ホロライブラバーズ ストレンジ・ジャーニー 作:774043
よろしくお願いします!
>冷たい風が俺の身体を揺らす。
>辺り一面の銀世界の中、ここに居るのは俺だけだ。
>ああ……いつもの夢か。無意味で面白みもない、ただ孤独を感じるだけの夢。
>何かの暗示なのかもしれないが、生憎と俺にはそんな知識はない。
>ひとりで、ただ夢の終わりを待つ。ひどく寂しく感じる夢だが、現実の俺の周りは些か煩い。
>夢の中くらい、1人で静かに物思いにふけるのもいいだろう。
「おい……聞こえ……か?お前……か?」
>何か声が聞こえるような気がするが、気のせいだろう。現に周囲にそれらしき人影も見当たらないし、その女のような声に聞き覚えもない。
>そして今日も何事もなく、意識が覚醒していく……
>控え目な目覚ましのアラーム音が、俺を現実へと呼び戻す。
>瞼をこすり、アラームを止める……5:30分か、いつも通りの時間だ。
>ベッドから身体を起こし、自室を出る。朝の早い時間だが、すでにリビングからは人の気配がする。まったく、相変わらず早起きな奴だ。
>共用スペースの洗面所で顔を洗う。この時、ちゃんとタグを確認してからタオルを取る。『忠野仁也』のタグが付いたものを使わないと、死より恐ろしいことが待っているのだから。
>鏡を見ながら寝癖を直し、身体のスイッチを入れると、そのままリビングの扉を開ける。
「あ、仁也君!おはようでござる!」
>朝から元気な声で挨拶をしてきたのは『風真いろは』だ。同じフロアの寮生で、もう1人の女の子を加えて、所謂幼馴染という間柄だ。元気で面倒見のいいやつだが、調子に乗るとポンをやらかす可愛い所もある。
仁也「おはよう、いろは。今日も早いな?」
>リビングのテーブルの上にはすでに朝食が出来上がっており、香しい匂いが鼻をくすぐる。
いろは「ほらほら、早くご飯を食べないと朝練に遅刻するでござるよ!仁也君も早く着替えてくるでござる!」
仁也「ああ、すぐに支度するよ」
>鼻が匂いに刺激され、生まれた空腹感が俺の身体を急がせる。どうせ道場で着替えるのだから、ズボンだけ履き替えて適当にブレザーを羽織るだけで済ませ、リビングに戻る。
いろは「おっ、早い……ってなんでござるかその恰好は!ズボンはダボダボ、それにブレザーの下はパジャマとか!」
仁也「どうせ寮から道場まで徒歩で5分もかからないし、学園の構内だしいいだろ」
いろは「まったく!服装の乱れは心の乱れでござるよ!」
>ぷんすか怒っているいろはを尻目に食卓に着く。今日の朝ごはんは和食らしい。
仁也「いただきます!」
いろは「仁也君!!」
仁也「悪い、ちゃんと学園に行くときは身だしなみを整えるからさ」
いろは「もう!しょうがないなぁ……どうぞ、召し上がれ」
>今日の朝食は卵焼きとウインナーに味噌汁とご飯がついている。シンプルだが朝はこれくらいがちょうどいい。
>いろははいつも持ち歩いている刀の手入れをしているようだ。侍の矜持らしいが、こんな平和な世の中で何に使うというのだろうか?
仁也「そういえば、学先輩は?」
いろは「まだ起きてきてはいないでござるな……最近寮に帰ってくるのも遅いし、生徒会で何か立て込んでいるのかな?」
>『荷狩学』、俺たちが所属している剣術部の部長にして、生徒会会長を務める上級生だ。気さくで面白い人だが、あまり真面目なタイプではない。行事等ではもっぱら副会長のときのそら先輩が諸事をこなしている。
>ただ、学園の敷地内の施設の大半は19:00には閉まるし、在学生が敷地外に出るのは校則によって禁止されている。一体何処で何をやっているのだろうか?
仁也「ここの所、朝練にも顔出してないしな……どちらにしても、俺たちが心配したって何かできるわけでもないか」
いろは「身も蓋もない言い方でござるな!まあ、学先輩はああ見えて要領はいいから、本当に困ったときは何かしら頼ってくるかぁ」
仁也「だな……さて、ごちそうさまでした!」
いろは「はいはい、それじゃ歯を磨いたら出発するでござるよ!」
>早朝の道場は独特の空気感がある。夕方の練習時と比べると静かで、厳かな雰囲気が漂っている。
いろは「ん〜!今日も道場の空気は美味しいでござるな!」
仁也「わかる気がする、気が引き締まって集中出来るしな」
>いつもと同じ様な他愛も無い話をしながら用具の準備をする。俺もそれなりには剣を使えるつもりだが、まだまだいろはの背中は遠い。
>小手と軽量の鎧を装着すると、心地よい重さが身体にかかる。普通の剣道と違って、何故かホロライブ学園の剣術部は金属製の防具を身に纏う。前に学先輩に理由を聞いたことがあるが「より実戦的な練習をする為」なんて胡乱な言葉が返ってきた。
仁也「よし、まずはウォーミングアップからだな!」
いろは「風真は日課はもう先に済ませてるから、今日は仁也君の構えや素振りを見てあげるでござる!」
仁也「よろしく頼む!早くいろはに追いつきたいんだ!」
いろは「良い気構えじゃん!でも、風真もまだまだ負けられないでござるなぁ」
>こう見えても男だ。平和な世の中だけど、もしもの時は、俺がみんなを守りたい!
>こうして、今日の朝練の時間は過ぎていった……
>朝練を終えて寮に帰ってきた頃には、時計は7:50分を指していた。
>リビングに戻ると、赤髪の女の子と青髪の女の子が取っ組み合いの喧嘩をしている姿が目に入る。
すいせい「まーたすいちゃんのプリン勝手に食べたな!あったまきた、今日という今日こそはわからせてやる!」
みこ「にぇぇぇぇぇ!すいちゃんがきちんと蓋に名前を書いてなかったのが悪いでしょ!」
すいせい「ケースの横に書いてあるの!よく見なよ!」
みこ「はぁ……?あっ……」
>赤髪で幼げな顔を赤くしたり青くしたりしているのは『さくらみこ』先輩。このフロアの寮生の中で……いや、学園の中でも1、2を争うほどのポンコ……エリートな人で、いつも俺たちを笑わせてくれる。
>青髪で端正な顔立ちに見合わず額に血管を浮かせているのは『星街すいせい』先輩。普段はクールでなんでも1人でこなす才媛で、学園内の人気も高い……のだが、みこ先輩と絡んだ時や、寮内だと意外な面をよく見せる。
仁也「今日はプリンですか。みこ先輩ももう少しよく見てから食べればいいのに……」
みこ「うぐっ、みこ的には見てたつもりなんだけど、今回は何も言い返せないにぇ」
いろは「しょうがないなぁ……すいせい先輩、風真が学校から帰ったらプリンを用意するでござるよ」
すいせい「手作りのプリン!それなら……まあいっか。いろはちゃんに免じて許してあげるよ、みこち」
みこ「あー!ずるいで!みこもいろは殿のプリン食べたい!」
いろは「みこ先輩が食べたプリンの代わりなんですから、今日は無しでござる!」
みこ「そんなぁぁぁ!」
>みこ先輩渾身のシャウトの直後、レゲエ風の髪型をした男がリビングに入ってくる。
「おはようさん、朝っぱらから喧しいな!そんなんじゃ嫁の貰い手も居なくなるぜ、ヤーマン?」
すいせい「うっわ、学くんデリカシーなさすぎ……」
いろは「学先輩の分もプリンは抜きでござるな」
みこ「みこ、学くんだけには言われたくないんですけどぉ!」
学「おいおいおい!仁也は俺の味方だよな、な?」
>学先輩がこちらを見てくるが、残念ながら答えは決まっている。
仁也「すみません、今のは俺も擁護出来ません」
学「くぅ〜、世知辛いぜ……」
>学先輩がそう言って項垂れると同時に、リビングの掛け時計が陽気な曲を流しながら8:00を告げた。
すいせい「もうこんな時間かぁ……そろそろあくたん起こさないとやばくない?」
仁也「まだ寝てるのか、あくあ……いろは、今日も頼めるか?」
いろは「相変わらずでござるな……それじゃあ、風真があくあちゃんを起こして身支度させるので、先に学園に向かってて!」
>ホロライブ学園の始業時間は9:00で、俺たちは敷地内にある寮に住んでいる。だからまだ時間の余裕があるかと思われるが、風紀委員の服装チェック等がある為、早く登校するに越したことはない。
みこ「いろは殿もいつも大変だにぇ……」
仁也「俺が代わってもいいんですが」
すいせい「なに?仁也君ってば、乙女の部屋に入り込んでナニしたいのかな?」
仁也「えぇ……?あくあ相手に?確かに可愛いとは思いますが、ペットみたいなものですよ」
>『湊あくあ』は俺といろはの共通の幼馴染で、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。人見知りな性格で、いつも俺やいろはの半歩後ろを歩いている。
>あくあの両親は忙しく、2人とも家を空けることが多かった為、大半の時間を3人であくあの家で過ごしていたのは良い思い出だ。
学「俺が行こうか?」
>ニヤニヤしながら学先輩が挙手する。
みこ「きも」
すいせい「それは無いわ……」
学「とほほ……おっと、噂をすれば起きてきたみたいだな?」
>学先輩の声に釣られてリビングの入り口を見ると、パジャマ姿のあくあが、ふらふらと歩きながら入ってきた。
あくあ「ふわぁ……みんなおはよぉ、ご飯なに?」
>あくあは可愛らしい欠伸をしながら食卓に着く。
いろは「今日は卵焼きとウィンナーにキノコのお味噌汁!今準備するから、先に着替えて来るといいでござるよ!」
あくあ「はぁい……」
>いろはの提案を素直に受け取り、あくあはノソノソと自室へ帰っていく。
すいせい「それじゃあ、すいちゃんが……」
みこ「すいちゃんはダメ!みこが行くから!」
>すいせい先輩の言葉を遮り、みこ先輩があくあを追いかけていく。
仁也「すいせい先輩って、なんかあくあの事やけに構いますよね?」
すいせい「なんて言えばいいのかな、何が気になるんだよね。それに……」
学「おっと、そういや今日の日直、すいせいじゃなかったか?」
>すいせい先輩は何か言いかけていたが、学先輩の声にハッとする。
すいせい「そうだった、あぶな!さっさと学園に行かなきゃ!」
いろは「今日も気をつけて、行ってらっしゃいでござる〜!」
>いろはの言葉に後ろ手に手を振りながら、すいせい先輩は慌ただしくリビングを出て行った。
学「さて、俺も生徒会の仕事があるから先に出るぜ。みんなまた放課後会おう!」
>学先輩も、すいせい先輩の後を追う様に登校して行った。生徒会の仕事があるならもっと早く起きたほうが良かったのでは?なんて思ったが口には出さなかった。
>それからあくあの食事が終わるまで待ち、他愛も無い話をしながら4人で登校する。まあ、10分も歩かないうちに玄関に着くのだが。
>玄関の前には、今日も風紀委員達がそれぞれ登校してくる生徒をチェックしている。今日の俺の並んでいる列の担当は……
「おはよう、仁也君!今日も不要なものは持って来てないよね?」
>目の前にいる小さい女の子は「天音かなた』先輩だ。風紀委員長で、精力的に見回りや朝の荷物検査を行っている。
仁也「おはようございます、かなた先輩。携帯ゲームくらいですよ」
かなた「はぁ?正直に言うとか度胸あんね!まあ……授業中にそれで遊ばないでよ?」
>正直に伝えると、かなた先輩は呆れた顔をしつつも見逃してくれたので、少しだけ話を続ける。
仁也「それにしても、購買セクターの人たちって仕入れのチョイスがなんでも古めのラインナップに偏ってますよね。かなた先輩の口からも、新しいゲームを仕入れて欲しいって伝えてもらえませんか?」
かなた「まあまあ、職員の人たちも頑張ってるんだからさ、大目に見てあげてよ。それに、新作ゲームをバンバン仕入れりなんかしたら、あくたんなんか部屋から出て来れなくなるでしょ?」
仁也「それは違いないですね……」
>検査ゾーンを抜けると、先に終えていた3人と合流する。
いろは「今日は少し遅かったでござるな?」
仁也「ああ、担当がかなた先輩だったから、少しゲームの話をしてたんだ。新しいゲームについてね」
あくあ「え?ついに新しいゲームでるの……!?今やってるFPS、正直飽きてたんだよね」
>あくあはとてもゲームが上手く、特に一人称視点のシューティングが大の得意だ。それの延長か、部活はサバイバルゲーム部に所属している。
みこ「ほんと!?みこも新しいゲームやりたいやりたい!」
仁也「残念だけど、今の所そういった予定は無いようです。マインクラフトなら付き合いますよ?」
みこ「マインクラフトも楽しいけどさぁ!それとこれとは別じゃん!?」
いろは「まあまあ、そんなこと言わないで!風真の今やってる建築、手伝って欲しいなぁ……みこ先輩の力を借りたいでごさるなぁ?」
みこ「いろは殿がそこまでいうなら、みこの力を貸してあげるにぇ!」
あくあ「みこちゃんって大分わかりやすい性格してるなぁ……」
>いろはが分かりやすくおだてると、みこ先輩は得意げな表情になり、ポン、と右手で自分の胸を打った。
>あれから学年の違うみこ先輩と別れ、今日も退屈な授業が始まった。俺の席は丁度塩梅の良い窓側で、季節を強く感じられる。
>穏やかな日差しが春の訪れを示す。ホロライブ学園に入学してから大分経ち、もう3月になった。
>みこ先輩の誕生日が過ぎれば、すぐに新しい学期が始まる。つまり……うん?なんだ?何か忘れているような気がする。
>しかし、俺の疑問は春の陽気とアキロゼ先生の優しげな声によって、眠気の中に溶けていった……
>気がつくと、また俺はいつもの夢の世界へとやって来ていた。
>しかし、いつもと比べるとどこか様子がおかしい。冷たい風が身体を撫でるのは同じだが、ナニかの気配を感じる。
「おい……いい加減応えろ。聞こえてるんだろう、なぁ?」
>やや低いが女の声だ……だが、周囲を見渡しても俺の他に誰の姿も見当たらない。少々不気味だが応えてやるか。
仁也「ああ、聞こえているぞ!それよりそっちは何者だ?」
「聞こえたか!そうか、聞こえているんだな!そっちの質問の前に、まずこっちからだ。おい、お前の名前は?」
>随分な言い草だ、だがこの手のタイプは自分の思い通りに会話が進まないとまともな話にならないケースが多い。なら、先に折れてやるのがいいか。
仁也「俺は忠野仁也、ホロライブ学園●年生だ」
>俺が名乗ると、謎の女の声は少し黙った後、喜びをにじませたような声色で口を開いた。
「そうか、忠野仁也、忠野仁也……覚えたぞ。これでようやく、お前と私の縁は再び繋がった!」
>縁……?俺は聞き返そうとしたが、周囲の一切が消え去り、先ほどまで感じていた気配も無くなった。
「忠野くん……忠野くん……」
>聞き慣れた、優しげな声がする。その声の方へと、意識が引っ張られていく……
「忠野くん!」
仁也「いてっ!」
>頭に軽い痛みが走る。どうやら丸めた教科書で殴られたらしい。
>俺の席の横には、笑顔のアキロゼ先生が立っていた。
>『アキ・ローゼンタール』先生。おっとり癒し系のお姉さんで、学園の教師の中で人気を二分している。
アキロゼ「うたた寝したくなる気持ちもわかりますが、あと20分、がんばってね!」
>アキロゼ先生は普段からニコニコしているが、今の笑顔には少し圧があった様に感じる。
仁也「ごめんなさい……」
アキロゼ「よろしい♪では、続きを始めますよ」
>授業を止めてしまっていたな、みんなにも悪いことをしてしまったか。
>時間は流れ、放課後になった。今日の部活はお休みらしく、今日はゆっくりできるはずだったのだが……
あくあ「仁也君、いろはちゃん!お願い、助けて〜!」
>どうやらあくあは今日までの宿題をやってくるのを忘れてしまったようで、罰としてプリントを5枚ほどやらなくてはいけなくなってしまったらしい。
いろは「まったく、ゲームをやるなら、その日やっておく事を全部こなしてからだって風真いつも言ってるよね?」
あくあ「ごめん!これっきりにするから、お願い!ね?」
仁也「仕方ないな……このまま置いて帰ると、門限まで帰って来れないだろうし、手伝ってやるか」
あくあ「ほんと!?」
>あくあの顔がぱぁっと明るくなり、俺といろはの手を取る。
いろは「でも、計算するのはあくあちゃんでござるよ?あくまでも、風真たちはヒントを教えるだけでござる!」
>あくあが全てのプリントの問題を解いた時には、既に日は落ちてしまっていた。
>決してあくあの要領が良くなかった訳ではなく、純粋に問題の量が多かったのだ。
あくあ「ふぅ〜!終わった!あてぃし、やりきったよ!」
仁也「よく頑張ったな、あくあ!」
いろは「ちゃんとやれば出来るんだから、次からはしっかりやるでござるよ?」
あくあ「は〜い」
>時計に目をやると、18:50分を指していた。
仁也「おいおい、門限ギリギリだな……まあ、間に合って良かったな」
あくあ「2人とも……今度埋め合わせするね」
いろは「それじゃあ、先生に提出したら帰るでござるよ」
>3人で職員室に寄ってから学園を出る。少し門限に触れてしまったが、今日は致し方ないだろう。
あくあ「あれ……?あそこにいるの、すいちゃんじゃない?」
>あくあの指差した先には、すいせい先輩が私服姿で寮の方向から歩いてくる姿だった。ちらちらと辺りを警戒する様に見渡しているが、こちらにはまだ気づいていないみたいだ。
仁也「確かに……学先輩ならともかく、すいせい先輩が門限を過ぎて外出するなんて、珍しいな」
>俺自身が見た訳ではないが、この時間帯からは風紀委員が巡回しており、見つかると大変な目に遭うらしい。
>すいせい先輩は割とワイルドな面はあるが、必要もなしに校則を破る様なことはしない。
いろは「なんだか様子もおかしい気がするでござる……ねぇ、ちょっといいかな?」
仁也「ああ、その先は言わなくてもわかるさ。見つからないようにしないとな」
あくあ「補習に付き合ってくれたし、あてぃしも行くよ!」
いろは「2人とも……!ありがとね。すいせい先輩の事だから大丈夫だとは思うけど、もし何か事件に巻き込まれてるなら、放っておけないでござる!」
>俺たちは姿を隠しながらすいせい先輩を追う。もし昼間だったら怪しいことこの上ないが、今はもう周囲は薄暗く、幸いな事にこの辺りにはまだ風紀委員の姿は見えない。
>すいせい先輩の歩みに迷いは無く、少なくとも散歩には見えないが、普段より少し歩調がゆっくりなように感じる。
>俺たちの間に言葉はない。どこか異様な雰囲気に呑まれたかのように沈黙し、ただひたすらに歩みを進めるだけだ。
>やがて、すいせい先輩は学園の裏手にあるゴミの集積所で足を止めた。ここは厚生委員以外は基本的に立ち寄らない場所で、大きな焼却炉や処理待ちの粗大ゴミなどが無造作に置いてある。
>俺たちは大きな冷蔵庫の影に身体を潜め、すいせい先輩の様子を伺う。
>そんな中、すいせい先輩は大きく指を鳴らした。すると、周囲の空間が歪み、その中から俺たちと歳がそう変わらない女の子が1人姿を現した。
>紫のツインテールにラフな服装をしていたが、その背中には人にあるべきではない翼と尻尾があり、俺たちの認識する悪魔と酷似している。
いろは「っ……!」
>いろはの息を呑む音が聞こえる。あくあは呆然としており、2人とも、あまりの光景に現実が飲み込めていないように見えた。俺もそうだが……
>驚く俺たちを置いて、すいせい先輩は気さくにその女の子に話しかける。
すいせい「進捗はどう?」
「お望みの通り、学園のローカルネットに拡散しておいたよ。これで上手くいけばいいんだけど」
すいせい「ありがと、トワ。お陰様でお膳立てはこれでおしまい。あとは自分の道を自分で選べる気骨がある奴らがどれだけいるか、って所かな」
>トワと呼ばれた女の子は頷くと、すいせい先輩にスマホの様なものを投げ渡す。
トワ「『●』に繋がる端末だよ。勿論、件のアプリはインストール済み。これでお互い約束を果たせたって事で!」
>何故かノイズが掛かって良く聞き取れなかった部分があったが、どうやら2人は何か約束事をしていたらしい。
トワ「それで……マナーのなってない子たちはどうするん?」
すいせい「ああ、それはね……」
>まるで最初からわかっていたかの様に、俺たちの方へと顔を向ける。
すいせい「3人とも、居るんでしょ?出て来なよ」
>バレているのならしかたないか。俺はいろはと目線を合わせ、あくあの背中を押しながらすいせい先輩たちの前に出た。
いろは「ごめんなさい!ちょうど外出するすいせい先輩の姿が見えて……」
あくあ「それで、あの……その……」
すいせい「いいよ、私を心配して来てくれたんでしょ?それより、1つ聞かせて」
>すいせい先輩は俺たちひとりひとりの目をしっかりと見据えてから、ゆっくりと口を開く。
すいせい「ホロライブ学園って、どこかおかしいと思ったことはない?」
>おかしい所か。学園にしては広大な敷地に充実した施設があるのは私立ならあり得なくはないだろう。この学園に入学して●年経つが、違和感など覚えた記憶はない。
仁也「すみませんが、そのような事はないですね」
いろは「風真も同じでこざる!楽しく勉強出来る、良い場所だとおもってます」
あくあ「あの……えっと、特には……ないかな」
>俺たちの答えに、すいせい先輩は軽く首を横に振る。
トワ「結界は弱まっているとはいえ、流石にその辺りは抜かりないってことやね」
すいせい「そうみたいだね……正直、色々話しておきたい事があるんだけど、今全てを伝えてもきっとわからないと思う。だから……」
>すいせい先輩が目線で合図を送ると、トワがこちらに降りて来た。
トワ「今から、●●の仕掛けたフィルターを外してあげる。少し刺激が強いかもしれないけど、我慢してよね」
>トワは深呼吸をすると、両手を前に突き出した。すると、強烈な眩暈が襲ってきた!
すいせい「明日、また同じ時間にここに来て。きっと、みんなも話したい事が出来るはずだよ」
>声すら出せず、身体がその場に崩れ落ちる感覚とすいせい先輩の声を最後に、俺の意識は黒く塗りつぶされていった……
インフォメーション
●ホロライブ学園
総面積東京ドーム5つ分の広大な敷地に、校舎・学生寮・購買セクター・運動セクターなどの多彩な施設を保有する大規模な全寮制の私立高校。
教育のレベルもそれなりに高いが、在校生の学園敷地外への外出の禁止や、インターネットの使用制限(学園内ネットワークのみ利用可能)など、珍しい校則が多い。