シャーレの先生 アカシア   作:電シャーク

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次郎編、これにてラスト。短めです。


次郎、トリニティにて咆哮する(4)

 

 

トリニティ校舎内。

数千人が倒れ伏したままの校庭から近い校舎内の、とある教室。ティーパーティーの3人の控室、もとい避難場所となっていた教室に、次郎が戻る。

そこにはティーパーティーの3人の他に、1人の男が居た。

 

「早い到着でしたな、アカシア先生」

「何が起こるか分かってたからな。備えていたまでさ」

 

次郎と電話をした翌日、アカシアはフローゼと一龍に連絡し、風紀委員会やC&C、便利屋68等の実力派集団を、それぞれの学校から派遣してもらっていた。何が起こるかを具体的に伝えることは出来ないので、トリニティで重大な事件が発生する可能性があるとだけ伝え、学区境界点近くで待機してもらっていたのだ。

すでにトリニティで異変が起こったことを察し、続々と向かっているとの情報が入っている。正確に言えば、次郎の咆哮の余波が学外まで届いたため、それが突入の合図になったのだが。

当然、咆哮の余波が及んだトリニティ学区の街は、どこもかしこも大混乱である。

 

「一応だが、拘束という形を取るぞ。この後ヴァルキューレの子たちが来た時に、お前の身柄を引き渡すことになるからな」

「承知しました。では次の巡回先はヴァルキューレ警察学校ですな」

 

数千人の生徒が意識を失う大事件が起こった直後だというのに、二人の会話は微笑すら交じる程に事も無げだった。

ティーパーティーの3人も、次郎が吼える直前にアカシアが訪れていたことから予想はしていたが、何が起こるか知っていたのだ、という事実をまざまざと見せつけられることになり、恐怖に満ちていた心に怒りの火が灯った。

 

「…知って、いたなら」

 

血を吐くような声で、ナギサが呟く。

 

「この方が何を起こすか、知っていたなら…!何故止めてくれなかったんですか…!?」

 

次郎とアカシアが、ナギサを含めたティーパーティーの3人を見下ろす。ミカとセイアも言葉にはしていないが、俯いたまま拳を強く握りしめており、ナギサと同じ気持ちであることは明らかだった。

一歩前に出ようとした次郎をアカシアが手で制し、はぁ、と溜め息をついた。

 

「言いたい事は尤もだがな。今回の件は、トリニティ生徒による不適切な行動、侮辱にあたる不用意な言動が原因だ。止めなかったことを咎めるならば、それを統率出来なかったお前たちティーパーティーにも大きな責任がある」

 

品行方正を謳いながら、裏で策謀や暗闘を繰り返すトリニティ生たちの気風は、アカシアも知っていたし、そうした生徒たちと次郎とは相性が悪いだろうと予測もしていた。しかし、トリニティからグルメ関連の専門家の招聘を再三要請されていたこともあったため、その要望を受け入れて配慮したまでだ。

その後のトリニティ生による、アカシアの悪い予想をさらに下回る対応の数々は、流石に配慮の余地はなかった。家族を馬鹿にされて息子が怒り狂っている、という贔屓目を抜きにしても、である。

 

「お前たち、次郎のパーソナリティに関する情報収集のために、自分の派閥の生徒に勝手な行動を許しただろう?会食するぐらいならともかく、未成年の身で酒を送ったり、当人が慕う人間を平気で侮辱したりと、擁護できん行動が多過ぎる。無礼過ぎることを口走った生徒だけを諌めることも勿論出来ただろうが…その一回、その一名を注意するだけでは、トリニティという学園全体の気風を変えるには至らない。それを改めるためにも、次郎に行動の自由を許した次第だ」

 

3人がごくりと唾を飲む。ティーパーティーの狙いも、各派閥内での動きや目的も、完全に見通されていた。ミカが想定していた通り、トリニティ生が考える謀略や暗躍など、アカシア達にとっては文字通り児戯でしかなかった。

 

「それにお前たち自身も、互いに内緒で色々策謀を巡らしてたんだろう?」

 

そしてアカシアが見通していたのは、今回の事だけではない。

彼女たちティーパーティーが、互いに内緒で巡らせていた策謀についても、完全に掴んでいたのだった。

 

「補習授業部の設立理由」

 

アカシアに指さされたナギサが、口に手を当てて悲鳴を堪えた。

 

「予知夢」

 

次に指さされたセイアは、目を丸くして絶句した。

 

「アリウス学区との密約」

 

最後に指さされたミカは、大きくビクッと体を震わした。

 

指摘された3人が、互いの顔を見合う。その表情は、3人とも幽霊でも見たかのような、信じられないという衝撃に満ちたものであった。

その様子を見て、アカシアは再び、はぁ、と溜め息をついた。

 

「…まあ、こうなってしまっては全部“未遂”で終わるがな。エデン条約、大いに結構だが…立場上仕方ないのだろうが、もうちょっと学生らしく、清々しい青春を過ごしてもらいたいと思うよ」

 

そう言うと、アカシアは窓の外に視線を投げかけた。

学園の門の方角から複数の車両が近づく音が聞こえてきた。待機していた部隊が到着し、突入してきたのだろう。ヴァルキューレのパトカーのサイレンも混じっている。

アカシアは次郎の腕に形式的に縄をかけ、教室の外に連れ出た。ヴァルキューレの生徒たちに次郎の身柄を引き渡しつつ、ティーパーティーが居る部屋まで案内するためだ。

 

教室の外に出て、扉を閉める直前。アカシアが3人に言い残していった。

 

「難しく考え過ぎだ、お前たち。もっと気楽に生きていいんだよ」

 

扉が閉まる。

教室に残ったのは、全てにおいて敗北したティーパーティーの3人。

 

アカシアがヴァルキューレを連れて戻るまで、自分たちのありとあらゆる未熟さを呪うように、啜り泣き続けたのだった。

 

 

 

 

 

―――その後。

アカシアが事前に依頼していた、ゲヘナやミレニアムの救助部隊が到着した。

トリニティ全校生徒の9割超が失神していたため、ただでさえ大打撃を被った救護騎士団や近隣の医療施設だけでは到底足りず、各々の学区へ搬送して治療することになった。意識を保っていた残り1割も、病院で検査することになったため、キヴォトス中の医療機関がてんやわんやになった。

結果、トリニティ総合学園は当分の間学園閉鎖を余儀なくされた。

幸い死者は居らず、発狂しかけていた者についても、気絶から目覚めた後は正気を取り戻すことが出来たため、主な負傷被害は気絶のみであった。

 

主犯である次郎は、カンナ率いる公安局の部隊に拘束、連行された。

が、事件の規模が類をみないほど大きく、かつゲヘナを始めとする学区外からの救援を多く受け入れたため、数時間もしない内に事件の全貌がキヴォトス中に広まった。トリニティ生徒の気風を知り、かつアカシア一家と付き合いがあり、彼ら一家の結束の強さを知る者たちは、家族を引き合いに出され侮辱されたのだろう、と察し、トリニティの自業自得と結論付けた。

 

次郎を連行したカンナもその一人だった。

もともとレッドウィンターでの飲酒事件で事情聴取に携わり、次郎の為人はそれなりに知っている。加えて食材の発見やそれに関する事件の報告等で、アカシアとの親交も深い。そのため、駆け付けた時点で、トリニティの生徒が余計なことを口走ったな、と察し、改めて次郎から事情を聞いて整理した上で、ヴァルキューレ警察学校で当分拘束するという処置を下したのだった。

 

 

 

三日後。

連邦生徒会からトリニティへの通達が下った。

 

一か月の休校。

各派閥の実質的解体。

ティーパーティー3名による奉仕活動。

次期ティーパーティー結成時の主要メンバー増員。

トリニティ学区内にて、一定人数以上による集会開催時の届け出の必須化。

そして、ゲヘナ学園との条約締結に向けた各種整備。

ナギサ達ティーパーティーの3人からの提案も踏まえ、その他複数の取り決めが為され、権謀術数が渦巻いていたトリニティの校風を改革すべく、前向きな姿勢が見られた。

 

 

 

「―――で、拘束されているはずの犯罪者が、何で拘束している側に技術指導をしてるんだ?」

 

それはさておき、アカシアに促されて次郎の見舞いに来た三虎だったが、ヴァルキューレ警察学校の武道館で、カンナを始めとした生徒たちに近接戦の立ち回りを指導する次郎の姿を見て、呻いた。

 

「いやぁ、捕まりっぱなしってのも暇じゃし、せっかく学校に居るんじゃから、教えさせてくれないかとカンナちゃんに頼んでの」

「こちらとしても戦闘技術を教えていただけるのは願ったり叶ったりですし。というか次郎先生を拘束し続けるとか無理ですから」

「そりゃあこのジジイが本気で脱走しようとしたら誰も止められんが…捕まりっぱなしになっておけよ、曲がりなりにも犯罪者なんだから」

 

はぁ、と呆れたような息を吐いて、風呂敷包みを次郎に渡した。

 

「ウチの生徒たちから差し入れだ。最近料理の練習中でな。実験台になれ」

「おお、こりゃありがたい」

 

カンナたちに休憩を命じて、次郎はその場で包みを開き、弁当をもりもりと食べ始める。少し塩が利きすぎているが、トリニティの生徒との会食で食べさせられた料理より、遥かに美味しく感じられた。

 

「…釈放されたら、一杯奢らせてくれよ。兄者」

 

三虎が小さく呟く。

兄弟子が自分と、自分の生徒たちのために怒ってくれたことを察し、けれど面と向かって礼を言うのは気恥ずかしく。

再会を祝う一杯にかこつけようとする、素直じゃない弟弟子なりの、精一杯の感謝だった。

 

「おう、楽しみにしといてやるわい」

 

次郎がニッと笑う。

久しぶりに並んだ二人の背中は、仲の良い兄弟のそれだった。

 

 

 

 




以上、トリニティ崩壊RTA編でした。
次回はあーかいぶ形式でティーパーティーの奉仕活動を書きます。

諸悪の根源たるモブ生徒へのお仕置きが足らないように感じるかもしれませんが、その場に居た人は元凶が誰かは、同席していた人間なら知っているし、権力の源たる派閥も解体されてしまったため、どうあがいても針の筵なので、物語の裏で生き地獄です。

あとミネへの説教については、書いてるうちに自然とそうなったと言いますか…。
まずミネ含め救護騎士団が居ないのはおかしい、そしてミネならこう動くはずだし、それを見た次郎ならこう言うんじゃないかな、と考え、自然と筆が進んだ次第です。

で、書いてるうちに、アスナ同様ミネがメインとなるストーリーも考え付きました。
まずは残る一龍、三虎の訪問編を書き、いくつか閑話も書いてから、二人の話を書きたいと思ってます。
あと、アスナ、ミネと思いついたので、ゲヘナでも誰かメインにして書きたいですね。

それでは、今後ともシャーレの先生アカシアをよろしくお願いいたします。
感想お待ちしております!ありがとうございました!

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  • 前菜×梅花園
  • 魚料理×セミナー+ヒマリ
  • 肉料理×シスターフッド
  • メイン×連邦生徒会+カンナ
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