魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師── 作:六道 天膳
しばらくして、トウカ達はなのはの両親が経営しているという喫茶店に到着した。
古風ながら綺麗なその店の入り口にある看板を見るとそこには翠屋と書かれている。
「……やっぱり。」
思わずトウカは顔を引きつらせていた。
言うまでも無いだろうが、ここはトウカが色々お世話になったあの夫婦の店だった。
「トウカさんどうかしたんですか?」
顔が引きつっているトウカに気がついたのか、なのはが声をかける。
「い、いや……やっぱり俺帰ろうかなぁ……」
「えぇ!!な、なんでですか?」
「ま、まぁちょっと色々あってね……」
ただでさえ、つい先ほど偶然の再会があったにも関わらず、一度ならず二度もこのようなことがあるとは思ってもみなかったトウカは非常に帰りたくなっていた。
「そんなこと言わずに行きましょうよトウカさん!」
「ちょ、ちょっとなのは待って……!」
なのはに腕を掴まれズルズルと引きずられながら半ば強引に連れて行かれる。
「ただいま!」
店内に入ると桃子と士郎が相変わらず仲良く働いている。
「あら、なのは。おかりなさ……あれ、トウカさん!?」
「おや?トウカさんじゃないか。」
「あ……どうも先日はお世話になりました。」
そして、なのはに引きずられているのがトウカだと気づき2人は驚いている様子だった。
「……もしかしてトウカさん、お母さん達とも知り合いだったんですか?」
「まぁ色々あってね……まさかなのはの両親だったとは。」
なのはも友人のすずかだけではなく自分の母親とも知り合いとは思っていなかっただろう。
市内を動いていたとはいえ、偶然がここまで重なると流石のトウカも頭が痛くなっていた。
「あら、トウカさんはなのはさんのご両親とお知り合いだったの?」
後から入ってきたリンディ達も今のやりとりを聞いていたのか、なのはと同様に驚いている様子。
「なのはには言ってなかったけど……実は昨日、士郎さんがいないときに変な人たちに詰め寄られてたところをトウカさんに助けてもらったのよ。」
「えぇ!?お母さん大丈夫だったの?」
「トウカさんがあっという間に追い払ってくれたから大丈夫よ。」
「そうだったんだ……トウカさん。ありがとうございました!」
「いやまぁ……大したことじゃないよ。」
そんなこんなでトウカは不思議な再開を同じ日に2度も体験していた。
(てか、良く考えたら……会った人って大体なのはの関係者じゃないか・・・?)
世間は広いようで狭いとはよく言ったものだが、ここまで出来過ぎているともはや何か運命的なものを感じるトウカだった。
「って、そうじゃなくて今日は挨拶に来たんですよ。ね?リンディさん。」
「あ!そうだったわね、始めまして。リンディ・ハラオウンです。」
「こちらこそ始めまして。高町桃子です。」
思いもよらない展開もあったため少し遠回りをしてしまったが、ようやく本来の目的である挨拶をすることができた。
◆◆◆◆◆
簡単な自己紹介は済んだ後、トウカとリンディは店内に残って話しをすることに、なのは、フェイト、すずか、アリサ、その他2匹は外で話をすることになった。
「ユーノ君久しぶりだね~」
「う~ん……なんかあんたのことどっかで見た気がするんだけど……気のせいかな?」
という感じでなのはとフェイトはアリサとすずかと一緒に外の席でお茶を飲んでいた。
「そういえばなのはに聞きたいことがあるんだけど……トウカさんってどんな人?」
「トウカさん?最近会ったばかりだからよくわからないけど……優しいしとてもいい人かな?」
「アリサちゃん……もしかしてトウカさんのこと気になるの?」
「ち、違うわよ!確かにかっこいいかな~って思うけど、そんなんじゃないから!」
そう言ってアリサは顔を真っ赤にしながら否定しているが、付き合いの長いなのはとすずかは明らかにおかしいアリサの様子を見て何か察したようでニヤニヤしている。
一方の少し鈍感なところがあるフェイトは三人が何の話しをしているか分かっていないようで頭の上にクエスチョンマークが飛び交っていた。
◆◆◆◆◆
一方、店内にいるトウカ達。
「……そんなわけで、これからしばらく御近所になります。よろしくお願いします。」
「いえいえ、こちらこそ。」
「どうぞ、ご贔屓に。」
「まさかトウカさんがリンディさんのご友人だったなんて、こんな偶然あるのねぇ!」
「いやぁ……あはは……」
「私もまさか旅の途中のトウカさんと会えるだなんてビックリしました。」
あの後、高町夫婦にリンディとの関係を聞かれたトウカだったが、リンディに昔お世話になった事があり、それ以来からの友人で今は財布を落としてしまったのでしばらくハラオウン家にお世話になることになったという話をした。
強引な作り話だったがそこはリンディが上手く話を合わせてくれたおかげで簡単に納得してくれた。
そんな話をしていたら店の扉が開いた。
「リンディていと……リンディさん」
振り向くとそこには白い制服を持ったフェイトが少し動揺気味の様子で立っていた。
「はい。なぁに?」
「あの、これ……これって……」
フェイトが持っている白い制服。それはなのはたちが通う私立聖祥大学付属小学校の制服だった。
「転校手続きとっといたから。週明けから、なのはさんのクラスメイトね。」
「あら、素敵!」
「聖祥小学校ですか、あそこはいい学校ですよ。な、なのは?」
「うん!」
「よかったわね。フェイトちゃん。」
「あの……えと……はい、ありがとう……ございます。」
フェイトはうれしさのあまり、顔を真っ赤にして制服をぎゅっと抱きしめていた。
◆◆◆◆◆
少し時は流れ夕方の図書館。
トウカは本棚を眺めながら館内をウロウロしていた。
『今日は何を読むのですか?』
「ん~……そうだな……」
色んな本を眺めながら念話でヘイムダルの質問に答えるトウカ。
あれから翠屋でフェイトの学校がなのはと同じ学校に通うことになった話や、アリサたちを交えて世間話をしたり等、一通り挨拶が済んだ後、あまり長居してはお店に迷惑が掛かるので、リンディは引越しの準備のため帰宅、なのははアリサ、すずか、フェイトと共になのはの部屋に移動することになった。
いきなり暇になってしまったトウカはなのはに誘われたものの、せっかくの同年代の友人達とゆっくり話せる機会に水を差すわけにもいかないので、トウカは図書館に来ていた。
初めて来た時に知りたい情報は一通り得てしまったものの、読みたいと思っている本はまだまだたくさんある。
文学。
哲学思想。
社会学。
心理学。
歴史。
写真。
美術。
週刊誌等の一般雑誌。
漫画もいいかもしれない。
”図書館”というものにはここには様々な本がある。
しかも、どの本にも興味をそそられるというのが悩みどころである。
それからしばらく何を読むかウロウロしていると。
「あのぉ……」
ふと、声をかけられた。
しかもどこかで聞いたことがある少女の声。
「おや?君は確か……」
振り向くと、そこにいたのは以前この図書館で会ったすずかと一緒にいた車椅子の少女だった。
「この前はどうもありがとうございました。」
「別に大したことじゃないよ。今は一人?」
「今日は家族と一緒に来たんですけど、今はちょっと買い物にいってるんで別行動中です。」
「そうなんだ。」
「あの……よかったらちょっとそこでお話しません?」
ふと、突然車椅子の少女からそんな提案をしてきた。
「うん、いいよ。」
特に読む本を決まっていなかったのでトウカは少女の提案に了承することにした。
ということで、図書館内に設けてある休憩所に二人は移動し改めて自己紹介をした。
「俺の名前はトウカ。よろしく。」
「八神はやていいます。ちなみに、トウカさんは今おいくつなんです?」
と、普通の人なら簡単に答えられる質問だが、記憶を無くしているトウカにとってはなんとも答えにくい質問をされた。
「ん~……たぶん20歳。」
「え?たぶん……?」
「ま、まぁ気にしないで。はやてはいくつなんだい?」
「あたしは9歳です。今は休学中なんですけど、小学3年生です。」
詳しく聞くと目の前の少女、八神はやては生まれつき足の病気で学校に通えないとのこと。
親ははやてがまだ小さいときに亡くなってしまい、今は親戚のような人と家族同然に暮らしているということだった。
「あ、すみません。初対面やのに突然こんな話して……」
「いや、そんなこと無いよ。」
「なんでやろ……トウカんって優しそうやからついつい話してしもうた。」
(それ、リンディさんににも同じようなことを言われた気がする……なんでだろ。)
それからはやてと色んな話をした。
自分の好きな本の話。
名前は聞いていないが、今暮らしているはやての家族の話。
トウカが最近この海鳴市に引っ越してきた話などなど……
もちろん自分が記憶喪失だということは話さなかったが、色んなことを話した。
それから、あっという間に時間は過ぎて夕方になり、図書館はもうすぐ閉館を告げるアナウンスが放送が流れている。
「それじゃあ帰るかな……途中まで送っていこうか?」
「あ、大丈夫です。図書館の入り口で待ち合わせなんで、もう少しここで待ってます。」
「そっか、それじゃ先に帰るね。また、会おうね。」
「はい!」
満面の笑みを浮かべたはやてに見送られ、トウカは外へ出た。
冬の時期になると、日が沈む時間が早くなり、出かけた時は青空だった空も今はオレンジ色に染まっていた。
しばらく歩いてふと、はやてのことが気になったので図書館の方向を見ると、はやてはまだ入り口付近にいた。
だが、はやては誰かと話している様子だった。
「はやてが言ってた家族の人か?」
ここからではかなり距離が離れているので顔はよく見えないが、はやては赤い髪ポニーテールの女性と一緒にいた。
ただその女性がこの間フェイトと戦ったベルカの騎士に似ていたような気がした。
「気のせいか……?まあいいや、寒いし早く帰るか。」
まだ夕方とはいえ、冬の風は体に突き刺さるように冷たい。暖房があった図書館と外では、まるで世界が違うように感じた。
トウカは少し早足で帰路についた。
帰宅途中、トウカは1つ気になることがあった。はやての足のことだ。
彼女は生まれつきの病気だと言っていが、トウカはこの動けないという足に少し違和感を感じていた。
そしてもうひとつ気になることがトウカにはあった。
「寂しそうだったな……」
と、彼女の話していた時の表情を思い出し、ポツリと呟いた
両親が亡くなっていること。
車椅子での生活を余儀なくされていること。
その話だけでも彼女は普通の人よりもつらい人生を送ってきたのだろうが、トウカはそのことに関しては一切何とも思っていない。
同情も、憐れみもトウカはしていない。
そんなもの、はやてが求めていると思えないし、求められたところでするつもりもない。
同情や憐れみをしたその時点で既に対等とはいえない。つまり友人でいられなくなってしまうから。
しかしそんなトウカがふと感じた、はやてに対して感じたこの気持ち。
そうだ。彼女が今は親戚の人たちと一緒に暮らしていると話していたその時だ。
その人たちの話している時のはやては
とても嬉しそうで
とても幸せそうで
とても楽しそうで
……とても寂しそうだった。
◆◆◆◆◆
その夜、本局のメンテナンス室。
レイジングハートとバルディッシュの修理と調整をしているマリーはあるひとつのエラーコードに頭を悩まされ、通信でエイミィに相談していた。
レイジングハートとバルディッシュ。二基とも部品交換と修理は終わったのだが、エラーコードは消えなかった。
しかも、その二基が出しているエラーコードは「必要な部品が足りない」というものだった。
「今、部品データの一覧を……」
マリーから送られてきたデータをエラーコードと要求部品を見て、驚くエイミィ。
「えっ!足りない部品ってこれ?」
『えぇ。これ、何かの間違いですよね?』
”エラーコードE203 必要な部品が不足しています。エラー解決のための部品。CVK-792を含むシステムを組み込んでください。”
二つともこのメッセージのままコマンドを受け付けることはなかった。
二基が求めいているシステム『CVK-792』
それは、ベルカ式カートリッジシステムの部品名だった。
短めなので二日連続投稿です。
では次回も宜しくお願いします。