シャーレの先生 アカシア   作:電シャーク

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お待たせしました、全四編の最終話、後半の2話を投稿いたします。
投稿済みの①、②、および①の前書きに記載の注意事項を読んでから、こちらの③以降を読んでいただきますようお願いいたします。

それではどうぞ。


美食神とキヴォトスの未来③

 

「では、会議に戻ろう」

 

数十分ほど会議を中断し、料理に舌鼓を打ったりニヤやナグサと会話を交わしたりして、机の上の皿がほとんど空になったタイミングで、アカシアが会議の再開を宣言した。

 

「今回明らかになった”黄昏”は、キヴォトスにおける星のフルコースのひとつと見て間違いない。そして現時点で、同じくフルコースとして確定している存在がひとつある」

 

アカシアが念押しのように、この第0ビオトープにおける周知の事実を口にする。

この第0ビオトープが創立するより以前から、アカシアたちが星のフルコースのひとつに違いないと確信をもって手に入れた食材があった。

 

 

 

「そう───“色彩”だ」

 

 

 

色彩。

アカシアたちが訪れるより以前からキヴォトスに現れていた、キヴォトスに住まう人間の精神を不可逆的な破壊に導き、「神秘」を「恐怖」に反転させてしまうという、不気味な光。

アカシア一家の手によりマヨネーズに加工されるというトンチキな顛末を辿ってはいるが、本質的な危険性は損なわれておらず、性質の解明も遅々として進んでいない。

 

「色彩の研究に関してはゲマトリアに一日の長があるが、その実態はほとんど明らかになっていない。そうだな、黒服?」

 

アカシアの視線が黒服に向かい、黒服もええ、と頷いた。

 

「かの“色彩”は、我々ゲマトリアが最大の脅威と目していた、キヴォトスの外より訪れたる観念です。その存在意義は不可解、目的は不明瞭、意思疎通も不可能。ただ到来し、浸蝕し、反転させる、不可解極まる不吉なる光───おっと、これはとっくの昔に撤回した仮説でしたね。ククク…」

 

いつも通りの不気味な笑いを浮かべながら黒服が口にするのは、ペアやアカシアたちとの交流を通して新たに打ち出された、色彩に対する新説である。

 

「ペアたちと会話を交わす中で、我々はこの『キヴォトスの外から来た存在』という認識に誤りがあるのでは、という考えに思い至りました。そも、キヴォトスの外という概念自体が曖昧模糊としたものです。それでも、色彩を定義付ける概念がこの世界には無かったために、そう位置付けざるを得なかった。しかしアカシア先生の世界における星のフルコースの概念を知り、考えを改めたのです」

 

星のフルコースの存在を知った黒服、マエストロ、ゴルコンダ、デカルコマニーは、色彩に対する自分たちの考えをゼロベースで見直し、キヴォトスの外側ではなく内側から湧き出るものだと仮定した時に、それがどういう役割をもって出現するものなのか、というのを再考した。

 

「色彩とは、キヴォトスを構成する世界そのものから滲み出したエネルギー体、あるいは別のテクスチャ。フルコース風に例えるならば、星より産み出された物体を浸して侵して取り込まんとする、渾沌の溶液(スープ)。そしてこの溶液の一部に「ならない」ことこそが───星のスープが逆に取り込まれてしまうことこそが、色彩に求められている本来の役割なのではないか、と」

 

現在のテクスチャを侵食し、別のテクスチャに作り替えてしまうもの。しかし、その上書きを跳ね除け、取り込むことで、新たな存在へと至り得る。

 

すなわち色彩とは、キヴォトスに息づく全ての者に対して課された“星の試練”なのではないか。

 

これが、現時点でゲマトリアが色彩に対して立てた仮説だった。

 

「そして以前の会議で話したように、私たちの方で色彩を克服した生徒とのコンタクトに成功した」

 

アカシアがそう言うと、全員の視線が端の席に座るプラナの方に向かう。

 

プラナは前回の会議からの参加者だが、色彩に浸蝕されながらも命脈を保った人物が居るという事実は、大きな驚きを以て迎えられた。当然参加者たちはその当人からの説明を求めたが、諸事情により出席不可とされ、本人からのコメントをプラナが代表する形になった。第0ビオトープにアビドスも参加していることを知った当の本人が、ノノミたちと面会するのを嫌がっているから、という理由もあったが、当然その辺りの事情は伏されている。

もっとも、その代読を聴いただけで、前回会議で参加していたアヤネが何か聞き覚えがあるとでも言うような表情を浮かべていたので、不参加とするのもむべなるかな、といった具合である。

 

『一応前回も言いましたが、シ…彼女は色彩を克服したわけではありません。どちらかというと、汚染です。加えて、彼女は色彩に呑まれることにより、存在が反転しています。それで済んでいることを克服というなら、間違ってはいないのでしょうけれど』

 

プラナは話しながら、ちらっとノノミの方を見る。ノノミもその視線に気付いたが、意味までは悟ることが出来ず、首を傾げるばかりだ。その色彩を克服した人物というのが、別世界のアビドスで全てに先立たれ絶望の淵に沈んだシロコだと明かしてはいないのだから、当然の反応である。

 

「先ほど黒服が説明した通り、色彩は基本的に、このキヴォトスの住民にとっては有害な存在だ。色彩に汚染され、存在が反転しただけの者が居る一方、色彩に触れたことで存在のほぼ全てを喪失し、死体同然になった者も確認している。そして、キヴォトスの壊滅を目論んでいたとある組織が色彩をキヴォトス中に蔓延させることで、生徒たちを破滅せしめようとしたという事実もある」

 

ドン・スライムが箱舟内にて無名の司祭を屠り、その後一龍と、その背後に居るアカシアらと接触したことで、無名の司祭が何を企んでいたのか、白日の下に晒されている。アカシアたちは司祭の行動と計画を把握することで、色彩がフルコースのひとつであることに確信を持ったのだった。

 

「生徒たちを虐殺する手段として色彩を利用していた者が、色彩に侵されながらも自我を保った者を確保していた。これが示すことは、特定の何かを摂取、あるいは備えることで、生徒たちは色彩に対する耐性を有することが出来る───というのが、私たちの建てた仮説だった」

 

ひょっとしたら無名の司祭たちならば、その辺りを詳しく知っていたのかもしれないが、ドンが出会い頭に全滅させた今では、確かめる術もない。とはいえ、彼らの所業とやろうとしていたことを鑑みて、同情の余地も手を組む価値もないとアカシアたちは判断しているので、結果は同じだっただろう。

 

「ではその特定の何かとは何なのか、これは、色彩により存在を保った者と喪失した者を比較した時、喪失した者が所有していなかったものにあることは間違いない。そして2つ、明らかな差異があった」

 

“クロコ”こと並行世界の砂狼シロコ、そして“プレナバデス”ことアサルディー。

色彩に触れた二人を比較した時、そしてアサルディーの出自を知った時、明らかにシロコが有し、アサルディーが有していないものがあったのだ。

 

「ひとつは、名前。もうひとつは、ヘイロー」

 

砂狼シロコという、キヴォトスにて授かった“名前”

そして生まれた頃から当たり前のように備わっていた“ヘイロー”

 

キヴォトスとは異なる世界より来訪し、先生として務めていたアサルディーには、どちらも生来備わっていないものだ。

 

「ただ、名前とヘイローだけであれば、キヴォトスの生徒たち全員が所有している。これだけでは色彩に耐え得る要素には成り得ない。とすれば、もうひとつ、必須となる要素があるはずだ。そして現時点では、この要素が何かは解明できていない」

 

名前やヘイローを持つだけで良いのなら、クロコでなくとも色彩には耐え得るはずだ。そんなものを無名の司祭が兵器として使おうとするはずがない。無論クロコ本人に確認したが、名前とヘイロー以外のもう一つの要素については、全く想像もつかないようだった。

だが、色彩に触れ存在のほぼ全てを喪失し死体同然になりながらも尚生き永らえたアサルディーは、ともすればその「もうひとつ」だけは有していたのかもしれない。そして色彩による汚染に耐えたクロコに、そのもうひとつが備わっていたか否かも判別が付いていないのが現状だ。

いずれにせよ、アサルディ一の身体機能が回復し、クロコと会話を重ねられるようになれば、解明の糸口となるかもしれないと期待されている。

 

「ここで星のフルコースの話に戻ろう。フルコースを食べるには、カテゴリとは別の食べる順番が存在していた。例えばフルコースのスープである「ペア」は、酸素濃度が極端に低い環境下に発生する食材であったため、高濃度の空気を身体に取り入れることが出来るフルコースのサラダ“エア”の摂取が必須となっていた」

 

前菜から始まり、スープ、魚料理、肉料理、メインディッシュ、サラダ、デザート、ドリンクと続くフルコースだが、この順番とフルコースを確保する順番は連動していない。サラダであるエアを摂取することがスープであるペアを摂取するのに必須であったように、フルコースとはその食材の性質や特徴によって割り振られているものでしかないのだ。

 

「つまり色彩をフルコースのひとつとして設定した時、名前とヘイロー、そして未だ不明のもう一つは、色彩というフルコースに至るために確保必須のものとなる。だとすればこの3つもまた、フルコースに数えられるのではないだろうか」

 

アカシアがそう述べると同時に、空中に文字が浮かび上がる。

1から8までの数字が縦に並ぶ、フルコースのリストだ。中間の④の箇所には「色彩」と入っている。

 

「色彩は、触れた者の存在を失わせる力を持つ。ということは、黒服の仮説を参照すると、色彩に呑まれても存在を確立し得る強い楔───色彩に対する“抗体”を作ることいわば、が、この前半3つの効果だと考えられる」

 

存在を侵す星のスープを、逆に喰らい尽くすだけの存在強度。

星のエネルギーに対抗するだけの抗体を作る要素となれば、それは間違いなく星のフルコースの一角として数えられるべきものだろう。

 

「存在を確立させる、という意義を考えた時、フルコースの一番目に来るべきものは間違いなく、名前だ。フルコースの果てにあるメインディッシュより名称を拝借し、ここでは“神名”と呼称する」

 

アカシアがそう口にすると同時に、「神名」という文字が、①の横に書き入れられる。

 

「そしてヘイロー。これは二番目とした。生徒たちのヘイローは、睡眠時など意識が無いときには消失していることもあるから、神名があってヘイローがある、と考えた方が自然だろう」

 

続いて、②の文字の横には「ヘイロー」と書き加えられた。

 

「そして、そのフルコースの果てにあるものこの世界のメインディッシュ。以前の世界に準え、これもまた“GOD”と呼称する。ここまでが、前回の会議でまとまった内容だ」

 

一番下の⑧の横には、「GOD」のアルファベット3文字が燦然と並ぶ。アカシアの言った通り、ここまでは前回、プラナを代表とする箱舟メンバーが会議に加入した時に確定した内容だ。

 

「そして、今回明らかになった黄昏だが…これは色彩への耐性を得るために必須のものとは考えにくい。色彩の第一人者であったゲマトリアは、黄昏の存在を知らなかった。色彩の前提として黄昏があるのであれば、研究していた彼らが気付かないはずがない」

 

アカシアがペアと黒服の方に視線を送る。事前に黄昏の存在をペアから聞かされ、無いはずの口がぽかんと空いたような驚愕を覚えた黒服は、特に大きく頷いていた。

 

「ということは、黄昏は、色彩を乗り越えた後にやって来るものだと考えることが出来る。なので、このフルコースにおける5番目以降であることは確定だ」

 

アカシアが④より下の空間を大きく指し示すと、生徒たちも首を縦に振り、理解できることを伝えた。

 

「質問、いいかしら」

 

すると、これまで静かにアカシアの話を聞いていた生徒の中から、不意に声があがった。

挙手したのはリオだ。全員の視線を浴びる中、アカシアに促され起立し、自身の質間を口にした。

 

「色彩を克服した生徒は、黄昏も克服できると見ていいのかしら?」

 

リオの質問に、アカシアはふむ、と少し逡巡する素振りを見せた。

 

「その実験のためには、花鳥風月部が有する扉を確保する必要があるだろうが…正直に言うと、その可能性は低いと考えている」

 

リオがちらりと他の面々を見てみると、一龍や三虎も頷いていた。

 

「フルコースは全部で8つ。我々の世界のフルコースも、順番に得ていった先にメインディッシュたる“GOD"があった。もっとも、我々の世界ではGODの先にもう一つあったのだがな。それはともかく。3つの要素を得て色彩を超え、黄昏に至る道が出来ているということは、恐らくこの世界におけるフルコースも、その先にメインディッシュが待っているはずだ」

 

アカシアたちの世界では、GODを得た先に、星のフルコースの前菜であるセンター」があった。

しかしこのキヴォトスにおけるフルコースをみた時、一番最初に来る“神名”の「存在に名前を与え確立させる」という性質は、死者すら復活させる究極の蘇生食材であったセンターと、非常に性質が似通っていることに気が付いた。元より世界が違うのだから、フルコースを摂取する順番も違っていてもおかしくないし、そう考えればセンターにあたる食材が最初に来るのも不思議なことではない。

 

「神名。ヘイロー、色彩、黄昏。そして仮称GOD。現在明らかになっていないフルコースは3つだ。うち一つは色彩の手前、3番目に固定されるとして…残る2つは色彩と黄昏それぞれの後に来る物だと予測している」

「その根拠は?」

 

そう尋ねられたアカシアは、再び逡巡した後、こう口にした。

 

「…勘だ」

 

申し訳なさそうなアカシアの回答だったが、リオの表情は変わらなかった。

 

「色彩を得れば黄昏に踏み込める、黄昏に踏み込めばメインディッシュを得られる───黄昏については、ナグサから聞いた話のみだが、そんな単純な仕組みにはなっていないそんな気がするんだ。確証の無い話で申し訳ないが…」

「いいえ。星のフルコースの存在に関しては、貴方方はプロフェッショナル。その貴方が違う気がするというのなら、それを前提に動くべきでしょう」

 

リオのその言葉に、他の生徒たちも強く頷く。星のフルコースという概念すら、第0ビオトープに勧誘され参加して初めて知ったことなので、誰よりも詳しいアカシアたちの考え方を最優先するべきだろう。

ありがとう、と一言礼を言って、アカシアは話を続けた。

 

「先ほども言った通り、我々の世界の星のフルコースは、それぞれが持つ効能故に、次のフルコース確保のための食べる順番があった。そしてキヴォトスのフルコースにも順番がある。それぞれの性質を我々の世界のフルコースに置き換え、そして摂取する順番に並べたものがこれだ」

 

アカシアがそう言うと、縦列に並んだフルコースに一気に文字が書き加えられていった。

 

神名(存在を確立させるもの…センター)

 ⇒ヘイロー(確立した存在を維持するもの…エア)

  ⇒???(色彩に耐えるエネルギーの源…アース?ニュース?)

   ⇒色彩(存在の汚染、反転…ペア)

    ⇒???(反転した存在を黄昏で維持させるための源…アース?ニュース?)

    ⇒黄昏(反転した存在のみが侵入できる異空間…アナザ)

     ⇒???(詳細不明…消去法でアトム?)

     ⇒GOD(詳細一切不明)

 

「ここまでが星のフルコースの予測なのだが…ここでひとつ、気になる存在がある」

 

アカシアがそう言って視線を送ったのは、ヒマリだ。

ヒマリは力強く頷きながら、アカシアが懸念する存在の名を口にした。

 

「預言者のことですね?」

 




ドンスラ「第0?めんどい。お前ら出とけ」
クロコ「アビドスも参加するならちょっと…」
アサルディー「言うまでもなく無理」


プラナ『そんなわけで大至急機体を用意してもらって…』
アロナ『GTロボで良いなら、クロコさんかアサルディーさんが操縦者になってリモートで参加すればよかったのでは?』
プラナ『………あっ』
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