とある暗部の少女救命(サルベージ)   作:エビセン

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 第一章、エピローグです。


第一章 日常はダイヤのよう  The_assassin_is_in_the_jewelry_box.⑥

 

 例によって例の如く場所はダイヤノイド中層。

(実はほとんどフレンダによって)ぐしゃぐしゃに破壊し尽くされた水浸しのシアターにて、金髪碧眼の少女と、茶髪セミロングの少年は途方に暮れていた。

 目下の課題はこれだ。

 弓箭猟虎。

 シアター最上段にて意識を手放したこの刺客、(装備込みの推定重量六十キロ超)をこれからいったいどうするか、である。

 彼女の危険性から考えて放置はありえない。『スクール』からの援軍は結果的に来なかったとはいえ、じゃあ今後絶対だれも回収に来ないのかと言われれば困る。『アイテム』のフレンダからすれば『スクール』のやり方なんて知る由もなし。状況証拠からして十中八九独断専行だったろうが、こちらに確かめる術はない。

 とりあえず、濡れ鼠になった弓箭のワイシャツを脱がし、全身の武装を取り外して、そのまま手足をワイヤーで縛りつけておいた。

 次いでフレンダもブレザーを脱ぎ、チューブタイプの止血剤で全身の傷を応急処置。折れかかった骨はテーピングして負荷を軽減する。

 そこら中に広がった水酸化ナトリウムの水溶液は、バックルームからかっぱらった酸性洗剤で中和しておいた。

 と、後始末がそこまで終わったところで。

 フレンダはげっそりとした顔で、念仏でも呟くようなテンションでうめき声を上げる。

 

「ええーこの濡れ濡れぴちぴちのうなぎ女、結局どうやって運べばいい訳よ……!?」

 

 ようやく最初の課題に立ち返った。

 金髪の少女は現在、『アイテム』はおろか浜面を始めとした下部組織への連絡手段すら持っていない。というかフレンダとしてはダイヤノイドに『暗部』の匂いのするものを持ち込みたくないのだ。

しかし『アイテム』としては敵対組織の一員なんて、連れ去って情報を絞れるだけ絞っておきたいに決まっている。『アイテム』以上の情報収集能力を持った相手を倒すだけ倒して放置しました、なんて報告をウチの超能力者(レベル5)にする訳にはいかない。あの極悪女王様から大目玉を食らってしまう。

 すると、ずっと気まずそうに目を逸らしていた加納が自信なさがに手を上げる。

 

「ぼくの携帯からだれか呼べないの? きっとフレンダならこの十五学区にだって知り合いがいるんじゃない?」

 

(うーん、この子の端末に変な履歴は残したくない訳なんだけど。 ……別に浜面の奴ならいっか)

 

 普段の調子を取り戻してきたフレンダは無駄に格好をつけつつ。

 

「オッケー加納ちゃん、このフレンダさんに貸してみなさい。ふふん、結局私ほどになればワンコールで便利なパシリの一人や二人……!」

 

 そうして金髪の少女が加納から端末を受け取るべく階段を下る最中である。

 映画館の外、避難が完了した筈のダイヤノイドの中層通路方面から、ざらついた拡声器越しの呼びかけがあった。

 

「あーあー!!!!!、 そこの放火犯!!!! 聞こえてるじゃんかよ!!!!!!? 繰り返す、此方警備員(アンチスキル)!!!!

此方警備員(アンチスキル)!!!! 捕縛用格闘術極めたおっかないお巡りさんに強化樹脂製のシールドでぶん殴られたくなかったら、大人しく投降して身柄を明け渡すじゃんよ!!!!!!!!!」

 

「イッ!? 警備員(アンチスキル)ぅ!? あのーもしかして加納は通報とかって……?」

 

「?念のために、逃がしてもらってからすぐにしたよ」

 

 そういえば弓箭猟虎は身内から見捨てられていたようだった。だとするとそんな人間はチームメイトは当然のこと、下部組織からの支援も見込めなくなる。警備員(アンチスキル)への通報も当然筒抜けだ。

 現着が遅れたのは、出火の原因と場所の異質さから特殊な消火装備が必要になったからなのかもしれない。

 しかしどんな理由があれど、こっちはあのイカレ女の炎を消すためにそこら中に爆弾ばら撒きまくったのだ。鑑識の調査があれば爆風消火を狙ったものだと出るだろうが、同時にそれらの爆発物が非合法的な手段で作られたものであることもバレてしまう。流石に『暗部』に身元を置くフレンダ=セイヴェルンという個人を特定することは不可能だとしても、こんなやらかし、間違いなく『減点』だ。

 冷や汗をダラダラと流すフレンダとは対照的に加納はほっとした顔で話す。

 

「じゃあ、あの弓箭も警備員(アンチスキル)に預けられるんだ。あんなとんでもないやつ、ぼく達が個人的に縛っておき続けるのも大変だよ」

  

「ふふ、ふふふふふふふ、昨日今日と満身創痍の私がこんな重たそうな奴を一人で運搬なんて世界の方が間違ってる訳よ結局こんな子を『暗部』式の犯罪行為の片棒担がせていい訳ないし私そのものが発見されて指名手配でもされたら………!」

 

 ずもももももももも、とマイナスオーラ全開のフレンダ。どうも『あっち側』モードの友人はまだまだ分からないことだらけだ。加納は一時的に理解を放棄し、暫時静観に回る。

 最終的にフレンダ=セイヴェルンの結論はこうなった。

 

「結局撤退一択!!! いまさら痕跡は消せないし!! もうあの女は放置してとっととずらかるに限る訳よ!!!!!!」

 

 道筋が決まると、そこからは一瞬だった。金髪の少女は加納を俵のように小脇に抱えて映画館から飛び出す。

 

「ひゃあ!?」

 

警備員(アンチスキル)はもう中層まで来てる! なら一般のエレベーターやエスカレーターは使えない。結局、こっちのルートしかないか!!!!」

 

 フレンダが駆け込んだのはダイヤノイドの中層の中でも、一般客に開放されている商業エリアではなく、反対側のテレビオービットの方向だった。

 確かに火災の無いこの辺りは、警備員(アンチスキル)の優先度も落ちる。だが金髪の少女はこの七十階建てビルの中層から撤退すると言ったのだ。エレベーターもエスカレーターも停止したこの場所で。

 スタッフや芸能人用の隠し通路でもあるのかと考えた加納は、数十秒後、その浅く甘い思考を後悔することになる。

 

「加納ちゃん、舌噛むかもだからしばらく口閉じててね?」

 

「えっ!?」

 

 そう言い放ち、金髪の少女はダイヤノイド外周部の窓ガラスに小型爆弾を投げつけて破壊する。

 ダイヤノイド中層、48階。

 地上150mの高さから。

 その両手を加納の膝下と背中に回し、小柄な少年をお姫様抱っこのように持ち替えた爆弾魔は、その穴から思い切り身を投げる。

 

「はっはー⭐︎ Ha det bra(サヨナラ)ダイヤノイド!!!」

 

「むぐーーッッッッッッ!!!!!!!!!!!?」

 

 高層ビルの立ち並ぶ第十五学区の夕空の中、少年と少女、二人の体が重力に絡め取られ落下していく。

 加納はぎゅっと目を瞑り両手で口元を押さえ込む。そうでもしていないと今にも内臓と一緒に魂まで飛び出してきそうだ。

 加速し続ける落下速度の中、バン!!! と、エアバックの開くような音がフレンダの背中から炸裂した。

 直後、ぐんとブレーキが掛かり、二人の体が浮遊感に包み込まれる。

 恐る恐る少年は目を開けると、見上げた先、金髪の少女の背中から、気球のようなものに缶コーヒーを四つ取り付けたような何かが展開されている。

 浮力確保用の防弾素材のアドバルーンに、小型のジェットエンジンで速度を付与した、彼女自家製の飛行デバイスである。

 

「加納ー。結局動作が安定したからもう好きに喋ってもいい訳よー」

 

 浮力を獲得した二人は一時重力を忘れ、そのまま垂直から水平方向への移動に移行していく。

 

「はあっ、はあ。大体、こんな大掛かりなことしてバレないの?」

 

「結局、この時期の第十五学区は夕日の太陽光を高層ビルの窓が反射するから、目鼻立ちが特定される心配はない訳よ?」

 

 逆に言えば高層ビルの少ない場所では危ない。ジェットエンジンの舵は、それなりビルが多く、第十五学区と隣接している第七学区に向いていた。

 

「一旦第七学区で降りて、そっからはウチの浜面……部下に車で送ってもらいなさい。結局、学生寮まで加納ちゃんの身の安全は守るって、私が約束した訳だしね。………加納、何がそんなにおかしい訳?」

 

「ふふふ、ふふふ。あっははははははははは!!!」

 

 突如吹き出した加納は目尻に浮かぶ涙を人差し指で払うと、堪えきれないといった笑顔で答えた。

 

「だって、とんでもない相手を誰も巻き込まずに一人で倒して、今日だけでも、ぼくを何度も助けてくれて、でも、実際に警備員(アンチスキル)が来たら空を飛んで逃げ出して────」

 

 

 

 

「────本当に、フレンダが正義のヒーローみたいに見えてさ」

 

 

 

 

 秋の夕日によってオレンジ色に照らされた二人は、学園都市の空を舞う。

 永遠に等しいとすら思えた時間の後、少年と少女は第七学区の無人食品工場の屋上に軟着陸した。

 

 

 

 

 非常階段を下り地上に降りると、フレンダは加納の携帯端末を使い電話を掛ける。

 数コール後、少年と青年の間くらいの男の怒声が電話口から聞こえてきた。

 

 「もしもし浜面? 結局、できる部下なら私からの連絡くらいはワンコールで出てくれないと困る訳よ?」

 

「知らない番号だったから出るか迷っただけだ!!! つーか何処の誰かと思ったら畜生フレンダかよ!? んで、今度の雑用はなんだ? 今から新型爆薬の実験台にでもなれってか!?」

 

「お、浜面も下っ端が板についてきたじゃん。結局、送迎を頼みたいから足になって欲しい訳よ。私と後一人分」

 

「へいへい、それくらいならお安いご用だ。場所は?」

 

「第七学区の無人食品加工センター」

 

「情報少ねぇな……。常盤台の学生寮の東にある方か?」

 

「そう、そっち。……方位の特定に常盤台の学生寮使うとか、やっぱり浜面って女子中学生が大好物のドがつく変態な訳?」

 

「やっぱりってなんだやっぱりって!!!!! そこが学区のバスの駅名になってるからだよ!!!!!! クソッ!!! 俺はスキルアウトのリーダーだぞ!!!」

 

「元ね、元。結局、変態の汚名を返上したかったら、今度こそ到着までニ分切りなさいよね」

 

 フレンダは電話を切って加納に端末を返す。

 友人との関係性は不明だが、浜面という男が送迎のためにこちらに向かっているらしい、と加納は電話の内容をかいつまんで把握した。

 しばしの待ち時間。

 陽は沈み、街は静かな夜の気配に包まれ始めていた。

 涼しげな秋の夜風が二人の間を流れ、それぞれの髪を揺らす。

 二人の間に心地よい沈黙が流れる中、加納神華はポツリと呟いた。

 

「弓箭猟虎は、どうしてあんなに一人を恐れてたのかな」

 

「仲間に見捨てられたことを悟った時、あいつはすごく取り乱してた。あいつがどんな理由であの組織に固執してたかなんて、ぼくには分からない。でもその組織が、あいつの人一倍孤独を恐れる気持ちに付け込んで、これまで何度も『あんなこと』をさせてきたんだとしたら……」

 

 弓箭猟虎は、どんな経歴を辿って『暗部』に流れ着いたのか。『裏』の世界にも多くの顔見知りをもつ金髪の少女は、その経緯もおおよそ考察できた。

 『暗部』の人間は、二種類の系譜に分けられる。

 なんらかのタブーを犯し、そのペナルティーとして『暗部』へと『落ちて』しまったタイプ。

 そして、本人の性質が一般的な社会常識から逸脱しており、『暗部』の中でしか『生きられない』タイプ。

 弓箭猟虎は後者だろう。

 

「こんなの、実際に銃口を向けられたフレンダに言うことじゃないって分かってる。でも、あいつは、きっと『友達』ってものがなんなのかも知らないまま、それでも大切にしてた仲間にすら捨てられた」

 

 あの少女の持っていた、異常なまでの技術への信頼と執着。あれはフレンダと同類。能力ではなく、純粋な科学技術で『暗部』に食い込む無能力者特有の傾向だ。

 高能力者へのコンプレックスに苛まれながら、ただ己の居場所を得るために、死に物狂いで技術を磨いた。

 彼女に一体どんな過去があって、そうまでして力と居場所を求めるようになったのかまでは、フレンダにも知りようも無いが。

 

「あの子には、弓箭猟虎には、正しく隣に立つ誰かがいれば、もっと他の道があったかもしれないって、どうしても頭をよぎるんだ」

 

「加納……」

 

 俯く少年の幼い顔は今にもぐしゃぐしゃに崩れてしまうそうだった。

 弓箭猟虎は言い訳のしようもなく怪物だ。

 かつて標的であった金髪の少女ならいざ知らず、ただ隣にいただけの少年をも私怨で殺害しようとし、そのためなら一般人の溢れるダイヤノイドに火を放つ。

 あれは、最悪を極めた『暗部』のルールからすら逸脱した蛮行だった。

 だが、かつてただの少女だった人間を怪物に変えたのは。真っ当な友人の作り方すら教えず、互いの価値を利用し合うだけの冷たい世界でしか生きていけないようにしたのは一体誰だ?

 フレンダ=セイヴェルンは『暗部』の始末屋である。これまでも、けして少なくない命を取り返しのつかない形で切り捨ててきた。

 でも、だからこそ。そのような『ありふれた』問答に対するスタンスなんて、彼女はとっくの昔に腹に決めている。

 

「結局、私は相手にどんな理由(かこ)があっても、一般人や仲間に手を出した時点で、容赦しないって決めてる訳よ。『暗部』がそういうルールだからって訳じゃなくて、単なる私の信念としてね? 妹や知り合いに銃口を向ける相手にまで()()できない。ううん、できそうでもしないようにしている方が正しいかな」

 

 『暗部』の人間であっても、いやむしろ日常的に命を仕分けする『暗部』の人間だからこそ。切り捨てる相手とそうでない身内の線引きはしっかりと行っている。

 フレンダ=セイヴェルンは『身内』の定義が広い側なのだろう。己の知り合い、仲間に加え、赤の他人である一般人ですら彼女の守護対象に及んでいるのだから。

 そんな彼女であろうと見捨てなくてはならない程度に弓箭猟虎は逸脱していた。それだけの話。

 

「そっか……そうだよね、ごめんフレンダ、ぼく……」

 

 なのに。

 少年の言葉を遮るように、その金髪碧眼の友人は加納神華の最も必要としていた言葉を被せた。

 

 

「でも、加納だけはそんな奴にだって涙を流してみてもいいんじゃない?」

 

「え?」

 

 理解ができない。

 脳が一瞬停止したとすら加納は思った。

 目をぱちくりさせる少年に、フレンダは続ける。

 

「私は博愛主義者なんかじゃない。その気になれば老若男女国籍問わず仲良くなれる自信はあるし、やっぱり友人なんて多ければ多いだけ嬉しいって思うよ? それでもやっぱりどうしようもない奴ってのは世の中に沢山いて、結局、私は私が認めた相手としか友人にならない、そういう人間な訳よ」

 

 フレンダは、加納神華にとっての紛れもない『ヒーロー』は、眼下の小さな少年を心底羨むように微笑みかけながら告げる。

 

「でも加納ちゃん。アンタは違う。誰の悲劇にも、例えそれが自分を殺そうとした相手の為に涙を流す、なんて誰にでもできる事じゃない。『表』も『裏』もひっくるめてありとあらゆる数えきれないほどの人間を見てきた私が保証するわ! 結局『(それ)』はちゃんと胸を張って誇れるような、あんたの才能って訳よ。例え私がどう思おうが、アンタはあの子のために泣いていいのよ」

 

「……う、あ」

 

 それが限界だった。どこにでもいる十二歳の少年は、ただ友人の胸の中で泣きじゃくった。

 弓箭猟虎は最低の悪党で、そして最後まで一人だった。そんな相手の為に涙を流す人間が、一人くらいいたっていいはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 加納神華はフレンダ=セイヴェルンとの会話後ほとんど間もなく現れた浜面という男に学生寮まで運ばれた。………その際彼が乗り込んでいたファミリー向けの乗用車が私物か、何なら普通自動車免許が取得可能な年齢かなどいくつか疑問が残ったのだが。

 

 

 帰宅後、寮内でシャワーを浴びた加納が携帯端末を見やると、フレンダからのメッセージが届いていた。『FUKIDASHI』、通話料金を追加で払わずに音声通話やチャットが可能ということで人気を博したSNSの一種である。少年も彼女との初遭遇時に半ば押し付けるように無理やりIDを交換したことを覚えている。

 その名の通り、吹き出し状のチャットの文面にはこうあった。

 

『最近知り合った料理上手な子が一週間後に鯖缶パーティー開いてくれることになってる訳よ 結局アンタがいなきゃあの陰湿女に勝てなかった訳だし、そのお礼ってことでアンタも来ない? 加納が行くことは私から言っとくし』

 

 『裏』の世界で生きる少女からしてもそれなりに過酷な一日だったはずだが、夜にはもういつもの如く鯖缶である。マイペースというより本質的に『裏』と『表』の概念がないのか。なんだか数学の教科書のコラム欄に載っていたメビウスの輪みたいだと加納はとりとめのないことを考えつつ、参加する旨の文章を片手で打ち込んでいく。

 今日は大変な一日だった。と加納は思う。

 不良に路地裏で追い回され、あのダイヤノイドに足を踏み入れ、金髪の友人を狙う狙撃手に命を狙われたりもした。

 どの困難も、フレンダという頼もしい隣人がいたから命からがら切り抜けられた。彼女にはいくら感謝してもし足りない。

 それと同時にある感情もまた、加納の脳内で渦を巻いていた。

 

 ぼくにもっと『力』があれば。

 

 結局の所終始これに尽きる。

 『力』があれば路地裏の不良など相手にならない。

 『力』があれば金髪の少女だってもっと安全でスマートに助けられた筈だ。彼女は加納がいなくては勝てなかったと言っていたがとんでもない。彼女が貸した道具が、彼女が作った環境によって偶然彼女を助けたのだ。ちっぽけな少年の助力など微々たるもので最終的な決着も彼女が着けていた。

 そしてその『力』を手にする手段は今、この手の中にある。

 そう、そもそも最初の切っ掛け。加納が不良に追われた原因にして、フレンダが『裏』の話をせざるを得なかった理由。

 黒い『インディアンポーカー』。

 ある、能力者の『予知夢』が封入された、それ。楽しい夢ならオレンジ、というようにカードの色は夢の内容を表す。

 普段は意識していない、心臓がどくりどくりと不気味に脈動する音が部屋中に響いているようにすら感じる。

 寝付けない夜に、瞳が閉じた瞼の裏のどこを見ていたのか忘れてしまうように、当たり前の呼吸が覚束ない。

 それでも。

 『インディアンポーカー』の使用者は高い精度でその夢の主の技術を会得できる。けん玉、箸使いやいったものから、英会話に至るまで。

 今回のカードは予知夢という超能力そのものが封入された特別製だ。

 他人が能力を使用する感覚を直に体験することで、ロボットの外骨格を装着することで無理やりピアノを弾く感覚を外から入力する練習法のように、技術を得るきっかけになるかもしれない。

 超能力。この学園都市では最も身近な『力』だ。

 少年は、震える手で透明なフィルムを剥がす。アロマ成分が揮発し、本来は不定形な少年の夢に一定の指向性が与えられる。

 意識が夢の世界に落ちる。

 そこで少年は目撃した。

 運命的な未来を。

 

 

 

 

 

 ──削り取られた下半身の断面からグロテスクな赤色をぼろぼろと溢す、金髪の友人を。

 

 

 

 

 

 




 ある意味ここまでがプロローグです。
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