トワイライト・エネルゲイア   作:サムラビ

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8月下旬 9

「――――協、力……っ、じゃなくてっ! 一体、何が……ここは……空間、が、塗り替えられた? でも、そうじゃない……座標に、変化は……っ…………ハァ……コレは、何なの?」

 

「先輩のエネルゲイアです」

 

 諦めたように溜息を吐いたシラユキさん。おそらく、この学園では何が起きても不思議ではないという基本原則に立ち戻ったのであろう。

 

「こんな能力、聞いてない……」

 

「はい。私も同様の仕打ちを受けた際、非常に強い怒りを覚えました」

 

 気持ちは分かる、と言うつもりはないが、その思いに寄り添いたい心境ではある。

 

「――あれ? 久我谷君と円谷? 何で?」

 

「今日は土曜日でしょ? アンタなら、緊急時に使うと思って、私が頼んで待機してもらってたのよ」

 

「い、いやぁ……まさかまたここに来ることになるなんて……」

「ただ、前来た時よりは慌てずに済んではいるな」

 

「ここでの戦力増強とか、最高かよ……」

 

 こちらもこちらで、また一枚上手なレイカさん。確か、このエネルゲイアによって巻き込まれる人間の範囲は、先輩を中心に半径400メートルだったか。

 

「太刀川シン、説明して。ここは何処で、何の意味があって、どういうつもりなの? それに、身体能力まで……」

 

「ごめんね、シラユキ。そんなことをしている時間はないわ。シン、橋口君と大型スーパーの生魚エリアに向かって。男の子二人は、悪いけど医療キットを集めてもらってもいい? 場所、覚えてるわよね?」

 

「はい、分かりました」

「任せてくださいっ」

 

「タモっちゃん、こっち」

「あいよ」

 

「っ……」

 

 先輩に詰め寄るシラユキさんをやんわり引き離しながら、レイカさんが素早く指示を出す。既知の状況下での指揮は、彼女が担当することが多い。

 

「サヤとマコト、シラユキをお願いしてもいい? 麻月さんは、今回もアサルトライフルでいく?」

 

「はい。ジーンズショップを漁ってきます」

 

 残り時間は12分。面々は散り散りに行動を開始する。

 

「アンタはどうせ遊撃でしょ? あんまり捕まり過ぎないでよ」

「てめぇだって上から狙撃してるだけだろ? しっかり援護しろよ」

 

 そして意外にも共闘の姿勢を示す二人。おそらく、コート、ピッチ、グラウンド上でのみ協力するという暗黙の了解が存在するのだろう。差し当たって、深くは考えないでおく。

 

「くっ……何なのよ……このふざけた展開……」

「シラユキ、こっちへ。我々も弾薬を集めなければ。サヤは、日本刀を使うのかい?」

 

「いえ……残念ながら、私のスタイルでは、サブマシンガンが最適解のようです。ただ、中盤で少し、火炎瓶と併用するかもしれません。稀崎先輩は、何を使われるのですか?」

 

「あぁ、能力が使えれば、もう少し貢献出来るのだが、私は所謂衛生兵のような立ち回りになるだろう。投げモノに加えて、余った武器を使用させてもらうよ」

 

 会話を交わしながら早足で移動し、建ち並ぶ店舗に置かれている弾薬を、片っ端から拝借していく。これから始まる時間において、弾切れは即ち、ゲームオーバーを意味する。

 

「それでは、最低限の説明をしておこう。能力名は『アウトレットゾンビ』と呼ばれる。シンの好きなゲームがモチーフとなっており、アウトレットモールはその舞台だと理解してほしい」

 

「どういうこと? 彼の能力にそのようなものはなかったはずよ。少なくとも、彼女は把握していない……」

 

「私も詳しくは知らない。ただ、シンの能力は曜日で変わるらしい。そして、これは土曜日限定の能力で、場を同じくした我々はプレイヤーであり、後10分程で始まるゲームをクリアしない限り、永遠にここから出ることは許されない」

 

「加えて、この場ではエネルゲイアの使用が理不尽に制限されており、私と稀崎先輩は全く行使することが出来ません。身体能力も、そのモデルとなったゲームのキャラクターに準拠していて、この店舗の屋根に登ることすら、大きな手間と労力が必要となる程です」

 

「曜日で、変わるエネルゲイア……で、でも、彼は吹き飛ばす能力も使っていたはず……」

 

「それは曜日とは関係のない能力らしい。私も、全ての曜日の能力を知っている訳ではないが、詳しいことは、サヤが把握している」

 

「いえ、私も、全ての曜日の能力を把握している訳ではありませんし、あの先輩が全てを周囲に伝えていることなどあり得ません」

 

 それでも、レイカさんと阿僧祇先輩、中之島先輩にナギ先輩、欧陽先輩辺りはその全てを把握しているのだろう。

 

「私は今回でまだ2回目ですが、稀崎先輩は、ここへ巻き込まれるのは何回目なのですか?」

 

「今回で5回目になる。ただ、初回はほとんど役に立てなかった……その後、ゾンビ映画を視聴して、何とか乗り越えたよ」

 

「……さすがです」

 

 正に、彼女の献身的姿勢がよく分かるエピソードである。

 

「――待って。そもそも、エネルゲイアは単一であるはず。この学園を生み出すという途方もない能力ですら、その根源は単一の概念に集約される。彼の能力は、とてもそうは思えない」

 

「それについては、レイカ曰く、確かに単一の概念であるらしい。気になるなら、本人に直接尋ねてみることを勧めるよ」

 

 余談ではあるが、先輩のエネルゲイアの本質は、他者の感謝によってポイントを得ることで一旦完結しているらしく、エネルゲイアを行使しているように見える数々の現象は、ポイントを消費しているだけの、所謂おまけという話だ。

 

「すいません。それより、シラユキさんはどの武器を使用されますか?」

 

 私は三種類あるサブマシンガンの中で、弾の発射が最速の物を選ぶ。これについては、指示を聞く前から、自分が最前線に立たされることは理解し、また納得出来ている。

 

「それよりって……私は、こんな馬鹿げた遊びに……」

 

「――シラユキさん。私が最初にこの場を訪れた際は、クリアするまでに4回コンティニューしました。ゾンビに襲われても特に痛みなどは伴いませんが、異形に群がられて全滅するという体験を、私はもう繰り返したくありません」

 

「っ……」

 

 その反応を見るに、こちらの本気度はある程度伝わっている様子。

 

「事実、初回の私は全く集中できず、先輩への怒りからフレンドリーファイアを連発することもありました。ただ、ゲーム同様、それが斬撃であっても、ノックバック判定が起こるだけで、何の意味もありませんでした。繰り返しになりますが、今は協力をお願いします」

 

「つまり、貴女も今の私とほぼ同じ思いを経て、この場にいるのね……だから、他の人間もこの状況を受け入れている……」

 

「そう受け取っていただければ、幸いです」

 

 実際、その時の私に比べれば彼女は幾分落ち着いている。少なくとも自分にはそう見える。

 

「……ここでは、銃を持たないとゾンビすら倒せないのね」

「それ自体は、特に恥じることではないと思いますが」

 

 ゾンビは架空の存在だが、一般的なイメージで言えば、そもそも素手の人間が勝てる相手ではない。

 

 何とか現状を受け入れるきっかけは掴めたか、シラユキさんは稀崎先輩の勧めでスタンダートなアサルトライフルをセレクトした。

 

 残りは4分。距離の近い店舗を3往復程した私達三人は、十分な量の弾薬を確保することが出来た。これも、男子二人が他のアイテムを集めてくれたおかげである。

 

 そして、開始時間が迫る中、改めてシステム面についてシラユキさんと話をしておく。

 

 モデルであるゲームはあくまでモデルであり、これから始まる不快な催しは、シューティングよりもタワーディフェンスと言った方が正しい。

 

 我々の目標は、初期地点の中央芝生エリアを目指して侵攻する敵を、メンバー全員で死守することにある。そして、敵である様々な形態を持つゾンビ達は無限に湧き出すため、駆逐することは叶わない。

 

 そのため、クリア条件は時間進行による。

 

 その体感時間はどうも一定ではないが、朝から始まり、陽が沈む頃に上空から救出のヘリが到着し、芝生の真ん中に近付き次第、何とかして全員がその中へ退避することで、ゲームはクリアとなる。当然、メンバーの誰か一人でも欠けてしまえば、クリア判定は得られない。

 

「粘ればいい、ということか。聞くだけならそう難しそうでもないけど、前回は4度も失敗しているのよね……」

 

「はい。特に、4度目のゲームオーバーは、ヘリが到着してからの失敗だったため、若干心が折れかけたのを覚えています」

 

 低確率で出現するという、出てきてはいけないタイプのゾンビによって、私と麻月さんが丸呑みにされたのが、決定打となった。

 

「……麻月カエデ……彼女、かなりやる気があるように見えるけど、どうしてなの? 太刀川シンに対して、文句を言っている感じでもなかった……」

 

「それならきっと、前回の体験が悔しいものだったからだろう。一緒に食事をした際、自身のミスにより、クリアまで時間が掛かってしまったと話していた」

 

「実際はそうではないと思われますが、確かに、そのような言葉を私も耳にしました」

 

 彼女と接していれば分かることだが、麻月さんは元来、かなりの負けず嫌いである。ただ、自分が指摘すれば、同様に言い返される結果は目に見えているため、言及するつもりはない。

 

「――よし、絶対に一発で終わらせるわよ。作戦はいつも通り、向こうの時計塔を押さえて敵を分散。大型固体は出現次第集中砲火で倒す、捕まったらとにかく叫んで周りに知らせる。後は無理な蘇生はしない。結局、蘇生中に落ちてのダウン連鎖が負けパターンだから」

 

「はいっ! 了解ですっ」

 

 既に準備完了といった様子の円谷君が、元気良く敬礼している。ただ、水着姿で行うポーズではない。

 

「――太刀川シンは、随分と奥の方へ走っていたわね。もうすぐ――っ……アレ、は……」

 

「っ……これは……」

 

 声を止めたシラユキさんの方へ振り返ると、二年男子組が向かっていた右奥の開けた通路から、場違いな何かが姿を現す。というのも、余りにもショッピングモールにそぐわないため、それが一瞬何なのか認識出来なかった。

 

「驚いた……これは、橋口君の能力に間違いないだろう」

 

 こちらに向かって走行してくるのは、戦車だった。しかもそのシルエットは何処かスマートで、より近代的なデザインに思えた。そして当然のことなのだが、先輩は水着姿で戦車に搭乗している。

 

 あまりそちらの方に明るくはないが、色は濃い青緑、搭乗口から身体を出している先輩は、セットされた機関銃を構えており、その下部には代名詞とも言える巨大な主砲が、朝のモールにあり得ない威圧感を放っている。

 

「ちょっ!? おいっ! 戦車って……マジでやべぇんだけどっ!」

「……一体、何の魚がアレになったんだ……」

 

 興奮と疑問、ある意味で対極の反応ではあるが、その驚愕に差はないと思われる。

 

「――いやぁ、解体ショー用のカジキマグロとか、こりゃもうヌルゲー確定だなっ」

 

『テステステスっ……あ、聞こえてそうだね』

 

 当然、内部で操縦しているのは橋口先輩。ただ、これはBANされたりはしないのだろうか。

 

『シラユキさーんっ! コレ、三人乗りだから、ちょっと中来て手伝ってもらってもいいすか? 多分、他の人は配置が決まってると思うんでっ』

 

「嘘……あ、あんな訳のわからない物体に、乗らなきゃならないの……」

 

「じゃ、その三人は戦車組でお願い。見た所、型は明らかに最新式だし、これなら例のビッグフットが出てきても、普通にイケるかもしれないわね」

 

 不穏なフラグを感じない訳でもないが、シラユキさんは言われた通りに戦車の方へ。その後ろ姿には、未だ迷いが見受けられる。

 

 ここで、残り時間は1分を切る。

 

 一度火蓋が切れば、敵はほぼ360度から湧き出て進軍をスタートさせる。我々の布陣は時計塔を背にする形で布かれ、芝生中央の防衛に努める。

 

 ナギ先輩は遊撃。正に彼女のためにあるような言葉にも思える。

 

 私が前衛の位置に立ち、麻月さんがフォロー、久我谷君と円谷君君がその後ろから敵を撃つ。また、後衛は稀崎先輩が務め、主に投擲物や各自の体力回復、緊急時の蘇生を担当してもらう。

 

 そして、レイカさんは後方の高台から遠距離攻撃。先輩曰く、レイカさん不在の場合はそれだけで攻略難易度が跳ね上がるとのことであり、恐ろしい精度で敵を次々と屠っていく様を見せ付けられている私自身、その話を疑う要素は確認できない。

 

 最後に、今回のチート要素、二年男子コンビにシラユキさんを加えた戦車組。敵の進軍と同じく、360度の射撃が可能な先輩の機関銃は、時計塔に群がる敵を一掃する役割を担う予定であり、主砲の判断は橋口先輩とシラユキさんに委ねられる形となった。

 

 それに加えて、戦車の内部には橋口先輩によって用意された各種武装も控えているらしい。

 

 前回よりも人数が多いことでの難易度調整を加味しても、かなり余裕を持って臨める構成であると考えられた。

 

 10、

 

 9、

 

 8、

 

『何と、この戦車のイイトコはむしろ優秀なセンサー機能っぽい。ってことで、ウチは戦車の操縦とシンとの戦略トークに専念するんで、各種状況報告はシラユキちゃんに一任しやすっ! んじゃ、いってみよっ』

 

『――――はあぁっ!? ちょっと――』

 

 2、

 

 1、

 

 こうして、ゲームはシラユキさんへの無茶振りによって開幕した。確かに、通信にノイズは見られないにしても、声質自体がよく通るシラユキさんには、適任ではあると思われる。

 

「うん……後ろと左右はシンと私でカット出来そうっ! だから、他の皆はひとまず前方に集中してっ」

 

「「了解っ!」」

 

 前回でもそうだったが、男子二人の活気に溢れた返事は、場の雰囲気として非常に助かる。そのおかげで、自分はある程度前だけに集中することが出来る。

 

『――――えっ!? ちょっ! 熱反応……こ、これ全部、ゾンビなの……嘘でしょ……』

 

 何処からともなく出現するゾンビは、どれもグロテスクと言えばその通りだが、見慣れてしまうとチープな敵キャラにしか思えず、黄泉の魔物に比べれば、一般的に齎される生理的嫌悪も大分軽度なものになると考えられる。

 

『そゆゲームてゆうたやん。デカいのは中ボスだから、出たらすぐ報告よろ。で、一発左に主砲パナしまーすっ』

 

「よーしっ、10時の方向……てぇぇぇぇぇぇっ!」

 

「――――――」

 

 ファンタジックな想像が過ぎたのか、何故かエネルギー砲のようなものを期待していた自分がいたようだ。そして轟音と共に発射された迫撃砲は、予定通りの方向へ瞬時に着弾、大爆発を起こしながら周囲を焼き払い、後には抉れた地面と焦げた肉片だけを場に残す。

 

『あー、やっぱ何か、威力抑えられてんねぇ……まぁしゃーないか』

 

「だとしても、向こうの方で最初にポップしたのは今の一発でほぼ全滅……これはハイスコアが狙えるんじゃねぇか」

 

 もしスコアという要素があれば、そうかもしれない。

 

 先輩の妄言に心の中でツッコミを入れながら、射程に入った前方の初老男性ゾンビを蜂の巣にする。頭に当てるのが理想だが、それはレイカさんに任せ、私は胴体やや上を狙い続けるスタイルで動いていく。

 

 敵がいなくなった分の空間を埋めるように数歩足を前へ進めると、榴弾の放たれていない右方を、横合いから接近したナギ先輩が一掃、サブマシンガン二丁持ちという非現実的な様式で次々と敵を肉塊へ変えていく。

 

『右――じゃなくて、4時の方向に大きな反応っ!』

「――――っ!」

 

 始まった。反射的に身構えてしまう。

 

 それは体感的には1分で1体ポップする体長3メートルオーバーのゴリラ型ゾンビ。緩慢に行進を繰り返す一般のゾンビとは一線を画する俊敏性を備えており、高速で跳び回ってプレイヤーを捕まえ、行動不能状態にしながら体力を一気に削ってくる。

 

「シンっ! 届く?」

「うん、イケそう」

 

「…………っ――なっ!?」

 

 味方であるはずの人型ゾンビを蹴散らしながら一気に加速するゴリラゾンビ、その顔面と胸部を、銃弾の雨が執拗に襲う。そして見事な追いエイムにより目標は空中で爆散する。

 

 状況によっては、誰かが捕まった隙に全員で攻撃して落とすような相手なのだが、ものの数秒で倒してしまった目の前の現実に、普段の依頼でもあまり記憶にない驚愕を覚える。

 

「コレ、リコイル制御っていう概念がないんだけど……」

「……」

 

 そして、この男はどうにもゲームと現実の区別が付いていないらしいが、考えようによっては、この場は現実よりもむしろゲームに近いのかもしれない。

 

「あれ? 俺、やることなくねぇか?」

 

「戦車の機関銃が強過ぎる……射程も広いし、アレだけで半分以上のゾンビを一掃できるかもしれない……」

 

「久我谷君っ! 高台でスナイパ――っ」「久我谷君っ! こっち来てスナイパ――っ」

 

「っ……あ、はいっ!」

 

 何と、台詞とそのタイミングがほぼ一致する先輩とレイカさん。この思考の被りについては、さすがの二人も驚いて互いに視線を送り合っている。一方で、何故か怒られたような雰囲気で久我谷君は慌てて後方へと下がる。

 

 

 

 そして想定を上回る初動の成果からおそらく数分程、我々は完全に場を制圧し続けていた。

 

 敵の群れに放たれる主砲、単独で右方をほぼ一掃出来る先輩の機関銃、レイカさんの正確且つ速過ぎる狙撃、今ではそれに技術を得た久我谷君も加わっている。

 

 また、ナギ先輩はいつの間にか得物をショットガンに持ち替え、後ろから見ているとリス狩りにしか見えない倒し方を最前線で維持している。稀崎先輩のグレネードによるカバーも手厚く、麻月さん、円谷君による撃ち漏らしの処理にも、かなり余裕が見える。

 

「――中原っ! 右奥っ」

「はいっ」

 

 自然と、1時から5時方向は私と先輩二人で担当しているような状況に収まり、後方についても、レイカさんと久我谷君の狙撃により敵は近付くこともできない。

 

 ただ、見た目として悲惨なのは、橋口先輩の主砲とナギ先輩、麻月さんによって蹂躙され続ける左方のゾンビ達のように感じられる。逆に言えば、そう思える程に、周囲を見渡す余裕を持って戦うことができている。

 

 前回は単独で多くのヘイトを買ってくれる先輩と、正確無比で迅速なレイカさんの射撃によるギリギリのクリアだったが、今はまるで違うゲームをプレイしているような体感の差を覚えてしまう。

 

 実際、既にもう頭上の陽は傾き始めている。また、この場における黄昏は、我々の能力に何ら影響を及ぼさないまがい物とのこと。そのため、クリア直前でのボーナスタイムのような時間は存在しない。

 

「――っていうか、これってやっぱり……」

「索敵よね。間違いなく」

 

 場の誰もが感じていたことについて言及する、先輩とレイカさん。

 

『ゴリゾンビの位置すぐ分かんのパないよねぇ。次点が主砲と機関銃の弾が無限ってトコだけど、やっぱMVPはセンサー役のシラユキちゃんっぽいね』

 

『えっ!? 私? 別に、大したことは……』

 

「正直異議なし」

「固まってる所も、見るより先に教えてくれるし、間違いないわね」

 

 高所にいるレイカさんでもそう感じるということは、言葉通りに間違いないのだろう。

 

 私自身、甘える訳ではないが、シラユキさんと先輩の指示で動いている時間の方がもう大分長くなってきている。今の所、その指示に誤りも見られない。

 

「っ……」

「……」

 

 ナギ先輩とのアイコンタクトも、最早洗練されてきたという表現も誇張ではないように思えてきた。そのため、感覚的に引いている境界線の微調整もスムーズに行われている。

 

 それにしても、無言で笑みを浮かべながら次々とゾンビを爆散させて回る溌溂としたナギ先輩の姿は、これがゲームなら主人公で間違いないだろう。

 

 こういった胸の高鳴りと感覚は、スポーツやゲーム等でも時折感じられるものではないかと思う。自身の動きも含め、味方との連携が心地良く機能している時のリズム。互いの報告にも無駄がなく、唯一無駄であるはずの先輩が発する軽口も、それ程気になることはない。

 

 

 まとめると、不本意ながら、今私は非常に楽しい時間を過ごしている。

 

『てか、ゾンビ軍ほぼ芝生踏めてない説?』

「雑魚ゾンビ達については、あるね」

 

 そういえば、ゴリラゾンビ以外で、自陣に侵入できた敵は覚えがない。とは言っても、その中ボスに関しても、すぐに全火力を以て屠られ続けているのだが。

 

「――やっぱり、久我谷君の能力って、他人の持つ技術の再現?」

「あ……はい。その、すいません……」

 

「もちろん、気にしなくていいわよ。けど、とても応用の利く能力ね……」

「あ、ありがとう、ございます」

 

 さすがの洞察力か。ただ、今の会話を聞くに、レイカさんの中でも久我谷君を学生会に誘う動きが、今後見られるのかもしれない。

 

 

『――っ!? 正面奥っ! とにかく巨大っ! コレってもしかして……』

「っ……」

 

 

「まぁ何となく出ると思ってはいたな」

 

 シラユキさんの緊迫した声とは対照的な、普段通りの抑揚。ただ、自分としても何となく察してはいたため、その心中に動揺は見られない。

 

 我が国ではUMAと呼ばれる未確認生物。ただ、これから我々が目にするのは、それらとは全く関連のない何かであるということを念頭に置きたい。

 

 そう思った。

 

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