メシア・シンドローム   作:人外好

31 / 32
今週の“NEWSあわっと”は。
『妹をいじめた奴らに、復讐したかった。』
過激化する異能犯罪。
加害者はなぜ“今”復讐に踏み切ったのか!?
被害者達との関係は?!
コメンテーターの宮本氏とMATIMA氏を招いて徹底討論!!

他にも一週間で起きた気になる出来事をピックアップしてお届け!
NEWS“あわっと”このあとすぐ!


第三十話:NEWS“あわっと”毎週日曜日朝十時から放送中!!

ここは空碁町の一角、お好み焼き屋“馬頭”

金も、まともな職も、それに反抗する気力もない、常連という名の席潰しを朝から向かえ、今年喜寿を迎えた店主は今日もうだつの上がらぬ者達の話し相手となる。

やれ「周りの目が痛い」だの「あそこのコンビニは廃棄弁当が貰える」だの、取り留めのない情報交換にむさ苦しい色の花を咲かせ、その斜め上ではひっそりと誰が観ているのか分からないテレビが光る。

 

『おはようございます! 今週の気になるニュースをまるっとお届け! “NEWS あわっと”司会の峯です。』

『キャスターの安村です。本日もよろしくお願いします。』

『早速参りましょう、今週のトピックスはこちら! 』

『今週木曜日、星見ヶ原市悠幻町にて、帰宅途中の高校生複数名に、異能を使用し暴行を加えけがを負わせたとして、危険異能使用及び殺人未遂の疑いで無職の平田 敬司(ひらた けいじ)容疑者二十六歳が現行犯逮捕されました。

犯行の動機について『妹をイジメた奴らに復讐をしたかった』と供述しており、逮捕後ネット上に投稿された動画との関連等について学校側は『生徒のプライバシーに関することなのでお答えできない』と声明をだしています。』

『いやー……怖いですねぇ。』

『はい、平田容疑者には平田 愛実(ひらた まなみ)さんという当時十六歳の妹がいたのですが、ビルの屋上から落下し命を絶ったということがわかっています。

遺族はイジメがあったと訴え、学校は第三者委員会を設置し、イジメに該当する行為はあったのかについて調査したのですが……。』

『でもなかったんでしょ? 』

『はい、調査の結果、第三者委員会は学校でイジメに該当する行為は行われていなかったという結論を出しています。』

『……僕ね、観たんですよ、件の動画の方をたまたまね。これって……すみませんちょっと言い方はあれかもしれないですけど、第三者委員会まで出して色々調べて、イジメはないと、結論出して実はガッツリ証拠はありましたー! ってのはちょっとなんというか都合が良すぎじゃないですかね? 僕だけでしょうか。』

『そうですね、動画の内容などについても色々と怪しい所も散見されます。何よりなぜこの動画を今流出させたのか、誰かか貰ったものなのかなどなど、不明な点は山程ありますよ。』

『不明な点、と言えば安村さんお願いします。』

『はい、平田容疑者は犯行当時薬物を使用していたとゆう目撃証言があり、現場には薬物を入れていたと思われる容器も発見されています。

この薬物の入手経路についても警察は捜査を続けているとのことです。』

『ここで今回のゲストをご紹介しましょう。元麻薬取締官の西 飯野(にし いいの)氏に来てくださいました。

飯野さん、その使用した薬物というのはどういったものなんでしょうか。』

『今回現場で発見された容器から、合成異能加変促進薬、通称“エピペン“と呼ばれる合成薬物が発見されたことがわかっています。

こちらの薬物、摂取すると神経を興奮させ万能感や多幸感を与えるほか、最大の特徴として異能による身体の変化を過剰に促進、異能を変質させる成分が入っています。』

『つまり、“異能を強くする薬“ってことですか? 』

『そう考えて貰って結構です。それに加えてこのエピペン、合成異能加変促進薬とある通り、複数の薬物が混ざっていることがこの薬物の危険性に拍車をかけているんです。

また、中に何が混入しているか不明な以上、過剰に強力だったり逆にすぐに効果が切れたりして効果にムラが出るんです。』

『まぁ何にせよ、このエピペンもですけど、違法薬物が根絶される日が一日でも早く来ることを願うしかありません。

さぁ続いては、これまた異能者関係のニュースです。まずはこちらの映像をご覧ください。』

 

『キーワードは“異能者狩り“。』

映像は唐突に新たなものへと切り替わる。

短めの動画でよく見られる縦長の動画の中で(うそぶ)く言葉の所々に笑みや余裕を含ませた仮面の集団。

良く言えば人生が楽しそうな者達の手には、汚らしいバットやレンチなど物騒な得物が握られていた。

耳が痛くなるほどに(いじ)られた音声には中身がなく、ただ異能者を雑に誹謗中傷、自らが行った行動の正当性を低い語彙力で説明するという、見る人を選ぶなんともチープな動画となっていた。

『SNSにて“異能者狩り“というワードが話題になっています。(むつみ)さん、これも……ね。また衝撃的なワードですけど、また解説お願いします。』

『はい、異能者狩りというのは、顔を隠した複数人、または単独で異能者に対して暴行を行う様子をネット上に投稿する、というものなのですが……。』

『正直ね、私には理解できないですよ。

だってね、わざわざ何もしてない一般の方にね! ワラワラ寄ってたかって武器でボコボコにして、それで被害者が異能使ったら被害者面って流石におかしくないですか? 被害者がね、普通の人間だったらタダのリンチじゃないですか。宮本さんこれどう思いますか? 』

『仰る通りで、この集団は一目で異能者だってわかる人を吟味したうえで行動に移しているわけですので、非常に悪質なものと言えますね。』

『うーん……それにね、さっきの映像内で各自お面なり被り物なりで素顔を隠してってあったじゃないですか。

僕ね、ちょっと聞きかじった程度で合ってるかどうか分からないですけど、別の人物だとか他の何かになりきって、今回で言うとヒーローですね。それになりきって大胆な行動をとれるっていう心理効果があったと思うんですよ。

今回使用された覆面から、自分のことは正義だって思い込んで異能者を襲撃したってのが、関係してるんじゃないかなって。』

『概ね峯さんが言っていることは当たっています。加害者の証言では『やられる前にやった、自分は社会の為になることをした』という類いのことを供述しています。』

 

スタジオの面々がこの事実に顔をしかめ、そこを峯が司会らしい綺麗な理想論でまとめようとしたとき、MATIMAが口を開いた。

『色々賛否両論あると思うけど、全部わかった上で言うますね。ぶっちゃけ、ぶっちゃけね? 自分はわからなくはない。この仮面の人達の心理と言うか。』

歯に衣着せぬ発言にスタジオ内に走る緊張。

毒にも薬にもならぬコメントばかり吐いていた司会と諸々は言葉の読み込みが追いつかず、それを尻目にタレントは自身の考えを語り続ける。

『だってそうでしょ? エレベーターとかで乗って来たりとかさ、普通に町歩いてて前から歩いて来たのが異能者だったらさ、俺一歩引いちゃうもん。

けどさ、これみんなやってない? 異能者ってだけでうわってなっちゃうじゃん、だって怖いもん。』

『でもね、それってかなり危険な……。』

『やっちゃ駄目、行動に移したら駄目ってのはわかってるよもちろん。けどさ、みんなわかる? その異能者が善良な人って断言できる? 

仮にさ、襲った異能者がさっきのエピペンだっけ? それを持ってましたーってなってたらさ、お前らみんなどうせ襲ったやつのこと褒め称えるだろ? 先見の明だーとかで。』

『それは結果論になります。どうせそいつは犯罪を犯すだろうと決めつけて暴行を加えていたら、それは私刑以外の何物でもないでしょう。』

『その私刑もみんなしてるでしょ! 殺人強盗盗み、現場に異能者と人が居たとして一番最初に疑うのどっちかって言われたら全員前者でしょ? 

ネットでもさ、異能者が事件起こしたら危険だー晒せーってめっちゃ叩くけどさ、いざその異能者が被害者ですってなったらそいつにも悪いことがあったーっていい始めるじゃん。

知らず知らずでみんな私刑してんのよ間接的にね。フラットになんて出来ないのよ、構造が違うんだから。』

燃え上がる議論に相乗し熱が入る言葉。

収拾のつかなくなった司会は強引に話の締めに入る。

『彼らのやっている行動は非常に危険です、絶対に真似しないでください。』

 

《この番組は、アーカムグループと、ご覧のスポンサーの提供でお送りしています。》

 

『人と違う、それだけで自分の選択肢が限定される社会。

身に付けるものですらままならない日々。

我々は、その常識を変えるために、様々なモノ作りを挑み続けてきました。

衣服、日用品を個人単位で設計、最短二日のスピード提供! 二十四時間いつでも専門店にて相談無料!

誰かではない、この世でたった一人の貴方のために。』

“原子から宇宙まで“アーカムグループ。

 

『続いての話題はトピックスはこちらです。』

 

ラジオ感覚で聞いていた異能者達も、いつの間にか話の肴をテレビに変え、誰の役にも立たない愚痴を吐く。

「今週もひっでぇな。」

「毎日毎日事件ばっかだよ、どうにかならねぇもんかね。大将、いか焼きある? 」

「あんま調子に乗んじゃねぇよ。ただでさえこっちも厳しいんだらか、飯食いたきゃ炊き出しまで働け。」

水を飲ませてもらった好意に感謝しながら、男達は暖簾(のれん)をくぐる。

活気も色気もない者達はそれぞれのテリトリーへと戻り、生業としている空き缶拾いを始めた。

三大欲求を思う存分満たせる妄想を膨らませながら新たに捨てられた缶を拾い続け、穴場の路地へと足を踏み入れたとき、キラリと光る何かが男の目に入る。

誰かに気付かれる前に飛びかかり、こっそりと確認、結果はまさかまさかの五百円。

人生に一度あるかないかのとびきりの幸運に、自分自身でも気色悪さを感じる笑い声を必死に殺しながら、これをどう使おうかと考えを巡らせる。

勝利の余韻に浸りながらまじまじと観察していると、あることに気がついた。

黒い汚れ、というよりは黒く変色した赤い液体のシミ。

軽く触れただけで指に付いてしまうそれに、なぜか理由は分からぬが、ゆっくりと路地の続きへと顔を上げた。

ピチョンピチョンと小さく、一定間隔で響く水音。

暗がりに浮かぶのは、無骨な鉄パイプから滴り落ちる鮮血。

赤い水たまりの中心でうつ伏せのまま、ピクリとも動かなくなったかつての浮浪者仲間。

そして、まだ肌も柔さを保った白髪の少年だった。

理解し難き出来事に直面した脳というものは、思考を放棄するものである。

声も上げず腰も抜かず、血で汚れた五百円硬貨をそっと元の場所へと戻し、温かい日に満たされた大通りへと歩を進める。

ようやく町に叫び声が響いたのは、十一時を少し回った時のことだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。