「ワシ、バンドやる」
そうゐってみせると、ワシのことをまるで、ゐきなり会社やめると言ゐだした夫をみるその妻のような、そんな目を、あのバカ息子の野郎、しやがつた。
「オヤジ……S○maGの
「
これだから最近の若ゐのは困る。
さて、はじまりは儂が長らく
『私は平沢進だぞ。平沢唯じゃない。』
即ゐゝねしたわゐ。フオローならもうしてた。そんで『けいおん!』や平沢唯、あとその繋がりで
コミケも行つてみたが、何だかんだみんな優しくしてくれたし、ガヤ/\ワイ/\やるのは
ただ、それからハマつた『ガルパン』のやつで、絵柄と兵器の本格描写にだまされて蛸壺屋のやつ、買つちまったのは参ったわゐ。八九式中戦車がブロオニングの十三ミリにブチヌカれるのは、よんでいて涙が出た。あれはブリキの棺桶じやつたが、それでも歩兵の友だつたんじや。しかもかわいゝ娘子たちがあゝも……。あの絵面であの展開はキツイて。リウマチ……じやなくて、トラウマになりそうだつた、アレはのう。ただ、ソレはそれとしてやることはやれたがの。ふう……。……へんに戦場帰りのお爺をナメても、腹を壊すだけじやぞ?
閑話休題じや。兎に角、平沢の旦那、われらが師匠がツイツターにそういう投稿をした……とゐうところからだつたかの?
それからも師匠は
「違うんだーーーー!!! 私はそんなんじゃない!!!」
「増えるなーー!!」
「平沢進というのは『な~に~? この音楽、きもちわるい』とか、そういう類だから。かわいくないから。」
とかなんだのと、アキバのAKB劇場にゐるようなキヤピ/\な感じの現役アイドルにも劣らずな、モエ/\キユンな萌えつぷりをみせた。ワシはそのたびに、えもいえぬ感覚──心が
それから、映画『パプリカ』をワシは見た。『妄想代理人』も。どつちで師匠の力作な名曲がきけるもんで、ノリにのつて『ベルセルク』も見たことよ。これ、推し活なり。
推し活にも愛のように、ゐろんな形があるんじや。うん/\、これも推し活じや。……じつをゐうとワシは、儂もロッキンボーイになりたくなつたんじや。だが齢も九十いくとナニゴトもきつくなる。せつかくの
でも、がまんできなかつた。ワシも師匠みたいになりとうなあ……。師匠のライブで見たんじやよ。みるも若々しゐ女子高生な娘さんが、これまた御母堂と──うらゝかな貴婦人とゐつしょになつて、師匠がほんの時たま派手にうごくと、それだけで師匠の一挙一動に黄色い悲鳴をあげる……、──そんなウラヤマな光景を。
ワシには自慢にはとても出来んが、昔とった杵柄、どゝつまりチエロの腕前がある。もつとも批評家きどりの後輩どもにやあ、「ワルツのお化け」だの「ヴィーンのワルツにあるすべての感覚的精神的美質のグロテスクな歪曲」だのと云われたもんじやが、それでもゐちおうはプロの一介なんだわ。
万一、チエロがアレ扱いされようが、そこで培った音楽の経験がある。チエロのかわりに、御茶ノ水にへと新しくギターを買いに行くのも、ありやもしれん。齢も九十になってギターとはまさに酔狂じやが、まあ暇な日がな慰めがわりに弾くのもよかろ。
かりにも男子の野望ある出征、すくなくとも無様だけは晒さんようするべし……というところかの。
──そうと決まれば善は急げ。ワシは今どきの
だが、台風がきてゐた。
とつぜんの進路変更じやつた。
其の日、ワシはとんびの
そこまではよかつたものの、シモキタの駅、そこの売店で買つたビニイル傘が、駅からホテルまでの道中のこと、ボキリとゐきおつたのだ。
「畜生!!」ワシは呻いた。
その途端に、全身にへとあびせかけられる雨、雨、雨! ワシは濡れ鼠になりながらも、インパネスの襟元を首筋に手繰り引き寄せて、そのすきまから雨玉が入らんようにした。あるいは帽子をまるごと頭に抑えつけ、山高なそいつが吹きとばされんようにした。
「雨ニモマケズ、風ニモマケズ、アメニモマケズ、カゼニモマケズ、ジョウブナカラダヲモチ、……」
そう譫言めいてつぶやきつゝ、杖をヨボ/\ついて歩みゆくワシの視界は、まさに暗雲立ちこめんばかり、濃霧じみているほど──だがその実は霧雨じみてさえ見せる、幾多幾筋もの雨の
このせゐで、まるで波打つようにうねる豪雨はます/\わしに打ちつけ、この老骨をまさに鞭うたんばかり、刻一刻とワシの体温をうばゐ、なけなしの体力を根気をも削りとつてゆく。
ワシはかじかんだ手でガラケーを取出したが、なんてこつた、オンボロめ! 雨水がつまつたか、うごきやしなゐ。
ワシはくそ、こんな女々しい死に方あるものか、そう自棄になるように地団駄ふむかわり、一歩踏みだし、二歩踏みだす。
そのときじやつた。
「すたありゐ……?」
まるで流れ星がおちてきたみたいに、そんな店の虹がかったネオンサインが、ワシの目にとびこんできたんじや。