メシア・シンドローム   作:人外好

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女の子の服が全くわからないのでネットなどで調べましたが、かなり怪しいことになっています。

そして今回から少し書き方を変えてみました。
少しでも読みやすくなっていたらなぁ、と思う限りです。
楽しんでいただけると幸いです。

人外好でした。





第十五話:悠愛

ゴールデンウィーク、それは若人たちが浮足立つ魔法の一週間。

旅行に休暇、帰省とどんなことをするにもピッタリの祝日のバーゲンセール、特に学生にとっては夏季・冬季休みに続く三大休みの一つである。

そんなゴールデンウィークの初日、特にこの世の春を謳歌する高校生たちが羽目を外すのは極々自然なことである。

 

◯はっすー「向かってまーす」

 

◯ツルギ「同じく」

 

◯アメ「早く来すぎた」

「待ち合わせの場所にいるから来たら声をかけてくれ」

 

◯ナオミ「了解」

 

既読₄「こっちも今電車」◯

 

 

『「すぐ向かいます」……っと。』

 

今、私は電車には乗らず、風に乗っている。

電車賃の節約と異能のトレーニングということで今日も今日とて町を跳ぶ。

毎日の使用で力の抜き方とか目測の精確さとか、継続は力なりとはこのこと。

今じゃメッセージを送りながら移動できるようにまでコツを掴めた。

何回かスマホを落としそうになったけど。

そんなこんなで建物に触手を伸ばし、ビルを駆けながら四月終わりの若葉を擽る風を切る。

 

意気揚々と待ち合わせ場所に向かっていると、耳を劈く叫び声と崩落音をマスクの集音器が感知する。

異能者だ。

六本の腕を振り回しながらビルを突き破って出てきたのはアカエイと人間を混ぜたような巨人。

 

       どケぇ!! 」

 

爽やか、それでいて軽やかな空気をぶち壊しながら出現したその巨人は、周囲の車やガードレールをなぎ倒しながら爆進する。

 

既読₃「ちょっと遅れるかも」◯

既読₃「一旦抜ける ごめん」

 

◯アメ「わかった」

「焦らず来てくれ」

 

 

金っヘヘァエ、金っ! 金っ!! 」

 

背には大量の札束の詰め込まれた鞄、強盗だ。

誰がどう見ても正気じゃない。

 

AXEはまだか! 

 

「パパー! ママー! 」

 

危険です!! 逃げてください!! 

 

怒号、悲鳴、子どもの泣き声。

賑わっていたストリートは一瞬で阿鼻叫喚。

そこらに転がっている車を玩具のように投げつける。

建物や他の車に衝突し、その中の投げ飛ばされた一台の車が道行く姉弟を襲う。

庇うように姉が弟に覆いかぶさった。

耳に入るのは破壊音、しかし痛みや衝撃は感じない。

恐る恐る目を開けると、そこには異能者がいた。

黒色の装甲を身に纏った異能者が。

 

『ここにいてね、ダイジョーブ! 私が――――――――

ドゴォォン 

 

その姉弟は何が起きたか理解できなかった。

楽しい休日、突如として破られる平穏。

命の危険、そこに現れる新手の異能者。

その人? が新たに飛んできた車に吹き飛ばされた。

理解の許容範囲(キャパ)を超えたその二人は、数年ぶりに互いの体を抱きとめた。

 

ハァフッ! ハヒハァッへ!! コレがアれば、コレガアレバッ!!

 

半ば半狂乱でビルをよじ登る姿はまさにモンスター。

目的は最早誰にも理解るまい。

 

「……死ぬかと思った……。」

 

車の下からノソノソと這い出し顔を出す。

体の痛み、クラクラする脳の揺れ、自身の身体の不調を無視して巨人を視界に捉える。

時間もない。

とっとと捕まえて集合場所へと向かわねば。

 

背負っているリュックサックから取り出したは飲料水。

それを手足にぶっかける。

滴り落ちる一滴ですらスポンジのように吸収し、触手はどんどん膨張していく。

いつもより太く靭やかに、水を吸ってべらぼうに膨らんだ触手を編み込み形成した豪脚。

 

「水分チャージ完了! 」

 

深く屈み込みジャンプの力を溜める。

 

「三……二……一ッ!! 」

 

思い切り跳び出し、ひとっ飛びで巨人の下、いや上へとぶっ飛ぶ。

その勢いのまま巨人の腕に触手を絡め、体をきりもみ回転。

 

オオォ?! オウオォォオ?! 

 

力任せに一本釣り、空中に放り投げる。

空中なら体格差も関係ない。

改めて触手で拘束、こちらに引き寄せる。

 

オゥグラァアアアァア!! 

 

暴れるエイの顔面に叩き込まれたドロップキック。

意識を遠い世界へと誘うには十分すぎる一撃。

白目を剥きながら巨人は自由落下。

地面に叩きつけられる前に触手でキャッチ、登っていたビルに着地。

意識をなくした巨人は普通の人間サイズにまで萎み、力無く項垂れている。

リュックから拘束具を取り出し装着、奪われたお金を近くに置いておく。

諸々指差し確認、全部完了。

パトカーや消防車のサイレンが聞こえてきたので、バレないようにビルを後にする。

 

急いで目的の集合場所へ向かっていると、一通の音声通話がマスクの画面上に表示される。

 

『もしもし。』

 

『やあやあやあ如何かな、優禍くん? ニュータイプの強化装甲の使い心地は。』

 

『前の物と殆ど変わらなくて使いやすいですよ。ただ一回全部服を脱がないと駄目なのはまだなれないですね……。』

 

『小型化、軽量化した故の弊害だね。まだ試作品(プロトタイプ)だから改良案を考えなくては。』

 

この間のスリ未遂の件もあり、学校がある日はまだしも校章単体を持ち歩きながら外出するのは紛失の可能性もある。

それで盗られる危険性もない、かつ持っていて不自然でないものとしてリストバンドタイプのものを作ってもらったのだ。

不満点はさっきの通り、身体にピッタリくっついてスーツが展開されるため、一回一回服を脱がないといけないこと。

あとは時間制限付きで、五分を超える活動はできないこと。

それ以外は前の物と同じなので、

 

『あくまでスペアとして使ってくれたまえ。』

 

とのこと。

 

適当な物陰に身を潜め、リュックに突っ込んだ今日の服を引っ張り出す。

急いで袖を通したあと、スーツとマスクをリストバンドの形状に戻す。

髪色と同じ黒に緑のラインが入った、日常使いもできるようなシンプルなもの。

スマホの時計を確認するとあと四分で九時。

待ち合わせの時間までもう時間がない。

六本腕の異能者との戦いで時間を食いすぎた。

急いで待ち合わせの場所までダッシュする。

 

―――悠幻町 ―――

「よーす優禍。」

 

「みんなお待たせ、遅れちゃってごめんね。」

 

「ギリギリ間に合ったしOKOK、てかウチらが早く来すぎただけだし。」

 

「そうだ、私なんて楽しみすぎて三十分前にはここに来てしまっていた。だから気にすることはない。」

 

「てゆうか……優禍の服って、ボーイッシュってやつ? 」

 

先に来ていた四人からジロジロと好奇の目に見られる。

兄貴のスカジャンに、兄さんのジーパンを改造したショートパンツとサイズの合わなくなった軍用ブーツ。

お兄ちゃんのTシャツとキャップと、下着以外は兄弟のお下がりだけで完成したコーデ。

 

「……変かな? 」

 

「いや全然。」

 

「そうそう、優禍ダウナーって感じだから似合ってるよ。」

 

「ダウナー? よくわかんないけど、そっかぁ、兄さん達に感謝しなくちゃ。」

 

「兄さん達? 」

 

「……一応確認だけど、まさかその服……。」

 

「うん、兄貴達のお下がり。」

 

うちはあんまりお金がないもんだから、新しい服を買うなんてことは滅多にない。

兄貴が着たものを兄さんが、次にお兄ちゃんが、そして最後に私がお下がりしていくというのが我が家の伝統行事である。

そもそも私自身、服自体に興味が湧かないから、生まれてこの方兄貴達のお下がりを改造したものか、最寄りの服屋さんで買ったシンプルなTシャツとズボンぐらいしか持っていない。

当然、みんなみたいにスタイルが良い訳でもなければ顔が可愛いわけでもないので、お洒落をしようという気が起きないのだ。

直海達は「うーん。」とちょっと怪訝な顔をしたあと、何かを決めたように、

 

「よっしゃ優禍、今日は新しい服買おう! 」

 

と提案してきた。

 

「えっ? 今日あんまり持ってないよお小遣い。」

 

「ダイジョーブ! 安くて可愛いの知ってるし! 」

 

「お下がりが悪い訳では無いが、新しい服を着てみるというのも良いものだ。コレを機にチャレンジしてみてはどうだ? 」

 

「着せ替え人形じゃオラァ。」

 

「と、言う事で〜? 」

  

「「「レッツゴー!! 」」」

「ゴー。」

 

「お、オー。」

 

 

そんなこんなで始まった初めての女子会。

まずは服を見るということで、近くの大型ショッピングモールへ向かう。

「ここオススメ。」とよりどりみどりの服屋さんの中からピックアップされたものへと入る。

どの年代でも合うような服を幅広く揃えているブランドで、機能性とデザインを両立、尚且つ手がとどきやすい値段。

特に、学生にとって夢のような洋服店だ。

普段目に入ることもないオシャレな服を着せられたマネキンや、キレイな定員さんに「おぉ……。」と自然に声が漏れてしまった。

どこから手を付けていいか分からず、取り敢えず一番近くのコーナーへおずおずと進むと「そっちの棚、男の人のパンツとかだよ。」と静止された。

恥ずかしい。

 

名前の長い変なズボンを見ていると、急に手をつるぎに引かれ「こっちこっち」と半ば強引に試着室に押し込まれる。

数分後、私は本当に着せ替え人形になっていた。

制服以外で履くことがないスカート。

舌を噛みそうな名前の上着。

多分不良品のお腹が出てるTシャツ。

スカートみたいなズボン。

ギャルっぽい露出の多いものからシンプルなものまで、代わる代わる着せられていくうちに、段々気分が乗ってきてしまい、ちょっと楽しんでしまった。

 

流石に選んでくれた物を全部買うわけには行かないので、厳正な吟味の結果、白のワンピースとダークグリーンのセットアップ? それとキャップを購入した。

なるべく無難な物を選んだつもり、夏はこれを着て遊びに行けたら良いな。

結構値段が張るかと思っていたが流石オススメのお店、想定の何倍も出費を抑えることができた。

今度、兄貴達にも見せてあげよう。

 

「すっごい楽しかった! 選んでくれてありがとう。」

 

「気に入ってもらって何より。」

 

「いやー、自分の選んだ服を着てくれるって良いね〜。グッて来るというかなんというか。」

 

「あぁ、こっちも見ていて楽しかったぞ。」

 

「よっしゃ、そんじゃ次のとこ行こ。」

 

「次? 終わりじゃないの? 」

 

「え、はしごしないの? 」

 

「そーそー、一つだけじゃつまんないでしょ? そんじゃ次のお店ヘゴー! 」

 

「えぇ……。」

 

その後も他の服屋さんや小物店、下着屋さんといったショッピングモール内のお店を転々としたが、大半はウィンドウショッピングで終わった。

楽しい買い物も一通り楽しんだ後、時間を確認すると十二時半。

お昼時だ。

お腹もご飯が欲しいとブザーを鳴らす。

ということで、フードコートでお腹を満たすことにした。

たこ焼きやラーメンなどの、各自食べたいものを買って同じ席でシェアしていく。

学校のこと、部活のこと、前に見た面白い動画のことなどついついお喋りに夢中になり、ご飯を食べる手が止まってしまう。

ふと、気になっていたことを聞いてみた。

 

「そういえば、アメさんって「できれば“アメちゃん“と呼んでほしい。」

 

「……アメちゃんは、どうして私に声をかけたの? 」

 

天之宮さんは学校で誰ともつるむことは無い。

一匹狼や高嶺の花といった孤高の美学を纏いながら、凛とした態度で淡々とポケットから取り出したお菓子を食べている。

前に一度、クラスの男子が話しかけていたが、そのオーラに気圧されて返答を聞く前にサッサと何処かへ行ってしまった事があった。

それが何故私に話しかけたのか、何故直海催眠事件の現場にいたのか。

 

「私は、君と友達になりたかったんだ。」

 

思った以上に可愛い理由だった。

 

「私は、友達の作り方が分からない、そのせいで小学校も中学校も友達ができなかったんだ。」

 

思ったよりも深刻だった。

 

「高校では一人くらい作れるものかと楽しみにしていたんだが、誰も話しかけてくれないんだ。やっと話しかけてくれたと思ったら、答える前にどこかに行ってしまったんだ……。」

 

「「「「…………。」」」」

 

「また友達ができないのかと落ち込んでいたら、君達の話し声が聞こえてきて、気になって部室までついて行ってしまったんだ。そして、部室の外でずっと聞いていた。」

 

「待ってそんなことしてたの? 」

 

「なになに? 何の話? 」

 

「当日もこっそりついて行って、一部始終を見させてもらった。」

 

「……あの煙幕。」

 

「あぁ、何やら良からぬ雰囲気だったので投げ込んだ。自分のできる限り精一杯助力したつもりだ。」

 

「……今後ああいったことはやめといたほうが良いよ。」

 

「わかった、やめる。」

 

「なんかよくわかんないけど、解決したんなら良いや。あ、つるぎラーメン一口ちょーだい。」

 

「おいよ。」

 

料理、完食。

 

「美味しかった〜。」

 

「全て当たりだったな。次はローストビーフ丼というのも食べてみたい。」

 

「ごめん、ちょっとトイレ行って良い? 」

 

「良いよー行ってらー。」

 

「荷物見てるからゆっくりねー。」

 

用を済ませ、ふと鏡を見る。

なんてことない、いつもの私の顔。

けれどなんだか、少し険しくなった気がする。

トイレから戻る道中、前を歩いていた人がハンカチをポトリと落とした。

鳥と花の小さな刺繍が入った白色のハンカチ。

ほんの少し湿り気があるキレイなハンカチは、どこか懐かしい匂いがする。

何処か引っかかる点もありながら、落とした人に声を掛けた。

 

「すみません、ハンカチ落としましたよ。」

 

「あぁすみません、ありがとうございます。」

 

私と同じくらいの背格好、薄い桜色の髪に引き込まれそうな虹色の大ぶりな瞳。

大きく着崩した学生服に紫色のコートで強調されたおっぱいは女である私でも思わず目が奪われる。

その子はハンカチを受け取ろうと手を伸ばすが、途中で止まってしまった。

何かを大きな情報を咀嚼し飲み込もうとしているかのように、私の顔をジッと見ている。

 

「……どうかしましたか? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……優禍? 」

 

「え?」

 

「優禍〜〜ッ!! 」

 

次に気がついた時、私は

 

その女の子から熱烈な抱擁を受けていた。

 

 

 

 

 




※キャラクター設定※
蓮摘 秋穂(はすづみ あきほ)誕生日・十月五日
卓球部所属(幽霊部員)
非異能者

剣縁 真歩(けんぶち まほ)誕生日・五月十八日
茶道部所属
非異能者

天之宮 御懐(あめのみや みかね)誕生日・七月七日
異能:[衣嚢召喚]
着ている服に備え付けられているポケットよりも小さい非生物を〈この世界〉の何処からか取り出すことができる。
写真や現物を目視、記憶し明確なイメージを持たなければ、取り出すことができない。
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