シャーレの先生 アカシア   作:電シャーク

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サブタイトルに明記はしていませんが、前後編の後編にあたるお話になります。
一話前の話を読んでいない方は、先にそちらをお読みください。


美食神と微笑むアヌビス

 

 

 

―――深夜のキヴォトス。

高層ビル群が立ち並ぶ区域、その中でも一際大きいカイザーコーポレーションのビルは、丑三つ時にあっても灯りを絶やすことはなく、支配者の如く光を放っている。

 

そんな支配者の如く聳え立つビルを、少し離れたビルの屋上から睥睨する少女がひとり。

 

喪服のような黒いドレスを身に纏い、物憂げな雰囲気を漂わせる銀髪の美少女だった。

夜空の美しさを切り取ったような美貌のなかに、儚さと陰鬱さを孕んだ瞳を浮かべる彼女は、何をする訳でもなく、カイザーのマスコットであるタコのネオンをじっと見つめていた。

支配者の如きカイザーのビルとマスコットのネオンだが、ここ最近のカイザーの失策に端を発する騒動の数々で、ネオンは所々欠けており、ビル自体もどこか煤けたような印象に変わっている。

少女の口の端に浮かぶ笑みは、そんなカイザーの無様を嘲笑するものにしか見えなかった。

 

しばらくカイザーのビルを睨んでいた少女だったが、やがて飽きたかのように目を閉じ、その場を去るため180度反転しようとして―――

 

「―――こんばんは、良い夜ですわね。あの趣味の悪いタコのビルが崩れたら、もっと良い夜になるのでしょうけど」

 

―――後頭部に銃口を突き付けられる。

 

チッ、と黒い少女の口から舌打ちが漏れる。

油断していたつもりはない。だがこうして銃口が延髄に触れるまで、背後に迫る存在に全く気付けなかった。少なくとも自分と同格の実力者とみて間違いない。

更に、突きつけられているのは銃口だけではなく、首元に冷たい金属の感触がある。おそらく銃剣だろう。撃ち殺すも切り殺すも正しく活殺自在、という状態だ。

 

「…後半の意見には同意。けどそれなら、その銃口はあのビルに向けてくれる?」

「残念ながら、今晩は貴女に用事があるので。その楽しみはまた後日に取っておきますわ」

 

そう言うと、銃口と銃剣を突きつける少女は、顔全体を覆う狐面の奥から、くすくすと笑い声をあげた。

 

「貴女の知らないキヴォトスの空気は、どんな味がするかしら?並行世界の砂狼シロコ」

 

―――ピリ、と。空気が冷え切る。

シロコと呼ばれた少女は、静かに殺意のスイッチを入れた。

 

「…そういう貴女は、どの世界でも大差ないんだね。程度が知れるよ、狐坂ワカモ」

 

少ない言葉での挑発に、銃の引き金を握るワカモの指先に力が籠った。

 

チリチリと、二人の間に流れる空気が震える。

 

やがて、シロコがゆっくりと両手を上にあげ、ハンズアップの姿勢を取る。ワカモは油断なく銃口と銃剣を突きつけたまま、その両手の動きに視線を向ける。

 

―――そのワカモの視線が自身の手に注がれているのを感じ取り。

音もなく、シロコのスカート内から、サイクルボトル型のグレネードが滑り落ちる。

 

そのグレネードが地面に着くより早く、シロコの踵がワカモの方へ自然な動きで蹴り飛ばす。

ワカモには、突如視界の下からボトルがせりあがってきたようにしか見えなかった。

 

「!」

 

咄嗟にワカモが、空いた手でグレネードを掴み、自身の背後へ投げ捨てようとする。

その隙を見逃さず、シロコがホルスターから銃を抜き、半分だけ顔を向けて発砲。狙いはワカモが握ったままのグレネードだ。

 

しかしワカモの反応速度がそれを上回る。

即座にグレネードを手放すと同時に、半分振り向いたシロコの死角側へ横っ飛びに移動。

そして同時に、グレネードを握っていた手で自身の銃を掴み直し、空いたもう一方の手で、シロコの背に向けて手榴弾を投げつけた。

それを見て、シロコも咄嗟に逆側へ跳ねる。

 

グレネードと手榴弾、二つの爆発が重なり、爆炎がワカモとシロコを分断した。

 

爆風に煽られながらも着地したワカモは、銃剣を外して握り、炎の向こうに視線を向ける。

 

(逃げたか、それとも―――)

 

炎の向こうにむけて数発発砲。

牽制のつもりだったが、返ってきたのはその十倍を超える弾幕だった。

 

炎を掻き消して、ミニガンを抱えたシロコの姿が現れる。ワカモの姿を視認すると、再度抱え直して掃射を再開する。

 

「どこからあんな物をっ…!」

 

銃弾がワカモの半身を掠める。

流石のワカモも、たまらず屋上を転がりながら避ける羽目になる。シロコが逃げるのではなく戦うのを選択してくれたのは喜ばしいことだが、このままでは近づくことすらままならない。

 

「けど、足元がお留守ですわよ?」

 

ワカモは転がりながら、再び手榴弾を投擲する。

手榴弾はミニガンの放つ弾幕の下を悠々と転がりながら、その銃砲の真下で爆ぜた。

 

「っ───!!」

 

爆風がミニガンを跳ね上げ、抱えていたシロコの両腕も必然的に上がってしまうことになる。誰がどう見ても、大きな隙であった。

 

「疾ッ―――――!!」

 

一気呵成にワカモが駆け出す。その右手は貫手の構え。ノッキング狙いだ。

 

シロコは咄嗟にミニガンをワカモに向けて放り投げる。当然避けられるが、シロコの狙いも当然それではない。

放り投げた反動でくるんと回転しながらバックステップ。着地してさらにもう一歩。

フィギュアスケーターのように舞いながら、ワカモとの距離を稼ぎつつ、回転しながら構えを取る。

 

ワカモと全く同じ、貫手の構え。

もちろん狙いも同じ、ノッキングだ。

 

「はぁぁぁっっっ―――――!!」

「ふっ―――――!!」

 

駆け寄る速度を乗せたワカモのノッキングと、回転の勢いを乗せたシロコのノッキング。

 

二人の貫手が真正面から激突した。

 

「「っ…!!」」

 

槍の穂先のような中指が、互いに互いを押し潰さんばかりにぶつかり合い、拮抗する。お互いの腕は微動だにしないまま、満身の力が手首より先に注がれ続ける。

 

そのまま一秒、二秒、三秒。

歯を軋らせ合い、骨が軋み合い、空気がキリキリと軋み鳴る、素手の鍔迫り合い。

 

―――その拮抗は、上空から降り注いだ爆撃により、強制的に中断させられた。

 

小型ミサイルが二人が腕を突き付け合っていた箇所に次々と着弾し、屋上の床を砕いて土煙を撒き散らす。

直前で腕を引っ込めた両者だが、その場を退くことなく、今度はもう片方の手に持っていた銃を突きつける。

 

二人が戦う真ん中に舞い降りた、不粋な爆撃をかましてきた張本人―――飛鳥馬トキのこめかみに。

 

「何のつもりかしら、飛鳥馬トキ」

 

苛立ちを隠そうともしないワカモだが、アピ・エシェフを身に纏い機械仕掛けの天使の如く降り立ったトキは、その言葉も突き付けられたままの銃口も一切意に介さず、彼女に追随して飛行する巨大ドローンが運搬していた、一軒家ぐらいはありそうな巨大なコンテナをゆっくりとその場に降ろす。

その荷卸しが終わってからようやく、はぁ、と大きく溜め息を吐いた。

 

「徹頭徹尾こちらの台詞です、ワカモ様。貴女がアカシア様と一龍様から請け負った任務は、彼女をぶちのめして身柄を確保することでしたか?」

 

呆れ果てたと言わんばかりのトキの口調に、ワカモが何も言い返せずもごもごと口ごもる。

実際彼女たちが戦う必要なんてものは全くなく、ワカモが勝手に喧嘩を売り、ヒートアップしただけだ。話を聞いてくれる保証がなかったから、と言えば聞こえは良いが、挑発したのはワカモの方からなので、全ての非はワカモにある。

 

何せワカモに託された任務は、目の前の彼女とアカシアが電話越しに話す機会を作るだけのことだったのだ。

 

「改めましてこんばんは、砂狼シロコ様。シャーレにて先生を務めるアカシア様より依頼を請けて参りました、ミレニアムサイエンススクール所属の飛鳥馬トキと申します。こちらは狐坂ワカモ。私と彼女の二人がかりで捜索していたのですが…まさか勝手に喧嘩を吹っ掛けるとは思いも寄らず。ご無礼仕りました」

「…別にいいけど、私に何の用事―――っと」

 

慇懃なトキの挨拶を聞いていたシロコの横っ面めがけて、何かが投げつけられた。

咄嗟にキャッチしたそれは、スマートフォンだった。画面は通話中になっている。投げたワカモは相変わらず狐面を被ったままだが、明らかに不貞腐れていた。

 

「…もしもし」

 

スマートフォンに向かって声をかけると、すぐに返答があった。

 

『こんばんは。こちらの世界のシャーレで先生を務めている、アカシアだ。よろしく、砂狼シロコくん』

 

アカシアの声はとても穏やかだった。

これまで彼女が耳にした大人の声は、悪意に満ちたものがほとんどで、唯一信頼を寄せる大人はまともに声が出せなくなって久しい。そんなクロコをして、アカシアの声からは耳慣れた悪意というものを一切感じず、信頼に値する人だと安心するには十分なものだった。

 

「…こちらの世界の私と紛らわしいでしょうから、私のことは『クロコ』とでも呼んでください、アカシアさん(・・・・・・)

 

だがそれはそれとして、彼女の矜持がアカシアを先生と呼ぶことだけは許さなかった。

 

『先生、とは呼ばないのだね?』

「申し訳ありません、私にとってシャーレの先生とは、貴方ではないただ一人のことですので」

 

きっぱりとした口調で言い切り、狐面越しに睨むワカモの鋭い視線も意に介さない。アカシアもそうか、とだけ言い、それ以上は踏み込まなかった。

 

『こうしてワカモに頼んで君にコンタクトを取ったのは、並行世界から来たであろう君のことが気にかかったから、というのが理由のひとつだが…今日はまあ、その話は置いておこう』

「…驚きました。根掘り葉掘り聞かれるものと思っていたのですが」

『君たちの存在と並行世界、そして君たちの現住居に関しては、一龍があらかた想定していたからな。そこのトキも、正確には一龍の依頼で派遣されてきている』

 

自身を砂狼シロコ本人と知りながら、同じ人間が二人存在する理由について全く問い質さず、現在の自分たちのアジトも含めてすでに想定済みと言ってのける彼らの明晰ぶりに、話に聞いていた通りだ(・・・・・・・・・・)と改めて舌を巻く。

 

「なるほど、ミレニアムサイエンススクールの一龍教授…()から聞いていた通りの傑物ですね」

『おや、もう一人の存在もあっさりと明かすのだね?』

「それも予想済みなのでしょう?一龍教授が関わっているということは、そういうことでしょうし」

 

クロコが肩を竦める。

すでに現住居の情報も予想している、と言っていたので、誰が居るかも当然想像がついているはずだ。

特に、現在の“家主”―――元居た司祭たちを瞬殺して居座り、彼女と彼女の先生にグルメ関連の知識やノッキング等の技術を教えた存在は、一龍と特に関係の深い者なのだから。

 

『まあそこら辺はまるっと置いておいて…今回私が聞きたいのは、栽培、採取の難しい食材の情報を、失敗すること前提でカイザーに横流しした理由についてだ

 

クロコの顔が、痛い所を突かれた、という渋面に変わった。

自分の存在や来歴について聞かれるものと踏んでいたため安心していたが、そっちの方もとっくに見抜かれているものと判断し損ねてしまっていた。

 

そう。

カイザーコーポレーションに生育難易度の高い希少なグルメ食材を提供していたのは、彼女の仕業だったのだ。

 

「…別に、失敗前提で食材の種とかを譲渡していたわけではないです。カイザーがちゃんと貴方方を頼っていれば、恙なく成長して食材として確保出来ていたはずですから」

 

自白とも言い訳とも取れる誤魔化しをもにょもにょと呟く。

 

現在彼女たちは、とある理由からグルメ食材が必要になっている。それもなるべく高レベルで美味な食材を、だ。

普段はクロコが密かにキヴォトスの街中に降り立ち、目立たない程度にグルメ食材等を買い漁っているが、その裏で家主が密かにキヴォトスを探索し発見した高レベル食材やその種子をこっそり回収。連邦生徒会やミレニアムが発見できるよう、売り捌いたりマーケットに流したりして繁殖を促し、より多くの量を確保できるよう手を回しているのだ。

だが、裏取引を介したカイザーへの食材提供については、クロコの行動とその目的は本来の用途から大きく外れていた。

 

『十中八九隠蔽すると知っていながら渡したのだから、その言い訳は通用しないぞ。カイザーへの恨み骨髄なのは理解するが、生徒や街自体に被害が及ぶ真似は良くないし、食材を騒乱の種として無駄にするのも褒められたものではないな』

「被害については、本当にごめんなさい。あそこまで大きな騒動になるとは思ってなかった」

 

事実、メテオガーリックやドドリアンボムが齎した被害のあまりの大きさに、唆したクロコ当人も顔を蒼褪めさせていた。

何せカイザーへの食材横流しは、私怨を込めた彼女の独断である。

アカシアが指摘した通り、カイザーはほぼ確実に隠蔽するが、事前に家主から聞いていたそれらの食材の生態から、最終的に露見して連邦生徒会の管理下に置かれカイザーには罰則、という流れになるとクロコは想定していた。取引時に伝えた生態や栽培方法にもわざと多くの穴を作り、失敗確率が高まるよう細工をしていたのだ。

だが、想定を遥かに超えた大事になってしまったことで、素直に彼女の仲間に話すしかなくなった。家主が大爆笑する一方、彼女が慕う先生から久しぶりに、しかも病身をおしてまできちんとお説教される羽目になってしまい、さすがのクロコも大分落ち込んだ。

 

もっとも、憎きカイザーには大打撃を与えられたし、最終的に食材も回収され管理下に置かれたので、クロコの目的自体は達成出来ている。

加えて、カイザーの大失策が、クロコにとって思わぬ福音をもたらした。

 

「でも…ありがとうございます。被害によるカイザーからの賠償を、わざわざアビドスの借金の補填に充ててくださって」

 

栽培の失敗により発生した被害をアカシアが抑えるにあたり、その報酬をアビドスの借金に充ててくれたことは、クロコにとって一番の想定外であり、望外の喜びであった。

アカシアとの電話会談に応じたのも、そのことへの感謝をどうしても伝えたかったからだった。

 

『君に…君たちにどんな不幸が降りかかったのかは知る由もないが…私の知る砂狼シロコなら、誰より何よりアビドスの皆を大切に想う心が移ろうはずがないからな』

 

アカシアとて最初からクロコの仕業だと勘付いていたわけではなく、報酬をアビドスの借金に充てたことも偶然の産物だ。

 

以前からアビドス学区以外でシロコの姉らしき人物を見かけた、という噂を聞いており、アカシアは密かに調査をしていたのだが、カイザーの食材密造とは結びついていなかった。しかしメテオガーリックの一件でコユキがカイザーの機密をハッキングした際に、その情報を確認してクロコの手引きに気付き、一龍と共に本格的に調べたことで、クロコの大まかな事情を把握するに至ったのだ。

以降、ワカモやトキに依頼してクロコとの接触を図っていた。そしてクロコ自身も、自分が遠因となった騒動の報酬が、愛するアビドスの借金に充てられ、大幅に減額されたことを知り、涙が出るほど喜んでいた。

 

「本当は貴方方を頼るべきだと理解してはいたのですが…」

 

そしてもう一つ伝えたかったのが、素直にアカシアたちを頼らなかったことへの謝罪であった。

グルメ食材が必要となった時に、スペシャリスト中のスペシャリストであるアカシア一家を頼る、という案は当然真っ先に出たのだが、家主が猛反対したのだ。しかも明確な理由ではなく、感情的な理由で、である。

あまりに強硬に反対するため、密かにアカシアたちを頼るという手段を取ることも躊躇われた。

 

『それも分かっているさ。私や一龍に頭を下げるのを、あいつが嫌がったんだろう?それについては、我々が謝らなければならないな』

「いえ、ぶっちゃけ私も先生も、色彩をマヨネーズやドレッシングにして平気で食べてる貴方方にドン引きしてた部分はありましたので…」

 

これは心の底からの本音である。彼女や彼女の先生の人生を大きく狂わせた色彩をひょいひょいぱくぱく食べるアカシア一家の姿は、正直今でも全く理解が出来ない。ちなみに家主も平気で食べていたが、「脂っこくて好かん」と感想を述べていた。

 

『現状必要なのはグルメ食材…それもなるべく栄養価があって美味な、捕獲レベルの高い食材が要る、という理解で良いのかな?それであれば、トキに食料を持たせているから、受け取ってほしい』

「その通りです。有難く頂戴します」

 

改めて、トキが運んできた一軒家並の大きさのコンテナに視線を送る。

あのコンテナ一杯にグルメ食材が入っているのなら、成層圏を浮遊しているため食材の確保に難儀している自分たちにとっては喉から手が出るほど有り難い贈り物だ。

まあどうせ、この量を見てもあの家主はしょぼいだの少ないだの、ブツブツ文句を言うのだろう。そう思うと何だか可笑しくて、自然と笑みがこぼれてきた。

 

『私からは以上だが…トキ、一龍から何か伝言はないか?』

 

一龍が傍らに控えたままのトキに声をかけると、一歩進み出て話し始めた。

 

「一龍先生から伝言です。『あの時は邪険にしてスマンかった。その内会いに行くから、今更だがまた一緒に飯を食おう』と」

 

伝言だけだが、背後に居る本人のばつが悪そうな表情が浮かぶようだった。

 

「了解、伝えておく。…けど、あの人変なところで意地っ張りだから、また頑なになっちゃうかもね」

「はい、一龍先生もそのことを心配されておられました。拗れないといいのですが」

 

他人事のように伝えるトキからは困った様子は見受けられないが、クロコは軽く自分の胸をトンと叩き、その伝言を請け負った。

 

「ん、大丈夫。上手く伝えておくよ―――私たちも、あの人には返しきれないぐらいの恩があるから」

 

突然自分たちの住居に現れた時は、死を覚悟するほどに恐れ戦いたものの、自分たちを良い様に操る無名の司祭たちを事も無げに一蹴したばかりか、自身の細胞を分け与えることで先生の治療にもあたってくれている。自分が踏み躙ってしまったと思い込んでいた先生との絆も、彼の仲介で取り戻すことが出来た。今は先生と彼、そして先生の持つ『シッテムの箱』の管理者の4人で、毎日穏やかに食卓を囲むことが出来ている。

クロコにとっては、返し切れないぐらいの恩、なんて言葉では済まない程の大恩人であった。

 

『では、私はこれで。次来る時は食事をご馳走させてくれ。君の先生にもよろしく』

「はい。次は直接お会いして、正式にご挨拶させてください。ありがとうございました」

 

そう言って会話を終え電話を切るや否や、ワカモがつかつかと早足で近寄りひったくるように電話を奪い取る。そしてその代わりに、クロコの手に別のものを握らせた。

 

「はいどうぞ。喧嘩売った詫び代わりの食材ですわ」

「…何これ?」

 

突然持たされた大きな木の実のような食材を、怪訝な顔でくるくると弄びながら問いかける。

 

「ラブリーカカオ。私がフルコースのデザートに入れようと思っているチョコの原料ですわ。せいぜいこのカカオを使って、想い人にチョコを作って贈ってあげることですわね」

「っ!?べ、別に先生とは、そそ、そういう関係じゃ…!?」

 

顔を真っ赤にしてワカモに抗議したクロコだったが、すでにワカモの姿はそこに無かった。キィン、というジェット音に振り向けば、トキもまたドローンを随伴しながら飛び去っていくところだった。

 

一人その場に残され、抗議の矛先を失いぐぬぬとなっていたクロコだったが、諦めたようにコンテナの傍に歩み寄り、手で触れた。

 

テレポートでその場を去る一瞬前。

カイザーのビルがある方角とは逆の、キヴォトスの街並みを眺めて、ふっと微笑んだ。

 

「…みんな、幸せそうだね。このキヴォトスは」

 

この世界に来てよかった。

そんな言葉を残し、コンテナと共にクロコの姿が掻き消え、後には戦闘痕だけが残るビルの屋上。

 

その遥か頭上の夜空に一条の流れ星が流れ、キヴォトスの夜はいつもの静けさを取り戻した。

 

 

 

 




無名の司祭「転移してきたら船内に謎の存在が居て全滅させられたでござるの巻」
カイザー「貴重な食材を裏取引で手に入れたと思ったらババ掴まされてただけだったの巻」

というわけでプレナパデス組にアイツが加入です。名前伏せる必要はほとんど無いんですが、まあ様式美ってことで。
あと敵対もしません。今後もアカシアたち地上組と仲良くやっていきます。

次回はあーかいぶはさんで、今度こそ連邦生徒会の食事回書きます。

それではご意見・ご感想お待ちしております!
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