シャーレの先生 アカシア   作:電シャーク

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短めです。


美食神と食運に恵まれた少女

一龍がミレニアムにやって来る少し前のこと。

その事件―――事件にはなっていないのだが、とある昼下がりに突然発覚した。

 

GTロボの研究のため預けているアロナの端末から、この日シャーレの当番を務めていたユウカ宛に連絡があった。

 

「アカシア先生。ミレニアムの生徒が変わった魚を見つけたとのことで、おそらくグルメ食材ではないかと」

「ほう、魚か」

 

ガララワニの発見以降、キヴォトス各地で未発見の植物や動物の発見事例が相次いでおり、グルメ食材か否かの確認がアカシアによって行われている。報告件数は一日に数件程度だが、危険な食材が混じっている場合も考えられ、その判断はアカシアに委ねるしかないため、発見したら直ちにシャーレに連絡するよう連邦生徒会から通達が飛んでいる状況だ。それを悪用したゲヘナ生からの虚偽報告や出動要請等の事件も発生したため、発見時にはなるべく写真を添えるよう伝えてあったのだが―――

 

「あれ、写真が無い…ノアから追記がある。『捕獲者はC&C、〆た状態ではなく捕獲後水槽で泳がせている、写真撮影はしない方が良いと言われて断られた』…?どういうことなんでしょう?」

「しない方が良い…?うーん、身が透明とか…いや、それなら『しない方が良い』なんて書き方にはならないか…」

「C&Cがこの後捌いて実食予定、とも書いてありますね。魚の特徴は次のメールに記載と…あ、言ってたら来ました」

 

アカシアが魚の正体に知識を巡らせている間に、ユウカが次のメールを開き、魚の特徴を読み上げていった。

 

「えーと、大きさは50センチから60センチくらい」

「ふむ…サバくらいか」

「風船のような丸型で、鱗がない」

「…うん?」

「胸鰭、尾鰭が手足のように長く」

「―――――」

「口には厚い唇がついていて、太ったイルカのよう…うーん、本当に変な魚で―――」

「色は!?色は何と言っている!?」

「えっ、えーと確か、白だって―――」

「いかん!!」

 

ガタン!と机を蹴飛ばしそうな勢いで立ち上がったアカシアは、上着を羽織り、部屋の外へ駆けだそうとする。

 

「ユウカ!!ミレニアムに今すぐ電話するんだ!!その魚を食べては、いや触れてはいけない!!私が行くまで水槽にも近づくな、と!!」

「き、危険な生物なんですか!?」

「ああ、おそらく間違いない!!」

 

初めて見るアカシアの非常に焦った姿に、ユウカの緊張が高まる。

 

「彼女たちが捕まえたのはおそらくフグ鯨!!私の世界でも有名なグルメ食材だが、同時に超強力な猛毒を持つ、危険な特殊調理食材だ!!1匹でミレニアム全校生徒を毒殺できる程の劇毒を有しているぞ!!」

 

アカシアの言葉を聞くや否や、青ざめたユウカが急いで電話をかけた。

 

「ノア、私よ!!今すぐ先ほどの魚のところに向かって!!C&Cの方が捌こうとしているのは、非常に危険な有毒魚で―――え、ど、どうしたのよノア!!?」

 

ユウカの焦った声と、彼女のかけている電話からかすかに聞こえてきたノアの悲鳴に、アカシアが立ち止まって電話を奪った。

 

「もしもし、私だ、アカシアだ!ノア、一体何があった!!?」

『あ、アカシア先生、その…今ちょうど、C&Cの方が例の魚を捌いている現場に居るんですけど…』

 

まさか手遅れだったのか。

そんな最悪の予想がアカシアの脳裏をよぎった―――――が。

 

『…何か、捌いたら、その魚が金色に光り始めたんですけれど…』

 

 

 

 

 

 

「フグ鯨おーいしー♡」

「うん…すごく、美味しい」

「ええ、これほど美味しい魚は生まれて初めてです」

 

ミレニアムの一室で、C&Cメンバーが歓声をあげている。

机の上にはピンク色の美しい刺身が盛られ、牡丹の大輪が咲いたかのようだった。

つい一時間ほど前に、C&Cのメンバーが捕獲した魚―――フグ鯨の活造りである。

 

「…!!(ガッガッ)」

 

部長のネルは無言でフグ鯨の刺身をがっついている。稀少性では先日のガララワニとは比べ物にならない程で、アカシアの世界でも珍味と称され口に出来る者は少なかった、至高の海の幸だ。無言で食に集中してしまうのも、無理からぬことであった。

 

一方、同じく舌鼓を打ちながらも、どこか複雑そうな表情を浮かべているのが、アカシアとユウカ、ノアの3人だった。

 

「…フグ鯨は私の世界でも有名な特殊調理食材でな。体内の袋に蓄えられた毒は、小指の爪先ほどの量でマウス10万匹を殺せる強さを誇る。しかも非常に繊細な魚で、うかつに触れれば瞬く間に全身が猛毒に浸される。毒袋が小さな体内のどこにあるか分からないから、捌いて取り出すのも一苦労だ。私の世界でも、毒化させずに捌ける人物は両手で数えられるほどしか居ないという、普通のフグとは比べ物にならぬほど調理の難しい食材…の、はずなんだが…」

 

ユウカがチラっと部屋の端に置かれた水槽を見る。

元々フグ鯨が入っていた水槽は、今は水が抜かれており、代わりに見るからに毒々しくグロテスクな袋らしき物体が、厳重に封をされて保管されていた。

 

「…確か、見つけたのも捕まえたのも、捌いたのもアスナさん…なのよね?」

「ええ…実はC&Cに捕まえたって報告もらってから、ずっと同行してたのよ。それで、電話もらった時にはもう捌き始めてて…振り返ったらアスナさんが毒袋取り除いて、金ピカに光ってました…」

「…写真を撮るなと言ったのも、アスナだったのか?」

「はい、カメラ取り出したら、『何となくだけど、止めておいた方がいいかもー』って言いだして…他のメンバーも『アスナの勘だから』って同調したので…それで、せめて捌いた後の姿を、と思って着いて行ったわけですが…」

「そもそもどうやって毒化させずに捕まえたんでしょうか…?その後水槽に入れたり、まな板に置いて捌いたり…うーん…」

 

美味しいことは美味しい。

だが、食べれば食べるほど疑問が湧いて止まらない。

 

「…私たちの世界には、食運、というものがあるんだが」

 

アカシアの話に、ユウカとノアが耳を傾ける。

 

「良い料理人は食材を選ぶのではなく、食材が料理人を選ぶ、という言葉があって、それに代表されるように、希少な食材を発見したり、正しい調理方法が自然と分かったりと、食に恵まれ食の恩恵を受けられる能力と言えるのだが…彼女、一之瀬アスナには、その食運がふんだんに身についている、と考えるべきだろうな…いや、だとしてもフグ鯨を初見で、かつ適当に捌いたにも関わらず、毒袋を除去して完璧に仕上げるレベルというのは、過去に例が…うーん…」

 

アカシアの世界の観点からも、かなり非常識なことをしてのけた、という事だけは確かなようだ。

 

「…まあ、考えても仕方ない。せっかくのフグ鯨だ。ちゃんと食べようか」

「「賛成です…」」

 

兎にも角にも、最高級の魚の刺身を食べる機会に恵まれたのは間違いない。

切り替えて食べようとするも、やっぱり心のどこかに、何か納得いかない、というモヤモヤした気持ちを抱えることになった、ユウカとノアであった。

 

そして、そんな二人の心情などいざ知らず、類稀なる食運の持ち主―――一之瀬アスナは、フグ鯨の美味しさを満喫するのであった。

 

「おーいしー♪」

 

 

 




余談:
リオ「………この毒袋も………味覚のデータ収集のために………必要、かしら…?」
トキ「え…えっと…!?(オロオロ)」
ヒマリ「貴女一人で!!!実験してなさい!!!」


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