メシア・シンドローム   作:人外好

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第二十七話:他人様の容姿

「ねぇ、お昼空いてる? 」

策を有するよりも先に出た言葉だった、誘う時の顔にしては強張りすぎていた。

無理矢理にでも話し合いの場を作らなければ、この後ものらりくらりと躱され先送りになりかねない。

相手方が化けているとすれば尚更。

なるべく自然な理由で話し合い、その機会を作った後は出たとこ勝負。

少し間に合いた返答は。

「ごめん、僕、人と一緒にご飯食べるの苦手なんだ。」

「じゃあまた別のタイミングで――。」

「ごめん、また時間が合えばこっちから話すから。誘ってくれたのに本当にごめんなさい。」

咄嗟に出た苦し紛れの代替案もあいにく撃沈、体よく断られてしまった。

他に用もなければと自分の席に戻ろうとする生成を呼び止めようとするが、少女の引き出しの中には都合の良い言葉を収納していない。

打つ手のなくなった優禍は、否応なしに自分の席に戻るしかなかった。

その後の活動は停滞の一言で済まされる。

休済者も強盗犯(どちらのドッペル)も動きはなく、鍵を握る生成も音沙汰はない。

彼はドッペルといつ、どのように関わりを持ったのか、嘘をついてまで遠ざけようとする理由は、色々な憶測がちらつき日課のパトロールにも無駄な力が入る。

過ぎる一日一日が口惜しく感じていた時、優禍の携帯に一報が入る、《尻尾が掴めた》と。

そして日は落ち時は過ぎ、月は煌々と昇りきった頃。

同じ時、同じ場所、同じ格好にて、ミラーハウスの擬人化と不審者のお手本のような男が再び逢瀬を重ねた。

「お久しブりデすネ。てッキり風邪デもヒかれタノカと。」

「ちょっと……ゴタゴタがありまして、すみません。」

「イエイえ、そチらも色々トゴざいマしョう。今回も同じ内容デよロシいでしょウか? 」

男は頷き、全てはあの日と同じ結果を得る。

それを許さぬように、人を食ったような男の声が響く。

「夜分遅くにたーいへん失礼するぜご両人、今お暇? 」

暗闇に紛れて浮かぶ狐面、数少ない遊具を占領する謎の生物。

異様以外の何物でもない二人組の登場に、思わずミラーハウスはたじろぎ、フードの男は臨戦態勢。

握る拳と取られた構えは、単なる虚勢か、武力行使を辞さないという表れか。

「俺等が興味あるのはそっちの異能者さんなのよ。穏便に行こうぜ、こうゆうのはクールにいくもんだろ? 」

『きっ……みも、その拳を下ろしてほしい。お願いだから。』

「……。」

返答は無言。

「後輩くんは俺がやっとくよ、男だからこそ腹割って話せるもんもあるだろうし。ドッペルっぽいのは頼んでいい? 」

『了解しました。』

「OK、じゃあよろしく。」

ピリつく空気に耐えきれず逃げ出した異能者、それを守るように立ちはだかる黒フード。

言葉は必要なくなった。

 

逃がすまいと飛び出した触手は、逃走者を追って闇へと消えた。

「……さてと、少しは話し合いする気になった? 後輩くん。」

「……。」

「飲み物でも飲む? お茶? 炭酸系? 夜だけどコーヒーとか――。」

言い切るよりも早く、返答は拳で返された。

「っぶねぇな! せっかく奢ろっかなって思ったのに! 」

《交換》するよりも早く打たれた一発は頬を掠め、完全に油断しきっていた尾多はそのまま後転。

半ば捨て台詞的なものを吐きながら叱責する。

「OK肉体言語がお好みね、付き合ってあげるわ。」

 

拳を交えて数分、尾多は理解し始めた。

これは、当てる気のない攻擊であると。

流れるように放たれる空手の技の数々。

しかし、その大半は空を切り、当たったとしても受け流せる。

それに加えどうぞ、避けてくださいと言わんばかりの大きい予備動作。

言わば外れる前提で打たれる攻擊。

「後輩くん結構動けんのね、そういう習い事してた事ある? 」

「……。」

「さっきのやつ、いつから利用してる? 」

「……。」

「なんか喋って貰えないとこっちはわかんないよ。それとも察して!! ってタイプ? 」

「……秘密は、誰にもバラされたくないから秘密なんです。」

「どったのいきなり。」

「それを無理矢理暴こうとすると反発することぐらい……先輩なら理解してくれますよね? 」

表情は隠され、読み取ることは難しい。

しかし、覗き見える目は、交わす言葉には、譲れぬものが秘められていた。

「悪いけど、そういうの聞くと余計好奇心湧いてきちゃうタイプなのよ、俺。」

喧嘩上等と啖呵を切り、今一度構えを取る両人。

いざ続きを始めようとしたその時、待ったをかけたは狐面。

「ん、アレ? 目おかしくなった? 俺。」

 

肩で息をするミラーハウス。

自分が考案した秘密のルート、警察など不利益な相手を撒くために作られた隣町までの大逃げ道。

入り組んだこれを通って逃げ果せなかったことはないと、異能者自身自負していた。

後は異能を解き、人混みに紛れるだけと安堵しているその隣。

蜘蛛が降りてくるように、ぬるりと仮面が現れる。

『夜分遅くにすみません。』

『ニギゃア!! 』

『驚かせてしまってごめんなさい、とりあえず話を聞きたいんですけど大丈夫ですか? 』

「ソンな格好シて信用デキると思いマす?! 」

押し問答もそこそこに、二人はとある異変に気付く。

地面が、否、建物が、否。

町が、歪んでいた。

 

沸きだつ喧騒、逃げ惑う人々。

飴細工のように歪められたビルは、されど崩れず原型を留めたままそびえ立つ。

その歪な町の原因はそこに居た。

目にあたる部分は橙色に血走り、当初の目的であった金は周囲に散乱。

でっぷりと肥えた身体から今まで隠れ蓑としてきた人間の顔や体部位がまろびでた姿は、醜悪な行動にふさわしいものとなっていた。

道路を、建物を、周囲のあらゆるものを子供が己の感性のままに粘土を弄るように捻じ曲げる。

風邪の日の夢であっても見れないような光景に呆然とするほかない。

「アレなんデすか?!  」

『わかりません!! とりあえず、今はあの人を止めます! 』

すぐさま取るは臨戦態勢。

事情は飲み込めぬ、されど放ってはおけぬと駆ける。

触手で距離を詰めるも、行く手を阻むは捻じ曲げられた町そのもの。

物理法則を完全に無視し築かれた迷路の攻略は一筋縄ではいかない。

指揮者のように振り回させる腕に追従する建物達。

繰り出される質量の暴力。

自分の異能を駆使しようとも避けきれるものではない。

遂には、隆起したアスファルトに撃墜された。

二重にブレる視界。

四肢に走る衝撃、後を追うように発進される痛みの信号。

圧迫され押し出された肺の空気を交換するよりも早く、さらなる鉄とコンクリートの柱が襲う。

寸での所で跳ね起き、距離を取るもうねり狂う町からは逃げ切れない。

迫るビルにすり身にされるその時、一人の、否。

一匹の虫が盾となった。

衝撃音が夜に響く。

されどその虫は立っていた。

『……あの、ありがとう。』

「……。」

「おい大丈夫か?! あとどうゆう状況これ!? 」

遅れてやってくるは狐面。

されど今は説明よりも優先すべき事情あり。

『説明は後で。それより先輩、お願いがあります! 』

「OK何でもどうぞ! 」

『時間稼ぎを、自分が仕留めます。』

 

二つ返事で出した了解。

第二ラウンドと言わんばかりに尾多は再び突撃。

懐へ飛び込んだと思えば、次の瞬間には距離を取る。

交換先をばら撒きつつ、上へ下へ左へ右へ。

寝床に湧き出た蚊の如く、囁きの置き土産も忘れずに。

すりつぶさんと町を襲わせるも、寸での所ですり抜ける。

身体能力と《交換》によるかき乱し。

過剰に出力された異能に振り回されている犯罪者を疲弊させるには十分であった。

もちろん、消えた触手の異能者の居場所など気付くことはない。

歪められた建物を駆け上り最上階。

腕を振り回す異能者が玩具に見えるほどの場所で、多数の触手を周囲に巻き付け力を貯める。

ギチギチと触手が臨界点に達した時、見据えた標的に向かい己が身を射出した。

慌てて迎え撃とうと時すでに遅し。

月を背に翔けた飛脚が、暴走する異能者を打ち倒した。

 

異能が解除され、町は何事もなかったように元に戻っていく。

聞き慣れたサイレンとすれ違うように、その場を去った優禍達。

その小脇には、簀巻きと化したミラーハウスが抱えられていた。

再び集まるは空碁町の一角、四人は元の配置へと戻る。

「さっきので何しにきたかぶっちゃけ忘れかけてたけど……色々あり過ぎで何から聞けばいいのか分かんなくなってきたわ。」

『……まずはドッペルさんに色々聞きましょうか。』

「それもそうだな、じゃあ始めるか。」

モガモガと暴れる休済者。

今の今まで覆われた触手は外され、尋問が始まった。

「どうも、ドッペルゲンガーさん……であってる? 」

「ハイッ! ワタくシ“休済者(きゅうさいしゃ)ドッペルゲンガー“ともうシます。」

表情こそ周囲の景色を反射して読み取れぬものの声色は明るく、異能によるラリ状態か、よほどの胆力の持ち主か。

もう少しテンションがあるだろうと仮面を着けた二人は感じながら、何度も練習したであろう自分の異能を使った売り文句を拝聴する。

「オ金ハアるけど休みがナい……学校に行キタクないケど罪悪感がある……そンな貴方にもう一人の貴方。 貴方の代ワりニ瓜二つナワたクシが、貴方の苦労をほんの少し肩代わり。」

「つまりどうゆうことよ。」

「簡単二言うと替え玉でスネっ。」

『替え玉って、受験とかで別の人が受けるあれ? 』

「えぇソウでスソうです。オ客様の代わリニ面倒な学校や仕事ヲ、わタクしガお顔をお借りシて、ソの日一日を肩代ワリするトイウのが、私のビジネスなノデす。」

色々と溢れ出した諸々にお面の奥に潜む眉間にシワを刻みながら、話を円滑に進めるため一旦腹の奥へと押し戻す。

「OKありがとう、じゃあ次は君だ。」

虫の異能者、もとい生成が立っていた。

「なんで、これを利用した? しかも嘘をついてまで。」

「……その、色々しんどくって、休みたくなって、それで……。」

「それで、サービスを利用した? 」

コクリと首を縦に振る生成。

しかし、それに待ったをかけた者が居た。

 

「そチラノお客様に提供シたサービスは別のヤツデすよ。」

「ハァ? 」と漏れるは疑問の声。

寝耳に水といった虫の心臓は大きく跳ねる。

「違うって、休済者サービスってのは替え玉だろ? こ……いつはサービス受けたって。」

「サッきの説明はあクマでサービスの一部デして、先のお客様が利用サレタのは別のサービスです。社会人は四千円、学生さンは半日に付き三千円、オプションや複雑な事情なドニは別途お金がかカリマす。」

「今料金設定とかはどうでもいいのよ。」

ぶり返された問題に往復されるのは四つの視線。

どうゆうことかと隠された目は訴える。

「それは……えっと……。」

言葉は濁り、汗が流れる。

目は泳ぎ、何かに怯えたような顔は、まるで子供が親の大事な宝物を台無しにしてしまったように絶望に満ちていた。

『悠一くん……。』

しかし、観念したようにゆっくりとマスクを外す。

耳まで裂けた口に甲虫特有の光の反射、表情筋に沿って帯びた筋。

目から下に存在するはずの柔らかく弾力のある皮膚は、硬く熱を感じさせない外骨格に置き換わっていた。

「あー……ね。」

『……。』

誰一人、言葉をかけることができない。

優禍も尾多も、この空間に存在する異能者は大なり小なり自身の、或いは親しき者達の異形に触れ育ってきた。

どこに異形が現れるのか、その規模は人それぞれであるが、大半は着る衣服の選択肢が狭まる程度。

そして、その大半からあぶれた者(わかりやすい差別対象)が受ける事は、想像に難くない。

そんな身体の汚点を晒す。

それほどの行為をさせた、させたのだ。

「すみません、嫌なもの見せちゃって。」

マスクを直し、無理やりにでも今の空気を緩和しようとこなれた愛想笑いを振りまく生成。

そのいたたまれなさに、その場に立ち尽くすしかなかった。

 

愛想笑いが途切れた頃、甲虫のような肌を持つ少年がポツリと口を開く。

「僕の親、結構厳しくて子供の頃から褒められたこととかなかったんです……自分の異能も原因なんでしょうけど。」

『……。』

「今はおばあちゃん家の部屋で寝泊まりしてるから、会うこともできないんですけどね。」

「……。」

「そんなだから、こうゆうことしてほしかったなーとかの、色々憧れが昔からあって、それで……励まして貰ってました、その、親の姿とかで……。」

付随した笑みも明るくしようとした声色も消え、尻すぼみとなっていった声量は、最終的には蚊の鳴くような言葉になっていた。

「結構人気あルんです。推シカらの励まシの声とか見た目デ好きなセリフをイうサービス。」

「お前今は黙っといてくれよ。」

 

吸い込んだ空気の掠れる音が響く程の静寂。

均衡を破ったのは親のいない少女だった。

『……全然変じゃないよ。』

今にもぐずれてしまいそうな硝子の球をすくい上げるように優しく、柔らかく語りかける。

『褒めてほしいのは誰だって同じだよ。それで辛い思いをしてて、それがどんな形でも柔らぐなら、私はいいんじゃないかなって思う。』

頭の中ではもっと滑らかに出力されていた。

それよりもずっとずっと辿々(たどたど)しく不器用に紡ぐの言葉。

少年は外れていた目線を合わせ、慣れた様子で無理やり塗り固めた笑みを浮かべる。

「……けど、もうだめですね。顔のことも今のことも、皆さんに隠してましたし、自分の保身のためだけに嘘まで……。」

『それはお互い様。私も自分が異能者だったりアーマー(こんなの)着けて異能使ったりいろんなこと隠してたし。』

「そんな、全然事情が違いますよ。もう自分なんて……。」

過剰な自責の念を(まと)い、如何なる励ましや前向きな言葉を通さなくなった被虐の塊には、取り付く島もない。

それを見て、優禍は言葉の結末を言い切らぬまま、不の膜に覆われた少年へゆっくりと近づく。

意図が読み取れぬ三人を他所に、棒立ちになっている生成へと手を差し出し、そっと頬に手を添え真っ直ぐと、そして力強く見つめる。

『私は好きだよ、君のこと。』

「ウワァオ大胆。」

何の脈絡もなく亜音速並の衝撃でぶつけられる愛の言葉。

逃げ道もなく衝突し、処理できていない生成は置き去り。

されど、囁きは止まらない。

『偏見を持つ人もいる、理解できなくて攻撃してくる人もいる。けどお願い、これだけは忘れないで。君を愛してる人がいる、私は君を愛してる。』

仮面に隠された瞳は、同情や励ましといった嘘偽りの一切ない、澄み切った狂気に侵されたものであった。

『私だけは貴方を愛する、たから私のために、自分を愛して。』

 

「えーっと、よろしいですか? 後輩さん。」

『はい。終わりました。』

未だに受け止めきれず塩の塔と化した生成を置いてけぼりにしながら、優禍は満足といった様子で鼻を鳴らす。

 

「あの〜モう自分帰ッてモ大丈夫デスか? 」

唐突に始まった色恋沙汰に、今の今まで蚊帳の外だった事の元凶は自身の存在意義について疑問を発した。

当初の目的を思い出せる発問に、狐面は側へと屈み、ズイと顔を近付ける。

「じゃあ最後に一個だけ、これだけ聞いたら終わりだから。」

空気はほんの少しだけ、冷たくなった。

「あんたの異能、“人様に化けれる“んだよな。」

「えぇそウです、有効活用しテまスヨ。」

「……化けた人の記憶とかは、自分のと混じったりするのか? 」

「イイえ? 私がお借リスるのハお顔ダケデすヨ。」

「……そうか。お疲れさん、あんたのサービス、また個人的に使わせて貰うべ。」

その男は満足したように立ち上がる。

「よし! 今日は御開きってことで、お疲れさん。」

 

今日の大仕事を終え、優禍はようやく自宅のドアを開ける。

緊張が途切れ大あくび、どっと疲れが出た体と重くなったまぶたを動かしながら、お風呂セットを小脇に抱え家を出る。

湧き出るように放出されたアドレナリンも切れ、ホワホワとした感覚のまま行く道は暖かい。

呑まぬ酔いどれに頬をほんのり染め、とろりとした目のままたどり着いたはいつもの銭湯。

しかし、暖簾(のれん)をくぐった先には見慣れた老婆とは別の、見慣れた顔が座っていた。

「いらっしゃいま……あれ? 」

「……悠一くん? 」

普段、腰を曲げた気のいい老婆が番頭に座っている場所に、絶妙にサイズの合っていない生成が小じんまりと鎮座していた。

「おばあちゃん家って、ここだったの? 」

「う、うん。ときどき手伝いをしてるんだ、お風呂掃除したり今みたいに番頭したり。」

照れくさそうに二ヘラと笑いながらマスク越しの頬を掻く生成。

予想外の人物に、思わず緩み切っていた表情が一気に外行きのものへと立て直す。

「そうなんだ。けど、全然会ったことなかったよね。私毎日ここ使ってるのに。」

「普段は掃除だったり雑用が多いから、今はおばあちゃんトイレに行ってるから緊急でね。」

軽く笑みを浮かべ対応するも、マスクに隠された表情は未だぎこちない。

番頭に滞在するするには長過ぎる時間が過ぎた頃、表情に照れを混ぜながらもじもじと喋り始めた。

「……あのさ、今日のことなんだけど……。」

「ごめんなさい。」

少年は、同じ人物の言葉により再び固まった。

「出過ぎたことを言いました。悠一君のことを何も知らないで、分かったような口を聞いて。」

「……いや、その。」

「あといきなり好きって言ったのも謝る。それも君の事情を何も考えずに発言してた。でも、あれは一人の人間として出たもので、恋愛的にとかそういった意味はないから、そこは安心してね。」

言葉とは、送り手と受け手の意図が食い違うことが多々発生する。

要らぬ裏を読む、相手に向ける感情の大きさ、熱量などなどそのズレ、或いは齟齬が原因なのだ。

今回の件も、その齟齬が起きたのである。

目に見えて萎びれ肩を落とす生成の内情を知らぬまま、優禍は言葉を続けた。

「けど、生成くんのことを大切に思ってるのは本当だから。だから生成くんも自分をダメだって思わないで。私がいるから。それじゃ、また学校で。」

「……うん。」

少女は駄賃を番台に起き、柔らかみを持った笑顔を浮かべながら暖簾をくぐる。

少年の心は、見るも無残な形へと捻じ曲げられてしまった。





ドッペルの一件が終幕し解散して間もなく、街頭の下、スマホの発信音が夜に響く。
今か遅しとやきもきしていると、三度目の途中にて相手が電話を取った。
「もしもしトモさん? さっきのやつ見てた? 」
『……うん、見てた。凄かったけど大丈夫だった? 優禍くんも。 』
「大丈夫大丈夫ピンピンしてる、それより気になんのは異能のことだよ。」
焦る気持ちが言葉に乗って、ついつい早まる口の動き。
パチパチと忙しなく指を弾く音が暗闇に溶けて消えていく。
「あれドッペルと思うか? 人の顔借りる異能にしては色々と度が過ぎてるだろ。」
『……あんなに凄い異能があれば、人の顔を借りてまで強盗なんで回りくどい事する必要ないよね……。』
「だよなぁ、あんなヤベー異能久々に見たわ。」
ケタケタと笑う狐面。
すぐさま軌道修正し、真剣な面へと戻る。
「でよ、チラーっとだけど異能者の体に借りた顔が引っ付いてたのが見えたのよ。だから後輩くんが見たやつと、今回の異能者は同一人物、多分。」
『……じゃあ、いつでもできたけど今まで隠してたか……。』
「今回急に異能が強化されたか。」
ほんの少しの沈黙。
電話の向こうでは、ポキポキと小気味良い音が響く。
『……ちょっと調べてみる。』
「サンキュートモさん。」
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