メシア・シンドローム   作:人外好

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7/5〜
三人称視点への変更中


第七話:愛眼

「よし! 新入部員くん、夜暇? 」

「え? 」

「いや〜こういうのは首根っこ捕まえてるのが一番でしょ、前も似たようなことあったけどそれも解決できたし。」

新入生二人は相対的にマトモであるもう一人の先輩に、救済を求めるような視線を送る。

頼みの綱は呆れているのか、または止めても無駄ということがわかっているのか天を仰ぎ、決して誰とも目を合わせようとはしない。

そんな周囲はお構いなしと、その適当な先輩は計画ともいえぬ計画をいつもと変わらぬニヤケ面で説明し始める。

「作戦一、とりあえず張り込む。作戦二、ストーカーを見つける。作戦三、殴って警察に突き出す。解決! 」

この時、異能研究会の部室内に存在する知的生命体、男女、年齢、思想、異能を持つ持たない関わらずその男に対する意見は一致していた。

コイツは駄目だ、と。

余りにも脳筋かつ適当な計画に若干のめまいと頭痛を感じながら、一先ず新入部員は自分の意見を伝える。

「あの……色々言いたいことはありますけど一つ一つ行きますね先輩。まず西谷くんのお姉さんが帰宅するのは夜中ですよね。会社員なわけですし。」

「うん。」

「そんな暗いときに出ても大丈夫なんですか? その……警察に見つかるとややこしくなるというか。」

「あー……前も同じようなことしたけど、俺は大丈夫だったから大丈夫でしょ。サツの動向なんてたかが知れてるし。」

「……次に、相手はストーカーで、警察の目を掻い潜れるほどですよ。しかも異能者の可能性が高くて、その能力は分かってない。」

「確かに能力を知られてないのは、相手さんにとってめちゃくちゃアドバンテージになるね。でもトモさんが過去のデータからある程度目星はつけてくれるとは思うから、大丈夫でしょ。」

「……万が一ストーカーに見つかって、逆上して襲ってきた場合は……? 」

「そら返り討ちで解決よ。そんときゃ俺呼んでね、俺異能者だしわりかし腕っぷし強いし。」

「え? 」

「ん? トモさん、俺言って無かったっけ。異能もってるよって。」

嗚呼、コイツは駄目だ。

「……ごめんね、ずっとコイツはこんなのだから。本当にごめんね……。」

トモさんが両手で顔を覆う。

「……質悪いのがこれで失敗しないことなの……。」

これだけは確実に言える。トモさんは苦労人で、もう一人はドチャクソ適当野郎だ。

「そんじゃお姉さんが使ってる駅の前、九時で集合ね。よろしく〜。」

 

〜同日夜九時頃〜

私達はお姉さんが使用している最寄り駅に集合する。人手は多いほうがいいからと依頼人の西谷くんまで駆り出された。

「みんなご家族に言い訳してきた? 」

「俺は姉さんのボディーガードだとかで理由つけてきましたけど。」

「今日は兄貴たちが遅い日なんで。」

「うんうん、オーケー。うちは放任主義だから心配してくれる親御さんや御兄弟がいて羨ましいよ。」

若干の不満を混ぜた言葉も適当男の前には暖簾に腕押し。

何も考えていないかのようにケラケラと笑う。

「そうそう、忘れちゃいけない。これを共有しとこう。偉大な先輩方のお古だけど。」

適当先輩は大きめのウエストポーチからおもむろにトランシーバーと小型のカメラを取り出した。

「なんですか? これ」

「状況共有用のトランシーバーとカメラ、シーバーは横のボタン押して喋る。喋り終わったらどうぞって言ってから切り替え。カメラはトモさんのパソコンに繋がってて、誰かがなんかあってヤバいときに助けが来ないことがないよう着ける。」

「トモさんはサポート役だからね、基本表には出ないよ。豊富な異能の知識で色々な対応策や危険さを教えてくれる。その分俺が現場に出張るわけよ。」

そう言われてみればトモさんの姿が見えない。

よく考えなくても彼女は見た目も雰囲気もガンガン前に出るというよりも、後ろから冷静に的確な指示を飛ばすほうがあっている。

『……あー、もしもし。』

トランシーバーからトモさんの声が聞こえる。

『……西谷くんと優禍さん、本当に無茶だけはしないでね。とにかく何かあったら睦月くんに任せてね。頼りにできるとは思えないかも知れないけど……。』

「そんじゃそろそろ行きますか。西谷くん、お姉さんには連絡はもうしてくれてるんだよね? 」

「はい、一応。知り合い呼んで手伝ってもらうとは言いました。」

「オーケーオーケー、ほんじゃ頑張ろうね。」

先輩は、私達の肩を軽くポンポンと叩く。

「なぁ、アンタんとこの先輩、ホントに大丈夫なのか? 」

「正直すごい不安。」

『ごめんね、ごめん……』

 

駅から歩いて十数分、閑静な住宅街に私達は到着しそれぞれ指定されたポイントに配置する。

来る途中に作戦とは言えない作戦について話された。

「異能のことなんだけどトモさん曰く、過去のデータから推測される目ん玉みたいな物体の射程距離は大体百メートルあるかないか。」

カバンから地図を取り出し、マーカーで線を引いていく。

「さっき見せてもらった写真の場所と射程距離と手紙の内容、警察のパトロールなんかと合わせて、ルートをある程度絞ったところ……

一、コンビニ近く。

二、公園近く。

三、アパート近く。

この三つのうちどこかの道を必ず通ることになる。ここに絞って張り込む。そんで怪しいやつがきたら俺がボコる。」

今の話を聞いて、最後以外は変に筋が通っているような気がする。

そのようなやり取りがあって私はアパート、西谷くんは公園、残りは睦月先輩が担当することになった。

 

私が担当するアパート前、現在は入居している人が少ないのか、外から漏れ出る光はまばらである。

校章は持ってきているので万が一ストーカーが襲ってきても対処はできる、その校章だけが不安に立ち向かうだけの武器になる。連絡を取るためのスマホも持ってきてはいるが、トランシーバーにお株を奪われてしまい、また外では余計にお金がかかるため使いたくない。どうするかと考えていた時、唐突にトランシーバーから飄々とした声が聞こえてきた。

『もしもーし、そちらはどうですか〜。』

睦月先輩の声だ。

「何かありましたか? 」

『安全確認のためのお喋り、ついでに暇つぶし。』

『暇なんですか。』

少し遅れて西谷くんの声も聞こえてくる。今のところはどこも大丈夫そうだ。

『あー西谷くん、聞こえますか』

『はい、西谷でーす。どーぞ。』

『なんか部室でトモさんとすごい楽しそうだったけど、あれなーに? 変なダンス? 』

そういえば唐突に変な動きがトモさんとシンクロしていた。事情を知らない私達からすると少し怖い。

『あぁ、あれライディーンの変身ポーズです。俺の付けてたストラップのやつ。』

「もしもし西谷くん、その仮面ライダーいつくらいから好きなの? やっぱり子供の頃から? 」

『物心ついた時にはもう好きだったな、ベルトとかフィギュアとか今でも結構集めてる。』

「一番好きなライダーはいる? やっぱりストラップのやつ? 」

とりあえず話を続けるためにあるあるの質問を投げかける。

『ムズい質問だな。ライディーンは確かに大好きだけど……一番はモジックかな。』

「モジック? どんなの? 」

『歯車のライダーでね。だいぶ脇役よりのライダーだけどいい味出すのよ。主人公助けたりとか、あと……ちょっと似てんのよ。』

「似てる? 」

『……実は、俺もその先輩と同じ異能者でさ。能力使うときの見た目と似ててなんか親近感わいちゃって。』

『最初は見た目から好きになったけど、デカくなるにつれて生き様にも惚れちゃって、主人公になれなくても、主人公を助けられる脇役にカッコよさを感じちゃって。』

『最近のライダーはすごいね〜。今度観てみようかな。』

『ぜひぜひ! 今期のは初心者さんにも結構とっつきやすくてオススメですよ。……すみませんちょっとトイレ行ってきていいですか? 』

『はいはい行ってらっしゃい。なんかあったらすぐ連絡ね。』

「行ってらっしゃい。」

 

 

知念西公園。ジャングルジムやブランコなどの遊具や野球用のネットもあり子ども達の遊び場、或いは近隣住民の憩いの場として愛されている。だがそれば柔らかな日が照らす時眼帯での話であり、一度暗闇が辺りを覆えば、不気味な噂が立つほどの雰囲気のある肝試しの場へと様変わりする。

西谷友樹はその公園の中央で、人生で最大とも言える危機に陥っていた。トイレ中に目玉に襲われ、逃げる暇もなく取り押さえられた。

狙われているのは姉であるから、自分が狙われるという可能性を無意識に排除していた。しかし、力を持ち、ストッパーが外れた者の思考回路を読み取ることなど出来るわけもない。

「ね、ね! 友樹くんだよね! 見たまんまだよ! 」

体は普通の人間を全体的に縦に細長く引き伸ばしたようなシルエットだが異様なのがその頭、三対の目玉で魚の鯛二匹が一つの首に無理やりくっついた端から見なくても化け物のようなビジュアルだ。

その枯れ枝のような腕と節くれ立った手で口を塞がれ身動きが取れずにいる。助けを呼びたくともトランシーバーはズボンのポケットにあり、カメラも宙に浮く目玉に取られてしまった。

「君のお姉さん。アタシに笑いかけてくれたんだぁ。」

その魚頭は恐怖で暴れる青年を抱きしめ押さえつけながら、ねっとりと一方的な馴れ初めを語りだす。

「頑張って働いてるアタシに、お疲れ様ですって言ってくれたんだぁ。こんなアタシでもね、だからね、だからね。好きになっちゃったんだ。」

「ご家族のことも知らないとね、知らないと。君のことも知ってるよ。友樹くん。」

「君もね君も異能もってるよね? ね? アタシと同じ。」

「だからねだから、アタシに協力して。ね? 君の能力で家のね、家の鍵を分解して開けて欲しいんだ。」

 

彼の異能は[分解]自分の掌で触れた無機物をネジが外れたかのようにバラバラに分解できる。ベルトなら金具と皮を、ボールペンならバネの一本に至るまで、勿論どんな厳重な金庫の鍵であっても彼の前では時間稼ぎ程度にしかならないだろう。たとえ能力が通じなくとも、異形の姿になれば振り払うことはできたはずだ。

しかし、どんな能力を持って産まれたとしても一度染まった恐怖を拭うことはそう容易くはない。

「一緒にね。行こうねお家に。」

(嫌だ……姉ちゃん! )

 

〜古原知佳自室〜 

部活の頭脳は、各々から送られてくる映像をパソコンからチェックしていた。しかし他人の、しかも異性のトイレの様子をチェックするのはどうかと思い、意図的に手で隠していた。

だが様子がおかしい。あまりにも長い、性別によってトイレにかかる時間は多少なりとも差があるが、基本は男性が早いことは父親や尾多との外出によって把握済みであった。

意を決し、その手をどけてみると男性用の小便器が映される。よく観察してみると微動だにしていない。ここまでカメラが動かないことなど、尾多や先輩との経験上ありえないことであった。

手元にあったすぐさまトランシーバーを取る。

『二人共。西谷くんが危険。』

 

〜住宅街〜

「え? 」

とっさに地図に書かれたマーカーのことを思い出す。ここから公園までの距離は走って五分程、能力を使ってフルスピードで行くと一分もかからない。

『了解すぐ行く。あぁ、あと新入部員くん。』

「は、はい! 」

『とりあえず通報よろしく。あとパトロールしてる警察に助けてもらって、頼むよ。』

「……わかりました。」

一秒でも早く通報することが正しい判断だろう、助けを求めたほうが何倍も効率的で良い選択なのだろう。私はそう考えながらも、通信が切られたあと無意識に校章を握っていた。

 

「怖いかもね、ね! 怖いかもね。けどねけど安心してね。仲良くなるだけだから、仲良くなるだけだからね。」

西谷友樹は葛藤していた。

能力を使い異形の姿になれば拘束を振り払うことはできる。だがその後はどうする? 今よりもずっと子供の頃、一度、興味本位で自分の能力を使うため歯車の姿へと変化した。その時に味わった恐怖するほどの快楽。そのトラウマが記憶にこべりつき十年余り、未だに克服できていない。

だが今は違う。自分の為ではない。たった一人の姉を守るため、姉を、家族を守るためならば。

「……んん? んんん? 」

恐怖と葛藤で見開いた目に人影が飛び込んでくる、前方の暗闇からなにかがこっちに向かって来ている。藁にも縋る思いでに助けを求めようにも口を覆われ、満足に声が出せない。ただ祈るばかりだ。

その祈りが通じたのか、なにかが眼の前の砂場に着地する。

薄っすらと視えるコートを羽織った人型のシルエット、だが腕に当たる部分からは触手のようなものが生えており、徐々に腕の形に形成されていく。

(……仮面)

月に照らされ、暗闇に包まれていたその身が晒される。黒を基調としたアーマーに、フルフェイスマスクのバイザーは三対の複眼が暗く発光している。

その姿はまるで

(ライダー? )

少年の頃に見た希望だった。




※キャラクター紹介※
西谷友樹(15)誕生日 6/1
異能:《分解》
触れた無機物をパーツごとに分解する。
あまりにも大きいものや構成する部品が多いものは分解に膨大な時間が必要。

異能のビジョン
細身の人間に多数の歯車やケーブル、ナットといった部品がビス止め、ネジ止めされている。
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