『ぼっち・ざ・ろっく!』の舞台のDVDほしい。欲を言うのなら、『吸血鬼すぐ死ぬ』のDVDもほしい。あと絶対に休みがほしい。
「あっ、おっ、
これが僕の、山田リョウへのファーストコンタクトであった。僕は『漢梅』とでっかく印字された菓子袋、すっぱい梅味のタブレット菓子のそれを、まだ名前も知らない彼女に差し出していた。
当時の彼女というのは、目のクマが出来上がってみせている徹夜明けのひでぇ面だった。青みがかりな紺碧の髪はバッサバッサのボサボサしていて、
のちのち聞くところによれば、山田リョウはこの日──高校の入学試験の日──の前日をかかりきりにしで、中学の全範囲(!??!)を頭に入れたらしい。ウソつけ。だがすくなくとも徹夜明けだったのは事実なのだろう。
それは証明されているのだ。あろうことか(糞が。)──山田リョウは試験会場、その僕の横にある席で、試験がはじまる数分前において寝落ちした。のび太でもしない。のび太みたいのは、人生の節目節目や大事なトコロは確実におさえる。
それにいじめっ子やら何やらといえども、友だちがいる。しずかちゃんとか女の友だちもいる。リルルっていうヒロインもいる。推しです。……マジかよ、僕もう負けてる。
そういうのも僕はこの日、山田リョウをたたき起こしたときが入試のハイライトだったのだ。先にいうと、僕はこの入試に落ちた。
(その結果、行くのに二時間かかる遠くの高校へと通うハメになった。当然、中学の頃の友人関係はオシャカサマになり、かといって新しい友人など、この高校という辺境じみた未知の地帯に所在した未開世界では、友人……バカ言っちゃいけない。それに、バカ言ってバカやってみても、できるはずなかった。)
しかし、そうとなるほどに僕の目を眩ませた、この入試の日における僕の『ハイライト』とは、以下のようなフラッシュバンであった。
僕は、試験会場で隣の席にて、試験開始の数分前に机につっぷして寝始めた彼女──山田リョウを、彼女の肩へと僕の手をやって、かるく叩いて起こした。
そして彼女はのっそりと体を起こしたのだが、机へと前のめりにのしかかっていたせいで、“むにゅん”とつぶされ気味だった胸が、彼女が背筋を伸ばすとともに、むっくりとその丸みをハリよく取り戻すように、膨らみをむくむくと帯びていったのである。
そうして山田リョウが伸びをして大きく仰け反ったとき、その白地の縦セーターにて二点の“ポチ”が突き出るように浮き上がったとき──。
僕の理解が追いつくまえに興奮がニューロンを全力疾走した。
「あ……あふ……」
彼女は、そうあくびしながら「……ブラ、わすれた……かな」と胸元をモニュモニュして、
そんな寝起きざまの声の甘いことには、女子という存在の「凄さ」を僕は思い知らされた。エロエロすぎて僕の火災報警器がチンチンしていた。
こうなると思春期な中坊リピドーシスが燎原の炎してきたのだった。こういうわけで僕の入試の点数も燃え尽きた。もう気が気でなくて胸だったからだが、なにはともあれ、今でも僕はあの日の自分自身を殴ってやりたいとさえおもっている。
というのも山田リョウはこの入試で合格したのだ。僕は落ちました。
僕は落ちたのである。
だから、山田リョウがこうしてこの高校へと入学していたというのは、のちのち知ったことなのだ。彼女の名前が山田リョウというのも、そのときに分かった。もしも僕が同じ高校に合格していれば、こんな恩をきせるどころか仕立てあげてやったような話、さぞオイシイ具合になったはずだというのに……。
すくなくとも連絡先ぐらいは交換しとくべきだっただろうか? しかしこんなところで、このタイミングで、ノリと性欲に任せてメアドやらラインの交換などやってみろ、試験落第とかそれ以前に、人間失格である。金玉と脳味噌が入れ替わっている、煩悩を本能がわりにした猿同然──いや、まさか猿以下……ウワッーツ、僕のIQ低すぎ……!
──みたいな話になる。
なので賢い僕はこのとき、ブラをするのを忘れたと確認していた山田リョウへと(……彼女が自前のおっぱいをモミモミしているのを無視して、)僕が眠気覚ましにもってきていた酸っぱい梅のタブレット菓子をさしだしたのだった。
漢梅──この梅のお菓子は、僕の姉が酒の肴にちょうどいいだのと言って買って食い散らし、または食いかけを僕に寄越すものだった。うまいよ。
「あっ、おっ、
──そんでこの噛み噛みどもりな感じ……男子高にて純粋培養された童貞ブランドに、誤りはなかったようだ。誇りもないようなんだが? このブランドいらねぇから彼女くれ。
「……ヘンタイ?」
山田リョウは気だるげに言い返した。ヒビ割れてるカサいた唇へと、紺の髪を細々と幾本かんでいるのも構いはしない。
「なんで?」僕は自分の気遣い、そうして女子へのファーストコンタクトが難なく変態あつかいされたという、あまりのことに思考停止した。
「なんでって……、ボクの漢梅たべない、なんて」
……
彼女はそう言わんばかりに小首をかしげてみせる。
いや、「ボクのバナナ」とかだったなら、まだ
「と、とにかく目を覚ますんだ」色んな意味でな。
僕はこう言いながら、少女の荒れた唇のあいだからその口内へと、梅味タブレットを一つおしこんだ。
「……! 塩辛っくて、なんか……シソ臭いし、すっぱい。カリカリする……」
苦々しくって、なんか……
……──気のせいですね。某生徒会役員どもも屁ではない糞っぷりな、意味もなければ他意もない、他愛もない聞き間違いをかましてしまった。僕がかまされるのは女の子の屁で事足りる得るというのに。
ぷう〜。
──以上が、今さっき僕がおならをした際の、あまりにもお手本じみた高音質な放屁サウンドによって、連鎖的に思い起こされた──そんな、僕と山田リョウの出会いであった。