十月六日、日曜日の午後一時。人通りの多い第七学区の大通り。
先程、
「加納ちゃ〜ん! 今からちょっと付き合ってよ! しばらく忙しくて連絡すら取れそうにない時期が続きそうなのよね。寂しい! しかも今のうちに買いたいものいっぱいあるしさあ! これも袖触り合うのも他生の縁ってヤツ? いやほら、結局このスーパー美少女フレンダちゃんとデートできる機会なんて中々ない訳じゃない? ほらほら少年! こういう人生のレアなトロフィーゲットできるチャンスは大事にしないと!」
息つく暇も無く金髪碧眼の美少女から怒涛のお誘いがやってきた。この年齢不詳の金髪少女、ほぼ間違いなく目の前にいる幼い加納神華よりは年上の筈だが、タイツに包まれた膝を硬いアスファルトにつけてまで膝立ちの姿勢で少年の薄い胸元に縋り付いている。
(こうしてワガママ言ってると本当に姉妹そっくり)
加納はこの何かと(学校に通ってる素振りも無いのに何故か)忙しい友人よりも一緒に過ごした時間だけなら長いかもしれない、フレンダと瓜二つの顔をした妹を思い浮かべつつ。
「……ぼくは別に構わないけど」
年下の少年のスカイブルーのインナーの胸元に泣きつく大変残念な少女に、呆れたように答えた。耳付きのフードに覆われた顔を逸らしたのは、腐っても美少女のフレンダと至近距離で向き合うのが思春期の少年には照れ臭いからか。そっぽを向く頬が少し赤みを帯びる。
「ちなみに場所は第十五学区のダイヤノイドね」
しれっと立ち直った残念系お姉ちゃんの口からとんでもない場所が飛び出した。
ダイヤノイド。学園都市最大の繁華街、第十五学区の駅ビルでもあり、上層に高級マンション、中層にテレビ局。下層に350を超すブランドショップが軒を連ねる第十五学区のランドマーク。そこでは流行は追いかけるものではなく、ここで生まれたものが新たな流行として周知される発信地。学校帰りにゲームセンター目当てに少年寄るような大衆向けの商業施設とは、訪れる客のレベルがあまりに違う。
基本内気な少年も流石に目を開いて絶叫した。
「ダイヤノイドってあの建材全部ダイヤモンドって聞くあの異次元オシャレスポット!? 上層のマンションエリアなんて芸能人とかインフルエンサーだらけだって聞くし! 敷居が高すぎてぼくなんかじゃ入っただけで空気感だけで全方位から押し潰されるっ!」
「ぐすん。いつも孤独で忙しいお姉ちゃんに救いの手を差し伸べる
再度(年下相手にタイヘン大人気ない)泣き落とし甘えんぼモードに入るフレンダ。妹に振られて寂しいのは分かるが、先ほど
最終的に少年の方が押し負けた。
「………………別にぼくは行かないとも言ってないけど」
「ゴニョゴニョ。結局持つべきものは押しに弱……、優しい友達な訳よね」
「全部聞こえてるよ」
そんなこんなであった。
先程不良共に追っかけ回されていた加納神華と、その不良共を完膚なきまでに叩きのめしたフレンダ=セイヴェルンの二人は、薄暗い路地裏から一転。学園都市最大の繁華街、第十五学区に来ていた。
正確には、第十五学区の駅ビルにもなっているランドマーク、ダイヤノイド。建材の全てが人口ダイヤモンド。靱性の関係で正確にはカーボンファイバー、カーボンフレーム、カーボンナノチューブなど強靭な炭素系の素材でまとめられた炭素の城。その外観は、例えるなら削る前の鉛筆をそのまま拡大したようであった。この聳え立つ地上七十階建の六角柱のビルは、六つの角からそれぞれ他のビルの合間を縫うようにワイヤーを張っていたり、夜間はスポットライトによって芸術的に照らされていたりするのだが、地下から直通のエスカレーターで登ってきた二人には関係ない。ダイヤノイドは第十五学区の駅ビルを兼ねており、駅からそのまま建物内に入ることができるのだ。
ともかくフレンダ=セイヴェルンと、加納神華の二人組はダイヤノイドに足を踏み入れた。
少女曰く「色々買いたい物があるから付き合って!」
とのことであったが、正直買い物どころではない。どこにでもいる普通の中学生。つまり小市民加納神華にはそれ以前の話として、極限セレブダンジョンの最初の関門が立ちはだかった。
「オーラがッ! 周囲の人間のオーラからして違うよ! みんな学舎の園のお嬢様とか中層のテレビ局での撮影前の芸能人とか投げ銭だけで億単位で稼いでるインフルエンサーとかなんでしょっ!!!!!」
「……別にまだ下層なんだし自分へのご褒美にブランド物見に来る背伸びしたがりの女子高生とか、テレビオービットのメイキング中継目当てのドルオタなんかも結構紛れてる訳なんだけど。」
第七学区の状況から立場が逆転し、わなわなと涙目で怯える少年と、それを宥めるフレンダ=セイヴェルン。
見渡すと日曜日の午後なのだが制服の人間も多い。真のセレブは意外と服装周りはシンプルなのか。それても一般人が下手にレベルの低い私服で行くよりも、冠婚葬祭なんでもござれな制服姿の方が変な隙を晒さないだろうと判断したのかは不明だ。
そもそもコンビニよりも学校の方が多い学園都市は、制服の種類も多すぎてどれがどの学校かなんて見分けの付けようがない。そのため誰がどの階層に属しているなんて分からなかった。例えば第七学区には複数のお嬢様学校を内包するエリア、『学舎の園』があるが、その内部は男子禁制でお嬢様方がどんなデザインの制服を見に纏っているかなどはあまり知られていない。
見えないヒエラルキーに怯える加納神華は、なぜだか小慣れた様子の金髪の少女におずおずと尋ねる。
「あれ? ダイヤノイドってダイヤモンドを含む炭素系素材で出来てるって話だったような……。 それって外側だけで内装は木造なの?」
そう質問したのは、小柄な少年が金髪の少女の背中から顔を出しびくびくと内装を見渡すと、ダイヤノイドの内装は和風の城郭のように見えたからだ。
茶色の板材が敷き詰められた床と等間隔にならぶ柱には木目ような模様が窺え、店舗と通路を仕切るのに使われいるのは障子。そしてそれらを橙色に照らす照明は行燈だ。おかげであちこちに吊り下がっていたり、貼り付けてあったりするモニターが浮いている。楽屋裏のグループアイドルらしき人物が映っている映像的に、さっきフレンダの語っていたこれがメイキング中継とやらだろうか。
「いや? 内装も床から天井まで全部炭素系よ? 結局、炭素系の素材で全部固めると、どうしても木目みたいな模様ができちゃうのよね。それでそれらをいちいち隠すくらいなら全部和風で固めちゃえーって話になったんだって」
すらすらと解説が出できた。先ほどからこの少女、このセレブリティー伏魔殿、ダイヤノイドに慣れている節がある。
「照明なんかも炭素は熱に弱いからって行燈風の見た目だけど使ってるのは普通にLEDだし。例えば監視カメラなんかもガッツリ光ファイバー引いてるよ?」
さて、とダイヤノイド常連疑惑の少女は一呼吸置いて、
「まあうんちくはこの辺にして、結局レッツショッピング!
結局、本当に良い物ってのはケータイ片手にオンラインショップと睨めっこしたって見つかんない訳よ。さあさあ、目くるめくハイブランドパラダイスにようこそ加納ちゃん!!!!」
「……ううー」
早速涙目になっている少年を引きづるようにして、二人行動を開始した。
「…………………で、ここはいったい何なの?」
二人がダイヤノイド下層の葛折り状エスカレーターを何回か登り、しばらく歩いた後のことである。最初は冷たく感じたプールの水温に身体が少しずつ慣れてくるように、ダイヤノイドの空気感に耐えられるようになってきた加納神華は、少女と二人で現在対面している店について呆れ半分、怯え半分で尋ねた。
「結局水着店な訳だけど?」
ダイヤノイド下層。一階から二十階までをコンビニサイズからテニスコートサイズまでの大小様々なブランドショップが占める商業エリアの一角。少年のいつも以上に深く被った耳付きフードの隙間から覗く視界に映るのは、そしてワンピース、ビキニ、サーフパンツ、ラッシュガード、スイムスーツ、その他色々。それらが立ち並ぶのは床も壁もツルツルとした質感の真っ白い学校の教室くらいな大きさの店内。カラフルな水着類が一ブランドごとの間隔がやたらと大きく開いた商品棚の上や、自分が着る上で何の参考にもならなそうな、あまりにも均整が取れ過ぎて西洋の彫刻のみたいになったマネキンに飾るように展示されていた。
陳列ではなく展示。そう表現したくなるのは、一つ一つの商品のデザインが、店内の雰囲気が、置かれ方が、あるいはその全て美術品のように美しいからか。
この床材もリノリウムではなく炭素系なのかな? と少年が現実逃避じみた思考に走ってしまうのも無理のないような光景だった。
無意識に口を小さく開けて少々ぼーっとしていた少年は水浴び後の子犬みたいに首をふるふると振ってから。
「水着? まだ暑いといっても制服で言ったらもう冬服になる季節だよ。ていうか、フレンダなら女の子の知り合いだって沢山いるのにどうしてぼくが? 一緒に見て回る人が欲しいなら前に話していた
ビシィッッッ!!!! と人差し指を加納の鼻先に向け、皆のお姉ちゃん、フレンダ=セイヴェルンはそこまで言いかけた彼の言葉を遮るように、絶叫した。
「結局そんなの私が着る水着じゃなくて、アンタに着せる水着を見に来てるからに決まってる訳よ!!!」
鼻先に指を突きつけられた少年はは突然声を荒げた目の前の少女に目を丸くして、何を言っているのか分からないといった表情で首を傾げる。
「…………………………………………………………ぼくの?」
理解の遅れる少年へ向かってフレンダはまくし立てる。
「そりゃそーでしょ! アンタと前に行った第六学区の屋内レジャープールに何着て来たか思い出しなさいっての!!!!」
「ええと…………サーフパンツ? 黒いショートのやつ。ファッションでいったら髪を後ろで一房に纏めてたくらいで他に何も無かったと思うけど。それがいったいどうしたの?」
訝しむ少年はあいも変わらずどうしてそんなことに目くじらを立てているのか理解できないという表情だった。
フレンダはカツン! とヒールを鳴らしさらに眼前の少年へ向かい一歩踏み込むと、メンチを切るヤンキーのような距離で彼の顔覗き込むと、
「そんなのどーしたもこーしたも無いでしょうがッッッ! 結局アンタおっぱい丸出しで無茶苦茶悪目立ちしてたって気づいてなかった訳? 下手したらトレンド押さえつつ限界まで肌色増やした私よりも視線集めてたのよ!? 約束した時メンズでいいから胸隠せるヤツ着ないとマズイって連絡したよね!!!?」
「お…おっぱ!? で、でも男の僕が胸を隠したってしょうがないもの。ぼくが持っている水着は学校指定のとアレしかなかったし」
女の子みたいな奴と言われればむしろ女の子に悪いと感じてしまう少年は何ゆえ自己肯定感が低い。これも能力の強弱が直接履歴書に書けるステータスとなる学園都市が産んだある種の闇か。萌え袖耳付きパーカーが似合っちゃったり、海パン一丁とポニーテールでプールサイドの視線を集めることのできる男子中学生はもうある種の才能だと金髪の少女は思う。……本人に自覚が無いことも含めて。
「結局! アンタはもう少し自分がどう見られてる意識した方が良いって訳よ。己に自信が持てなくて色々コンプレックス抱えてんのは分かるけど。それは自信過剰なナルシスト野郎と違って、自分自身を正しく見れてるって事じゃない。バイアスが掛かっているのがマイナス方面ってだけで、結局自分を客観視できてないって根っこのところは同じな訳だし」
そうなのかなあ? という少年の分かっているのか分かっていないのか曖昧な返事を皮切りに二人は店内の散策を開始した。
「うーんよく似合う。結局ワンピース水着もありか……?」
「ありか……? じゃないよぼくの男子中学生としてのなけなしのプライドをどうする気なのフレンダは」
「結局加納ちゃんが大抵女物の方が似合うの悪い! やっぱこっちしない? 着せ替え大好きなお姉ちゃん的には本人の趣味より似合う服を着せたい派なんだけど!? 」
服の上からハンガーに掛かった水着を重ねる金髪ベレー帽の少女を何とか宥める。真っ白フリフリワンピ水着デビューは何が何でも阻止しなければならない。文化祭で女子制服やメイド服をふざけて男子が着るアレとはレベルが違いすぎる。オトナの階段を何段飛ばしさせる気なのだこの(ポジションで言えば)職業不明のミステリアスお姉ちゃん系は。
「スポーティーに決めちゃえ! 遠泳もできちゃうタンキニ!」
「ダメ」
「結局来年のトレンドはコレ! 小悪魔風紐ビキニ!」
「ムリ」
「今は無き幻の逸品! 犯罪的旧式スクール水着!」
「恥ずかしい。……なんでこの店そんなの売ってるの……?」
「結局埒があかなーい! 一旦私用の水着試着させて!」
「フレンダが女の子用ばかり勧めるからでしょ。一旦も何もぼくは勝手に男性用のを見繕うよ」
「一応言っとくけどその手に持ってるTシャツ女性用ね。オーバーサイズのをビキニの上から着て濡れ透けさせるヤツ。」
「……。」
俯いたフードの隙間から赤色が覗く少年は無言で(濡れ透け)Tシャツを商品棚に戻す。
「素直で宜しい。そんじゃ待ってて!」
そう告げて、金髪の少女はいくつかのハンガーを抱え試着室へと駆けて行った。
カプセルホテルの一室を縦にしたような大きさの試着室のカーテンの裏側では、金髪碧眼の少女が、限界まで布を削った三角黒ビキニを纏い、姿見と向き合っていた。
ポージングを決め堂々と胸を張り、手を腰に当て自らの『見られること』を意識したスレンダーながらも均整の取れた身体を一つ一つチェックしていく。
(腕、脚、肩、指先、まあ、目立つところは一通り治したけど……)
髪型もアレンジ。黒いヘアゴムを加えベレー帽を外すと、頭部全体を側面まで覆うウェーブがかった金髪を両手で一纏めにしながら持ち上げる。左手でまとめた髪を抑えつつ、右手で咥えていたゴムを手に取る。そのまま煌めくのゆるふわロングを一つ結びに。
──露わになった少女の左耳は、何かに抉られた様に上半分が丸ごと千切れていた。痛ましい傷口に巻かれた真っ白な包帯に赤黒い出血が滲む。
銃創、ではない。ある『暗部』の刺客の少女の放った狙撃銃の『矢』がフレンダの左耳を抉り飛ばしたのだ。
弓箭猟虎。暗部組織『スクール』の四人しか存在しない正規メンバーの一人であり、十月五日、つまり今日この日の一日前にフレンダ=セイヴェルンを襲撃した『暗部』のスナイパー。
(耳は昨日からそのまんま、か。幸い鼓膜は無事だし『仕事』に影響も出ない訳よ。結局、学園都市の再生医療なら元通り治るし)
サイズが少し合わないのか、むにむにと胸の脂肪ごと布を合わせつつ、思考に没頭する。
(あの陰湿スナイパー。口ん中に爆弾放り込んで吹っ飛ばしたけど、死体も見つかんなかったし所属も不明。サバカレー振る舞ってくれた都市伝説好きの子……今度名前聞かなきゃ……を攫った組織だと思うんだけど。でもソッチも目的不明。そもそもなんでどう見ても一般人のあの子を誘拐した……? 学生寮のグレードからして
それはカーテンの向こう側の幼い少年には見せない裏の顔。暗部組織『アイテム』の
(なんにせよ奴らはまだ動いてる。もし陰湿スナイパーが生きたまま回収されてるとしたら、相当な高
(その内、正式な
ビキニの少女は、あらゆる角度から『どう見えるか』を確認するために、写真撮影を受けるファッションモデルのように数秒単位でポージングを切り替えつつ。
ばさり、と一時的に纏めていた金髪を下ろして両耳を覆い隠す。思考を血生臭い『暗部』から、明るい友人との日常へと移行する。
(何がともあれ今はとにかくビキニ! うーん絹旗には冗談めかして言ってた訳だけどやっぱり妹が揉んでたからかな? 最近大きくなってるなー。へっへー。これは気になってたけどサイズが合わなかったブレストマーメイドの新作もいけるか!?いやヤってやる! さんざか胸囲マウント取ってきた麦野あと(あくまで本人は無自覚な)滝壺、そして同格だと勝手に決めつけてきた絹旗に反旗を翻すッ! 来年の夏が革命の時じゃああああ!!!!!!!!!!!!)
そして血生臭い『暗部』と平和な日常を平気な顔で行き来できるのがフレンダ=セイヴェルンという少女の恐ろしい所だった。他人を爆殺する事と家族や友人とのショッピングが同じ『好きなこと』のカテゴリに放り込まれている。この少女が立っている場所は善悪とか倫理の遥か向こう側だ。
絶賛無敵モードのフレンダが手に取ったのはラグジュアリーな赤ビキニ。商品棚の説明にはこうあった。
寄せて上げない強気のノンワイヤー。見せつけるグラマーボディで気になる彼を悩殺♡
推奨バストの書かれたタグなど見ない。今のフレンダ=セイヴェルンに己の可能性を縛りつける鎖など無いのだッッッ!!!!
(今までのスレンダーでは手が届かなかった場所に届くッ!!! 結局この
カーテンの外側で加納神華は退屈していた。
水着を探せないとなるとイマイチ手持ち無沙汰だ。店内を大雑把に見回すくらいしかすることがない。ダイヤノイド全体で見ても大きく、店頭に並ぶ商品の種類も多い店なのだろう。客層もまばらだ。
ダイヤノイドの温水プールにでも通っているのか競泳水着を選ぶおっとり若奥様。
年中タンクトップを着ていそうな筋肉質の青年はサーファー、もしくはボディビルダー?
両手を後ろに組み品の良い所作でスキューバダイブ用のボディスーツを眺める制服の少女は『学舎の園』辺りのお嬢様か。
やっぱり住んでる世界の違うお嬢様は真夏にレジャープールとかじゃなくて、わざわざ冬に南半球まで飛んでエメラルドグリーンの海でお魚と戯れるのかな、などどぼんやり考えていると。
「結局準備バッチリな訳よー」
試着室から上機嫌な友人の声が聞こえてきた。
耳付きフードの少年がくるりと振り返ると同時にカーテンが開け放たれる。
「ふっふーん! 少年、結局私の美貌と悩殺ボディにひれ伏しなさーい!!!!!!!!!」
じゃーん!!! と効果音がしそうな登場だった。
少女の白くなめらかな胸元を、艶やかで高級感溢れる真紅のビキニが覆う。腰のあたりが肉抜きされリボン結びで繋がれいてるボトムもまた、どこまでも計算され尽くした危うさを醸し出している。衣装の攻めたデザインに負けないスタイルの良さが成り立たせる技だろう。その姿に少年は思わず息を呑んでいた。
だが、着られる限界まで見栄を張ったサイズの大きいビキニを選んだのが失敗だったのだろう。
両腕を組み、腕をピンと真上に伸ばして胸を大きく反らして強調するポーズを取った瞬間だった。
バストを覆う三角形の布が、ストンと落ちる。
結び目が解けたとかそういったレベルではない。サイズが合ってなかった分していた無理が、そのまま現れるように、一切の抵抗無く。
つまり。
公衆の面前で(絶賛急成長中らしい)金髪の少女の胸元が全開になった。
「ひゃッ!? ひあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」
最初にソプラノの悲鳴を上げたのは逆に耳付きフードの少年だった。フードを深く被りそのまま両目を塞ぎつつ視線を逸らしている。幼い彼には刺激が強すぎたのか。フードの隙間から湯気が出そうなほど顔面が真っ赤に染まっている。
対して金髪の少女は反応が遅れた。いや、脳がとっくに認識してたはずの現実に、身体を追いつけさせることを拒んでいたのだろう。
「ん?」
たっぷりと時間を置き、こぐり、と生唾を飲み込み、腕を組み突き上げ胸を張ったポーズのまま、ぎぎぎぎとロボットようにぎこちない動きで己の胸元へと視点を落とす。とっくのとうに理解している現実を、昆虫の溢れるレンガの下をひっくり返すように、恐る恐る確認する。
「うっぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
時間差で二人目の悲鳴が店内に響き渡った。店先ではスイミングスクール用の水着を見繕ってた若奥様や、店内スキューバダイビング用の特殊スーツを探していたお嬢様がキョトンした顔をしている.
天才美少女フレンダ=セイヴェルン。自分の存在に絶対の自信を持つ彼女にしては珍しい、恥の表情であった。
『何にしたって自分がどこまでやれるのか、自分の手はどこまで伸び
るのか、それさえ分かっていれば踏ふみ外す事はない』などとかつて友人にドヤ顔で語ったのは何処の誰だったか。
「かっ、かか、加納ちゃん。いや、あの結局これは……」
「ぷしゅー」
「うわーッッ!! ヤバい結局シゲキ強すぎて茹ダコみたいになってる!?」
純情少年加納神華は、薄れゆく意識の中こう結論づけた。
(大事だっ、胸を隠すのって、誰かに見られるのを意識して格好を決めるのって、やっばり大事だっっっ!!!!!!)
タイヘン不名誉な形であったが、幼い少年はオトナの階段を一段昇り、フレンダ=セイヴェルンは(身を持って)己の言葉の大切さを教えることに成功したのだった。
申し訳ございません。……投稿遅れに遅れました。
これでも一応三月末の完結は目指していますので今後ともお付き合い頂ければ幸いです。