが誰かについては、まだ伝えていませんが」

「えっ? 爺さんじゃないの?」

 

 中原の親代わり兼師匠で、ゲームは下手の横好き。それに加えて、間違いなくヤバい人。

 

「……では、一応声は掛けておきます」

「えっ? いや、まぁ、掛けてくれるなら全然……」

 

 中原の手により掲示板から取られたペラ紙、それにより会話が中座する。

 

「で、それ、どんな依頼?」

 

「はい。場所は『リアルサファリ区画』です。トレジャーハンター部の二人が何故かブービートラップに掛かって宙吊り状態。下は川で、巨大なワニが屯しているとのことです。今ちょうど23分経過、依頼主は笹森君です。場合によっては、手遅れかもしれません」

 

「……よりにもよってかよ……」

 

 夏休み一発目からあのガキ共は。しっかりと釘を刺さねば。

 

 

 明日とか水曜とか土曜とか来週とかではなく、今日のマコトの飯のためにも、頑張るしかない。きっと中原もモチベを上げてくれるはず。

 

 なので俺はまず、目先のことに集中することとした。

 

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