メシア・シンドローム   作:人外好

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〜あらすじ〜
目を覚ました優禍は以前遭遇したスリの少女に介抱される。
少女の異能によって生成された空間にて、英気を養った優禍だったが突然驚きの情報が飛び込んでくる。
同じようなアーマーを装備した小嶋 千遥改めプロミネンスによる異能者達へのメッセージ。
異能者が暴れ出す悠幻町を往きながら、優禍は止められなかった熱の異能者と対峙した。


第二十一話:熾熱 前編

『お久しぶりです、覚えてますか? 私のこと』

『……えぇ待ってたよ、ヒーロー……! 』

再三の出会い。

感動的な顔合わせとなるわけもなく、空気のピリピリとした刺激が肌に突き刺さる。

『さっきの映像も、この状況も……全部貴方が。』

『えぇそうです。さっきの映像、見ていただいたんですね。嬉しいなぁ。』

困惑する優禍、それとは真逆に子供が親に自慢するかのように、自分のした行いと、先ほどの映像について語り始める。

『私の心の丈を全部吐き出してみたんですよ、そっちのほうが皆に伝わりやすいかなって。理不尽を受け続ける毎日は今日でやめ、これからは異能者が世界の中心になるんです。悠幻町(これは)そのスタートラインを切った証。』

『……。』

『これも全て貴方のおかげです、貴方がいたから私はこの世に希望を見出すことができたんだ。』

自分のしたことを褒めてくれと言わんばかりに両手を広げ、ほんの数日前にできた憧れに対してにこやかに笑いかける。

『……ごめんなさい。』

『……は? 』

『凄いね。』や『頑張ったね。』といった労いの言葉ではなくまさかの謝罪。

頭の中で考えていたどの返答とも異なるもの。

想定外の言葉に、今を認識することを一時的に放棄していた。

『私が無責任に能力を使って、変な期待をさせて……本当にごめんなさい。』

その言葉と同時に、自分の憧れの存在が深々と頭を下げる。

その姿は、既にパニックになりかけていた熱の異能者をますます混乱させた

『……待ってよ。』

『けれど勘違いさせてしまったことは事実。だから私は、貴方を止めなきゃいけない義務がある。貴方を止めて、やり直させなきゃいけない。』

『だめだよ。』

『大丈夫。なんて言えないけど、私も一緒に手伝います。お仕事とか家だとか、あと……えっと、色々。』

必死に身振り手振りをしながら『だからこんなことやめよう。』と懇願する。

それを彼女が受け入れるのは、少しばかり心に傷を負いすぎた。

『……なんでだよ。』

『え? 』

『なんで私を認めてくれないんだよ!! 』

『貴方みたいなヒーローになったんだ! 私は! 私はできたんだ! なのになんで?! なんで素直に褒めてくれないんだ!! 』

誰一人でさえ認めてくれなかった、誰一人でさえ必要だと行ってくれなかった人生そのものがトラウマとなっていた小嶋 千遥は、やっと褒めてくれると思い込んでいた。

自分の憧れた人が自分を認めてくれると本気で信じ込んでいた。

『落ち着いてください! それにヒーローって……私はそんなんじゃ……。』

『証明してやる! 皆に! 貴方に証明してやる! 私もヒーローになれるってこと!! 』

人間的理性は昇華され、グツグツと煮えたぎる異能者の衝動が支配する頭蓋の中の指令器官。

彼女の憤りに呼応し、景色の揺らぎがより一層強くなる。

これでは冷静に話し合いうことなんてことは夢のまた夢、全身の水が沸騰するのがオチである。。

謝罪と話し合いが失敗と分かると、迷うことなく優禍はビルから身を投げた。

呆気にとられるプロミネンスを尻目に、落下の勢いを殺さず建物から建物へと触手を伸ばし距離を取る。

『……逃がすかよ。』

生来の要領の悪さと環境による自己肯定感の欠如、二つの要因により小嶋千遥は物事において半人前以下の成果しか生み出さなかった。

勉強、運動、仕事、人間関係、全てに《クズ》の烙印を押されていた。

ただ一つ、異能を除いては。

人が歩行するように、人がまばたきをするように、何かプロセスを考える過程を放棄し、熱を放出。

自分がプロミネンスとして生まれ直されたあの時と同じ、ゆっくりと空中への一歩を踏み出した。

ほんの少しの静寂、そして無重力。

それを吹き飛ばす、破裂音とともに急加速。

あらゆる体の部位からジェットのように熱を放出し、跳び回る蛸の異能者を背中を捕らえる。

後ろから迫りくる灼熱の権化を確認しつつ、人の居ないルートを検索し跳び続ける優禍。

真後ろに立つ死と緊張は、彼女の集中力を爆発させ命懸けのチェイスをギリギリ達成できるものへと押し上げていた。

脳をオーバートップギアで酷使する中、思考は、たった一つの言葉を繰り返しがなり立てていた。

ただ『助ける』と。

 

優禍の異能は、体内中の水分によってポテンシャルが大きく変化する。

水分が多ければ、触手はより太くなり強靭かつしなやかに、逆に水分を失えばしなやかを失い、自在に動かすことすら難しくなる。

それに加え、水分を失った状態で受けた外傷は通常時と比べて修復力が著しく下がってしまう。

そのような特徴を持つうえで、熱によって有無を言わせず水分を蒸発させるプロミネンスとは、最悪の相性であった。

戦いが長引けば長引くほど攻撃を受けるリスクが増え、ジリ貧となるのは火を見るよりも明らか。

そして今、優禍は戦いを長引かせるどころか敵前逃亡を率先して行い、攻撃を避け続けるという自らを追い込む行動を続けている。

しかし、無策で窮地に飛び込むほど優禍も阿呆ではない。

少女の作り出した空間から出る直前、優禍はとある頼み事をしていた。

『水がほしいんだ、ありったけの水。あとさっきの映像の人なんだけど、何かわからないことないかな? 特に異能力の詳細とかを。』

「水は一応二リットルが四本あるけど……二本は空だし一本は飲みかけだけどいい? 」

「もちろん大丈夫、途中で補充する。それで異能の方は? 」

「異能はわかんないなぁ、あぁでもドカーンって爆発する前ちょっと寒くなって、その後また暴れたてたから……多分だけど熱を出したり吸収したりするんじゃない? 」

「当てずっぽうだから間違っているかも。」と念を押されつつも、優禍はその情報を元に作戦を立てる。

『吸収……外から熱を貰ってくるなら、無尽蔵じゃないはず……ならあれが使えるかも? 』

水入りペットボトルを詰め込んだリュックサックを背負いながら、作戦をブツブツと独り言で自分自身と相談する。

情報も乏しい今の状況で直接見た、感じたという情報は非常に貴重である。

『よし。』と呟き、少女に再び感謝を伝え熱の異能者の元へと向かった。

 

優禍の作戦とは《相手の保有する熱を全て出し切るまで、逃げ続ける》というものである。

大前提として、対話での解決であるプランAがご破産となった際のプランB。

作戦とも言えぬゴリ押しの根比べであるが、勝機は見いだした。

いくら特殊な身体を持ち合わせようとも所詮は生物、異能にはその他の身体機能と同じく限界が存在する。

過去に部室にて見せてもらった異能犯罪が纏められたファイルにて、限界まで異能を使用させ疲労困憊になったところを確保するというケースがいくつかみたことを思い出し、優禍は《相手を傷つけず捕まえることができる方法》と記憶、そのまま真似る形でこの作戦を実行した。

この作戦の肝は《相手が自分に一番興味を向いていること》その一点である。

万が一自分以上に興味があるものがあれば、そちらに向かい異能を使用したり、人質を取られる可能性がある。

付かず離れずを維持しながら、自分を囮にした自滅覚悟の作戦。

そんな根比べしようとはつゆ知らず、逃げ続ける優禍に痺れを切らしたプロミネンスは攻撃を開始する。

『ヒーローでしょお!? 私を見てよ! 逃げないでよぉ! 』

『私を! 見て!! 』

以前までの雑多で広範囲を熱を染める攻撃とは異なり、出る場所や方向を絞り、凝縮した熱を少数箇所からの放出。

放たれた熱線は豆腐のように軽くビルを焼き切り破壊する。

触れたら一発アウトの熱線にさらに細心の注意を払い、熱線の網の隙間を縫うように逃げ続ける。

『ちょこまかと! 』

全指解放、やたらめったらにレーザーを撃ち続け、攻撃はさらに苛烈となる。。

優禍の思惑通り熱を消費し続けるプロミネンスを尻目に、上下左右、路地裏と使えるルートは何でも使い、熱線を避けまわる。

長期戦ならとことん付き合う、そのための水。

逃げ続けて幾らか経ち、互いの表情に緊張と焦りが滲み出る。

ある大通りに出た時、全力で手足の触手を動かし続ける優禍の耳に、微かな声が届く。

爆発音と悲鳴の混じった狂乱にかき消されそうになっている「助けて」という声。

暴れまわる異能者達から必死に子供を庇い、安全なところはどこかと逃げ惑う親子。

田中からスーツを受け取った時(あの日)から意識的に拾うようになった助けを求める声。

すぐさま向かい、喧嘩、迷子、老人の手伝い、どんな小さなことでも首を突っ込み助けるように自分の体と思考を調教していた。

日頃から体に染みついた行動は、非常事態でも()()()稼働した。

助けなくては。

そのスイッチの変換、最優先事項の引き換えにより、ほんの少し集中が途切れた。

次に脳が受信した情報は、一本の熱線が触手を焼き貫いた痛みであった。

 

痛み止めで有耶無耶にできる範疇(はんちゅう)を超えた攻撃に、優禍はバランスと推進力を失い地面に叩きつけられる。

『……ッガハッ……! 』

全身を隈無く突き抜ける衝撃。

横隔膜は押し上げられ呼吸はできず、脳が揺れて意識は朦朧。

落下の衝撃によりトドメを刺されたアーマーは大きな亀裂が入り、マスクに至っては半壊し制御装置としての意味を成さず、左上半分が露出している。

誰がどう見ても瀕死の状態で、さらに追い打ちをかけるようにプロミネンスが隣へ降り立つ。

頼みの綱である水入りリュックサックは手の届かない距離にまで吹き飛んでいた。

這いずって逃げる気力もなく、ただ寝そべる優禍を仰向けにしたプロミネンスは物悲しさを混じらせた眼差しを向ける。

『……こうして見ると、結構小さかったんですね。』

『ヒュー……ヒュー……。』

『もっと大きかったはずなんだけどなぁ。』

薄っすらと何かが聞こえる、ただ消えかける意識を繋ぎ止め、ただ浅い呼吸を繰り返す。

そんな状態をわかった上で、プロミネンスはくるりと周囲を見回しながら、恍惚とした表情で語り始める。

『見てくださいよ、この景色を。』

理性を失い暴れる異能者、逃げ惑う人間、あまりの事態に手に負えず、応援を呼ぶAXE、黒煙が立ち上る阿鼻叫喚の悠幻町。

その喧騒と狂乱の中心にて、一人は生死を彷徨い、もう一人は感動と達成感に打ち震えていた。

『家族の中でも、社会の中でも邪魔者だった私が、他の異能者(ひと)を動かせるくらいにまでに成ることが出来た。貴方に出会ったあの日からここまでになるなんて思ってもいませんでしたよ。』

なんのリアクションも起こさない優禍を見て、棺桶の中の家族を見るような顔つきで、残念さを言葉へと混じらせる。

『ほんの一瞬の間だったけど、ほんの少ししか関わりないけど、私は貴方に希望を見出した。自分もこの世を良くできる力があるんだって思うことができた。』

その真っ赤な記憶が、死ぬ直前まで見続けた激しく揺らめくその流動が、苦しみ続けたその全てが眼前にフラッシュバックする。

頭に響くは助けを求める若人の声。

『あの火事が。』

暑い

『あの貴方との出会いが。』

熱い!

『あの反吐が出る生活が、今この瞬間に繋がっている。』

アツい!!

体が熱を求め続けている。

怒りを、憎しみを、妬みを、憤りを、異能者が受けてきた全てを清算せよと心が叫び声を上げている。

感情の高ぶりに呼応するように周囲から爆発音が響き渡り、一通り自分の気持ちを吐露した一人の異能者は、全てをかなぐり捨てただ純真な眼差しで優禍を見つめる。

『生きてて辛いこの世界を、私が変えてやる。』

『私が、あの時貴方に希望を見いだしたように。』

『……。』

『私が、異能者(みんな)のヒーローになってやる。』

『……それじゃあ。』

『……え? 』

 

『それじゃ……立場が変わるだけだ……。』

『……なに? 』

今まで黙りこくっていた瀕死の異能者が言葉を出し、思わずプロミネンスは困惑する。

『加害者と被害者が入れ替わるだけ……何も変わってない……! ただ何も知らない、関係のない人達が涙を流すだけだ……! 』

一言一言出すたびに胸に走る激痛を耐えながら絞り出される言葉。

呼吸もままならず、脳への補給もされぬまま必死に己の率直な言葉を紡ぎ出す。

『貴方が一番わかるはずでしょう? 自分も同じ目に遭ったんだから……理不尽なことで、苦しまなきゃならない辛さが! 』

全身の拒絶反応を無視しながら四肢を無理矢理動かし、優禍は立ち上がる。

ガクガクと体を震わせながらも、口から血反吐と垂れ流そうとも、その鬼気迫る態度と眼に気圧(けお)され、思わずプロミネンスも距離を取る。

『それにこれ以上、貴方を加害者にはさせたくない……! 』

『……本当に凄いよ、本当に。』

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