シャーレの先生 アカシア   作:電シャーク

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プロローグ2話目です。


美食神、美味しいご飯を振舞う

ガララワニの食事会から1週間。

招待された生徒たちは皆、これまでの人生で味わったことのない極上の肉に舌鼓を打ち、各々の学校でその美味しさを存分に語った。

噂が噂を呼んで、シャーレのオフィスには数多くの生徒たちが訪れ、その全員に惜しげもなく振舞われた結果、数トンはあった肉は数日で無くなってしまった。

生徒たちには今もその美味の記憶が色濃く残っている。この日シャーレの当番でオフィスを訪れたミレニアムの才女、早瀬ユウカもその一人だった。

 

「この間のガララワニ、美味しかったなぁ…!」

「そうだろう?アレが私たちの世界でも有名な肉だ。みんなに食べてもらいたいと思ってたんだよ」

 

2人が今居るのはキッチンだ。

朝一番で到着したユウカに、アカシアが朝食を振る舞ってくれるということで、またあのワニ肉に匹敵するくらい美味しいものが食べられるかもしれない、と思い、御相伴に預かることにしたのだ。

 

「アカシア先生が別の世界から来たって話、正直半信半疑だったんですけど…嘘じゃなかったんだってよく分かりました。キヴォトスに居ないですもん、あんな怪獣」

 

アカシアに食事会に呼ばれ、扉を開けた瞬間に見たガララワニの恐ろしさは、美味しさと同じくらいはっきり覚えている。

そんな思い出を苦笑いとともに口にしたのだが、何故かアカシアの反応は鈍かった。

 

「うーん…正直ガララワニは、私の居た世界では下から数えた方が早いくらいの生き物だったからなぁ。怪獣と言われてもピンと来ない、というのが正直なところだ。同じワニなら、このビルを丸呑みに出来るくらいのやつも居たし

「それはもうワニじゃなくて怪獣そのものですよ!?」

「それを丸呑みできる魚とかも居た」

「食物連鎖どうなってるんですか!?というか人間が生きていける環境だったんですか!?」

 

あの怪獣みたいなワニですら格下とか、ビルを丸呑みにするワニや魚が居るとか、一体どんな魔境なのかと、ユウカは再び恐怖を覚えた。実際魔境なのは間違いないので、その恐怖は正当なものではあるのだが。

そんなユウカの心情を知ってか知らずか、アカシアは話を続けた。

 

「そう思うのも無理はないが、グルメ細胞の恩恵で並外れて強い人間も多かったからな。危険な環境や猛獣を跳ね除けるだけの強さもちゃんと持っていたぞ」

「あ、そういえば食事会の時仰ってましたね。確か、美味しいものを食べれば食べる程強くなれるっていう細胞…」

「ああ。グルメ細胞を取り込むと、生き物は何であれ美味しくなるし、強さも得られた。さらに、美味い食材を食べれば食べるほど細胞のレベルがあがり、強さも旨味も格段に上がっていく。だから、強い猛獣は概して美味しいことが多かった。そうした強い猛獣を食して細胞のレベルがあがり、さらに強くなるという循環だ。加えて、グルメ細胞は自然環境や植生にも影響を与えてな。チョコの泉やタラバガニの身がなる木とかも存在していたぞ」

「へぇ…」

 

想像だけで生唾が止まらない。あんなに美味しいワニ肉に匹敵、もしくは凌駕するものが、それこそおとぎ話のお菓子の家なんて目じゃない程に溢れかえっている。しかも食べれば食べるほど強くなれる。そんな食の楽園に思いを馳せるが、すぐに頭を振って現実に戻ってきた。

 

「美味しそうですけど、こっちの世界にはありそうにないですね!」

「いや、それがそうでもない」

 

そういってアカシアが持ってきたのは、寸胴鍋だった。蓋を開けると、コンソメを思わせる良い香りが鼻腔をくすぐる。アカシアは鍋の中のスープを掬い、器に入れてユウカに渡した。

 

「先生、このスープは……? すごく、美味しそうな匂いがするんですが」

「いや、アビドス砂漠から良さげな匂いがしたから探索してたら、でかい蛇みたいなロボットが出てきてな

「先生? 何やってんですか先生??」

 

…何やら思ってもみない方向に話が転がり始めた。

 

「グルメ細胞の気配も感じたから、ノッキングして表皮を剥いだんだ

「先生!? ロボットなら表皮じゃなくて装甲ですよね先生!?」

「で、煮出してみたらいい味のスープが出来た」

「どこからロボットの装甲で出汁とるって発想出てくるんですか!?!?」

 

正体不明のロボット(ビナー)から煮出した得体の知れない汁なんて口に出来るはずがない。常識的に考えて当然の話である。もちろんスープを突き返そうとしたユウカだった、が。

 

「炊き出しで振る舞ったら大好評だった」

「先生ぇ!?!?!?」

 

だいぶ手遅れだった。しかもちゃんと美味しいらしい。

 

「まあ、アナザ食べてないと直接食べるのは難しいし、出汁を取るというのは我ながらいい発想だったと思う」

「だからって無断でそんなものを炊き出しに使わないでください! っていうか、アナザってなんですか!?」

「私が前いた世界の星のフルコース、魚料理だ。食べると何でも食べれるようになる

「は?」

 

たべると?

なんでも?

たべれる?

 

意味は分かるはずなのに、意味が分からない。

以前モモイが見せてくれた、猫が宇宙を感じている写真を思い出す。多分それと同じ顔になっている、と直感した。

 

「例えば私達に人間にとって有毒なきのこも、昆虫にとっては上質な餌だ。アナザはそういった垣根を取っ払ってくれる」

「頭痛くなってきました……じゃあ先生はその装甲美味しく食べれるんですか?」

「いや、試しにかじってみたらあんまり美味しくなかった」

 

よかった、まだ常識の範疇だ。

 

「妻が一緒に来ていれば、絶品の料理にしてくれたのだが」

 

前言撤回。常識は煮込まれて溶け去っていた。というか装甲を料理ってそれは料理なのか。

 

「……そもそもなんで機械の装甲に味が……」

「多分だが、あの装甲は私達の世界の物質を流用してるんじゃないか? 私達の世界の装甲とか、たいていグルメ生物の角とか牙とかだしな。そういった生物の素材はグルメ細胞のレベルにあわせて頑丈になる傾向がある。なんだったらグルメマターなんて物質もあるしな」

 

ユウカは一瞬納得しかけたが、それはつまりロボットにグルメ細胞があるということで、生体細胞のあるロボットはロボットと呼んでいいのか、と次から次へと疑問が湧きあがり、そのほとんどが常識外の領域の話だったため、考えれば考えるほど混乱が深まっていくのを嫌でも感じた。

 

「まあさっきも言ったように、アナザを食べるか妻が調理しなければ、あのロボット蛇の装甲は食べれない。だが、コアだけはみんなでも食べれる代物だったぞ。身近なものに例えると卵の黄身か……とろっとして上品な甘みがあって絶品だった」

「…そう聞くと美味しそうですけど…」

「だからスープに入れてみた」

「これ卵じゃなかったんですか!?」

 

スープに入っていた黄色い塊を見て、てっきりかきたまスープだと思い込んでいたユウカが、想像だにしなかった正体に目を剥いた。つまりこのスープ、ビナー100%である。

再度突き返そうとしたユウカだが、目の前のアカシアの笑顔に邪気はない。是非食べて感想を聞かせてほしいと、善意100%の気持ちで出しているのだ。ごくり、と違う意味で唾を呑みこみ、ユウカは意を決して一口啜った。

 

「…普通に美味しいです…」

 

ロボットから抽出されたとは思えない、優しくて自然な出汁の味と、卵の黄身に似た濃厚な味の塊が、するりと喉を通り抜け、身体を内側から温める。悔しいが、シンプルにとても美味しかった。

 

「そうだろう?ご飯を入れておじやにしても美味いぞ!」

「…お願いします!」

 

スープの正体は一旦棚に上げ、目の前の美味しい朝食を味わうことにしたユウカ。その様子を嬉しそうに見ていたアカシアだったが、ふと、恨みがましい気配を感じ、慌てて懐のタブレットを取り出した。

 

『ふーん。先生は今日も美味しいご飯に舌鼓ですかー。画面の向こうの私をよそに、生徒と一緒に美味しいご飯を堪能中ですかー。いいですねー。いいですよねー』

「あ、アロナ?いや、お前のことを蔑ろにしているわけではなくてだな?」

『いえいえー。ご飯食べれない人のことなんてお気になさらずー。私だっていいですもーん。食べる必要なんてないですもーん。羨ましくなんてないですもーん』

「ほ、本当なんだアロナ!お前を放っておいて私と生徒だけ美味しい思いをしようなんてつもりは微塵もなくて…!」

 

アカシアの持つタブレット内に存在するAI『アロナ』は、先日から美味なる料理をさも美味しそうに食べ続けるアカシアと生徒たちに、分かりやすい嫉妬を向けていた。どんなにねだっても、画面の中の自分にその食感も、香りも、味も、何も伝わることは決してない。

そんなことは、アロナが一番分かっている。だからこれは子供じみたワガママだ。自分のことを放って美味な食材に執着する「先生」に、少しでも自分の悲しみを理解してもらうための。

 

だが、アロナが悲しむ以上に、アカシアはそのことを悲しんでいる。

何故なら彼は美食神。美味しい食事を誰かと分かち合い、美味しいと喜ぶ笑顔を何よりの宝とする男なのだから。

 

(…やはり着手するしかないか、GTロボの作成に)

 

かつてアカシアが居た世界で広く利用されていた、味覚も含めた五感を搭載する遠隔操作人型ロボット。アロナと出会った直後から、この技術をアロナに搭載し、自らの足で自在に歩き回り、食べ物を探し、その手に掴んで、目一杯食べ物を味わってほしい―――そう考えていたアカシアだったが、彼自身にはあまりGTロボに関する知見はない。どういう機能があり、どういう動きをするかを伝え、ミレニアムの研究機関で作ってもらう以外の方策はないのだ。

 

(せめて一龍か三虎が居れば…いや、そうではないな。これは分不相応にも、美食神などと呼ばれるに至ってしまった自分が為すべき責務。グルメ食材が目の前にあるのに味わえないなど、この私が許していいことではない…!)

 

無駄に希望を持たせる真似をしてはいけないと、アロナには今まで話さないでいたが、食べ物が食べられないと悲しんでいるのなら話は別だ。幸い今日の当番はミレニアムの生徒。相談するには絶好の機会だ。

アカシアは決意を新たに、アロナとユウカに「ちょっと聞いてほしい話がある」と相談を始めた。

 

(見ていてくれ、フローゼ、一龍、次郎、三虎、そしてペア、NEO、トリコ、スタージュン…!私は今度こそ…正しく人の心を食で満たしてみせる…!)

 

自らの過ち、自らの責務、そしてこの世界に降り立ったこと。

全てを呑みこみ、美食神アカシアは再び歩み出したのだった―――――

 

 

 

 

―――――なお、それから一か月もしないうちに。

彼が誰より大切に想っていた最愛の妻と3人の息子、そして血肉を分け合った親友も、キヴォトスにやって来たのだった。

 

 




なお分不相応だと思っているのは彼だけ。
お前がトリコ世界にもたらした功績を振りかえってみろ。

どれが見たい?

  • 前菜×梅花園
  • 魚料理×セミナー+ヒマリ
  • 肉料理×シスターフッド
  • メイン×連邦生徒会+カンナ
  • デザート×陰陽部
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