トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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8月下旬 4

「――急ぎましょう。マッサージのエリアは正面から入って左奥の方です」

 

「足つぼ決め打ちか……別に希望的観測に寄る訳じゃないが、二周目に入ってしまったケースも考えられるか……」

 

「いや、実の所、二周目には確実に入っている。彼女は朝一番でこの区画へ来たようだからね」

 

「ホントにブン回してんのか……二周もすれば別の何かに切り替えようと思うのが一般的なんだが……」

 

「けど、児玉先輩なら、一度言ったら本当に実行しそうではありますよね」

 

 私としても、速水さんの意見に同意だった。

 

 オープンカーを降りた我々は、通常の人間ならば全力疾走以上の早歩きでホテルへ入り、ロビーから左へ折れてその奥を目指す。

 

 そんな中、ロビー内で不安を感じていたと思われる他の同級生達も、先輩と私の存在を認識したことで、いずれ問題は解決されるという見通しが生まれ、ならばと区画内を楽しむという考えに切り替わった様子。二、三年の先輩方については、言及するまでもない。

 

「――へぇ、マッサージのバリエーションがまた豊富っ」

「っ、副会長っ、こっちが足つぼみたいです……あの、どうしたんですか?」

 

「いや、ホットストーンマッサージって初見なんだけど、メッチャ良さそうじゃない?」

「えっ? じゃあ、このロミロミっていうのは知ってるんすか?」

 

「いや。それは何がロミロミなのか想像しにくいから一旦パスした。こっちは何か、岩盤浴の上位互換な雰囲気が漂うだろ?」

 

「確かに……」

 

「――――っ」

 

 パーカーに忍ばせていたどこでも刀の先にハリセンを出して振るう。

 

「ど――危ねっ!」

 

 真後ろからの横薙ぎを、何故か回避される。殺気が洩れ過ぎたのかもしれない。

 

「お、お前それ、普通に負傷するレベルのツッコミだから止めろって……」

「――先輩、久我谷君の言う通り、足つぼマッサージの店舗はそちらです」

 

「怖っ……」

 

 最早愛刀となってしまった柄を戻し、視線で入店を促す。

 

「極々自然なこととして『エステ区画』にある店舗の内装と酷似したデザインのようだねぇ」

 

 店内は白とベージュが中心の清潔感と落ち着きに満ちたスペース。個人的には、歯科医院の内装とそこまで差は感じない。

 

「マジすか……飯島先輩って、エステとか通ってるんすか?」

 

「そうだ。彼女に無理矢理付き合わされるというプレイを楽しんでいる。ただ、自身の外見磨きにはさして興味はないよ」

 

「っ……今のは不可抗力なのか……普通に会話するつもりでも、その方向に繋がってしまう……」

 

「そこら辺はもう普通に流そうぜ……」

 

 全く以て追随したくはないが、仕方なく並んで入っていく男子四人に続く。

 

 接客も肝心であるように思われる業種だが、やはりここもオートメーションで稼働している様子。四台分並べられた端末を操作し、奥へ進んでサービスを受ける形式と理解できる。

 

「あーでも、これ個室だったら出待ちするしかないのか……」

「ふむ……」

 

「「――――っ!?」」

 

 飯島先輩の開いた輸血パックから、糸状に血が射出され、暖簾で区切られた店の奥へと伸びていく。当然ながら、未だ現象に慣れない男子二人は敏感に反応している。

 

「あ、普通にいるねぇ。考えてみれば、あの豊富な選択肢から足つぼをセレクトする学生は少数派……客は彼女一人のようだ。実の所、過度な期待をしていた訳ではないのだが、僕ら四人でのサウナは夢と散った格好か……」

 

 そもそも、それは許さないと伝えておいたはずなのだが。

 

「よし……俺、スペシャルで行くわ」

「僕もスペシャルにしよう」

 

「ま、迷いなく一番下のを……他、全部時間なのに……」

「じゃ、俺もスペシャルで」

 

「あ、これって、私達も受ける流れ?」

「っ……確かに、施術の申し込みなしでは、奥へ入れないかもしれません」

 

「……私も、スペシャルにしてみよっかな」

 

 先達二人、円谷君、佐藤さんと速水さんまでがスペシャルとやらを選択。液晶の表示を見ると、確かに15分区切りの時間が並ぶ中、スペシャルだけ数字がない。

 

「……私は15分コースを」

「……強いな、中原……」

 

 最後尾となった久我谷君は、数の暴力によりスペシャルをタップした様子。

 

 端末の案内に従ってベージュ色の暖簾を潜ると、中は思っていた以上に広く、電球色の灯りが照らす空間には、施術を行うためのカウチソファが横並びで設置されている。

 

「――別に利用する必要なくないって思ったけど、この人数に囲まれなくてよかった。全員一年?」

 

「知らない顔はそう、かな。これって、座ったら始まる系?」

 

「右手のボタンで操作する感じ。最初は透明人間にされてるみたいでキモかったかな。すぐ慣れる……それより中原さん、何でそんなエロ……可愛い水着を着ているの? もしかして、海だと開放的になるタイプ?」

 

「違います」

 

 反射的に否定する。

 

 中央のカウチに座って施術を受けている唯一の客、児玉先輩は既にこちらの状況をある程度察しているようで、我々の登場にも特に驚いた様子はなく、普段通りの淡々とした口調も健在だった。

 

 そういえば、着替えのレンタルもあったのを、作務衣姿の彼女を見て思い出す。

 

「口に出すと憤慨されそうだから慎んでいた。僕も、その水着は予想外だったよ。ショートパンツを履いている方がむしろ扇情的だというのは、パラドックスの概念を説明する良例かもしれない。無論、冗談だが」

 

「……」

 

 そう思うのなら、慎み続けてほしかった所なのだが。

 

 児玉先輩の右に先輩、隣に円谷君、久我谷君が並び、飯島先輩は児玉先輩の向かいへ。対面するのか横並びかで無駄な迷いが生じていたので、ある意味で助かった。例によって流れのままに、飯島先輩の隣に女子三人で並び、団体での足つぼマッサージが開始される様相。

 

「あ、庶務二年の児玉です。よろしく」

「自己紹介する場としては、中々にシュールだな……ちなみに、児玉さん残り時間何分位?」

 

「30分コースで、残りは17分かな」

 

 先輩の言及した通り、やや風変りな体勢で面々は簡潔に自己紹介を終える。

 

「太刀川先輩、児玉先輩って、飛び級とかなんですか?」

「お前なぁ……」

 

 久我谷君が呆れるように、円谷君の質問は捉え方によっては、失礼に当たる言葉かもしれない。

 

「えっ? あぁ、別にそういうのじゃないし、そもそもこの学園に飛び級はあり得ないだろ」

 

「今の所、高校入学の時期以外での能力発現は確認されていない。私は単に、著しく小柄なだけ。おかっぱ頭も、昔からの流れ、みたいなもの。ないものねだりをするのが人間だけど、小さいと便利なこともあるし、そう悪くはないかな」

 

 本人も言う通り、児玉先輩の身長は140センチで、年齢的には小柄に属するが、接している限りで、それを気にしている様子は見受けられない。そしてむしろ、その内面は学生会において間違いなくまともな部類に属しているため、雰囲気は大人のように感じられる。

 

「それで、児玉先輩。少し、お話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

「その前に、皆開始ボタン押したら? どうせ男共はノリでスペシャルにしたんでしょ?」

 

「あー、実は、私達も含めて全員スペシャルにしちゃったんです……」

「いえ、私は15分コースにしました」

 

「さすがメンタル強者……あのノリの中で我が道を往くとは……ってことでスイッチオンっ」

 

 特にそれが号令という訳ではなかったが、各々開始ボタンを押す。

 

 

「――おっ、結構イイ具――」

「「「「――――痛あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」

 

 

 先輩の弛緩した声は、複数の絶叫によって遮られる。

 

「痛っ! マジっ! ヤバいっ! ヤバ――いったっ!?」

「っ……っ……っ……っ……」

 

 最も騒がしいのは円谷君、初発以降は黙して耐えているのは久我谷君。対面している関係上、両者の反応はどうしても視界に入ってしまう。

 

「痛い痛い痛い痛いっ……コレ、すっごい痛いっ……」

「あっ! つぅ……うっ! コレ、緩めることって……」

 

 右方へ目を向けると、失礼かもしれないが、愛らしく痛がる速水さん。そのまた右の佐藤さんは、早くも痛みから逃れる方法を求めているが。

 

「あの、非常に残念ですが、コースの変更は不可という注意事項を見ました。加えて、施術中は安全のため、完全に拘束されるとのことです」

 

「「「「――えええぇぇぇぇっ!?」」」」

 

 再度、絶望の声が重なって響く。

 

「あー、まぁ皆まだ一年だからか」

 

「学年の問題なのかはわからない。ただ、健康に繋がる痛みと思うと、全く苦痛を感じられない。わかってはいたが、僕の求めている痛みとは些か種類が異なるようだ」

 

「ハァ……そっち方向の人外が二人揃っちゃってたか。下級生の苦しんでる姿は、別に……」

 

「中原のはどう?」

「はい。とても心地良いです」

 

 足つぼマッサージは初体験だったが、足裏を通して感じるのは、ちょうどいい痛みと気持ち良さの均整だった。

 

「さて、他にすることもないとなれば、そろそろ本題に入るべきかもしれない」

 

 どうやら、四人の苦悶をバックに話を進める様子。

 

「先手を打ちたいんだけど、イイ? 副会長」

「えっ? まぁ、いいけど」

 

 逆に聞かれるという展開に、先輩は意外そうな表情で頷く。

 

「もちろん、忙しさで勝負する気は更々ないって前置きして、なんだけど。最近、事務仕事だけでなく黄泉にまで駆り出されてる私の状況、把握してる?」

 

「あー、それ……把握っていうか指示してるの俺だしなぁ……何か、八月っていうのもあるみたいだけど、色々と騒がしいみたいで……その、申し訳ない」

 

「その上、6連勤明けのご褒美かと思って朝早くから来てみれば、結局コレ。もちろん、我が身にも関わる訳だし、協力はする。けど……言いたいこと、わかる?」

 

 そうではないのだが、聡い小学生の妹に静かに責められている高校生の兄、といった構図。

 

「わかった。で、要求は?」

 

「二つ。一つは庶務全員に夏季手当。具体的には、桐島さんをどうにか拝み倒して。もう一つは、来週中に一日使って黄泉の化け物を一掃してきて」

 

 お互いマッサージを受けながらの労使交渉。現実にはまずないだろう。

 

「……うーん。即効性のない要求じゃないし……か。一番ハードルが高そうなのは、やっぱりレイカへのご機嫌取り……」

 

「機嫌取ったって駄目よ。彼女、数字には冷徹だから。ちゃんと説得できる材料を揃えてってこと。庶務の稼働率見れば、そこまでおかしい要求でもないから」

 

「これぞ、棚から牡丹餅……これはつまり、今日のトラブルに感謝を、か……」

「お前別にポイント余ってるだろ……」

 

「それこそ、キミにだけは言われたくない。場の誰もがそう思ったさ」

 

 それについては間違いない。でなければ、即決でVIPを解放したりしない。ただ、場の半数は現在、他者の話に反応できる精神状態ではないのだが。

 

「よし。その方向で善処します。ってことで、この区画のギミックについて、聞いてもいいすか?」

 

「その前に、岩場の方はどうだった?」

 

「それなら、ちょうど反対側の西の端がそうだった。水位については、底の砂が見える程ではなかったよ」

 

「8割方決まり、かな。副会長、この区画に来てから、何か気付いたことはない? 多分、言われてみればなことで」

 

「えっ? っ………………ヒント」

 

「空」

 

「空? 只々晴れてて……後は、薄っすら満月が見える位しか……」

 

「正解。話が早くて助かる」

「満月……」

 

「僕は見ていないが、中原さんは?」

「いえ、私も気付きませんでした」

 

 なので、先輩が気付いているのが少々意外に思えた。

 

「とは言っても、昼間に完全な満月は見えにくいし、気にも留めない人が多いと思う」

「満月……つまり、潮の満ち引き?」

 

「なるほど……大潮か……それで岩場を……干潮時の様子を予想するために」

「……」

 

 潮の満ち引き。理科で習ったことかもしれないが、水位が上がったり下がったりするという程度の知識しかないため、先輩三人の話があまりピンとこない。ただ、ここは普段通りに静観していれば、話が進んでいくパターンと考えられる。

 

「無関係であるなら、わざわざ満月に設定する必要はないはず。もちろん、何の意味もない可能性もある。干潮で岩場近くの水面が陸地になるパターンと……本命はやっぱり、満潮、大潮の際に起きる何かしらの現象、かな」

 

「レジャーと関係のない唯一の建物……やっぱり教会が怪しいか」

「行って戻ってまた行くという展開か。こんなことなら、通話で済ませる手もあったろうに」

 

「私もてっきり、電話が来ると思ってた。中から中なら通じる訳だし」

「まぁ、これはこれで良かったんじゃないか。こうして、足つぼも受けられた訳だし」

 

「……ずっと絶叫してるあの子達にとっては、望まないルート選択だったと思うけど」

 

 おそらくそうだろうと思われる。

 

「あの、大潮……満潮になる時間というのは、予め分かるのですか?」

 

 何かで見た、一時間だけ通れる道、というフレーズが頭を過った。これはつまり、推測が当たっていたとしても、その条件は限定的だと思われる。

 

「それについては、少し離れたボート施設にタイドグラフがあった。今日は……比較的珍しい。こっちが困った時に電話しても大抵繋がらない間の悪い副会長にしては」

 

「っ……俺に繋がりにくいって、マ?」

「庶務の中では共通認識に近い。だから、今ではほとんどの場合、稀崎さんに掛けている」

 

「あー、確かに、マコトからそれ関連の報告受けるの多いかも」

 

 個人的にはいつもという印象ではないが、それでも先輩はもう少し自身の捉まらなさについて自覚すべきだとは思う。

 

「司令塔であるはずの副会長が常に現場の最前線に突っ込んでいってるんだからって、皆理解はしてるけど、彼女の存在で保たれてることも多いのは事実じゃない?」

 

「やっぱ鰻は俺が奢るべきだったかも……」

 

「あぁそういえば……奢りと言えば、だ。少々遡るが、学生会メンバー全員に振る舞った最高級の肉……あれは、見事な人心掌握だったと思うよ。今でも皆が口にする程なのだから」

 

「へぇ、それ美談になったんだ……」

 

 真実は阿僧祇先輩の暴走なのだが。

 

 

「――何か、悲鳴が聞こえるんだけど……ここってヤバい店なのかなぁ……」

 

 

「――あ、タモっちゃんやん。いや、これ、ガチでちょうどいい所に……」

 

 振り返ることが出来ない都合上、その姿を確認することは不可能だが、先輩の言葉とその声から、誰なのかは明らかだった。

 

「あれぇ? 連勤明けの児玉さんだけじゃなくて、副会長がのんびりバカンスなんかしてていいのぉ? 何か最近物騒だって聞くけど」

 

「もしかして、朝から今までずっと釣っていたの?」

 

「そりゃ折角船出したんだしね。とは言うても、カジキはいないし、釣れるのも代わり映えしないから、そろそろ帰ろうかなって……ねぇ? その子達、何とかしてあげんの? 店の外まで絶叫が響いてたんだけど」

 

「山々なんだけど、終わるまでどうすることも出来ん仕様らしくて」

 

「ふーん……って、そりゃそっか…………中原ちゃん、海に来ると開放的になるタイプだったんだ」

 

「いえ、違います」

 

 こちらまでやって覗き込んできた橋口先輩の言葉に否定を被せるが、先程と同様、あまり意味はなさそうだ。

 

 女子にしか見えない男子。二年の橋口先輩と顔を合わせるのはかなり久しぶりになる。当然ながら、着用している水着も女性用で、動き易そうなセパレートのスポーツタイプ。先輩がいなければ、自分が選んでいたタイプのものだと思われる。

 

 ややサイズの大きいサンバイザーと、肩に掛けているクーラーボックスからも、何をしてきたかは一目瞭然ではあった。エネルゲイアとの関連は不明だが、改めて、彼が男性であるという事実に目を疑ってしまう。

 

「……ま、いっか。食べる分は十分にあるし。っと」

「――っ」

 

 足元に置いたクーラーボックスを開いた橋口先輩は、手掴みで一匹の魚を取り出すと、左の方へ捨てるように投げる。ただ、手から離れた何かは、既に魚ではない。

 

 ふかふかの床に落ちたそれが、短い放電現象と同時に消える。

 

「――っ、何?」

「多分EMP的な何かっすねぇ」

 

 マッサージが中断されて眉をひそめる児玉先輩と、冷静に返す先輩。

 

「…………止まった……」

 

 痛みに適応し始めていた久我谷君が、恐る恐るカウチソファから立ち上がる。どうやら他の三人は放心状態な様子。

 

「後10分以上残ってたのに……コレ、壊れた?」

「多分でーじょぶ。もっかい受付しなきゃ駄目かもだけど」

 

「急に終わられると、それはそれで痛みが名残惜しい……」

「てか、そもそもスペシャルって何分だったんだろ」

 

 男二人の呟きには構わず、児玉先輩は受付の方へと早足に消える。おそらくリピートするつもりなのだろう。

 

「っ……ありがとうございました。先輩のおかげで、助かりました」

「いやイイってことよ。んで、学生会の新メンバーな感じ?」

 

「あ、いえ……俺は――」

 

 流れで三度自己紹介の時間が始まる。他の三人も、少しだけポジティブになれるプチトマトのおかげで何とか持ち直した様子。

 

「橋口先輩っ! マジ感謝っす! ホント助かりましたっ! 先輩は命の恩人っす!」

 

「まーよっ。んでは、ウチは……どーしよっかなぁ……マッサージもイイけど、やっぱもう帰るかぁ」

 

「――あぁ、言っておくけど、この区画からは出られないし、外とも通信が繋がらないわよ」

 

 戻ってきた児玉先輩は、元の席で再び施術をスタートさせる。

 

「はっ? 何故に?」

「実は、俺らは遊びに来た訳じゃなくて、その異常の解決に来たんよ」

 

「僕はレジャー目的だがね」

 

「…………うあ、ガチじゃん……副会長ぉ、早く何とかしてよぉ。迷惑係でしょぉ……」

 

「いやぁ申し訳。で、重ねてなんだけど、タモっちゃん、手伝ってくれたりしない?」

 

 この場においても、可能性のある人材には迷いなく声を掛ける先輩。実の所、こういう部分は見習うべきかもしれない。

 

「えー気分じゃないなぁ……カジキもいねぇし、釣れるのも南の島関係ねぇし……うーん。でも出れんかぁ……ポイント間に合っとるしのぉ……となると、シンが何かしてくれんならって感じかなぁ」

 

「おーイイっすよ。緊急時だし、そこそこの無茶は呑むよ」

 

「でも今別に何もねぇ…………あ、サウナ……ウチ『サウナ区画』行ったことないし、未体験なんだけど、アレって色々作法があるんしょ? フルコースで付き合ってくれるなら、解決まで手を貸すけど?」

 

「「「「――――えっ?」」」」

 

「っ……」

 

 その要求を聞いた一年生四人の表情が固まる。無理もない反応ではある。

 

「さすが。要求が優しい……レイカとかナギならこうはいかん。んじゃ、一緒にサウナってことで、もちろん、雑費も含めて全部奢らせてもらうわ」

 

「うっし。んじゃ、今日の所はさっさと解決させて皆で魚焼いて食おうぜぃっ」

 

「……」

「……」

「……」

 

「…………えっ? 橋口先輩と太刀川先輩って……そういう、関係……えっ? でも……」

 

 狼狽する佐藤さんの言葉に、見たことのない無表情の速水さんは反応できていない。その横の男子二人は、やや気まずそうに沈黙を守っている。

 

「…………」

 

 真実を伝えるべきか否か。

 

 葛藤は少なからずあったが、私は無難に静観を選択した。

 

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