メシア・シンドローム   作:人外好

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第十四話:催遊

火蓋が切られるかの刹那、何処からかコロコロと転がってきた銀色の缶が仲裁するかのように、優禍と人形男の丁度間にピタリと止まる。

次の瞬間

ボォンッッ

 

突如として缶は爆発、刹那、辺り一面白で埋まった。

〈何これ?! 煙幕?! なんで!? 誰が!?〉

「何ナンだヨ! これ?! 」

どうやら相手もこの状況は想定外らしく、同じように混乱している。

情報過多な現状を飲み込む暇もない。反射的に校章を叩きアーマーを展開、先手必勝でとっとと終わらせる。

 

先輩からのアドバイスとしては、「精神干渉系の異能者は大概本体は弱い、能力に頼り切って肉体を鍛えないからね。そんで能力食らったヤツはある程度ダメージ打ち込めば目が覚める。」

つまり……《本体を叩けばどうにかなる!! 》

 

背の高さなどのシルエットが大きく異なるお陰で間違える心配はない。

渾身の拳を人間で言う顔面部分に叩き込む。

守レっ! 」

肉を撃つ衝撃音が路地裏に響いた。

それと同時に、私達に纏わりついていた白煙が吹き飛び、ボンヤリと浮かんでいたシルエットが一気に鮮明になる。

悲哀に満ちた顔面、山羊とも人とも見て取れる脚、複雑に捻り込まれた蔦が構成する胴体。

この世のものとは思えぬ植物が絡みついた出涸らしのような細腕が、触手の拳を受け止めていた。

 

かなり力を込めて放ったはずの拳が、両手でとはいえ止められてしまい鍔迫り合いのような状態になる。

力は均衡、ギリギリと互いに力を込めながらの睨み合い。

『目、覚まして……! 』

「…………。」

一抹の希望も虚しく、腕を力任せに振り解かれお互いに距離を取る。

こうなると取れる選択肢は二つに一つ。

一つは洗脳直海をどうにかした後で本体を叩く。

二つ目は無視して本体を叩く。

前者は無論、後者もどのみち直海とぶつかることになる。

幸いここは袋小路。

出入り口側に陣取れば逃がすことはない。

「誰だヨオ前、まア良イや、トっトとブチ殺せ。」

 

催眠野郎の命令を聞いた直海は、ヌルリとこちらに近づいてくる。

いつもの明るく快活な雰囲気はどこにもない、無機質で冷たい人形のような何かしら。

先の読めなさと普段とのギャップで気後れしてしまい、無意識に後退りしてしまう。

次の瞬間、折れそうな程細い足が私の顔目掛けて飛んできた。

奇襲に反応が遅れたが、咄嗟のガードが功を奏し大事には至らない。

だが、距離を詰めてくれたお陰で捕まえやすくなる。

腕を一気に触手に変質、放出した。

しかし、猫のような靭やか、かつ軽やかな動きで私の攻撃を避け催眠野郎の下へと戻っていく。

 

素体が運動神経抜群ということもあり、軽やか且つダンズフルな攻撃をこれでもかとぶつけてくる。

上段中段下段と流れるような足技。

体の回転を効かせムチのように撓らせた裏拳。

攻撃が連続で来たかとかと思えば、後ろに下がり距離を取るヒットアンドアウェイ。

触手を伸ばし捕縛しようと試みても、狭い空き地を三次元的に駆け回り捕まらない。

ならばと催眠野郎に向き直ると死角からの強襲。

 

私のような異能由来の馬鹿力とは異なる、素材本来の運動神経とフィジカルの暴力。

これが催眠野郎本体なら手を出すことも視野に入るが、直海はただの一般人、手を上げるなんてもってのほかだ。

なるべく傷付けず、やむを得ず手を出すことになったとしても必要最低限。

これだけは忘れてはならない。

 

その後も波状攻撃は続き、そろそろ息も上がってきた。

守りはそこそこ、攻め手は欠ける。

スタミナ勝負はこっちが不利。

しかし、防戦一方な戦いにも活路はある。

〈足技中段の次は必ずバックステップ〉と、ある程度攻撃のパターンを掴めた。

捕らえるなら次だ。

 

相も変わらぬ連続攻撃を耐え、やっとその時が来た。

中段の蹴り、その後のバックステップ。

機会は逃さない。

引きに合わせて距離を詰め、触手で絡め取る。

しっかりと体に巻き付け拘束、ビチビチと暴れるが早々簡単に抜け出せる程軟じゃない。

変な馬鹿力なり隠し玉が出てこない限り振り解かれるなんてことはないだろう。

ホッと胸を撫で下ろした瞬間、直海が口から種のような物を射出した。

種はギリギリ仮面の端に掠れ、後ろの壁に当たり跳ね返る。

最後っ屁にしては呆気ない。

そんなことよりあの催眠野郎をどうにかしなくては。

相手は直海だ、下手すると縄抜けみたいなことされかねない。

キッとヤツの方へと向き直ると、何故かクスクスと笑い声が漏れる程余裕綽々の態度。

その時、背中に悪寒が走り、第六感が危険だと信号を鳴らす。

振り返った時には手遅れだった。

次に視界に入った情報は、

()()()()()直海から回し蹴りをくらう瞬間だった。

 

ものの見事にクリーンヒット。

意識こそ刈り取られなかったが、もろに食らった影響で痛みと揺れの被害は甚大、マスクに映し出される映像もザビザビだ。

そしてその奇襲により、触手による拘束を解いてしまった。

私の前には、直海が二人。

これは不味いことになった。

 

一糸乱れぬコンビネーション。

止まらぬ連撃。

単純に攻撃回数が二倍。

反撃タイミングは半減。

一人が作る隙をもう一人がカバーする。

反撃の隙もクソもない。

ガードを固めてその場に留まるしかできない。

しかし、明らかに変わった点がある。

一人の時よりも、攻撃の威力が落ちた。

恐らくであるが、彼女の異能は《自分の体の複製を作り出す》ものだろう。

さっき吐き出した種のような物が成長し、本体の造形を形取る。

三体目、四体目を出さないのは、出すたびにパワーダウンするか、数に限りがあるかの二択に絞られる。

もしそうなら、考えていた新技を使うタイミングかもしれない。

 

一通り攻撃が止んだのか、二人が距離を取る。

ぶっつけ本番、イメージを即急に固める。

一度、触手を解除し腕に戻す。

意識を大きなものから細く、鋭利に、先に集中する。

腕から手へ、手から指へ、指から指先へ。

西部劇のガンマンの様に、ベストなタイミングを伺う。

まだ……ま……だ……

 

互いに腹の読み合い、緊張感が空間を支配する。

車の走行音、換気扇の音、呼吸。

周囲の音が聞こえなくなった頃、二人の女は同時に動いた。

 

 

 

『…………ここッ!! 』

 

糸のように細く、ワイヤーよりも頑強に。

そして反応できない程疾く!

指先から放たれた二本の触手は、正確に二人の直海の腕に絡みつき、そのまま力任せにこちらへと引き寄せる。

トドメに放った大量の触手の波は、本体、分身共々壁へと叩きつけた。

『……ごめん。』

包み込むようにして拘束したため多少クッションにはなったはずだが、相当強い衝撃が加わったのだろう。

ガックリと力なくうなだれ、分身の方は空気の抜けた風船のように、シワシワになりながら蒸発してしまった。

“なるべく傷つけない“なんてカッコつけた結果がこのザマだ。

もっと、もっと努力しなくては。

手が届かない。

 

まずは、目先のことから片付けよう。

『あとは……あんただ。』

「待テッ! 待て待テ待て待ッテクれ!! 」

ゴキブリのように這いつくばりながら仮面の異能者から距離をとる。

「頼厶よ、ほんノ出来心だっタンだ本当ダヨ! あンタモ異能者なんだカラワかるダろ?! 」

そんな言葉を気にも留めず、優禍は触手の腕を形成してゆく。

ゆっくりと、ただゆっくりと、恐怖に身を震わす男へと歩を進める。

「頼む! モうしナい、もうしナイカら! 」

言い訳は、彼女の耳には届かない。

「許し『もう 黙って。』

 

ーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

「……んー……うん? 」

「あ、おはよう直海。」

目覚めれば青空と友達、帰り道に変なやつから「スマホ落とし混したよ」って声をかけられた次にはこの状況。

よっぽど飲み込みの早い人間か、変人でなければ理解できようはずもない。

「え? 優禍? なんでいるの? てかここ何処? 」

混乱している親友に、優禍はこれまで経緯をかいつまんで話す。

直海が異能研に依頼してきたこと、異能者に操られていたこと。

そして、既の所(すんで ところ)で警察やAXEの人達が助けに来てくれて今に至るということ。

「どう? わかった? 」

「うん、全然分かんない。」

「だよね。」

「「…………プフッ。」」

気の抜けたやり取りに二人は思わず頰を緩める。

理由のわからない笑いの種が腹の底からモソモソと擽る感覚が、二人の間で共有されていた。

一頻り笑った後、プツンと電源が切れたように途端に冷静になる。

直海はポツリと呟いた。

「優禍。」

「ん? 」

「何か、体痛い。」

 

 

 

ーー星見ヶ原高校 一ノB教室ーー

ダンス部脅し事件改め直海催眠事件から二日後。

「おっはー。」

「おっはー直海。」

何時もより遅く登校してきた直海は、勢いよく私たちのグループに飛び込んでくる。

「優禍、ゴールデンウィークの初日空いてる? 」

元気ハツラツな笑顔を向けながら、こちらに話を振る。

「初日? 特に予定は入ってないけど。」

「じゃあさ、一緒に悠幻町行かない? ショッピングとかカラオケとかしてさ! 」

悠幻町というワードが直海から出たのは、ちょっと意外だった。

あんまり言いたくないが、色々とあった場所ではあるので行くのは気が引けるというか……よくわからない複雑な気分になる。

「大丈夫なの? ほら、一応色々あったとこだし……。」

「あ〜それがさ、催眠期間(そのとき)の記憶全然なくってさ。色々あったって聞いても、ピンとくるのものがないもんで……。それに、嫌な思い出はハッピーな思い出で上書きした方が断然良いっしょ! 」

不安は一瞬で杞憂に終わった。

ハッピーで上書きなんて、なんとも直海らしい。

こういったがポジティブ思考がいいところだ、笑顔がなんだか光り輝いて見える。

「良いね〜。どこ行くよ? 」

「ヒュー、ウチ食べ歩きしたい! 」 

「どう? 優禍? 一緒に行かない?! 」

「……うん! 行きたい! 」

 

「楽しみだなぁ、私、友達と一緒に買物とか食べ歩きとかしたことなかったから。」

ショッピングなんて兄貴達くらいとしか行ったことがない。

行ったとしても最寄りの服屋さんで必要な物をサッと買って、パパっと家まで直行する買物しかしたことがない。

「マジ? ウチラが最初ってこと? 」

「興奮してきたな。」

同年代の子と一緒にだなんてどういったものか想像もつかない、事前に予習しておいたほうが良いだろうか?

 

どこに寄ろうかとスマホを見せ合いながら当日の相談をワイワイしていたとき、誰かがこちらに近づいてきた。

「楽しいお喋りの途中、失礼する。」

整った顔、抜群のスタイル、片手に持ったお菓子。

初めて教室に入った時に思わず見とれてしまった美人さんが、直立不動で私の方を見つめていた。

「何? どしたん? 」

「用があるのは君だ、十上君。」

「私? 」

「ああ君だ、次の休み時間、トイレで話そう。」

「……ここじゃだめかな? 」

「できれば、人の目がないところが良い。」

「では失礼する。」と話が終わったのか、美人さんは踵を返し自分の席に座る。

「なになに〜? 直海〜、このままだったら愛しのカノジョが取られちゃうぞ〜。」

「蜜月蜜月〜。」

「茶化すなっての、にしても何の話だろ。」

「……心当たり、ないなぁ。」

 

一時間目の授業も終わり、指示通り最寄りのトイレへと足を運ぶ。

中には先の美人さんが怖い顔をしながら直立不動で待っていた。

「あのー……、話って何ですか? えーと……。」

天之宮 御懐(あめのみや みかね)、気兼ねなく“アメ“と呼んでくれ。」

「アメ……さん。改めて話って何ですか? 」

「単刀直入に聞く、あの仮面のヤツとはどういった関係だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

          ドクン

と心臓が大きく脈打ち、思わず「えっ。」と声が漏れる。

何処でバレた? いつ? なんで?

そもそもこの子はあの場に居たのか?

冷たい汗がタラリと背中を伝う。

驚き焦る心を必死に作った愛想笑いと精一杯のお惚けで覆い隠し、平然と受け答えをしていく。

「ごめんなさい、なんのことかサッパリ……。」

誤魔化しが効いたのかどうかは分からないが、彼女は一切表情を変えることなく淡々と話を続ける。

「先日、君と直海くんが悠幻町の路地裏で異能者に襲われていただろう。その時、私もその場に居たんだ。」

訳が分からない、なんで居たの? どこに居たの? 一切気が付かなかった。

私の下手な作り笑いをよそ目に、アメさんはポケットからお菓子を取り出す。

「私の異能は《想像した物をポケットから取り出せる》ことが出来る。君たちが危険だと判断して、煙幕弾を投げ込ませてもらった。」

「……あれかぁ。」

「だが、煙が晴れたら君の姿はなく、仮面を被ったタコ足の異能者が直海君と交戦していた。私は一つしかない出口の方から見ていたから、あの裏路地からでてきた人間は居ない。これは一体どうゆうことだ? 」

 

「十上君、君はあの仮面の異能者とはどういった関係なんだ? 答えてくれ。」

えぇーー……と

 

「実はね、アメさんが煙幕? を投げて、煙が周りに出たときにタコ足の異能者さんが助けてくれて……そして……その……。私も、よくわかんない、んです。」

緊張しまくってよくわからないタイミングで区切ったり、イントネーションが変になってしまった。

誰がどんな角度から見ても動揺していることが分かる。

「理解した、では次の質問だ。」

何故か、理解してくれた。

「先の件、私も一緒について行ってもいいか? 」

「……え? 」

「先程話していただろう、ゴールデンウィーク初日に悠幻町へ遊びに行くと。私も君たちと一緒に遊びに行きたいんだ、良いだろうか? 」

「えっと……とりあえず、他の三人と話さないと……かな? 」

なんとか、誤魔化せたっぽい。

多分、きっと。




※キャラクター設定※
孤牙 直海(15)
身長169cm 血液型A型
異能《宿木》
・顔面に当たる部分から二センチほどの種を飛ばす。
種は物体に触れると発芽、成長し体の一部を形取る。(例えば耳を形取れば盗聴のような運用ができたり、腕を形取れば奇襲も可能。)
ただし、種が十分に成長するには生命エネルギーが必要であり、ダメージもある程度(約三割)フィードバックする。
生物にくっついて発芽した場合、寄生した宿主の生命エネルギーを吸い取ったり、逆に与えることで傷の治りが早くなる。
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