メシア・シンドローム   作:人外好

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第八話:留金

(……仮面……ライダー? )

 

『その人を離して下さい。』

浮遊する四つの目玉が不規則に魚頭の周りをクルクルと周回する。

「だぁレ? 誰? あナタもお仲間? 私はお目々。あなたはウニョウニョタコ足……それとも。」

二人の間の風が徐々に冷たくなる。

その寒さに身震いした刹那、魚頭の周りをそれぞれ不規則な動きで浮遊していた目玉が一斉に標的を凝視した。

「おジャマ虫? 」

 

声と同時にバレーボール大の目玉が猛スピードで向かう。

間一髪避けることができたが、後ろの砂場が抉れていた。

当たると怪我だけでは済まないだろう。

その一発を皮切りに浮いている他の目玉もこちらを撃ち抜かんと迫る。

まだいくつかは避ける、撃ち落とすといった対処はできてははいるが先輩が言うには目玉の射程距離は公園を抜けても余裕で追跡してくる、対するこちらは遠距離攻撃は持っていない。

万が一懐に入れたとしても西谷くんが人質になっている。

下手なことをすると巻き込まれかねない。

「あなタノこと知ラないケど邪魔ヲスるナら容赦シナい。」

このまま防戦一方ではこちらのスタミナが尽きて負けるだけだ、

ならば。

一度脱力し、腕を構成している触手をほぐす。指から手、肘から二の腕、順番に何本も何本もほぐし無数の一本を形成する。

無駄に動いてスタミナを消費するよりもドンと構えて向かってくるものだけ対処すればいい。

「動カナいでネ。ソノマまね、ね、動カないで。」

一発一発触手で丁寧に撃ち落とす。

幸い目玉の動きは単調であり対応できる。

あとは逆転のタイミングを見つけるだけだ。

「コッチにはネ、こッチニはこノ子いルカらね。こンな言い方だめだケドね。ね。」

興奮しながら人質をコチラに見せつけるように青い髪を撫でる。

「ダカラね。動カナいで、邪魔モシないデね。私好きナだケダから、好きな人いルだけだカら。」

ブルーハワイのような青い髪を。

 

「いや〜人に頭撫でてもらうなんて何年ぶりかな。」

その魚頭も異変に気づいたのか、抱きしめている者を凝視する。しっかりと抱きしめていた、眼鏡をかけた男の子はいつの間にか青い髪をしたえびす顔に入れ替わっていた。

(睦月先輩?! )

「誰ッ!? 君誰ッ゙! 」

「どうも〜。」

そのえびす顔はヌルリと腕から抜け出し即座に距離を取る。

「誰ッ?! ネェ返して! おトウくン返してッ! 」

浮遊していた眼球は一斉に睦月先輩を向き、逃さんと襲うがパルクールのように身軽な身のこなし迫りくる目玉を避けていく。

「マスクの人〜! 後はよろしく。」

その声と同時に睦月先輩の姿はこつ然と消えた。

出会ってまだ日は浅いがあの人の行動は読めない。

 

残された二人の間に静寂が流れる。

一人は明らかに苛立ちを抑えきれぬ様子で臨戦態勢をとる、対するもう一人の目に敵意はなく、ゆっくりと構えを解いた。

『これ以上は……止めませんか。』

「……へぇ? 」

ひどく気の抜けた調子っぱずれの返答が魚頭の口から漏れる。

己の恋路を邪魔するものは全てなぎ倒すと心に決め、今まさに覚悟が問われると身構えた時、相手からまさかの停戦協定。

頭に上っていた血も思わず下がる。

「じゃあ……じャアさ。邪魔やめヨ、ネッ? 」

『……あなたが何でこんなことをしたのかは知っています、好きだったんですよね。あの眼鏡の子のお姉さんのこと。』

「うん。うんうん。」

何人かの異能者と対峙し、勝利し制圧してきたからこそ分かる。この人は“まだ止まれる人“だ。

戦ってきた大半は“もうこうするしかなかった者“だった。

対話など出来ない程追い詰められた背水の陣、だからこそ力を行使し無理矢理止めていた。

『私は、まだ誰かを好きになったことはありません。だからなんで、あなたがそんな事をするのかわからない。』

「いいよ、好きナノは。」

浮遊している目玉もコクコクと頷く。

『けど、好きだからって何をしてもいいわけじゃないことぐらいはわかります。本当はわかってるんじゃないですか? こんなことじゃいけないって。自分のせいで相手が怖がってることも。』

だからこそ違うと分かる。この人はまだ自分で止まるという選択肢を取ることが出来る。

「……。」

『だから……だからもっとこう、なんていうか、やめましょうよ、こんなこと。』

足りぬ語彙を足りぬ脳みそから必死に絞り出すが、たった十年ポッチの人生の中で経験した言葉など、人の心を動かせる確率などゼロに等しい。

『本当に心の底から好きって思っているなら、好きな人が嫌がったり怖がったりしてるならきっと止まれるはずです。あなたは……まだできる。』

それに言葉を吐くにつれてどんどんと言いたいことがわからなくなっていき、どこか的外れになってきているような気がする。

それでも、たった少しでも自らの意思で異能による暴走を止める可能性があるなら、賭けなければならない。

『それに好きな人が幸せだったら自分も幸せだと思うんです。私は友達が別の友達と遊んでてもその子が楽しそうに笑ってたら良いなって思うんです。それと同じ……かどうかはわからないですけど好きな人の隣に自分がいなくても好きなままで、相手の幸せを願えばいいじゃないですか。』

「……うぅ。」

「お願いします、出頭してください。まだ、貴方は止まれる。やり直すことができるんです。」

「……私は……好きだッタだけなの。だめダったかな。」

恋愛、仕事、友人……異能者だから制限されるということはザラにある。

「……見るだけで幸せだったんだけどなぁ。」

体が小刻みに震えだし、少しずつであるが、異能による体の異形化が収まり、人に戻りつつある。

このままいけば、きっと止まってくれると優禍は確信していた。

 

様子がおかしい。小刻みであった震えは徐々に大きくなり、浮遊していた目玉は赤く血走る。

『……大丈夫ですか? 』

「ジャマ。」

『え? 』

次の瞬間、右の脇腹に激痛が走る。

死角からの眼球が脇腹を撃ち抜いた。

「あたしを邪魔すルな。」

今までの消極的な態度から一転、激昂し無数の眼球をそこらかしこにぶつけ続ける。

今のやり取りで何か気に障ることを言ったとは思えない。体の異形化も進行しまるで無理やり異能を使わされているかのようにひたすらに目玉を生み出し続けている。

このまま放置しておけば、西谷くんやお姉さんだけでなく関係ない近隣の人にも危害を加えてしまうだろう。

『……何で怒ってるのかわかりませんけど。』

まだ痛む脇腹を押さえながら、一度消した闘争の炎を再び灯す。

「邪魔! じゃま! ジャマ! 邪魔!! 」

『すみませんが無理やり、止めさせていただきます。』

 

〜同時刻、公園から少し離れた場所〜

「え? どこここ? 」

未だ混乱の渦に飲まれている自身の記憶を慎重に辿ると魚の開きが頭についた異能者に拉致られ脅されていたところ、仮面ライダーが来て目玉魚といきなり戦いだした。

と思ったら急に視界から入る情報が特撮から暗闇へと切り替わった。

何度反芻しても頭が追いつかず、呆然としているとコロンと小石がどこからか転がり、足元に止まる。

「西谷くん、やっぴー。」

突如として転がってきた小石が青髪のえびす顔に変化する。

「うおぉお!? 」

小石が人に化けたことに驚き反射的に距離をとろうとするが、いきなりのことで足が絡まり盛大に尻もちをつく。

「先輩?! ですよね!? なんで? 」

「後々説明するわ。そんじゃ警察駆け込んで助け求めてね。あの黒髪の子が呼んでるはずだから。」

「いやちょっと待ってください、先輩はどうするんすか。」

「ん? さっきのところ戻る、そんでちょっかい出す。」

「マジすか。」

「君も見たでしょ、あのアーマーくん。言っても俺も異能研の副部長だし、異能研究に携わる者としてあんなもん見逃すわけにはいけんのよ。」

親が隠していたお菓子を見つけた子どものように、その男はニンマリと口角を上げる。

「……あの。」

「ん? 何でしょ。」

「俺も連れてってください。」

 

〜知念公園〜

平和的解決への道は見るも無惨に崩れ去り、今は飛び向かい来る無数の目玉を仮面の異能者は避け続ける。

ブランコにシーソー、ジャングルジムに野球用フェンスと公園内にあるもの全てを利用して猿のような身のこなしで走り駆ける。

走り続けなければ当たってしまう。

先程のように撃ち落としをしたいが、先の比ではないほどの目玉の量。

今では撃ち落とすことはおろか、触手をほぐす暇も与えてくれないだろう。

「頼むよ! ドケヨ! 」

ダメージは先ほどの脇腹で嫌という程わかっている。

覚悟を決めなければ。

野球用フェンスの金網を掴み、水泳の授業の水平スタートに構える。

ポジション、足の水分、覚悟、すべてが完了した。

(骨の一本二本くらい……くれてやる。)

そう決意し、いざスタートを切ろうとしたした時、

「おい! 魚頭! 」

(西谷くん! )

西谷くんの声に反応し、こちらを向いていた無数の目玉が一瞬コチラから目を離す。

この機を逃してはならない。

腕の触手を伸ばし拘束、コチラに引き寄せる。

それと同時に、フェンスがへこむほどの跳躍で一気に距離を詰める。

(……ごめん! )

渾身のドロップキックは、枯れ木のような体に深々と突き刺さった。

 

簡易拘束具をはめ、ようやく一息つく。

警察も来る途中に呼んだから間もなく来るだろう。

「どうも、マスクの人。」

ニコニコと笑いながら睦月先輩が向かってくる。

その二歩後ろには西谷くんが興味津々な顔でコチラを見ている。

「色々聞かせてもらってもいいかい? そのアーマーとかあんたの異能のこととか。勿論サツが来るまで答えられる範囲で。」

『……。』

「んー……言いたくない? もしかして寡黙なタイプ? 」

流石にこちらの雰囲気を汲み取ってくれたのか

『今日のことは他の誰にも言わないでください。』

精一杯の低い声を出しこちらのお願いを聞いてもらう。

「……あんたにも事情がありそうだし、若い芽には腐ってほしくないからあんたの言う通りにするよ。」

『……ありがとう。』

 

〜翌日、学校〜

脇腹が痛む。昨夜の目の激突が原因ではあるのだが、夜遅くに異能者と戦っていたなんて家族には間違っても言えない。

今度田中さんに相談をしてみよう。

そんな事を考えていたら、午前の授業の終わりを知らせるチャイムがなった。

「おっつかれー優禍、お昼行こ。」

〜食堂にて〜

「そういやそっちの部活どう? 確か異能研究会だっけ、結構イロモノって感じだけど。」

十上はお弁当を、直海は唐揚げ定食をそれぞれ頬張りながら二人はお喋りに花を咲かせる。

「暇な時間が多いけど結構楽しいよ。あと、昨日初めて部活動ぽいことしたんだ。」

「へー、けどその研究会の部活動って想像つかないけど……どんなの? 」

「ストーカーの撃退。」

「……優禍、その部活辞めたほうがいいよ。」

 

放課後足取り軽く部室へ向かう。

すると、いつもの二人の先輩に加えてもう一人先客がいた。

「西谷くん……? なんでいるの? まさかまたストーカーとか……。」

そこには楽しそうにトモさんと談笑している西谷くんの姿があった。

「あぁ違う違う、西谷くん入部してくれたのよ。朝イチで。」

「トモさんもテンション上がってるでしょ、話し相手できて嬉しいんだろうね。二人共特撮系オタクだったけど、同じステージでお喋りできる相手いなかったんだって。」

「はぁ……。」

 

「トモさん……助けてくれたあの人……。アーマーといい、マスクといい……分かりますよね。」

「……メッッチャ仮面ライダー。」

「ですよね!! 」

すごい意気投合している。

「すごい馴染んでますね、西谷くん。」

「うんうん。賑やかでいいねぇいいねぇ。」

仲間が増えた。

 

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