魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師──   作:六道 天膳

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第12話「対峙」

 

──それはシグナムと出会う十分ほど前のこと。

 

 

 

 

「さて、じゃあここで網を張ろうか。」

 

 

トウカは今、海鳴市のとあるビルの上に立っている。

何故こんなところにいるのか、それは先日の騎士達を探すためである。

先日なのはが襲われた一件の前にも一度、この地域で局員が襲われたという話をクロノから先日聞いていた。

なのはが協力しやすい点、フェイトに普通の学校に通わせて上げたいというリンディの想いもあったのだろうが、まさかそれだけの理由でリンディがこの地域に拠点を置くわけがない。

つまり、管理局もこの海鳴市に騎士達が拠点にしているであろうことはある程度掴んでいるのだろう。そうでないとわざわざこの地に拠点を置く理由があまりないからだ。

だが、トウカは”もう少し先”を考えていた。

 

 

「じゃあ探知魔法使うけど、できるだけ広く展開するからヘイムダルもサポートよろしく。あとできるだけクロノ達にもばれないように気をつけるよ。」

『了解。他に2箇所に置いてあるデバイスもいつでも作動できます。』

 

 

既にわかっていることだが、トウカは決して魔力量は多くない。

となると、探知できる範囲はやはりそこまで広くない。

そこで、トウカは今いるビルの屋上に来る前に自分が探知できる範囲より少し離れた2箇所に一本ずつ生成したナイフ型のデバイスを置いてきている。

インテリジェントデバイスには魔法を自動起動させることができる。

それを応用し、各地においたデバイスに探知魔法を自動起動させて、半ば無理やり探知範囲を広げているのだ。デバイスを生成できるという特性を持つヘイムダルだからこそできる芸当である。

 

 

「さて、騎士さん達は捕まるかな?」

 

 

無事に探知魔法を展開できたことを確認するとトウカは静かに目を閉じ、少しの変化も見逃さないように神経を集中させる。

ここまでの騒ぎになっているのに、自分達の拠点を未だに気づかせていない騎士達の手際も大したものだが、それにしても管理局も随分ずさんな調査をしているものだとトウカは内心、少し呆れていた。

 

 

さて先述した、トウカが”先を考えている”という点についてだが。

 

 

それは、管理局が動いているということを知っていながら、”騎士たちは何故、未だにこの地域に拠点を置いているのだろうか”という点である。

あの騎士たちの目的が単純に魔力を集め、闇の書の完成を目指すためならわざわざこの地域にと止まるというのはリスクでしかない。

それでもこの地域に拠点を置いてる理由として考えられるのは、騎士たちは管理局と敵対しがたっている、もしくはそうしなければいけない理由があるのか。

それとも、どうしても拠点を移動できない何か理由があるのか。

トウカはそれを探るべく、動いているということだ。

 

 

(クロノやリンディさんに話しても仕方ないしなぁ……)

 

 

そう、あくまで彼らは管理局の人間として動いている。彼らが考えているのはあくまでこの騒動の決着なのだから。

それから、探知魔法を展開してから30分ほど経過した時だった。

 

 

『マスター、微かですが魔力を感知しました。おそらく何者かが転送魔法を使用してこちらの世界に来たのでしょう。』

「場所は?」

『ここから1km先のビルの屋上です。』

 

 

時空管理局の人間がわざわざそんな所に転送してくるはずがない。

ちなみに、管理局が監視している地域は事前に調べている。今トウカが探知を行っている場所は管理局が監視していない地域。

 

 

可能性があるとすれば、あの騎士達だろう。

 

 

「よし、ようやく尻尾を掴んだか。数は?」

『おそらく一人です。』

「よし、それなら好都合だ。行こうか。」

 

 

そしてトウカはゆっくりと立ち上がる。

 

 

『彼らを呼ばなくてもいいんですか?』

 

 

ヘイムダルの言う彼らの事とはクロノ達の事だろう。

 

 

「ん~……少しだけ話したいことがあるだけだから別に呼ばなくていいよ。ついでに”エスクードモード”も試してみたいし。」

『ですが、もし相手が攻撃してきたらどうするつもりですか。相手はかなりの腕の立つ騎士です。我々に勝ち目は……』

 

 

ヘイムダルが次の言葉を発しようとした瞬間。

 

 

「言っただろ、別に戦いに行くわけじゃないから大丈夫さ。」

『わかりました。あなたは私のマスターです、信じましょう。』

「ありがと。それになヘイムダル、もし戦うことになっても”今までの戦いと違って負けるつもりはないよ?”」

『それもそうですね、お願いですからそろそろ真面目に戦ってください。』

「はいはい、わかりましたよ。」

 

 

そう言ってトウカは飛んだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

──そして現在に至るということなのである。

 

 

「はぁ!」

 

 

始まりは突然だった。

シグナムは地面を蹴りトウカまでの間合いを一気に詰め、レヴァンティンを振り下ろす。

 

 

「おっと。」

 

 

トウカは真横へ跳び、間一髪のところでシグナムの攻撃を避けるが。

 

 

「遅い!!」

 

 

再びシグナムは鋭い一閃を繰り出す。

トウカの背後にはフェンス、左右に避けようとしても間に合わないだろう。

 

 

だが。

 

 

「フォースシールド。」

 

 

迫る剣に対しトウカは姿勢を低くし、左手を出しシールドを展開させてシグナムの剣を上に受け流したのだ。

シグナムが放った一撃をトウカは咄嗟に発動したシールドで受けるのではなく、シールドをわずかに斜めに傾け、剣の軌道のを逸らした。

 

 

「っく……!!」

 

 

仕切り直しするためか、シグナムは大きく間合いを離した。

 

 

「はぁ~……仕方ないか、ヘイムダル。」

 

 

トウカは腕を上げ掌が光を帯び、両手に2本のナイフ型のデバイス握られていた。

探知用に置いていた二本のデバイスを呼び戻したのだ。

 

 

「この手の武器は苦手なんだけどなぁ……」

 

 

トウカは曲芸師のようにナイフを手元で器用に回しつつシグナムに問う。

 

 

「まだやる気?俺はあんまりやりたくないけど。」

「……」

 

 

シグナムは無言で再び武器を構える。

話を聞く気は全く無いようだ。

 

 

『どうする気ですか、マスター。』

「まぁ少し付き合うさ、戦いは俺がやるから結界の維持はお前に任せた。」

『了解です。』

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

今の数合のやり取りの後、シグナムは内心焦っていた。

 

 

この世界で魔法を使う人間は時空管理局の人間の可能性が高い。

増援を呼ばれれば追い詰められるのは自分である。

自分が捕まれば他の騎士達や、主であるはやての居場所が時空管理局にばれてしまう可能性がある。

騎士であるシグナムにとって丸腰の相手を斬るというのはさすがに気が引けたが、仲間や主を危険に晒す訳にはいかない。

 

だから初撃は目の前の男に余計なことをされる前に、最速で間合いを詰め、確実に一撃で終わらせるつもりで斬りかかった。

 

まさか避けられるとは思わなかったものの、すかさず切り返し放った二撃目はたとえ防がれてもいいように剣を振った。

 

しかし、最初の一撃目はあっさりと避けられ、全力で放った二撃目はシールドで受け流された。

 

手を抜いたわけではない。相手を舐めていたわけでもない。

 

シグナムが見たところ、目の前野男の魔力は以前戦ったフェイトと比べるとかなり低い。

少なくとも魔力は平均よりも少し高いというところだが、それでも先日戦ったフェイトと比べると平凡な魔力である。

 

しかし、目の前の男は防ぎきった。

 

つまり、目の前の男は最初の一撃目を見た一瞬で自分のシールドの守りでは受け止めきれないと判断し、単純な力のぶつかり合いを避けるために受け流したということになる。

相手の力量を見る観察力、一瞬の判断力、そしてシールドで受け流したあの芸当。

このたった少しの攻防だった。しかし、シグナムは一つあることを確信した。

 

 

目の前のこの男は、紛れも無く強者だということを。

 

 

シグナムは剣を構え静かに呟く。

 

 

「……カートリッジロード。」

『Explosion.』

 

 

シグナムが持っている剣の刀身の付け根にあるパーツがスライドし、更に剣に力強い魔力を帯びる。

 

 

「カートリッジシステムか……」

 

 

カートリッジシステム。圧縮魔力を込めたカートリッジをロードすることで、瞬時に爆発的な魔力を得るベルカ式特有の技術。

その剣から放たれる一撃はフェイト達が戦っているのを見ていたので知っているが、トウカは間近で見るのは始めてだ。

そのすさまじい魔力、質、そして何よりもシグナムの戦闘技術。

遠くで見ていた時よりも、それら全てが合わさった時の恐ろしさを感じていた。

 

 

(フェイト達はよくこんなのと、まともにやりあえるな……)

 

 

そうトウカは心の中で愚痴を言いながら、このレベルの騎士たちと渡り合っていたなのはやフェイト達のすごさを改めて認識した。

仮にその攻撃をまともに受けた場合、ただではすまないことはトウカ本人が一番よくわかっている。

 

 

「すまないが……こちらには時間が無い。手早く終わらせてもらう。」

 

 

そしてシグナムは動き出す。

今度は左右に逃げられることの無いように横薙ぎで斬りかかって来た。

それに対してトウカは、両手のナイフでシグナムの剣を受け止める。

ガッ!と激しい音をたててトウカのナイフとシグナムの剣がぶつかり合う。

お互いがぶつかり合った瞬間激しい火花が散る。

「はぁぁぁぁ!!」

 

 

しかしそれだけで止まることなく、シグナムは次々と斬りかかる。

シグナムの勢いはまさに烈火のごとく。しかもその一撃の威力は必殺といえるほどの威力である。

 

 

「……っく!」

 

 

一方のトウカは最初の一撃以降はシグナムの剣を受け流している。

トウカは武器のぶつかり合いはなるべく避けたかった。

いくらヘイムダルの能力によってデバイスを生成できるからといって既に探知魔法、結界魔法の維持でかなり魔力を消費している。

ただでさえ魔力消費が激しい武器生成にこれ以上余分な魔力を割くことはできない。

しかし、シグナムはそんなことを考える余裕さえも出来ない程に攻撃が激しい。

 

 

「どうした!?守ってばかりでは仕方ないぞ!」

「……」

 

 

しかし、トウカは何も答えない。否、答える余裕が無い。

 

 

シグナムと撃ち合うこと十数合、トウカは間一髪のところで受け流しているものの、ナイフを握る手に何度も衝撃が走る。

上下左右様々な角度から繰り出される剣。いずれも直線的で実に騎士の名に恥じない実直な太刀筋。

シグナムの怒涛の剣さばきに圧倒されながらもトウカは必死に剣を振っていた。

しかし、それも長くは続かなかった。

ガキン!

という金属音と共に、トウカが左手に持っていたナイフがシグナムの攻撃に耐え切れなくなったのか、真ん中から真っ二つに折れ、光になり消えた。

 

 

「くそ……!」

 

 

トウカが圧倒されているとしか思えないこの戦い。

片方のナイフが折れたのと同時にトウカは追撃される危険があったが、状況を整えるべきだと判断し、大きく後ろに飛び間合いを離す。

 

 

しかし、シグナムは追撃はおろか、おもむろに剣を降ろした。

 

 

二人の間の距離は約6メートル。

シグナムの実力であれば一瞬で間合いを詰め、トウカに一撃を与えることができる距離。

ナイフの片割れを失った今の状態のトウカにシグナムが向かってくれば、間違いなく一刀のもとに斬り捨てることができるだろう。

だが、シグナムは向かってこない。

 

 

「……なぜ反撃してこない?」

「何言ってるんだ。こっちは守るので必死だっていうのに。」

「とぼけるな。」

 

 

今までの攻防でトウカの身体どころか、バリアジャケットにすら一度もかすりもしていない。

それどころか最初の一撃以降、”全ての攻撃を受け流している”

攻撃を受け流すというのは決して簡単ではない。受け流すには相手の攻撃を読み、最小の効率で動く必要がある。

トウカの今の武器であるナイフなら多少の小回りが利くものの、リーチで劣るナイフで少しでもミスを犯せばそれは死につながる。

しかし、現にトウカは全て受け流した。

 

 

(この男、最初の一撃でこちらの太刀筋を読んだというのか……)

 

 

デバイスを片方失ったものの、これほどまでの技量がありながら、トウカは一度たりとも反撃しようという素振りを見せなかった。

 

 

そしてここでようやくシグナムは確信した。

 

 

”この男は本当に戦う気が無いのだと。”

 

 

「貴様一体何が目的だ?もしや管理局の奴らが来るまでの時間稼ぎか?」

「何って……最初に言っただろ?話をしに来ただけだって。それに、最初から倒す気があるならとっくの昔に管理局の人間を呼んでるよ。」

「……」

 

 

最初から捕まえるつもりなら、外部に知られないために、わざわざ隠密性の高い結界を張っているようなことはしない。

トウカがやろうと思えば、今ごろはとっくの昔にシグナムは管理局の人間に包囲されていただろう。

だが、トウカはそうはしなかった。

トウカは言った「話をしに来ただけ」だと。

 

 

「それで、話とはなんだ?」

「……話を聞いてくれるのか?」

「勘違いするな。戦う気が無い者を斬るなんて騎士の名が泣く、それだけだ。」

 

 

シグナムは剣を鞘に収めながらトウカに問うた。

しかし、剣を収めたからと言ってシグナムは警戒心を解いたわけではない。

少しでも妙な行動をしたら斬る。

そんなオーラがシグナムから漂っていた。

 

 

とはいえ、一方のトウカはそんなことする気は毛頭無いのだが。

 

 

「ん~……少し君達のことで気になることがあるから聞きたいことがあるだけ。」

「……なんだ?」

「とりあえず、回りくどいことしても意味ないから単刀直入に言わせてもらうけど……」

 

 

”君達、主に黙ってリンカーコア集めてるだろ?”

 

 

「な……に……?」

 

 

トウカがその言葉を発した瞬間、シグナムは固まってしまった。

 

 

 

──今、目の前の男はなんと言った?

 

 

 

”主に黙ってリンカーコア集めてるだろ?”

 

 

そう、確かにトウカはそう言った。

 

 

シグナムは驚いていた。

無理も無い。今日初めて会った人間にいきなり核心をつかれたのだ。

 

 

──しかも名も顔も明かさない怪しい男に。

 

「……なぜそう思った?」

 

 

シグナムはなるべく冷静を保ちつつ、トウカに問うた。

 

 

「君達の行動を見てたらなんとなくね。例えば君達の魔力の蒐集対象は人間だけではなく、野生動物まで含まれているということ。人間だけならまだ分かる、でもなぜわざわざ野生動物を狙うのか。しかも、大型の野生動物で危険な物がほとんどだ。人間から奪うよりも危険性が増してリスクが大きい、もちろん人間の被害も多いけど、わざわざそんな危険を犯して野生動物を狙う理由は無いはず。」

 

 

そしてこの行動の理由としては2つの可能性がある。

1つは隠密に蒐集できることと、もう1つはリスクは大きいが素早くリンカーコアを集めることができるということ。

 

 

「ほかには……シグナムさん。あなたがここにいる理由だよ。」

「なに?」

「君達は一度この世界で時空管理局の人間と戦った。そして、その前にもこの世界で管理局の人間が襲われている。この世界は時空管理局の管理外の世界とは言っても、2度も犯人が現れた世界を時空管理局が監視しないはずが無い。そんなことに気づかないほど君達はバカじゃないはず。」

 

 

この行動の利点はあまり無い。ならなぜ、この世界にとどまっている理由として可能性があるのは。

まず、比較的文化が進んでいて、しかも隠れやすい世界だからという可能性もあるが、主がもともとこの世界の人間だからという可能性が一番高い。

 

 

「……」

 

 

シグナムは一言も喋らない。思っていることはただひとつ。

 

 

(──この男は……只者じゃない。)

 

 

「まぁ、あとは少し考えればいくつか可能性がでてくる。」

 

 

トウカは手を前に突き出し、人差し指を立てる。

 

 

「まず、1つ目は臆病で傲慢な主が隠れて騎士である君達に魔力の蒐集を急かしている。とりあえずこれは無いだろう。」

 

 

もしそうなら目撃者の蒐集し終わった人間を生かしておく必要は無い。

しかし、今のところ一人も死者は出ていないということはその可能性は無いに等しい。

次に中指を立てる。

 

 

「2つ目は君達が私利私欲のために動いている。これも可能性としては低い。」

 

 

シグナムたちは闇の書のプログラムだ。それにそもそも主の承認なしで闇の書を使用することはできない。

それ以前に、それこそこの世界にとどまっている理由は無いはず。

最後に薬指を立てる。

 

 

「そして最後、3つ目……主はこの世界の人間。そして君達の主は何も知らない。だけど、何らかの事情があって君達は魔力の蒐集を行っている。まぁ、この3つの可能性の中から考えると最後の3つ目が一番可能性が高いんだけど……どう?」

 

 

トウカは話を終わらせたがシグナムは無言で俯いたままで何も答えなかった。

それからどれくらいの時間が流れただろう。おそらく数分程度だったが、その沈黙は非常に長く、重たい沈黙だった。

しばらくの沈黙の後、ようやくシグナムは口を開いた。

 

 

「確かに主は私達が魔力を集めていることを知らない……この話は管理局の人間に話しているのか?」

「いや、他の人間にはこの話はしていない。これは俺が勝手にしていることだよ。」

「そうか、それなら都合がいい。」

 

 

そう言ってシグナムは鞘から静かに剣を抜いた。

 

 

「そこまで知られたからには帰らせるわけには行かない。」

「ということは、俺の推理は正解ってことでいいのか?」

 

 

シグナムはその場でシラをきることもできた。

それなら少なくとも主のいる場所を知られることは無かっただろう。

 

 

だが、彼女はそれをしなかった。

 

 

なぜならシグナムはこの男にそんなことをしても無駄だと考えた。

 

 

一方、トウカはというと目の前でシグナムが剣を構えているにも関わらず構えようとはしない。

しかも、トウカはもう1つ聞きたいことがあった。

 

 

「そうそう!最後にもう1つ聞きたいことがあった。シグナムさん達ってもしかして主のために魔力を集めてる?私利私欲というか単純に主を想ってやってるんじゃない?」

「……そうだ。」

 

 

その一言を聞くと、トウカは満足そうな様子で。

 

 

「そっか、それじゃあ俺帰るわ。」

 

 

唐突にそんなことを言っていた。

 

 

「……は?」

 

 

意外な言葉がでてきてシグナムは呆気に取られた様子だった。

 

 

「いやだって疲れたし……あ、大丈夫。今日のことは誰にも言わないから。とりあえずそれは約束するよ。」

 

 

そう言ってトウカは屋上の端まで歩いていく。

 

 

「ま、待て!!私も……貴様に聞きたいことがある。」

「ん、なに?」

「もし、私達が魔力を集める理由が主のためではないと言ったらどうするつもりだった?」

 

 

トウカはしばらく黙した後。

 

 

「倒すよ……ただそれだけさ。」

 

 

今までの様子とは一変し、ただ静かにそう言った。

ただその一言はとても冷たく、殺気がこめられていて、まるで人格が入れ替わったのかと思うほどだった。

 

 

シグナムはそのあまりの変わりように一瞬たじろいだ。

 

 

「だけど最初から君達に何か事情があるなぁ……とは思ってたけどね。」

 

 

しかし、そう思ったのも一瞬のこと、次の言葉を発したときにはすでに先ほどまでの飄々としたトウカに戻っていた。

 

 

「なに?」

 

 

──だって、シグナムさんがそんなに悪い人とは思えないから。

 

 

最後にそう言い残してトウカはビルを飛び降り、夜の闇に消えた。

 

 

「一体何者なんだ……」

 

 

そして結界が解かれ、周りは元の色に戻っていく。

しかし、シグナムはただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「あー疲れたぁ~。」

 

 

ヘイムダルを首に掛けつつ、バリアジャケットを解いたトウカは町ではなく今度は住宅地をのんびりと歩いていた。

 

 

『もうあんな無茶なことしないでくださいよ。』

「まぁまぁ、そんなに怒るなって。それでどうだった?若干口調とか変えてみたけど。」

『いえ、全く変わってませんでしたけど。』

 

 

即答だった。

 

 

「はぁ~、やっぱり慣れないことするもんじゃないね。」

『それはそうと、何故そんな回りくどいことを?』

「ん~……まぁ色々と考えてることがあってね。」

 

 

トウカは歩きながら思考を巡らす。

 

 

(さて、これでわかった事がいくつかあったけど。この情報はしばらくリンディさん達に言うのはやめておこう。)

 

 

そんなことを考えながらトウカは帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 




シルバーウィークということで何も予定がなかったので一気に書き上げました。
普段からこんなに書く時間があったらどんなにうれしいことか・・・
では次回も宜しくお願いします。


追加情報。

・エスクードモード   (Escudo Mode)
機動力を捨てて強度を上げたため、シールドを破られても多少ならばダメージを軽減させることを目的としたバリアジャケット。
見た目はフード付きの全身を覆う黒いロングコート。

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