「――いやでも、シロクマの要素何処飛んだ?」
決定的な空気感の中、それでも先輩は質問を投げ掛ける。普通に考えるなら、目の前の水着美女と、ぬいぐるみが同一の存在であることに納得できないのは、無理もない話であろう。
加えて、長い年月を過ごす中で、理事長の内面は時に退行する幼さと、その逆に老成している部分とか複雑に絡み合っているとの話。その情報からすれば、理事長がぬいぐるみを愛用している事実も、ある程度違和感なく受け入れることはできる。
「そのまま出てくる訳にはいかないでしょ……やっぱり、名乗ったのは失敗だったわね」
「稀崎先輩は何故、シロクマのぬいぐるみがシラユキさんだと分かったのですか?」
レイカさんももちろん凄いが、ヒントなしで辿り着いたであろう稀崎先輩はそれを凌駕している。
「何故……か。そう聞かれると、少々答えに詰まってしまう。これは、天王寺先輩の言葉を借りれば、ソウルという概念なのかもしれない」
「っ、そうですか……」
その言葉を出されたら、それ以上一歩も進めない。何故だか私は、既にそう分からされているのであった。
「特徴を挙げるなら、目の色じゃないの? 私の記憶違いでなければ、色自体は全く一緒だと思うけど」
「そうだね。私も、確信を得たのはそこだよ。後は、理事長が部屋に泊まる際は、結局一緒の布団で寝ることも多かった。故に、この中では私が最も彼女と関わっている。それも理由なのかもしれないね」
「あー、そういや、マコトが直すついでに目の方も新パーツにしたんだっけ。よくそんな細部まで見てるな……」
その点については、男女差が生まれる部分かもしれないが。
「……忘れてしまったのかい? あの色を選んだのはシンじゃないか。それも、中々の熱量だったと、私は記憶しているよ」
「えっ? あぁでも、それって去年の話……だしなぁ……」
失言を悟った様子の先輩だが、あからさまな逃げを試みている。
「どうせ、その時に流行ったゲームのキャラとかでしょ」
「――あ…………はいはいはい」
「色自体に文句はないけど、何でこんな男に……でも、正体を知られたなら……そうね。稀崎マコト。私に命はない。それでも、貴女が私の命の恩人であることは変わらない。何の足しにもならなくて申し訳ないけど、感謝しているわ……」
薄く微笑むその顔は、初めて見せた穏やかな表情だった。
「そう捉えていてくれたのなら、私も救われるよ。実際、思い出の世界に踏み入ってしまうような、そんな後ろめたさも感じていたんだ。理事長の様子から、一応は安堵していたのだが」
「そんな風に感じる必要はないわ。あれだけ丁寧に、時間を掛けて接してくれた。もし作り物に命が宿るのだとしたら、貴女のような人には、誰もが感謝するはずよ」
「っ……ありがとう。まさか、このような出会いが待っているとはね……」
稀崎先輩の笑顔と言葉には、何処か寂しさが含まれているように感じられる。
「……確かに、和んでばかりもいられないのよね……その、貴女の望みを聞かせてほしいのだけど……」
当然、レイカさんも先輩からここまでの経緯を聞いているのだろう。
「じゃあ、手短に説明する」
「えっ? いいんすか?」
手の平を返す態度に、驚きながら食い付く先輩。
「よくはないわ。元々、この場まで来られること自体が計算外だと言ったでしょう。それでも……稀崎マコトだけじゃない。穂村ナギも桐島レイカも、そして新しく学園に来た中原サヤも、私にとっては恩人のような存在なの」
「えっ? 俺は場から除外?」
「まぁまぁ。次のデュエルにはまたデッキに戻れるって」
「ま、てめぇに似合いの状態ではあるな」
何だかよく分からないことを言っているが、自分が入っていて先輩がそこに含まれないのは、不自然だとは思える。
「太刀川シン。貴方も恩人ではあるわ。けど、それと同時に貴方は彼女を苦しめてもいる……単刀直入に聞くわ。太刀川シン。貴方、常世の副会長になる気はない?」
「っ……そういう、話か……なるほど、やっと繋がった感じがする」
「とこ、よ……とは、何なのですか?」
「……私も、知らないわ。ねぇ、シン。アンタは知ってるの?」
この手の話でレイカさんが知らないという展開は初めてかもしれない。ただ、先輩へ向けられた声は普段通りで、特にショックを受けている様子も見受けられない。
「うん。そっち関連の話、だけど……この面子なら問題ない、か。麻月さんも、俺的にはもう部外者判定じゃないし」
「貴方にそう言われると、私は明確に部外者のつもりだけど」
「今日4割増で当たり強くね?」
原因は当然、一時的であっても荒事に速水さんを同行させたことだろう。
「で……うーんとね……まず、この学園を生み出した理事長なんだけど、経過時間で言えば、余裕で百歳オーバーな訳だ。ここまではOK?」
「へぇ……てか、学園創立何周年?」
「さぁ。ただ、シンも言ったように、三桁を超えてるのは確かよ。そういった数字の部分は、学園側もあやふやなままにしておきたいみたいだけど」
レイカさんも言う通り、そういった情報については特に開示はされていないが、他の要素に紛れているのか、関心を持つ学生もいないのが現状かもしれない。少なくとも、私はそうだった。
「後は、金井先輩知ってる人は分かり易い話ではある、か。麻月さんも、その内誘おうとは思ってたんだよなぁ。んで……とこよ、ノリカネの常に、世の中の世で、常世。意味的には死後の世界みたいな感じらしいけど、ここではそうでなくて、正式には常世契約って呼ばれてる」
「常世、契約……なるほどね」
この中で金井先輩と接触の機会がない麻月さんだが、こういった話については理解が早い印象がある。
「常世契約は、理事長と契約を結ぶことで、学園に留まり続ける限り、最もエネルゲイアを行使するのに都合のよい肉体年齢に固定される、要は年を取らないって話。もちろん、学園から出ると、時計の針が動き出すけど、まぁ契約してる訳だから、基本は出ないって感じかな」
「その、動き出すっていうのは、一気に爺さん婆さんになるって感じ?」
私も、何故か頭の中でそのようなイメージが浮かんでいた。有名なおとぎ話の影響だろうか。
「いや、そこから普通のスピードで年を取る。だから、助けた亀に連れられた先で貰うモンとは、ちょっとイメージは違うかな。で、実際、学園の中には、この常世契約を結んでいる人間が複数いる。一応、そこまでで常世の意味は理解できるはず」
「なーる。とは言うても、ウチ的に直では関係ない話やね」
「……」
「……」
「……」
「……」
話の内容は難解ではなく、場の誰もがその概要を把握できたことは間違いない。それでも、私自身を含め、橋口先輩を除いた人間の表情は硬い。
「説明が済んだなら、答えを聞かせてもらっても?」
「いや、もう少し補足が欲しい。シラユキさんがそれを求める理由は?」
一方で、先輩の表情は依頼主から事情を聞く時のそれであり、普段見せる掴み所の無さは一時的に消失してはいる。
「さっきからだけど、呼び捨てでいいから。それで、理由について…………つまり、理由を聞かなければ応じられない程度には、貴方にとって魅力のない提案、ということ?」
理由を問われたシラユキさんは、それには答えずに質問を重ねる。
「魅力、か……確かに、理事長に縋り付いて契約をせがむレベルで求めてるってことはない、のは事実。だから、その部分より、何故って所の方が気に掛かるんだけど、理事長から直でならまだしも、求められる相手が違うっていうのは、あると思う」
「……もし、貴方が常世の副会長になるなら、思いを遂げた私はこの学園内に顕現できる。貴方が応じてくれるなら、私は永遠に貴方に尽くす。身の回りの世話はもちろん、どのような求めにも応じる。能力そのものはないけど、単純な戦力にもなれると思う」
「っ、何……だと……」
その言葉の内容はともかく、自身の胸に右手を当てて話す彼女の眼差しは真剣そのものだった。
「おいてめぇ、何揺れてんだよ?」
「いやいや、そうじゃなくて、特典の破壊力がエグ過ぎるだろ……」
「……」
「……」
必死そうに言い訳する先輩に対し、レイカさんと麻月さんの視線はこの上なく冷たい。
「待て落ち着け。黙って一回想像してくれ。超絶イケメンに同じことを言われたら、お前らだって動揺はするだろ?」
「別に」
「しないけど?」
「くだらねぇ……」
「えっ? マジすか……」
「一応、ウチは多少分かるよ。頑張れ副会長」
励ます気の薄い橋口先輩も含めて、先輩の反論は面々には全く響かなかった様子。私としても、身の回りのことは自分でしたい方ではある。
「そ、その……すまない。先程から気になっているのだが……彼女の容姿に、何というか、既視感を覚えるのだが……っ……いや、今の話とは、関係はないことだったか……」
確かに関係はないかもしれないが、私としても、彼女の容姿について、稀崎先輩が来てから新たに気付いた要素は存在する。
「ごめんなさい。おそらく、思っている通り、この泣きぼくろは貴女のものを取り入れさせてもらっているわ」
そしてどうやら、その気付きは正しかったようだ。
「っ……そ、それは……何故?」
「今更だけど、貴女に答えるのは少し、無粋かもしれないわ…………もちろん、私自身を差し出すことが大した特典にはならないことは分かっている。ただ、彼女をずっと近くで見てきた私が強くそう願っていることを、理解してほしい」
「いや、本気なのは、最初から十分伝わってるんだけど……」
以前、先輩から聞いたことだが、思念体と呼称される彼らの存在理由は、その強い願いであり、彼女がここにいること自体が、彼女が本気であることを示していると受け取れる。
「つまりだ。てめぇはあのチビガキがコイツを求めてるって言いてぇんだろ? ただ、そいつは本当の意味で求めていることなのかよ?」
「誰でもとは言わないけど、心の奥で願いを抱えている人間はいる。だからと言って、その願いを実際に叶えたい訳ではないことも多いはず。いえ、叶えてはいけないと、強く思って押し込めている場合だってあるわ」
「何かさぁ、ガチ目に実感こもってね?」
「まぁ、ノーコメントで……」
これも今更だが、自ら藪を突く真似は一応控える先輩。
「それもわかってる。けど、求めているのは本当のこと。先月、貴方達のおかげで彼女の不安は解消された。だけど、その不安は、新たな不安を生んでいた……」
「それって、親しい学生が、学園を去っていくこと?」
先月と言えば、最初に理事長と話をしていたのは、レイカさんと稀崎先輩だったと聞いている。
「大きく言えば、そう。けど、太刀川シンは、正直異例。彼女に干渉せず、それでいて親しく、学園の治安維持においても、副会長を務めて以降は、数値上で過去最高。終点のない生を歩む彼女が、一年半後のことを今から不安に思うのは、そこまで不自然な話ではないわ」
「そう言われれば、本来ならそこにタケルも加わってるはずだし、三年生からも、過去最高に平和って言われてるけど」
「実はそうでもないんだけどなぁ……」
「だとしても、てめぇが学園の奴隷だってことは間違っちゃいねぇがな」
「……」
先輩の存在が、学園の治安を安定させているという見方は、日々同行している身からすれば、妄言とも言えない。少なくとも、先輩でなければ解決が困難な状況は、確かに存在する。
「そうでなくても、去年から、彼女の様子は少しおかしい。学園全体が捉えている力動のような何かが、彼女の感覚に流れ込んでいるのかもしれない」
「そう言われれば、先月のようなことは、ここ数年では見られていない……季節毎に起こる区画の出現や変動とも、データの上で一致しないのは確かなことだ」
「ま、その点については、その都度対処していくって話ね」
「っ……」
軽い口調でそう言いながら、レイカさんはスナイパーライフルを分解し、片付けていく。それはつまり、彼女にこれ以上の戦闘意思がないことを示している。
「事情も大体分かったし、この話はシンが常世の副会長になるかどうか。私には直接関係のある話じゃないわね」
「私も同じ」
「ウチもそうやね」
「不意打ちの分は返した。もうここに用はねぇ」
「薄情と泣き出したい所だが、まぁ確かにそれはそうなんだよなぁ……」
レイカさんの反応は少々意外だが、面々は静観の構えを見せている。
「いや……っ……シン、私は反対だ。この学園では、時間の流れすらも通常のそれではないことは、重々理解している。それでも、私はシンと一緒に、年を重ねていきたい……」
「やっぱこういう時はマコトしか勝たんな……」
「……私としては、在学中ずっと先輩が副会長を務めてくれることは悪い話ではありません。ただ、自分の卒業後も先輩が十代のままでいることについては、漠然と不快感を覚える側面もあります」
「お前もまぁ安定だな……」
一応、流れに倣って自分の思っていることを口に出しておくが、先輩から返ってきたのは普段よく見るうんざり顔だった。
「他の人間が中立でいてくれることは、単純に助かるわ。それで、そろそろ答えを聞かせてもらえる?」
聞いた話をまとめれば、先月、理事長が抱いた先行きの不安によって意識化された、先輩が卒業し、学園を去ってしまうことに対する新たな不安によって、目の前のシラユキさんはこの区画と共に姿を現した。
そしてその願いは、先輩が常世の副会長となって、学園に永住すること。この男の心中は不明だが、言葉にしてみると、端的にとんでもない要請であることは間違いない。少なくとも、百年を優に超える時間を生きている理事長の気持ちなど、私にはとても見通せない。
ただ、五月の『霊園区画』同様、シラユキさんも理事長のことを切に思ってこの場に存在していることは、きっと揺るぎないのであろう。
「うん。今すぐに答えろって言われたら、無理かな。これ、皆からマジで酷い言われようなんだけど、俺卒業したら、一年間引き籠って積みゲーを片付けつつ規則正しい生活を身に付けて家事の腕を磨こうと思ってるんだ」
「…………」
後半が妙な早口で若干不快な答えに、一旦無表情で沈黙するシラユキさん。
「アレ、昨年度末から言ってるヤツやね」
「はっきりとニートって言った方がまだマシだな」
「しかし、シンとしては、真面目に考えた上での充電期間ということなのだが……」
「もし仮に、本気でそんなことを考えてるのだとしたら、余りにも周りが見えていないわね」
「ちょ皆さん……せめて中立でいようぜ……」
その意向については私も本人から直接耳にしていたが、感想は概ねレイカさんの言葉と一致している。そして隣の麻月さんは、コメントすら皆無な様子。
「…………一つ。やっぱり、ここを体育館にしておいたのは正解だったようね」
その表情は穏やかだが、シラユキさんの発する雰囲気が明確に切り替わったように感じられる。
「っ……あぁいや違うか。つまり、スポーツで決めようみたいな話? いやぁでも、そういうことでもなくない?」
先の展開に気付いていながら、自らが欲する都合のよい未来へ縋ろうとする。数あるこの男の悪癖、その一つである。
「スポーツ……えぇ。格闘技も、スポーツよね?」
「二言目で核心かよ……いやいや、そんな従わせ方は駄目じゃね?」
それは、こっくりさんのような原理だろうか。いつの間にか、先輩以外のメンバーは全員、見に回るような位置に並んでいた。
「対話で解決できないなら暴力で。それが人間のルールなのでしょう?」
「いや……その誤情報、何処から引っ張ってきた……」
「歴史の教科書よ」
同意すべきではないが、そう解釈できる部分もあるかもしれない。
「永遠とも呼べる生か、この場での死か。シンプルな二択に収まったようね」
「いやいやいや。ただでさえ理事長の青天井な練度を引き継いで阿保みたいな身体能力なのに、それに加えて能力使用オフ設定はさすがに渋過ぎないか?」
これについても、口に出すと尚更に厳しい条件であることがよく分かる。それでも、相手からすれば知ったことではないとも言えるが。
「汚い言葉だけど、吐いた唾は飲めない、だったわね……能力の封印を解いたわ。これで、言い訳のできない状況になったでしょう?」
「えっ? そういう感じ? あーいや待った。せめてもう少し猶予が欲しいっす。そもそも、卒業までは強制でいるんだから、来年度末まで保留でよくないか? それまで、この区画から俺を監視してればいい。直接の関与が無理でも、理事長とコミュニケーションも取れる」
「一度逃がせば、貴方は対策を練るか、二度とこの場には来ない。それ位、私にだってわかるわよ」
「いや、対策はバリバリに練り上げるけど、そのままバックレはしないから。っていうかこれじゃあ、理事長の兄さんの時と変わらんぞ」
確かに、このまま戦闘が開始されるなら、展開としてはその時と変わらないということになるだろう。
「何の話をしているのかわからないけど、それがたとえ彼女の兄であっても、他人は関係ない。私は、私の求めるもののために戦うだけ」
そして、引き伸ばしもそろそろ限界に近いか。私ならば、既に斬り掛かっている所ではある。
「まぁ……これ系の展開に多い、この世界を救うとか、そもそも人間はいない方が宇宙のためだとか言い出して、自己中な救済を押し付けてくる輩よりは全然イイけど……その姿で向かってこられると、マジで戦う気が失せる……」
「もういい……話はマウントポジションを取ってから……聞いてあげるっ――」
「――――っ!?」
言い終わりと同時、シラユキさんは姿勢を低くしたまま突進。
初速が既に目で追える限界の速さ。
打撃ではなく、体当たりのように押し倒す狙いか。
「――――」
そしてそれは反応か、研ぎ澄まされた危機回避の本能か、先輩は右斜め前方へ鋭く一足飛び、しかし相手は既にその動きを把握、振り向き様に地を蹴って高速で距離を詰める。
「――なっ!?」
シラユキさんが目を剝く。
近くから見ると、消えたように感じられる不愉快な回避方法。
先輩は超高速でその場に伏せ、掴まれたら逃れられないであろう抱擁をやり過ごす。
「っ……」
だが、それは悪手のように思えた。何故なら、相手には身体能力、反射速度で大きなアドバンテージがあるからだ。
「――――っ」
その予感通り、刹那の間を経てすぐに、先輩を見下ろして捉えるシラユキさん。
「――――アウトレットゾンビっ!」
「あ――――」
地に伏せたまま発せられた、九文字の言葉の羅列。
その瞬間、極僅かな時間だが、目の前の全てが白く染まり、再び視界が開ける。
「――――ハァ……だと思った」
「そういえば、今日は土曜日だったか」
「んっ? あ、コレ超久々やん」
どうやら、橋口先輩も初見ではない様子。
「っ……くっ、な……嘘……ここは……どういう、こと……」
数秒前、我々は体育館にいた。そういえば、それ自体が不可思議なことではあった。しかし、現状はまたその上をいっているのかもしれない。
今、私達がいるのは青空の下、一面緑の人工芝の上。その周囲には衣料品を中心とした多彩な店舗が並び、遠目にはフードコートの案内も見える。
「っ……14分」
それが、ゲーム開始までに与えられた時間。
様々な事情を抱えているのは承知の上だが、私はとにかく、一秒でも早くこの空間から脱したい。
「シラユキさん。非常に残念なことかもしれませんが、最早我々は協力する他ありません」
「――――えっ? 中原サヤ……何を、言ってるの?」
私も最初は、今の彼女とほぼ同じ表情を浮かべていたのだろう。その時は、レイカさんが宥めてくれたのを思い出す。
監獄島からのショッピングモール。そのせいで暫く、私は土曜日が嫌いになってしまった。
ここは広大なアウトレットモール。14分後には、ゾンビの巣窟となる予定のゲームフィールドである。
そしてその実態は、ただお茶を濁すためだけに使用される、先輩の緊急避難だ。