魔法少女リリカルなのはA's──記憶を無くした魔導師──   作:六道 天膳

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第15話「時間稼ぎ」

 

 

 

 

 

──ここはどこだろう。

 

 

 

 

 

 

ザラついた風が頬を撫でる。

 

 

 

 

 

見渡す限りの荒野。

その中心に一人の男が立っていた。

この荒野に彼以外の人影はない。

だがその代わり、足元には様々な武器と様々な旗が落ちていた。

おそらくここは戦場だったのだろう。

 

 

 

 

荒野に立っている鎧の男は遠い目で暁の空を見ていた……

 

 

「俺は生きるんだ……!」

 

 

その男の呟きに反応する者はいない。

当然だ、ここには彼以外誰もいないのだから。

 

 

──いや、それ以前に

 

 

彼は生まれてからずっと孤独だった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「夢……?」

 

シグナムとの対決から数日経ったある日の早朝。

不思議な夢を見たトウカは目を覚ました。

海鳴市で暮らし始めてからトウカはまだ一度も夢をみたことがなかったので少し戸惑っていた。

 

 

先ほど見た夢を思い出す。

 

 

広い荒野で誰かが立っていた。その足元には武器や旗か数多く落ちていた。

まるでファンタジー系の本に出てきそうな風景だった。

まぁ自分が使っている魔法自体この世界にしてみれば十分ファンタジーなのだが。

だが、いくら思い出そうとしてもあんな場所は知らないし、もちろん武器も旗も見覚えはない。

 

 

「ぐっ…・・・!!」

 

 

夢のことを思い返していた瞬間、頭の中が掻き回されているような激しい痛みがトウカを襲った。

まるでこれ以上夢のことを考えるなと脳が警告しているように。

やがて頭痛が治まり、額に手を当てると汗でびっしょりと濡れていた。

しかし頭痛の影響か、すさまじいめまいと吐き気。

 

 

「はぁ……はぁ……何の夢だったんだ……?もしかして俺の記憶?それとも本の読み過ぎかな……」

 

 

そう言いながらトウカは頭を掻いた。

ここ最近は”聖戦”やら”最終戦争”やら”台座に刺さっていた剣を引き抜いて王様になった話”等々、そんな本ばっかり読んでいたせいでこんな夢でも見たのだろうとトウカは考えていた。

 

 

そんなトウカの独り言を聞いていたヘイムダルは。

 

 

『マスターどうしましたか?』

「いや……変な夢見た後に頭が痛くなってね。」

『もしや先日の騎士との戦いでのダメージが残っているのでは……大丈夫ですか?』

「いや、たぶんそれじゃない。ありがとう、もう大丈夫だ。」

 

 

いつもトウカに厳しいヘイムダルも異変を感じたのか気遣っているように声をかけていた。

 

 

結局それから色々思い出そうとしたが、それ以上は何も思い出せず、頭痛もすることはなかった。

とりあえずいつも早く起きたので少し体を動かそうとトウカは思い立ち、運動用にリンディさんから貰ったジャージを着ると足早に外に出た。

 

 

まるで頭痛や夢のことを無かったと思いたいかのように。

 

 

いつの間にか吐き気とめまいは治まっていた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ん……もう朝?」

 

 

同じ頃、フェイトは目覚めた。

フェイトもまた、いつもよりも早く起きてしまったのだが、いつも以上にフェイトは目がすっかり覚めていた。

理由はただひとつ。

 

 

「今日……やっとバルディッシュが帰ってくる。」

 

 

そう、今日はレイジングハートとバルディッシュの修理が完了する日なのである。

管理局で保護されていたときは流石に回収されていたのだが、それ以外の理由で相棒のバルディッシュと長い間離れているのは久しぶりなので、待ち遠しい気持ちが強く早く起きてしまったのだ。

 

 

「んん~~……今日は少し早いけど、鍛錬しに行こうかな。」

 

 

早起きしたからといって二度寝することなく、フェイトはベットから降りて大きく伸びをすると、朝の日課である鍛錬を少し早めにすることにした。

いつもならアルフと一緒に鍛錬をしているのだが、まだアルフは寝ているかもしれないので今日は一人ですることにしようと思い、フェイトは着替えを始めた。

と、その時。

タッタッタと、とても小さい音だったが、玄関へ向かって廊下を歩く音が聞こえた。

 

 

「……ん?クロノかな?」

 

 

いつもなら誰も起きている時間ではないので、不思議に思ったフェイトが扉を開けて廊下に顔を出すと、ちょうど玄関の扉を開けて外を出て行く黒く長い髪が見えた。

 

 

「トウカさん……?」

 

 

もちろん、その後姿はトウカしかいないのだったが、普段なら起きている時間ではないのでフェイトは不思議そうに首をかしげた。

 

 

「こんな朝からどうしたんだろう。」

 

 

心配になったフェイトは早く着替えを済ませるとトウカを追うように家を出るのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「すーーーーはーーーー……」

 

 

海鳴市のとあるビルの屋上。トウカは大きく深呼吸をし、ヘイムダルで生成した槍を構える。

静寂が流れる中、トウカは構えを取ったまま微動だにしない。

ゆっくり瞳を閉じ。

呼吸を整えた後、ゆっくりと目を開き。

そして。

 

 

「はぁ!!」

 

 

正面に向かって一直線に突く。

 

かれこれこの動作を30分ただひたすら続けている。

呼吸を整えて突く、というたったこれだけの動作でも集中力の向上、突きに変な癖がないか、動きに無駄がないかの確認等々、様々な利点がある。

トウカが一突きする度、ヒュンッと鋭い風の音が鳴る。しかも一寸違わぬ動作で突き続けている。

 

そして再び目を閉じると、トウカがふと、口を開いた。

 

 

「フェイト、そこにいるんだろ?遠慮しないでおいでよ。」

 

 

トウカが声をかけると、ビルの塔屋からひょっこりフェイトが顔を出した。

 

 

「ごめんなさい、邪魔するつもりはなかったんですけど……朝早くに出かける姿を見て少し気になって。」

「謝ることでもないよ。一般人ならとこもかく、フェイト達なら別に見られても問題ないし。」

『それよりもマスター、ここで一区切りにしてそろそろ休憩したらどうですか?かれこれ30分以上続けていますし。』

「ん……もうそんなに経ってたのか。じゃあそうしようかな。」

 

 

ひとまず一区切りつけてフェンスに寄りかかるように腰を下ろす。

同じくフェイトもトウカの隣に座った。

先日の夕食の一件以来、トウカとフェイトは良好な関係を築いていた。

フェイトもいつの間にか自然と話せるようになって逆に驚いていた。

それまで自分が何故こんなにもトウカと話すことに緊張や警戒が入り混じっていた感情を抱いていたのだろうと。

朝の挨拶はもちろん、夕食の時や、トウカがのんびりテレビを見ている時も普通に話しかけているのだ。

 

 

(クロノもたったの数日で俺とフェイトの関係が良くなるとは思わなかったのか。魔法を使って洗脳でもしたのか……と非常に失礼なことを言われたな。リンディさんとエイミィはかなり喜んでたけど……でもまさかアルフも素直に喜んでいたのは意外だったけど。)

 

 

四人も最初は不思議に思っていたが、二人の関係は元々この家で住む人の中で唯一といってもいいほどの課題だったので、それが解決してとりあえず一安心したといった様子だった。

しかもそれだけではない。

最近はフェイトがトウカに学校の勉強でわからないことがあればトウカに教えて貰っているのだ。

フェイトはこの世界の人間ではないため、特に漢字の読み書きに苦戦していた。

おかげで学校の科目の中で文系の成績がかなり気の毒な状況だった。

ちなみに理系科目は余裕で満点を取っている。

これはミッドチルダも地球も物理と数学もほとんど変わらないということもあるのだが、魔法の制御や構築は基本的に理数系の知識を用いているからである。

魔法技術だけでなく、魔法知識も優秀なフェイトであれば小学校レベルの授業で満点を取るのは造作もないことである。

トウカはこの世界の本を普段から大量に読んでいるため、少なくとも日本語に関しては読み書きは完璧にマスターしている。

そのことを知ったフェイトはトウカに勉強を教えても貰おうと思い立ったのだ。

そのおかげか、元々自頭が良く、努力を怠らない性格なこともあってか、フェイトは驚異的なスピードで漢字を覚えていっている。

 

ということもあり、トウカとフェイトは仲良くなったというよりも、フェイトがトウカにすっかり懐いてしまっている。

 

なんでこんなに懐いてくれたのかトウカ本人も不思議なくらいなのだが、フェイトとの関係が良くなったことは正直に嬉しいのであまり深く考えていない。

 

 

「それにしても、トウカさんって鍛錬してたんですね、知らなかったです。」

「んー……気まぐれにやってる程度だけなんだけどね。やってる時間もフェイトが学校行ってる時間が多いし。それに俺ってなのはやフェイトと違って魔法で戦うよりも白兵戦で戦う方が得意だし、あと記憶喪失だからさ、武器の扱いも正直言っちゃうと曖昧なところがあるからこうやって身体を動かさないとヘイムダルの持ち味を発揮できないかもしれないからね。」

「武器の扱いが曖昧……?どういうことですか。」

「ふむ……じゃあちょっと俺の課題……というか最近の悩みなんだけどさ……」

 

 

そう前置きをしてトウカは語る。

まず今のトウカは記憶を失っている。

普通ならば記憶喪失によるストレスを抱え、情緒不安定になる可能性もあるのだが、トウカは暢気に生活しているのでその点は問題ない。

確かに昔の自分のことがわからない事に多少は不安に感じることはあれど、生活しているうえでは今のところ問題は無い。

 

 

しかし、戦闘に関して重大な問題な点があった。

 

 

トウカは知識はあるが経験を覚えていない。

例えばヘイムダルのデバイスの特性上、様々な武器で戦うことができるが武器を扱う”知識”はあっても、今までどうやって使っていたかという”経験”を覚えていない、ということだ。

つまり、何故自分はこの武器を使って戦うことができているのか、いつ使っていたのか、どうやって使うことができるようになったのかを覚えていない。

武器の使い方を知っているからといって実戦で使えるというような都合のいいことがあるわけがない、と考えるのが普通なのだが。

 

トウカは自然と戦ってしまっている。

 

 

「なんて言うのだろうなこういうの……身体が覚えているっていうのかな?とにかく、俺は今まで使ってきた武器だけじゃなく、それこそ様々な武器を使える。まぁ流石に見たことも聞いたことも無い武器を使えるかと聞かれたらちょっと難しいけどね。でもざっと考えても十種類以上の武器を俺は使える。普段から良く使ったり、ちょっと苦手な武器もあるけど基本的に全部同じくらいのレベルで使える自身がある。」

「そんなことできるなんて……」

 

 

いるわけがない。

 

と、近接戦闘を得意としているフェイトだからこそ思った。

当たり前だ。

武器の選択肢は非常に幅広い。

その人の性格だったり、相性だったり、癖だったりと様々な理由があるが得手不得手は必ず存在する。

魔法の分野よりも武器の分野は特にそれが顕著に現れる。

複数の武器を使える、または使おうという人は基本的に少ない。

普段から槍を使っている人間は他の武器の鍛錬はしない……とは言わないが、ある程度使えるまでのレベルとなると、せいぜい数種類が限界だ。

 

それはなぜか。

 

言うまでもないだろうが、間違いなくすべてが中途半端になる。

槍の達人が剣を使って槍を持っている時のように実力を発揮できるかと言われれば難しい。

それが十種類以上……ほぼ不可能である。

 

そんな中途半端なことをすれば、それはつまり自分の死に直結する。

 

これはもはや臨機応変に戦うことが出来るという次元の話ではない。

だが、フェイトはトウカが嘘を言っているようには思えなかった。

それはトウカの持つヘイムダルの事を考えれば明らかである。

トウカのヘイムダル自由な形状の武器を生成できる。

ミッドチルダのように魔法を使うということよりも、そしてベルカ式以上に武器としての性能を極端に突き詰めている。

そのデバイスを使うということ……それは同時に様々な武器を使いこなさなければいけないのである。

逆に様々な武器を使いこなせないのならば、このデバイスを使う意味が無い。

そして、近接戦闘の技術の高さはクロノとの模擬戦を見ていたので良く知っている。

しかも先日、剣の達人であるなのはの兄と同じ剣同士で互角以上に戦った……という話を直接見ていたなのは本人から聞いている。

そして改めてフェイトは確信した。

トウカの言っていることは嘘では無いと。

 

 

「それで、ここからが本題なんだけど・・・…武器を扱う”知識”はあっても、今までどうやって使っていたかという”経験"を覚えていない。何故自分がその武器を使えるかもわからない。っていうことはつまり、自分の思考と行動が一致していない。つまり頭と身体の”ズレ”が生まれる……この意味がわかるかい?」

「ズレがあるということは、いざという時に身体が考えた通りに動かない可能性がある……ということですか?」

「正解。」

 

 

そういってトウカはまるでメガネをかけたインテリのように人差し指をピンと立てて言う。

 

 

「俺は最初クロノに得意な武器しか使わないって言ったけど、その理由は別に使えないわけじゃない。単にこの”ズレ”が戦いの中で頻繁に起こることが危険だからなんだ。」

 

 

戦いの中でトウカはこの頭と身体のズレを感じながら戦っている……ということはつまり、武器を満足に扱えていないということになる。

このほんのちょっとしたズレが、もし0.1秒の判断の遅れになれば、白兵戦において命取りになる可能性が非常に高い。

特にベルカの騎士達は近接戦闘だけならばフェイト達を圧倒している。

そんな相手に対して一瞬でもそのズレが原因で判断や反応が遅れれば……その時はトウカの命は無いだろう。

 

 

「っていうことで俺はあえて使う武器をある程度絞って、このズレを戦いの中で起こさないように対策してるってことなんだ。まぁこれは俺の弱さのせいでもあるんだけどね。」

「そんなことは無いです!」

 

 

隣にフェイトはぐいっと詰め寄るように顔を近づけて、真っ直ぐにトウカの目を見て言った。

お互い鼻があたりそうなほどの距離だったが、フェイトは少しムキになっているようでそのことに気づいていない様子だった。

今の話を聞いてフェイトは自分の中でのトウカの評価を改めた。

今までは弱いと思っていたわけでもいないが、特別に強いところは無いと、トウカに対して思っていた。

 

だが、フェイトは今までそう考えていた自分を恥じた。

 

もしもトウカが思考と身体のズレもなく、記憶が戻った万全の状態で戦ったら……?

トウカ本人は自分が弱いと言いるが、クロノと互角に渡り合えるほどの高い戦闘技術を持っている人物が弱いわけが無い。

しかもそれは万全では無かった。

 

 

そしてこの時、フェイトは一つの頼みをトウカにしようと思いついた。

 

 

「トウカさん、お願いがあります……私に戦い方を教えてください。」

 

 

この人に戦い方を教わればきっと自分は強くなる。

そうフェイトは確信していた。

それに対してトウカの答えは……

 

 

「あ……あぁ、それはいいんだけど……フェイト、顔近い……」

 

 

「……え?」

 

 

フェイトは改めて自分とトウカの状況を整理する。

お互いの鼻がくっつきそうで吐息が感じれるほどの近さ。

トウカは困ったような表情で自分を見ている。

ふと、フェイトはトウカのあることに気づく。

 

 

(あ、トウカさんって結構まつげ長いんだ……はっ!)

 

 

そんなことを一瞬考えたが、すぐに正気に戻り。

 

 

「……あっあの!ご、ごめんなさい!」

 

 

フェイトは顔を真っ赤にしてぱっと距離を離すと、三角座りをして顔を下に向けて蹲ってしまった。

よほど恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤になっている。

 

 

(頼まれたのはいいんだけど……俺のなんかでいいのかな……)

 

 

そんな恥ずかしがっているフェイトをよそにトウカはそんな心配をしていた。

ということで、トウカはフェイトに戦い方を教えることなった。

 

 

ちなみにフェイトは恥ずかしがって蹲ったままその場から動こうとしなかったので、立ち直させるためにトウカが1時間ほど説得したそうな。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

その日の午後。

なのはとフェイトは学校から帰ってからすぐにアルフと共に管理局に向かっている、今頃デバイスを受け取って帰っているところだろう。

さて、トウカはというと。

 

 

「トウカさんも行かなくてよかったの?」

「えぇ、ついでに俺も色々調べられそうだったんで。」

 

 

最近、全くトウカの記憶が戻る様子が無いことに本気で心配になったクロノは割と本気で管理局の病院で診てもらったほうがいいのではないかとうるさいのだ。

しかし、特に体調が悪いわけではないので今までなんとか流してきたが、どうせ行くという話しになったらクロノが裏から手を引いて本局に付いた途端、診察するために無理やり拘束されかねない。

 

 

ちなみにトウカが断った理由は他に2つある。

 

 

まず1つは今朝は頭痛があったが、今は全く頭痛はしない。

それ以外に体調が悪いというわけでは無いし”何よりもめんどくさい”ということ。

そしてもう1つ。

というよりこっちのほうが本当の理由なのだが、もし自分まで行ってしまったらシグナムたちが現れたらまともに戦えるのはクロノ一人になってしまう。

アルフかユーノがいれば心配は無いのだが二人ともなのはとフェイトの付き添い。時空管理局から武装局員が派遣されているがおそらく相手にならないだろう。

もしもベルカの騎士全員が現れたらクロノは一人でも戦うだろうが、それはあまりにも危険すぎる。

正直のところ、トウカはシグナム達とまともに戦える自信はなかったのだが、時間稼ぎぐらいにはなるだろう。

というのがトウカがこの場に残った理由だった。

さて、そんなこんなでリンディ、エイミィ、クロノ、トウカの四人は現在、マンションで待機しているのだが……

 

 

「ふむ、暇だ。」

 

 

トウカはソファーでボーっと座りながらそんなことをぼやいていた。

今日も今日とてトウカは暇を持て余していた。

いつもなら散歩に行っている時間なのだが、管理局に行かないのならば今日は外出しないようにクロノに言われたので仕方なくここにいるということなのだ。

横ではリンディがのんびりとテレビを見ながら緑茶にミルクと角砂糖(4つ)を混ぜたとても不思議な飲み物を幸せそうに飲んでいる。

ちなみにエイミィはなのは達と連絡するためにこの家に特別に作ってあるオペレーションルームに、クロノは自室でなにやら仕事をしているらしい。

 

 

「そういえばこの前に図書館からたくさん本借りてきてなかったかしら?」

「あれもう全部読んじゃったんですよ……」

「え、もう?すごいわね?」

「……たぶん今まで読んだのをカウントしたら20冊くらい読んだかもしれないですね。」

「あらあら……」

 

 

本の数をトウカから聞いたリンディはその量に純粋に驚いていた。

図書館から小説や歴史の本などを数十冊ほど借りてきたばかりなのだが、もう全部読んでしまったのである。

たった数日程度でそんな数の本を読んでしまうなんて相当な集中力の持ち主か、かなりの暇人のどちらかだろう。

 

 

恐らく後者である。

 

 

「でも今日だけ我慢して、もうすぐなのはさんたちが帰ってくるはずだから。」

「大丈夫ですよ、流石にそこまでわがまま言うつもりはありませんから。」

 

 

──などとリンディとのんびりと話していると。

 

 

突然部屋中にアラームのような音が鳴り響き、リビングにモニターが出現した。そこには『CAUTION』の文字。

 

 

「まさか!」

 

 

突然リンディの表情が険しくなり、モニターに近寄る。

 

 

「……来たか。」

 

 

一方のトウカはリンディとは打って変わって、とても落ち着いていた。

しばらくすると、リンディが見ているモニターに一人の管理局の局員が写される。

 

 

『都市部上空にて捜索指定の対象2名を捕捉しました。現在、強装結界内部で対峙中です。』

「相手は強敵よ、交戦は避けて外部から結界の強化と維持を。」

『はっ!』

「現地には執務官と民間協力者を向かわせます。」

 

 

リンディは局員に命令し、通信を終わらせる。

 

 

「リンディ提督!」

 

 

先ほどのアラートを聞きつけて、飛び出すようにクロノが自室から出てきた。

 

 

「クロノ、例の騎士達が現れたわ。トウカさんと一緒に」

「了解。トウカいくぞ!僕は先に行って現地の局員と合流する!」

「はいよ。」

 

 

そう言って、クロノは一足先に家を飛び出していった。

トウカは急いでるクロノとは打って変わってのんきに大きく伸びをしながらゆっくり立ち上がる。

 

 

(さて、雲の騎士さん達……どう動く?)

 

 

そんなことを考えながらトウカは先に出たクロノを追いかけていくのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

数分後。

全身を包む真っ黒なロングコート……エスクードモード姿のトウカが結界の真上辺りにやってきた。

 

 

「よぉ、クロノ。」

 

 

トウカが来るのを待っていたのか、先行したクロノも同じく結界の外で待っていた。

 

 

「ん?トウカか……その姿は?」

 

 

クロノはトウカの姿を見て少し驚いている様子だった。

 

 

「これ?俺のバリアジャケットのもう1つ形態。」

「そうなのか……それよりも遅いぞ。何をしてたんだ?」

「いや、クロノが早すぎるんだって……それより、俺がすることは?」

 

 

トウカも決して飛行速度は遅いほうではないのだが、全速力で向かったクロノに追いつけるはずも無く、少し遅れてしまったのだ。

トウカが作戦を聞くとクロノはいつも以上に真剣な面持ちになる。

 

 

──クロノの作戦は非常に単純で簡単なものだった

 

 

「まずはなのは達が戻ってくるまで僕達が足止めをする。なのは達が合流したら二人で手分けをして闇の魔道書を持っている人物を探索するって所か。」

「それが妥当か、了解だ。」

 

 

クロノから作戦の内容を聞いたトウカは首に掛けてあるヘイムダルを手に取る。

 

 

『Guantes Form』

 

 

ヘイムダルの声と共にトウカの手が光に包まれ、両手にはグローブが装着される。

トウカは先日シグナムと話した内容は約束通りクロノ達には話していない。

しかし、グレアムと約束した”リンディやなのは達を裏切らない”という約束をある意味、破ってしまったことになる。

だが、シグナムたちにも事情があるとわかってしまった以上、どうしてもリンディ達に話す気にはなれなかった。

とはいえ、彼女達にどんな事情があろうとも今ここにいるトウカは”時空管理局の民間協力者”としてここにいる。

 

 

「さて、行きますか。」

 

 

だから”今回は”彼女達は敵としてトウカはここに立っていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

一方、結界が張られた海鳴市の市街地の上空では管理局の局員十数名が二人のベルカの騎士を取り囲んでいた。

 

 

「管理局か……」

「でもチャライよこいつら、返り討ちだ!!」

 

 

そう言って赤い髪の少女、ヴィータはハンマー型のデバイス、グラーフアイゼンを構える。

確かに彼女達の実力なら彼らを倒すことは容易だろう。

返り討ちにする気満々のヴィータだが、彼女の考えとは裏腹に彼女たちを囲んでいた局員達は大きく散開した。

 

 

「え……?」

「上だ!!」

 

 

そういったのは白髪の男性、ザフィーラ。

ヴィータが上を見上げると上空には二つの人影。

彼らの周囲には無数の蒼い刃と白銀の槍が彼女たちを狙っている。

 

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」

「ブリジャールジャベリン!!」

 

 

二人の合図と共に無数の輝く剣と槍が下にいる二人へと降り注ぐ。

すかさずザフィーラはシールドを展開し無数の剣と槍を迎え撃つ。

 

 

轟音と共に空が爆ぜる。

 

 

「はぁ……はぁ……少しは通ったか?」

 

 

そして爆煙がだんだん晴れていく……

 

 

「ザフィーラ!」

 

 

しかし、あれほどの量の攻撃を受けたにもかかわらず、ザフィーラの腕に4、5本の刃と槍が刺さっているだけだった。

 

 

「気にするな。この程度でどうにかなるほど……やわじゃない!」

 

 

しかも腕力だけでその刺さっているモノを軽々と砕いてしまった。

 

 

「上等!」

 

 

と、ヴィータはにやりと笑い、そして上空にいる魔道師を睨む。

 

 

しかし。

 

 

「……あれ?」

 

 

先ほどまで2人いたはずなのに上空には一人しかいなかった。

 

 

「──へぇ、さっきの攻撃を受けてほとんど無傷か。」

 

 

聞こえたのは背後。

 

 

「「───!!」」

 

 

二人が振り向くとそこにはフードを深々と被ったトウカがすぐ真後ろにいた。

そのトウカの左手の拳には魔力が込められている。

 

 

「速い?!いつの間に!」

「遅い!!」

『Explosion Force』

 

 

トウカは握っている拳を振るう。

対するヴィータはすかさずシールドを展開してトウカの攻撃を迎え撃つ。

 

 

「はぁ!!」

 

 

放たれたトウカの拳はヴィータのシールドに衝突する。

トウカの拳はシールドを砕こうとするがベルカの騎士の名は伊達ではなく、シールドを突破するまでは至らなかった。

 

 

「硬いな……でも!」

『choque』

 

 

瞬間。

 

 

ヴィータの視界は光に包まれたと同時に強い衝撃に襲われた。

トウカは拳を放ったのと同時に、一時的に打撃力強化とバリア破壊の効果を持たせることが出来る”エクスプロシオンフォース”を使用していた。

 

 

「っへ!少し驚いたけど大したことねーな!」

 

 

しかし、それでもシールドは亀裂がはいっているものの、ヴィータはトウカの攻撃を防いでいた。

が、攻撃が防がれたのにもかかわらず深々とフードを被っているトウカの口元はニヤリと余裕の笑みを浮かべていた。

 

 

「てめーっ!何笑ってんだ!?」

 

 

相手の口元しか顔が見えていないヴィータからしてみればその笑みは不快なものでしかなかった。

 

 

しかし、同時にヴィータはあることに気づいた。

 

 

先ほどまでグローブを装着していたはずの目の前の男の手には、いつのまにか長槍が握られていたことに。

そして、その槍の穂先には高出力の魔力が込められていた。

 

 

「おまけだ、貰っていけ。」

『Gravedad trueno』

 

 

トウカは槍に込めていた魔力を一気に放出させる。

 

 

「なっ!?」

 

 

先ほどとは比べられないほどの爆発がヴィータを包み込んだ。

 

 

シールドに塞がれ耐えられることはトウカにとって想定内だった。

 

 

しかし、たとえ堅固なシールドで守れれても、威力が平均的な魔法しか放てなかったとしても、亀裂の入ったシールドに零距離で直射魔法を放たれれば、持ちこたえるのは非常に困難。

 

 

さらに、シールドに亀裂が入っているならなおさらである。

 

 

「っく!!」

 

 

ヴィータのバリア砕け散り、そのままヴィータは地上へと吹き飛ばされた。

 

 

「貴様ぁ!!」

 

 

ヴィータが吹き飛ばされると、すぐさまザフィーラはトウカに向かって接近し拳を振るが、トウカは体を反らし紙一重でその拳を避ける。

すぐさま振り返り、ザフィーラが二撃目の拳を振ろうとしたその瞬間、ザフィーラの腹部に強烈な衝撃が襲う。

二撃目に移行するモーションの僅かな隙を狙ってトウカがザフィーラの腹部に蹴りを放ったのだ。

 

 

「っが!」

 

 

まともに蹴りを受けてしまったザフィーラは真っ逆さまに落下してゆき、地面に叩きつけられる。

 

 

「ザフィーラ!大丈夫か?!」

 

 

吹き飛ばされたヴィータはどうやら落下の途中で体勢を整えたらしく、すぐにザフィーラの元へ駆け寄った。

 

 

「っぐ……大丈夫だ。それよりもあのフードの男……もしやシグナムが言っていた。」

「……どうやらシグナムから話は聞いているみたいだね。そういえば君達の名前はまだ聞いてなかったっけ。できれば教えてくれないかな?」

「顔も名前も明かさねぇヤツに言いたかねーけど、まあいいや……あたしは鉄槌の騎士。ヴィータ。」

「盾の守護獣、ザフィーラ。」

 

 

 

そう言ってトウカは静かに槍を構え、再び戦闘態勢に入る。

 

 

 

「そうか……それじゃあヴィータ、ザフィーラ……準備はいいな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ということで15話でした。
少し遅くなってしまったので気合を入れて普段よりも少し長めに書きました。
フェイトかわいいよフェイト。
では次回も宜しくお願いします。




登場魔法


・ブリジャールジャベリン『Brillar Javelin』
小さな光の槍を数多く出現させて敵に放つ範囲攻撃魔法。貫通能力が高い。
どの形態でも使用可能。


・グラベダドトルエノ『Gravedad Trueno』
デバイスの先端に魔法陣を出現させ、魔力を直接目標に向けて放出するという、
シンプルながら高威力の直射型の遠距離砲撃魔法。
ランサフォーム時に使用。


・エクスプロシオン・フォース 『Explosion Force』
一時的に術者の打撃力強化とバリア破壊の効果を持つ魔力を拳に付加させる。



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