野郎共は如何にして結束楽団信者となりし乎   作:おおおユウゴ

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あぶない 老提琴楽士(おじいさん)、襲来

 

「ワシ、バンドやる」 

 

 そうゐってみせると、ワシのことをまるで、ゐきなり会社やめると言ゐだした夫をみるその妻のような、そんな目を、あのバカ息子の野郎、しやがつた。

 

「オヤジ……S○maGのyoutube(ようつべ)みたのか? それともなんか外人さんのパフォーマンス・ムービー?」

阿呆(あほう)。『けいおん!』に決まつとるじやろう」

 

 これだから最近の若ゐのは困る。

 

 さて、はじまりは儂が長らく追つかけ(ウマノホネ)してた師匠御大の、そのツイツターのある投稿じやつた。

 

『私は平沢進だぞ。平沢唯じゃない。』

 

 即ゐゝねしたわゐ。フオローならもうしてた。そんで『けいおん!』や平沢唯、あとその繋がりで同人誌(うすひほん)も知ったんじやな。

 コミケも行つてみたが、何だかんだみんな優しくしてくれたし、ガヤ/\ワイ/\やるのは戦前(むかし)の日本人気質で善き(かな)善き哉。

 ただ、それからハマつた『ガルパン』のやつで、絵柄と兵器の本格描写にだまされて蛸壺屋のやつ、買つちまったのは参ったわゐ。八九式中戦車がブロオニングの十三ミリにブチヌカれるのは、よんでいて涙が出た。あれはブリキの棺桶じやつたが、それでも歩兵の友だつたんじや。しかもかわいゝ娘子たちがあゝも……。あの絵面であの展開はキツイて。リウマチ……じやなくて、トラウマになりそうだつた、アレはのう。ただ、ソレはそれとしてやることはやれたがの。ふう……。……へんに戦場帰りのお爺をナメても、腹を壊すだけじやぞ?

 

 閑話休題じや。兎に角、平沢の旦那、われらが師匠がツイツターにそういう投稿をした……とゐうところからだつたかの?

 それからも師匠は

「違うんだーーーー!!! 私はそんなんじゃない!!!」

「増えるなーー!!」

「平沢進というのは『な~に~? この音楽、きもちわるい』とか、そういう類だから。かわいくないから。」

 とかなんだのと、アキバのAKB劇場にゐるようなキヤピ/\な感じの現役アイドルにも劣らずな、モエ/\キユンな萌えつぷりをみせた。ワシはそのたびに、えもいえぬ感覚──心が躍動(ぴよん/\)するのを感じた。未来永劫、師匠はわしの推し(フエイブ)じゃ。

 それから、映画『パプリカ』をワシは見た。『妄想代理人』も。どつちで師匠の力作な名曲がきけるもんで、ノリにのつて『ベルセルク』も見たことよ。これ、推し活なり。

 推し活にも愛のように、ゐろんな形があるんじや。うん/\、これも推し活じや。……じつをゐうとワシは、儂もロッキンボーイになりたくなつたんじや。だが齢も九十いくとナニゴトもきつくなる。せつかくの薄秘本(うすゐほん)も十全にはゐかせきれん。 

 

 でも、がまんできなかつた。ワシも師匠みたいになりとうなあ……。師匠のライブで見たんじやよ。みるも若々しゐ女子高生な娘さんが、これまた御母堂と──うらゝかな貴婦人とゐつしょになつて、師匠がほんの時たま派手にうごくと、それだけで師匠の一挙一動に黄色い悲鳴をあげる……、──そんなウラヤマな光景を。

 

 ワシには自慢にはとても出来んが、昔とった杵柄、どゝつまりチエロの腕前がある。もつとも批評家きどりの後輩どもにやあ、「ワルツのお化け」だの「ヴィーンのワルツにあるすべての感覚的精神的美質のグロテスクな歪曲」だのと云われたもんじやが、それでもゐちおうはプロの一介なんだわ。

 

 万一、チエロがアレ扱いされようが、そこで培った音楽の経験がある。チエロのかわりに、御茶ノ水にへと新しくギターを買いに行くのも、ありやもしれん。齢も九十になってギターとはまさに酔狂じやが、まあ暇な日がな慰めがわりに弾くのもよかろ。

 

 かりにも男子の野望ある出征、すくなくとも無様だけは晒さんようするべし……というところかの。

 

 ──そうと決まれば善は急げ。ワシは今どきの若人(わこうど)がロツキンしているという場所、下北沢にア○ホテルを予約し、夏あたりはそこで余生をすごすことにしていた軽井沢からトランクひとつ、杖ひとつで旅立つた。チエロのほうは信頼できる後輩に先におくっておゐたから、へんに嵩張りはしなゐ。

 

 だが、台風がきてゐた。

 とつぜんの進路変更じやつた。

  

 其の日、ワシはとんびの二重羽織(インパネス)をはおって、東京駅から下北沢の駅まで来た。

 そこまではよかつたものの、シモキタの駅、そこの売店で買つたビニイル傘が、駅からホテルまでの道中のこと、ボキリとゐきおつたのだ。

 

「畜生!!」ワシは呻いた。

 

 その途端に、全身にへとあびせかけられる雨、雨、雨! ワシは濡れ鼠になりながらも、インパネスの襟元を首筋に手繰り引き寄せて、そのすきまから雨玉が入らんようにした。あるいは帽子をまるごと頭に抑えつけ、山高なそいつが吹きとばされんようにした。

 

「雨ニモマケズ、風ニモマケズ、アメニモマケズ、カゼニモマケズ、ジョウブナカラダヲモチ、……」

 

 そう譫言めいてつぶやきつゝ、杖をヨボ/\ついて歩みゆくワシの視界は、まさに暗雲立ちこめんばかり、濃霧じみているほど──だがその実は霧雨じみてさえ見せる、幾多幾筋もの雨の暗幕(カァテン)なのだった。ときには雨のシヤワーカーテンにくわえて、風がドウ……ツと、おも/\しく荒涼としてはまぎれ吹き散らす。

 このせゐで、まるで波打つようにうねる豪雨はます/\わしに打ちつけ、この老骨をまさに鞭うたんばかり、刻一刻とワシの体温をうばゐ、なけなしの体力を根気をも削りとつてゆく。

 ワシはかじかんだ手でガラケーを取出したが、なんてこつた、オンボロめ! 雨水がつまつたか、うごきやしなゐ。

 ワシはくそ、こんな女々しい死に方あるものか、そう自棄になるように地団駄ふむかわり、一歩踏みだし、二歩踏みだす。

 

 そのときじやつた。

 

「すたありゐ……?」

 

 まるで流れ星がおちてきたみたいに、そんな店の虹がかったネオンサインが、ワシの目にとびこんできたんじや。

 

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